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廣瀬本万葉集に先だって、藤原定家の「古今和歌集」筆写態度の確認 古今和歌集巻第十九及び巻第二十

2016年08月06日 | 資料書庫
廣瀬本万葉集に先だって、藤原定家の「古今和歌集」筆写態度の確認
-藤原定家筆 古今和歌集 字母研究を使ってー
古今和歌集巻第十九及び巻第二十



古今和歌集巻第十九
雑躰
短哥

歌番号一〇〇一
題之良寸    与三人之良須
題しらす    よみ人しらす

和歌 安不己止乃 末礼奈留以呂尓 於毛日曽女 和可身八川祢尓
読下 あふことの まれなるいろに おもひそめ わか身はつねに
通釈 逢ふことの 稀なる色に   思ひそめ  我が身は常に

阿万久毛能 者留々時奈久 布之乃祢乃 毛衣川々止波仁
あまくもの はるゝ時なく ふしのねの もえつゝとはに
天雲の   晴るる時なく 富士の嶺の 燃えつつ永久に

於毛部止毛 阿不己止可多之 奈尓之可毛 人遠宇良見無
おもへとも あふことかたし なにしかも 人をうらみむ
思へども  逢ふことかたし 何しかも  人を恨みむ

和多川三乃 於幾遠布可女天 於毛日天之 於毛日者以万八
わたつみの おきをふかめて おもひてし おもひはいまは
わたつみの 沖を深めて   思ひてし  思ひは今は

以多川良尓 奈利奴部良奈利 由久水乃 堂由留時奈久
いたつらに なりぬへらなり ゆく水の たゆる時なく
いたづらに なりぬべらなり 行く水の 絶ゆる時なく

加久奈和尓 於毛日見多礼天 布留由幾乃 計奈八計奴部久
かくなわに おもひみたれて ふるゆきの けなはけぬへく
かくなわに 思ひ乱れて   降る雪の  消なば消ぬべく

於毛部止毛 衣不乃身奈礼八 奈遠也万寸 於毛日八布可之
おもへとも えふの身なれは なをやます おもひはふかし
思へども  閻浮の身なれば なほ止まず 思ひは深し

安之比幾乃 山之多水乃 己可久礼天 多幾川心遠
あしひきの 山した水の こかくれて たきつ心を
あしひきの 山下水の  木隠れて  たぎつ心を

堂礼尓可毛 安比加多良波武 以呂尓以天八 人志利奴部三
たれにかも あひかたらはむ いろにいては 人しりぬへみ
誰れにかも あひ語らはむ  色に出でば  人知りぬべみ

寸美曽女乃 由不部尓奈礼八 飛止利為天 安八礼/\止
すみそめの ゆふへになれは ひとりゐて あはれ/\と
染めの   夕べになれば  一人居て  あはれあはれと

奈个幾安万利 世武寸部奈美尓 仁者尓以天々 多知也寸良部八
なけきあまり せむすへなみに にはにいてゝ たちやすらへは
嘆きあまり  せむすべなみに 庭に出でて  ちやすらへば

志呂多部乃 衣乃曽天仁 遠久川由乃 計奈八計奴部久
しろたへの 衣のそてに をくつゆの けなはけぬへく
白妙の   衣の袖に  置く露の  消なば消ぬべく

於毛部止毛 奈遠奈个可礼奴 者留可寸三 与曽尓毛人尓
おもへとも なをなけかれぬ はるかすみ よそにも人に
思へども  なほ嘆かれぬ  春霞    よそにも人に

安者武止於毛部八
あはむとおもへは
逢はむと思へば

歌番号一〇〇二
布留宇多々天万川利之時乃毛久呂久乃曽乃奈可宇多    徒良由幾
ふるうたゝてまつりし時のもくろくのそのなかうた    つらゆき

和歌 知者也布留 神乃美与々利 久礼竹乃 世々尓毛多衣寸
読下 ちはやふる 神のみよゝり くれ竹の 世ゝにもたえす
通釈 ちはやぶる 神の御世より 呉竹の  世々にも絶えず

安末比己乃 遠止八乃山乃 者留可寸三 思見多礼天
あまひこの をとはの山の はるかすみ 思ひみたれて
天彦の   音羽の山の  春霞    思ひ乱れて

佐美多礼乃 曽良毛止々呂尓 左与不計天 山本止々幾須
さみたれの そらもとゝろに さよふけて 山ほとゝきす
五月雨の  空もとどろに  小夜更けて 山郭公

奈久己止仁 堂礼毛祢左女天 加良尓之幾 堂川多乃山乃
なくことに たれもねさめて からにしき たつたの山の
鳴くごとに 誰れも寝覚めて 唐錦    竜田の山の

毛美知八遠 見天乃美之乃不 神奈月 志久礼/\天
もみちはを 見てのみしのふ 神な月 しくれ/\て
もみぢ葉を 見てのみ偲ぶ  神無月 時雨しぐれて

冬乃夜乃 庭毛者多礼尓 不留由幾乃 猶幾衣可部利
冬の夜の 庭もはたれに ふるゆきの 猶きえかへり
冬の夜の 庭もはだれに 降る雪の なほ消えかへり

年己止仁 時尓川个川々 安八礼天不 己止遠以日川々
年ことに 時につけつゝ あはれてふ ことをいひつゝ
年ごとに 時につけつつ あはれてふ ことを言ひつつ

幾美遠乃美 知与尓止以者不 世乃人乃 於毛日寸留可乃
きみをのみ ちよにといはふ 世の人の おもひするかの
君をのみ  千代にと祝ふ  世の人の 思ひ駿河の

布之乃祢能 毛由留思日毛 安可寸之天 和可留々奈三多
ふしのねの もゆる思ひも あかすして わかるゝなみた
富士の嶺の 燃ゆる思ひも あかずして 別るる涙

藤衣 遠礼留心毛 也知久左乃 己止乃波己止仁
藤衣 をれる心も やちくさの ことのはことに
藤衣 織れる心も 八千草の  言の葉ごとに

寸部良幾乃 於保世可之己美 万幾/\乃 中尓川久寸止
すへらきの おほせかしこみ まき/\の 中につくすと
すべらきの 仰せかしこみ  巻々の   中につくすと

以世乃海乃 宇良乃志本可比 飛呂日安川女 止礼利止寸礼止
いせの海の うらのしほかひ ひろひあつめ とれりとすれと
伊勢の海の 浦の潮貝    拾ひ集め   取れりとすれど

多万乃遠乃 美之可幾心 思安部須 猶安良多万乃
たまのをの みしかき心 思あへす 猶あらたまの
玉の緒の  短き心   思ひあへず なほあら玉の

年遠部天 大宮尓乃美 比左可多乃比 留与留和可寸
年をへて 大宮にのみ ひさかたの ひるよるわかす
年を経て 大宮にのみ ひさかたの 昼夜分かず

徒可不止天 加部利見毛世奴 和可也止乃 志乃不久左於不留
つかふとて かへり見もせぬ わかやとの しのふくさおふる
仕ふとて  顧みもせぬ   我が宿の  忍草生ふる

以多万安良三 布留春左女乃 毛利也之奴良武
いたまあらみ ふる春さめの もりやしぬらむ
板間粗み   降る春雨の  漏りやしぬらむ

歌番号一〇〇三
布留宇多尓久者部天多天万川礼留奈可宇多    壬生忠岑
ふるうたにくはへてたてまつれるなかうた    壬生忠岑

和歌 久礼竹乃 世々乃布留己止 奈可利世八 伊可本乃奴万乃
読下 くれ竹の 世ゝのふること なかりせは いかほのぬまの
通釈 呉竹の  世々の古る言  なかりせば 伊香保の沼の

以可尓之天 思不心遠 乃者部万之 安者礼武可之部
いかにして 思ふ心を のはへまし あはれむかしへ
いかにして 思ふ心を のばへまし あはれ昔へ

安利幾天不 人末呂己曽八 宇礼之个礼 身者之毛奈可良
ありきてふ 人まろこそは うれしけれ 身はしもなから
ありきてふ 人麿こそは  うれしけれ 身は下ながら

己止乃波遠 安末川曽良万天 幾己江安計 寸恵乃与万天乃
ことのはを あまつそらまて きこ江あけ すゑのよまての
言の葉を  天つ空まで   聞こえ上げ 末の世までの

安止々奈之 今毛於保世乃 久多礼留八 知利尓川个止也
あとゝなし 今もおほせの くたれるは ちりにつけとや
跡となし  今も仰せの  下れるは  塵に継げとや

知利乃身尓 川毛礼留事遠 止者留良武 己礼遠於毛部八
ちりの身に つもれる事を とはるらむ これをおもへは
塵の身に  積もれる事を 問はるらむ これを思へば

遣多毛乃々 久毛尓保衣个武 心地之天 知々乃奈左个毛
けたものゝ くもにほえけむ 心地して ちゝのなさけも
けだものの 雲に吠えけむ  心地して 千々のなさけも

於毛保衣寸 飛止川心曽 保己良之幾 加久波安礼止毛
おもほえす ひとつ心そ ほこらしき かくはあれとも
思ほえず  一つ心ぞ  誇らしき  かくはあれども

天累飛可利 知可幾万毛利乃 身奈利之遠 多礼可八秋乃
てるひかり ちかきまもりの 身なりしを たれかは秋の
照る光   近き衛りの   身なりしを 誰れかは秋の

久留方尓 安左武幾以天々 美可幾与利 止乃部毛留身乃
くる方に あさむきいてゝ みかきより とのへもる身の
来る方に 欺き出でて   御垣より  外重守る身の

美可幾毛利 於佐/\之久毛 於毛保衣寸 己々乃可佐祢乃
みかきもり おさ/\しくも おもほえす こゝのかさねの
御垣守   長々しくも   思ほえず  九重ねの

奈可尓天者 安良之乃風毛 幾可佐利幾 今八乃山之
なかにては あらしの風も きかさりき 今はの山し
中にては  嵐の風も   聞かざりき 今は野山し

知可个礼八 春八霞尓 多奈比可礼 夏八宇川世三
ちかけれは 春は霞に たなひかれ 夏はうつせみ
近ければ  春は霞に たなびかれ 夏はうつせみ

奈幾久良之 秋者時雨仁 袖遠可之 冬者之毛尓曽
なきくらし 秋は時雨に 袖をかし 冬はしもにそ
鳴き暮らし 秋は時雨に 袖をかし 冬は霜にぞ

世免良留々 加々留和日之幾 身奈可良仁 川毛礼留止之遠
せめらるゝ かゝるわひしき 身なからに つもれるとしを
責めらるる かかる侘びしき 身ながらに 積もれる年を

志留世礼八 以川々乃武川尓 奈利尓个利 己礼尓曽八礼留
しるせれは いつゝのむつに なりにけり これにそはれる
記せれば  五つの六つに  なりにけり これに添はれる

和多久之乃 於以乃可寸左部 也与个礼八 身者以也之久天
わたくしの おいのかすさへ やよけれは 身はいやしくて
私の    老いの数さへ  やよければ 身は卑しくて

年多可幾 己止乃久留之左 加久之川々 奈可良乃八之乃
年たかき ことのくるしさ かくしつゝ なからのはしの
年高き  ことの苦しさ  かくしつつ 長柄の橋の

奈可良部天 奈尓者乃宇良仁 堂川浪乃 浪乃之和尓也
なからへて なにはのうらに たつ浪の 浪のしわにや
ながらへて 難波の浦に   立つ浪の 浪の皺にや

於保々礼武 佐寸可尓以乃知 於之个礼八 己之乃久尓奈留
おほゝれむ さすかにいのち おしけれは こしのくになる
おぼほれむ さすがに命   惜しければ 越の国なる

志良山乃 加之良八之呂久 奈利奴止毛 遠止八乃多幾能
しら山の かしらはしろく なりぬとも をとはのたきの
白山の  頭は白く    なりぬとも 音羽の滝の

遠止尓幾久 於以寸之奈寸乃 久寸利可毛 君可也知与遠
をとにきく おいすしなすの くすりかも 君かやちよを
音に聞く  老いず死なずの 薬もが 君が八千代を

和可衣川々見武
わかえつゝ見む
若えつつ見む

歌番号一〇〇四
和歌 君可世尓安不左可山乃以者之水己可久礼多利止思日个留哉
読下 君か世にあふさか山のいはし水こかくれたりと思ひける哉
通釈 君が世に逢坂山の岩清水木隠れたりと思ひけるかな

歌番号一〇〇五
冬乃奈可宇多    凡河内躬恒
冬のなかうた    凡河内躬恒

和歌 知者也布留 神奈月止也 遣左与利八 久毛利毛安部寸
読下 ちはやふる 神な月とや けさよりは くもりもあへす
通釈 ちはやぶる 神無月とや 今朝よりは 曇りもあへず

者川時雨 紅葉止々毛尓 布留左止乃 与之乃々山乃
はつ時雨 紅葉とゝもに ふるさとの よしのゝ山の
初時雨  紅葉と共に  古里の   吉野の山の

山安良之毛 佐武久日己止仁 奈利由个八 多末乃遠止个天
山あらしも さむく日ことに なりゆけは たまのをとけて
山嵐も   寒く日ごとに  なりゆけば 玉の緒とけて

己幾知良之 安良礼見多礼天 志毛氷 以也可多万礼留
こきちらし あられみたれて しも氷 いやかたまれる
こき散らし あられ乱れて  霜氷  いや固まれる

尓者乃於毛尓 武良/\見由留 冬草乃 宇部尓布利之久
にはのおもに むら/\見ゆる 冬草の うへにふりしく
庭の面に   むらむら見ゆる 冬草の 上に降りしく

白雪乃 徒毛利/\天 安良多万能 止之遠安万多毛
白雪の つもり/\て あらたまの としをあまたも
白雪の 積もり積もりて あら玉の 年をあまたも

寸久之川留哉
すくしつる哉
過ぐしつるかな

歌番号一〇〇六
七条乃幾左幾宇世多万日尓个留乃知尓与三个留    伊勢
七条のきさきうせたまひにけるのちによみける    伊勢

和歌 於幾川奈美 安礼乃美万左留 宮乃宇知八 止之部天寸三之
読下 おきつなみ あれのみまさる 宮のうちは としへてすみし
通釈 沖つ浪 荒れのみまさる 宮の内は 年経て住みし

以世乃安万毛 舟奈可之多留 心地之天 与良武方奈久
いせのあまも 舟なかしたる 心地して よらむ方なく
伊勢の海人も 舟流したる 心地して 寄らむ方なく

加奈之幾尓 涙乃色乃 久礼奈為八 我良可奈可乃
かなしきに 涙の色の くれなゐは 我らかなかの
悲しきに 涙の色の 紅は 我らがなかの

時雨尓天 秋乃毛美知止 人/\者 遠乃可知利/\
時雨にて 秋のもみちと 人/\は をのかちり/\
時雨にて 秋の紅葉と  人びとは 己が散り散り

和可礼奈八 堂乃武可个奈久 奈利八天々 止末留物止八
わかれなは たのむかけなく なりはてゝ とまる物とは
別れなば  頼む蔭なく   なりはてて 止まる物とは

花寸々幾 幾美奈幾庭尓 武礼多知天 曽良遠万祢可者
花すゝき きみなき庭に むれたちて そらをまねかは
花薄   君なき庭に  群れ立ちて 空を招かば

者川可利乃 奈幾渡利川々 与曽尓己曽見女
はつかりの なき渡りつゝ よそにこそ見め
初雁の   鳴き渡りつつ よそにこそ見め

旋頭哥
旋頭哥

歌番号一〇〇七
題之良寸    与三人之良寸
題しらす    よみ人しらす

和歌 宇知和多寸 遠知方人尓 物末宇寸 和礼曽乃曽己仁
読下 うちわたす をち方人に 物まうす われそのそこに
通釈 うち渡す  遠方人に  もの申す 我れそのそこに

之呂久左个留者 奈尓乃花曽毛
しろくさけるは なにの花そも
白く咲けるは  何の花ぞも

歌番号一〇〇八
返之
返し

和歌 春左礼盤 乃部尓末川佐久 見礼止安可奴 花末比奈之尓
読下 春されは のへにまつさく 見れとあかぬ 花まひなしに
通釈 春されば 野辺にまづ咲く 見れどあかぬ 花まひなしに

堂々奈乃留部幾 花乃奈々礼也
たゝなのるへき 花のなゝれや
ただ名のるべき 花の名なれや

歌番号一〇〇九
題之良須
題しらす

和歌 者川世河 布留可者乃部尓 布多毛止安留寸幾 年遠部天
読下 はつせ河 ふるかはのへに ふたもとあるすき 年をへて
通釈 初瀬川  古川野辺に   二本ある杉    年を経て

又毛安比見武 不多毛止安留寸幾
又もあひ見む ふたもとあるすき
又もあひ見む 二本ある杉

歌番号一〇一〇
徒良由支
つらゆき

和歌 幾美可左寸 美可左乃山乃 毛三知八乃以呂 神奈月
読下 きみかさす みかさの山の もみちはのいろ 神な月
通釈 君がさす  三笠の山の  もみぢ葉の色  神無月

志久礼乃安女乃 曽女留奈利个利
しくれのあめの そめるなりけり
時雨の雨の   染めるなりけり

誹諧哥
誹諧哥

歌番号一〇一一
題志良寸    与三人之良須
題しらす    み人しらす

和歌 梅花見尓己曽幾川礼鶯乃人久/\止以止比之毛遠留
読下 梅花見にこそきつれ鴬の人く/\といとひしもをる
通釈 梅花見にこそ来つれ鴬のひとくひとくと厭ひしもをる

歌番号一〇一二
素性法師
素性法師

和歌 山吹乃花色衣奴之也多礼止部止己多部寸久知奈之尓之天
読下 山吹の花色衣ぬしやたれとへとこたへすくちなしにして
通釈 山吹の花色衣主や誰れ問へど答へずくちなしにして

歌番号一〇一三
藤原敏行朝臣
藤原敏行朝臣

和歌 以久者久乃田遠川久礼者可郭公志天乃多遠左遠安左奈/\与不
読下 いくはくの田をつくれはか郭公してのたをさをあさな/\よふ
通釈 いくばくの田を作ればか郭公死出の田長を朝な朝な呼ぶ

歌番号一〇一四
七月六日多奈八多乃心遠与三个留    藤原加祢寸个乃朝臣
七月六日たなはたの心をよみける    藤原かねすけの朝臣

和歌 伊川之可止末多久心遠者幾尓安个天安万乃可八良遠个不也和多良武
読下 いつしかとまたく心をはきにあけてあまのかはらをけふやわたらむ
通釈 いつしかとまたぐ心をはぎにあげて天の川原を今日や渡らむ

歌番号一〇一五
題之良寸    凡河内美川祢
題しらす    凡河内みつね

和歌 武川己止毛末多徒幾奈久尓安遣奴女利以川良八秋乃奈可之天不与八
読下 むつこともまたつきなくにあけぬめりいつらは秋のなかしてふよは
通釈 睦言もまだ尽きなくに明けぬめりいづらは秋の長してふ夜は

歌番号一〇一六
僧正部无世宇
僧正へんせう

和歌 秋乃々尓奈万女幾多天留遠三奈部之安奈可之可満之花毛比止時
読下 秋のゝになまめきたてるをみなへしあなかしかまし花もひと時
通釈 秋の野になまめき立てる女郎花あなかしがまし花も一時

歌番号一〇一七
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 安幾久礼者乃部尓多者留々女郎花以川礼乃人可川末天見留部幾
読下 あきくれはのへにたはるゝ女郎花いつれの人かつまて見るへき
通釈 秋来れば野辺にたはるる女郎花いづれの人か摘まで見るべき

歌番号一〇一八
和歌 秋幾利乃者礼天久毛礼八遠三奈部之花乃寸可多曽見衣可久礼寸留
読下 秋きりのはれてくもれはをみなへし花のすかたそ見えかくれする
通釈 秋霧の晴れて曇れば女郎花花の姿ぞ見え隠れする

歌番号一〇一九
和歌 花止見天於良武止寸礼八遠三奈部之宇多々安留左万乃名尓己曽有个礼
読下 花と見ておらむとすれはをみなへしうたゝあるさまの名にこそ有けれ
通釈 花と見て折らむとすれば女郎花うたたあるさまの名にこそありけれ

歌番号一〇二〇
寛平御時幾左以乃宮乃哥合乃宇多    在原武祢也奈
寛平御時きさいの宮の哥合のうた    在原むねやな

和歌 秋風尓保己呂日奴良之布知者可万川々利左世天不蟋蟀奈久
読下 秋風にほころひぬらしふちはかまつゝりさせてふ蟋蟀なく
通釈 秋風にほころびぬらし藤袴つづりさせてふきりぎりす鳴く

歌番号一〇二一
安寸者留多々武止之个留日止奈利乃家乃可多与利風乃雪遠
あすはるたゝむとしける日となりの家のかたより風の雪を

布幾己之个留遠見天曽乃止奈利部与美天川可八之遣累    清原布可也不
ふきこしけるを見てそのとなりへよみてつかはしける    清原ふかやふ

和歌 冬奈可良春乃隣乃知可个礼者奈可々幾与利曽花八知利个留
読下 冬なから春の隣のちかけれはなかゝきよりそ花はちりける
通釈 冬ながら春の隣の近ければ中垣よりぞ花は散りける

歌番号一〇二二
題之良寸    与三人之良寸
題しらす    よみ人しらす

和歌 以曽乃神布利尓之己比乃神左日天多々留尓我者以曽祢可祢川留
読下 いその神ふりにしこひの神さひてたゝるに我はいそねかねつる
通釈 石上古りにし恋の神さびてたたるに我は寝ぞねかねつる

歌番号一〇二三
和歌 枕与利安止与利己比乃世女久礼者世武方奈美曽止己奈可尓遠留
読下 枕よりあとよりこひのせめくれはせむ方なみそとこなかにをる
通釈 枕よりあとより恋のせめくればせむ方なみぞ床中にをる

歌番号一〇二四
和歌 己飛之幾可方毛方己曽有止幾計多礼遠礼止毛奈幾心知哉
読下 こひしきか方も方こそ有ときけたれをれともなき心ち哉
通釈 恋しきが方もかたこそありと聞け立てれをれどもなき心地かな

歌番号一〇二五
和歌 安里奴也止心見可天良安飛見祢八堂者不礼尓久幾万天曽己日之幾
読下 ありぬやと心見かてらあひ見ねはたはふれにくきまてそこひしき
通釈 ありぬやと心見がてらあひ見ねばたはぶれにくきまでぞ恋しき

歌番号一〇二六
和歌 美々奈之乃山乃久知奈之衣天之哉思日乃色乃之多曽女尓世武
読下 みゝなしの山のくちなしえてし哉思ひの色のしたそめにせむ
通釈 耳成の山のくちなし得てしがな思ひの色の下染めにせむ

歌番号一〇二七
和歌 葦引乃山田乃曽保川遠乃礼左部我於本之天不宇礼八之幾己止
読下 葦引の山田のそほつをのれさへ我おほしてふうれはしきこと
通釈 あしひきの山田のそほづ己さへ我おほしてふ憂はしきこと

歌番号一〇二八
幾乃女乃止
きのめのと

和歌 布之乃祢乃奈良奴於毛比尓毛衣八毛衣神多尓个多奴武奈之个不利遠
読下 ふしのねのならぬおもひにもえはもえ神たにけたぬむなしけふりを
通釈 富士の嶺のならぬ思ひに燃えば燃え神だに消たぬ空し煙を

歌番号一〇二九
幾乃安利止毛
きのありとも

和歌 安飛見末久星八加寸奈久有奈可良人尓月奈三迷己曽寸礼
読下 あひ見まく星はかすなく有なから人に月なみ迷こそすれ
通釈 あひ見まくほしは数なくありながら人に月なみまどひこそすれ

歌番号地〇三〇
小野小町
小野小町

和歌 人尓安者武月乃奈幾尓八思日遠幾天武祢者之利火尓心也計遠利
読下 人にあはむ月のなきには思ひをきてむねはしり火に心やけをり
通釈 人に逢はむ月のなきには思ひ置きて胸走り火に心焼けをり

歌番号一〇三一
寛平御時幾左以乃宮乃哥合乃宇多    藤原於幾可世
寛平御時きさいの宮の哥合のうた    藤原おきかせ

和歌 春霞多奈比久乃部乃和可奈尓毛奈利見天之哉人毛川武也止
読下 春霞たなひくのへのわかなにもなり見てし哉人もつむやと
通釈 春霞たなびく野辺の若菜にもなり見てしがな人も摘むやと

歌番号一〇三二
題之良寸    与三人之良須
題しらす    よみ人しらす

和歌 於毛部止毛猶宇止万礼奴春霞加々良奴山毛安良之止於毛部八
読下 おもへとも猶うとまれぬ春霞かゝらぬ山もあらしとおもへは
通釈 思へどもなほ疎まれぬ春霞かからぬ山もあらじと思へば

歌番号一〇三三
平貞文
平貞文

和歌 春乃野々志个幾草者乃川末己日仁止比多川幾之乃本呂々止曽奈久
読下 春の野ゝしけき草はのつまこひにとひたつきしのほろゝとそなく
通釈 春の野の繁き草葉の妻恋ひに飛び立つ雉子のほろろとぞ鳴く

歌番号一〇三四
幾乃与之比止
きのよしひと

和歌 秋乃々尓徒万奈幾之可乃年遠部天奈曽和可己日乃加比与止曽奈久
読下 秋のゝにつまなきしかの年をへてなそわかこひのかひよとそなく
通釈 秋の野に妻なき鹿の年を経てなぞ我が恋のかひよとぞ鳴く

歌番号一〇三五
美川子
みつね

和歌 蝉乃羽乃比止部尓宇寸幾夏衣奈礼八与利奈武物尓也八安良奴
読下 蝉の羽のひとへにうすき夏衣なれはよりなむ物にやはあらぬ
通釈 蝉の羽のひとへに薄き夏衣なればよりなむ物にやはあらぬ

歌番号一〇三六
堂々美祢
たゝみね

和歌 加久礼奴乃志多与利於不留祢奴奈八乃祢奴奈八多天之久留奈以止日曽
読下 かくれぬのしたよりおふるねぬなはのねぬなはたてしくるないとひそ
通釈 隠れ沼の下より生ふるねぬなはの寝ぬ名は立てじ来るな厭ひそ

歌番号一〇三七
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 己止奈良八思者寸止也八伊日者天奴奈曽世中乃多万多寸幾奈留
読下 ことならは思はすとやはいひはてぬなそ世中のたまたすきなる
通釈 ことならば思はずとやは言ひはてぬなぞ世の中の玉だすきなる

歌番号一〇三八
和歌 於毛不天不人乃心乃久末己止尓多知可久礼川々見留与之毛哉
読下 おもふてふ人の心のくまことにたちかくれつゝ見るよしも哉
通釈 思ふてふ人の心の隈ごとに立ち隠れつつ見るよしもがな

歌番号一〇三九
和歌 思部止毛於毛八寸止乃美以不奈礼者以奈也於毛者之思不可日奈之
読下 思へともおもはすとのみいふなれはいなやおもはし思ふかひなし
通釈 思へども思はずとのみ言ふなれば否や思はじ思ふかひなし

歌番号一〇四〇
和歌 我遠乃美思不止以者々安留部幾遠以天也心八於保奴左尓之天
読下 我をのみ思ふといはゝあるへきをいてや心はおほぬさにして
通釈 我をのみ思ふと言はばあるべきをいでや心は大幣にして

歌番号一〇四一
和歌 和礼遠思不人遠於毛八奴武久日尓也和可思不人乃我遠於毛八奴
読下 われを思ふ人をおもはぬむくひにやわか思ふ人の我をおもはぬ
通釈 我を思ふ人を思はぬむくいにや我が思ふ人の我を思はぬ

歌番号一〇四二
深養父
深養父

和歌 思日个武人遠曽止毛尓於毛者末之万左之也武久日奈可利个利也八
読下 思ひけむ人をそともにおもはましまさしやむくひなかりけりやは
通釈 思ひけむ人をぞともに思はまし正しやむくいなかりけりやは

歌番号一〇四三
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 以天々由可武人遠止々女武与之奈幾尓止奈利乃方尓者奈毛比奴哉
読下 いてゝゆかむ人をとゝめむよしなきにとなりの方にはなもひぬ哉
通釈 出でて行かむ人を留めむよしなきに隣の方に鼻もひぬかな

歌番号一〇四四
和歌 紅尓曽女之心毛堂乃万礼寸人遠安久尓八宇川留天不奈利
読下 紅にそめし心もたのまれす人をあくにはうつるてふなり
通釈 紅に染めし心も頼まれず人をあくには移るてふなり

歌番号一〇四五
和歌 以止者留々和可身八々留乃己万奈礼也乃可日可天良尓者那知寸天川々
読下 いとはるゝわか身はゝるのこまなれやのかひかてらにはなちすてつゝ
通釈 厭はるる我が身は春の駒なれや野飼ひがてらに放ち捨てつつ

歌番号一〇四六
和歌 鶯乃己曽乃也止利乃布留寸止也我尓八人乃川礼奈可留覧
読下 鴬のこそのやとりのふるすとや我には人のつれなかる覧
通釈 鴬の去年の宿りの古巣とや我には人のつれなかるらん

歌番号一〇四七
和歌 佐可之良尓夏者人万祢左々乃八乃左也久之毛与遠和可比止利奴留
読下 さかしらに夏は人まねさゝのはのさやくしもよをわかひとりぬる
通釈 さかしらに夏は人まね笹の葉のさやぐ霜夜を我が一人寝る

歌番号一〇四八
平中興
平中興

和歌 逢事乃今者々川可尓奈利奴礼者夜布可々良天八月奈可利个利
読下 逢事の今はゝつかになりぬれは夜ふかゝらては月なかりけり
通釈 逢ふことの今ははつかになりぬれば夜深からでは月なかりけり

歌番号一〇四九
左乃於保以末宇知幾三
左のおほいまうちきみ

和歌 毛呂己之乃与之乃々山尓己毛留止毛遠久礼武止思我奈良奈久仁
読下 もろこしのよしのゝ山にこもるともをくれむと思我ならなくに
通釈 唐土の吉野の山に籠もるとも遅れむと思ふ我ならなくに

歌番号一〇五〇
奈可幾
なかき

和歌 雲者礼奴安左万乃山乃安左末之也人乃心遠見天己曽也万女
読下 雲はれぬあさまの山のあさましや人の心を見てこそやまめ
通釈 雲晴れぬ浅間の山のあさましや人の心を見てこそ止まめ

歌番号一〇五一
伊勢
伊勢

和歌 奈尓者奈留奈可良乃者之毛川久留奈利今八和可身遠奈尓々多止部武
読下 なにはなるなからのはしもつくるなり今はわか身をなにゝたとへむ
通釈 難波なる長柄の橋も尽くるなり今は我が身を何にたとへむ

歌番号一〇五二
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 万免奈礼止奈尓曽八与計久加留可也乃見多礼天安礼止安之計久毛奈之
読下 まめなれとなにそはよけくかるかやのみたれてあれとあしけくもなし
通釈 まめなれど何ぞなは良けく刈る萱の乱れてあれど悪しけくもなし

歌番号一〇五三
於幾可世
おきかせ

和歌 奈尓可曽乃名乃立事乃於之可良武之利天万止不八我比止利可八
読下 なにかその名の立事のおしからむしりてまとふは我ひとりかは
通釈 何かその名の立つことの惜しからむ知りてまどふは我一人かは

歌番号一〇五四
以止己奈利个留於止己尓与曽部天人乃以日个礼八    久曽
いとこなりけるおとこによそへて人のいひけれは    くそ

和歌 与曽奈可良和可身尓以止乃与留止以部者多々以川八利尓寸久許也
読下 よそなからわか身にいとのよるといへはたゝいつはりにすく許也
通釈 よそながら我が身に糸のよると言へばただ偽りに過ぐばかりなり

歌番号一〇五五
題之良寸    左奴幾
題しらす    さぬき

和歌 祢幾事遠左乃美幾々計武也之呂己曽者天八奈个幾乃毛利止奈留良女
読下 ねき事をさのみきゝけむやしろこそはてはなけきのもりとなるらめ
通釈 ねぎ言をさのみ聞きけむ社こそはては嘆きの森となるらめ

歌番号一〇五六
大輔
大輔

和歌 奈計幾己留山止之多可久奈利奴礼者川良川恵乃美曽万川々可礼个留
読下 なけきこる山としたかくなりぬれはつらつゑのみそまつゝかれける
通釈 投げ木こる山とし高くなりぬればつらづゑのみぞまづ突かれける

歌番号一〇五七
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 奈計幾遠八己利乃美川美天安之比幾乃山乃可日奈久奈利奴部良也
読下 なけきをはこりのみつみてあしひきの山のかひなくなりぬへら也
通釈 投げ木をばこりのみ積みてあしひきの山のかひなくなりぬべらなり

歌番号一〇五八
和歌 人己不累事遠々毛尓止仁奈日毛天安不己奈幾己曽和日之可利个礼
読下 人こふる事をゝもにとになひもてあふこなきこそわひしかりけれ
通釈 人恋ふる事を重荷と担ひもてあふごなきこそ侘びしかりけれ

歌番号一〇五九
和歌 夜為乃末尓以天々以利奴留美可月乃和礼天物思己呂尓毛安留哉
読下 夜ゐのまにいてゝいりぬるみか月のわれて物思ころにもある哉
通釈 宵の間に出でて入りぬる三日月のわれて物思ふころにもあるかな

歌番号一〇六〇
和歌 曽部尓止天止寸礼者可々利加久寸礼八安奈以比之良寸安不左幾留左二
読下 そへにとてとすれはかゝりかくすれはあないひしらすあふさきるさに
通釈 そゑにとてとすればかかりかくすればあな言ひ知らずあふさきるさに

歌番号一〇六一
和歌 世中乃宇幾多比己止尓身遠奈个者布可幾谷己曽安左久奈利奈免
読下 世中のうきたひことに身をなけはふかき谷こそあさくなりなめ
通釈 世の中の憂き度ごとに身を投げば深き谷こそ浅くなりなめ

歌番号一〇六二
在原元方
在原元方

和歌 与乃奈可者以可尓久留之止思覧己々良乃人尓宇良美良留礼八
読下 よのなかはいかにくるしと思覧こゝらの人にうらみらるれは
通釈 世の中はいかに苦しと思ふらんここらの人に恨みらるれば

歌番号一〇六三
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 奈尓遠之天身乃以多川良尓於以奴覧年乃於毛者武事曽也左之幾
読下 なにをして身のいたつらにおいぬ覧年のおもはむ事そやさしき
通釈 何をして身のいたづらに老いぬらむ年の思はむ事ぞやさしき

歌番号一〇六四
於幾可世
おきかせ

和歌 身者寸天徒心遠多尓毛波不良左之川為尓者以可々奈留止之累部久
読下 身はすてつ心をたにもはふらさしつゐにはいかゝなるとしるへく
通釈 身は捨てつ心をだにもはふらさじつひにはいかがなると知るべく

歌番号一〇六五
千左止
千さと

和歌 白雪乃友尓和可身八布利奴礼止心者幾衣奴物尓曽安利个留
読下 白雪の友にわか身はふりぬれと心はきえぬ物にそありける
通釈 白雪のともに我が身は古りぬれど心は消えぬ物にぞありける

歌番号一〇六六
題之良寸    与三人之良寸
題しらす    よみ人しらす

和歌 梅花佐幾天乃々知乃身奈礼者也寸幾物止乃美人乃以不覧
読下 梅花さきてのゝちの身なれはやすき物とのみ人のいふ覧
通釈 梅の花咲きての後の身なればやすき物とのみ人の言ふらん

歌番号一〇六七
法星仁之河尓於八之末之多利个留日左累山乃可比尓左个不止以不己止遠
法星にし河におはしましたりける日さる山のかひにさけふといふことを

題尓天与万世多万宇个留    美川祢
題にてよませたまうける    みつね

和歌 和飛之良尓満之良奈々幾曽安之比幾乃山乃可比安留个不尓也八安良奴
読下 わひしらにましらなゝきそあしひきの山のかひあるけふにやはあらぬ
通釈 侘びしらに猿な鳴きそあしひきの山の峡ある今日にやはあらぬ

歌番号一〇六八
題之良寸    与三人之良寸
題しらす    よみ人しらす

和歌 世遠以止日己乃毛止己止尓多知与利天宇川布之曽女乃安左乃幾奴奈利
読下 世をいとひこのもとことにたちよりてうつふしそめのあさのきぬなり
通釈 世を厭ひ木の下ごとに立ち寄りてうつぶし染めの麻の衣なり



古今和歌集巻第二十
大哥所御哥

於保奈本比乃宇多
おほなほひのうた

歌番号一〇六九
和歌 安多良之幾年乃始尓加久之己曽知止世遠可祢天多乃之幾遠川女
読下 あたらしき年の始にかくしこそちとせをかねてたのしきをつめ
通釈 新しき年の始めにかくしこそ千歳をかねてたのしきを積め

日本紀尓八川可部万川良女与呂川与万天二
日本紀にはつかへまつらめよろつよまてに

歌番号一〇七〇
布留幾也万止末比乃宇多
ふるきやまとまひのうた

和歌 志毛止由不加川良幾山尓布留雪乃万奈久時奈久於毛本由留哉
読下 しもとゆふかつらき山にふる雪のまなく時なくおもほゆる哉
通釈 しもとゆふ葛城山に降る雪の間なく時なく思ほゆるかな

歌番号一〇七一
安不美布利
あふみふり

和歌 近江与利安左多知久礼八宇祢乃々尓多川曽奈久奈留安計奴己乃与八
読下 近江よりあさたちくれはうねのゝにたつそなくなるあけぬこのよは
通釈 近江より朝立ち来ればうねの野に田鶴ぞ鳴くなる明けぬこの世は

歌番号一〇七二
美川久幾布利
みつくきふり

和歌 水久幾乃遠可乃也可多尓以毛止安礼止祢天乃安左个乃之毛乃布利者毛
読下 水くきのをかのやかたにいもとあれとねてのあさけのしものふりはも
通釈 水茎の岡の屋形に妹と我れと寝ての朝けの霜の降りはも

歌番号一〇七三
志者川山布利
しはつ山ふり

和歌 之者川山宇知以天々見礼八加左由日乃志万己幾加久留多奈々之遠不祢
読下 しはつ山うちいてゝ見れはかさゆひのしまこきかくるたなゝしをふね
通釈 しはつ山うち出でて見れば笠ゆひの島漕ぎ隠る棚無し小舟

神安曽比乃宇多
神あそひのうた

歌番号一〇七四
止利毛乃々宇多
とりものゝうた

和歌 神可幾乃美武呂乃山乃左可幾者々神乃見末部尓之个利安日尓遣利
読下 神かきのみむろの山のさかきはゝ神のみまへにしけりあひにけり
通釈 神垣の三室の山の榊葉は神の御前に繁りあひにけり

歌番号一〇七五
和歌 志毛也多日遠个止加礼世奴左可幾者乃多知左可由部幾神乃幾祢可毛
読下 しもやたひをけとかれせぬさかきはのたちさかゆへき神のきねかも
通釈 霜八度置けど枯れせぬ榊葉の立ち栄ゆべき神のきねかも

歌番号一〇七六
和歌 満幾毛久乃安奈之乃山乃山人止人毛見留可尓山可川良世与
読下 まきもくのあなしの山の山人と人も見るかに山かつらせよ
通釈 巻向の穴師の山の山人と人も見るがに山かづらせよ

歌番号一〇七七
和歌 美山尓者安良礼布留良之止也万奈留末左幾乃可川良以呂川幾尓个利
読下 み山にはあられふるらしとやまなるまさきのかつらいろつきにけり
通釈 深山には霰降るらし外山なるまさきの葛色づきにけり

歌番号一〇七八
和歌 見知乃久乃安多知乃万由美和可比可者寸恵左部与利己志乃日/\尓
読下 みちのくのあたちのまゆみわかひかはすゑさへよりこしのひ/\に
通釈 陸奥の安達のまゆみ我が引かば末さへ寄り来しのびしのびに

歌番号一〇七九
和歌 和可己止乃以多為乃之水左止々遠美人之久万祢八美久左於日尓个利
読下 わかゝとのいたゐのし水さとゝをみ人しくまねはみくさおひにけり
通釈 我が門の板井の清水里遠み人し汲まねば水草生ひにけり

歌番号一〇八〇
飛累女乃宇多
ひるめのうた

和歌 佐々乃久万飛乃久満河尓己万止女天志波之水可部加計遠多尓見武
読下 さゝのくまひのくま河にこまとめてしはし水かへかけをたに見む
通釈 笹の隈桧の隈川に駒止めてしばし水飼へ影をだに見む

歌番号一〇八一
加部之毛乃々宇多
かへしものゝうた

和歌 安遠也幾遠加多以止尓与利天鶯乃奴不部不笠八梅乃花可左
読下 あをやきをかたいとによりて鴬のぬふてふ笠は梅の花かさ
通釈 青柳を片糸によりて鴬の縫ふてふ笠は梅の花笠

歌番号一〇八二
和歌 満可祢布久幾比乃中山於比尓世留本曽多尓河乃遠止乃左也个左
読下 まかねふくきひの中山おひにせるほそたに河のをとのさやけさ
通釈 まがねふく吉備の中山帯にせる細谷川の音のさやけさ

己乃哥八承和乃御部乃幾日乃久尓乃哥
この哥は承和の御へのきひのくにの哥

歌番号一〇八三
和歌 美作也久女乃左良山佐良/\尓和可奈八多天之与呂川与万天二
読下 美作やくめのさら山さら/\にわかなはたてしよろつよまてに
通釈 美作や久米の佐良山さらさらに我が名は立てじよろづ世までに

己礼八美可可川乃於乃御部乃三万佐可乃久尓乃宇多
これはみかかつのおの御へのみまさかのくにのうた

歌番号一〇八四
和歌 美乃々久尓関乃布知河堂衣寸之天君尓川可部武与呂川与万天尓
読下 みのゝくに関のふち河たえすして君につかへむよろつよまてに
通釈 美濃の国関の淵河絶えずして君に仕へむよろづ代までに

己礼八元慶乃御部乃美乃々宇多
これは元慶の御へのみのゝうた

歌番号一〇八五
和歌 幾美可世八限毛安良之奈可者万乃末左己乃可寸八与美川久寸止毛
読下 きみか世は限もあらしなかはまのまさこのかすはよみつくすとも
通釈 君が代は限りもあらじ長浜の真砂の数はよみ尽くすとも

己礼八仁和乃御部乃以世乃久尓乃哥
これは仁和の御へのいせのくにの哥

歌番号一〇八六
大伴久呂奴之
大伴くろぬし

和歌 近江乃也加々美乃山遠多天多礼八加祢天曽見由留君可知止世八
読下 近江のやかゝみの山をたてたれはかねてそ見ゆる君かちとせは
通釈 近江のや鏡の山をたてたればかねてぞ見ゆる君が千歳は

己礼八今上乃御部乃安不三乃宇多
これは今上の御へのあふみのうた

東哥
東哥

美知乃久乃宇多
みちのくのうた

歌番号一〇八七
和歌 安不久満尓霧立久毛利安計奴止毛君遠者也良之末天八寸部奈之
読下 あふくまに霧立くもりあけぬとも君をはやらしまてはすへなし
通釈 阿武隈に霧立ち曇り明けぬとも君をばやらじ待てばすべなし

歌番号一〇八八
和歌 美知乃久者以川久八安礼止之本可万乃浦己久舟乃川奈天可奈之毛
読下 みちのくはいつくはあれとしほかまの浦こく舟のつなてかなしも
通釈 陸奥はいづくはあれど塩釜の浦漕ぐ舟の綱手かなしも

歌番号一〇八九
和歌 和可世己遠宮己尓也利天志本可万乃末可幾乃之万乃松曽己日之幾
読下 わかせこを宮こにやりてしほかまのまかきのしまの松そこひしき
通釈 我が背子を都にやりて塩釜のまがきの島の待つぞ恋しき

歌番号一〇九〇
和歌 於久呂左幾美川乃己之満乃人奈良八宮己乃川止尓以左止以者万之遠
読下 おくろさきみつのこしまの人ならは宮このつとにいさといはましを
通釈 おぐろ崎みつの小島の人ならば都のつとにいざと言はましを

歌番号一〇九一
和歌 美左不良比見可左止申世宮木乃々己乃之多川由者安女尓万左礼利
読下 みさふらひみかさと申せ宮木のゝこのしたつゆはあめにまされり
通釈 みさぶらひ御笠とまうせ宮城野の木の下露は雨にまされり

歌番号一〇九二
和歌 毛可美河乃本礼者久多留以奈舟乃以奈尓八安良寸己乃月許
読下 もかみ河のほれはくたるいな舟のいなにはあらすこの月許
通釈 最上河上れば下る稲舟のいなにはあらずこの月ばかり

歌番号一〇九三
和歌 君遠々幾天安多之心遠和可毛多八寸恵乃松山浪毛己衣奈武
読下 君をゝきてあたし心をわかもたはすゑの松山浪もこえなむ
通釈 君を置きてあだし心を我が持たば末の松山浪も越えなむ


左可美宇多
さかみうた

歌番号一〇九四
和歌 己与呂幾乃以曽多知奈良之以曽奈川武女左之奴良寸奈於幾尓遠礼浪
読下 こよろきのいそたちならしいそなつむめさしぬらすなおきにをれ浪
通釈 こよろぎの磯たちならし磯菜摘むめざし濡らすな沖にをれ浪


飛多知宇多
ひたちうた

歌番号一〇九五
和歌 徒久者祢乃己乃毛加乃毛尓影八安礼止君可美可个尓万寸加遣者奈之
読下 つくはねのこのもかのもに影はあれと君かみかけにますかけはなし
通釈 筑波嶺のこのもかのもに影はあれど君が御影にます影はなし

歌番号一〇九六
和歌 川久波祢乃峯乃毛美知八於知川毛利之留毛志良奴毛奈部天加奈之毛
読下 つくはねの峯のもみちはおちつもりしるもしらぬもなへてかなしも
通釈 筑波嶺の峰のもみぢ葉落ち積もり知るも知らぬもなべてかなしも


加飛宇多
かひうた

歌番号一〇九七
和歌 加飛可祢遠左也尓毛見之可遣々礼奈久与己本利布世留佐也乃中山
読下 かひかねをさやにも見しかけゝれなくよこほりふせるさやの中山
通釈 甲斐が嶺をさやにも見しかけけれなく横ほり臥せる小夜の中山

歌番号一〇九八
和歌 可比加子遠祢己之山己之吹風遠人尓毛可毛也事川天也良武
読下 かひかねをねこし山こし吹風を人にもかもや事つてやらむ
通釈 甲斐が嶺をねこじ山越し吹く風を人にもがもや言伝てやらむ


伊勢宇多
伊勢うた

歌番号一〇九九
和歌 於不乃宇良仁加多衣左之於保比奈留奈之乃奈利毛奈良寸毛祢天可多良波武
読下 おふのうらにかたえさしおほひなるなしのなりもならすもねてかたらはむ
通釈 おふの浦に片枝さしおほひなる梨のなりもならずも寝て語らはむ


冬乃賀茂乃末川利乃宇多
冬の賀茂のまつりのうた

歌番号一一〇〇
藤原敏行朝臣
藤原敏行朝臣

和歌 知者也布累加毛乃也之呂乃飛免己万川与呂徒世不止毛以呂者可波良之
読下 ちはやふるかものやしろのひめこまつよろつ世ふともいろはかはらし
通釈 ちはやぶる賀茂の社の姫小松よろづ世経とも色は変らじ



家々称証本之本乍書入以墨滅哥

巻第十 物名部

歌番号一一〇一
飛久良之        川良由幾
ひくらし        つらゆき

和歌 曽万人者宮木比久良之安之比幾乃山乃山比己与日止与武奈利
読下 そま人は宮木ひくらしあしひきの山の山ひこよひとよむなり
通釈 そま人は宮木引くらしあしひきの山の山彦呼びとよむなり

在郭公下 空蝉上
在郭公下 空蝉上

歌番号一一〇二
勝臣
勝臣

和歌 加遣利天毛奈尓遠可多万乃幾天毛見武加良八本乃本止奈利尓之毛乃遠
読下 かけりてもなにをかたまのきても見むからはほのほとなりにしものを
通釈 かけりても何をか魂の来ても見む殻は炎となりにしものを

遠可多万乃木 友則下
をかたまの木 友則下

歌番号一一〇三
久礼乃於毛 川良由幾
くれのおも つらゆき

和歌 己之時止己日川々遠礼八由不久礼乃於毛可个尓乃三見衣和多留哉
読下 こし時とこひつゝをれはゆふくれのおもかけにのみ見えわたる哉
通釈 来し時と恋ひつつをれば夕暮れの面影にのみ見えわたるがな

忍草 利貞下  遠幾乃井 三也己之満
忍草 利貞下  をきの井 みやこしま

歌番号一一〇四
遠乃々己万知
をのゝこまち

和歌 越幾乃井天身遠也久与利毛加奈之幾者宮己之満部乃和可礼奈利个利
読下 をきのゐて身をやくよりもかなしきは宮こしまへのわかれなりけり
通釈 をきのゐて身を焼くよりもかなしきはみやこ島への別れなりけり

加良己止 清行下
からこと 清行下

歌番号一一〇五
曽女止乃安者多  安也毛知
そめとのあはた  あやもち

和歌 宇幾女遠八与曽女止乃美曽乃可礼由久雲乃安者多川山乃不毛止尓
読下 うきめをはよそめとのみそのかれゆく雲のあはたつ山のふもとに
通釈 憂きめをばよそ目とのみぞ逃れ行く雲のあはたつ山の麓に

己乃宇多水乃尾乃美可止乃曽女止乃与利安者多部宇川利多万宇个留時尓与女留
このうた水の尾のみかとのそめとのよりあはたへうつりたまうける時によめる

桂宮下
桂宮下



巻第十一

歌番号一一〇六
奥菅乃根之乃幾布留雪下
奥菅の根しのきふる雪下

和歌 个不人遠己不留心者大井河奈可留々水尓於止良佐利个利
読下 けふ人をこふる心は大井河なかるゝ水におとらさりけり
通釈 今日人を恋ふる心は大井川流るる水に劣らざりけり

歌番号一一〇七
和歌 和幾毛己尓安不左可山乃之乃寸々幾本尓八伊天寸毛己比和多留可那
わきもこにあふさか山のしのすゝきほにはいてすもこひわたるかな
通釈 我妹子に逢坂山のしのすすき穂には出でずも恋ひわたるかな


巻第十三

歌番号一一〇八
己比之久八之多尓遠思部紫乃下
こひしくはしたにを思へ紫の下

和歌 以奴可美乃止己乃山奈留奈止利河以左止己多部与和可奈毛良寸奈
読下 いぬかみのとこの山なるなとり河いさとこたへよわかなもらすな
通釈 犬上のとこの山なる名取川いさと答へよ我が名漏らすな

己乃哥安留人安女乃美可止乃安不三乃宇祢女尓多万部留止
この哥ある人あめのみかとのあふみのうねめにたまへると

歌番号一一〇九
返之    宇祢女乃多天万川礼留
返し    うねめのたてまつれる

和歌 山之奈乃遠止八乃多幾乃遠止尓乃美人乃之留部久和可己日女也毛
読下 山しなのをとはのたきのをとにのみ人のしるへくわかこひめやも
通釈 山科の音羽の滝の音にだに人の知るべく我が恋ひめやも


巻第十四

歌番号一一一〇
思天不己止乃者乃三也秋遠部天下曽止本利比女乃比止利為天
思てふことのはのみや秋をへて下そとほりひめのひとりゐて

美可止遠己比多天万川利天
みかとをこひたてまつりて

和歌 和可世己可久部幾与為也佐々可尓乃久毛乃不留万比加祢天之留之毛
読下 わかせこかくへきよゐ也さゝかにのくものふるまひかねてしるしも
通釈 我が背子が来べき宵なりささがにの蜘蛛の振る舞ひかねてしるしも

深養父己比之止八多可奈川計々武己止奈良武下
深養父こひしとはたかなつけゝむことならむ下

歌番号一一一一
川良由幾
つらゆき

和歌 美知之良八川美尓毛由可武寸三乃衣乃岸尓於不天不己日和寸礼久左
読下 みちしらはつみにもゆかむすみのえの岸におふてふこひわすれくさ
通釈 道知らば摘みにも行かむ住の江の岸に生ふてふ恋忘れ草

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廣瀬本万葉集に先だって、藤原定家の「古今和歌集」筆写態度の確認 古今和歌集巻第十八

2016年08月06日 | 資料書庫
廣瀬本万葉集に先だって、藤原定家の「古今和歌集」筆写態度の確認
-藤原定家筆 古今和歌集 字母研究を使ってー
古今和歌集巻第十八



古今和歌集巻第十八
雑哥下

歌番号九三三
題之良寸    読人之良寸
題しらす    読人しらす

和歌 世中者奈尓可川祢奈留安寸可々波幾乃不乃布知曽个不者世尓奈留
読下 世中はなにかつねなるあすかゝはきのふのふちそけふはせになる
通釈 世の中は何か常なる飛鳥川昨日の淵ぞ今日は瀬になる

歌番号九三四
和歌 以久世之毛安良之和可身遠奈曽毛加久安末乃可留毛尓思美多留々
読下 いく世しもあらしわか身をなそもかくあまのかるもに思みたるゝ
通釈 いく世しもあらじ我が身をなぞもかく海人の刈る藻に思ひ乱るる

歌番号九三五
和歌 雁乃久留峯乃朝霧者礼寸乃美思日川幾世奴世中乃宇    
読下 雁のくる峯の朝霧はれすのみ思ひつきせぬ世中のう
通釈 雁の来る峰の朝霧晴れずのみ思ひ尽きせぬ世の中の憂さ

歌番号九三六
小野堂可武良乃朝臣
小野たかむらの朝臣

和歌 志可利止天曽武可礼奈久尓事之安礼八万川奈个可礼奴安奈宇世中
読下 しかりとてそむかれなくに事しあれはまつなけかれぬあなう世中
通釈 しかりとて背かれなくに事しあればまづ嘆かれぬあな憂世の中

歌番号九三七
加比乃加美尓侍个留時京部万可利乃本利个留人尓川可八之个留   遠乃々左多幾
かひのかみに侍ける時京へまかりのほりける人につかはしける   をのゝさたき

和歌 宮己人以可々止々波々山堂可三者礼奴久毛為尓和不止己多部与
読下 宮こ人いかゝとゝはゝ山たかみはれぬくもゐにわふとこたへよ
通釈 都人いかがと問はば山高み晴れぬ雲居に侘ぶと答へよ

歌番号九三八
文屋乃也寸比天美可八乃曽宇尓奈利天安可多見尓八衣以天多々之也止
文屋のやすひてみかはのそうになりてあかた見にはえいてたゝしやと

以日也礼利个留返事尓与女留    小野小町
いひやれりける返事によめる    小野小町

和歌 和飛奴礼者身遠宇幾草乃祢遠多衣天左曽不水安良波以奈武止曽思
読下 わひぬれは身をうき草のねをたえてさそふ水あらはいなむとそ思
通釈 侘びぬれば身を浮草の根を絶えて誘ふ水あらば往なむとぞ思ふ

歌番号九三九
題之良寸
題しらす

和歌 安者礼天不事己曽宇多天世中遠思者奈礼奴本多之奈利个礼
読下 あはれてふ事こそうたて世中を思はなれぬほたしなりけれ
通釈 あはれてふ事こそうたて世の中を思ひ離れぬほだしなりけれ

歌番号九四〇
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 阿波連帝不事乃波己止尓遠久川由八昔遠己不留涙奈利个利
読下 あはれてふ事のはことにをくつゆは昔をこふる涙なりけり
通釈 あはれてふ言の葉ごとに置く露は昔を恋ふる涙なりけり

歌番号九四一
和歌 世中乃宇幾毛川良幾毛徒遣奈久尓万川之留物八奈美多奈利个利
読下 世中のうきもつらきもつけなくにまつしる物はなみたなりけり
通釈 世の中の憂きもつらきも告げなくにまづ知る物は涙なりけり

歌番号九四二
和歌 世中者夢可宇川々可宇川々止毛夢止毛志良寸有天奈个礼八
読下 世中は夢かうつゝかうつゝとも夢ともしらす有てなけれは
通釈 世の中は夢かうつつかうつつとも夢とも知らずありてなければ

歌番号九四三
和歌 与乃奈可尓以川良和可身乃安利天奈志安者礼止也以者武安奈宇止也以者武
読下 よのなかにいつらわか身のありてなしあはれとやいはむあなうとやいはむ
通釈 世の中にいづら我が身のありてなしあはれとや言はむあな憂とや言はむ

歌番号九四四
和歌 山里者物乃惨慄幾事己曽安礼世乃宇幾与利八寸見与可利个利
読下 山里は物の惨慄き事こそあれ世のうきよりはすみよかりけり
通釈 山里は物の侘びしき事こそあれ世の憂きよりは住みよかりけり

歌番号九四五
己礼多可乃美己
これたかのみこ

和歌 白雲乃多衣寸多奈比久岑尓多尓寸女八寸三奴留世尓己曽有个礼
読下 白雲のたえすたなひく岑にたにすめはすみぬる世にこそ有けれ
通釈 白雲の絶えずたなびく峰にだに住めば住みぬる世にこそ有ありけれ

歌番号九四六
布留乃以末美知
ふるのいまみち

和歌 志利尓个武幾々天毛以止部世中者浪乃左八幾尓風曽之久女留
読下 しりにけむきゝてもいとへ世中は浪のさはきに風そしくめる
通釈 知りにけむ聞きても厭へ世の中は浪の騒ぎに風ぞしくめる

歌番号九四七
曽世以
そせい

和歌 以川己尓可世遠以止者武心己曽能尓毛山尓毛万止不部良奈礼
読下 いつこにか世をいとはむ心こそのにも山にもまとふへらなれ
通釈 いづくにか世をば厭はむ心こそ野にも山にもまどふべらなれ

歌番号九四八
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 世中者昔与利也者宇可利个武和可身比止川乃多美尓奈礼留可
読下 世中は昔よりやはうかりけむわか身ひとつのためになれるか
通釈 世の中は昔よりやは憂かりけむ我が身一つのためになれるか

歌番号九四九
和歌 世中遠以止不山部乃草木止也安奈宇乃花乃色尓以天尓个武
読下 世中をいとふ山への草木とやあなうの花の色にいてにけむ
通釈 世の中を厭ふ山辺の草木とやあな卯の花の色に出でにけむ

歌番号九五〇
和歌 三与之乃々山乃安奈多尓也止毛哉世乃宇幾時乃加久礼可尓世武
読下 みよしのゝ山のあなたにやとも哉世のうき時のかくれかにせむ
通釈 み吉野の山のあなたに宿もがな世の憂き時の隠れがにせむ

歌番号九五一
和歌 世尓布礼者宇左己曽万佐礼三与之乃々以者乃可个美知布三奈良之天無
読下 世にふれはうさこそまされみよしのゝいはのかけみちふみならしてむ
通釈 世に経れば憂さこそまされみ吉野の岩のかけ道踏みならしてむ

歌番号九五二
和歌 以可奈覧巌乃中尓寸万者可八世乃宇幾事乃幾己江己佐良武
読下 いかな覧巌の中にすまはかは世のうき事のきこ江こさらむ
通釈 いかならん巌の中に住まばかは世の憂き事の聞こえ来ざらん

歌番号九五三
和歌 葦引乃山乃末尓/\加久礼南宇幾世中者安留可比毛奈之
読下 葦引の山のまに/\かくれ南うき世中はあるかひもなし
通釈 あしひきの山のまにまに隠れなん憂き世の中はあるかひもなし

歌番号九五四
和歌 世中乃宇計久尓安幾奴奥山乃己乃波尓不礼留雪也計奈末之
読下 世中のうけくにあきぬ奥山のこのはにふれる雪やけなまし
通釈 世の中の憂けくに飽きぬ奥山の木の葉に降れる雪や消なまし

歌番号九五五
於奈之毛之奈幾宇多    毛乃々部乃与之奈
おなしもしなきうた    ものゝへのよしな

和歌 与乃宇幾女見衣奴山地部以良武尓八於毛不人己曽保多之奈利个礼
読下 よのうきめ見えぬ山ちへいらむにはおもふ人こそほたしなりけれ
通釈 世の憂きめ見えぬ山路へ入らむには思ふ人こそほだしなりけれ

歌番号九五六
山乃保宇之乃毛止部徒可八之个留    凡河内美川祢
山のほうしのもとへつかはしける    凡河内みつね

和歌 世遠寸天々山尓以留人山尓天毛猶宇幾時者以川知由久覧
読下 世をすてゝ山にいる人山にても猶うき時はいつちゆく覧
通釈 世を捨てて山に入る人山にてもなほ憂き時はいづち行くらむ

歌番号九五七
物思个留時以止幾奈幾己遠見天与女留
物思ける時いときなきこを見てよめる

和歌 今更尓奈尓於比以川覧竹乃己乃宇幾布之々計幾世止八志良寸也
読下 今更になにおひいつ覧竹のこのうきふしゝけき世とはしらすや
通釈 世を捨てて山に入る人山にてもなほ憂き時はいづち行くらむ

歌番号九五八
題之良寸    与三人之良須
題しらす    よみ人しらす

和歌 世尓布礼者事乃者之个幾久礼竹乃宇幾不之己止尓鶯曽奈久
読下 世にふれは事のはしけきくれ竹のうきふしことに鴬そなく
通釈 世に経れば言の葉しげき呉竹の憂き節ごとに鴬ぞ鳴く

歌番号九五九
和歌 木仁毛安良寸草尓毛安良奴竹乃与乃者之尓和可身八奈利奴部良也
読下 木にもあらす草にもあらぬ竹のよのはしにわか身はなりぬへら也
通釈 木にもあらず草にもあらぬ竹のよのはしに我が身はなりぬべらなり

安留人乃以者久高津乃美己乃哥也
ある人のいはく高津のみこの哥也

歌番号九六〇
和歌 和可身可良宇幾世中止奈川个川々人乃多女左部加奈之可留良武
読下 わか身からうき世中となつけつゝ人のためさへかなしかるらむ
通釈 我が身から憂き世の中と名づけつつ人のためさへ悲しかるらむ

歌番号九六一
於幾乃久尓々奈可佐礼天侍个留時尓与女留    堂可武良乃朝臣
おきのくにゝなかされて侍ける時によめる    たかむらの朝臣

和歌 思幾也飛奈乃和可礼尓於止呂部天安満乃奈者多幾以左利世武止八
読下 思きやひなのわかれにおとろへてあまのなはたきいさりせむとは
通釈 思ひきやひなの別れに衰へて海人の縄たき漁りせむとは

歌番号九六二
田武良乃御時尓事尓安多利天徒乃久尓乃寸万止以不所仁己毛利侍个留尓
田むらの御時に事にあたりてつのくにのすまといふ所にこもり侍けるに

宮乃宇知尓侍个留人尓川可八之个留    在原行平朝臣
宮のうちに侍ける人につかはしける    在原行平朝臣

和歌 和久良者尓止不人安良八寸万乃浦尓毛之本多礼川々和不止己多部与
読下 わくらはにとふ人あらはすまの浦にもしほたれつゝわふとこたへよ
通釈 わくらばに問ふ人あらば須磨の浦に藻塩垂れつつ侘ぶと答へよ

歌番号九六三
左近将監止个天侍个留時尓女乃止不良日尓遠己世多利个留返事尓
左近将監とけて侍ける時に女のとふらひにをこせたりける返事に

与三天川可八之个留    遠乃々者留可世
よみてつかはしける    をのゝはるかせ

和歌 安末比己乃遠止川礼之止曽今八思我可人可止身遠多止留与二
読下 あまひこのをとつれしとそ今は思我か人かと身をたとるよに
通釈 天彦の訪づれじとぞ今は思ふ我か人かと身をたどる世に

歌番号九六四
徒可左止計天侍个留時与女留    平左多不无
つかさとけて侍ける時よめる    平さたふん

和歌 宇幾世尓八加止左世利止毛見衣奈久尓奈止可和可身乃以天可天尓寸留
読下 うき世にはかとさせりとも見えなくになとかわか身のいてかてにする
通釈 憂き世には門させりとも見えなくになどか我が身の出でがてにする

歌番号九六五
和歌 有者天奴以乃知万川万乃保止許宇幾己止之計久於毛八寸毛哉
読下 有はてぬいのちまつまのほと許うきことしけくおもはすも哉
通釈 ありはてぬ命待つ間のほどばかり憂きことしげく思はずもがな

歌番号九六六
美己乃宮乃多知者幾尓侍个留遠宮川可部徒可宇万川良寸止天止个天
みこの宮のたちはきに侍けるを宮つかへつかうまつらすとてとけて

侍个留時尓与女留    美也知乃幾与幾
侍ける時によめる    みやちのきよき

和歌 徒久者祢乃己乃本己止尓立曽与留春乃美山乃加計遠己日川々
読下 つくはねのこの本ことに立そよる春のみ山のかけをこひつゝ
通釈 筑波嶺の木のもとごとに立ちぞ寄る春のみ山の蔭を恋ひつつ

歌番号九六七
時奈利个留人乃尓者可尓時奈久奈利天奈計久遠見天
時なりける人のにはかに時なくなりてなけくを見て

美川可良乃奈个幾毛奈久与呂己日毛奈幾己止遠思天与女留    清原深養父
みつからのなけきもなくよろこひもなきことを思てよめる    清原深養父

和歌 飛可利奈幾谷尓者春毛与曽奈礼者左幾天止久知留物思日毛奈之
読下 ひかりなき谷には春もよそなれはさきてとくちる物思ひもなし
通釈 光なき谷には春もよそなれば咲きてとく散る物思ひもなし

歌番号九六八
加徒良尓侍个留時尓七条乃中宮乃止者世給部利个留御返事尓
かつらに侍ける時に七条の中宮のとはせ給へりける御返事に

多天万川礼利个留    伊勢
たてまつれりける    伊勢

和歌 久方乃中尓於比多留左止奈礼者飛可利遠乃美曽多乃武部良奈留
読下 久方の中におひたるさとなれはひかりをのみそたのむへらなる
通釈 久方の中に生ひたる里なれば光をのみぞ頼むべらなる

歌番号九六九
紀乃止之佐多可阿波乃寸个尓万可利个留時尓武万乃者奈武計世武止天
紀のとしさたか阿波のすけにまかりける時にむまのはなむけせむとて

个不止以比遠久礼利个留時尓己々加之己尓万可利安利幾天夜布久留末天
けふといひをくれりける時にこゝかしこにまかりありきて夜ふくるまて

見衣左利个礼八川可八之个留    奈利比良乃朝臣
見えさりけれはつかはしける    なりひらの朝臣

和歌 今曽志留久累之幾物止人末多武左止遠八加礼寸止不部可利个利
読下 今そしるくるしき物と人またむさとをはかれすとふへかりけり
通釈 今ぞ知る苦しき物と人待たむ里をば離れず訪ふべかりけり

歌番号九七〇
惟喬乃美己乃毛止尓末可利加与日个留遠加之良於呂之天遠乃止以不所尓侍个留尓
惟喬のみこのもとにまかりかよひけるをかしらおろしてをのといふ所に侍けるに

正月尓止不良八武止天万可利多利个留尓飛衣乃山乃布毛止奈利个礼八
正月にとふらはむとてまかりたりけるにひえの山のふもとなりけれは

雪以止布可々利个利志日天加乃武呂尓万可利以多利天於可三遣留尓
雪いとふかゝりけりしひてかのむろにまかりいたりておかみけるに

川礼/\止之天以止物可奈之久天加部利末宇天幾天与美天遠久利个留
つれ/\としていと物かなしくてかへりまうてきてよみてをくりける

和歌 和寸礼天者夢可止曽思於毛比幾也雪布美和計天君遠見武止八
読下 わすれては夢かとそ思おもひきや雪ふみわけて君を見むとは
通釈 忘れては夢かとぞ思ふ思ひきや雪踏み分けて君を見むとは

歌番号九七一
深草乃左止尓寸見侍天京部末宇天久止天曽己奈利个留人尓与美天遠久利个留
深草のさとにすみ侍て京へまうてくとてそこなりける人によみてをくりける

和歌 年遠部天寸美己之佐止遠以天々以奈者以止々深草乃止也奈利奈武
読下 年をへてすみこしさとをいてゝいなはいとゝ深草のとやなりなむ
通釈 年を経て住みこし里を出でていなばいとど深草の野とやなりなん

歌番号九七二
返之    与美人之良寸
返し    よみ人しらす

和歌 野止奈良波宇川良止奈幾天年者部武加利尓多尓也八君可己左良武
読下 野とならはうつらとなきて年はへむかりにたにやは君かこさらむ
通釈 野とならば鶉と鳴きて年は経む狩りにだにやは君は来ざらむ

歌番号九七三
題之良須
題しらす

和歌 我遠君奈尓者乃浦尓有之可八宇幾女遠美川乃安万止奈利尓幾
読下 我を君なにはの浦に有しかはうきめをみつのあまとなりにき
通釈 我を君難波の浦にありしかば憂きめを三津の尼となりにき

歌番号九七四
己乃哥八安留人武可之於止己安利个留遠宇奈乃於止己止者寸奈利尓个礼八奈尓八奈留
この哥はある人むかしおとこありけるをうなのおとことはすなりにけれはなにはなる

美川乃天良尓万可利天安万尓奈利天与美天於止己尓川可八世利个留止奈武以部留返之
みつのてらにまかりてあまになりてよみておとこにつかはせりけるとなむいへる返し

和歌 奈尓者可多宇良武部幾万毛於毛保衣寸以川己遠見川乃安万止可者奈留
読下 なにはかたうらむへきまもおもほえすいつこをみつのあまとかはなる
通釈 難波潟恨むべき間も思ほえずいづこを三津の尼とかはなる

歌番号九七五
和歌 今更尓止不部幾人毛於毛保衣寸也部武久良之天加止左世利天部
読人 今更にとふへき人もおもほえすやへむくらしてかとさせりてへ
通釈 今さらに訪ふべき人も思ほえず八重葎して門させりてへ

歌番号九七六
止毛多知乃比左之宇万宇天己左利个留毛止尓与美天川可八之个留    美川祢
ともたちのひさしうまうてこさりけるもとによみてつかはしける    みつね

和歌 水乃於毛尓於不留左月乃宇幾草乃宇幾事安礼也祢遠多衣天己奴
読下 水のおもにおふるさ月のうき草のうき事あれやねをたえてこぬ
通釈 水の面に生ふる五月の浮草の憂きことあれや根を絶えて来ぬ

歌番号九七七
人遠止者天飛左之宇安利个留於利尓安日宇良美个礼八与女留
人をとはてひさしうありけるおりにあひうらみけれはよめる

和歌 身遠寸天々由幾也之尓个武思不与利外奈留物八心奈利个利
読下 身をすてゝゆきやしにけむ思ふより外なる物は心なりけり
通釈 身を捨てて行きやしにけむ思よりほかなる物は心なりけり

歌番号九七八
武祢遠可乃於保与利可己之与利末宇天幾多利个留時尓雪乃布利个留遠見天
むねをかのおほよりかこしよりまうてきたりける時に雪のふりけるを見て

遠乃可於毛比八己乃由幾能己止久奈武川毛礼留止以日个留於利尓与女留
をのかおもひはこのゆきのことくなむつもれるといひけるおりによめる

和歌 君可思日雪止川毛良八多乃万礼寸春与利乃知八安良之止於毛部八
読下 君か思ひ雪とつもらはたのまれす春よりのちはあらしとおもへは
通釈 君が思ひ雪と積もらば頼まれず春より後はあらじと思へば

歌番号九七九
返之    宗岳大頼
返し    宗岳大頼

和歌 君遠乃美思日己之地乃志良山者以川可者雪乃幾由留時安留
読下 君をのみ思ひこしちのしら山はいつかは雪のきゆる時ある
通釈 君をのみ思ひ越路の白山はいつかは雪の消ゆる時ある

歌番号九八〇
己之奈利个留人尓川可八之个留    幾乃川良由幾
こしなりける人につかはしける    きのつらゆき

和歌 思也累己之乃白山志良祢止毛比止夜毛夢尓己衣奴与曽奈幾
読下 思やるこしの白山しらねともひと夜も夢にこえぬよそなき
通釈 思ひやる越の白山知らねども一夜も夢に越えぬ夜ぞなき

歌番号九八一
題之良寸    与三人之良寸
題しらす    よみ人しらす

和歌 以佐己々尓和可世者部奈武菅原也伏見乃里乃安礼万久毛於之
読下 いさこゝにわか世はへなむ菅原や伏見の里のあれまくもおし
通釈 いざここに我が世は経なむ菅原や伏見の里の荒れまくも惜し

歌番号九八二
和歌 和可以保八三和乃山毛止己比之久八止不良日幾万世寸幾多天留可止
読下 わかいほはみわの山もとこひしくはとふらひきませすきたてるかと
通釈 我が庵わは三輪の山本恋しくは訪らひ来ませ杉立てる門

歌番号九八三
幾世无保宇之
きせんほうし

和歌 王可伊本者宮己乃多川美志可曽寸武世遠宇地山止人者以不也
読下 わかいほは宮このたつみしかそすむ世をうち山と人はいふ也
通釈 我が庵は都の巽しかぞ住む世を宇治山と人は言ふなり

歌番号九八四
与美人之良寸
よみ人しらす

和歌 安礼尓个利安者礼以久与乃也止奈礼也寸三釼人乃遠止川礼毛世奴
読下 あれにけりあはれいくよのやとなれやすみ釼人のをとつれもせぬ
通釈 荒れにけりあはれいく世の宿なれや住みけむ人の訪れもせぬ

歌番号九八五
奈良部万可利个留時尓安礼多留家尓女乃琴比幾个留遠幾々天
ならへまかりける時にあれたる家に女の琴ひきけるをきゝて

与美天以礼多利个留    与之三祢乃武祢左多
よみていれたりける    よしみねのむねさた

和歌 和比々止乃寸武部幾也止々見留奈部尓歎久者々留己止乃祢曽寸留
読下 わひゝとのすむへきやとゝ見るなへに歎くはゝることのねそする
通釈 侘び人の住むべき宿と見るなへに嘆き加はる琴の音ぞする

歌番号九八六
者川世尓末宇川留道尓奈良乃京尓也止礼利个留時与女留    二条
はつせにまうつる道にならの京にやとれりける時よめる    二条

和歌 人布留寸左止遠以止日天己之可止毛奈良乃宮己毛宇幾奈々利个利
読下 人ふるすさとをいとひてこしかともならの宮こもうきなゝりけり
通釈 人ふるす里を厭ひて来しかども奈良の都も憂き名なりけり

歌番号九八七
題之良寸    与三人之良寸
題しらす    よみ人しらす

和歌 世中者以川礼可佐之天和可奈良武行止末留遠曽也止々佐多武留
読下 世中はいつれかさしてわかならむ行とまるをそやとゝさたむる
通釈 世の中はいづれかさして我がならむ行き止るをぞ宿と定むる

歌番号九八八
和歌 相坂乃嵐乃可世者左武个礼止由久恵之良祢和日川々曽奴留
読下 相坂の嵐のかせはさむけれとゆくゑしらねはわひつゝそぬる
通釈 逢坂の嵐の風は寒けれど行方知らねば侘びつつぞ寝る

歌番号九八九
和歌 風乃宇部尓安利可佐多女奴知利乃身八由久恵毛志良寸奈利奴部良也
読下 風のうへにありかさためぬちりの身はゆくゑもしらすなりぬへら也
通釈 風の上にありか定めぬ塵の身は行方も知らずなりぬべらなり

歌番号九九〇
家遠宇里天与女留    伊勢
家をうりてよめる    伊勢

和歌 安寸可々八布知尓毛安良奴和可也止毛世尓加者利由久物尓曽有个留
読下 すかゝはふちにもあらぬわかやともせにかはりゆく物にそ有ける
通釈 飛鳥川淵にもあらぬ我が宿も瀬に変り行く物にぞありける

歌番号九九一
徒久之尓侍个留時尓末可利加与比川々己宇知个累人乃毛止尓
つくしに侍ける時にまかりかよひつゝこうちける人のもとに

京尓加部利末宇天幾天川可八之个留    幾乃止毛乃利
京にかへりまうてきてつかはしける    きのとものり

和歌 布累佐止者見之己止毛安良寸於乃々衣乃久知之所曽己日之可利个留
読下 ふるさとは見しこともあらすおのゝえのくちし所そこひしかりける
通釈 古里は見しごともあらず斧の柄の朽ちし所ぞ恋しかりける

歌番号九九二
女止毛多知止物可多利之天和可礼天乃知尓川可八之个留    美知乃久
女ともたちと物かたりしてわかれてのちにつかはしける    みちのく

和歌 安可佐利之袖乃奈可尓也以利尓个武和可多万之日乃奈幾心知寸留
読下 あかさりし袖のなかにやいりにけむわかたましひのなき心ちする
通釈 あかざりし袖のなかにや入りにけむ我が魂のなき心地する

歌番号九九三
寛平御時尓毛呂己之乃者宇官尓女左礼天侍个留時尓東宮乃左不良日尓天
寛平御時にもろこしのはう官にめされて侍ける時に東宮のさふらひにて

遠乃己止毛左計堂宇部个留川以天尓与三侍个留    布知八良乃多々不左
をのこともさけたうへけるついてによみ侍ける    ふちはらのたゝふさ

和歌 奈与竹乃与奈可幾宇部尓者川之毛乃於幾為天物遠思己呂哉
読下 なよ竹のよなかきうへにはつしものおきゐて物を思ころ哉
通釈 なよ竹の夜長き上に初霜の起きゐて物を思ふころかな

歌番号九九四
題之良寸    与三人之良寸
題しらす    よみ人しらす

和歌 風布个者於幾川白浪堂川多山与者尓也君可飛止利己由覧
読下 風ふけはおきつ白浪たつた山よはにや君かひとりこゆ覧
通釈 風吹けば沖つ白浪竜田山夜半にや君が一人越ゆらん

歌番号九九五
安留人己乃哥者武可之也末止乃久尓奈利个留人乃武寸女尓安留人寸美和多利遣里
ある人この哥はむかしやまとのくになりける人のむすめにある人すみわたりけり

己乃女於也毛奈久奈利天家毛和留久奈利由久安比多尓己乃於止己加宇知乃久尓々
この女おやもなくなりて家もわるくなりゆくあひたにこのおとこかうちのくにゝ

人遠安日志利天加与比川々加礼也宇尓乃美奈利由幾个利左利个礼止毛川良計奈留
人をあひしりてかよひつゝかれやうにのみなりゆきけりさりけれともつらけなる

个之幾毛見衣天加宇知部以久己止尓於止己乃心乃己止久尓之徒々以多之
けしきも見えてかうちへいくことにおとこの心のことくにしつゝいたし

也利个礼八安也之止思日天毛之奈幾万尓己止心毛也安留止宇多可日天月乃
やりけれはあやしと思ひてもしなきまにこと心もやあるとうたかひて月の

於毛之呂加利个留夜加宇知部以久万祢尓天世无左以乃奈可尓加久礼天見个礼八
おもしろかりける夜かうちへいくまねにてせんさいのなかにかくれて見けれは

夜布久留末天己止遠加幾奈良之川々宇知奈个幾天己乃哥遠与美天祢尓个礼八
夜ふくるまてことをかきならしつゝうちなけきてこの哥をよみてねにけれは

己礼遠幾々天曽礼与利又保可部毛万可良寸奈利尓个利止奈武以日川多部多留
これをきゝてそれより又ほかへもまからすなりにけりとなむいひつたへたる

和歌 堂可美曽幾由布川計鳥可唐衣堂川多乃山尓於利八部天奈久
読下 たかみそきゆふつけ鳥か唐衣たつたの山におりはへてなく
通釈 誰がみそぎ木綿つけ鳥か唐衣竜田の山にをりはへて鳴く

歌番号九九六
和歌 和寸良礼武時之乃部止曽浜千鳥由久恵毛志良奴安止遠止々武留
読下 わすられむ時しのへとそ浜千鳥ゆくゑもしらぬあとをとゝむる
通釈 忘られむ時偲べとぞ浜千鳥行方も知らぬ跡を留むる

歌番号九九七
貞観御時万葉集者以川者可利川久礼留曽止々者世給个礼八
貞観御時万葉集はいつはかりつくれるそとゝはせ給けれは

与美天多天万川利个留    文屋安利寸恵
よみてたてまつりける    文屋ありすゑ

和歌 神奈月時雨布利遠个留奈良乃八乃奈尓於不宮乃布留己止曽己礼
読下 神な月時雨ふりをけるならのはのなにおふ宮のふることそこれ
通釈 神無月時雨降り置ける楢の葉の名に負ふ宮の古る事ぞこれ

歌番号九九八
寛平御時哥多天万川利个留川以天尓多天万川利个留    大江千里
寛平御時哥たてまつりけるついてにたてまつりける    大江千里

和歌 安之堂川乃飛止利遠久礼天奈久己恵者雲乃宇部万天幾己衣川可奈武
読下 あしたつのひとりをくれてなくこゑは雲のうへまてきこえつかなむ
通釈 葦田鶴の一人遅れて鳴く声は雲の上まで聞こえ継がなむ

歌番号九九九
布知八良乃加知遠武
ふちはらのかちをむ

和歌 飛止之礼寸思不心者春霞多知以天々幾美可女尓毛見衣奈武
読下 ひとしれす思ふ心は春霞たちいてゝきみかめにも見えなむ
通釈 人知れず思ふ心は春霞立ち出でて君が目にも見えなむ

歌番号一〇〇〇
哥免之个留時尓堂天末川留止天与美天於久尓可幾川个天多天万川利个留  伊勢
哥めしける時にたてまつるとてよみておくにかきつけてたてまつりける  伊勢

和歌 山河乃遠止尓乃美幾久毛々之幾遠身遠者也奈可良見留与之毛哉
読下 山河のをとにのみきくもゝしきを身をはやなから見るよしも哉
通釈 山川の音にのみ聞く百敷を身をはやながら見るよしもがな

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廣瀬本万葉集に先だって、藤原定家の「古今和歌集」筆写態度の確認 古今和歌集巻第十六及び巻第十七

2016年08月06日 | 資料書庫
廣瀬本万葉集に先だって、藤原定家の「古今和歌集」筆写態度の確認
-藤原定家筆 古今和歌集 字母研究を使ってー
古今和歌集巻第十六及び巻第十七



古今和歌集巻第十六
哀傷哥

歌番号八二九
以毛宇止乃身万可利个留時与見个留    小野堂可武良乃朝臣
いもうとの身まかりける時よみける    小野たかむらの朝臣

和歌 奈久涙雨止布良武和多利河水万佐利奈八加部利久留可仁
読下 なく涙雨とふらむわたり河水まさりなはかへりくるかに
通釈 泣く涙雨と降らなん渡河水まさりなば帰り来るがに

歌番号八三〇
佐幾乃於保幾於本以万宇知幾美遠志良可八乃之由也安多利尓
さきのおほきおほいまうちきみをしらかはの之由也あたりに

遠久利个留夜与女留    曽世以法之
をくりける夜よめる    そせい法し

和歌 知乃涙於知天曽堂幾川白河者君可世万天乃名尓己曽有个礼
読下 ちの涙おちてそたきつ白河は君か世まての名にこそ有けれ
通釈 血の涙落ちてぞたぎつ白河は君が世までの名にこそありけれ

歌番号八三一
保利加者乃於保幾於本以末宇知君身万可利尓个留時尓深草乃山尓
ほりかはのおほきおほいまうち君身まかりにける時に深草の山に

於左女天个留乃知尓与三个留    僧都勝延
おさめてけるのちによみける    僧都勝延

和歌 空蝉者加良遠見川々毛奈久左女徒深草乃山煙多尓多天
読下 空蝉はからを見つゝもなくさめつ深草の山煙たにたて
通釈 空蝉はか殻を見つつも慰めつ深草の山煙だに立て

歌番号八三二
加武川計乃美祢遠
かむつけのみねを

和歌 布可久左乃々部乃桜之心安良八己止之許八寸美曽女尓左計
読下 ふかくさのゝへの桜し心あらはことし許はすみそめにさけ
通釈 深草の野辺の桜し心あらば今年ばかりは墨染に咲け

歌番号八三三
藤原敏行朝臣乃身万可利尓个留時尓与美天加乃家尓川可八之个留  幾乃止毛乃利
藤原敏行朝臣の身まかりにける時によみてかの家につかはしける  きのとものり

和歌 祢天毛見由祢天毛見衣个利於保可多者空蝉乃世曽夢尓八有个留
読下 ねても見ゆねても見えけりおほかたは空蝉の世そ夢には有ける
通釈 寝ても見ゆ寝でも見えけりおほかたはうつせみの世ぞ夢にはありける

歌番号八三四
安比之乃利个留人乃身万可利尓个礼八与女留    紀川良由幾
あひしれりける人の身まかりにけれはよめる    紀つらゆき

和歌 夢止己曽以布部可利个礼世中尓右川々安留物止思个留哉
読下 夢とこそいふへかりけれ世中にうつゝある物と思ける哉
通釈 夢とこそ言ふべかりけれ世の中にうつつある物と思ひけるかな

歌番号八三五
安日之礼利遣累人乃美満可利尓个留時尓与女留    美不乃多々美祢
あひしれりける人のみまかりにける時によめる    みふのたゝみね

和歌 奴累可宇知尓見留遠乃美也八夢止以者武者可奈幾世遠毛宇川々止者見寸
読下 ぬるかうちに見るをのみやは夢といはむはかなき世をもうつゝとは見す
通釈 寝るがうちに見るをのみやは夢と言はむはかなき世をもうつつとは見ず

歌番号八三六
安祢乃身万可利尓个留時尓与女留
あねの身まかりにける時によめる

和歌 勢遠世計者布知止奈利天毛与止美个利和可礼遠止武留之可良美曽奈幾
読下 せをせけはふちとなりてもよとみけりわかれをとむるしからみそなき
通釈 瀬を塞けば淵となりても淀みけり別れを止むるしがらみぞなき

歌番号八三七
藤原忠房可武可之安日之里天侍个留人乃身万可利尓个留時尓
藤原忠房かむかしあひしりて侍ける人の身まかりにける時に

止不良日尓川可八寸止天与女留    閑院
とふらひにつかはすとてよめる    閑院

和歌 佐幾多々奴久日乃也知多日加奈之幾者奈可留々水乃加部利己奴也
読下 さきたゝぬくひのやちたひかなしきはなかるゝ水のかへりこぬ也
通釈 先立たぬ悔いの八千たび悲しきは流るる水の帰り来ぬなり

歌番号八三八
幾乃止毛乃利可身万可利尓个留時与女留    徒良由幾
きのとものりか身まかりにける時よめる    つらゆき

和歌 安寸之良奴和可身止於毛部止久礼奴万乃个不八人己曽加奈之加利个礼
読下 あすしらぬわか身とおもへとくれぬまのけふは人こそかなしかりけれ
通釈 明日知らぬ我が身と思へど暮れぬ間の今日は人こそ悲しかりけれ

歌番号八三九
堂々見祢
たゝみね

和歌 時之毛安礼秋也者人乃和可留部幾安留遠見留多尓己日之幾毛乃遠
読下 時しもあれ秋やは人のわかるへきあるを見るたにこひしきものを
通釈 時しもあれ秋やは人の別るべきあるを見るだに恋しきものを

歌番号八四〇
者々可於毛比尓天与女留    凡河内美川祢
はゝかおもひにてよめる    凡河内みつね

和歌 神奈月時雨尓奴留々毛美知八々多々和比人乃多毛止奈利个利
読下 神な月時雨にぬるゝもみちはゝたゝわひ人のたもとなりけり
通釈 神無月時雨に濡るるもみぢ葉はただ侘び人の袂なりけり

歌番号八四一
知々可於毛比尓天与女留    多々見祢
ちゝかおもひにてよめる    たゝみね

和歌 布知衣者川累々以止者和比人乃涙乃玉乃遠止曽奈利个留
読下 ふち衣はつるゝいとはわひ人の涙の玉のをとそなりける
通釈 藤衣はつるる糸は侘び人の涙の玉の緒とぞなりける

歌番号八四二
於毛比尓侍个留止之乃秋山天良部万可利个留美知尓天与女留    徒良由幾
おもひに侍けるとしの秋山てらへまかりけるみちにてよめる    つらゆき

和歌 安左露乃於久天乃山田加利曽女尓宇幾世中遠思日奴留哉
読下 あさ露のおくての山田かりそめにうき世中を思ひぬる哉
通釈 朝露のおくての山田かりそめに憂き世の中を思ひぬるかな

歌番号八四三
於毛比尓侍个留人遠止不良日尓万可利天与女留    堂々三祢
おもひに侍ける人をとふらひにまかりてよめる    たゝみね

和歌 寸美曽女乃君可多毛止者雲奈礼也多衣寸涙乃雨止乃美不留
読下 すみそめの君かたもとは雲なれやたえす涙の雨とのみふる
通釈 墨染の君が袂は雲なれや絶えず涙の雨とのみ降る

歌番号八四四
女乃於也乃於毛日尓天山天良尓侍个留遠安留人乃
女のおやのおもひにて山てらに侍けるをある人の

止不良比川可八世利个礼八返事尓与女累    与美人之良寸
とふらひつかはせりけれは返事によめる    よみ人しらす

和歌 安之比幾乃山部尓今八寸三曽女乃衣乃袖者飛留時毛奈之
読下 あしひきの山へに今はすみそめの衣の袖はひる時もなし
通釈 あしひきの山辺に今は墨染の衣の袖は干る時もなし

歌番号八四五
諒闇乃年池乃保止利乃花遠見天与女留    堂可武良乃朝臣
諒闇の年池のほとりの花を見てよめる    たかむらの朝臣

和歌 水乃於毛尓志川久花乃色左也可尓毛君可美可个乃於毛本由留哉
読下 水のおもにしつく花の色さやかにも君かみかけのおもほゆる哉
通釈 水の面にしづく花の色さやかにも君がみ影の思ほゆるかな

歌番号八四六
深草乃美可止乃御国忌乃日与女留    文屋也寸比天
深草のみかとの御国忌の日よめる    文屋やすひて

和歌 草布可幾霞乃谷尓影可久之天留日乃久礼之个不尓也八安良奴
読下 草ふかき霞の谷に影かくしてるひのくれしけふにやはあらぬ
通釈 草深き霞の谷に影隠し照る日の暮れし今日にやはあらぬ

歌番号八四七
布可久左乃美可止乃御時尓蔵人頭尓天与留比留奈礼川可宇万川利个留遠
ふかくさのみかとの御時に蔵人頭にてよるひるなれつかうまつりけるを

諒闇尓奈利尓个礼者佐良尓世尓毛末之良寸之天比衣乃山尓乃本利天
諒闇になりにけれはさらに世にもましらすしてひえの山にのほりて

加之良於呂之天个利曽乃又乃止之美奈比止御布久奴幾天安留者加宇不利多万者利奈止
かしらおろしてけりその又のとしみなひと御ふくぬきてあるはかうふりたまはりなと

与呂己比个留遠幾々天与女留    僧正偏昭
よろこひけるをきゝてよめる    僧正偏昭

和歌 美奈人者花乃衣尓奈利奴奈利己計乃多毛止与加者幾多尓世与
読下 みな人は花の衣になりぬなりこけのたもとよかはきたにせよ
通釈 みな人は花の衣になりぬなり苔の袂よ乾きだにせよ

歌番号八四八
河原乃於保以末宇知幾三乃身万可利天乃秋加乃家乃保止利遠万可利个留尓毛美知乃以呂
河原のおほいまうちきみの身まかりての秋かの家のほとりをまかりけるにもみちのいろ

末多布可久毛奈良左利个留遠見天与美天以礼多利个留   近院右乃於保以末宇知幾三
またふかくもならさりけるを見てよみていれたりける   近院右のおほいまうちきみ

和歌 宇知川个尓左比之久毛安留可毛美知八者奴之奈幾也止者色奈可利个利
読下 うちつけにさひしくもあるかもみちはもぬしなきやとは色なかりけり
通釈 うちつけに寂しくもあるかもみぢ葉も主なき宿は色なかりけり

歌番号八四九
藤原堂可川祢乃朝臣乃身万可利天乃又乃止之乃夏保止々幾須乃
藤原たかつねの朝臣の身まかりての又のとしの夏ほとゝきすの

奈幾个留遠幾々天与女留    徒良由幾
なきけるをきゝてよめる    つらゆき

和歌 郭公計左奈久己恵尓於止呂計者君遠別之時尓曽安利个留
読下 郭公けさなくこゑにおとろけは君を別し時にそありける
通釈 郭公今朝鳴く声におどろけば君を別れし時にぞありける

歌番号八五〇
佐久良遠宇部天安利个留尓也宇也久花左幾奴部幾時尓加乃雨部个留人
さくらをうへてありけるにやうやく花さきぬへき時にかのうへける人

身万可利尓个礼八曽乃花遠見天与女留    幾乃毛知由幾
身まかりにけれはその花を見てよめる    きのもちゆき

和歌 花与利毛人己曽安多尓奈利尓个礼以川礼遠左幾尓己比武止可見之
読下 花よりも人こそあたになりにけれいつれをさきにこひむとか見し
通釈 花よりも人こそあだになりにけれいづれを先に恋ひむとか見し

歌番号八五一
安留之身万可利尓个留人乃家乃梅花遠見天与女累    徒良由幾
あるし身まかりにける人の家の梅花を見てよめる    つらゆき

和歌 色毛加毛昔乃己左尓々保部止毛宇部个武人乃影曽己日之幾
読下 色もかも昔のこさにゝほへともうへけむ人の影そこひしき
通釈 色も香も昔の濃さに匂へども植ゑけむ人の影ぞ恋しき

歌番号八五二
河原乃左乃於保以末宇知幾三乃身万可利天乃々知加乃家尓万可利天安利个留
河原の左のおほいまうちきみの身まかりてのゝちかの家にまかりてありける

尓志本可万止以不所乃左末遠徒久礼利个留遠見天与女留
にしほかもといふ所のさまをつくれりけるを見てよめる

和歌 君万左天煙多衣尓之々保可万乃浦左日之久毛見衣渡可奈
読下 君まさて煙たえにしゝほかまの浦さひしくも見え渡かな
通釈 君まさで煙絶えにし塩釜の浦寂しくも見えわたるかな

歌番号八五三
藤原乃止之毛止乃朝臣乃右近中将尓天寸三侍个留佐宇之乃身万可利天乃知
藤原のとしもとの朝臣の右近中将にてすみ侍けるさうしの身まかりてのち

人毛寸万寸奈利尓个留遠秋乃夜不个天毛乃与利末宇天幾个累徒以天尓
人もすますなりにけるを秋の夜ふけてものよりまうてきけるついてに

見以礼个礼者毛止安利之世无左以毛以止之个久安礼多利个留遠見天者也久
見いれけれはもとありしせんさいもいとしけくあれたりけるを見てはやく

曽己尓侍个礼者武可之遠思也利天与美个留    美八留乃安利寸計
そこに侍けれはむかしを思やりてよみける    みはるのありすけ

和歌 幾美可宇部之比止武良寸々幾虫乃祢乃志个幾乃部止毛奈利尓个留哉
読下 きみかうへしひとむらすゝき虫のねのしけきのへともなりにける哉
通釈 君が植ゑし一群薄虫の音のしげき野辺ともなりにけるかな

歌番号八五四
己礼多可乃美己乃知々乃侍利个武時尓与女利个武宇多止毛止己比个礼者
これたかのみこのちゝの侍りけむ時によめりけむうたともとこひけれは

加幾天遠久利个留於久尓与美天可个利个留    止毛乃利
かきてをくりけるおくによみてかけりける    とものり

和歌 己止奈良八事乃波左部毛幾衣奈々武見礼者涙乃多幾万佐利个利
読下 ことならは事のはさへもきえなゝむ見れは涙のたきまさりけり
通釈 ことならば言の葉さへも消えななむ見れば涙のたぎまさりけり

歌番号八五五
題之良寸    与三人之良寸
題しらす    よみ人しらす

和歌 奈幾人乃也止尓加与者々郭公加計天祢尓乃美奈久止川个奈武
読下 なき人のやとにかよはゝ郭公かけてねにのみなくとつけなむ
通釈 なき人の宿に通はば郭公かけて音にのみ鳴くと告げなん

歌番号八五六
和歌 誰見与止花左个留覧白雲乃多川乃止者也久奈利尓之物遠
読下 誰見よと花さける覧白雲のたつのとはやくなりにし物を
通釈 誰れ見よと花咲けるらん白雲の立つ野と早くなりにしものを

歌番号八五七
式部卿乃美己閑院乃五乃美己尓寸見和多利个留遠以久者久毛安良天
式部卿のみこ閑院の五のみこにすみわたりけるをいくはくもあらて

女美己乃身万可利尓个留時尓加乃美己寸見个留帳乃可多比良乃飛毛尓
女みこの身まかりにける時にかのみこすみける帳のかたひらのひもに

布三遠由比川計多利个留遠止利天見礼者武可之乃天尓天己乃宇多遠奈武
ふみをゆひつけたりけるをとりて見れはむかしのてにてこのうたをなむ

加幾川个多利个留
かきつけたりける

和歌 加寸/\尓我遠和寸礼奴物奈良八山乃霞遠安八礼止者見与
読下 かす/\に我をわすれぬ物ならは山の霞をあはれとは見よ
通釈 かずかずに我を忘れぬものならば山の霞をあはれとは見よ

歌番号八五八
於止己乃人乃久尓々万可礼利个留万尓女尓者可尓也万日遠之天
おとこの人のくにゝまかれりけるまに女にはかにやまひをして

以止与者久奈利尓个留時与三遠幾天身万可利尓个留    与美人之良寸
いとよはくなりにける時よみをきて身まかりにける    よみ人しらす

和歌 己恵遠多尓幾可天和可留々太万与利毛奈幾止己尓祢武君曽可奈之幾
読下 こゑをたにきかてわかるゝたまよりもなきとこにねむ君そかなしき
通釈 声をだに聞かで別るる魂よりもなき床に寝む君ぞ悲しき

歌番号八五九
也末比尓和川良日侍个留秋心地乃多乃毛之計奈久於保衣个礼盤与美天
やまひにわつらひ侍ける秋心地のたのもしけなくおほえけれはよみて

人乃毛止尓川可八之个留    大江千里
人のもとにつかはしける    大江千里

和歌 毛美知者遠風尓万可世天見留与利毛者可奈幾物八伊乃知奈利个利
読下 もみちはを風にまかせて見るよりもはかなき物はいのちなりけり
通釈 もみぢ葉を風にまかせて見るよりもはかなき物は命なりけり

歌番号八六〇
身万可利奈武止天与女留    藤原己礼毛止
身まかりなむとてよめる    藤原これもと

和歌 徒由遠奈止安多奈留物止思个武和可身毛草尓遠可奴許遠
読下 つゆをなとあたなる物と思けむわか身も草にをかぬ許を
通釈 露をなどあだなる物と思ひけむ我が身も草に置かぬばかりを

歌番号八六一
也末日之天与者久奈利尓个留時与女留    奈利比良乃朝臣
やまひしてよはくなりにける時よめる    なりひらの朝臣

和歌 徒為尓由久美知止者可祢天幾々之可止幾乃不个不止八於毛者左利之遠
読下 つゐにゆくみちとはかねてきゝしかときのふけふとはおもはさりしを
通釈 つひに行く道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを

歌番号八六二
加飛乃久尓々安比之利天侍个留人止不良者武止天万可利个留遠美知中尓天
かひのくにゝあひしりて侍ける人とふらはむとてまかりけるをみち中にて

尓者可尓也万日遠之天以末/\止奈利尓个礼八与美天京尓毛天万可利天
にはかにやまひをしていま/\となりにけれはよみて京にもてまかりて

母尓見世与止以比天人尓川計侍个留宇多    在原之計者累
母に見せよといひて人につけ侍けるうた    在原しけはる

和歌 加利曽免乃由幾可比知止曽思己之今八加幾利乃加止天奈利个利
読下 かりそめのゆきかひちとそ思こし今はかきりのかとてなりけり
通釈 かりそめの行きかひ路とぞ思ひ来し今は限りの門出なりけり



古今和歌集巻第十七
雑哥上

歌番号八六三
題之良寸        与三人之良寸
題しらす        よみ人しらす

和歌 和可宇部尓露曽遠久奈留安万乃河止和多留舟乃加以乃志徒久可
読下 わかうへに露そをくなるあまの河とわたる舟のかいのしつくか
通釈 我が上に露ぞ置くなる天の河門わたる舟の櫂の雫か

歌番号八六四
和歌 思不止知万止為世留夜者唐錦多々万久於之幾物尓曽安利遣留
読下 思ふとちまとゐせる夜は唐錦たゝまくおしき物にそありける
通釈 思ふどち円居せる夜は唐錦たたまく惜しきものにぞありける

歌番号八六五
和歌 宇礼之幾遠奈尓々川々末武唐衣多毛止由多可尓多天止以者万之遠
読下 うれしきをなにゝつゝまむ唐衣たもとゆたかにたてといはましを
通釈 うれしきを何に包まむ唐衣袂豊かに裁てと言はましを

歌番号八六六
和歌 限奈幾君可多女尓止於累花者止幾之毛和可奴物尓曽有个留
読下 限なき君かためにとおる花はときしもわかぬ物にそ有ける
通釈 限りなき君がためにと折る花は時しも分かぬ物にぞありける

安留人乃以者久己乃哥者左幾乃於本以末宇知君乃也
ある人のいはくこの哥はさきのおほいまうち君の也

歌番号八六七
和歌 紫乃飛止毛止由部尓武左之乃々草者美奈可良安者礼止曽見留
読下 紫のひともとゆへにむさしのゝ草はみなからあはれとそ見る
通釈 紫の一本ゆゑに武蔵野の草は見ながらあはれとぞ見る

歌番号八六八
女乃於止宇止遠毛天侍个留人尓宇部乃幾奴遠々久留止天
めのおとうとをもて侍ける人にうへのきぬをゝくるとて

与美天也利个留    奈利比良乃朝臣
よみてやりける    なりひらの朝臣

和歌 紫乃色己幾時者女毛者留尓野奈留草木曽和可礼左利个留
読下 紫の色こき時はめもはるに野なる草木そわかれさりける
通釈 紫の色濃き時は目もはるに野なる草木ぞ別れざりける

歌番号八六九
大納言布知八良乃久尓川祢乃朝臣乃宰相与利中納言尓奈利个留時
大納言ふちはらのくにつねの朝臣の宰相より中納言になりける時

曽女奴宇部乃幾奴安也遠々久留止天与女留    近院右乃於保以末宇知幾三
そめぬうへのきぬあやをゝくるとてよめる    近院右のおほいまうちきみ

和歌 色奈之止人也見留覧昔与利布可幾心尓曽女天之毛乃遠
読下 色なしと人や見る覧昔よりふかき心にそめてしものを
通釈 色なしと人や見るらむ昔より深き心に染めてしもおのを

歌番号八七〇
以曽乃可美乃奈武末川可宮徒可部毛世天以曽乃神止以不所尓
いそのかみのなむまつか宮つかへもせていその神といふ所に

己毛利侍个留遠尓者可尓加宇不利多末者礼利个礼者与呂己日以日
こもり侍けるをにはかにかうふりたまはれりけれはよろこひいひ

川可者寸止天与三天川可八之个留    布留乃以万美知
つかはすとてよみてつかはしける    ふるのいまみち

和歌 日乃飛可利也布之和可祢八伊曽乃神布利尓之佐止尓花毛左幾个利
読下 日のひかりやふしわかねはいその神ふりにしさとに花もさきけり
通釈 日の光薮し分かねば石上古りにし里に花も咲きけり

歌番号八七一
二条乃幾左幾乃末多東宮乃美也寸无止己呂止申个留時尓
二条のきさきのまた東宮のみやすんところと申ける時に

於保者良乃尓末宇天多万日个留日与女留    奈利比良乃朝臣
おほはらのにまうてたまひける日よめる    なりひらの朝臣

和歌 於保者良也遠之保乃山毛遣布己曽八神世乃事毛思以川良免
読下 おほはらやをしほの山もけふこそは神世の事も思いつらめ
通釈 大原や小塩の山も今日こそは神世の事も思ひ出づらめ

歌番号八七二
五節乃末比々女遠見天与女留    与之三祢乃武祢左多
五節のまひゝめを見てよめる    よしみねのむねさた

和歌 安満川可世雲乃可与日知吹止知与遠止免乃寸可多志波之止々女武
読下 あまつかせ雲のかよひち吹とちよをとめのすかたしはしとゝめむ
通釈 天つ風雲の通路吹き閉ぢよ乙女の姿しばし留めむ

歌番号八七三
五世知乃安之多尓加武左之乃多万能於知多利个留遠見天
五せちのあしたにかむさしのたまのおちたりけるを見て

堂可奈良武止々不良日天与女留    河原乃左乃於保以末宇知幾三
たかならむとゝふらひてよめる    河原の左のおほいまうちきみ

和歌 奴之也堂礼止部止志良玉以者奈久尓佐良者奈部天也安者礼止於毛八武
読下 ぬしやたれとへとしら玉いはなくにさらはなへてやあはれとおもはむ
通釈 主や誰れ問へど白玉言はなくにさらばなべてやあはれと思はむ

歌番号八七四
寛平御時宇部乃左不良飛尓侍个留遠乃己止毛加免遠毛多世天幾左以乃宮乃御方尓
寛平御時うへのさふらひに侍けるをのこともかめをもたせてきさいの宮の御方に

於保美幾乃於呂之止起己衣尓多天万川利多利个留遠久良人止毛和良日天加女遠
おほみきのおろしときこえにたてまつりたりけるをくら人ともわらひてかめを

於末部尓毛天以天々止毛可久毛以者寸奈利尓个礼者徒可日乃加部利幾天左奈武
おまへにもていてゝともかくもいはすなりにけれはつかひのかへりきてさなむ

安利川留止以日个礼八久良人能奈可尓遠久利个留    止之由幾乃朝臣
ありつるといひけれはくら人のなかにをくりける    としゆきの朝臣

和歌 玉堂礼乃己可免也以川良己与呂幾乃以曽乃浪和計於幾尓以天二个利
読下 玉たれのこかめやいつらこよろきのいその浪わけおきにいてにけり
通釈 玉垂れの小瓶やいづらこよろぎの磯の浪分け沖に出でにけり

歌番号八七五
女止毛乃見天和良日个礼者与女留    遣武个以本宇之
女ともの見てわらひけれはよめる    けむけいほうし

和歌 加多知己曽美山可久礼乃久知木奈礼心者花尓奈左八奈利奈武
読下 かたちこそみ山かくれのくち木なれ心は花になさはなりなむ
通釈 かたちこそ深山隠れの朽木なれ心は花になさばなりなん

歌番号八七六
方堂可部尓人乃家尓万可礼利个留時尓安留之乃幾奴遠幾世多利个留遠
方たかへに人の家にまかれりける時にあるしのきぬをきせたりけるを

安之多尓加部寸止天与美个留    幾乃止毛乃利
あしたにかへすとてよみける    きのとものり

和歌 蝉乃者乃与留乃衣者宇寸个礼止宇川利加己久毛尓保日奴留哉
読下 蝉のはのよるの衣はうすけれとうつりかこくもにほひぬる哉
通釈 蝉の羽の夜の衣は薄けれど移り香濃くも匂ひぬるかな

歌番号八七七
題之良寸    与美人之良寸
題しらす    よみ人しらす

和歌 遠曽久以徒累月尓毛安留哉葦引乃山乃安奈多毛於之武部良也
読下 をそくいつる月にもある哉葦引の山のあなたもおしむへら也
通釈 遅く出づる月にもあるかなあしひきの山のあなたも惜しむべらなり

歌番号八七八
和歌 和可心奈久佐女加祢川佐良之奈也遠者寸天山尓天留月遠見天
読下 わか心なくさめかねつさらしなやをはすて山にてる月を見て
通釈 我が心慰さめかねつ更級や姨捨山に照る月を見て

歌番号八七九
奈利比良乃朝臣
なりひらの朝臣

和歌 於保可多者月遠毛女天之己礼曽己乃徒毛礼八人乃於以止奈留毛乃
読下 おほかたは月をもめてしこれそこのつもれは人のおいとなるもの
通釈 おほかたは月をも賞でじこれぞこの積もれば人の老いとなるもの

歌番号八八〇
月於毛之呂之止天凡河内躬恒可末宇天幾多利个留尓与女留    幾乃川良由幾
月おもしろしとて凡河内躬恒かまうてきたりけるによめる    きのつらゆき

和歌 加徒見礼盤宇止久毛安留哉月影乃以多良奴左止毛安良之止思部八
読下 かつ見れはうとくもある哉月影のいたらぬさともあらしと思へは
通釈 かつ見れば疎くもあるかな月影のいたらぬ里もあらじと思へば

歌番号八八一
池尓月乃見衣个留遠与免留
池に月の見えけるをよめる

和歌 布多川奈幾物止思之遠美奈曽己尓山乃者奈良天以川留月可遣
読下 ふたつなき物と思しをみなそこに山のはならていつる月かけ
通釈 二つなき物と思ひしを水底に山の端ならで出づる月影

歌番号八八二
題之良須    与三人之良須
題しらす    よみ人しらす

和歌 安満乃河雲乃美於尓天者也个礼者飛可利止々女寸月曽奈可留々
読下 あまの河雲のみおにてはやけれはひかりとゝめす月そなかるゝ
通釈 天の河雲の水脈にて早ければ光留めず月ぞ流るる

歌番号八八三
和歌 阿可寸之天月能加久留々山本八安奈多於毛天曽己日之可利个留
読下 あかすして月のかくるゝ山本はあなたおもてそこひしかりける
通釈 あかずして月の隠るる山本はあなたおもてぞ恋しかりける

歌番号八八四
己礼堂可乃美己乃加利之个留止毛尓末可利天也止利尓可部利天夜比止与
これたかのみこのかりしけるともにまかりてやとりにかへりて夜ひとよ

左个遠乃美物可多利遠之个留尓十一日乃月毛加久礼奈武止之个留於利尓
さけをのみ物かたりをしけるに十一日の月もかくれなむとしけるをりに

美己恵日天宇知部以里奈武止之个礼八与三侍个留    奈利比良乃朝臣
みこゑひてうちへいりなむとしけれはよみ侍ける    なりひらの朝臣

和歌 安可那久尓末多幾毛月乃加久留々可山乃者尓个天以礼寸毛安良奈武
読下 あかなくにまたきも月のかくるゝか山のはにけていれすもあらなむ
通釈 あかなくにまだきも月の隠るるか山の端逃げて入れずもあらなむ

歌番号八八五
田武良乃美可止乃御時尓斎院尓侍个留安幾良計以己乃美己遠
田むらのみかとの御時に斎院に侍けるあきらけいこのみこを

者々安也万知安利止以比天斎院遠加部良礼武止之个留遠
はゝあやまちありといひて斎院をかへられむとしけるを

曽乃己止也見尓个礼八与女留    安万敬信
そのことやみにけれはよめる    あま敬信

和歌 於保曽良遠帝里由久月之幾与个礼者雲加久世止毛飛可利遣奈久尓
読下 おほそらをてりゆく月しきよけれは雲かくせともひかりけなくに
通釈 大空を照り行く月し清ければ雲隠せども光消なくに

歌番号八八六
題之良寸    与三人之良須
題しらす    よみ人しらす

和歌 以曽乃神布累可良遠乃々毛止可之波本乃心者和寸良礼奈久尓
読下 いその神ふるからをのゝもとかしは本の心はわすられなくに
通釈 石上ふるから小野のもと柏本の心は忘られなくに

歌番号八八七
和歌 伊尓之部乃野中乃志水奴留个礼止本乃心遠志留人曽久武
読下 いにしへの野中のし水ぬるけれと本の心をしる人そくむ
通釈 いにしへの野中の清水ぬるけれど本の心を知る人ぞ汲む

歌番号八八八
和歌 以仁志部能志徒乃遠多末幾以也之幾毛与幾毛左可利八有之物也
読下 いにしへのしつのをたまきいやしきもよきもさかりは有し物也
通釈 いにしへの倭文の苧環卑しきも良きも盛りはありしものなり

歌番号八八九
和歌 今己曽安礼我毛昔者於止己山左可由久時毛有己之毛乃遠
読下 今こそあれ我も昔はおとこ山さかゆく時も有こしものを
通釈 今こそあれ我も昔は男山栄行く時もありこしものを

歌番号八九〇
和歌 世中尓布利奴留物者徒乃久尓乃奈可良乃波之乃我止奈利个利
読下 世中にふりぬる物はつのくにのなからのはしと我となりけり
通釈 世の中にふりぬる物は津国の長柄の橋と我となりけり

歌番号八九一
和歌 佐々乃者尓布利川武雪乃宇礼遠々毛美本久多知由久和可左可利者毛
読下 さゝのはにふりつむ雪のうれをゝもみ本くたちゆくわかさかりはも
通釈 笹の葉に降り積む雪の末を重み本くたち行く我が盛りはも

歌番号八九二
和歌 於保安良幾乃毛利乃志多草於以奴礼者駒毛寸左女寸加留人毛奈之
読下 おほあらきのもりのした草おいぬれは駒もすさめすかる人もなし
通釈 大荒木の森の下草老いぬれば駒もすさめず刈る人もなし

又八左久良安左乃遠不乃之多久左於以奴礼八
又はさくらあさのをふのしたくさおいぬれは

歌番号八九三
和歌 加曽布礼者止万良奴物遠年止以日天己止之者以多久於以曽之尓个留
読下 かそふれはとまらぬ物を年といひてことしはいたくおいそしにける
通釈 数ふれば止まらぬものを年と言ひて今年はいたく老いぞしにける

歌番号八九四
和歌 遠之天留也奈尓八乃水尓也久之本乃加良久毛我者於以尓个留哉
読下 をしてるやなにはの水にやくしほのからくも我はおいにける哉
通釈 おしてるや難波の水にやく塩のからくも我は老いにけるかな

又者於本止毛乃美川乃者万部尓
又はおほとものみつのはまへに

歌番号八九五
和歌 於以良久乃己武止志利世八加止佐之天奈之止己多部天安者左良万之遠
読下 おいらくのこむとしりせはかとさしてなしとこたへてあはさらましを
通釈 老いらくの来むと知りせば門さしてなしと答へて逢はざらましを

己乃美川乃哥八昔安利个留美多利乃於幾奈乃与女留止奈武
このみつの哥は昔ありけるみたりのおきなのよめるとなむ

歌番号八九六
和歌 佐可左満尓年毛由可奈武止利毛安部寸々久留与者日也止毛尓加部留止
読下 さかさまに年もゆかなむとりもあへすゝくるよはひやともにかへると
通釈 さかさまに年も行かなん取りもあへず過ぐる齢やともに帰ると

歌番号八九七
和歌 止利止武累物尓之安良祢八年月遠安八礼安奈宇止寸久之川留哉
読下 とりとむる物にしあらねは年月をあはれあなうとすくしつる哉
通釈 取りとむる物にしあらねば年月をあはれあな憂と過ぐしつるかな

歌番号八九八
和歌 止々女安部寸武部毛止之止者以者礼个利志可毛川礼奈久寸久留与八日可
読下 とゝめあへすむへもとしとはいはれけりしかもつれなくすくるよはひか
通釈 留めあへずむべも年とは言はれけりしかもつれなく過ぐる齢か

歌番号八九九
和歌 鏡山以左立与利天見天由可武年部奴留身八於以也之奴留止
読下 鏡山いさ立よりて見てゆかむ年へぬる身はおいやしぬると
通釈 鏡山いざ立ち寄りて見て行かむ年経ぬる身は老いやしぬると

歌番号九〇〇
己乃哥八安留人乃以者久於保止毛乃久呂奴之可也業平朝臣乃者々乃美己
この哥はある人のいはくおほとものくろぬしか也業平朝臣のはゝのみこ

長岡尓寸見侍个留時尓奈利比良宮川可部寸止天
長岡にすみ侍ける時になりひら宮つかへすとて

時/\毛衣万可利止不良者寸侍个礼者志者寸許尓者々乃美己乃毛止与利
時/\もえまかりとふらはす侍けれはしはす許にはゝのみこのもとより

止美乃事止天布美遠毛天末宇天幾多利安遣天見礼者己止八々奈久天安利个留宇多
とみの事とてふみをもてまうてきたりあけて見れはことはゝなくてありけるうた

和歌 老奴礼者佐良奴別毛安利止以部者以与/\見万久保之幾君哉
読下 老ぬれはさらぬ別もありといへはいよ/\見まくほしき君哉
通釈 老いぬればさらぬ別れもありと言へばいよいよ見まくほしき君かな

歌番号九〇一
返之    奈利比良乃朝臣
返し    なりひらの朝臣

和歌 世中尓左良奴別乃奈久毛哉千世毛止奈計久人乃己乃多女
読下 世中にさらぬ別のなくも哉千世もとなけく人のこのため
通釈 世の中にさらぬ別れのなくもがな千代もと嘆く人の子のため

歌番号九〇二
寛平御時幾左以乃宮乃哥合乃宇多    在原武祢也奈
寛平御時きさいの宮の哥合のうた    在原むねやな

和歌 白雪乃也部布利志个留加部留山加部累/\毛於以尓个留哉
読下 白雪のやへふりしけるかへる山かへる/\もおいにける哉
通釈 白雪の八重降りしけるかへる山かへるがへるも老いにけるかな

歌番号九〇三
於奈之御時乃宇部乃左不良比尓天遠乃己止毛尓於本美幾多万日天於本見
おなし御時のうへのさふらひにてをのこともにおほみきたまひておほみ

安曽比安利个留徒以天尓川可宇万川礼留    止之由幾乃朝臣
あそひありけるついてにつかうまつれる    としゆきの朝臣

和歌 於以奴止天奈止可和可身遠世女幾个武於以寸八个不尓安者万之毛乃可
読下 おいぬとてなとかわか身をせめきけむおいすはけふにあはましものか
通釈 老いぬとてなどか我が身を責めきけむ老いずは今日に逢はましものか

歌番号九〇四
題之良寸    与三人之良須
題しらす    よみ人しらす

和歌 知者也布留宇治乃橋守奈礼遠之曽安八礼止八思年乃部奴礼八
読下 ちはやふる宇治の橋守なれをしそあはれとは思年のへぬれは
通釈 ちはやぶる宇治の橋守なれをしぞあはれとは思ふ年の経ぬれば

歌番号九〇五
和歌 我見天毛飛左之久成奴住乃江乃岸乃姫松以久与部奴覧
読下 我見てもひさしく成ぬ住の江の岸の姫松いくよへぬ覧
通釈 我見ても久しくなりぬ住の江の岸の姫松いく世経らん

歌番号九〇六
和歌 住吉乃岸乃飛女松人奈良波以久世可部之止々八末之物遠
読下 住吉の岸のひめ松人ならはいく世かへしとゝはまし物を
通釈 住吉の岸の姫松人ならばいく世か経しと問はましものを

歌番号九〇七
和歌 梓弓以曽部乃己松堂可世尓可与呂川世可祢天多祢遠万幾个武
読下 梓弓いそへのこ松たか世にかよろつ世かねてたねをまきけむ
通釈 梓弓磯辺の小松誰が世にかよろづ世かねて種をまきけむ

己乃哥八安留人乃以者久柿本人麿可也
この哥はある人のいはく柿本人麿か也

歌番号九〇八
和歌 加久之徒々世遠也川久佐武高砂乃於乃部尓多天留松奈良奈久二
読下 かくしつゝ世をやつくさむ高砂のおのへにたてる松ならなくに
通釈 かくしつつ世をや尽くさむ高砂の尾上に立てる松ならなくに

歌番号九〇九
藤原於幾可世
藤原おきかせ

和歌 誰遠可毛志留人尓世武高砂乃松毛昔乃友奈良奈久二
読下 誰をかもしる人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに
通釈 誰れをかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに

歌番号九一〇
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 和多川海乃於幾川之本安日尓宇可不安和乃幾衣奴物可良与留方毛奈之
読下 わたつ海のおきつしほあひにうかふあわのきえぬ物からよる方もなし
通釈 わたつ海の沖つ潮合に浮かぶ泡の消えぬものから寄る方もなし

歌番号九一一
和歌 王堂徒海乃加左之尓左世留白砂乃浪毛天由部流淡路之万山
読下 わたつ海のかさしにさせる白砂の浪もてゆへる淡路しま山
通釈 わたつ海のかざしにさせる白砂の浪もて結へる淡路島山

歌番号九一二
和歌 和太乃原与世久累浪乃志者/\毛見末久乃本之幾玉津島可毛
読下 わたの原よせくる浪のしは/\も見まくのほしき玉津島かも
通釈 わたの原寄せ来る浪のしばしばも見まくのほしき玉津島かも

歌番号九一三
和歌 奈尓者可多志本見知久良之安万衣堂美乃々島尓堂川奈幾渡
読下 なにはかたしほみちくらしあま衣たみのゝ島にたつなき渡
通釈 難波潟潮満ち来らし海人衣田蓑島に田鶴鳴きわたる

歌番号九一四
貫之可以川美乃久尓々侍个留時尓也末止与利己衣末宇天幾天
貫之かいつみのくにゝ侍ける時にやまとよりこえまうてきて

与美天川可八之个留    藤原堂々不左
よみてつかはしける    藤原たゝふさ

和歌 君遠思日於幾川乃者万尓奈久多川乃尋久礼者曽安利止多尓幾久
読下 君を思ひおきつのはまになくたつの尋くれはそありとたにきく
通釈 君を思ひおきつの浜に鳴く田鶴の尋ね来ればぞありとだに聞く

歌番号九一五
返之    川良由幾
返し    つらゆき

和歌 於幾川浪堂可之乃者万乃浜松乃名尓己曽君遠万知和多利川礼
読下 おきつ浪たかしのはまの浜松の名にこそ君をまちわたりつれ
通釈 沖つ浪高しの浜の浜松の名にこそ君を待ちわたりつれ

歌番号九一六
奈尓者尓万可礼利个留時与女留
なにはにまかれりける時よめる

和歌 奈尓者可多於不留多万毛遠加利曽女乃安万止曽我者奈利奴部良奈留
読下 なにはかたおふるたまもをかりそめのあまとそ我はなりぬへらなる
通釈 難波潟生ふる玉藻をかりそめの海人とぞ我はなりぬべらなる

歌番号九一七
安飛之礼利个留人乃住吉尓末宇天个留仁与美天徒可八之个留   美不乃多々美祢
あひしれりける人の住吉にまうてけるによみてつかはしける   みふのたゝみね

和歌 寸見与之止安満者川久止毛奈可為寸奈人忘草於不止以不奈利
読下 すみよしとあまはつくともなかゐすな人忘草おふといふなり
通釈 住吉と海人は告ぐとも長居すな人忘草生ふと言ふなり

歌番号九一八
奈尓者部万可利个留時堂美乃々之満尓天雨尓安日天与女留    徒良由幾
なにはへまかりける時たみのゝしまにて雨にあひてよめる    つらゆき

和歌 安免尓与利堂美乃々島遠个不由个止名尓八加久礼奴物尓曽有个留
読下 あめによりたみのゝ島をけふゆけと名にはかくれぬ物にそ有ける
通釈 雨により田蓑島を今日行けど名には隠れぬ物にぞありける

歌番号九一九
法皇仁之河尓於者之末之多利个留日徒留寸尓堂天利止以不己止遠
法皇にし河におはしましたりける日つるすにたてりといふことを

題尓天与万世多万日个留
題にてよませたまひける

和歌 安之多川乃堂天留河辺遠吹風尓与世天可部良奴浪可止曽見留
読下 あしたつのたてる河辺を吹風によせてかへらぬ浪かとそ見る
通釈 葦田鶴の立てる河辺を吹く風に寄せて帰らぬ浪かとぞ見る

歌番号九二〇
中務乃美己乃家乃池尓舟遠川久利天於呂之者之女天安曽比个留日
中務のみこの家の池に舟をつくりておろしはしめてあそひける日

法皇御覧之尓於波之末之多利个利由不左利川可多加部利於者之万左武止
法皇御覧しにおはしましたりけりゆふさりつかたかへりおはしまさむと

之个留於利尓与三天多天万川利个留    伊勢
しけるおりによみてたてまつりける    伊勢

和歌 水乃宇部尓宇可部留舟乃君奈良八己々曽止万利止以者万之物遠
読下 水のうへにうかへる舟の君ならはこゝそとまりといはまし物を
通釈 水の上に浮かべる舟の君ならばここぞ泊りと言はましものを

歌番号九二一
加良己止々以不所尓天与女留    真世以本宇之
からことゝいふ所にてよめる    真せいほうし

和歌 宮己万天飛々幾加与部留加良己止八浪乃遠寸个天風曽比幾个留
読下 宮こまてひゝきかよへるからことは浪のをすけて風そひきける
通釈 都まで響き通へるからことは浪の緒すげて風ぞ弾きける

歌番号九二二
奴乃比幾乃堂幾尓天与女留    在原行平朝臣
ぬのひきのたきにてよめる    在原行平朝臣

和歌 己幾知良寸瀧乃白玉飛呂日遠幾天世乃宇幾時乃涙尓曽可累
読下 こきちらす瀧の白玉ひろひをきて世のうき時の涙にそかる
通釈 こき散らす滝の白玉拾ひ置きて世の憂き時の涙にぞかる

歌番号九二三
布引乃瀧乃本尓天人/\安川万利天哥与美个留時尓与免留   奈利比良乃朝臣
布引の瀧の本にて人/\あつまりて哥よみける時によめる   なりひらの朝臣

和歌 奴幾見多累人己曽安留良之白玉乃末奈久毛知留可袖乃世八幾尓
読下 ぬきみたる人こそあるらし白玉のまなくもちるか袖のせはきに
通釈 抜き見たる人こそあるらし白玉のまなくも散るか袖の狭きに

歌番号九二四
与之乃々多幾遠見天与女留    承均法師
よしのゝたきを見てよめる    承均法師

和歌 堂可多女尓飛幾天佐良世留雨奴乃奈礼也世遠部天見礼止々留人毛奈幾
読下 たかためにひきてさらせる雨ぬのなれや世をへて見れとゝる人もなき
通釈 誰がために引きてさらせる布なれや世を経て見れど取る人もなき

歌番号九二五
題之良寸    神多以法之
題しらす    神たい法し

和歌 幾与多幾乃世々乃之良以止久利多女天山和个衣遠和天幾万之遠
読下 きよたきのせゝのしらいとくりためて山わけ衣をりてきましを
通釈 清滝の瀬々の白糸繰りためて山わけ衣織りて着ましを

歌番号九二六
龍門尓末宇天々多幾乃毛止尓天与女留    伊勢
龍門にまうてゝたきのもとにてよめる    伊勢

和歌 堂知奴者奴幾奴幾之人毛奈幾物遠奈尓山姫乃奴乃左良寸良武
読下 たちぬはぬきぬきし人もなき物をなに山姫のぬのさらすらむ
通釈 裁ち縫はぬ衣着し人もなきものを何山姫の布晒すらむ

歌番号九二七
朱雀院乃美可止奴乃比幾乃多幾御覧世武止天
朱雀院のみかとぬのひきのたき御覧せむとて

布无月乃奈奴可乃日於八之末之天安利个留時尓左布良布人/\尓
ふん月のなぬかの日おはしましてありける時にさふらふ人/\に

哥与万世多万日个留尓与女留    堂知八奈乃奈可毛利
哥よませたまひけるによめる    たちはなのなかもり

和歌 奴之奈久天佐良世留奴乃遠多奈者多尓和可心止也个不八可左末之
読下 ぬしなくてさらせるぬのをたなはたにわか心とやけふはかさまし
通釈 主なくて晒せる布を棚機に我が心とや今日はかさまし

歌番号九二八
飛衣乃山奈留遠止八乃多幾遠見天与女留    太々美祢
ひえの山なるをとはのたきを見てよめる    たゝみね

和歌 於知多幾川多幾乃美奈可美止之川毛利於以尓个良之奈久呂幾寸知奈之
読下 おちたきつたきのみなかみとしつもりおいにけらしなくろきすちなし
通釈 落ちたぎつ滝の水神年積もり老いにけらしな黒き筋なし

歌番号九二九
於奈之多幾遠与女留    美川祢
おなしたきをよめる    みつね

和歌 風布遣止所毛佐良奴白雲者与遠部天於川留水尓曽有个留
読下 風ふけと所もさらぬ白雲はよをへておつる水にそ有ける
通釈 風吹けど所もさらぬ白雲は世を経て落つる水にぞありける

歌番号九三〇
田武良乃御時尓女房乃左不良日尓天御屏風乃恵御覧之个留尓
田むらの御時に女房のさふらひにて御屏風のゑ御覧しけるに

太幾於知多利个留所於毛之呂之己礼遠題尓天宇多与免止左布良不人尓
たきおちたりける所おもしろしこれを題にてうたよめとさふらふ人に

於保世良礼个礼八与女累    三条乃町
おほせられけれはよめる    三条の町

和歌 於毛比世久心乃内乃多幾奈礼也於川止八見礼止遠止乃幾己江奴
読下 おもひせく心の内のたきなれやおつとは見れとをとのきこえ江ぬ
通釈 思ひせく心の内の滝なれや落つとは見れど音の聞こえぬ

歌番号九三一
屏風乃恵奈留花遠与女留    徒良由幾
屏風のゑなる花をよめる    つらゆき

和歌 佐幾曽免之時与利乃知者宇知波部天世者春奈礼也色乃川祢奈留
読下 さきそめし時よりのちはうちはへて世は春なれや色のつねなる
通釈 咲きそめし時より後はうちはへて世は春なれや色の常なる

歌番号九三二
屏風乃恵尓与美安八世天加幾个留    坂上己礼乃利
屏風のゑによみあはせてかきける    坂上これのり

和歌 加利天保寸山田乃以祢乃己幾多礼天奈幾己曽和多礼秋乃宇个礼盤
読下 かりてほす山田のいねのこきたれてなきこそわたれ秋のうけれは
通釈 刈りて干す山田の稲のこきたれて鳴きこそわたれ秋の憂ければ
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廣瀬本万葉集に先だって、藤原定家の「古今和歌集」筆写態度の確認 古今和歌集巻第十四及び巻第十五

2016年08月06日 | 資料書庫
廣瀬本万葉集に先だって、藤原定家の「古今和歌集」筆写態度の確認
-藤原定家筆 古今和歌集 字母研究を使ってー
古今和歌集巻第十四及び巻第十五



古今和歌集巻第十四
恋哥四

歌番号六七七
題之良須    与美人之良須
題しらす    よみ人しらす

和歌 美知乃久乃安左可乃奴万乃花可川美加川見留人尓己日也和多良武
読下 みちのくのあさかのぬまの花かつみかつ見る人にこひやわたらむ
通釈 陸奥の安積の沼の花かつみかつ見る人に恋ひやわたらむ

歌番号六七八
和歌 安飛見寸者己比之幾己止毛奈可良末之遠止尓曽人遠幾久部可利个留
読下 あひ見すはこひしきこともなからましをとにそ人をきくへかりける
通釈 あひ見ずは恋しき事もなからまし音にぞ人を聞くべかりける

歌番号六七九
徒良由幾
つらゆき

和歌 伊曽乃神布留乃奈可道中/\尓見寸八己比之止思八万之也八
読下 いその神ふるのなか道中/\に見すはこひしと思はましやは
通釈 石上布留の中道なかなかに見ずは恋しと思はましやは

歌番号六八〇
布知八良乃多々由幾
ふちはらのたゝゆき

和歌 君天部者見万礼見寸万礼布之乃祢乃女川良之計奈久毛由留和可己日
読下 君てへは見まれ見すまれふしのねのめつらしけなくもゆるわかこひ
通釈 君といへば見まれ見ずまれ富士の嶺の珍しげなく燃ゆる我が恋

歌番号六八一
伊勢
伊勢

和歌 夢尓多尓見由止者見衣之安左奈/\和可於毛可个尓者川留身奈礼八
読下 夢にたに見ゆとは見えしあさな/\わかおもかけにはつる身なれは
通釈 夢にだに見ゆとは見えじ朝な朝な我が面影に恥づる身なれば

歌番号六八二
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 伊之万行水乃白浪立帰利加久己曽八見女安可寸毛安留哉
読下 いしま行水の白浪立帰りかくこそは見めあかすもある哉
通釈 石間行く水の白浪立ち帰りかくこそは見めあかずもあるかな

歌番号六八三
和歌 伊世乃安万能安左奈由不奈尓加徒久天不見留女尓人遠安久与之毛哉
読下 いせのあまのあさなゆふなにかつくてふ見るめに人をあくよしも哉
通釈 伊勢の海人の朝な夕なにかづくてふ見るめに人をあくよしもがな

歌番号六八四
止毛乃利
とものり

和歌 春霞堂奈比久山乃佐久良花見礼止毛安可奴君尓毛安留可那
読下 春霞たなひく山のさくら花見れともあかぬ君にもあるかな
通釈 春霞たなびく山の桜花見れどもあかぬ君にもあるかな

歌番号六八五
布可也不
ふかやふ

和歌 心遠曽和利奈幾物止思日奴留見留物可良也己比之可留部幾
読下 心をそわりなき物と思ひぬる見る物からやこひしかるへき
通釈 心をぞわりなき物と思ひぬる見る物からや恋しかるべき

歌番号六八六
凡河内美川祢
凡河内みつね

和歌 可礼者天部乃知遠者志良天夏草乃深久毛人乃於毛本由留哉
読下 かれはてむのちをはしらて夏草の深くも人のおもほゆる哉
通釈 かれはてむ後をば知らで夏草の深くも人の思ほゆるかな

歌番号六八七
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 安寸可々波布知者世尓奈留世奈利止毛思曽女天武人者和寸礼之
読下 あすかゝはふちはせになる世なりとも思そめてむ人はわすれし
通釈 飛鳥河淵は瀬になる世なりとも思ひそめてむ人は忘れじ

歌番号六八八
寛平御時幾左以乃宮乃哥合乃宇多
寛平御時きさいの宮の哥合のうた

和歌 思天不事乃者乃美也秋遠部天色毛加八良奴物尓八安留覧
読下 思てふ事のはのみや秋をへて色もかはらぬ物にはある覧
通釈 思ふてふ言の葉のみや秋を経て色も変はらぬ物にはあるらん

歌番号六八九
題之良須
題しらす

和歌 佐武之呂尓衣加多之幾己与日毛也我遠末川覧宇知乃者之比女
読下 さむしろに衣かたしきこよひもや我をまつ覧うちのはしひめ
通釈 さむしろに衣片敷き今宵もや我を待つらむ宇治の橋姫

歌番号六九〇
又者宇知乃多万比免
又はうちのたまひめ

和歌 君也己武我也由可武乃以左与日尓万幾乃以多止毛左々寸祢尓个利
読下 君やこむ我やゆかむのいさよひにまきのいたともさゝすねにけり
通釈 君や来む我や行かむのいさよひに槙の板戸も鎖さず寝にけり

歌番号六九一
曽世以本宇之
そせいほうし

和歌 今己武止以飛之許尓長月乃安利安計乃月遠万知以天川留哉
読下 今こむといひし許に長月のありあけの月をまちいてつる哉
通釈 今来むと言ひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな

歌番号六九二
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 月夜与之与々之止人尓川遣也良八己天不尓々多利万多寸之毛安良須
読下 月夜よしよゝしと人につけやらはこてふにゝたりまたすしもあらす
通釈 月夜よし夜よしと人に告げやらば来てふに似たり待たずしもあらず

歌番号六九三
和歌 君己寸者祢也部毛以良之己紫和可毛止由日尓志毛者遠久止毛
読下 君こすはねやへもいらしこ紫わかもとゆひにしもはをくとも
通釈 君来ずは寝屋へもいらじ濃紫わが元結に霜は置くとも

歌番号六九四
和歌 宮木乃々毛止安良乃己者幾川由遠々毛美風遠末川己止幾美遠己曽万天
読下 宮木のゝもとあらのこはきつゆをゝもみ風をまつこときみをこそまて
通釈 宮城野の本荒の小萩露を重み風を待つごと君をこそ待て

歌番号六九五
和歌 安奈己比之今毛見天之可山可川乃加幾本尓左个留山止奈天之己
読下 あなこひし今も見てしか山かつのかきほにさける山となてしこ
通釈 あな恋し今も見てしか山がつの垣ほに咲ける大和撫子

歌番号六九六
和歌 徒乃久尓乃奈尓八於毛者寸山之呂乃止者尓安比見武己止遠乃美己曽
読下 つのくにのなにはおもはす山しろのとはにあひ見むことをのみこそ
通釈 津国の名には思はず山城のとはにあひ見む事をのみこそ

歌番号六九七
徒良由幾
つらゆき

和歌 志幾之満也々万止尓八安良奴唐衣己呂毛部寸之天安不与之毛哉
読下 しきしまやゝまとにはあらぬ唐衣ころもへすしてあふよしも哉
通釈 敷島の大和にはあらぬ唐衣ころも経ずして逢ふよしもがな

歌番号六九八
布可也不
ふかやふ

和歌 己飛之止者堂可奈川个々武己止奈良武志奴止曽多々尓以不部加利个留
読下 こひしとはたかなつけゝむことならむしぬとそたゝにいふへかりける
通釈 恋しとは誰が名づけけむ事ならむ死ぬとぞただに言ふべかりける

歌番号六九九
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 三吉野々於保可八乃部乃藤波乃奈美尓於毛者々和可己飛女也八
読下 三吉野ゝおほかはのへの藤波のなみにおもはゝわかこひめやは
通釈 み吉野の大河のへの藤波の並に思はば我が恋ひめやは

歌番号七〇〇
和歌 加久己比武物止者我毛思尓幾心乃宇良曽万佐之可利个累
読下 かくこひむ物とは我も思にき心のうらそまさしかりける
通釈 かく恋ひむものとは我も思ひにき心のうらぞまさしかりける

歌番号七〇一
和歌 安満乃波良布美止々呂可之奈留神毛思不奈可遠者左久留毛乃可波
読下 あまのはらふみとゝろかしなる神も思ふなかをはさくるものかは
通釈 天の原踏みとどろかし鳴る神も思ふ仲をば裂くるものかは

歌番号七〇二
和歌 梓弓飛幾乃々徒々良寸恵川為尓和可思不人尓事乃志計々武
読下 梓弓ひきのゝつゝらすゑつゐにわか思ふ人に事のしけゝむ
通釈 梓弓ひき野のつづら末つひに我が思ふ人に事のしげけむ

歌番号七〇三
己乃哥八安留人安女乃美可止乃安不三乃宇祢女尓多万日个留止奈武申寸
この哥はある人あめのみかとのあふみのうねめにたまひけるとなむ申す

和歌 夏飛幾乃天比幾乃以止遠久利可部之事志計久止毛多衣武止思不奈
読下 夏ひきのてひきのいとをくりかへし事しけくともたえむと思ふな
通釈 夏引きの手引きの糸を繰り返し事しげくとも絶えむと思ふな

歌番号七〇四
己乃哥八返之尓与美天多天万川利个留止奈武
この哥は返しによみてたてまつりけるとなむ

和歌 佐止人乃事者夏乃々志計久止毛加礼行幾三尓安八佐良女也八
読下 さと人の事は夏のゝしけくともかれ行きみにあはさらめやは
通釈 里人の事は夏野の繁くともかれゆく君に逢はざらめやは

歌番号七〇五
藤原敏行朝臣乃奈利比良乃朝臣乃家奈利个留女遠安比之里天布美川可八世利个留
藤原敏行朝臣のなりひらの朝臣の家なりける女をあひしりてふみつかはせりける

己止者尓以末々宇天久安女乃布利个留遠奈武見和川良比侍止以部利个留遠幾々天
ことはにいまゝうてくあめのふりけるをなむ見わつらひ侍といへりけるをきゝて

加乃女尓加者利天与女利个留    在原業平朝臣
かの女にかはりてよめりける    在原業平朝臣

和歌 加寸/\尓於毛比於毛者寸止比可多美身遠之留雨者布利曽万左礼留
読下 かす/\におもひおもはすとひかたみ身をしる雨はふりそまされる
通釈 数々に思ひ思はず問ひがたみ身を知る雨は降りぞまされる

歌番号七〇六
安留女乃奈利比良乃朝臣遠止己呂左多女寸阿利幾寸止於毛日天
ある女のなりひらの朝臣をところさためすありきすとおもひて

与美天川可八之个留    与美人之良寸
よみてつかはしける    よみ人しらす

和歌 於保奴左乃飛久天安万多尓奈利奴礼者於毛部止衣己曽堂乃万左利个礼
読下 おほぬさのひくてあまたになりぬれはおもへとえこそたのまさりけれ
通釈 大幣の引くてあまたになりぬれば思へどえこそ頼まざりけれ

歌番号七〇七
返之    奈利比良乃朝臣
返し    なりひらの朝臣

和歌 於本奴左止名尓己曽多天礼奈可礼天毛川為尓与留世八安利天不毛乃遠
読下 おほぬさと名にこそたてれなかれてもつゐによるせはありてふものを
通釈 大幣と名にこそ立てれ流れてもつひに寄る瀬はありてふものを

歌番号七〇八
題之良寸    与三人之良寸
題しらす    よみ人しらす

和歌 寸満乃安万乃志本也久煙風遠以多美於毛八奴方尓多奈日幾尓个利
読下 すまのあまのしほやく煙風をいたみおもはぬ方にたなひきにけり
通釈 須磨の海人の塩焼く煙風をいたみ思はぬ方にたなびきにけり

歌番号七〇九
和歌 堂万可川良者不木安万多尓奈利奴礼者多衣奴心乃宇礼之計毛奈之
読下 たまかつらはふ木あまたになりぬれはたえぬ心のうれしけもなし
通釈 玉かづらはふ木あまたになりぬれば絶えぬ心のうれしげもなし

歌番号七一〇
和歌 堂可佐止尓夜可礼遠志天可郭公多々己々尓之毛祢多留己恵寸留
読下 たかさとに夜かれをしてか郭公たゝこゝにしもねたるこゑする
通釈 誰が里に夜離れをしてか郭公ただここにしも寝たる声する

歌番号七一一
和歌 以天人者事乃美曽与幾月草乃宇川之心者以呂己止尓之天
読下 いて人は事のみそよき月草のうつし心はいろことにして
通釈 いで人は事のみぞよき月草のうつし心は色ことにして

歌番号七一二
和歌 伊川者利乃奈幾世奈利世者以可許人乃己止乃八宇礼之可良末之
読下 いつはりのなき世なりせはいか許人のことのはうれしからまし
通釈 いつはりのなき世なりせばいかばかり人の言の葉うれしからまし

歌番号七一三
和歌 以川者利止思物可良今佐良尓堂可末己止遠可我者多乃万武
読下 いつはりと思物から今さらにたかまことをか我はたのまむ
通釈 いつはりと思ふものから今さらに誰がまことをか我は頼まむ

歌番号七一四
素性法師
素性法師

和歌 秋風尓山乃己乃者乃宇川呂部者人乃心毛以可々止曽思
読下 秋風に山のこのはのうつろへは人の心もいかゝとそ思
通釈 秋風に山の木の葉の移ろへば人の心もいかがとぞ思ふ

歌番号七一五
寛平御時幾左以乃宮乃哥合乃宇多    止毛乃利
寛平御時きさいの宮の哥合のうた    とものり

和歌 蝉乃己恵幾計者加奈之奈夏衣宇寸久也人乃奈良武止思部八
読下 蝉のこゑきけはかなしな夏衣うすくや人のならむと思へは
通釈 蝉の声聞けば悲しな夏衣薄くや人のならむと思へば

歌番号七一六
題之良寸    与三人之良寸
題しらす    よみ人しらす

和歌 空蝉乃世乃人己止乃志个々礼者王寸礼奴毛乃々加礼奴部良也
読下 空蝉の世の人ことのしけゝれはわすれぬものゝかれぬへら也
通釈 空蝉の世の人言のしげければ忘れぬものの離れぬべらなり

歌番号七一七
和歌 安可天己曽於毛者武奈可八々奈礼奈女曽遠多尓乃止乃和寸礼加多三尓
読下 あかてこそおもはむなかはゝなれなめそをたにのちのわすれかたみに
通釈 あかでこそ思はむ仲は離れなめそをだに後の忘れがたみに

歌番号七一八
和歌 忘奈武止思心乃徒久可良尓有之与利計尓万川曽己日之幾
読下 忘なむと思心のつくからに有しよりけにまつそこひしき
通釈 忘れなむと思ふ心のつくからにありしよりけにまづぞ恋しき

歌番号七一九
和歌 和寸礼南我遠宇良武奈郭公人乃秋尓八安者武止毛世寸
読下 わすれ南我をうらむな郭公人の秋にはあはむともせす
通釈 忘れなん我を恨むな郭公人の秋には逢はむともせず

歌番号七二〇
和歌 堂衣寸由久安寸可乃河乃与止美奈者心安留止也人乃於毛者武
読下 たえすゆくあすかの河のよとみなは心あるとや人のおもはむ
通釈 絶えず行く飛鳥の河のよどみなば心あるとや人の思はむ

己乃哥安留人乃以者久奈可止三乃安川万人可宇多也
この哥ある人のいはくなかとみのあつま人かうた也

歌番号七二一
和歌 与止河乃与止武止人者見留良女止流天布可幾心安留毛乃遠
読下 よと河のよとむと人は見るらめと流てふかき心あるものを
通釈 淀河のよどむと人は見るらめど流れて深き心あるものを

歌番号七二二
曽世以法之
そせい法し

和歌 曽己飛奈幾布知也者左者久山河乃安左幾世尓己曽安多奈美者多天
読下 そこひなきふちやはさはく山河のあさきせにこそあたなみはたて
通釈 底ひなき淵やは騒ぐ山河の浅き瀬にこそあだ浪は立て

歌番号七二三
与美人之良寸
よみ人しらす

和歌 紅乃者川花曽女乃色布可久思之心我和寸礼女也
読下 紅のはつ花そめの色ふかく思し心我わすれめや
通釈 紅の初花染めの色深く思ひし心我忘れめや

歌番号七二四
河原左大臣
河原左大臣

和歌 美知乃久乃志乃不毛知寸利堂礼由部尓美多礼武止思我奈良奈久尓
読下 みちのくのしのふもちすりたれゆへにみたれむと思我ならなくに
通釈 陸奥のしのぶもぢずり誰れゆゑに乱れむと思ふ我ならなくに

歌番号七二五
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 於毛不与利以可尓世与止可秋風尓奈比久安左知乃色己止尓奈留
読下 おもふよりいかにせよとか秋風になひくあさちの色ことになる
通釈 思ふよりいかにせよとか秋風になびく浅茅の色ことになる

歌番号七二六
和歌 千々乃色尓宇川呂不良女止志良奈久尓心之秋乃毛三知奈良祢八
読下 千ゝの色にうつろふらめとしらなくに心し秋のもみちならねは
通釈 千々の色に移ろふらめど知らなくに心し秋のもみぢならねば

歌番号七二七
小野小町
小野小町

和歌 安満乃寸武佐止乃志留部尓安良奈久尓怨武止乃美人乃以不覧
読下 あまのすむさとのしるへにあらなくに怨むとのみ人のいふ覧
通釈 海人の住む里のしるべにあらなくに浦見むとのみ人の言ふらむ

歌番号七二八
志毛川計乃遠武祢
しもつけのをむね

和歌 久毛利日乃影止之奈礼留我奈礼者女尓己曽見衣祢身遠者者奈礼寸
読下 くもり日の影としなれる我なれはめにこそ見えね身をははなれす
通釈 曇り日の影としなれる我なれば目にこそ見えね身をば離れず

歌番号七二九
川良由幾
つらゆき

和歌 色毛奈幾心遠人尓曽女之与利宇川呂者武止八於毛本衣奈久尓」ウ
読下 色もなき心を人にそめしよりうつろはむとはおもほえなくに
通釈 色もなき心を人に染めしより移ろはむとは思ほえなくに

歌番号七三〇
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 女川良之幾人遠見武止也志可毛世奴和可志多比毛乃止計和多留良武
読下 めつらしき人を見むとやしかもせぬわかしたひものとけわたるらむ
通釈 めづらしき人を見むとやしかもせぬ我が下紐の解けわたるらむ

歌番号七三一
和歌 加遣呂不乃曽礼可安良奴可春雨乃布留日止奈礼者曽天曽奴礼奴留
読下 かけろふのそれかあらぬか春雨のふる日となれはそてそぬれぬる
通釈 かげろふのそれかあらぬか春雨の降る日となれば袖ぞ濡れぬる

歌番号七三二
和歌 保利江己久堂奈々之遠舟己幾可部利於奈之人尓也己比和多利奈武
読下 ほり江こくたなゝしを舟こきかへりおなし人にやこひわたりなむ
通釈 堀江漕ぐ棚無し小舟漕ぎ返り同じ人にや恋ひわたりなむ

歌番号七三三
徒良由幾
つらゆき

和歌 以尓之部尓猶立帰心哉己比之幾己止尓物和寸礼世天
読下 いにしへに猶立帰心哉こひしきことに物わすれせて
通釈 いにしへになほ立ち帰る心かな恋しきことに物忘れせで

歌番号七三四
伊勢
伊勢

和歌 和多川美止安礼尓之止己遠今便尓波良八々曽天也安和止宇幾奈武
読下 わたつみとあれにしとこを今便にはらはゝそてやあわとうきなむ
通釈 わたつみとあれにし床を今さらに払はば袖や泡と浮きなむ

歌番号七三五
人遠志乃比尓安比之里天安比可多久安利个礼八曽乃家乃安多利遠万可利安利幾个留於利尓
人をしのひにあひしりてあひかたくありけれはその家のあたりをまかりありきけるおりに

加利乃奈久遠幾々天与美天徒可八之个留    大伴久呂奴之
かりのなくをきゝてよみてつかはしける    大伴くろぬし

和歌 思以天々己飛之幾時者々川可利乃奈幾天和多留止人之留良女也
読下 思いてゝこひしき時はゝつかりのなきてわたると人しるらめや
通釈 思ひ出でて恋しき時は初雁の鳴きて渡ると人知るらめや

歌番号七三六
右乃於保以末宇知幾美寸万寸奈利尓个礼者加乃武可之遠己世多利个留布三止毛遠
右のおほいまうちきみすますなりにけれはかのむかしをこせたりけるふみともを

止利安徒女天返寸止天与美天遠久利个留    典侍藤原与留可乃朝臣
とりあつめて返すとてよみてをくりける    典侍藤原よるかの朝臣

和歌 堂乃免己之事乃者今者加部之天武和可身布留礼者遠幾止己呂奈之
読下 たのめこし事のは今はかへしてむわか身ふるれはをきところなし
通釈 頼めこし言の葉は今は返してむ我が身古るれば置き所なし

歌番号七三七
返之    近院乃右乃於保以末宇知幾三
返し    近院の右のおほいまうちきみ

和歌 今者止天加部寸事乃者飛呂日遠幾天遠乃可物可良加多美止也見武
読下 今はとてかへす事のはひろひをきてをのか物からかたみとや見む
通釈 今はとて返す言の葉拾ひ置きて己が物から形見とや見む

歌番号七三八
題之良寸    与留可乃朝臣
題しらす    よるかの朝臣

和歌 堂万本己乃道者川祢尓毛万止者南人遠止不止毛我可止於毛者武
読下 たまほこの道はつねにもまとは南人をとふとも我かとおもはむ
通釈 玉桙の道は常にもまどはなん人を問ふとも我かと思はむ

歌番号七三九
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 満天止以者々祢天毛由可南志日天行己万乃安之於礼末部乃多奈八之
読下 まてといはゝねてもゆか南しひて行こまのあしおれまへのたなはし
通釈 待てと言はば寝ても行かなんしひて行く駒の足折れ前の棚橋

歌番号七四〇
中納言源乃々保留乃朝臣乃安不三乃寸計尓侍个留時与美天也礼利个留   閑院
中納言源のゝほるの朝臣のあふみのすけに侍ける時よみてやれりける   閑院

和歌 相坂乃由不川个鳥尓安良八己曽君可由幾々遠奈久/\毛見女
読下 相坂のゆふつけ鳥にあらはこそ君かゆきゝをなく/\も見め
通釈 逢坂の木綿つけ鳥にあらばこそ君が行き来を鳴く鳴くも見め

歌番号七四一
題之良寸    伊勢
題しらす    伊勢

和歌 布留左止尓安良奴物可良和可多女尓人乃心乃安礼天見由良武
読下 ふるさとにあらぬ物からわかために人の心のあれて見ゆらむ
通釈 古里にあらぬものから我がために人の心の荒れて見ゆらむ

歌番号七四二



和歌 山可徒乃加幾本尓者部留安越川々良人者久礼止毛己止川天毛奈之
読下 山かつのかきほにはへるあをつゝら人はくれともことつてもなし
通釈 山がつの垣ほにはへる青つづら人は来れども言づてもなし

歌番号七四三
佐可為乃比止左祢
さかゐのひとさね

和歌 於保曽良波己比之幾人乃加多美可八物思己止尓奈可女良留良武
読下 おほそらはこひしき人のかたみかは物思ことになかめらるらむ
通釈 大空は恋しき人の形見かは物思ふごとにながめらるらむ

歌番号七四四
読人之良寸
読人しらす

和歌 安不万天乃加多美毛我者奈尓世武尓見天毛心乃奈久佐万奈久二
読下 あふまてのかたみも我はなにせむに見ても心のなくさまなくに
通釈 逢ふまでの形見も我は何せむに見ても心の慰まなくに

歌番号七四五
於也乃末毛利个留人乃武寸女尓以止之乃日尓安比天毛乃良以比个留安比多尓
おやのまもりける人のむすめにいとしのひにあひてものらいひけるあひたに

於也乃与布止以比个礼八伊曽幾可部留止天毛遠奈武奴幾遠幾天以利尓个留
おやのよふといひけれはいそきかへるとてもをなむぬきをきていりにける

曽乃々知毛遠可部寸止天与女留    於幾可世
そのゝちもをかへすとてよめる    おきかせ

和歌 安不末天乃加多美止天己曽止々女个女涙尓浮毛久川奈利个利
読下 あふまてのかたみとてこそとゝめけめ涙に浮もくつなりけり
通釈 逢ふまでの形見とてこそ留めけめ涙に浮かぶ藻屑なりけり

歌番号七四六
題之良寸    与三人之良須
題しらす    よみ人しらす

和歌 加多美己曽今者安多奈礼己礼奈久者和寸留々時毛安良末之毛乃遠
読下 かたみこそ今はあたなれこれなくはわするゝ時もあらましものを
通釈 形見こそ今はあだなれこれなくは忘るる時もあらましものを



古今和歌集巻第十五
恋哥五

歌番号七四七
五条乃幾左以乃宮乃仁之乃太以尓寸美个留人仁本以尓者安良天毛乃以比和多利个留遠
五条のきさいの宮のにしのたいにすみける人にほいにはあらてものいひわたりけるを

武月乃止遠可安万利尓奈武保可部加久礼尓个留安利所八幾々个礼止衣物毛以者天
む月のとをかあまりになむほかへかくれにけるあり所はきゝけれとえ物もいはて

又乃止之乃者留武女乃花左可利尓月乃於毛之呂可利个留夜己曽遠己飛天
又のとしのはるむめの花さかりに月のおもしろかりける夜こそをこひて

加乃尓之乃多以尓以幾天月乃可多不久末天安者良奈留以多之幾尓布世利天与女留
かのにしのたいにいきて月のかたふくまてあはらなるいたしきにふせりてよめる

在原業平朝臣
在原業平朝臣

和歌 月也安良奴春也昔乃春奈良奴和可身飛止川者毛止乃身尓之天
読下 月やあらぬ春や昔の春ならぬわか身ひとつはもとの身にして
通釈 月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身一つは本の身にして

歌番号七四八
題之良寸    藤原奈可比良乃朝臣
題しらす    藤原なかひらの朝臣

和歌 花寸々幾我己曽志多尓思之可保尓以天々人尓武寸八礼尓个利
読下 花すゝき我こそしたに思しかほにいてゝ人にむすはれにけり
通釈 花薄我こそ下に思ひしか穂に出でて人に結ばれにけり

歌番号七四九
藤原加祢寸計乃朝臣
藤原かねすけの朝臣

和歌 与曽尓能美幾可万之物遠々止者河渡止奈之尓見奈礼曽女个武
読下 よそにのみきかまし物をゝとは河渡となしに見なれそめけむ
通釈 よそにのみ聞かましものを音羽河渡るとなしに身なれそめけむ

歌番号七五〇
凡河内美川子
凡河内みつね

和歌 和可己止久我遠於毛者武人毛哉佐天毛也宇幾止世遠心見無
読下 わかことく我をおもはむ人も哉さてもやうきと世を心見む
通釈 我がごとく我を思はむ人もがなさてもや憂きと世を心見む

歌番号七五一
毛止可多
もとかた

和歌 久方乃安末川曽良尓毛寸万奈久尓人者与曽尓曽思部良奈留
読下 久方のあまつそらにもすまなくに人はよそにそ思へらなる
通釈 久方の天つ空にも住まなくに人はよそにぞ思ふべらなる

歌番号七五二
与美比止之良寸
よみひとしらす

和歌 見天毛又万多毛見末久乃保之个礼者奈留々遠人者以止不部良也
読下 見ても又またも見まくのほしけれはなるゝを人はいとふへら也
通釈 見ても又またも見まくの欲しければなるるを人は厭ふべらなり

歌番号七五三
幾乃止毛乃利
きのとものり

和歌 雲毛奈久奈幾多留安左乃我奈礼也以止者礼天乃美世遠者部奴良武
読下 雲もなくなきたるあさの我なれやいとはれてのみ世をはへぬらむ
通釈 雲もなく凪ぎたる朝の我なれや厭はれてのみ世をば経ぬらむ

歌番号七五四
与美人之良寸
よみ人しらす

和歌 花可多美女奈良不人乃安万多安礼者和寸良礼奴覧加寸奈良奴身八
読下 花かたみめならふ人のあまたあれはわすられぬ覧かすならぬ身は
通釈 花がたみめならぶ人のあまたあれば忘られぬらん数ならぬ身は

歌番号七五五
和歌 宇幾女能美於比天流留浦奈礼者加利尓乃美己曽安万者与留良女
読下 うきめのみおひて流る浦なれはかりにのみこそあまはよるらめ
通釈 浮きめのみ生ひて流るる浦なれば刈りにのみこそ海人は寄るらめ

歌番号七五六
伊勢
伊勢

和歌 安比尓安日天物思己呂乃和可袖尓也止留月左部奴留々可本奈留
読下 あひにあひて物思ころのわか袖にやとる月さへぬるゝかほなる
通釈 逢ひに逢ひて物思ふころの我が袖に宿る月さへ濡るる顔なる

歌番号七五七
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 秋奈良天遠久白露者祢左女寸留和可多枕乃之川久奈利个利
読下 秋ならてをく白露はねさめするわかた枕のしつくなりけり
通釈 秋ならで置く白露は寝覚めする我が手枕の滴なりけり

歌番号七五八
和歌 寸万乃安万乃志本也幾衣於左遠安良美末止遠尓安礼也君可幾万左奴
読下 すまのあまのしほやき衣おさをあらみまとをにあれや君かきまさぬ
通釈 須磨の海人の塩焼き衣をさを粗み間遠にあれや君が来まさぬ

歌番号七五九
和歌 山之呂乃与止乃和可己毛加利尓多尓己奴人多乃武我曽者可奈幾
読下 山しろのよとのわかこもかりにたにこぬ人たのむ我そはかなき
通釈 山城の淀の若菰刈りにだに来ぬ人頼む我ぞはかなき

歌番号七六〇
和歌 安飛見祢者己比己曽万左礼美奈世河奈尓々布可女天思曽女个武
読下 あひ見ねはこひこそまされみなせ河なにゝふかめて思そめけむ
通釈 あひ見ねば恋こそまされ水無瀬川何に深めて思ひそめけむ

歌番号七六一
和歌 暁乃志幾乃者祢可幾毛々者可幾君可己奴夜者我曽可寸可久
読下 暁のしきのはねかきもゝはかき君かこぬ夜は我そかすかく
通釈 暁の鴫の羽がき百羽がき君が来ぬ夜は我ぞかずかく

歌番号七六二
和歌 玉加川良今者堂由止也吹風乃遠止尓毛人乃幾己衣左留覧
読下 玉かつら今はたゆとや吹風のをとにも人のきこ江さる覧
通釈 玉かづら今は絶ゆとや吹く風の音にも人の聞こえざるらん

歌番号七六三
和歌 和可袖尓末多幾時雨乃布利奴留者君可心尓秋也幾奴良武
読下 わか袖にまたき時雨のふりぬるは君か心に秋やきぬらむ
通釈 我が袖にまだき時雨の降りぬるは君が心に秋や来ぬらむ

歌番号七六四
和歌 山乃井乃浅幾心毛於毛者奴尓影許乃美人乃見由良無
読下 山の井の浅き心もおもはぬに影許のみ人の見ゆらむ
通釈 山の井の浅き心も思はぬを影ばかりのみ人の見ゆらむ

歌番号七六五
和歌 忘草堂祢止良万之遠逢事能以止可久可多幾物止之利世八
読下 忘草たねとらましを逢事のいとかくかたき物としりせは
通釈 忘草種採らましを逢ふことのいとかくかたき物と知りせば

歌番号七六六
和歌 己布礼鞆逢夜乃奈幾者忘草夢地尓左部也於日志个留覧
読下 こふれ鞆逢夜のなきは忘草夢ちにさへやおひしける覧
通釈 恋ふれども逢ふ夜のなきは忘草夢路にさへや生ひ茂るらむ

歌番号七六七
和歌 夢尓多仁安不事可多久奈利由久者我也以遠祢奴人也和寸留々
読下 夢にたにあふ事かたくなりゆくは我やいをねぬ人やわするゝ
通釈 夢にだに逢ふことかたくなりゆくは我や寝を寝ぬ人や忘るる

歌番号七六八
遣武計以法之
けむけい法し

和歌 毛呂己之毛夢尓見之可八知可々利幾於毛者奴中曽者留个可利遣留
読下 もろこしも夢に見しかはちかゝりきおもはぬ中そはるけかりける
通釈 唐土も夢に見しかば近かりき思はぬ仲ぞはるけかりける

歌番号七六九
佐多乃々保留
さたのゝほる

和歌 獨能美奈可免布留也乃川万奈礼者人遠忍乃草曽於日个留
読下 独のみなかめふるやのつまなれは人を忍の草そおひける
通釈 一人のみながめ古屋のつまなれば人を忍の草ぞ生ひける

歌番号七七〇
僧正部无世宇
僧正へんせう

和歌 和可也止者道毛奈幾万天安礼尓个利川礼奈幾人遠松止世之万尓
読下 わかやとは道もなきまてあれにけりつれなき人を松とせしまに
通釈 我が宿は道もなきまで荒れにけりつれなき人を待つとせしまに

歌番号七七一
和歌 今己武止以飛天和可礼之朝与利思日久良之乃祢遠乃美曽奈久
読下 今こむといひてわかれし朝より思ひくらしのねをのみそなく
通釈 今来むと言ひて別れし朝より思ひ暮らしの音をのみぞ泣く

歌番号七七二
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 己免也止者思物可良飛久良之乃奈久由不久礼八多知万多礼川々
読下 こめやとは思物からひくらしのなくゆふくれはたちまたれつゝ
通釈 来めやとは思ふものからひぐらしの鳴く夕暮れは立ち待たれつつ

歌番号七七三
和歌 今之波止和比尓之物遠佐々可尓乃衣尓可々利我遠多乃武留
読下 今しはとわひにし物をさゝかにの衣にかゝり我をたのむる
通釈 今しはと侘びにしものをささがにの衣にかかり我を頼むる

歌番号七七四
和歌 以末者己之止思物可良忘川々末多留々事乃万多毛也万奴可
読下 いまはこしと思物から忘つゝまたるゝ事のまたもやまぬか
通釈 今は来じと思ふものから忘れつつ待たるる事のまだもやまぬか

歌番号七七五
和歌 月与尓者己奴人末多留加幾久毛利雨毛不良奈武和日川々毛祢武
読下 月よにはこぬ人またるかきくもり雨もふらなむわひつゝもねむ
通釈 月夜には来ぬ人待たるかき曇り雨も降らなん侘びつつも寝む

歌番号七七六
和歌 宇部天以尓之秋田可留万天見衣己祢者計左者川可利乃祢尓曽奈幾奴留
読下 うへていにし秋田かるまて見えこねはけさはつかりのねにそなきぬる
通釈 植ゑて往にし秋田刈るまで見え来ねば今朝初雁の音にぞ鳴きぬる

歌番号七七七
和歌 己奴人遠松由不久礼乃秋風者以可尓布遣者可和日之可留覧
読下 こぬ人を松ゆふくれの秋風はいかにふけはかわひしかる覧
通釈 来ぬ人を待つ夕暮れの秋風はいかに吹けばか侘びしかるらむ

歌番号七七八
和歌 飛左之久毛奈利尓个留哉寸美乃衣乃松者久留之幾物尓曽安利个留
読下 ひさしくもなりにける哉すみのえの松はくるしき物にそありける
通釈 久しくもなりにけるかな住の江の松は苦しき物にぞありける

歌番号七七九
加祢三乃於保幾三
かねみのおほきみ

和歌 住乃江乃松本止比左二奈利奴礼者安之多川乃祢二奈可奴日八奈之
読下 住の江の松ほとひさになりぬれはあしたつのねになかぬ日はなし
通釈 住の江の松ほど久になりぬれば葦田鶴の音に鳴かぬ日はなし

歌番号七八〇
仲平朝臣安飛之里天侍个留遠加礼方尓奈利尓个礼者知々可也万止乃可美尓
仲平朝臣あひしりて侍けるをかれ方になりにけれはちゝかやまとのかみに

侍个留毛止部万可留止天与美天徒可八之个留    伊勢
侍けるもとへまかるとてよみてつかはしける    伊勢

和歌 三和乃山以可尓万知見武年布止毛堂川奴留人毛安良之止思部八
読下 みわの山いかにまち見む年ふともたつぬる人もあらしと思へは
通釈 三輪の山いかに待ち見む年経とも尋ぬる人もあらじと思へば

歌番号七八一
題之良寸    雲林院乃美己
題しらす    雲林院のみこ

和歌 吹万与不野風遠左武美秋者幾乃宇川利毛行可人乃心乃
読下 吹まよふ野風をさむみ秋はきのうつりも行か人の心の
通釈 吹きまよふ野風を寒み秋萩の移りも行くか人の心の

歌番号七八二
遠乃々己万知
をのゝこまち

和歌 今者止天和可身時雨尓布利奴礼者事乃波左部尓宇川呂日尓个利
読下 今はとてわか身時雨にふりぬれは事のはさへにうつろひにけり
通釈 今はとて我が身時雨に古りぬれば言の葉さへに移ろひにけり

歌番号七八三
返之    小野左多幾
返し    小野さたき

和歌 人遠思心乃己乃波尓安良八己曽風乃末尓/\知利毛美多礼女
読下 人を思心のこのはにあらはこそ風のまに/\ちりもみたれめ
通釈 人を思ふ心の木の葉にあらばこそ風のまにまに散りも乱れめ

歌番号七八四
業平朝臣幾乃安利川祢可武寸女尓寸美个留遠宇良武留己止安利天志八之乃安日多
業平朝臣きのありつねかむすめにすみけるをうらむることありてしはしのあひた

飛留八幾天由不左利者加部利乃美之个礼八与美天川可八之个留
ひるはきてゆふさりはかへりのみしけれはよみてつかはしける

和歌 安満雲乃与曽尓毛人乃奈利由久可佐寸可尓女尓八見由留物可良
読下 あま雲のよそにも人のなりゆくかさすかにめには見ゆる物から
通釈 天雲のよそにも人のなり行くかさすがに目には見ゆるものから

歌番号七八五
返之    奈利比良乃朝臣
返し    なりひらの朝臣

和歌 由幾可部利曽良尓乃美之天布留事者和可為留山乃風者也三奈利
読下 ゆきかへりそらにのみしてふる事はわかゐる山の風はやみなり
通釈 行き帰り空にのみして経ることは我が居る山の風早みなり

歌番号七八六
題之良寸    加計乃利乃於保幾三
題しらす    かけのりのおほきみ

和歌 唐衣奈礼者身尓己曽万川八礼女加計天乃美也八己比武止思之
読下 唐衣なれは身にこそまつはれめかけてのみやはこひむと思し
通釈 唐衣なれば身にこそまつはれめかけてのみやは恋ひむと思ひし

歌番号七八七
止毛乃利
とものり

和歌 秋風者身遠和遣天之毛布可奈久尓人乃心乃曽良尓奈留良武
読下 秋風は身をわけてしもふかなくに人の心のそらになるらむ
通釈 秋風は身を分けてしも吹かなくに人の心の空になるらむ

歌番号七八八
源宗于朝臣
源宗于朝臣

和歌 徒礼毛祢久奈利由久人乃事乃者曽秋与利左幾乃毛三知奈利个留
読下 つれもなくなりゆく人の事のはそ秋よりさきのもみちなりける
通釈 つれもなくなりゆく人の言の葉ぞ秋より先の紅葉なりける

歌番号七八九
心地曽己奈部利个留己呂安比之利天侍个留人乃止八天己々知遠己多利天乃知
心地そこなへりけるころあひしりて侍ける人のとはてこゝちをこたりてのち

止不良部利个礼八与美天徒可者之个留    兵衛
とふらへりけれはよみてつかはしける    兵衛

和歌 志天乃山布毛止遠見天曽加部利尓之徒良幾人与利万川己衣之止天
読下 しての山ふもとを見てそかへりにしつらき人よりまつこえしとて
通釈 死出の山麓を見てぞ帰りにしつらき人よりまづ越えじとて

歌番号七九〇
安比之礼利个留人乃也宇也久加礼可多尓奈利个留安飛多尓
あひしれりける人のやうやくかれかたになりけるあひたに

也計多留知乃者尓布美遠左之天川可八世利个留    己万知可安祢
やけたるちのはにふみをさしてつかはせりける    こまちかあね

和歌 時寸幾天可礼由久遠乃々安左地尓八今者思日曽多衣寸毛衣个留
読下 時すきてかれゆくをのゝあさちには今は思ひそたえすもえける
通釈 時過ぎて離れゆく小野の浅茅には今は思ひぞ絶えず燃えける

歌番号七九一
物於毛日个累己呂毛乃部万可利个留美知尓野火乃毛衣个留遠見天与女留  伊勢
物おもひけるころものへまかりけるみちに野火のもえけるを見てよめる  伊勢

和歌 冬可礼乃々部止和可身遠思日世八毛衣天毛春遠万多万之物遠
読下 冬かれのゝへとわか身を思ひせはもえても春をまたまし物を
通釈 冬枯れの野辺と我が身を思ひせば燃えても春を待たましものを

歌番号七九二
題之良寸    止毛乃利
題しらす    とものり

和歌 水乃安和乃幾衣天宇幾身遠以比奈可良流天猶毛多乃万留々哉
読下 水のあわのきえてうき身といひなから流て猶もたのまるゝ哉
通釈 水の泡の消えで憂き身と言ひながら流れてなほも頼まるるかな

歌番号七九三
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 美奈世河有天行水奈久者己曽川為尓和可身遠多衣奴止思八女
読下 みなせ河有て行水なくはこそつゐにわか身をたえぬと思はめ
通釈 水無瀬川ありて行く水なくはこそつひに我が身を絶えぬと思はめ

歌番号七九四
美川祢
みつね

和歌 吉野河与之也人己曽徒良可良女者也久以比天之事八和寸礼之
読下 吉野河よしや人こそつらからめはやくいひてし事はわすれし
通釈 吉野川よしや人こそつらからめ早く言ひてし事は忘れじ

歌番号七九五
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 世中乃人乃心者花曽女乃宇川呂日也寸幾色尓曽安利个留
読下 世中の人の心は花そめのうつろひやすき色にそありける
通釈 世の中の人の心は花染めの移ろひやすき色にぞありける

歌番号七九六
和歌 心己曽宇多天尓久个礼曽女左良八宇川呂不事毛於之可良万之也
読下 心こそうたてにくけれそめさらはうつろふ事もおしからましや
通釈 心こそうたて憎けれ染めざらば移ろふ事も惜しからましや

歌番号七九七
小野小町
小野小町

和歌 色見衣天宇川呂不物八世中乃人乃心乃花尓曽有个留
読下 色見えてうつろふ物は世中の人の心の花にそ有ける
通釈 色見えで移ろふ物は世の中の人の心の花にぞありける

歌番号七九八
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 我能美也世遠宇久日寸止奈幾和日武人乃心乃花止知利奈八
読下 我のみや世をうくひすとなきわひむ人の心の花とちりなは
通釈 我のみや世を鴬と鳴き侘びむ人の心の花と散りなば

歌番号七九九
曽世以法之
そせい法し

和歌 思不止毛加礼南人遠以可々世武安可寸知利奴留花止己曽見女
読下 思ふともかれ南人をいかゝせむあかすちりぬる花とこそ見め
通釈 思ふとも離れなむ人をいかがせむあかず散りぬる花とこそ見め

歌番号八〇〇
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 今者止天君可々礼奈八和可也止乃花遠者飛止利見天也之乃者武
読下 今はとて君かゝれなはわかやとの花をはひとり見てやしのはむ
通釈 今はとて君が離れなば我が宿の花をば一人見てや忍ばむ

歌番号八〇一
武祢由幾乃朝臣
むねゆきの朝臣

和歌 忘草加礼毛也寸留止川礼毛奈幾人乃心尓之毛八遠可奈無
読下 忘草かれもやするとつれもなき人の心にしもはをかなむ
通釈 忘草枯れもやするとつれもなき人の心に霜は置かなむ

歌番号八〇二
寛平御時御屏風尓哥可々世給个留時与美天加幾个留    曽世以法之
寛平御時御屏風に哥かゝせ給ける時よみてかきける    そせい法し

和歌 忘草奈尓遠可多祢止思之八川礼奈幾人乃心奈利个利
読下 忘草なにをかたねと思しはつれなき人の心なりけり
通釈 忘草何をか種と思ひしはつれなき人の心なりけり

歌番号八〇三
題之良寸
題しらす

和歌 秋乃田乃以祢天不事毛加計奈久尓何遠宇之止可人乃可留良武
読下 秋の田のいねてふ事もかけなくに何をうしとか人のかるらむ
通釈 秋の田の稲てふこともかけなくに何を憂しとか人の刈るらむ

歌番号八〇四
幾乃川良由幾
きのつらゆき

和歌 者川可利乃奈幾己曽和多礼世中乃人乃心乃秋之宇个礼八
読下 はつかりのなきこそわたれ世中の人の心の秋しうけれは
通釈 初雁の鳴きこそ渡れ世の中の人の心の秋し憂ければ

歌番号八〇五
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 安者礼止毛宇之止毛物遠思時奈止可涙乃以止奈可留良武
読下 あはれともうしとも物を思時なとか涙のいとなかるらむ
通釈 あはれとも憂しとも物を思ふ時などか涙のいと流るらん

歌番号八〇六
和歌 身遠宇之止思不尓幾衣奴物奈礼者加久天毛部奴留与尓己曽有个礼
読下 身をうしと思ふにきえぬ物なれはかくてもへぬるよにこそ有けれ
通釈 身を憂しと思ふに消えぬ物なればかくても経ぬる世にこそありけれ

歌番号八〇七
典侍藤原直子朝臣
典侍藤原直子朝臣

和歌 安末乃可留毛尓寸武々之乃我可良止祢遠己曽奈可女世遠者宇良見之
読下 あまのかるもにすむゝしの我からとねをこそなかめ世をはうらみし
通釈 海人の刈る藻に住む虫の我からと音をこそ泣かめ世をば恨みじ

歌番号八〇八
以奈波
いなは

和歌 阿比見奴毛宇幾毛和可身乃可良衣思志良寸毛止久留比毛哉
読下 あひ見ぬもうきもわか身のから衣思しらすもとくるひも哉
通釈 あひ見ぬも憂きも我が身の唐衣思ひ知らずも解くる紐かな

歌番号八〇九
寛平御時幾左以乃宮乃哥合乃宇多    寸可乃々多々遠武
寛平御時きさいの宮の哥合のうた    すかのゝたゝをむ

和歌 徒礼奈幾遠今者己飛之止於毛部止毛心与者久毛於川留涙可
読下 つれなきを今はこひしとおもへとも心よはくもおつる涙か
通釈 つれなきを今は恋しと思へども心弱くも落つる涙か

歌番号八一〇
題之良寸    伊勢
題しらす    伊勢

和歌 人之礼寸多衣奈末之可八和飛川々毛奈幾名曽止多尓以者万之毛乃遠
読下 人しれすたえなましかはわひつゝもなき名そとたにいはましものを
通釈 人知れず絶えなましかば侘びつつも無き名ぞとだに言はましものを

歌番号八一一
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 曽礼遠多尓思事止天和可也止遠見幾止奈以日曽人乃幾可久尓
読下 それをたに思事とてわかやとを見きとないひそ人のきかくに
通釈 それをだに思ふ事とて我が宿を見きとな言ひそ人の聞かくに

歌番号八一二
和歌 逢事乃毛八良多衣奴留時尓己曽人乃己比之幾己止毛之利个礼
読下 逢事のもはらたえぬる時にこそ人のこひしきこともしりけれ
通釈 逢ふことのもはら絶えぬる時にこそ人の恋しき事も知りけれ

歌番号八一三
和歌 和比者川留時左部物乃悲幾八伊川己遠之乃不涙奈留良武
読下 わひはつる時さへ物の悲きはいつこをしのふ涙なるらむ
通釈 侘び果つる時さへ物の悲しきはいづこを忍ぶ涙なるらむ

歌番号八一四
藤原於幾可世
藤原おきかせ

和歌 怨天毛奈幾天毛以者武方曽奈幾加々美尓見由留影奈良寸之天
読下 怨てもなきてもいはむ方そなきかゝみに見ゆる影ならすして
通釈 恨みても泣きても言はむ方ぞなき鏡に見ゆる影ならずして

歌番号八一五
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 夕左礼者人奈幾止己遠打者良日奈个可武多女止奈礼留和可三可
読下 夕されは人なきとこを打はらひなけかむためとなれるわかみか
通釈 夕されば人なき床をうち払ひ嘆かむためとなれる我が身か

歌番号八一六
和歌 和多川美乃和可身己寸浪立返利安万乃寸武天不宇良美川留哉
読下 わたつみのわか身こす浪立返りあまのすむてふうらみつる哉
通釈 わたつみの我が身越す浪立ち返り海人の住むてふ浦見つるかな

歌番号八一七
和歌 安良遠田遠安良寸幾可部之/\天毛人乃心遠見天己曽也万女
読下 あらを田をあらすきかへし/\ても人の心を見てこそやまめ
通釈 新小田を粗すき返し返しても人の心を見てこそやまめ

歌番号八一八
和歌 有曽海乃浜乃末左己止多乃女之八忘留事乃加寸尓曽有个留
読下 有そ海の浜のまさことたのめしは忘る事のかすにそ有ける
通釈 有磯海の浜の真砂と頼めしは忘るる事の数にぞありける

歌番号八一九
和歌 葦辺与利雲井遠左之天行雁乃以也止遠左可留和可身加奈之毛
読下 葦辺より雲井をさして行雁のいやとをさかるわか身かなしも
通釈 葦辺より雲居をさして行く雁のいや遠ざかる我が身悲しも

歌番号八二〇
和歌 志久礼天々毛美川留与利毛事乃者乃心乃秋尓安不曽和日之幾
読下 しくれつゝもみつるよりも事のはの心の秋にあふそわひしき
通釈 時雨れつつもみづるよりも言の葉の心の秋に逢ふぞ侘びしき

歌番号八二一
和歌 秋風乃布幾止布幾奴留武左之乃八奈部天草八乃色可八利个利
読下 秋風のふきとふきぬるむさしのはなへて草はの色かはりけり
通釈 秋風の吹きと吹きぬる武蔵野はなべて草葉の色変はりけり

歌番号八二二
小町
小町

和歌 安幾可世尓安不堂乃美己曽加奈之个礼和可身武奈之久奈利奴止思部八
読下 あきかせにあふたのみこそかなしけれわか身むなしくなりぬと思へは
通釈 秋風にあふ田の実こそ悲しけれ我が身むなしくなりぬと思へば

歌番号八二三
平貞文
平貞文

和歌 秋風乃吹宇良可部寸久寸乃八乃宇良美天毛猶宇良女之幾哉
読下 秋風の吹うらかへすくすのはのうらみても猶うらめしき哉
通釈 秋風の吹き裏返す葛の葉のうらみてもなほ恨めしきかな

歌番号八二四
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 安幾止以部者与曽尓曽幾々之安多人乃我遠布留世留名尓己曽有个礼
読下 あきといへはよそにそきゝしあた人の我をふるせる名にこそ有けれ
通釈 秋と言へばよそにぞ聞きしあだ人の我を古せる名にこそありけれ

歌番号八二五
和歌 和寸良累々身遠宇地者之乃中多衣天人毛可与八奴年曽部尓个留
読下 わすらるゝ身をうちはしの中たえて人もかよはぬ年そへにける
通釈 忘らるる身を宇治橋の中絶えて人も通はぬ年ぞ経にける

歌番号八二六
又八己奈多可奈多尓人毛可与八寸    坂上己礼乃利
又はこなたかなたに人もかよはす    坂上これのり

和歌 安不事遠奈可良乃者之乃奈可良部天己日渡万尓年曽部尓个留
読下 あふ事をなからのはしのなからへてこひ渡まに年そへにける
通釈 逢ふことを長柄の橋のながらへて恋ひわたる間に年ぞ経にける

歌番号八二七
止毛乃利
とものり

和歌 宇幾奈可良遣奴累安和止毛奈利奈々武流天止多尓太乃万礼奴身八
読下 うきなからけぬるあわともなりなゝむ流てとたにたのまれぬ身は
通釈 浮きながら消ぬる泡ともなりななむ流れてとだに頼まれぬ身は

歌番号八二八
読人之良寸
読人しらす

和歌 流天者妹背乃山乃奈可尓於川累与之乃々河乃也之也世中
読下 流ては妹背の山のなかにおつるよしのゝ河のよしや世中
通釈 流れては妹背の山の中に落つる吉野の河のよしや世の中
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廣瀬本万葉集に先だって、藤原定家の「古今和歌集」筆写態度の確認 古今和歌集巻第十二及び巻第十三

2016年08月06日 | 資料書庫
廣瀬本万葉集に先だって、藤原定家の「古今和歌集」筆写態度の確認
-藤原定家筆 古今和歌集 字母研究を使ってー
古今和歌集巻第十二及び巻第十三



古今和歌集巻第十二
恋哥二

歌番号五五二
題之良須    小野小町
題しらす    小野小町

和歌 思徒々奴礼者也人乃見衣川覧夢止志利世者佐女佐良万之遠
読下 思つゝぬれはや人の見えつ覧夢としりせはさめさらましを
通釈 思ひつつ寝ればや人の見えつらん夢と知りせば覚めざらましを

歌番号五五三
和歌 宇多々祢尓恋之幾飛止遠見天之与利夢天布物八憑曽女天幾
読下 うたゝねに恋しきひとを見てしより夢てふ物は憑そめてき
通釈 うたた寝に恋しき人を見てしより夢てふ物は頼みそめてき

歌番号五五四
和歌 以止世免天己飛之起時者武者玉乃与留乃衣遠返之天曽幾留
読下 いとせめてこひしき時はむは玉のよるの衣を返してそきる
通釈 いとせめて恋しき時はむばたまの夜の衣を返してぞ着る

歌番号五五五
素性法師
素性法師

和歌 秋風乃身尓佐武个礼者川礼毛奈幾人遠曽多乃武久留々夜己止尓
読下 秋風の身にさむけれはつれもなき人をそたのむくるゝ夜ことに
通釈 秋風の身に寒ければつれもなき人をぞ頼む暮るる夜ごとに

歌番号五五六
志毛徒以川毛天良尓人乃和左之个留日真世以法之乃太宇之尓天以部利个留事遠
しもついつもてらに人のわさしける日真せい法しのたうしにていへりける事を

哥尓与三天遠乃々己末知可毛止尓川可八之个留    安部乃幾与由幾乃朝臣
哥によみてをのゝこまちかもとにつかはしける    あへのきよゆきの朝臣

和歌 徒々免止毛袖尓堂万良奴白玉者人遠見奴女乃涙奈利个利
読下 つゝめとも袖にたまらぬ白玉は人を見ぬめの涙なりけり
通釈 つつめども袖にたまらぬ白玉は人を見ぬめの涙なりけり

歌番号五五七
返之    己万知
返し    こまち

和歌 遠呂可奈留涙曽々天尓玉者奈寸我八世幾安部寸太幾川世奈礼八
読下 をろかなる涙そゝてに玉はなす我はせきあへすたきつせなれは
通釈 おろかなる涙ぞ袖に玉はなす我は塞きあへずたぎつ瀬なれば

歌番号五五八
寛平御時幾左以乃宮乃哥合乃宇多    藤原止之由幾乃朝臣
寛平御時きさいの宮の哥合のうた    藤原としゆきの朝臣

和歌 恋和比天打知奴留中尓行加与不夢乃多々地者宇川々奈良奈武
読下 恋わひて打ちぬる中に行かよふ夢のたゝちはうつゝならなむ
通釈 恋ひわびてうち寝るなかに行きかよふ夢の直路はうつつならなん

歌番号五五九
和歌 住乃江乃岸尓与留浪与留左部也由女乃可与日地人女与久覧
読下 住の江の岸による浪よるさへやゆめのかよひち人めよく覧
通釈 住の江の岸に寄る浪夜さへや夢の通路人目よくらむ

歌番号五六〇
遠乃々与之幾
をのゝよしき

和歌 和可己飛者美山加久礼乃草奈礼也志个左万左礼止志留人乃奈幾
読下 わかこひはみ山かくれの草なれやしけさまされとしる人のなき
通釈 我が恋は深山隠れの草なれや繁さまされど知る人のなき

歌番号五六一
紀止毛乃利
紀とものり

和歌 夜為乃万毛者可那久見由留夏虫尓迷万左礼留己比毛寸留哉
読下 夜ゐのまもはかなく見ゆる夏虫に迷まされるこひもする哉
通釈 宵の間もはかなく見ゆる夏虫にまどひまされる恋もするかな

歌番号五六二
和歌 由不左礼者蛍与利計尓毛由礼止毛飛可利見祢八也人乃川礼奈幾
読下 ゆふされは蛍よりけにもゆれともひかり見ねはや人のつれなき
通釈 夕されば蛍よりけに燃ゆれども光見ねばや人のつれなき

歌番号五六三
和歌 左々乃者尓遠久霜与利毛飛止利奴留和可衣手曽左衣万佐利个留
読下 さゝのはにをく霜よりもひとりぬるわか衣手そさえまさりける
通釈 笹の葉に置く霜よりも一人寝る我が衣手ぞさえまさりける

歌番号五六四
和歌 和可也止乃菊乃加幾祢尓遠久之毛乃幾衣可部利天曽己日之可利遣留
読下 わかやとの菊のかきねにをくしものきえかへりてそこひしかりける
通釈 我が宿の菊の垣根に置く霜の消えかへりてぞ恋しかりける

歌番号五六五
和歌 河乃世尓奈比久多万毛乃美可久礼天人尓志良礼奴己比毛寸留哉
読下 河のせになひくたまものみかくれて人にしられぬこひもする哉
通釈 河の瀬になびく玉藻の水隠くれて人に知られぬ恋もするかな

歌番号五六六
美不乃多々美祢
みふのたゝみね

和歌 加幾久良之布留白雪乃志多幾衣尓幾衣天物思己呂尓毛安留哉
読下 かきくらしふる白雪のしたきえにきえて物思ころにもある哉
通釈 かき暮らし降る白雪の下消えに消えて物思ふころにもあるかな

歌番号五六七
藤原於幾可世
藤原おきかせ

和歌 君己不留涙乃止己尓見知奴礼者美遠川久之止曽我者奈利奴留
読下 君こふる涙のとこにみちぬれはみをつくしとそ我はなりぬる
通釈 君恋ふる涙の床に満ちぬればみをつくしとぞ我はなりける

歌番号五六八
和歌 志奴留以乃知以幾毛也寸留止心見尓玉乃遠許安者武止以者奈武
読下 しぬるいのちいきもやすると心見に玉のを許あはむといはなむ
通釈 死ぬる命生きもやすると心見に玉の緒ばかり逢はむと言はなむ

歌番号五六九
和歌 和飛奴礼者志比天和寸礼武止思部止毛夢止以不物曽人多乃女奈留
読下 わひぬれはしひてわすれむと思へとも夢といふ物そ人たのめなる
通釈 侘びぬればしひて忘れむと思へども夢といふものぞ人頼めなる

歌番号五七〇
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 王利奈久毛祢天毛佐免天毛己比之幾可心遠以川知也良八和寸礼武
読下 わりなくもねてもさめてもこひしきか心をいつちやらはわすれむ
通釈 わりなくも寝ても覚めても恋しきか心をいづちやらば忘れむ

歌番号五七一
和歌 恋之幾尓和飛天多万之比迷奈八武奈之幾可良乃奈尓也乃己覧
読下 恋しきにわひてたましひ迷なはむなしきからのなにやのこ覧
通釈 恋しきに侘びて魂まどひなば空しきからの名にや残らむ

歌番号五七二
紀川良由幾
紀つらゆき

和歌 君己不留涙之奈久者唐衣武祢乃安多利者色毛衣奈末之
読下 君こふる涙しなくは唐衣むねのあたりは色もえなまし
通釈 君恋ふる涙しなくは唐衣胸のあたりは色燃えなまし

歌番号五七三
題之良寸
題しらす

和歌 世止々毛尓流天曽行涙河冬毛己本良奴美奈和奈利个利
読下 世とゝもに流てそ行涙河冬もこほらぬみなわなりけり
通釈 世とともに流れてぞ行く涙河冬も凍らぬ水泡なりけり

歌番号五七四
和歌 夢地尓毛川由也遠久覧与毛寸可良加与部留袖乃比知天可八可奴
読下 夢ちにもつゆやをく覧よもすからかよへる袖のひちてかはかぬ
通釈 夢路にも露や置く覧らんよもすがら通へる袖のひちて乾かぬ

歌番号五七五
曽世以法之
そせい法し

和歌 者可奈久天夢尓毛人遠見川留夜者朝乃止己曽於幾宇加利个留
読下 はかなくて夢にも人を見つる夜は朝のとこそおきうかりける
通釈 はかなくて夢にも人を見つる夜は朝の床ぞ起き憂かりける

歌番号五七六
藤原堂々不左
藤原たゝふさ

和歌 以徒者利乃涙奈利世者唐衣志乃日尓袖者志本良佐良末之
読下 いつはりの涙なりせは唐衣しのひに袖はしほらさらまし
通釈 いつはりの涙なりせば唐衣忍びに袖はしぼらざらまし

歌番号五七七
大江千里
大江千里

和歌 祢尓奈幾天飛知尓之加止毛春左女尓奴礼尓之袖止々八々己多部武
読下 ねになきてひちにしかとも春さめにぬれにし袖とゝはゝこたへむ
通釈 音に泣きてひちにしかども春雨に濡れにし袖と問はば答へむ

歌番号五七八
止之由幾乃朝臣
としゆきの朝臣

和歌 和可己止久物也加奈之幾郭公時曽止毛奈久与多々奈久覧
読下 わかことく物やかなしき郭公時そともなくよたゝなく覧
通釈 我がごとく物や悲しき郭公時ぞともなく夜ただ鳴くらん

歌番号五七九
徒良由幾
つらゆき

和歌 佐月山己寸恵遠多可美郭公奈久祢曽良奈留己日毛寸留哉
読下 さ月山こすゑをたかみ郭公なくねそらなるこひもする哉
通釈 五月山梢を高み郭公鳴く音そらなる恋もするかな

歌番号五八〇
凡河内美川祢
凡河内みつね

和歌 秋幾利乃者留々時奈幾心尓者多知為乃曽良毛於毛保衣奈久尓
読下 秋きりのはるゝ時なき心にはたちゐのそらもおもほえなくに
通釈 秋霧の晴るる時なき心には立ちゐの空も思ほえなくに

歌番号五八一
清原布可也不
清原ふかやふ

和歌 虫乃己止声尓堂天々者奈可祢止毛涙乃美己曽志多尓奈可留礼
読下 虫のこと声にたてゝはなかねとも涙のみこそしたになかるれ
通釈 虫のごと声に立てては鳴かねども涙のみこそ下に流るれ

歌番号五八二
己礼左多乃美己乃家乃哥合乃宇多    与美人之良寸
これさたのみこの家の哥合のうた    よみ人しらす

和歌 秋奈礼者山止与武末天奈久之可尓我於止良女也飛止利奴留与八
読下 秋なれは山とよむまてなくしかに我おとらめやひとりぬるよは
通釈 秋なれば山とよむまで鳴く鹿に我劣らめや一人寝る夜は

歌番号五八三
題之良寸    徒良由幾
題しらす    つらゆき

和歌 秋乃々尓美多礼天左个留花乃色乃知久左尓物遠思己呂哉
読下 秋のゝにみたれてさける花の色のちくさに物を思ころ哉
通釈 秋の野に乱れて咲ける花の色の千草に物を思ふころかな

歌番号五八四
美川祢
みつね

和歌 飛止利之天物遠於毛部者秋乃与乃以奈八乃曽与止以不人乃奈幾
読下 ひとりして物をおもへは秋のよのいなはのそよといふ人のなき
通釈 一人して物を思へば秋の田の稲葉のそよと言ふ人のなき

歌番号五八五
布可也不
ふかやふ

和歌 人遠思心者加利尓安良祢止毛久毛為尓乃美毛奈幾和多留哉
読下 人を思心はかりにあらねともくもゐにのみもなきわたる哉
通釈 人を思ふ心ばかりにあらねども雲居にのみも鳴き渡るかな哉

歌番号五八六
堂々美祢
たゝみね

和歌 秋風尓加幾奈寸己止乃己恵尓左部者可奈久人乃己飛之可留覧
読下 秋風にかきなすことのこゑにさへはかなく人のこひしかる覧
通釈 秋風にかきなす琴の声にさへはかなく人の恋しかるらむ

歌番号五八七
川良由幾
つらゆき

和歌 末己毛可留与止乃左者水雨布礼者川祢与利己止尓万佐留和可己日
読下 まこもかるよとのさは水雨ふれはつねよりことにまさるわかこひ
通釈 真薦刈る淀の沢水雨降れば常よりことにまさる我が恋

歌番号五八八
也末止尓侍个留人尓川可八之个留
やまとに侍ける人につかはしける

和歌 己衣奴万者与之乃々山乃佐久良花人川天尓乃美幾々和多留哉
読下 こえぬまはよしのゝ山のさくら花人つてにのみきゝわたる哉
通釈 越えぬ間は吉野の山の桜花人づてにのみ聞きわたるかな

歌番号五八九
也与飛者可利尓物乃多宇比个留人乃毛止尓又人万可利川々
やよひはかりに物のたうひける人のもとに又人まかりつゝ

世宇曽己寸止幾々天川可者之个留
せうそこすときゝてつかはしける

和歌 露奈良奴心遠花尓遠幾曽女天風吹己止尓物思曽川久
読下 露ならぬ心を花にをきそめて風吹ことに物思そつく
通釈 露ならぬ心を花に置きそめて風吹くごとに物思ひぞつく

歌番号五九〇
題之良寸    坂上己礼乃利
題しらす    坂上これのり

和歌 和可己比尓久良不乃山乃左久良花万奈久知留止毛加寸者万左良之
読下 わかこひにくらふの山のさくら花まなくちるともかすはまさらし
通釈 我が恋に暗部の山の桜花間なく散るとも数はまさらじ

歌番号五九一
武祢遠可乃於保与利
むねをかのおほより

和歌 冬河乃宇部者己保礼留我奈礼也志多尓奈可礼天己比和多留良武
読下 冬河のうへはこほれる我なれやしたになかれてこひわたるらむ
通釈 冬河の上は凍れる我なれや下に流れて恋ひわたるらん

歌番号五九二
堂々美祢
たゝみね

和歌 堂幾川世尓祢左之止々女奴宇幾草乃宇幾多留己比毛我八寸留哉
読下 たきつせにねさしとゝめぬうき草のうきたるこひも我はする哉
通釈 たぎつ瀬に根ざしとどめぬ浮草の浮きたる恋も我はするかな

歌番号五九三
止毛乃利
とものり

和歌 夜為/\尓奴幾天和可奴留加利衣加計天於毛八奴時乃万毛奈之
読下 夜ゐ/\にぬきてわかぬるかり衣かけておもはぬ時のまもなし
通釈 宵々に脱ぎて我が寝る狩衣かけて思はぬ時の間もなし

歌番号五九四
和歌 安徒万地乃左也乃中山中/\尓奈尓之可人遠思日曽女个武
読下 あつまちのさやの中山中/\になにしか人を思ひそめけむ
通釈 東路の小夜の中山なかなかに何しか人を思ひそめけむ

歌番号五九五
和歌 志幾多部乃枕乃之多尓海者安礼止人遠見留女八於日寸曽有个留
読下 しきたへの枕のしたに海はあれと人を見るめはおひすそ有ける
通釈 しきたへの枕の下に海はあれど人を見るめは生ひずぞありける

歌番号五九六
和歌 年遠部天幾衣奴於毛日八有奈可良与留乃多毛止八猶己本利个利
読下 年をへてきえぬおもひは有なからよるのたもとは猶こほりけり
通釈 年を経て消えぬ思ひはありながら夜の袂はなほ凍りけり

歌番号五九七
徒良由幾
つらゆき

和歌 和可己比者志良奴山地尓安良奈久尓迷心曽和日之可利个留
読下 わかこひはしらぬ山ちにあらなくに迷心そわひしかりける
通釈 我が恋は知らぬ山路にあらなくにまどふ心ぞ侘びしかりける

歌番号五九八
和歌 紅乃布利以天川々奈久涙尓八多毛止乃美己曽色万左利个礼
読下 紅のふりいてつゝなく涙にはたもとのみこそ色まさりけれ
通釈 紅のふり出でつつ泣く涙には袂のみこそ色まさりけれ

歌番号五九九
和歌 白玉止見衣之涙毛年不礼者加良紅尓宇川呂日尓个利
読下 白玉と見えし涙も年ふれはから紅にうつろひにけり
通釈 白玉と見えし涙も年経れば唐紅に移ろひにけり

歌番号六〇〇
美川祢
みつね

和歌 夏虫遠奈尓可以比釼心可良我毛思日尓毛衣奴部良也
読下 夏虫をなにかいひ釼心から我も思ひにもえぬへら也
通釈 夏虫を何か言ひけむ心から我も思ひに燃えぬべらなり

歌番号六〇一
堂々見祢
たゝみね

和歌 風布遣者峯尓和可留々白雲乃多衣天川礼奈幾君可心可
読下 風ふけは峯にわかるゝ白雲のたえてつれなき君か心か
通釈 風吹けば峰に別るる白雲の絶えてつれなき君が心か

歌番号六〇二
和歌 月影尓和可身遠加不留物奈良者川礼奈幾人毛安八礼止也見武
読下 月影にわか身をかふる物ならはつれなき人もあはれとや見む
通釈 月影に我が身を変ふる物ならばつれなき人もあはれとや見む

歌番号六〇三
布可也不
ふかやふ

和歌 己飛之奈者堂可名者多々之世中乃川祢奈幾物止以日者奈寸止毛
読下 こひしなはたか名はたゝし世中のつねなき物といひはなすとも
通釈 恋ひ死なば誰が名は立たじ世の中の常なき物と言ひはなすとも

歌番号六〇四
徒良由幾
つらゆき

和歌 徒乃久尓乃奈尓者乃安之乃女毛見留尓志个幾和可己日人志留良女也
読下 つのくにのなにはのあしのめもはるにしけきわかこひ人しるらめや
通釈 津の国の難波の葦の芽もはるに繁き我が恋人知るらめや

歌番号六〇五
和歌 手毛布礼天月日部尓个留志良万弓於幾布之与留者以己曽祢良礼子
読下 手もふれて月日へにけるしらま弓おきふしよるはいこそねられね
通釈 手も触れで月日経にける白檀弓起き臥し夜は寝こそ寝られね

歌番号六〇六
和歌 人之礼奴思日乃見己曽和日之个礼和可歎遠者我乃見曽之留
読下 人しれぬ思ひのみこそわひしけれわか歎をは我のみそしる
通釈 人知れぬ思ひのみこそ侘びしけれ我が嘆きをば我のみぞ知る

歌番号六〇七
止毛乃利
とものり

和歌 事尓以天々以者奴許曽美奈世河志多尓可与日天己比之幾毛乃遠
読下 事にいてゝいはぬ許そみなせ河したにかよひてこひしきものを
通釈 言に出でて言はぬばかりぞ水無瀬川下に通ひて恋しきものを

歌番号六〇八
美川祢
みつね

和歌 君遠乃美思日祢尓祢之夢奈礼八和可心可良見川留奈利个利
読下 君をのみ思ひねにねし夢なれはわか心から見つるなりけり
通釈 君をのみ思ひ寝に寝し夢なれば我が心から見つるなりけり

歌番号六〇九
堂々美祢
たゝみね

和歌 以乃知尓毛万佐利天於之久安留物者見者天奴由女乃佐武留奈利个利
読下 いのちにもまさりておしくある物は見はてぬゆめのさむるなりけり
通釈 命にもまさりて惜しくあるものは見果てぬ夢の覚むるなりけり

歌番号六一〇
者留美知乃川良幾
はるみちのつらき

和歌 梓弓飛計者本末和可方尓与留己曽万佐礼己日乃心八
読下 梓弓ひけは本末わか方によるこそまされこひの心は
通釈 梓弓引けば本末我が方に寄るこそまされ恋の心は

歌番号六一一
美川祢
みつね

和歌 和可己比者由久衣毛志良寸者天毛奈之逢遠限止思許曽
読下 わかこひはゆくゑもしらすはてもなし逢を限と思許そ
通釈 我が恋は行方も知らず果てもなし逢ふを限りと思ふばかりぞ

歌番号六一二
和歌 我乃美曽加奈之可利个留飛己本之毛安者天寸久世留年之奈个礼八
読下 我のみそかなしかりけるひこほしもあはてすくせる年しなけれは
通釈 我のみぞ悲しかりける彦星も逢はで過ぐせる年しなければ

歌番号六一三
布可也不
ふかやふ

和歌 今者々也己飛之奈末之遠安比見武止多乃女之事曽以乃知奈利个累
読下 今はゝやこひしなましをあひ見むとたのめし事そいのちなりける
通釈 今ははや恋ひ死なましをあひ見むと頼めし事ぞ命なりける

歌番号六一四
美川祢
みつね

和歌 堂乃免川々安者天年布留以徒者利尓己里奴心遠人者志良奈武
読下 たのめつゝあはて年ふるいつはりにこりぬ心を人はしらなむ
通釈 頼めつつ逢はで年経るいつはりに懲りぬ心を人は知らなむ

歌番号六一五
止毛乃利
とものり

和歌 伊乃知也者奈尓曽者川由乃安多物遠安布尓之可部者於之可良奈久仁
読下 いのちやはなにそはつゆのあた物をあふにしかへはおしからなくに
通釈 命やは何ぞは露のあだ物を逢ふにし変へば惜しからなくに



古今和歌集巻第十三
恋哥三

歌番号六一六
也与比乃徒以多知与利志乃飛尓人尓毛乃良以飛天乃知尓雨乃曽本不利个留尓
やよひのついたちよりしのひに人にものらいひてのちに雨のそほふりけるに

与美天徒可者之个留    在原業平朝臣
よみてつかはしける    在原業平朝臣

和歌 於幾毛世須祢毛世天与留遠安可之天者春乃物止天奈可免久良之川
読下 おきもせすねもせてよるをあかしては春の物とてなかめくらしつ
通釈 起きもせず寝もせで夜を明かしては春の物とてながめ暮らしつ

歌番号六一七
奈利比良乃朝臣乃家尓侍个留女乃毛止尓与美天川可八之个留  止之由幾乃朝臣
なりひらの朝臣の家に侍ける女のもとによみてつかはしける  としゆきの朝臣

和歌 徒礼/\乃奈可女尓万左留涙河袖乃美奴礼天安不与之毛奈之
読下 つれ/\のなかめにまさる涙河袖のみぬれてあふよしもなし
通釈 つれづれのながめにまさる涙河袖のみ濡れて逢ふよしもなし

歌番号六一八
加乃女尓加者利天返之尓与女留    奈利比良乃朝臣
かの女にかはりて返しによめる    なりひらの朝臣

和歌 安左美己曽袖者飛川良女涙河身左部流留止幾可八多乃万武
読下 あさみこそ袖はひつらめ涙河身さへ流るときかはたのまむ
通釈 浅みこそ袖はひつらめ涙河身さへ流ると聞かば頼まむ

歌番号六一九
題之良寸    与三人之良須
題しらす    よみ人しらす

和歌 与累部浪身遠己曽止遠久部多天川礼心者君可影止奈利尓幾
読下 よるへ浪身をこそとをくへたてつれ心は君か影となりにき
通釈 寄るべなみ身をこそ遠く隔てつれ心は君が影となりにき

歌番号六二〇
和歌 以多川良尓行天者幾奴留物由部尓見末久保之左尓以左奈八礼川々
読下 いたつらに行てはきぬる物ゆへに見まくほしさにいさなはれつゝ
通釈 いたづらに行きては来ぬる物ゆゑに見まくほしさに誘はれつつ

歌番号六二一
和歌 安者奴夜乃布留白雪止川毛利奈八我左部友尓計奴部幾物遠
読下 あはぬ夜のふる白雪とつもりなは我さへ友にけぬへき物を
通釈 逢はぬ夜の降る白雪と積もりなば我さへともに消ぬべきものを

己乃哥物安留人乃以者久柿本人麿可哥也
この哥はある人のいはく柿本人麿か哥也

歌番号六二二
奈利比良乃朝臣
なりひらの朝臣

和歌 秋乃々尓左々和遣之安左乃袖与利毛安者天己之与曽飛知万左利个留
読下 秋のゝにさゝわけしあさの袖よりもあはてこしよそひちまさりける
通釈 秋の野に笹分けし朝の袖よりも逢はで来し夜ぞひちまさりける

歌番号六二三
遠乃々己万知
をのゝこまち

和歌 見累女奈幾和可身遠宇良止志良祢八也加礼奈天安万乃安之多由久々留
読下 見るめなきわか身をうらとしらねはやかれなてあまのあしたゆくゝる
通釈 見るめなき我が身を浦と知らねばや離れなで海人の足たゆく来る

歌番号六二四
源武祢由幾乃朝臣
源むねゆきの朝臣

和歌 安者寸之天己与飛安計奈者春乃日乃長久也人川良之止思者武
読下 あはすしてこよひあけなは春の日の長くや人つらしと思はむ
通釈 逢はずして今宵明けなば春の日の長くや人をつらしと思はむ

歌番号六二五
美不乃多々三祢
みふのたゝみね

和歌 有安遣乃川礼奈久見衣之別与利暁許宇幾物八奈之
読下 有あけのつれなく見えし別より暁許うき物はなし
通釈 有明けのつれなく見えし別れより暁ばかり憂き物はなし

歌番号六二六
在原元方
在原元方

和歌 逢事乃奈幾左尓之与留浪奈礼者怨天乃美曽立帰个留
読下 逢事のなきさにしよる浪なれは怨てのみそ立帰ける
通釈 逢ふ事の渚にし寄る浪なれば浦見てのみぞ立ち帰りける

歌番号六二七
与三人之良須
よみ人しらす

和歌 加祢天与利風尓左幾多川浪奈礼也逢事奈幾尓万多幾立覧
読下 かねてより風にさきたつ浪なれや逢事なきにまたき立覧
通釈 かねてより風に先立つ浪なれや逢ふ事なきにまだき立つらむ

歌番号六二八
多々美祢
たゝみね

和歌 美知乃久尓有止以不奈留奈止利河奈幾奈止利天八久留之可利个利
読下 みちのくに有といふなるなとり河なきなとりてはくるしかりけり
通釈 陸奥に有りと言ふなる名取河無き名取りては苦しかりけり

歌番号六二九
美者留乃安利寸計
みはるのありすけ

和歌 安也奈久天末多幾奈幾奈乃多川多河和多良天也万武物奈良奈久二
読下 あやなくてまたきなきなのたつた河わたらてやまむ物ならなくに
通釈 あやなくてまだき無き名の龍田河渡らでやまむ物ならなくに

歌番号六三〇
毛止可多
もとかた

和歌 人者以左我者奈幾奈乃於之个礼者昔毛今毛之良寸止遠以者武
読下 人はいさ我はなきなのおしけれは昔も今もしらすとをいはむ
通釈 人はいさ我は無き名の惜しければ昔も今も知らずとを言はむ

歌番号六三一
与三人之良須
よみ人しらす

和歌 己里寸万尓又毛奈幾奈者多知奴部之人尓久可良奴世尓之寸万部八
読下 こりすまに又もなきなはたちぬへし人にくからぬ世にしすまへは
通釈 懲りずまに又も無き名は立ちぬべし人憎からぬ世にし住まへば

歌番号六三二
飛武可之乃五条和多利尓人遠志利遠幾天万可利加与日个利志乃日奈留所奈利个礼盤
ひむかしの五条わたりに人をしりをきてまかりかよひけりしのひなる所なりけれは

加止与利之毛衣以良天加幾乃久川礼与利加与日个留遠堂比加左奈利个礼者
かとよりしもえいらてかきのくつれよりかよひけるをたひかさなりけれは

安累之幾々川个天加乃美知尓夜己止尓人遠布世天万毛良寸礼者以幾个礼止
あるしきゝつけてかのみちに夜ことに人をふせてまもらすれはいきけれと

衣安者天乃三加部利天与美天也利个留    奈利比良乃朝臣
えあはてのみかへりてよみてやりける    なりひらの朝臣

和歌 飛止之礼奴和可々与日知乃関守者与日/\己止尓宇知毛祢奈々武
読下 ひとしれぬわかゝよひちの関守はよひ/\ことにうちもねなゝむ
通釈 人知れぬ我が通路の関守は宵々ごとにうちも寝ななむ

歌番号六三三
題之良寸    徒良由幾
題しらす    つらゆき

和歌 志乃不礼止己比之幾時者安之比幾乃山与利月乃以天々己曽久礼
読下 しのふれとこひしき時はあしひきの山より月のいてゝこそくれ
通釈 忍ぶれど恋しき時はあしひきの山より月の出でてこそ来れ

歌番号六三四
与三人之良須
よみ人しらす

和歌 己飛/\天万礼尓己与日曽相坂乃由不川个鳥者奈可寸毛安良奈武
読下 こひ/\てまれにこよひそ相坂のゆふつけ鳥はなかすもあらなむ
通釈 恋ひ恋ひてまれに今宵ぞ逢坂の木綿つけ鳥は鳴かずもあらなん

歌番号六三五
遠乃々己万知
をのゝこまち

和歌 秋乃夜毛名乃美奈利个利安不止以部者事曽止毛奈久安計奴留毛乃遠
読下 秋の夜も名のみなりけりあふといへは事そともなくあけぬるものを
通釈 秋の夜も名のみなりけり逢ふと言へばことぞともなく明けぬるものを

歌番号六三六
凡河内美川祢
凡河内みつね

和歌 奈可之止毛思日曽者天奴昔与利逢人可良乃秋乃与奈礼八
読下 なかしとも思ひそはてぬ昔より逢人からの秋のよなれは
通釈 長しとも思ひぞはてぬ昔より逢ふ人からの秋の夜なれば

歌番号六三七
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 志乃々免乃保可良/\止安計由个者遠乃可幾奴/\奈留曽可奈之幾
読下 しのゝめのほから/\とあけゆけはをのかきぬ/\なるそかなしき
通釈 しののめのほがらほがらと明け行けば己がきぬぎぬなるぞ悲しき

歌番号六三八
藤原国経朝臣
藤原国経朝臣

和歌 曙奴止天今者乃心徒久可良尓奈止以日之良奴思曽不良武
読下 曙ぬとて今はの心つくからになといひしらぬ思そふらむ
通釈 明けぬとて今はの心つくからになど言ひ知らぬ思ひ添ふらむ

歌番号六三九
寛平御時幾左以乃宮乃哥合乃宇多    止之由幾乃朝臣
寛平御時きさいの宮の哥合のうた    としゆきの朝臣

和歌 安遣奴止天加部留道尓者以幾多礼天雨毛涙毛布利曽本知川々
読下 あけぬとてかへる道にはこきたれて雨も涙もふりそほちつゝ
通釈 明けぬとて帰る道にはこきたれて雨も涙も降りそほちつつ

歌番号六四〇
題之良寸    寵
題しらす    寵

和歌 志乃々女乃別遠々之美我曽万川鳥与利左幾尓鳴八之女川留
読下 しのゝめの別をゝしみ我そまつ鳥よりさきに鳴はしめつる
通釈 しののめの別れを惜しみ我ぞまづ鳥より先に泣き始めつる

歌番号六四一
与美人之良寸
よみ人しらす

和歌 保止々幾須夢可宇川々可安左川由乃於幾天別之暁乃己恵
読下 ほとゝきす夢かうつゝかあさつゆのおきて別し暁のこゑ
通釈 郭公夢かうつつか朝露の起きて別れし暁の声

歌番号六四二
和歌 玉匣安計者君可奈多知奴部美夜不可久己之遠人見个武可毛
読下 玉匣あけは君かなたちぬへみ夜ふかくこしを人見けむかも
通釈 玉匣開けば君が名立ちぬべみ夜深く来しを人見けむかも

歌番号六四三
大江千里
大江千里

和歌 遣左者之毛於幾釼方毛志良左利川思以川留曽幾恵天加奈之幾
読下 けさはしもおき釼方もしらさりつ思いつるそきえてかなしき
通釈 今朝は霜起きけむ方も知らざりつ思ひ出づるぞ消えて悲しき

歌番号六四四
人尓安比天安之多尓与美天川可八之个留    奈利比良乃朝臣
人にあひてあしたによみてつかはしける    なりひらの朝臣

和歌 祢奴留夜乃夢遠者可奈三万止呂女者以也者可奈尓毛奈利万左留哉
読下 ねぬる夜の夢をはかなみまとろめはいやはかなにもなりまさる哉
通釈 寝ぬる夜の夢をはかなみまどろめばいやはかなにもなりまさるかな

歌番号六四五
業平朝臣乃伊勢乃久尓々万可利多利个留時斎宮奈利个留人尓
業平朝臣の伊勢のくにゝまかりたりける時斎宮なりける人に

以止美曽可尓安日天又乃安之多尓人也留寸部奈久天思日遠奈个留阿比多仁
いとみそかにあひて又のあしたに人やるすへなくて思ひをりけるあひたに

女乃毛止与利遠己世多利个累    与三人之良寸
女のもとよりをこせたりける    よみ人しらす

和歌 幾美也己之我也行个武於毛本衣寸夢可宇川々可祢天可左女天加
読下 きみやこし我や行けむおもほえす夢かうつゝかねてかさめてか
通釈 君や来し我や行きけん思ほえず夢かうつつか寝てか覚めてか

歌番号六四六
返之    奈利比良乃朝臣
返し    なりひらの朝臣

和歌 加幾久良寸心乃也美尓迷尓幾夢宇川々止者世人左多女与
読下 かきくらす心のやみに迷にき夢うつゝとは世人さためよ
通釈 かき暮らす心の闇にまどひにき夢うつつとは世人定めよ

歌番号六四七
題之良寸    与三人之良寸
題しらす    よみ人しらす

和歌 武者多満乃也美乃宇川々者佐多可奈留夢尓以久良毛万佐良左利个利
読下 むはたまのやみのうつゝはさたかなる夢にいくらもまさらさりけり
通釈 むばたまの闇のうつつはさだかなる夢にいくらもまさらざりけり

歌番号六四八
和歌 佐夜布遣天安万乃止渡月影尓安可寸毛君遠安日見川留哉
読下 さ夜ふけてあまのと渡月影にあかすも君をあひ見つる哉
通釈 さ夜更けて天の門渡る月影にあかずも君をあひ見つるかな

歌番号六四九
和歌 君可名毛和可奈毛堂天之奈尓八奈留美川止毛以不奈安日幾止毛以者之
読下 君か名もわかなもたてしなにはなるみつともいふなあひきともいはし
通釈 君か名も我が名も立てじ難波なる見つとも言ふな逢ひきとも言はじ

歌番号六五〇
和歌 名止利河勢々乃武毛礼木安良八礼者如何世武止可安日見曽女計武
読下 名とり河せゝのむもれ木あらはれは如何せむとかあひ見そめけむ
通釈 名取河瀬々の埋もれ木現ればいかにせむとかあひ見そめけむ

歌番号六五一
和歌 吉野河水乃心者々也久止毛多幾乃遠止尓八多天之止曽思
読下 吉野河水の心はゝやくともたきのをとにはたてしとそ思
通釈 吉野河水の心は早くとも滝の音には立てじとぞ思ふ

歌番号六五二
和歌 己飛之久者志多尓遠於毛部紫乃祢寸利乃衣色尓以川奈由女
読下 こひしくはしたにをおもへ紫のねすりの衣色にいつなゆめ
通釈 恋しくはしたにを思へ紫の根摺りの衣色に出づなゆめ

歌番号六五三
遠乃々者留可世
をのゝはるかせ

和歌 花寸々幾保尓以天々己飛者名遠々之美志多由不比毛乃武寸本々礼川々
読下 花すゝきほにいてゝこひは名をゝしみしたゆふひものむすほゝれつゝ
通釈 花薄穂に出でて恋は名を惜しみ下結ふ紐の結ぼほれつつ

歌番号六五四
堂知者那乃幾与幾可志乃比尓安日之礼利个留女乃毛止与利
たちはなのきよきかしのひにあひしれりける女のもとより

遠己世多利个留    与三人之良寸
をこせたりける    よみ人しらす

和歌 思不止知飛止利/\可己比之奈者多礼尓与曽部天不知衣幾武
読下 思ふとちひとり/\かこひしなはたれによそへてふち衣きむ
通釈 思ふどち一人一人が恋ひ死なば誰れによそへて藤衣着む

歌番号六五五
返之    太知八奈乃幾与木
返し    たちはなのきよ木

和歌 奈幾己留涙尓袖乃曽本知奈者奴幾可部可天良与留己曽八幾女
読下 なきこふ涙に袖のそほちなはぬきかへかてらよるこそはきめ
通釈 泣き恋ふる涙に袖のそほちなば脱ぎ替へがてら夜こそは着め

歌番号六五六
題之良寸    己万知
題しらす    こまち

和歌 宇徒々尓者佐毛己曽安良女夢尓左部人女遠与久止見留可和飛之左
読下 うつゝにはさもこそあらめ夢にさへ人めをよくと見るかわひしさ
通釈 うつつにはさもこそあらめ夢にさへ人目をよくと見るが侘びしさ

歌番号六五七
和歌 限奈幾思日乃末々尓与留毛己武由女知遠左部尓人八止可女之
読下 限なき思ひのまゝによるもこむゆめちをさへに人はとかめし
通釈 限りなき思ひのままに夜も来む夢路をさへに人はとがめじ

歌番号六五八
和歌 夢地尓者安之毛也寸女寸加与部止毛宇川々尓比止女見之己止者安良寸
読下 夢ちにはあしもやすめすかよへともうつゝにひとめ見しことはあらす
通釈 夢路には足も休めず通へどもうつつに一目見しごとはあらず

歌番号六五九
与三人之良須
よみ人しらす

和歌 於毛部止毛人女徒々美乃堂可个礼者河止見奈可良衣己曽和多良祢
読下 おもへとも人めつゝみのたかけれは河と見なからえこそわたらね
通釈 思へども人目つつみの高ければ河と見ながらえこそ渡らね

歌番号六六〇
和歌 堂幾川世乃者也幾心遠奈尓之可毛人女川々美乃世幾止々武覧
読下 たきつせのはやき心をなにしかも人めつゝみのせきとゝむ覧
通釈 たぎつ瀬の早き心を何しかも人目つつみのせきとどむらん

歌番号六六一
寛平御時幾左以乃宮乃哥合乃宇多    幾乃止毛乃利
寛平御時きさいの宮の哥合のうた    きのとものり

和歌 紅乃色尓者以天之加久礼奴乃志多尓可与日天己日八之奴止毛
読下 紅の色にはいてしかくれぬのしたにかよひてこひはしぬとも
通釈 紅の色には出でじ隠れ沼の下にかよひて恋は死ぬとも

歌番号六六二
題之良須    美川祢
題しらす    みつね

和歌 冬乃池尓寸武尓本鳥乃川礼毛奈久曽己尓加与不止人尓之良寸奈
読下 冬の池にすむにほ鳥のつれもなくそこにかよふと人にしらすな
通釈 冬の池に住む鳰鳥のつれもなく底にかよふと人に知らすな

歌番号六六三
和歌 佐々乃者尓遠久者川之毛乃夜遠左武美之美八川久止毛色尓以天女也
読下 さゝのはにをくはつしもの夜をさむみしみはつくとも色にいてめや
通釈 笹の葉に置く初霜の夜を寒みしみはつくとも色に出でめやは

歌番号六六四
読人之良寸
読人しらす

和歌 山之奈乃遠止八乃山乃遠止尓多仁人乃之留部久和可己日女可毛
読下 山しなのをとはの山のをとにたに人のしるへくわかこひめかも
通釈 山科の音羽山の音にだに人の知るべく我が恋ひめかも

己乃哥安留人安不三乃宇祢女乃止奈武申寸
この哥ある人あふみのうねめのとなむ申す

歌番号六六五
清原布可也不
清原ふかやふ

和歌 美徒之本乃流飛留万遠安日可多三々留女乃浦尓与留遠己曽万天
読下 みつしほの流ひるまをあひかたみゝるめの浦によるをこそまて
通釈 満つ潮の流れ干る間を逢ひがたみ見るめの浦に寄るをこそ待て

歌番号六六六
平貞文
平貞文

和歌 白河乃志良寸止毛以者之曽己幾与三流天世々尓寸万武止思部八
読下 白河のしらすともいはしそこきよみ流て世ゝにすまむと思へは
通釈 白河の知らずとも言はじ底清み流れて世々に澄まむと思へば

歌番号六六七
止毛乃利
とものり

和歌 志多尓乃美己不礼八久留之玉乃遠乃多衣天美多礼武人奈止可女曽
読下 したにのみこふれはくるし玉のをのたえてみたれむ人なとかめそ
通釈 下にのみ恋ふれば苦し玉の緒の絶えて乱れむ人なとがめそ

歌番号六六八
和歌 和可己比遠志乃日加祢天八安之比幾乃山橘乃色尓以天奴部之
読下 わかこひをしのひかねてはあしひきの山橘の色にいてぬへし
通釈 我が恋を忍びかねてはあしひきの山橘の色に出でぬべし

歌番号六六九
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 於保可多者和可名毛美奈止己幾以天奈武世遠宇三部多仁見留女寸久奈之
読下 おほかたはわか名もみなとこきいてなむ世をうみへたに見るめすくなし
通釈 おほかたは我が名も水門漕ぎ出でなむ世をうみべたに見るめ少なし

歌番号六七〇
平貞文
平貞文

和歌 枕与利又志留人毛奈幾己日遠涙世幾安部寸毛良之川留哉
読下 枕より又しる人もなきこひを涙せきあへすもらしつる哉
通釈 枕よりまた知る人もなき恋を涙せきあへず漏らしつるかな

歌番号六七一
与三人之良寸
よみ人しらす

和歌 風布遣者浪打岸乃松奈礼也祢尓安良八礼天奈幾奴部良也
読下 風ふけは浪打岸の松なれやねにあらはれてなきぬへら也
通釈 風吹けば浪打つ岸の松なれや根にあらはれて泣きぬべらなり

己乃宇多者安留人乃以者久加幾乃毛止乃人万呂加奈利
このうたはある人のいはくかきのもとの人まろかなり

歌番号六七二
和歌 池尓寸武名遠々之鳥乃水遠安左美加久留止寸礼止安良者礼尓个利
読下 池にすむ名をゝし鳥の水をあさみかくるとすれとあらはれにけり
通釈 池に住む名を鴛鴦の水を浅み隠るとすれど現はれにけり

歌番号六七三
和歌 逢事者玉乃緒許名乃多川者吉野乃河乃多幾川世乃己止
読下 逢事は玉の緒許名のたつは吉野の河のたきつせのこと
通釈 逢ふことは玉の緒ばかり名の立つは吉野の河のたぎつ瀬のごと

歌番号六七四
和歌 武良止利乃堂知尓之和可名今更尓己止奈之不止毛志留之安良女也
読下 むらとりのたちにしわか名今更にことなしふともしるしあらめや
通釈 群鳥の立ちにし我が名今さらに事なしぶともしるしあらめや

歌番号六七五
和歌 君尓与利和可奈者花尓春霞野尓毛山尓毛多知美知尓个利
読下 君によりわかなは花に春霞野にも山にもたちみちにけり
通釈 君により我が名は花に春霞野にも山にも立ち満ちにけり

歌番号六七六
伊勢
伊勢

和歌 志累止以部者枕多尓世天祢之物遠知利奈良奴奈乃曽良尓多川良武
読下 しるといへは枕たにせてねし物をちりならぬなのそらにたつらむ
通釈 知ると言へば枕だにせで寝しものを塵ならぬ名の空に立つらむ
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