竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
初めてのお人でも、それなりのお人でも、楽しめると思います。

万葉集巻十二を鑑賞する  集歌3080から集歌3099まで

2011年10月31日 | 万葉集巻十二を鑑賞する
万葉集巻十二を鑑賞する


集歌3080 海若之 奥尓生有 縄垂乃 名者曽不告 戀者雖死
試訓 わたつみの沖に生ひたる縄垂(なはたり)の名はかつて告(の)らじ恋ひは死ぬとも

試訳 大海原の沖合に生えた縄を垂らしたような「莫告藻」、その言葉のように、貴方の名はけっして人には告げません。この恋に死んだとしても。

注意 原文の「縄垂乃」は、一般に「垂」を「乗」の誤記で「縄乗乃」であるとして「縄海苔の」と訓みます。ここでは、「縄垂乃」を「名告藻または莫告藻(なのりそ)」の水中での姿を想像して、原文のままに訓んでいます。


集歌3081 玉緒乎 片緒尓搓而 緒乎弱弥 乱時尓 不戀有目八方
訓読 玉の緒を片緒(かたを)に縒(よ)りて緒を弱(よわ)み乱(みだ)るる時に恋ひずあらめやも

私訳 玉を貫く紐の緒を片縒りに縒って、緒が弱り切れ乱れる。そのように気持ちが弱り、心が乱れる時に、恋い焦がれ続けられるでしょうか。


集歌3082 君尓不相 久成宿 玉緒之 長命之 惜雲無
訓読 君に逢はず久しくなりぬ玉の緒の長き命の惜しけくもなし

私訳 貴方に逢わなくなって久しくなりました。玉を貫く紐の緒のように長いこの命は、もう、短くなっても惜しくはありません。


集歌3083 戀事 益今者 玉緒之 絶而乱而 可死所念
訓読 恋ふることまされる今は玉の緒の絶えて乱(みだ)れて死ぬべく思ほゆ

私訳 貴方に抱かれることを一層に願う今は、玉を貫く紐の緒が切れ、その玉が乱れるように、二人の仲が絶え、心を乱して、恋に死んでしまうのではないかと思ってしまう。


集歌3084 海處女 潜取云 忘貝 代二毛不忘 妹之容儀者
訓読 海人(あま)娘子(をとめ)潜(かづ)き採るといふ忘れ貝世にも忘れじ妹が姿は

私訳 漁師の娘が潜って採ると云う、忘れ貝。その言葉ではないが、決して忘れません。貴女のお姿は。


集歌3085 朝影尓 吾身者成奴 玉蜻 髣髴所見而 徃之兒故尓
訓読 朝影(あさかげ)に吾(あ)が身はなりぬ玉かぎるほのかに見えて去(い)にし子ゆゑに

私訳 朝の影法師のように私の体は痩せ細ってしまった。玉がきらめくようにわずかに姿を見せて行ってしまったあの娘子のために。


集歌3086 中々二 人跡不在者 桑子尓毛 成益物乎 玉之緒許
訓読 なかなかに人とあらずは桑子(くはこ)にもならましものを玉の緒ばかり

私訳 中途半端に人間にならないで、蚕にでもなればよかった。糸となり、貴女が身に纏う玉を貫く紐の緒ほどに。


集歌3087 真菅吉 宗我乃河原尓 鳴千鳥 間無吾背子 吾戀者
訓読 真菅(ますげ)よし宗我(そが)の川原に鳴く千鳥間(ま)なし吾(あ)が背子吾(あ)が恋ふらくは

私訳 まっすぐな菅が美しい、その言葉のひびきのような、宗我の河原に鳴く千鳥。その千鳥が間なく鳴くように、間なく(いつもです)、私の愛しい貴方。私が恋い焦がれるのは。


集歌3088 戀衣 著猶乃山尓 鳴鳥之 間無無時 吾戀良苦者
試訓 恋(こひ)衣(ころも)毛無(けなし)の山に鳴く鳥の間(ま)無し為し時吾(あ)が恋ふらくは

試訳 恋の衣を着直しする(=元通りにする、取りなす)、その言葉のひびきではないが、毛無の山に鳴く鳥が、間が無いようにしきりに鳴くように、しきりにしています。私が貴方を恋い焦がれるのは。

注意 原文の「著猶乃山尓」は、一般に「猶」を「楢」の誤記で「著楢乃山尓」として「着奈良の山に」と訓みます。ここでは原文のままに訓んでいます。そこから「着直す」と「毛無し」の言葉が顕れます。

参考歌
集歌1466 神名火乃 磐瀬之社之 霍公鳥 毛無乃岳尓 何時来将鳴
訓読 神名火(かむなひ)の磐瀬(いはせ)の社(もり)の霍公鳥(ほととぎす)毛無(けなし)の岳(おか)にいつか来鳴かむ

私訳 神が宿る磐瀬の社に棲むホトトギス。その磐瀬の社の毛無の岳、その言葉のひびきのように、過去に戻りたいと云う「気直し」に、何時になれば飛び来て啼くのだろうか。


集歌3089 遠津人 猟道之池尓 住鳥之 立毛居毛 君乎之曽念
訓読 遠つ人狩道(かりぢ)の池に住む鳥の立ちても居ても君をしぞ思ふ

私訳 遠い人との便りを結ぶと云う雁、その雁の狩道の池に棲む鳥が飛び立ち飛び来るように、立っていても座っていても、貴方のことばかりを恋い慕っています。

注意 原文の「遠津人」は、漢書 蘇武伝に載る「雁書」の故事を引いています。

参考歌
集歌3947 家佐能安佐氣 秋風左牟之 登保都比等 加里我来鳴牟 等伎知可美香物
訓読 今朝(けさ)の朝明(あさけ)秋風寒し遠つ人雁が来鳴かむ時近みかも

私訳 今日の明け方の秋風が寒い。遠い人との便りを結ぶと云う雁が飛び来て鳴く時期が近くなったのだろう。


集歌3090 葦邊徃 鴨之羽音之 聲耳 聞管本名 戀度鴨
訓読 葦辺(あしへ)行く鴨の羽音(はおと)の音(ね)のみに聞きつつもとな恋ひわたるかも

私訳 葦原のあたりを飛び行く鴨の羽音を聞いてその姿を思うように、噂だけを聴き続けるだけで、むなしく恋い慕っています。


集歌3091 鴨尚毛 己之妻共 求食為而 所遺間尓 戀云物乎
訓読 鴨すらも己(おの)が妻どち求食(あさり)して後(おく)るる間(ほと)に恋ふといふものを

私訳 鴨ですら自分の妻と共に餌をあさるときに、片方が連れ添い行くことに遅れるだけでも、恋しがると云うではありませんか。


集歌3092 白檀 斐太乃細江之 菅鳥乃 妹尓戀哉 寐宿金鶴
訓読 白檀(しらまゆみ)斐太(ひだ)の細江(ほそえ)の菅鳥(すがとり)の妹に恋(こ)ふれか眠(い)を寝(ね)かねつる

私訳 白い檀の木で作った真弓、その真弓で有名な飛騨の細い淵に居る菅鳥のような愛しい貴女に恋い焦がれるからか、寝るに寝つけない。


集歌3093 小竹之上尓 来居而鳴 目乎安見 人妻姤尓 吾戀二来
試訓 小竹(しの)の上(へ)に来(き)し居(ゐ)て鳴きて目を安み人妻遇(あ)ふに吾(われ)恋ひにけり

試訳 小竹の葉末に飛び来て囀りまばたきを緩やかにし、気を許す。その姿のように周りに気を許して、私の思いのままにならない娘に出会い、私はその娘に恋したようです。

注意 原文の「人妻姤尓」は、一般には「人妻ゆゑに」と訓みますが、ここでは「姤」の漢字の意味を尊重して、原文のままに訓んでいます。それで、歌意が違います。


集歌3094 物念常 不宿起有 旦開者 和備弖鳴成 鶏左倍
訓読 物念(も)ふと寝(ゐ)ねず起きたる朝明(あさけ)にはわびて鳴くなり庭つ鳥さへ

私訳 物思いに沈んで夜を寝ないで起きていた朝明け時には、わびしそうに鳴いている。庭に居る鳥までも。


集歌3095 朝烏 早勿鳴 吾背子之 旦開之容儀 見者悲毛
訓読 朝烏(あさからす)早くな鳴きそ吾(あ)が背子が朝明(あさけ)の姿見れば悲しも

私訳 朝烏よ、そんなに早くから鳴かないでください。私の愛しい貴方が朝明けに帰って行く姿を見るのは悲しいことです。


集歌3096 柜楉越尓 麦咋駒乃 雖詈 猶戀久 思不勝焉
訓読 馬柵(うませ)越しに麦食む駒の罵(の)らゆれど猶(なほ)し恋しく思ひかねつも

私訳 馬柵の横木越しに麦を食べる駒が怒鳴り散らされるように、向こう側から面と向かって、きつく叱られるけれど、それでも愛おしく、貴女を恋い焦がれずにいられない。


集歌3097 左桧隈 〃〃河尓 駐馬 馬尓水令飲 吾外将見
訓読 さ桧(ひ)の隈(くま)桧の隈川(くまかは)に馬留め馬に水飼へ吾(われ)外(よそ)に見む

私訳 檜の隈にある桧隈川の岸辺に馬を留めて、馬に水を与えて下さい。私は、その間、そっと貴方の姿を覗き見しましょう。


集歌3098 於能礼故 所詈而居者 総馬之 面高夫駄尓 乗而應来哉
訓読 おのれゆゑ罵(の)らえて居(を)れば青馬の面高(おもたか)夫駄(ふた)に乗りて来(く)べきや

私訳 お前のために叱責を受けているのだから、そんな折に、青馬でも鼻面を上げた荷役に使うような駄馬に乗って私の許に来て良いものでしょうか。

右一首、平群文屋朝臣益人傳云、昔聞、紀皇女竊嫁高安王被嘖之時、御作歌。但、高安王、左降任伊与國守也。
注訓 右の一首は、平群文屋朝臣益人の傳へて云はく「昔に聞くには、紀皇女(きのひめみこ)、竊(ひそか)に高安(たかやすの)王(おほきみ)と嫁(あ)ひて嘖(ころ)はえらえし時、御(かた)りて作らしし歌」といへり。但し、高安王は、左降して伊与國守に任けらゆ。


集歌3099 紫草乎 草跡別々 伏鹿之 野者殊異為而 心者同
訓読 紫草(むらさき)を草(かや)と別(わ)く別く伏す鹿の野は異(こと)にして心は同じ

私訳 紫草の、その紫を高貴として野の草と区別して伏す鹿のように、住む野(身分)は違うけれど、思いは同じです。

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

万葉集巻十二を鑑賞する  集歌3060から集歌3079まで

2011年10月29日 | 万葉集巻十二を鑑賞する
万葉集巻十二を鑑賞する


集歌3060 萱草 吾紐尓著 時常無 念度者 生跡文奈思
訓読 忘れ草吾が紐に付く時と無く念(おも)ひ渡れば生(い)けりともなし

私訳 恋忘れ草を私は紐に着ける、いつと時を定めずに恋い焦がれると、生きているとも思えません。


集歌3061 五更之 目不酔草跡 此乎谷 見乍座而 吾止偲為
訓読 暁(あかとき)の目覚まし草とこれをだに見つつ坐(いま)して吾(われ)と偲(しの)はせ

私訳 暁の目覚めし草として、この花だけでも眺めながら日を過ごされ、私だと偲んで下さい。

注意 原文の「目不酔草」は、恋忘れ草である「萱草」ではないかとされています。そして、妻問いをしなかった男への皮肉の歌と解釈します。


集歌3062 萱草 垣毛繁森 雖殖有 鬼之志許草 猶戀尓家利
訓読 忘れ草垣(かき)もしみみに植ゑたれど醜(しこ)の醜草(しこくさ)なほ恋ひにけり

私訳 貴女を忘れるために想いを忘れるという萱草を生垣にぎっしり植えたけれど、鬼のような頑強な私なのにまだ貴女に恋をしている。


集歌3063 淺茅原 小野尓標結 空言毛 将相跡令聞 戀之名種尓
訓読 浅茅(あさぢ)原小野に標(しめ)結(ゆ)ふ空言(むなこと)も逢はむと聞こせ恋の慰に

私訳 巻向の浅茅ガ原の小野に約束の標を結ぶという空約束でも良いから、お互いに逢いましょうとおっしゃって下さい。恋の慰めに。

或本歌曰、将来知志 君牟志待。又見柿本朝臣人麻呂歌集、然落勺少異耳。
注訓 或る本の歌に曰はく、来むと知らせし君をし待たむ。また、柿本朝臣人麻呂の歌集に見ゆ。然れども落勺(らくしゃく)少しく異なるのみ。
(落勺:後半の内容)

参考歌
集歌2466 朝茅原 小野印 室事 何在云 公待
訓読 浅茅原(あさぢはら)小野に標結(しまゆ)ふ室事(むろこと)をいかなりと云ひて君は待たなむ

私訳 巻向の浅茅ガ原の小野に縄張りの標を結ぶ室(=小屋)、その言葉のひびきではないが、私との室事(=睦事)をどうしましょうと云って貴方がその小野で私を待っているでしょう。


集歌3064 皆人之 笠尓縫云 有間菅 在而後尓毛 相等曽念
訓読 皆人の笠に縫ふといふ有間(ありま)菅(すげ)ありて後にも逢(あ)はむとぞ思ふ

私訳 皆の人が笠に縫うと云う有間菅、その言葉でのひびきではないが、ありて後(貴女とのことがあった後も)再び逢いたいと恋願っています。


集歌3065 三吉野之 蜻乃小野尓 苅草之 念乱而 宿夜四曽多
訓読 み吉野の蜻蛉(あきづ)の小野に刈る草(かや)の思ひ乱れて寝(ぬ)る夜しぞ多き

私訳 美しい吉野の秋津の小野で刈る萱の原のように、思い乱れて眠る夜がたびたびです。


集歌3066 妹待跡 三笠乃山之 山菅之 不止八将戀 命不死者
訓読 妹待つと三笠の山の山菅(やますげ)の止(や)まずや恋ひむ命死なずは

私訳 愛しい貴女を待つと、三笠の山の山菅、その言葉のひびきではないが、止まずや(諦めることなく)恋い焦がれる。私の命が死ぬことが無ければ。


集歌3067 谷迫 峯邊延有 玉葛 令蔓之者 年二不来友
訓読 谷(たに)狭(せば)み峰辺(みねへ)に延(は)へる玉葛(たまかづら)延びしめしは年に来(こ)ずとも

私訳 谷が狭いので峰へと向かって延びたりっぱな葛蘰、すくすくとその蔓を延びさすならば、年に二度も来なくても。

一云 石葛 令蔓之有者
一は云はく、
訓読 石葛(いはかづら)蔓(つる)しあらしば
私訳 岩葛蘰の、その蔓がこれからもあるならば、

注意 この歌は七夕の年に一度の逢瀬を踏まえて、仲がすくすく育つなら、たびたび訪れなくても、彦星・織姫のように関係が続くと解釈するようです。


集歌3068 水茎之 岡乃田葛葉緒 吹變 面知兒等之 不見比鴨
訓読 水茎(みづくき)の岡の葛葉(ふぢは)を吹きかへし面(おも)知(し)る子らの見えぬころかも

私訳 みずみずしい茎の生える丘の藤の葉を風が吹き返し、その葉の裏白をはっきり知るように、はっきりと顔を知っているあの娘と、抱き合うことのない今日この頃です。


集歌3069 赤駒之 射去羽計 真田葛原 何傳言 直将吉
訓読 赤駒のい行きはばかる真葛原(まふぢはら)何の伝言(つてこと)直(ただ)にし良(え)けむ

私訳 赤駒が行きなやむような一面の葛の原のように、人にはばかる伝言は、何に役立つ伝言でしょうか。直接、お逢いするのが嬉しいのに。


集歌3070 木綿疊 田上山之 狭名葛 在去之毛 令不有十万
訓読 木綿(ゆふ)畳(たたみ)田上山(たなかみやま)のさな葛(かづら)ありさりてしもあらずしめとも

私訳 木綿の幣を畳む、その言葉のひびきではないが、田上山の、その山にあるさな葛があり続けるように、時が過ぎ去っても、そうでなかったとしても。二人の仲は今のまま。


集歌3071 舟波道之 大江乃山之 真玉葛 絶牟乃心 我不思
訓読 舟波(ふなは)道(ぢ)の大江の山の真玉葛(またまづら)絶えむの心我が思はなくに

私訳 舟波道の大江の山の美しい玉を着ける蔓葛の蔓が切れ絶える、そのように二人の仲が切れ絶えてしまうなどと私は思ってもいません。


集歌3072 大埼之 有礒乃渡 延久受乃 徃方無哉 戀度南
訓読 大崎の荒礒(ありそ)の渡り延(は)ふ葛(くす)の行方(ゆくへ)も無くや恋ひ渡りなむ

私訳 大崎の荒磯の渡し場、その渡し場に延びる葛の蔓のあてどもないように、あてどもなく恋い焦がれ続けるだろう。


集歌3073 木綿裏 (一云 疊) 白月山之 佐奈葛 後毛必 将相等曽念
訓読 木綿(ゆふ)包み (一(ある)は云はく、 畳(たたみ)) 白月山(しろつきやま)のさな葛(かづら)後もかならず逢はむとぞ思ふ

私訳 木綿を包むような(或いは云うに、木綿の幣を畳むような)白い、その白月山に生えるさな葛、その蔓が延びた後にも会うように、別れた後もまた逢いたいと恋願っています。

或本歌曰 将絶跡妹乎 吾念莫久尓
或る本の歌に曰はく、
訓読 絶えむと妹を吾(あ)が念(おも)はなくに

私訳 蔓が切れ絶える、そのように二人の仲が切れ絶えるなどと貴女のことを私は思ってもいません。


集歌3074 唐棣花色之 移安 情有者 年乎曽寸經 事者不絶而
訓読 唐棣色(はねずいろ)の移(うつ)ろひやすき情(こころ)なれば年をぞ来(き)経(ふ)る事(こと)は絶えずて

私訳 唐棣花の色が褪せやすいように、貴方が移り気な心根なので、逢うことなく今年一年が経ってしまった。手紙のやり取りは絶えませんが。


集歌3075 如此為而曽 人之死云 藤浪乃 直一目耳 見之人故尓
訓読 かくしてぞ人は死ぬといふ藤波(ふぢなみ)のただ一目のみ見し人ゆゑに

私訳 このようにして人は死ぬと云います。美しい藤波の花のように、ただ、一目ほどに見た(ほんのわずかに抱き合った)あの人のために。


集歌3076 住吉之 敷津之浦乃 名告藻之 名者告而之乎 不相毛恠
訓読 住吉(すみのえ)の敷津(しきつ)の浦の名告藻(なのりそ)の名は告(の)りてしを逢はなくも怪(あや)し

私訳 住吉の敷津の浦の名告藻、その言葉ではないが、人に知らせないその名を貴女に告げたのに、その貴女に逢えないことも不思議だ。


集歌3077 三佐呉集 荒礒尓生流 勿謂藻乃 吉名者不吉 父母者知鞆
試訓 みさご居(ゐ)る荒礒(ありそ)に生(お)ふる莫告藻(なのりそ)の吉(よ)し名は不吉(わろ)し親は知るとも

試訳 ミサゴが巣取る荒磯に生える莫告藻、その言葉ではないが、「名告藻」とは良い言葉だが「莫告藻」とは良くない言葉、親が二人の仲を気付いても、(「名告藻」のように貴女の名前を告げて下さい。)

注意 原文の「吉名者不吉」は、一般に「不吉」の「吉」は「告」の誤記で「吉名者不告」として「吉し名は告げず」と訓みます。ここでは原文のままに訓んでいます。そのために歌意が違います。当然、この歌は原文の漢字表記まで立ち返れば判る、言葉遊びの歌です。


集歌3078 浪之共 靡玉藻乃 片念尓 吾念人之 言乃繁家口
訓読 波の共(むた)靡(なび)く玉藻の片思(かたもひ)に吾(あ)が念(も)ふ人の言(こと)の繁けく

私訳 波とともに靡く美しい藻のように、心が揺れ動く片思いなのに、私が恋い慕うあの人の噂話がしきりです。


集歌3079 海若之 奥津玉藻乃 靡将寐 早来座君 待者苦毛
訓読 わたつみの沖つ玉藻の靡き寝(ね)む早来ませ君待たば苦しも

私訳 大海原の沖合の美しい藻が波に靡き流れるように、黒髪を靡びかせ共に寝ましょう。早く来て下さい。貴方。貴方を待っているとこの身が辛い。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

万葉集巻十二を鑑賞する  集歌3040から集歌3059まで

2011年10月27日 | 万葉集巻十二を鑑賞する
万葉集巻十二を鑑賞する


集歌3040 後遂尓 妹将相跡 旦露之 命者生有 戀者雖繁
訓読 後(のち)つひに妹は逢はむと朝露(あさつゆ)の命は生(い)けり恋は繁けど

私訳 最後にはきっと愛しい貴女は私に逢う(=抱かれる)だろうと、朝露のようなはかない私の命は生きながらえている。恋の想いは激しいが。


集歌3041 朝旦 草上白 置露乃 消者共跡 云師君者毛
訓読 朝(あさ)な朝(さ)な草の上(へ)白く置く露の消(け)なば共(とも)にと云ひし君はも

私訳 毎朝に草の上に白く置く露のように、はかなくこの世の命が消えるなら、貴女と共に消え失せたいとおっしゃった貴方です。


集歌3042 朝日指 春日能小野尓 置露乃 可消吾身 惜雲無
訓読 朝日さす春日の小野に置く露の消(け)ぬべき吾(あ)が身(み)惜(を)しけくもなし

私訳 朝日が射し込める春日の小野に置く露のように、この世から消え失せるようなわが身なぞ、惜しくもありません。


集歌3043 露霜乃 消安我身 雖老 又若反 君乎思将待
訓読 露霜(つゆしも)の消やすき我が身老いぬともまた若(をち)反(かへ)り君をし待たむ

私訳 露や霜のように消え失せそうな、そのような、わが身が年老いてしまっても、再び、若返って、いつまでもやって来ない、その貴方を待ちましょう。


集歌3044 待君常常 庭耳居者 打靡 吾黒髪尓 霜曽置尓家留
訓読 君待つと庭のみ居(を)ればうち靡く吾(あ)が黒髪に霜ぞ置きにける

私訳 今日もまたいつものように来ない貴方の訪れを待とうと、部屋から出て庭に立って待っていると、打ち靡く私の黒髪が霜が置き、白髪のようになってしまいました。

或本歌尾句云、白細之 吾衣手尓 露曽置尓家留
或る本の歌の尾の句に云はく、
訓読 白栲の 吾(あ)が衣手(ころもて)に 露そ置きにける
私訳 白い栲の夜着の私の袖に、露が置いてしまった。

注意 原文の「待君常常」の「常」の字を二つ重ねた女の情感を訓んでみました。


集歌3045 朝露乃 可消耳也 時無二 思将度 氣之緒尓為而
訓読 朝露(あさつゆ)の消(け)ぬべくのみや時なしに思ひわたらむ息(いき)の緒にして

私訳 朝露のように、この命は消え失せるはずとばかりに、いつもいつも恋い焦がれていましょう。貴方を命の糧として。


集歌3046 左佐浪之 波越安蹔仁 落小雨 間文置而 吾不念國
訓読 楽浪(ささなみ)の波越す安蹔(あさ)に降る小雨(こさめ)間(あひだ)も置きて吾(あ)が念(おも)はなくに

私訳 さざ波の波が打ち越す「アサ」に降る小雨のように、間を置いて、私は貴方を恋い慕うようなことはしません。

注意 原文の「安蹔」の訓みとその意味は未確定です。なお、古語に「アサ」の言葉があり、湿地や海の浅瀬を意味します。


集歌3047 神左備而 巌尓生 松根之 君心者 忘不得毛
訓読 神さびて巌(いはお)に生(お)ふる松が根の君が心は忘れかねつも

私訳 神々しく巌に生える松の根(ね)、その言葉のひびきではないが、寝の君(=共寝した貴方)のお気持ちは忘れようにも忘れられません。


集歌3048 御猟為 鴈羽之小野之 柏 奈礼波不益 戀社益
試訓 御猟(みかり)する雁羽(かりは)の小野の柏(かしはき)の汝(なれ)は益(まさ)らず恋こそ益(まさ)れ

試訳 大王が狩りをなさる雁羽の小野の柏の、その柏(=御綱葉)、磐姫皇后の故事のように貴女は嫉妬は起こさず、恋慕う気持ちだけは盛り上がって欲しい。

注意 原文の「柏」は、一般に「櫟柴之」の間違いとして「ならしばの」と訓みます。ここでは、原文の「柏」のままに訓んでいます。その関係で原文の「奈礼」を「汝(なれ)」と訓んでいます。


集歌3049 櫻麻之 麻原下草 早生者 妹之下紐 不解有申尾
訓読 桜麻(さくらを)の麻原(をはら)下草早(と)く生(お)ひば妹の下紐(したひも)解(と)かずあらましを

私訳 桜麻の生える麻原の下草のように早く育ったなら、(麻原の雑草を抜くように、他の男に手折られて)、私が愛しい貴女の下着の紐を解けないことだったでしょう。


集歌3050 春日野尓 淺茅標結 断米也登 吾念人者 弥遠長尓
訓読 春日野に浅茅(あさぢ)標(しめ)結(ゆ)ひ絶えめやと吾が思ふ人はいや遠長(とほなが)に

私訳 春日野にある浅茅の原に標を張り結んで自分のものと示すように、仲が絶えることは無いと私が思い込んでいるあの人は、遥か縁遠い。

注意 原文の「吾念人」の「人」とは「私」と「それ以外の人」の意味合いで、自分の思い通りにならない人の意味合いと解釈しています。


集歌3051 足桧木之 山菅根之 懃 吾波曽戀流 君之光儀乎
訓読 あしひきの山菅(やますげ)の根のねもころに吾はぞ恋ふる君が姿を

私訳 葦や桧の生える山の山菅の根、その言葉のひびきのような、ねもころに(ねんごろに)、この私は恋い焦がれています。貴女のお姿を。

或本歌曰、吾念人乎 将見因毛我母
或る本の歌に曰はく、
訓読 わが思ふ人を見むよしもがも
私訳 私が恋い焦がれるあの人に逢える機会があれば良いのに。


集歌3052 垣津旗 開澤生 菅根之 絶跡也君之 不所見項者
試訓 杜若(かきつばた)咲く沢に生ふる菅(すが)の根の絶ゆとや君が見えぬ今日(きよふ)は

試訳 杜若が咲く沢に生える菅の根が切れ絶える、そのように仲が切れ絶えると云うのですか。愛しい貴方の姿がお見えにならない、今日は。

注意 原文の「不所見項者」の「項」は、一般に「頃」の誤字とします。ここでは漢字が持つ音の「キョウ」とその意味の「うなじ、くび」から、ままに訓みました。


集歌3053 足桧木乃 山菅根之 懃 不止念者 於妹将相可聞
訓読 あしひきの山菅(やますげ)の根のねもころに止(や)まず思はば妹に逢はむかも

私訳 葦や桧の生える山の山菅の根、その言葉のひびきではないが、ねもころに(ねんごろに)絶えることなく恋い焦がれると、愛しい貴女に逢えるでしょうか。


集歌3054 相不念 有物乎鴨 菅根乃 懃懇 吾念有良武
訓読 相(あひ)念(おも)はずあるものをかも菅(すが)の根のねもころごろに吾が思へるらむ

私訳 私のことを愛してくれないでしょうに、菅の根、その言葉のひびきではないが、それでも、ねもころごろに(ねんごろに)私は恋い焦がれているでしょうか。


集歌3055 山菅之 不止而公乎 念可母 吾心神之 項者名寸
試訓 山菅(やますげ)の止(や)まずて君を思へかも吾が心神(こころと)の今日は無(な)き

試訳 山菅の、その言葉のひびきではないが、止まずて(止むことなく)貴女のことを恋い焦がれているからか。私の正気の気分は、今日はありません。

注意 原文の「項者名寸」の「項」は、一般に「頃」の誤字とします。ここでは漢字が持つ音の「キョウ」とその意味の「うなじ、くび」から、ままに訓みました。


集歌3056 妹門 去過不得而 草結 風吹解勿 又将顧
訓読 妹が門(かど)行き過ぎかねて草結ぶ風吹き解くなまたかへり見む

私訳 愛しい貴女の家の門を通り過ぎることが出来なくて、願いを掛ける草を結ぶ。風が吹き結び目を解くな。また、やって来て、願いを確かめたいから。

一云 直相麻土尓
一(ある)は云はく、
訓読 直逢ふ待つに
私訳 直接に貴女に逢えることを待つために


集歌3057 淺茅原 茅生丹足踏 意具美 吾念兒等之 家當見津
訓読 浅茅(あさぢ)原(はら)茅生(ちふ)に足踏み心ぐみ吾(あ)が念(も)ふ子らが家のあたり見つ

私訳 浅茅原に生える鋭い茅に足で踏み抜き、心切ない。私が恋い焦がれるあの娘の家の辺りを眺めました。

一云 妹之家當見津
一は云はく、
訓読 妹が家のあたり見つ
私訳 愛しい貴女の家の辺りを眺めました。


集歌3058 内日刺 宮庭有跡 鴨頭草之 移情 吾思名國
訓読 うち日さす宮にはあれど鴨頭草(つきくさ)のうつろふ情(こころ)吾が思はなくに

私訳 きらきらと日の射す大宮に居て多くの殿方と接するけども、ツユクサのように褪せやすい気持ちを私は思ってもいません。

注意 原文の「鴨頭草」は、その花の形と用字から「男女の交渉」を暗示しています。つまり、噂話に対して尻軽女では無いと云う歌意になります。


集歌3059 百尓千尓 人者雖言 月草之 移情 吾将持八方
訓読 百(もも)に千(ち)に人は言ふとも月草(つきくさ)のうつろふ情(こころ)吾れ持ためやも

私訳 あれやこれやと人はうわさ話をするけれど、ツユクサが褪せやすいと云うような、そんな疑いを、私が持っていましょうか。

注意 集歌3058の歌を受けたものと解釈しています。ただし、性交をイメージさせる「鴨頭草」と花草の風流としての「月草」との用字の違いが、男から女への返歌では重要と思います。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

万葉集巻十二を鑑賞する  集歌3020から集歌3039まで

2011年10月24日 | 万葉集巻十二を鑑賞する
万葉集巻十二を鑑賞する


集歌3020 斑鳩之 因可及池之 宜毛 君乎不言者 念衣吾為流
訓読 斑鳩(いかるが)の因可(よるか)の池の宜(よろ)しくも君を言はねば念(おも)ひぞ吾がする

私訳 斑鳩にある因可(よるか)の池の言葉のような、宜(よろ)しくも(=とりたてて)、貴女の事を誰も噂話をしないので、反って、恋心を私はするのでしょう。


集歌3021 絶沼之 下従者将戀 市白久 人之可知 歎為米也母
訓読 隠沼(こもりぬ)の下ゆは恋ひむいちしろく人の知るべく嘆(なげ)きせめやも

私訳 水のはけ口が無い隠沼の奥底、そのような密やかに心の奥底から恋い焦がれましょう。はっきりとあの人が気付くような恋の嘆きはいたしません。


集歌3022 去方無三 隠有小沼乃 下思尓 吾曽物念 頃者之間
訓読 行方(ゆくへ)無(な)み隠(こも)れる小沼(をぬ)の下思(したおもひ)に吾(われ)ぞ物思ふこのころの間(あひだ)

私訳 水のはけ口が無い隠れる小さい沼の奥底、そのような密やかに心の奥底から私は物思いをします。今日この頃は。


集歌3023 隠沼乃 下従戀餘 白浪之 灼然出 人之可知
訓読 隠沼(こもりぬ)の下ゆ恋ひ余(あま)り白波のいちしろく出(い)でぬ人の知るべく

私訳 水のはけ口が無い隠沼の奥底、そのような密やかに心の奥底から恋い焦がれた思いの一端が、白波のようにはっきりと溢れ出た。きっと、あの人が気付くでしょう。


集歌3024 妹目乎 見巻欲江之 小浪 敷而戀乍 有跡告乞
訓読 妹が目を見まく堀江のさざれ波重(し)きて恋ひつつありと告げこそ

私訳 愛しい貴女のお顔を見たいと思う(欲:ほす)、その言葉の響きのような堀江にさざれ波が幾重にも立つように、幾重にも恋い焦がれていると、あの娘に告げて下さい。


集歌3025 石走 垂水之水能 早敷八師 君尓戀良久 吾情柄
訓読 石(いは)走(はし)る垂水(たるみ)の水の愛(は)しきやし君に恋ふらく吾(あ)が心から

私訳 岩をも流れ落ちる激しい滝の水が馳(は)し下る。その言葉のひびきのような、非常にいとおしい貴女に恋い焦がれる。私の心の底から。


集歌3026 君者不来 吾者故無 立浪之 敷和備思 如此而不来跡也
訓読 君は来ず吾(われ)は故(ゆゑ)無(な)み立つ波のしくしくわびしかくて来(こ)じとや

私訳 貴方がいらっしゃらないと私は生きている理由はありません。風もなく立つ波が幾度も打ち寄せるように、何度も何度も失望します。それでもいらっしゃらないのですか。


集歌3027 淡海之海 邊多波人知 奥浪 君乎置者 知人毛無
訓読 淡海(あふみ)の海(み)辺(へ)多(た)は人知る沖つ波君をおきては知る人もなし

私訳 近江の海の海辺の様子は誰でも知っています。沖の波、その言葉ではないが、貴方を措いて愛する男性はいません。


集歌3028 大海之 底乎深目而 結美之 妹心者 疑毛無
試訓 大海の底を深めて結(ゆ)ひうまし妹が心はうたがひもなし

試訳 大海の海底が深いように、心を込めて結んだ紐が素晴らしい。そのためらいの無い結び目が示すように、愛しい貴女の私への想いに、なんら、ためらいはありません。

注意 原文の「結美之」は、一般には「結羲之」の誤記として、「羲之」は「王羲之」であり、書の手習いの師であるから「手師」であるとします。ここから「結美之」を「結びてし」と訓みます。ここでは、原文のままに訓んでます。


集歌3029 貞能浦尓 依流白浪 無間 思乎如何 妹尓難相
訓読 佐太(さだ)の浦に寄する白波間(あひだ)なく思ふを何か妹に逢ひ難(かた)き

私訳 佐太の浦に打ち寄せる白波に間が無いように、常に恋い焦がれるのだが、どうして、愛しい貴女に逢い難いのでしょう。


集歌3030 念出而 為便無時者 天雲之 奥香裳不知 戀乍曽居
訓読 思ひ出(い)でてすべなき時は天雲の奥処(おくか)も知らず恋ひつつぞ居(を)る

私訳 想い出されてどうしようもない時は、天空の雲の行き着く先が判らないように、その行方も判らないで恋い焦がれています。


集歌3031 天雲乃 絶多比安 心者 吾乎莫憑 待者苦毛
訓読 天雲のたゆたひやすき心は吾(われ)をな憑(たの)めそ待たば苦しも

私訳 天空の雲のように移り気な心根で、私を貴方の恋人だと想いを寄せないでください。貴方の訪れを待っていると辛いのです。


集歌3032 君之當 見乍母将居 伊駒山 雲莫蒙 雨者雖零
訓読 君があたり見つつも居らむ生駒山雲なたなびき雨は降るとも

私訳 貴女の里のあたりを眺めながらここに居ましょう。生駒山に雲が棚引き、雨が降ったとしても。


集歌3033 中々二 如何知兼 吾山尓 焼流火氣能 外見申尾
訓読 なかなかに何か知りけむ吾が山に燃ゆる火気(ほのけ)の外(よそ)に見ましを

私訳 中途半端に、どうして、私は貴方に出会ったのでしょうか。私の故郷の山の噴火し燃え上がる炎のように、遠くから私は拝見しただけなのに。


集歌3034 吾妹兒尓 戀為便名鴈 胸乎熱 旦戸開者 所見霧可聞
訓読 吾妹子に恋ひすべながり胸を熱(あつ)み朝戸(あさと)開(あ)くれば見ゆる霧かも

私訳 私の愛しい貴女に恋い焦がれてどうしようもなくて、焦がれる胸が熱いので朝に戸を開けると、一面に立ち込めている霧よ。


集歌3035 暁之 朝霧隠 反羽二 如何戀乃 色舟出尓家留
試訓 暁(あかとき)の朝霧隠(こも)りかへらばに何しか恋の色付(にほひ)出でにける

試訳 暁の朝霧に何もかにもが立ち隠っているように、想いを隠していたのに、反って、どうした訳か、霧の中を舟出するように恋い焦がれる雰囲気がほのかに立ち上ってしまいました。

注意 原文の「色舟出尓家留」を、一般には「色丹出尓家留」と「舟」は「丹」の誤記とします。ここでは、原文のままに「舟」の音の「フ」から「付」を起こして「色付」と訓んでいます。


集歌3036 思出 時者為便無 佐保山尓 立雨霧乃 應消所念
訓読 思ひ出づる時はすべ無(な)み佐保山(さほやま)に立つ雨霧(あまきり)の消(け)ぬべく思ほゆ

私訳 貴女を想い出す時は、どうしようもない。佐保山に立つ雨霧が消え失せるように、この身が消え失せるように感じられます。


集歌3037 殺目山 徃反道之 朝霞 髣髴谷八 妹尓不相牟
訓読 殺目山(きめやま)の往来(ゆきき)の道の朝(あさ)霞(かすみ)ほのかにだにや妹に逢はざらむ

私訳 殺目山の行き来する道の朝霞。その朝霞がおぼろげなように、せめて、おぼろげでも愛しい貴女に逢えないでしょうか。


集歌3038 如此将戀 物等知者 夕置而 旦者消流 露有申尾
訓読 かく恋ひむものと知りせば夕(ゆふへ)置きて朝(あした)は消(け)ぬる露ならましを

私訳 これほど恋い焦がれるものと判っていたら、夕べに置きて朝には消える露のような、この身であったらよかった。


集歌3039 暮置而 旦者消流 白露之 可消戀毛 吾者為鴨
訓読 夕(ゆふへ)置きて朝(あした)は消(け)ぬる白露の消ぬべき恋も吾(われ)はするかも

私訳 夕べに置きて朝には消える白露のように、この身がこの世から消えてしまうような恋も、私はしている。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

万葉集巻十二を鑑賞する  集歌3000から集歌3019まで

2011年10月22日 | 万葉集巻十二を鑑賞する
万葉集巻十二を鑑賞する


集歌3000 霊合者 相宿物乎 小山田之 鹿猪田禁如 母之守為裳
訓読 魂(たま)合(あ)へば相寝(あひね)るものを小山田(をやまだ)の鹿猪田(しした)禁(も)る如(ごと)母の守(も)らすも

私訳 心が通えば二人は共寝をするのですが、山にある田の鹿や猪が荒らす田を見張るように、その母親が監視しているよ。

一云 母之守之師
一は云はく、
訓読 母の守らしし
私訳 その母親が監視しなさる。


集歌3001 春日野尓 照有暮日之 外耳 君乎相見而 今曽悔寸
訓読 春日野に照れる夕日(ゆふひ)の外(よそ)のみに君を相見て今ぞ悔しき

私訳 春日野に輝き照る夕日のように、遠くからだけほのかに貴女と見つめ合った。それだけだったことが、今は残念です。


集歌3002 足日木乃 従山出流 月待登 人尓波言而 妹待吾乎
訓読 あしひきの山より出(い)づる月待つと人には言ひて妹待つ吾を

私訳 葦や桧が生える山から出て来る月を待つと、他人には言い訳して愛しい貴女が待っている。私を。


集歌3003 夕月夜 五更闇之 不明 見之人故 戀渡鴨
訓読 夕月夜(ゆふつくよ)暁闇(あかとけやみ)のおほほしく見し人ゆゑに恋ひわたるかも

私訳 夕月夜の翌朝の暁の闇の、その闇のようにほんのわずかに抱いたあの娘だから、私はこうして恋い焦がれるのでしょう。


集歌3004 久堅之 天水虚尓 照日之 将失日社 吾戀止目
訓読 久方(ひさかた)の天(あま)つ御空(みそら)に照る日の失(う)せなむ日こそ吾が恋(こひ)止(や)まめ

私訳 遥か彼方の天空に照り輝く太陽が消え失せる、その日こそ、私の貴女への恋は止むでしょう。


集歌3005 十五日 出之月乃 高々尓 君乎座而 何物乎加将念
訓読 望(もち)の日に出(い)でにし月の高々(たかだか)に君を坐(いま)せて何をか念(おも)はむ

私訳 十五夜の日に登ってきた月が高々に天空にあるように、高々と貴女に背伸びをさせ遥かを眺めさせ私を待たせている。これ以上、何を貴女に求めましょうか。


集歌3006 月夜好 門尓出立 足占為而 徃時禁八 妹二不相有
訓読 月夜(つくよ)よみ門(かど)に出(い)で立ち足占(あしうら)して行く時さへや妹に逢はずあらむ

私訳 月夜が芳しく、家の門に出て立って足占いをして、逢うことを確信して貴女の許へ行くのですから、愛しい貴女に逢えないことがあるでしょうか。


集歌3007 野干玉 夜渡月之 清者 吉見而申尾 君之光儀乎
訓読 ぬばたまの夜渡る月の清(さや)けくはよく見てましを君が姿を

私訳 漆黒の夜空を渡って行く月の光が清らかだったら、月明りの下に、しっかり見つめました。貴女のお姿を。


集歌3008 足引之 山乎木高三 暮月乎 何時君乎 待之苦沙
訓読 あしひきの山を木高(こだか)み夕月(ゆうづき)をいつかと君を待つが苦しさ

私訳 足を引きずるような険しい山が小高いので、梢から夕月がいつ出るのかと待つように、何時、貴方はおいでになるのかと、待っているのは辛いことです。


集歌3009 橡之 衣解洗 又打山 古人尓者 猶不如家利
訓読 橡(つるばみ)の衣(きぬ)解(と)き洗ひ真土山(まつちやま)本(もと)つ人にはなほ如(し)かずけり

私訳 橡で染めた衣を解いて洗い、また縫う。その言葉ではないが、真土(まつち)山の、その言葉の響きのような、私を待っている元からの仲のあの娘には、やはり、及ばないなあ。


集歌3010 佐保川之 川浪不立 静雲 君二副而 明日兼欲得
訓読 佐保川(さほかわ)の川波立たず静けくも君に副(たぐ)ひし明日さへもがも

私訳 佐保川の嵐の川波も立たず静かです。嵐ならば貴方を引き留めて、今、このように貴方に寄り添い抱かれているように、明日もこのように抱かれたいと願います。


集歌3011 吾妹兒尓 衣借香之 宜寸川 因毛有額 妹之目乎将見
訓読 我妹子(わぎもこ)に衣(ころも)春日の宜寸川(よきかは)縁(よし)もあらぬか妹が目を見む

私訳 私の愛しい貴女と床を共にし下着を交換して貸す、その言葉ではないが、春日にある宜寸川の、その言葉の響きのような、良き縁もないでしょうか。愛しい貴女のお顔を拝見したい。


集歌3012 登能雲入 雨零川之 左射礼浪 間無毛君者 所念鴨
訓読 との曇り雨布留川(ふるかは)のさざれ波(なみ)間(ま)なくも君は思ほゆるかも

私訳 すっかり一面に曇り、雨が降る、その布留川に立つさざれ波に絶え間がないように、絶え間なく貴女は私の心に浮かぶ。


集歌3013 吾妹兒哉 安乎忘為莫 石上 袖振川之 将絶跡念倍也
訓読 吾妹子(わぎもこ)や吾(あ)を忘らすな石上(いそのかみ)袖(そで)布留川(ふるかは)の絶えむと念(おも)へや

私訳 私の愛しい貴女。私を忘れてくれるな。石上、その「袖を振る」ような言葉の響きの、布留川の水が絶えるなどと、同じように、二人の仲が絶えるなどと思うでしょうか。


集歌3014 神山之 山下響 逝水之 水尾不絶者 後毛吾妻
訓読 神山(みわやま)の山下響(とよ)み行く水の水脈(みを)し絶えずは後(のち)も吾(あ)が妻

私訳 三輪山の麓を瀬音轟かせて流れていく水の水脈が絶えないならば、これからも貴女は私の妻です。


集歌3015 如神 所聞瀧之 白浪乃 面知君之 不所見比日
訓読 神の如(ごと)聞こゆる瀧(たぎ)の白波の面(おも)知(し)る君が見えぬこのころ

私訳 鳴る神のように轟聞こえる激流の、その白波のように、お顔だけは見知っている貴方がお見えにならない近頃です。


集歌3016 山川之 瀧尓益流 戀為登曽 人知尓来 無間念者
訓読 山川の瀧(たぎ)にまされる恋すとぞ人知りにける間(ま)無くし思へば

私訳 山を流れる川のような激流の勢いに勝るような、激しい恋をしているとあの娘は気付きました。絶え間なくその娘を恋い慕っていると。


集歌3017 足桧木之 山川水之 音不出 人之子姤 戀渡青頭鶏
試訓 あしひきの山川水の音(おと)に出でず人の子遇(あ)ふに恋ひわたるかも

試訳 葦や桧の生える山の川の水が音もさせずにひそやかに流れるように、ひそやかで他の男との噂話も登らない私の自由にならない娘に出会ったので、私は恋い焦がれてしまう。

注意 原文の「人之子姤」の「姤」は、一般に「ゆへに」と訓みます。ここでは「姤」の持つ漢字の意味を尊重して試訓しています。


集歌3018 高湍尓有 能登瀬乃川之 後将合 妹者吾者 今尓不有十万
訓読 高湍(たかせ)なる能登瀬(のとせ)の川の後も合はむ妹には吾(われ)は今にあらずとも

私訳 幾筋にも激しく流れる能登瀬の川の水の流れが末には合流するように、後には二人の身を合わせましょう。愛しい貴女には、私の体を。今でなくても。


集歌3019 浣衣 取替河之 川余杼能 不通牟心 思兼都母
訓読 洗ひ衣(ぎぬ)取替川(とりかひかは)の川淀の淀(よど)まむ心思ひかねつも

私訳 衣を洗って、その衣を取り替える。その言葉のような取替(鳥飼)川の川淀のように、恋をためらう気持ちは、私には思いも寄りません。
コメント
この記事をはてなブックマークに追加