竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉雑記 色眼鏡 番外編 野炎を見る

2019年04月28日 | 万葉集 雑記
万葉雑記 色眼鏡 番外編 野炎を見る

 万葉集巻一に柿本人麻呂が詠う有名な「安騎野に宿り」の歌があります。この歌は長歌とそれに付けられた反歌四首で構成する歌群ですから、歌群として歌を鑑賞する必要があります。
 今回は、ちょっと、面白い写真がありましたので、それをこの歌の鑑賞の参照として、写真を紹介します。朝日が昇る寸前、山の端から一筋の赤い光線が雲を照らします。紹介するものはたった一本で旭日旗のような状況ではありませんが、集歌48の歌の「野炎 立所見而」の雰囲気は感じられます。ただ、写真が下手で判り難いのは、ご勘弁を。

軽皇子宿干安騎野時、柿本朝臣人麿作歌
標訓 軽皇子の安騎の野に宿(やど)りしし時に、柿本朝臣人麿の作れる歌
集歌45 八隅知之 吾大王 高照 日之皇子 神長柄 神佐備世須登 太敷為 京乎置而 隠口乃 泊瀬山者 真木立 荒山道乎 石根 禁樹押靡 坂鳥乃 朝越座而 玉限 夕去来者 三雪落 安騎乃大野尓 旗須為寸 四能乎押靡 草枕 多日夜取世須 古昔念而
訓読 やすみしし わご大王(おほきみ) 高照らす 日し皇子 神ながら 神さびせすと 太敷かす 京(みやこ)を置きて 隠口の 泊瀬の山は 真木立つ 荒山道を 石が根 禁樹(さへき)おしなべ 坂鳥の 朝越えまして 玉かぎる 夕さりくれば み雪降る 阿騎の大野に 旗(はた)薄(すすき) 小竹(しの)をおしなべ 草枕 旅宿りせす 古(いにしへ)思ひて
私訳 天下をあまねく承知される我が大王の君の天上までも照らし上げる日の御子が神でありながら神らしく統治なされている京を後方に置いて、山に籠る入り口の泊瀬の山には立派な木が立っている険しい山道を行く手をさえぎる大岩や木々を押し倒して坂を鳥が朝に越えるようにして来て、蜻蛉玉のように夕日の光が移り変わる夕刻も過ぎると、雪が降る阿騎の大野に薄や篠笹を押し倒して草を枕にするような旅の宿りをする。昔の出来事を思い出して。

短歌
集歌46 阿騎乃尓 宿旅人 打靡 寐毛宿良自八方 古部念尓
訓読 阿騎の野に宿(やど)る旅人打ち靡き眼(い)も寝(ぬ)らしやも古(いにしへ)思ふに
私訳 阿騎の野に宿る旅人は薄や篠笹のように体を押し倒して自分から先に寝ることができるでしょうか。昔の出来事を思い出すのに。

集歌47 真草苅 荒野者雖有 葉 過去君之 形見跡曽来師
訓読 ま草刈る荒野にはあれど黄葉(もみぢは)の過ぎにし君の形見とそ来し
私訳 本来なら大嘗宮の束草を刈り取る荒野なのですが、このように黄葉の葉が散り過ぎるようにお隠れになった君の形見。その形見の御子といっしょに来た。

集歌48 東 野炎 立所見而 反見為者 月西渡
訓読 東(ひむがし)し野(の)し炎(かぎろひ)し立つ見えてかへり見すれば月西渡る
私訳 夜通し昔の出来事を思い出していて、ふと、東の野に朝焼けの光が雲間から立つのが見えて、振り返って見ると昨夜を一夜中に照らした月が西に渡って沈み逝く。

集歌49 日雙斯 皇子命乃 馬副而 御羯立師斯 時者来向
訓読 日並し皇子し尊の馬並(な)めて御猟(みかり)立たしし時は来向かふ
私訳 日並皇子の尊が馬を並び立てて御狩をなされた、そのような時刻になってきたようです。

 注意として、長歌で「旗須為寸 四能乎押靡 草枕 多日夜取世須 古昔念而」と歌うように、過去にこの土地で何かを経験した人が、改めで旅の途中での野宿をした、その時の出来事を詠ったものです。まず、巻狩りでの仮眠の状況を旅の宿りとは言いません。
 そのため、この歌群を安騎野での遊猟の歌と解釈する人がいるようですが、それは間違いです。歌群最後に置く集歌49の歌は、昔、日並皇子が御狩を開始された、その同じ時刻になったと詠うだけです。これらの歌群には狩の情景はどこにも示していないことに気付いて、歌を鑑賞する必要があります。




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