草香山謌一首
標訓 草香山(くさかやま)の謌一首
集歌一四二八
原文 忍照 難波乎過而 打靡 草香乃山乎 暮晩尓 吾越来者 山毛世尓 咲有馬酔木乃 不悪 君乎何時 徃而早将見
訓読 おし照る 難波(なには)を過ぎて うち靡く 草香(くさか)の山を 夕暮れに 吾が越え来れば 山も狭(せ)に 咲ける馬酔木(あしび)の 悪(あ)しからぬ 君をいつしか 往(い)きて早見む
私訳 空と海の両方から照り輝く難波を過ぎて、草が靡く草香の山を夕暮れに私が越えて来れば、山の道を狭めるように咲く馬酔木の、その心憎くない貴女に、何時逢えるのか。此の路を行って早く貴女に会いたい。
左注 右一首、依作者微不顕名字
注訓 右の一首は、作る者の微(いや)しきに依りて名字(な)を顕(あら)はさず。
櫻花謌一首并短謌
標訓 櫻花の謌一首并せて短謌
集歌一四二九
原文 感嬬等之 頭挿乃多米尓 遊士之 蘰之多米等 敷座流 國乃波多弖尓 開尓鶏類 櫻花能 丹穂日波母安奈何 (感は、女+感の当字)
訓読 官嬬(をとめ)らし挿頭(かざし)のために 遊士(みやびを)し蘰(かづさ)しためと 敷き坐(ま)せる 国のはたてに 咲きにける 桜し花の 色付(にほひ)はもあなか
私訳 宮女達が髪に刺すために、風流な男が髪飾りにするようにと、大王が統治なされる国の果てまでに咲いた桜の花の、美しさは格別です。
反謌
集歌一四三〇
原文 去年之春 相有之君尓 戀尓手師 櫻花者 迎来良之母
訓読 去年(こぞ)し春逢へりし君に恋ひにてし桜の花は迎へけらしも
私訳 去年の春に御逢いした貴方を尊敬してきた桜の花は、今年も貴方を歓迎しているようです。
左注 右二首、若宮年魚麻呂誦之
注訓 右の二首は、若宮(わかみやの)年魚麻呂(あゆまろ)の之を誦(うた)へり。
山部宿祢赤人謌一首
標訓 山部宿祢赤人の謌一首
集歌一四三一
原文 百濟野乃 芽古枝尓 待春跡 居之鴬 鳴尓鶏鵡鴨
訓読 百済(くだら)野(の)の萩し古枝(ふるえ)に春待つと居(を)りし鴬鳴きにけむかも
私訳 百済野の萩の古い枝に春を待つように留まっている鶯は、もう、啼き出したかなあ。
大伴坂上郎女柳謌二首
標訓 大伴坂上郎女の柳の謌二首
集歌一四三二
原文 吾背兒我 見良牟佐保道乃 青柳乎 手折而谷裳 見綵欲得
訓読 吾が背児が見らむ佐保(さほ)道(ぢ)の青柳(あをやなぎ)を手(た)折(を)りてだにも見しめてもがも
私訳 私の愛しいあの児が見たでしょう。あの佐保の道の青柳を、その手折った枝だけでも、見せて飾ってあげたいものです。
注意 原文の「見綵欲得」は標準解釈では「見縁欲得」と校訂して「見るよしもがも」と訓じます。
標訓 草香山(くさかやま)の謌一首
集歌一四二八
原文 忍照 難波乎過而 打靡 草香乃山乎 暮晩尓 吾越来者 山毛世尓 咲有馬酔木乃 不悪 君乎何時 徃而早将見
訓読 おし照る 難波(なには)を過ぎて うち靡く 草香(くさか)の山を 夕暮れに 吾が越え来れば 山も狭(せ)に 咲ける馬酔木(あしび)の 悪(あ)しからぬ 君をいつしか 往(い)きて早見む
私訳 空と海の両方から照り輝く難波を過ぎて、草が靡く草香の山を夕暮れに私が越えて来れば、山の道を狭めるように咲く馬酔木の、その心憎くない貴女に、何時逢えるのか。此の路を行って早く貴女に会いたい。
左注 右一首、依作者微不顕名字
注訓 右の一首は、作る者の微(いや)しきに依りて名字(な)を顕(あら)はさず。
櫻花謌一首并短謌
標訓 櫻花の謌一首并せて短謌
集歌一四二九
原文 感嬬等之 頭挿乃多米尓 遊士之 蘰之多米等 敷座流 國乃波多弖尓 開尓鶏類 櫻花能 丹穂日波母安奈何 (感は、女+感の当字)
訓読 官嬬(をとめ)らし挿頭(かざし)のために 遊士(みやびを)し蘰(かづさ)しためと 敷き坐(ま)せる 国のはたてに 咲きにける 桜し花の 色付(にほひ)はもあなか
私訳 宮女達が髪に刺すために、風流な男が髪飾りにするようにと、大王が統治なされる国の果てまでに咲いた桜の花の、美しさは格別です。
反謌
集歌一四三〇
原文 去年之春 相有之君尓 戀尓手師 櫻花者 迎来良之母
訓読 去年(こぞ)し春逢へりし君に恋ひにてし桜の花は迎へけらしも
私訳 去年の春に御逢いした貴方を尊敬してきた桜の花は、今年も貴方を歓迎しているようです。
左注 右二首、若宮年魚麻呂誦之
注訓 右の二首は、若宮(わかみやの)年魚麻呂(あゆまろ)の之を誦(うた)へり。
山部宿祢赤人謌一首
標訓 山部宿祢赤人の謌一首
集歌一四三一
原文 百濟野乃 芽古枝尓 待春跡 居之鴬 鳴尓鶏鵡鴨
訓読 百済(くだら)野(の)の萩し古枝(ふるえ)に春待つと居(を)りし鴬鳴きにけむかも
私訳 百済野の萩の古い枝に春を待つように留まっている鶯は、もう、啼き出したかなあ。
大伴坂上郎女柳謌二首
標訓 大伴坂上郎女の柳の謌二首
集歌一四三二
原文 吾背兒我 見良牟佐保道乃 青柳乎 手折而谷裳 見綵欲得
訓読 吾が背児が見らむ佐保(さほ)道(ぢ)の青柳(あをやなぎ)を手(た)折(を)りてだにも見しめてもがも
私訳 私の愛しいあの児が見たでしょう。あの佐保の道の青柳を、その手折った枝だけでも、見せて飾ってあげたいものです。
注意 原文の「見綵欲得」は標準解釈では「見縁欲得」と校訂して「見るよしもがも」と訓じます。