竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
初めてのお人でも、それなりのお人でも、楽しめると思います。

万葉集 集歌1428から集歌1432まで

2021年01月29日 | 新訓 万葉集
草香山謌一首
標訓 草香山(くさかやま)の謌一首
集歌一四二八 
原文 忍照 難波乎過而 打靡 草香乃山乎 暮晩尓 吾越来者 山毛世尓 咲有馬酔木乃 不悪 君乎何時 徃而早将見
訓読 おし照る 難波(なには)を過ぎて うち靡く 草香(くさか)の山を 夕暮れに 吾が越え来れば 山も狭(せ)に 咲ける馬酔木(あしび)の 悪(あ)しからぬ 君をいつしか 往(い)きて早見む
私訳 空と海の両方から照り輝く難波を過ぎて、草が靡く草香の山を夕暮れに私が越えて来れば、山の道を狭めるように咲く馬酔木の、その心憎くない貴女に、何時逢えるのか。此の路を行って早く貴女に会いたい。
左注 右一首、依作者微不顕名字
注訓 右の一首は、作る者の微(いや)しきに依りて名字(な)を顕(あら)はさず。

櫻花謌一首并短謌
標訓 櫻花の謌一首并せて短謌
集歌一四二九 
原文 感嬬等之 頭挿乃多米尓 遊士之 蘰之多米等 敷座流 國乃波多弖尓 開尓鶏類 櫻花能 丹穂日波母安奈何 (感は、女+感の当字)
訓読 官嬬(をとめ)らし挿頭(かざし)のために 遊士(みやびを)し蘰(かづさ)しためと 敷き坐(ま)せる 国のはたてに 咲きにける 桜し花の 色付(にほひ)はもあなか
私訳 宮女達が髪に刺すために、風流な男が髪飾りにするようにと、大王が統治なされる国の果てまでに咲いた桜の花の、美しさは格別です。

反謌
集歌一四三〇 
原文 去年之春 相有之君尓 戀尓手師 櫻花者 迎来良之母
訓読 去年(こぞ)し春逢へりし君に恋ひにてし桜の花は迎へけらしも
私訳 去年の春に御逢いした貴方を尊敬してきた桜の花は、今年も貴方を歓迎しているようです。
左注 右二首、若宮年魚麻呂誦之
注訓 右の二首は、若宮(わかみやの)年魚麻呂(あゆまろ)の之を誦(うた)へり。

山部宿祢赤人謌一首
標訓 山部宿祢赤人の謌一首
集歌一四三一 
原文 百濟野乃 芽古枝尓 待春跡 居之鴬 鳴尓鶏鵡鴨
訓読 百済(くだら)野(の)の萩し古枝(ふるえ)に春待つと居(を)りし鴬鳴きにけむかも
私訳 百済野の萩の古い枝に春を待つように留まっている鶯は、もう、啼き出したかなあ。

大伴坂上郎女柳謌二首
標訓 大伴坂上郎女の柳の謌二首
集歌一四三二 
原文 吾背兒我 見良牟佐保道乃 青柳乎 手折而谷裳 見綵欲得
訓読 吾が背児が見らむ佐保(さほ)道(ぢ)の青柳(あをやなぎ)を手(た)折(を)りてだにも見しめてもがも
私訳 私の愛しいあの児が見たでしょう。あの佐保の道の青柳を、その手折った枝だけでも、見せて飾ってあげたいものです。
注意 原文の「見綵欲得」は標準解釈では「見縁欲得」と校訂して「見るよしもがも」と訓じます。

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万葉集 集歌1423から集歌1427まで

2021年01月28日 | 新訓 万葉集
中納言阿倍廣庭卿謌一首
標訓 中納言阿倍廣庭卿の謌一首
集歌一四二三 
原文 去年春 伊許自而殖之 吾屋外之 若樹梅者 花咲尓家里
訓読 去年(こぞ)し春い掘(こ)じて植ゑし吾が屋外(やと)し若樹し梅は花咲きにけり
私訳 昨年の春に掘って植えた私の家の若木の梅に花が咲きました。

山部宿祢赤人謌四首
標訓 山部宿祢赤人の謌四首
集歌一四二四 
原文 春野尓 須美礼採尓等 来師吾曽 野乎奈都可之美 一夜宿二来
訓読 春し野にすみれ摘みにと来(こ)し吾そ野をなつかしみ一夜(ひとよ)寝(ね)にける
私訳 春の野にすみれを摘みにと、来た私です。この野に心が引かれ、ここで夜を過しました。

集歌一四二五 
原文 足比奇乃 山櫻花 日並而 如是開有者 甚戀目夜裳
訓読 あしひきの山桜花日(け)並(なら)べてかく咲きたらばいたく恋ひめやも
私訳 足を引くような険しい山の山桜の花、何日もこのように咲いているのならば、どうして桜の花に心を引かれるでしょうか。

集歌一四二六 
原文 吾勢子尓 令見常念之 梅花 其十方不所見 雪乃零有者
訓読 吾が背子に見せむと念(おも)ひし梅の花それとも見えず雪の降れれば
私訳 私の愛しい貴方に見せましょうと想った梅の花、その花がどこにあるのか判らない。雪が降ったので。

集歌一四二七 
原文 従明日者 春菜将採跡 標之野尓 昨日毛今日毛 雪波布利管
訓読 明日(あす)よりは春菜摘まむと標(し)めし野に昨日(きのふ)も今日(けふ)も雪は降りつつ
私訳 明日からは春の若菜を摘もうと。その人の立ち入りが禁じられた野に、昨日も今日も雪が降り続く。

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万葉集 集歌1418から集歌1422

2021年01月27日 | 新訓 万葉集
春雜謌
標訓 春の雑歌(くさぐさのうた)

志貴皇子懽御謌一首
標訓 志貴皇子の懽(よろこび)の御歌一首
集歌一四一八 
原文 石激 垂見之上乃 左和良妣乃 毛要出春尓 成来鴨
訓読 石(いは)激(たぎ)し垂水(たるみ)し上のさわらびの萌よ出づる春になりにけるかも
私訳 滝の岩の上をはじけ降る垂水の上に緑鮮やかな若いワラビが萌え出る春になったようです。
注意 原文の「石激」は、標準解釈では「いははしる」と訓じます。このため滝の水の弾け飛ぶ景色が違います。

鏡王女謌一首
標訓 鏡王女の謌一首
集歌一四一九 
原文 神奈備乃 伊波瀬乃社之 喚子鳥 痛莫鳴 吾戀益
訓読 神奈備(かむなび)の伊波瀬(いはせ)の社(もり)し呼子鳥(よぶこどり)いたくな鳴きそ吾が恋まさる
私訳 神様が神下りになる龍田の磐瀬の社の呼子鳥よ、そんなに悲痛に鳴かないで、亡くなったあの人への思い出と想いが益々悲しく募ってきます。

駿河采女
標訓 駿河(するがの)采女(うねめ)
集歌一四二〇 
原文 沫雪香 薄太礼尓零登 見左右二 流倍散波 何物之花其毛
訓読 沫雪(あわゆき)かはだれに降ると見るさへに流らへ散るは何物(なにも)し花ぞも
私訳 沫雪なのでしょうか、まだら模様に空から降ると見るほどに空から流れ散るのは何の花でしょうか

尾張連謌二首 (名闕)
標訓 尾張連の謌二首 (名は闕(か)けたり)
集歌一四二一 
原文 春山之 開乃乎為黒尓 春菜採 妹之白紐 見九四与四門
訓読 春山し咲きの愛(を)しくに春菜摘む妹し白紐(しらひも)見らくし良しも
私訳 春山の桜の花の咲くのをめでいつくしむ。春菜を摘む恋人の衣の白い(下)紐を眺めるのも快いことです。
注意 原文の「乎為黒尓」は、標準解釈では「乎為里尓」と校訂して「ををりに」と訓じます。

集歌一四二二 
原文 打麾 春来良之 山際 遠木末乃 開徃見者
訓読 うち麾(まね)く春来(き)たるらし山し際(は)し遠き木末(こぬれ)の咲きゆく見れば
私訳 望んでいた春がやって来たらしい。山の稜線にある遠くの樹の梢に花が咲いているの見ると。
注意 原文の「打麾」は、標準解釈では「打靡」と校訂して「うち靡く」と訓じます。
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万葉集 集歌1413から集歌1417まで

2021年01月26日 | 新訓 万葉集
集歌一四一三 
原文 庭津鳥 下鷄乃垂尾乃 乱尾乃 長心毛 不所念鴨
訓読 庭つ鳥(とり)下鶏(しと)の垂(たり)尾(を)の乱(みだれ)尾(を)の長き心も念(おも)ほえぬかも
私訳 庭にいる地上に降りた鶏の垂れた尾羽が乱れる、その尾羽のように心も乱れ、貴女と末永くと思う気持ちも、今は願うことが出来ない。

集歌一四一四 
原文 薦枕 相巻之兒毛 在者社 夜乃深良久毛 吾惜責
訓読 薦(こも)枕(まくら)相(あひ)纏(ま)きし子もあらばこそ夜(よ)の更(ふ)くらくも吾(あ)が惜(を)しみ責(せ)む
私訳 薦で造った枕を共にして二人で抱き合って寝た貴女が居たからこそ、夜が更けていくことを私は慈しみかつ残念に思ったのです。

集歌一四一五 
原文 玉梓能 妹者珠氈 足氷木乃 清山邊 蒔散染
訓読 玉梓の妹は珠かもあしひきの清(きよ)き山辺(やまへ)に蒔(ま)けば散り染(そ)む
私訳 玉梓の使いが知らせをもたらした貴女は、まるで大切な珠や渡来の毛氈です。寒さ厳しい木々の茂る清らかな山に貴女の灰を撒くと、山は珠や毛氈のように美しく黄葉に染まりました。

或本謌曰
標訓 或る本の歌に曰はく、
集歌一四一六 
原文 玉梓之 妹者花可毛 足日木乃 此山影尓 麻氣者失留
訓読 玉梓し妹は花かもあしひきのこの山(やま)蔭(かげ)に蒔(ま)けば失せぬる
私訳 玉梓の使いが知らせをもたらした貴女は、花なのかもしれません。足や檜の生えるこの山陰に貴女の灰を撒くと、灰とともにこの花も散り失せるでしょう。

羈旅謌
標訓 羈旅(たび)の謌
集歌一四一七 
原文 名兒乃海乎 朝榜来者 海中尓 鹿子曽鳴成 可怜其水手
訓読 名児(なご)の海を朝榜(こ)ぎ来れば海中(わたなか)に鹿子(かこ)ぞ鳴くなるあはれその水手(かこ)
私訳 名児の海を朝に船を操ってやって来ると、海の中に鹿が鳴いている。しみじみと感動する、舟を漕ぐように泳ぐその鹿よ。
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万葉集 集歌1408から集歌1412まで

2021年01月25日 | 新訓 万葉集
集歌一四〇八 
原文 狂語香 逆言哉 隠口乃 泊瀬山尓 廬為云
訓読 狂語(たはごと)か逆言(おとづれこと)か隠口(こもくり)の泊瀬(はつせ)し山に廬(いほり)すといふ
私訳 たわけた話なのでしょうか、逆言なのでしょうか。人が隠れるという隠口の泊瀬の山に貴女は籠っていると人は云っています。

集歌一四〇九 
原文 秋山 黄葉可怜 浦觸而 入西妹者 待不来
訓読 秋山し黄葉(もみち)あはれびうらぶれて入りにし妹は待てど来まさず
私訳 秋山の黄葉は可怜で美しいが、なぜかうら寂しい。秋山の美しい黄葉に引かれて行った愛しい貴女は、待っていても帰ってきません。

集歌一四一〇 
原文 世間者 信二代者 不徃有之 過妹尓 不相念者
訓読 世間(よのなか)はまこと二(ふた)代(よ)は往(ゆ)かざらし過ぎにし妹に逢はなく念(おも)へば
私訳 人のこの世は、本当に二世代に渡って長く生きることは出来ないようです。逝き過ぎていった貴女に逢えないと思うと。

集歌一四一一 
原文 福 何有人香 黒髪之 白成左右 妹之音乎聞
訓読 福(さきはい)しいかなる人か黒髪し白くなるまで妹し声を聞く
私訳 幸福な人とは、どのような人でしょうか。黒髪が白髪に変わるまで愛しい妻の声を聞くことでしょうか。

集歌一四一二 
原文 吾背子乎 何處行目跡 辟竹之 背向尓宿之久 今思悔裳
訓読 吾が背子を何処(いづち)行かめと辟(さき)竹(たけ)し背向(そがひ)に寝(ね)しく今し悔(くや)しも
私訳 私の愛しい貴女が何処に行くことがあるでしょうかと、捩れ竹のように曲げた背を向けて夜を寝たことが、今は残念で悔いが残ります。

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