集歌三三四
原文 萱草 吾紐二付 香具山乃 故去之里乎 不忘之為
訓読 萱草(わすれくさ)吾が紐に付く香具山の古(ふ)りにし里を忘れむしため
私訳 美しさに物思いを忘れると云うその忘れ草を私は紐に付けよう。懐かしい香具山の古りにし故郷を忘れないようにするために。
注意 原文の「不忘之為」は、意味不明として標準解釈では「忘之為」に校訂します。
集歌三三五
原文 吾行者 久者不有 夢乃和太 湍者不成而 淵有毛
訓読 吾が行きは久にはあらじ射目(いめ)のわた湍(せ)にはならずに淵(ふち)にあらぬかも
私訳 私のこの世の寿命は長くはないであろう。御狩りで射目を立てた思い出の吉野下市の川の曲りは、急流の瀬に変わることなく穏やか淵であってほしい。
注意 集歌三三二の歌で「象小河」を秋津の小路川としている関係で、「夢乃和太」を「射目のわた」と訓じ、下市町新住としています。
沙弥満誓詠綿謌一首 造筑紫觀音寺別當俗姓笠朝臣麿也
標訓 沙弥満誓の綿を詠ふ謌一首 造筑紫觀音寺の別当、俗姓は笠朝臣麿(かさのあそみまろ)なり。
集歌三三六
原文 白縫 筑紫乃綿者 身箸而 未者妓袮杼 暖所見
訓読 しらぬひし筑紫の綿(わた)は身し付けにいまだは着ねど暖(あたた)かそ見ゆ
私訳 「射目のわた」、その言葉のひびきのような、不知火の呼び名を持つ筑紫の名産のの綿(わた)の衣は身に着けて着るものですが、僧侶になったばかりで仏法の修行の段階は端の、箸のように痩せた私は未だに身に着けていませんが、女性のように暖かく見えます。
注意 原文の「未者妓袮杼」の「妓」は標準解釈では「伎」の誤字とします。
山上憶良臣罷宴謌一首
標訓 山上憶良臣の宴(うたげ)を罷(まか)るの謌一首
集歌三三七
原文 憶良等者 今者将罷 子将哭 其彼母毛 吾乎将待曽
訓読 憶良らは今は罷(まか)らむ子哭(な)くらむそのかの母も吾を待つらむぞ
私訳 私たち憶良一行は、今はもう御暇しましょう。子が私を待って恨めしげに泣いているでしょう。その子の母も私を待っているでしょうから。
大宰帥大伴卿讃酒謌十三首
標訓 大宰帥大伴卿の酒を讃(たた)へる歌十三首
集歌三三八
原文 験無 物乎不念者 一坏乃 濁酒乎 可飲有良師
訓読 験(しるし)なき物を念(おも)はずは一杯(ひとつき)の濁れる酒を飲むべくあらし
私訳 考えてもせん無いことを物思いせずに一杯の濁り酒を飲むほうが良いのらしい。
原文 萱草 吾紐二付 香具山乃 故去之里乎 不忘之為
訓読 萱草(わすれくさ)吾が紐に付く香具山の古(ふ)りにし里を忘れむしため
私訳 美しさに物思いを忘れると云うその忘れ草を私は紐に付けよう。懐かしい香具山の古りにし故郷を忘れないようにするために。
注意 原文の「不忘之為」は、意味不明として標準解釈では「忘之為」に校訂します。
集歌三三五
原文 吾行者 久者不有 夢乃和太 湍者不成而 淵有毛
訓読 吾が行きは久にはあらじ射目(いめ)のわた湍(せ)にはならずに淵(ふち)にあらぬかも
私訳 私のこの世の寿命は長くはないであろう。御狩りで射目を立てた思い出の吉野下市の川の曲りは、急流の瀬に変わることなく穏やか淵であってほしい。
注意 集歌三三二の歌で「象小河」を秋津の小路川としている関係で、「夢乃和太」を「射目のわた」と訓じ、下市町新住としています。
沙弥満誓詠綿謌一首 造筑紫觀音寺別當俗姓笠朝臣麿也
標訓 沙弥満誓の綿を詠ふ謌一首 造筑紫觀音寺の別当、俗姓は笠朝臣麿(かさのあそみまろ)なり。
集歌三三六
原文 白縫 筑紫乃綿者 身箸而 未者妓袮杼 暖所見
訓読 しらぬひし筑紫の綿(わた)は身し付けにいまだは着ねど暖(あたた)かそ見ゆ
私訳 「射目のわた」、その言葉のひびきのような、不知火の呼び名を持つ筑紫の名産のの綿(わた)の衣は身に着けて着るものですが、僧侶になったばかりで仏法の修行の段階は端の、箸のように痩せた私は未だに身に着けていませんが、女性のように暖かく見えます。
注意 原文の「未者妓袮杼」の「妓」は標準解釈では「伎」の誤字とします。
山上憶良臣罷宴謌一首
標訓 山上憶良臣の宴(うたげ)を罷(まか)るの謌一首
集歌三三七
原文 憶良等者 今者将罷 子将哭 其彼母毛 吾乎将待曽
訓読 憶良らは今は罷(まか)らむ子哭(な)くらむそのかの母も吾を待つらむぞ
私訳 私たち憶良一行は、今はもう御暇しましょう。子が私を待って恨めしげに泣いているでしょう。その子の母も私を待っているでしょうから。
大宰帥大伴卿讃酒謌十三首
標訓 大宰帥大伴卿の酒を讃(たた)へる歌十三首
集歌三三八
原文 験無 物乎不念者 一坏乃 濁酒乎 可飲有良師
訓読 験(しるし)なき物を念(おも)はずは一杯(ひとつき)の濁れる酒を飲むべくあらし
私訳 考えてもせん無いことを物思いせずに一杯の濁り酒を飲むほうが良いのらしい。