竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉雑記 色眼鏡 七一 御作歌とは誰の作品か

2014年05月24日 | 万葉集 雑記
万葉雑記 色眼鏡 七一 御作歌とは誰の作品か

 今回は「御作歌とは誰の作品か」と云う、唐突なテーマを掲げました。実は、このテーマの取り上げは『万葉集』巻一の解説からの妄想によります。取り上げの元になったその解説に拠りますと、『万葉集』巻一の歌は、原則として標題や左注からその作歌者の名前を知ることが出来るとのことです。もし、その作歌者を特定することが出来ない場合は基本として「右謌主未詳」のような注記を付け、作者は未詳と紹介していますので、最低限の区別は行われているとのことです。つまり、万葉集編纂者の態度には最初から作歌者を特定するような意図があったと解説しています。
 さて、今回、鑑賞する集歌78の歌はこの原則から外れ、作歌者の紹介が「未詳」の案内すら無い歌です。しかしながら、古くから標題に載る「御輿」の表記から歌は元明天皇の御製歌と見なされて来ましたし、あるいは、その標題に付記された「一書云 太上天皇御製」の「太上天皇」から持統太上天皇と推定してきました。ほぼ、これが歌の解釈では本流であり、主流です。

和銅三年庚戌春二月、従藤原宮遷于寧樂宮時、御輿停長屋原遥望古郷御作謌
一書云 太上天皇御製
標訓 和銅三年(710)庚戌の春二月、藤原宮より寧楽宮に遷(うつ)りましし時に、御輿(みこし)を長屋の原に停めて遥かに古き郷(さと)を望みて御(かた)りて作らせる歌
追訓 ある書に云はく、太上天皇の御製といへり
集歌78 飛鳥 明日香能里乎 置而伊奈婆 君之當者 不所見香聞安良武
訓読 飛ぶ鳥し明日香の里を置きて去(い)なば君しあたりは見えずかもあらむ
私訳 飛ぶ鳥の明日香の里を後にして去って行ったなら、あなたの明日香藤井原の藤原京の辺りはもう見えなくなるのでしょうか

 以前に報告しましたように、生活の為に出稼ぎ生活を暮らしており、出稼ぎ先では手持ちの資料や図書館へのアクセスは限られています。その限られたものの中から本歌の作者に関する解説文を紹介しますと、神野志隆光氏編の『万葉集鑑賞事典』では「題詞によれば、和銅三年、藤原京から平城京へ遷都する際の元明天皇御製」とあります。神野志隆光氏の判断は元明天皇御製歌です。一方、中西進氏の『万葉集全訳注原文付』では欄外注4で、「旧都。ただし飛鳥を指すことが多い。狭義の飛鳥からの遷都は藤原宮遷都となる。とすると下注の一書の説が正しくなる。この時旧作を誦したのであろう。故に作者名がない」、また、欄外注7で、「持統の作とすると天武の墓所をいう。奈良遷都の折とすると諸人の情を詞人が代弁したもので個別のものになる」とあり、中西進氏の考えでは歌は伝承歌を公式行事である奈良遷都の折りに誰かが詠ったものとの判別と思われます。また、伊藤博氏の『萬葉集釋注』では「ここは、底本の原文『御作歌』に由緒を認め、元明天皇その人の歌として詠まれたものとするのが穏やかであろう」とあります。
 さて、伊藤博氏は、歌は元明天皇御製と推定する根拠に底本の原文「御作歌」を挙げていますが、実は西本願寺本万葉集では「御作歌」であり、諸本では「作歌」の表記となっており、その場合、伊藤博氏が『萬葉集釋注』で「それによれば、誰か臣下の詠ということになる」と指摘するように、臣下の代作と云うことになります。この場合、伊藤博氏と中西進氏とは同じベクトルになります。ただし、漢文訓読みでは「御作歌」は「御(かた)りて作らしし歌」となりますから、高貴な人物の代作であれば「作歌」の表記ではなく「御作歌」の表記が相当になります。

 さて、根がひねくれ者です。原文に「御作歌」と「作歌」との違いがあると、その理由を知りたくなります。「御」の文字の有無は誤記なのか、意図した欠落表記なのでしょうか。そこで巻一にそれを調べてみました。それが次のものです。

 集歌34 「幸于紀伊國時、川嶋皇子御作謌」
 集歌35 「越勢能山時、阿閇皇女御作謌」
 集歌51 「従明日香宮遷居藤原宮之後、志貴皇子御作謌」
 集歌64 「慶雲三年丙午、幸于難波宮時 志貴皇子御作謌」
 集歌78 「御輿停長屋原遥望古郷、御作謌」

 一方、「御製」は、つぎのような表記を持ち、「天皇」と「御製」はペアな言葉であることが判ります。

 集歌1 「天皇御製謌」
 集歌2 「天皇登香具山望國之時、御製謌」
 集歌25 「天皇御製謌」
 集歌27 「天皇幸于吉野宮時、御製謌」
 集歌28 「天皇御製謌」
 集歌76 「天皇御製謌」

 およそ、作品の注記に「御製」とあれば天皇の作品であろうことが推定されますが、「御作歌」だけでは天皇の作品と判定することは出来ないと考えます。つまり、集歌78の歌を元明天皇の歌であるとしてきた根拠は無いことになります。結局、確立された論拠もなく「御輿」と「御作歌」の言葉からなんとなくそのようなものであろうと云うのが根拠なのでしょう。
 以上の与太話から推定しますと、集歌78の歌は天皇の御製ではありませんから、元明天皇または持統太上天皇の作品ではないことになります。ただし、標題の表記からすると非常に高貴な人物ですし、遷都の折りに「輿」に乗る身分ですから、可能性として御名部皇女、又は、氷高皇女(後の元正天皇、元正太上天皇)が代表的候補となります。なお、「御作歌」と「一書云 太上天皇御製」とを同時に満たす場合は氷高皇女の歌と云うことになります。
 もし、万葉集編者の態度が集歌77の歌からの連続として集歌78の歌を扱っているのですと、御名部皇女による作歌と考えていたかもしれません。その時、正史に示す歴史とは違いますが、高市皇子は草壁皇子の死後に大王に就き、御名部皇女は皇后であったかもしれません。その場合、続日本紀とは違いますが、標題と左注とは整合性が取れることになります。ただし、妄想です。

 もう少し、歌を楽しんでみます。
 歌に載る「長屋原」と云う地名に関係して、天理市のホームページに載る天理市永原町の地名の由来解説では「山辺郡長屋郷といったのはここを中心とした付近の郷名で、万葉集にでてくる長屋原はこの地である」とあります。さらに、その地名案内では「奈良朝時代に東大寺領で長屋庄があり、中世には興福寺の荘園もあった。もとは長屋または長屋原といったのが慶長の布留社文書には長原または永原と出ているから、近世になって永原となったと思われる。しかし長い原という意味は一貫している。奈良朝初期の長屋王はこの長屋に何か関係があったのであろう。佐保庄の古検地帳には長屋という地名がある」との解説が続きます。ここから集歌78の歌に載る「御輿停長屋原遥望古郷」の「長屋原」は、一般にこの天理市永原町付近と推定されています。
 一方、『万葉集』では次のような歌が集歌78の歌に添えられています。これによると人々は飛鳥藤原京から奈良平城京への遷都では泊瀬川から船に乗り、大和川を経て、佐保川のある岸辺で船を降りたと思われます。どうも、人々の移動手段は『万葉集』の歌からすると陸路ではなかったと思われますので、天理市永原町に関係する長屋郷を御幸の一行が通過したかは不明です。

或本、従藤原宮亰遷于寧樂宮時謌
標訓 或る本の、藤原宮(ふぢはらのみや)の亰(みやこ)より奈良宮(ならのみや)に遷(うつ)りし時の歌
集歌79 天皇乃 御命畏美 柔備尓之 家乎擇 隠國乃 泊瀬乃川尓 船浮而 吾行河乃 川隈之 八十阿不落 万段 顧為乍 玉桙乃 道行晩 青吉 楢乃京師乃 佐保川尓 伊去至而 我宿有 衣乃上従 朝月夜 清尓見者 栲乃穂尓 夜之霜落 磐床等 川之氷凝 冷夜乎 息言無久 通乍 作家尓 千代二手来座 多公与 吾毛通武
訓読 天皇(すめろぎ)の 御命(みこと)畏(かしこ)み 柔(にき)びにし 家を置き 隠國(こもくり)の 泊瀬の川に 船浮けて 吾が行く河の 川隈(かわくま)し 八十隈(やそくま)おちず 万度(よろづたび) 顧(かへ)り見しつつ 玉桙の 道行き暮らし あをによし 奈良の都の 佐保川に い去(い)き至りて 我が宿(や)なる 衣(ころも)の上ゆ 朝(あさ)月夜(つくよ) 清(さや)かに見れば 栲(たへ)の穂に 夜し霜降り 磐床(いはとこ)と 川し氷(ひ)凝(ごほ)り 冷(さむ)き夜を 息(やす)むことなく 通ひつつ 作れる家(いへ)に 千代(ちよ)にて来ませ 多(おほ)つ公(きみ)よ 吾も通はむ
私訳 天皇のご命令を畏みて慣れ親しんだ家を藤原京に置き、亡き人が籠るという泊瀬の川に船を浮かべて、私が奈良の京へ行く河の、その川の曲がり角の、その沢山の曲がり角を残らずに何度も何度も振り返り見ながら、御門の御幸を示す玉鉾の行程を行き日を暮らし青葉の美しい奈良の都の佐保川に辿り着いて、私の屋敷にある夜具の上で早朝の夜明け前の月を清らかに見ると新築の屋敷を祝う栲の穂に夜の霜が降りて、佐保川の磐床に残る川の水も凍るような寒い夜を休むことなく藤原京から通って作ったこの家に、いつまでも来てください。多くの大宮人よ。同じように私も貴方の新築の家に通いましょう。
注意 原文の「千代二手来座 多公与」は、一般に「二手」を両手の戯訓と解釈する関係から「千代二手尓 座多公与」と「来」を「尓」と変え、また句切れの位置を変更します。そして「千代までに、いませおほきみよ」と訓みます。当然、歌意は変わります。

 紹介しました解説で「長屋原」を天理市永原町付近と推定する背景に、およそ、次の額田王が詠った飛鳥岡本宮から近江大津宮への遷都の時の歌があるものと思われます。集歌17の長歌の雰囲気は陸路を行くものですし、九十九折りの道の様子から、一見、山辺道を使ったと想像させられます。この類推から奈良平城京への遷都も山辺道を使ったと思い込んだのではないでしょうか。
 当然、集歌17の長歌を丁寧に鑑賞しますと、額田王は山辺道の道中で歌を詠ったのではないことが判ります。歌を詠った場所は倭国の国境と思われる奈良山(寧楽山)の峠付近でしょうか。ここで、倭国の見納めとしての国誉めの歌を詠ったのです。従いまして、この歌群からは額田王一行が飛鳥岡本宮から奈良山まではどのような経路を使ったかは不明です。ただし、少し、時代は遡りますが、推古天皇時代の記録では隋からの裴世清一行が大和川から泊瀬川を遡り海石榴で上陸したとされていますから、集歌79の歌を含めて伝統的に飛鳥から奈良との交通は泊瀬川・大和川の河川交通が中心であったと考えられます。
 なお、長屋原の地名については佐保田とも呼ばれた奈良市二条大路南の佐保川のほとり、長屋王の邸宅跡一帯が「長屋の原」ではないかと想像しています。つまり、長屋王は「長屋原」に邸宅を構えたことからの俗称と考えています。つまり、集歌78の歌は佐保川の西岸、長屋の原で船を降り、輿で宮殿に向かう途中に、船旅ではまだ水路で繋がっていた藤原京ともお別れと想い、氷高皇女が歌を詠ったと考えています。

額田王下近江國時謌、井戸王即和謌
標訓 額田王の近江國に下りし時の歌、井戸王の即ち和(こた)へる歌
集歌17 味酒 三輪乃山 青丹吉 奈良能山乃 山際 伊隠萬代 道隈 伊積流萬代尓 委曲毛 見管行武雄 數々毛 見放武八萬雄 情無 雲乃 隠障倍之也
訓読 味酒(うまさけ) 三輪の山 青(あを)丹(に)よし 奈良の山の 山し際(は)に い隠(かく)るまで 道し隈(くま) い積もるまでに 委(つば)らにも 見つつ行かむを しばしばも 見(み)放(は)けむ山を 情(こころ)なく 雲の 隠さふべしや
私訳 味酒の三輪の山が、青丹も美しい奈良の山の山の際に隠れるまで、幾重にも道の曲がりを折り重ねるまで、しみじみと見つづけて行こう。幾度も見晴らしたい山を、情けなく雲が隠すべきでしょうか。

反謌
集歌18 三輪山乎 然毛隠賀 雲谷裳 情有南畝 可苦佐布倍思哉
訓読 三輪山をしかも隠すか雲だにも情(こころ)あらなも隠さふべしや
私訳 三輪山をこのように隠すのでしょうか。雲としても、もし、情け心があれば隠すでしょうか。
右二首謌、山上憶良大夫類聚歌林曰、遷都近江國時、御覧三輪山御謌焉。
日本書紀曰、六年丙寅春三月辛酉朔己卯、遷都于近江。
注訓 右の二首の歌は、山上憶良大夫の類聚歌林に曰はく「都を近江國に遷す時に、三輪山を御覧(みそなは)す御歌(おほみうた)なり」といへり。
日本書紀に曰はく「六年丙寅の春三月辛酉の朔の己卯に、都を近江に遷す」といへり。

 今回、色々な提起と個人の解釈を紹介しましたが、それが議論の為の議論ではないとすると、従来の解釈はどのような根拠をもって解釈を説明して来たのかは、結構、不確かな伝承がベースであるかもしれません。本当に万葉集歌自体を色眼鏡無しで鑑賞して来たのでしょうか。
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万葉雑記 色眼鏡 七十 あかしの浦

2014年05月17日 | 万葉集 雑記
万葉雑記 色眼鏡 七十 あかしの浦

 今回は『万葉集』の歌ではありませんが、柿本人麻呂に関係する歌を鑑賞します。
 さて、平安時代中期以降において、今日でも柿本人麻呂の代表作品とされる歌があります。それが、『古今和歌集』羇旅歌の部立に載る次の歌です。この歌は、ある種、有名な歌ですし、明石柿本神社のテーマソング的な歌でもあります。

題しらず 読人知らず
409 ほのほのと あかしのうらの あさきりに しまかくれゆく ふなをしそおもふ
このうた、ある人のいはく、柿本の人麿がうたなり

 この歌に対する評価についてインターネットで調べて見ますと、次のような歴史的な評論を見ることが出来ます。

 これは昔のよき歌なり(藤原公任・新撰髄脳)。
 上品上。これは言葉妙にして余りの心さへあるなり(藤原公任・和歌九品)。
 柿本朝臣人麿の歌なり。この歌、上古、中古、末代まで相かなへる歌なり(藤原俊成・古来風躰抄)。

 紹介しました平安時代を代表する歌学者である藤原公任や藤原俊成の評価により、『古今和歌集』に載るこの歌の価値が決定されたと考えます。ここに人麻呂を代表する秀歌であるとなったと考えられます。
 最初に宣言しましたが、歌は『万葉集』に載る歌ではありません。歴史で最初に登場したのが『古今和歌集』ですし、その『古今和歌集』でも歌は「読人知らず」となっています。この時点では、まだ、柿本人麻呂の歌と断定はされていません。一方、『古今和歌集』より少し時代を下った藤原公任が残した『新撰髄脳』や『和歌九品』の歌論書は1041年の彼の死去以前に編まれたものです。そして、そこでは人麻呂の作品と断定されていますから、少なくとも、十一世紀初頭には「ほのぼのとあかしのうらの」の歌は人麻呂の代表作と目されていたと思われます。さらに、時代の下った藤原俊成が残した『古来風躰抄』は鎌倉時代初期となる1197年頃の歌学書ですので、平安時代中期以降、脈々と人麻呂秀歌と云う評価は受け継がれていったと推定されます。
 このように、平安時代を通じ、『古今和歌集』では人麻呂作歌とは断定をしていませんでしたが、少なくとも歌は柿本人麻呂以外の人物の作品との認識は有りませんでした。人麻呂関連歌(人麻呂歌集の歌)、又は人麻呂による作歌が、平安歌人たちの認識です。

 ところで、長い和歌の歴史では面白いことが生じるようです。平安時代を通じた歌論書などから「歌は人麻呂歌」との認識になるはずなのですが、近年の一部の早とちりの人は『今昔物語集』巻第二十四に載る「小野篁被流隠岐国時読和歌語第四十五」の説話から、紹介した「ほのぼのとあかしのうらの」の歌を小野篁の作品と紹介します。実に不思議です。
 小野篁の作品の根拠とされる「小野篁被流隠岐国時読和歌語第四十五」の説話の抜粋を『今昔物語集四』(新日本古典文学大系 岩波書店)から紹介します。

今丑臼、小野篁と云人有けり。事有て隠岐国に被流ける時、船に乗て出立つとて、京に知たる人に許に、此く読て造ける、
わたのはらやそしまかけてこき出ぬとひとにはつけよあまのつりふね
と。
明石と云所に行て、其の夜(佰て、九月許りの事也けれは、明講に不被)樫て、詠め居たるに、船の行くか、島隠れ為るを見て、哀れと思て、此なむ読ける、
ほのほのとあかしの浦のあさきりに島かくれ行舟をしそおもふ
と云てそ泣ける。此れは篁か返て語るを聞て語り伝へたるとや。

 先に紹介しましたように、この「ほのぼのとあかしのうらの」の歌の初出は平安初期(905年)成立の『古今和歌集』であり、平安末期から鎌倉時代初期の作品(推定で1120年代ごろ)とされる『今昔物語集』との間には二百年もの時間の流れがあります。その間、小野篁作品説を説くものはありません。反って、多くの歌論書は『古今和歌集』や『拾遺和歌集』などから柿本人麻呂の作品とします。およそ、「ほのぼのとあかしのうらの」の歌が小野篁の作品とするには、慎重にその根拠と考察を行うことが求められますし、和歌の歴史を知る必要があるようです。従いまして、小野篁の作品とするには、まず、『古今和歌集』に載る左注の記事を否定することから始めなくてはいけません。およそ、小野篁作品説とは、そのような話題が『今昔物語集』に載っているとするのが良いようです。それに『今昔物語集』では小野篁の作品される『古今和歌集』の歌番407の「わたの原」の歌は「読テ造ケル」とありますが、歌番409の「ほのぼのと」の歌は「此ナム読ケル」とあります。このように説話では微妙に表記を変えています。このあたりの事情については徳原茂実氏の「小野篁の船出―『わたの原八十島かけて』考―」にも示されていますので、インターネット検索で確認してください。なかなか、その背景の解説には興味深いものがありますし、小野篁の作品説を唱える人は『古今和歌集』も『今昔物語集』も共に丁寧にテキストを参照していないような人であることが示唆されています。

 なお雑談参考として、徳原茂実氏の稿によると、小野篁は隠岐国配流に際し延喜式に載る規定の官道ルートに従い平安京から陸路、山陰道を使い、丹波国、但馬国、因幡国、伯耆国を経て出雲国千酌駅(松江市美保関町)の船着場から隠岐島へと渡海した紹介しています。つまり、小野篁は伝統の『今昔物語集』の解説で示される攝津国川尻の湊からの船出や明石沖合の航行とは関係が無いことは明らかです。インターネットの時代、このような調査がわずかな時間で行えますし、その裏付け調査も容易であります。このことは、一面、便利ですが、文筆や公表に際して恐ろしいものがあります。

 ここでさらに雑談を続けますと、平安中期頃に梨壷五人が行った万葉集訓読成果(万葉集古点)を下にその読み解かれた万葉短歌から短歌作歌するときの手本書として万葉集秀歌集が編まれたようです。この最初期に編まれた手引書となる万葉集秀歌集には柿本人麻呂作歌や柿本人麻呂歌集のものが取り入れられていますので早い時期から人麻呂秀歌集のような呼び名を持たせたようです。その後、時代が下るにつれて、本来は短歌作歌の手本書を目的とした万葉集秀歌集であるものが柿本人麻呂秀歌集とみなされるようになり、いつしか、すべての歌が人麻呂作歌と信じられるようになったと思われます。それが『柿本集』とか『人丸集』とか呼ばれるものです。ちょうどそれは、『今昔物語集』に載る小野篁の隠岐国配流の説話は『古今和歌集』に載る羇旅歌をヒントに作られた創作説話ですが、いつしか、それを史実と思い込んだのと同じ現象が起きたようです。

 舞台裏を見せるようですが、ここまでの与太話をするために『人麿集』(または『柿本集』)を調査し、検索に向く形に編集し、このブログに収容しました。さらにそれの検索性を利用して『古今和歌集』や『拾遺和歌集』に載る柿本人麻呂歌の出典関係を整理し、これもまた、このブログに収容しました。興味が御有りでしたら参考にして下さい。実にオタク的な行いです。

 さて、この「ほのぼのとあかしのうらの」の歌は、小野篁に関係する伝統の解説から現在の兵庫県明石市の海岸の風景を詠った歌と解釈されています。ところが、平安時代初期、『古今和歌集』の時代の人々がこの歌が明石地方の風景を詠ったものと解釈していたかと云うとその確証はありません。古く、風景が現実と一致しないと云う指摘もあります。
 ここで重要なことは、『古今和歌集』などの古典短歌は一字一音の万葉仮名や変体仮名で表記されますから「明石」と云う漢風の匂いを漂わす漢字表記ではなかったはずです。本来は変体仮名表記での漢字文字三字だったはずです。この点について、筑波大学にて行われた高野切本古今和歌集復元事業の報告によりますと、少なくとも、平安中期に遡る『高野切本古今和歌集』では「歌中に漢字を交えないのが原則」とされています。つまり、「あかしのうら」は「明しの浦」、「飽かしの浦」、「明石の浦」などと複数に解釈されるものであって、もし、「あかしの浦」が「ほのぼのと」と現代語での「かすかに、わずかに、ほのかに」と解釈される語によって形容されるのであれば、朝焼けや夜明けを示す「明しの浦」や景色に堪能したと云う意味合いでの「飽かしの浦」の解釈の方が相応しいものとなります。その時、歌は写実ではなく、回想の歌である可能すら浮かんで来るのです。そこに藤原公任が云う「言葉妙にして余りの心さへある」が示されるのではないでしょうか。『古今和歌集』の歌は言葉遊びを最大限に楽しむ歌ですから、掛詞を前提として複線的に楽しむ必要があります。さて、「あかしのうら」の言葉はどのように楽しむべき言葉だったのでしょうか。専門歌人の鑑賞を待ちたいところです。

 おまけとして、「ほのぼのとあかしのうらの」の歌と同じように『古今和歌集』に「題しらず よみ人しらず」の歌ですが、「この歌ある人のいはく、柿本人麿がなり」との左注を持つ歌があります。それを次に紹介します。読みの対比として平安時代中期以降に編まれたと思われる『柿本集』のものを紹介します。ほぼ、同じ読みをしていますが、若干、異同があるものもあります。

0135 わかやとの いけのふちなみ さきにけり やまほとときす いつかきなかむ
書下 我が宿の池の藤波咲きにけり山郭公いつか来鳴かむ
柿本集 わかやとの いけのふちなみ さきにけり やまほとときす いつかきなかむ

0211 よをさむみ ころもかりかね なくなへに はきのしたはも うつろひにけり
書下 夜を寒み衣雁が音鳴くなへに萩の下葉も移ろひにけり
柿本集 よをさむみ ころもかりかね なくなへに はきのしたはは いろつきにけり

0334 うめのはな それともみえす ひさかたの あまきるゆきの なへてふれれは
書下 梅の花それとも見えず久方の天霧る雪のなべて降れれば
柿本集 うめのはな それともみえす ひさかたの あまきるゆきの なへてふれれは

0409 ほのほのと あかしのうらの あさきりに しまかくれゆく ふねをしそおもふ
書下 ほのぼのと明石の浦の朝霧に島隠れ行く舟をしぞ思ふ
柿本集 ほのほのと あかしのうらの あさきりに しまかくれゆく ふねをしそおもふ

0621 あはぬよの ふるしらゆきと つもりなは われさへともに けぬへきものを
書下 逢はぬ夜の降る白雪と積もりなば我さへともに消ぬべきものを
柿本集 あはぬよの ふるしらゆきと つもりなは われさへともに きえぬへきかな

0671 かせふけは なみうつきしの まつなれや ねにあらはれて なきぬへらなり
書下 風吹けば浪打つ岸の松なれや根にあらはれて泣きぬべらなり
柿本集 かせふけは なみたつきしの まつなれや ねにあらはれて なきぬへらなり

0907 あつさゆみ いそへのこまつ たかよにか よろつよかねて たねをまきけむ
書下 梓弓磯辺の小松誰が世にかよろづ世かねて種をまきけむ
柿本集には見えない歌です。

 おまけのおまけとして、さらに追加として、『古今和歌集』ではありませんが『拾遺和歌集』に載る歌を紹介します。こちらの方は『万葉集』に柿本人麻呂が詠う本歌があります。

歌番145 あまのかは こそのわたりの うつろへは あさせふむまに よそふけにける
<万葉集> 集歌2018 天漢 去歳渡代 遷閇者 河瀬於踏 夜深去来
訓読 天つ川去年(こぞ)し渡りゆ遷(うつ)ろへば川瀬を踏みし夜ぞ更(ふ)けにける
<柿本集>
歌番038 あまのかは こそのわたりの うつろへは あさせふむるに よそふけにける

 このように『万葉集』に載る漢語・万葉仮名だけで表記された歌の言葉をどのように解釈するかで、歌の表情は変わります。先の「ほのほのと」の歌も、次に紹介する集歌189の歌のように漢語・万葉仮名では時に「欝悒」と表記していたかもしれません。この「欝悒」の表記は一般に「おほほしく」と訓みますが、「ほのぼのと」とも訓んでも良いのかもしれません。なお、古語辞典からしますと標準では「仄々」が推定される漢字表記です。「欝」の字は康熙字典のよりますと、「木叢生也」とありますが、一方、「又氣也、長也、幽也」と説明される字でもあります。
 解釈に対する、為にした遊びです。

集歌189 且日照 嶋乃御門尓 欝悒 人音毛不為者 真浦悲毛
私訓 且(い)く日照る嶋の御門に欝悒(おほほ)しく人(ひと)音(ね)もせねばまうら悲しも
私訳 空を行く太陽の照る嶋の御門に、鬱々として人の物音もしないと、本当に寂しいことです。
注意 原文の「且日照」は、一般に「旦日照」の誤記として「朝日照る」と訓みます。そのため歌意が違います。

試訓 且(い)く日照る嶋の御門にほのぼのと人(ひと)音(ね)もせねばまうら悲しも
試訳 空を行く太陽の照る嶋の御門に、わずかにも人の物音もしないと、本当に寂しいことです。
注意 古語「ほのぼの」の語は「わずかに、かすかに」と云う意味をとります。

 実験ですが、これを面白いと思っていただけると幸せです。時に『万葉集』の解釈では平安中期の解釈が本来は正しいのかもしれません。
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資料編 『拾遺和歌集』に載る柿本人麻呂歌

2014年05月10日 | 資料書庫
資料編 『拾遺和歌集』に載る柿本人麻呂歌 

 『拾遺和歌集』は『古今和歌集』、『後撰和歌集』に次ぐ第三番目の勅撰和歌集です。この『拾遺和歌集』については、インターネットで調べたところ次のように解説されています。

一条天皇の代、寛弘三年(1006)頃の成立か。古来、花山院の親撰もしくは院が藤原長能・源道済に撰進させたといわれてきたが、確証はない。先行する二つの勅撰集と違い、和歌所が置かれなかった。藤原公任の撰という『拾遺抄』との命名の相似性を考え、それをベースに編まれたと思われる。両者の先後関係については、古来論争が続いて来たが、近代になって拾遺抄から拾遺集へとの説が固着した。

 紹介する解説が示すように歌集は勅撰和歌集ですが、その成立の背景を解説するものには諸説があります。ただし、和歌集の成立時期である寛弘三年頃と云う年代自体については、大きな議論は無いようです。
 そうした時、この『拾遺和歌集』には、先行する二つの勅撰和歌集とは違い、柿本人麻呂による作品であるとして短歌百四首と長歌一首を載せていると云う特徴があります。その特徴において、『古今和歌集』や『後撰和歌集』は歌集を編纂する過程において先行して編まれた和歌集に載る歌との重複を避け、時代の秀歌を集めたものと云う性格がありますが、この『拾遺和歌集』は先行する和歌集に載る歌との重複を避けることなく、その時代に好まれた和歌を集めたと云うような編纂方針を感じさせる和歌集です。従いまして、『拾遺和歌集』は十世紀末の時代の和歌の好みを色濃く反映していますし、当時に『万葉集』に載る歌をどのように解釈し、鑑賞していたかが推測できる歌集でもあります。
ここではこのような視点から『拾遺和歌集』に載る人麻呂歌を次の組み合わせで紹介いたします。
1) 拾遺和歌集に載る人麻呂歌とされる歌 <歌番は拾遺和歌集によります>
2) 万葉集または古今和歌集に載る原歌 (または万葉集での類型歌)
3) 人麿集(柿本集)に載る歌 <歌番は人麿集によります>
 なお、拾遺和歌集歌及び古今和歌集歌の平仮名清音表記及び区切り、また、万葉集歌の訓読みと区切りは個人の作業です。学問ではありませんので注意をお願い致します。人麿集(柿本集)については弊ブログに資料として載せていますので、必要に応じて参照下さい。


1
歌番12 うめのはな それともみえす ひさかたの あまきるゆきの なへてふれれは
<古今和歌集 名欠の歌> 「この歌は、ある人にいはく、柿本人麿が歌なり」
歌番334 うめのはな それともみえす ひさかたの あまきるゆきの なへてふれれは
<柿本集>
歌番004 うめのはな それともみえす ひさかたの あまきるゆきの なへてふれれは

2 
歌番18 あすからは わかなつまむと かたをかの あしたのはらは けふそやくめる
<万葉集> 類型歌 山部宿祢赤人の謌四首より
集歌1427 従明日者 春菜将採跡 標之野尓 昨日毛今日毛 雪波布利管
訓読 明日(あす)よりは春菜摘まむと標(し)めし野に昨日(きのふ)も今日(けふ)も雪は降りつつ
<柿本集>
該当の歌、なし

3
歌番88 たこのうらの そこさへにほふ ふちなみを かさしてゆかん みぬひとのため
<万葉集> 次官内蔵忌寸縄麻呂の歌
集歌4200 多胡乃浦能 底左倍尓保布 藤奈美乎 加射之氏将去 不見人之為
訓読 多胡の浦の底さへにほふ藤波をかざして行かむ見ぬ人しため
<柿本集>
歌番028 たこのうら そこさへにほふ ふちなみを かさしてゆかむ みぬひとのため

4
歌番144あまのかは とほきわたりに あらねとも きみかふなては としにこそまて
<万葉集> 詠み人知れずの歌
集歌2055 天河 遠度者 無友 公之舟出者 年尓社候
訓読 天つ川遠き渡りはなけれども君し舟出(ふねで)は年にこそ待て
<柿本集>
歌番039 あまのかは とほきわたりに あらねとも きみかふなては としにこそまて

5
歌番145 あまのかは こそのわたりの うつろへは あさせふむまに よそふけにける
<万葉集> 集歌2018 天漢 去歳渡代 遷閇者 河瀬於踏 夜深去来
訓読 天つ川去年(こぞ)し渡りゆ遷(うつ)ろへば川瀬を踏みし夜ぞ更(ふ)けにける
<柿本集>
歌番038 あまのかは こそのわたりの うつろへは あさせふむるに よそふけにける

6
歌番148としにありて ひとよいもにあふ ひこほしも われにまさりて おもふらんやそ
<万葉集> 遣新羅使の歌 七夕仰觀天漢、各陳所思作歌三首より
集歌 3657 等之尓安里弖 比等欲伊母尓安布 比故保思母 和礼尓麻佐里弖 於毛布良米也母
訓読 年にありて一夜(ひとよ)妹に逢ふ彦星(ひこほし)も吾(あ)れにまさりて思ふらめやも
<柿本集>
歌番042 としにあひて ひとよいもにあふ ひこほしの われにまさりて おもふらむやそ

7
歌番219 たつたかは もみちはなかる かむなひの みむろのやまに しくれふるらし
<万葉集> 類型歌
集歌2210 明日香河 黄葉流 葛木 山之木葉者 今之散疑
訓読 明日香川黄(もみち)葉(は)流る葛城(かつらぎ)し山し木(こ)し葉は今し散るらし
<柿本集>
歌番161 たつたかは もみちはなかる かみなひの みむろのやまに しくれふるらし

8
歌番239 うらちかく ふりくるゆきは しらなみの すへのまつやま こすかとそみる
<古今和歌集 寛平の御時きさいの宮の歌合> 藤原興風
歌番326 うらちかく ふりくるゆきは しらなみの すへのまつやま こすかとそみる
<柿本集>
該当歌、なし

9
歌番252 あしひきの やまちもしらす しらかしの えたにもはにも ゆきのふれれは
<万葉集> 集歌2315 足引 山道不知 白杜杙 枝母等乎ゞ尓 雪落者
訓読 あしひきし山道も知らず白橿し枝もとををに雪し降れれば
<柿本集>
歌番420 あしひきの やまちもしらす しらかしの えたにもはにも ゆきのふれれは

10
歌番353 あまとふや かりのつかひに いつしかも ならのみやこに ことつてやらん
<万葉集> 遣新羅使の歌 引津亭舶泊之作歌七首より
集歌 3676 安麻等夫也 可里乎都可比尓 衣弖之可母 奈良能弥夜故尓 許登都牙夜良武
訓読 天飛ぶや雁を使(つかひ)に得てしかも奈良の京に事(こと)告(つ)げ遣(や)らむ
<柿本集>
歌番208 あまとふや かりのつかひも えてしかな ならのみやこに ことつてやらむ

11
歌番474 つきくさに ころもはすらん あさつゆに ぬれてののちは うつろひぬとも
<万葉集> 詠み人知れずの歌
集歌1351 月草尓 衣者将摺 朝露尓 所沾而後者 徒去友
訓読 月草(つきくさ)に衣(ころも)は摺(す)らむ朝露に濡れてし後(のち)はただうせるとも
<柿本集>
歌番397 つきくさに ころもはすらむ あさつゆに ぬれてののちは うつろひぬとも

12
歌番475 ちちわくに ひとはいふとも おりてきむ わかはたものに しろきあさきぬ
<万葉集>
集歌1298 千名人 雖云 織次 我廿物 白麻衣
訓読 千名(ちな)し人(ひと)雖(ただ)云ふけれど織りつがむ我廿物(はたもの)し白き麻(あさ)衣(きぬ)
<柿本集>
歌番253 ここはくに ひとはいへとも おりてきむ わかはたものの しろきあさきぬ

13
歌番476 ひさかたの あめにはきぬを あやしくも わかころもての ひるときもなき
<万葉集> 詠み人知れずの歌
集歌1371 久堅之 雨尓波不著乎 恠毛 吾袖者 干時無香
訓読 ひさかたし雨には着ぬを恠(あや)しくも吾が衣手(ころもて)は干(ひ)る時なきか
<柿本集>
歌番340 ひさかたの あめにはきぬを あやしくも わかころもての ひるときもなき

14
歌番477 しらなみは たてところもに かさならす あかしもすまも おのかうらうら
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番233 しらなみは たてところもに かさならす あかしもすまも おのかうらうら

15
歌番478 ゆふされは ころもてさむし わきもこか ときあらひきぬ ゆきてはやきむ
<万葉集> 詠み人知れずの歌
集歌2319 暮去者 衣袖寒之 高松之 山木毎 雪曽零有
訓読 夕(ゆふ)されば衣手(ころもて)寒し高松(たかまつ)し山し木(き)ごとし雪ぞ降りたる
<柿本集>
歌番209 ゆふされは あきかせさむし わきもこか ときあらひきぬ ゆきてはやきむ

16
歌番483 ささなみや あふみのみやは なのみして かすみたなひき みやきもりなし
<万葉集> 未詳の歌
類推歌として紹介 「過近江荒都時、柿本朝臣人麿作歌」より反歌
集歌30 樂浪之 思賀乃辛碕 雖幸有 大宮人之 舡麻知兼津
訓読 ささなみの志賀の辛崎(からさき)幸(さき)くあれど大宮人の船待ちかねつ
<柿本集>
歌番219 ささなみや おほつのみやは なのみして かすみたなひき みやきもりなし

17
歌番488 そらのうみに くものなみたち つきのふね さとのはやしに こきかくるみゆ
<万葉集>
集歌1068 天海丹 雲之波立 月船 星之林丹 榜隠所見
訓読 天(あま)つ海(み)に雲し波立ち月し船星し林に漕ぎ隠りそ見ゆ
<柿本集>
歌番184 あめのうみに くものなみたつ つきのふね ほしのはやしに こきかへるみゆ
異同歌 そらのうみに くものなみたつ つきのふね ほしのはやしに こきかへるみゆ

18
歌番489 かはのせの うつまくみれは たまもかる ちりみたれたる かはのふねかも
<万葉集> 未詳の歌
類推される類型歌 柿本朝臣人麿羈旅歌八首より
集歌256 飼飯海乃 庭好有之 苅薦乃 乱出所見 海人釣船
訓読 飼飯(かひ)し海(み)の庭(には)好(よ)くあらし刈薦(かりこも)の乱れ出づ見ゆ海人(あま)の釣船
<柿本集>
歌番218 かはのせに うつまくみれは たまもかる ちりみたれたる かはのふねかな

19
歌番490 なるかみの おとにのみきく まきもくの ひはらのやまを けふみつるかな
<万葉集>
集歌1092 動神之 音耳聞 巻向之 檜原山乎 今日見鶴鴨
訓読 鳴神し音のみ聞きし巻向(まきむく)し檜原(ひはら)し山を今日(けふ)見つるかも
<柿本集>
歌番193 なるかみの おとにのみきく まきもくの ひはらのやまを けふみつるかな

20
歌番491 いにしへに ありけむひとも わかことや みわのひはらに かさしをりけん
<万葉集>
集歌1118 古尓 有險人母 如吾等架 弥和乃檜尓 插頭折兼
訓読 古(いにしへ)にありけむ人も吾がごとか三輪の檜原(ひはら)に挿頭(かざし)折(を)りけむ
<柿本集>
歌番213 いにしへに ありけむひとも わかことや みわのひはらに かさしをりけむ

21
歌番493 おふのうみに ふなのりすらん わきもこか あかものすそに しほみつらんか
<万葉集>
集歌40 鳴呼之浦尓 船乗為良武 感嬬等之 珠裳乃須十二 四寶三都良武香 (感は、女+感の当字)
訓読 鳴呼見(あみ)し浦に船乗りすらむ感嬬(おとめ)らし珠裳の裾に潮(しほ)満つらむか
<柿本集>
歌番221 おみのうみに ふなのりすらむ わきもこか たまものすそに しほみつらむか

22
歌番496 あすかかは しからみわたし せかませは なかるるみつも のとけからまし
<万葉集>
集歌197 明日香川 四我良美渡之 塞益者 進留水母 能杼尓賀有萬思
訓読 明日香川しがらみ渡し塞(せ)かませば流るる水ものどにかあらまし
<柿本集>
歌番265 あすかかは しからみわたし せかませは なかるるみつも のとけからまし

23
歌番546 やまたかみ ゆふひかくれぬ あさちはら のちみむために しめゆはましを
<万葉集> 詠み人知れずの歌
集歌1342 山高 夕日隠奴 淺茅原 後見多米尓 標結申尾
訓読 山(やま)高(たか)し夕日(ゆふひ)隠(かく)りぬ浅茅(あさぢ)原(はら)後(のち)見むために標(しめ)結(ゆ)はましを
<柿本集>
歌番348 やまたかみ ゆふひかくれの あさちはら のちみむために しめゆはましを

24
歌番566 ますかかみ みしかとおもふ いもにあはむかも たまのをの たえたるこひの しけきこのころ
<万葉集> 詠み人知れずの歌 古歌集
集歌2366 真十鏡 見之賀登念 妹相可聞 玉緒之 絶有戀之 繁比者
訓読 真澄鏡(まそかがみ)見しかと思ふ妹し逢はぬかも 玉し緒し絶えたる恋し繁きこのころ
<柿本集>
歌番256 ますかかみ みしかとおもふ いもにあはむかも たまのをの たえたるこひの しけきこのころ

25
歌番567 かのをかに かやかるをのこ しかなかりそ ありつつも きみかきまさむ みまくさにせん
<万葉集> 人麻呂歌集 旋頭歌より
集歌1291 此岡 莫苅小人 然苅 有乍 君来座 御馬草為
訓読 この岡し草刈る小人(わらは)然(しか)な刈りそね 在りつつも君し来まして御(み)馬(ま)草(くさ)にせむ
<柿本集>
歌番255 かのをかに をきかるをのこ しかなかりそ ありつつも きみかきまさむ みまくさにせむ

26
歌番569ちはやふる わかおほきみの きこしめす あめのしたなる 草の葉も うるひにたりと 山河の すめるかうちと みこころを よしののくにの 花さかり 秋つののへに 宮はしら ふとしきまして ももしきの 大宮人は 舟ならへ あさ河わたり ふなくらへ ゆふかはわたり この河の たゆる事なく この山の いやたかからし たま水の たきつの宮こ 見れとあかぬかも
<万葉集>
集歌36 八隅知之 吾大王之 所聞食 天下尓 國者思毛 澤二雖有 山川之 清河内跡 御心乎吉野乃國之 花散相 秋津乃野邊尓 宮柱 太敷座波 百磯城乃 大宮人者 船並弖 旦川渡 舟竟 夕河渡 此川乃 絶事奈久 此山乃 弥高思良思珠 水激 瀧之宮子波 見礼跡不飽可聞
訓読 やすみしし わご大君し 聞し食(め)す 天つ下に 国はしも 多(さは)にあれども 山川し 清き河内と 御心を 吉野の国し 花散らふ 秋津の野辺に 宮柱 太敷きませば 百磯城(ももしき)の 大宮人は 船並めて 朝川渡り 舟竟(わた)る 夕河渡る この川の 絶ゆることなく この山の いや高知らしたまひ 水激(たぎ)つ 瀧(たぎ)し都は 見れど飽かぬかも
<柿本集>
該当歌、なし

27
歌番570 みれとあかぬ よしののかはの なかれても たゆるときなく ゆきかへりみむ
<万葉集>
集歌37 雖見飽奴 吉野乃河之 常滑乃 絶事無久 復還見牟
訓読 見れど飽かぬ吉野の河し常滑の絶ゆることなくまた還り見む
<柿本集>
歌番644 みれとあかぬ よしののかはの とこなめに たゆるときなく またかへりみむ

28
歌番596 ちはやふる かみのたもてる いのちをは たれかためにか なかくとおもはん
<万葉集>
集歌2416 千早振 神持在 命 誰為 長欲為
訓読 ちはやぶる神の持たせる命をば誰がためにかも長く欲(ほ)りせむ
<柿本集>
歌番355 ちはやふる かみのたもてる いのちをも たかためにかは なかくとおもはむ

29
歌番597 ちはやふる かみもおもひの あれはこそ としへてふしの やまももゆらめ
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
該当歌、なし

30
歌番619 おほなむち すくなみかみの つくれりし いもせのやまを みるそうれしき
<万葉集>
集歌1247 大穴道 少御神 作 妹勢能山 見吉
訓読 大汝(おほなむち)少御神(すくなみかみ)し作らしし妹背(いもせ)の山し見らくしよしも
<柿本集>
歌番210 おほなむち すくなみかみの つくれりし いもせのやまを みれはともしも
異同歌 おほなむち すくなみかみの つくれりし いもせのやまを みるかうれしさ

31
歌番628 あまくもの やへくもかくれ なるかみの おとにのみやは ききわたるへき
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番394 あまくもの やへくもかくれ なるかみの おとにのみやは こひわたりなむ
異同歌 あまくもの やへくもかくれ なるかみの おとにのみやは ききわたるへき

32
歌番640 みなそこに おふるたまもの うちなひき こころをよせて こふるこのころ
<万葉集>
集歌2482 水底 生玉藻 打靡 心依 戀比日
訓読 水底(みなそこ)し生(お)ふる玉藻しうち靡き心し寄りて恋ふるこのころ
<柿本集>
歌番416 みなそこに おふるたまもの うちなひき こころをよせて こふるころかな

33
歌番661 おくやまの いはかきぬまの みこもりに こひやわたらん あふよしをなみ
<万葉集> 類型歌 詠み人知れず
集歌2707 青山之 石垣沼間乃 水隠尓 戀哉度 相縁乎無
訓読 青山し石垣(いはかき)沼(ぬま)の水隠(みこも)りに恋ひやわたらむ逢ふよしをなみ
<柿本集>
歌番299 おくやまの いはかきぬまの みこもりに こひやわたらむ あふよしをなみ

34
歌番668 みくまのの うらのはまゆふ ももへなる こころはおもへと たたにあはぬかも
<万葉集>
集歌496 三熊野之 浦乃濱木綿 百重成 心者雖念 直不相鴨
訓読 御熊野(みくまの)し浦の浜(はま)木綿(ゆふ)百重(ももへ)なす心は思(も)へど直(ただ)し逢はぬかも
<柿本集>
歌番316 みくまのの うらのはまゆふ ももへなる こころはおもへと たたにあはぬかも

35
歌番695 こひつつも けふはくらしつ かすみたつ あすのはるひを いかてくらさん
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番288 こひつつも けふはくらしつ かすみたつ あすのはるひを いかてくらさむ

36
歌番696 こひつつも けふはありなん たまくしけ あけんあしたを いかてくらさむ
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番662  こひつつも けふはありなむ たまくしけ あけなむあすを いかてくらさむ

37
歌番700 なきなのみ たつのいちとは さわけとも いさまたひとを うるよしもなし
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番656 なきなのみ たつたのやまの ふもとには よにもあらしの かせもふかなむ

38
歌番702 たけのはに おきゐることの まろひあひて ぬるとはなしに たつわかなかな
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番573 たけのはに おちゐるくもの まろひあひて ぬるよはなしに たつわかなかな
異同歌 たけのはに おきゐるくもの まろひあひて ぬるよはなしに たつわかなかな

39
歌番717 むはたまの こよひなあけそ あけゆかは あさゆくきみを まつくるしきに
<万葉集>
集歌2389 烏玉 是夜莫明 朱引 朝行公 待苦
訓読 ぬばたまのこの夜な明けそ朱(あか)らひく朝(あさ)行く君を待たば苦しも
<柿本集>
歌番335 うはたまの こよひなあけそ あけゆかは あさゆくきみを まつくるしきに

40
歌番744 あひみては いくひささにも あらねとも としつきのこと おもほゆるかな
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番331 あひみては いくひさしさにも あらねとも としつきのこと おもほゆるかな
異同歌 あひみては いくひささにも あらねとも としつきのこと おもほゆるかな

41
歌番745 としをへて おもひおもひて あひぬれは つきひのみこそ うれしかりけれ
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
該当歌、なし ただし、躬恒集 歌番77に同歌あり

42
歌番746 すきいたもて ふけるいたまの あはさらは いかにせんとか わかねそめけん
<万葉集> 詠み人知れずの歌
集歌2650 十寸板持 盖流板目乃 不令相者 如何為跡可 吾宿始兼
訓読 そき板(た)以(も)ち葺(ふ)ける板目(いため)の合(あ)はざらば如何(いか)にせむとか吾(あ)が寝(ね)始(そ)めけむ
<柿本集>
歌番349 すきたもて ふけるいたまの あはさらは いかにせむとか あひみそめけむ

43
歌番756 おもふなと きみはいへとも あふことを いつとしりてか わかこひさらん
<万葉集>
集歌140 勿念跡 君者雖言 相時 何時跡知而加 吾不戀有牟
訓読 な思ひと君は言へども逢はむ時何時と知りてかわが恋ひずあらむ
<柿本集>
歌番298 おもふなと きみはいへとも あふことを いつとしりてか わかこひさらむ

44
歌番778 あしひきの やまとりのをの したりをの なかなかしよを ひとりかもねむ
<万葉集> 詠み人知れずの歌
集歌2802 足日木乃 山鳥之尾乃 四垂尾乃 長永夜乎 一鴨将宿 (或本謌云)
訓読 あしひきの山鳥し尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む
<柿本集>
歌番333 あしひきの やまとりのをの したりをの なかなかしよを ひとりかもねむ

45
歌番782 あしひきの やまよりいつる つきまつと ひとにはいひて きみをこそまて
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番417 あしひきの やまよりいつる つきまつと ひとにはいひて きみをこそまて

46
歌番783 みかつきの さやかにみえす くもかくり みまくそほしき うたてこのころ
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番330 みかつきの さやけくもあらす くもかくれ みまくそほしき うたてこのころ

47
歌番785 あきのよの つきかもきみは くもかくれ しはしもみねは ここらこひしき
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番306 あきのよの つきかもきみは くもかくれ しはしもみねは こひしかるらむ
異同歌 あきのよの つきかもきみは くもかくれ しはしもみねは きみそこひしき

48
歌番789 ひさかたの あまてるつきも かくれゆく なによそへて きみをしのはむ
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番329 ひさかたの あまてるつきも かくれゆく なにによそへて いもをしのはむ

49
歌番795 なかつきの ありあけのつきの ありつつも きみしきまさは われこひめやも
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番302 なかつきの ありあけのつきの ありつつも きみしきまさは わかこひめやも

50
歌番796 ことならは やみにそあらまし あきのよの なそつきかけの ひとたのめなる
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
該当歌、なし

51
歌番806 まさしてふ やそのちまたに ゆふけとふ うらまさにせよ いもにあふへく
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番657 まさしてふ やそのちまたに ゆふけとふ うらまさにせよ いもにあふへく

52
歌番807 ゆふけとふ うらにもよくあり こよひたに こさらむきみを いつかまつへき
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
該当歌、なし

53
歌番808 ゆめをたに いかてかたみに みてしかな あはてぬるよの なくさめにせん
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
該当歌、なし

54
歌番809 うつつには あふことかたし たまのをの よるはたえせす ゆめにみえなん
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
該当歌、なし

55
歌番818 わかせこを きませのやまと ひとはいへと きみもきまさぬ やまのなならし
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番336 わかせこを きませのやまと ひとはいへと きみかきませぬ やまのなならし

56
歌番826 なるかみの しはしうこきて そらくもり あめもふらなん きみとまるへく
<万葉集>
集歌2513 雷神 小動 刺雲 雨零耶 君将留
訓読 鳴る神し少し響(とよ)みてさし曇り雨も降らぬか君し留(とど)めむ
<柿本集>
歌番418 なるかみの しはしくもりて さしくもり あめもふらなむ きみとまるへく

57
歌番827 ひとことは なつののくさの しけくとも きみとわれとし たつさはりなは
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番403 ひとことは なつののくさの しけくとも いもとわれとし たつさはりなは

58
歌番835 あきのたの ほのうへにおける しらつゆの けぬへくわれは おもほゆるかな
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番412 あきのたの ほのうへにおける しらつゆの けぬへくわれは おもほゆるかな

59
歌番836 すみよしの きしをたにほり まきしいねの かるほとまても あはぬきみかな
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番310すみよしの きしをたにほり まきしいね かりほすまても あはぬきみかな
異同歌 すみよしの きしをたにほり まきしいねを かるまていもに あはぬなりけり

60
歌番845 わかせこを わかこひをれは わかやとの くささへおもひ うらかれにけり
<万葉集>
集歌2465 我背兒尓 吾戀居者 吾屋戸之 草佐倍思 浦乾来
訓読 我が背児に吾(わ)が恋ひ居(を)れば吾が屋戸(やと)し草さへ思ひうら乾(ふ)れにけり
<柿本集>
歌番273 わかせこを わかこひをれは わかやとの くささへおもひ うらかれにけり

61
歌番848 たのめつつ こぬよあまたに なりぬれは またしとおもふそ まつにまされる
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番332 たのめつつ こぬよあまたに なりぬれは またしとおもふそ まつにまされる

62
歌番849 あさねかみ われはけつらし うつくしき ひとのたまくら ふれてしものを
<万葉集> 詠み人知れずの歌
集歌2578 朝宿髪 吾者不梳 愛 君之手枕 觸義之鬼尾
訓読 朝寝(あさゐ)髪(かみ)吾(われ)は梳(けづ)らじ愛(うる)はしき君し手枕(たまくら)触れてしものを
<柿本集>
歌番328 あさねかみ われはけつらし うつくしき ひとのたまくら ふれてしものを

63
歌番853 みなといりの あしわけをふね さはりおほみ わかおもふひとに あはぬころかな
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番274 みなといりの あしわけをふね さはりおほみ わかおもふひとに あはぬころかな

64
歌番854 いはしろの のなかにたてる ゆひのまつ こころもとけす むかしおもへは
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番231 いはしろの のなかにたてる むすひまつ こころもとけす むかしおもへは

65
歌番857 ますかかみ てにとりもちて あさなあさな みれともきみに あくときそなき
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番327 ますかかみ てにとりもちて あさなあさな みれともあかぬ きみにもあるかな
異同歌 ますかかみ てにとりもちて あさなあさな みれともきみに あくときそなき

66
歌番858 みなひとの かさにぬふてふ ありますけ ありてののちも あはんとそおもふ
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番326 みなひとの かさにぬふてふ ありますけ ありてののちも あはむとそおもふ

67
歌番873 こひこひて のちもあはむと なくさむる こころしなくは いのちあらめや
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番279 こひこひて のちもあはむと なくさむる こころしなくは いきてあらめや

68
歌番874 かくはかり こひしきものと しらませは よそにみるへく ありけるものを
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番291 かくはかり こひしきものと しらませは よそにそみつる ありけむものを

69
歌番887 なにはひと あしひたくやは すすたれと おのかつまこそ とこめつらなれ
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番337 なにはひと あしひたくやは すすたれと おのかつまこそ とこめつらなれ

70
歌番895 たらちねの おやのかふこの まゆこもり いふせくもあるか いもにあはすして
<万葉集>
集歌2495 足常 母養子 眉隠 ゞ在妹 見依鴨
訓読 たらつねの母が養(か)ふ蚕(こ)の繭隠(まよこも)り隠(こも)れる妹を見むよしもがも
<柿本集>
歌番321 たらちねの おやのかふこの まゆこもり いふせくもあるか きみにあはすて

71
歌番910 そにありて くもゐにみゆる いもかいへに はやくいたらむ あゆめくろこま
<万葉集>
集歌1271 遠有而 雲居尓所見 妹家尓 早将至 歩黒駒
訓読 遠(そ)にありに雲居(くもゐ)にそ見ゆ妹し家(へ)に早く至らむ歩め黒駒
<柿本集>
歌番526 よそにありて くもゐにみゆる いもかいへに はやくいたらむ あゆめくろこま

72
歌番924 ちはやふる かみのいかきも こえぬへし いまはわかみの をしけくもなし
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番324 ちはやふる かみのいかきも こえぬへし いまはわかみの をしけくもなし

73
歌番926 すみよしの きしにむかへる あはちしま あはれときみを いはぬひそなき
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
該当歌、なし

74
歌番935 こひするに しにするものに あらませは ちたひそわれは しにかへらまし
<万葉集>
集歌2390 戀為 死為物 有 我身千遍 死反
訓読 恋するに死するものにあらませば我が身は千遍(ちたび)死にかへらまし
<柿本集>
歌番281 こひするに しにするものにし あらませは ちたひそわれは しにかへらまし

75
歌番936 こひてしね こひてしねとや わきもこか わかへのかとを すきてゆくらん
<万葉集>
集歌2401 戀死 ゞゞ哉 我妹 吾家門 過行
訓読 恋ひ死なば恋ひも死ねとや我妹子が吾家(わがへ)し門(かど)し過ぎて行くらむ
<柿本集>
歌番286 こひこひて こひてしねとや わきもこか わかいへのかとを すきてゆくらむ

76
歌番937 こひしなは こひもしねとや たまほこの みちゆきひとに ことつてもなき
<万葉集>
集歌2370 戀死 戀死耶 玉桙 路行人 事告兼
訓読 恋しなば恋ひも死ねとや玉桙し道行く人し事し告げけむ
<柿本集>
歌番292 こひしなは こひもしねとか たまほこの みちゆきひとに ことつてもなし

77
歌番954 あらちをの かるやのさきに たつしかも いとわれはかり ものはおもはし
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番354 あらちをの かるやのさきに たつしかも いとわかことく ものはおもはし
異同歌 あらちをの かるやのさきに たつしかも いとわかことに ものはおもはし

78
歌番955 あらいその ほかゆくなみの ほかこころ われはおもはし こひはしぬとも
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番655 あらいその ほかゆくなみの ほかこころ われはおもはし こひはしぬとも

79
歌番956 かきくもり あめふるかはの ささらなみ まなくもひとの こひらるるかな
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番654 ひのくもり あめふるかはの ささらなみ まなくもひとを こひわたるかな
異同歌 ひのくもり あめふるかはの ささらなみ まなくもひとに こひらるるかな

80
歌番957 わかことや くものなかにも おもふらむ あめもなみたも ふりにこそふれ
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
該当歌、なし ただし、伊勢集 歌番186に同歌あり

81
歌番990 とにかくに ものはおもはす ひたたくみ うつすみなはの たたひとすちに
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番284 とにかくに ものはおもはす ひたたくみ うつすみなはの たたひとすちに

82
歌番1071 ほとときす かよふかきねの うのはなの うきことあれや きみかきまさぬ
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番029 ほとときす かよふかきねの うのはなの うきことあれや きみかきまさぬ

83
歌番1085 わたしもり はやふねかくせ ひととせに ふたたひきます きみならなくに
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番041 わたしもり ふねはやわたせ ひととせに ふたたひきます きみならなくに

84
歌番1110 にはくさに むらさめふりて ひくらしの なくこゑきけは あきはきにけり
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番037 にはくさに むらさめふりて ひくらしの なくこゑきけは あきはきにけり

85
歌番1113 あきかせの さむくふくなる わかやとの あさちかもとに ひくらしもなく
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番409 あきかせの とほくふくなる わかやとの あさちかもとに ひくらしもなく

86
歌番1114 あきかせし ひことにふけは わかやとの をかのこのはは いろつきにけり
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番106 あきかせの ひことにふけは みつくきの をかのこのはも いろつきにけり

87
歌番1115 あききりの たなひくをのの はきのはな いまやちるらん いまたあかなくに
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番074 あききりの たなひくをのの はきかはな いまやちるらむ いまたあかなくに

88
歌番1118 このころの あかつきつゆに わかやとの はきのしたはは いろつきにけり
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番079 このころの あきかせさむみ わかやとの はきのしたはは いろつきにけり
異同歌 このころの あかつきつゆに わかやとの はきのしたはは いろつきにけり

89
歌番1119 よをさむみ ころもかりかね なくなへに はきのしたはは いろつきにけり
<万葉集> 未詳の歌
<柿本集>
歌番088 よをさむみ ころもかりかね なくなへに はきのしたはは いろつきにけり

90
歌番1123 わきもこか あかもぬらして うゑしとを かりてをさめむ くらなしのはま
<万葉集>
集歌1710 吾妹兒之 赤裳泥塗而 殖之田乎 苅将蔵 倉無之濱
訓読 吾妹児(わぎもこ)し赤(あか)裳(も)ひづちに殖ゑし田を刈りて蔵(おさ)めむ倉無し浜
<柿本集>
歌番073 わきもこか あかもぬらして うゑしたを かりてをさめむ くらなしのやま
異同歌 わきもこか あかもぬらして うゑしたを かりてをさめむ くらなしのはま

91
歌番1196 あつさゆみ ひきみひかすみ こすはこす こはこそをなそ よそにこそみめ
<万葉集> 類型歌
集歌2505 梓弓 引不許 有者 此有戀 不相
訓読 梓弓(あづさゆみ)引きて許(ゆる)さずあらませばかかる恋には逢(あ)はざらましを
<柿本集>
歌番320 あつさゆみ ひきみひかすみ こすはこす こはこそはなそ よそにこそみめ

92
歌番1210 をとめこか そてふるやまの みつかきの ひさしきよより おもひそめてき
<万葉集>
集歌2415 處女等乎 袖振山 水垣 久時由 念来吾等者
訓読 処女(をとめ)らを袖(そで)布留山(ふるやま)の瑞垣(みづかき)の久しき時ゆ思ひけり吾は
<柿本集>
該当歌、なし

93
歌番1212 みしまえの たまへのあしを しめしより おのかとそおもふ いまたからねと
<万葉集>
詠み人知れずの歌
集歌1348 三嶋江之 玉江之薦乎 従標之 己我跡曽念 雖未苅
訓読 三島(みしま)江(え)し玉江(たまえ)し薦(こも)を標(し)めしより己(おの)がとぞ思(も)ふいまだ刈らねど
<柿本集>
歌番339 みしまえの たまえのあしを しめしより おのかとそおもふ いまたからねと

94
歌番1239 いはみなる たかまのやまの このまより わかふるそてを いもみけんかも
<万葉集>
集歌134 石見尓有 高角山乃 木間従文 吾袂振乎 妹見監鴨
訓読 石見なる高角山の木し間ゆもわが袖振るを妹見けむかも
<柿本集>
歌番225 いはみなる たかつのやまの このまより わかふるそてを いもみけむかも

95
歌番1243 やましなの こはたのさとに うまはあれと かちよりそくる きみをおもへは
<万葉集>
集歌2425 山科 強田山 馬雖在 歩吾来 汝念不得
訓読 山科(やましな)し木幡(こはた)し山し馬あれど歩(かち)より吾(わ)が来(こ)し汝(な)し思(も)ひかねて
<柿本集>
歌番427 やましなの こはたのさとに うまはあれと かちよりそゆく きみをおもへは

96
歌番1244 かすかやま くもゐかくれて とほけれと いへはおもはす きみをこそおもへ
<万葉集>
集歌2454 春日山 雲座隠 雖遠 家不念 公念
訓読 春(はる)日(ひ)山(やま)雲居(くもひ)隠(こも)りて遠(とほ)けども家し思はず君をしぞ思ふ
<柿本集>
歌番334 かすかやま くもゐかくれて とほけれと いへはおもはす いもをしそおもふ

97
歌番1256 いはしろの のなかにたてる むすひまつ こころもとけす むかしおもへは
<万葉集>
長忌寸意吉麻呂見結松哀咽謌二首より
集歌144 磐代之 野中尓立有 結松 情毛不解 古所念
訓読 磐代(いはしろ)し野中に立てる結び松情(こころ)も解(と)けず古(いにしへ)そ念(も)ふ
<柿本集>
歌番231 いはしろの のなかにたてる むすひまつ こころもとけす むかしおもへは

98
歌番1287 こそみてし あきのつきよは てらせとも あひみしいもは いやとほさかり
<万葉集>
集歌214 去年見而之 秋月夜者 雖度 相見之妹者 益年離
訓読 去年(こぞ)見てし秋し月夜(つくよ)は渡れども相見し妹はいや年(とし)離(さか)る
<柿本集>
歌番264 こそみてし あきのつきよは てらすとも あひみしいもは いやとほさかる

99
歌番1289 わきもこか ねくたれかみを さるさはの いけのたまもと みるそかなしき
<万葉集> 不詳の歌
<柿本集>
歌番259 わきもこか ねくたれかみを さるさはの いけのたまもと みるそかなしき

100
歌番1315 ささなみの しかのてこらか まかりにし かはせのみを みれはかなしも
<万葉集>
集歌218 楽浪之 志我津子等何 罷道之 川瀬道 見者不怜毛
訓読 楽浪(さざなみ)し志賀津し子らが罷道(まかりぢ)し川瀬し道し見ればさぶしも
<柿本集>
歌番257 ささなみや しかのてこらの まかりにし かはせのみちを みれはかなしも

101
歌番1316 おきつなみ よるあらいそを しきたへの まくらとまきて なれるきみかも
<万葉集>
集歌222 奥波 来依荒磯乎 色妙乃 枕等巻而 奈世流君香聞
訓読 沖つ波来よる荒磯(ありそ)を敷栲の枕と枕きて寝(な)せる君かも
<柿本集>
歌番262 おきつなみ よるあらいそを しきたへの まくらとしても なれるきみかも

102
歌番1319 いへにゆきて わかやをみれは たまささの ほかにおきける いもかこまくら
<万葉集>
集歌216 家来而 吾屋乎見者 玉床之 外向来 妹木枕
訓読 家(いへ)し来て吾が屋(へ)を見れば玉(たま)床(とこ)し外(よそ)に向きけり妹し木(こ)枕(まくら)
<柿本集>
歌番263 いへにゆきて わかやをみれは しきたへの ほかにおきける いもかこまくら

103
歌番1320 まきもくの やまへひひきて ゆくみつの みなわのことに よをはわかみる
<万葉集>
集歌1269 巻向之 山邊響而 往水之 三名沫如 世人吾等者
訓読 巻向の山辺とよみに行く水し水沫(みなは)しごとし世し人われは
<柿本集>
歌番664 まきもくの やまへひひきて ゆくみつの みつのあわこと よをはわかみて

104
歌番1321 いもやまの いはねにおける われをかも しらすていもか まちつつあらん
<万葉集>
集歌223 鴨山之 磐根之巻有 吾乎鴨 不知等妹之 待乍将有
訓読 鴨山し岩根し枕(ま)けるわれをかも知らにと妹し待ちつつあらむ
<柿本集>
歌番268 いもやまの いはねにおける われをかも しらすていもか まちてやあらむ

105
歌番1355 かもやまの いはねしまきて あるわれを しらぬかいもか まちつつあらむ
集歌223 鴨山之 磐根之巻有 吾乎鴨 不知等妹之 待乍将有
訓読 鴨山し岩根し枕(ま)けるわれをかも知らにと妹し待ちつつあらむ
<柿本集>
歌番269 かもやまの いはねのたかに あるわれを しらすていもか まちつつませる
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人麿集(柿本集)後編 恋後半・雑纂・国名歌

2014年05月03日 | 資料書庫
柿本集 (後編 恋後半・雑纂・国名歌)

450こひしなむ のちはなにせむ わかいのち いきたるひこそ みまくほしけれ
451しきたへの まくらうこきて いねられす ものおもふこよひ はやくあけなむ
452ゆめにたに なとかはみえぬ みえねとも われかもまとふ こひのしけさに
453なくさむる こころもなきに かくてのみ こひやわたらむ つきひかさねて
454いかにして わするるものそ わかせこに こひはまされと わすられなくに
455かひもなき こひもするかな ゆふされは ひとのたまくら ねぬるものゆゑ
456ももよしも ちよしもいきて あらめやは わかおもふいもを おきてなけかむ
457たまほこの みちゆきふりに おもはすに いもをあひみて なけくころかな
458いもかそて わかれしひより ひさかたの ころもかたしき こひつつそぬる
459うはたまの わかくろかみを なきくらし おもひみたれて こひわたるかな
460いまさらに きみかたまくら さためめや わかひものをの とくともなしに
461おほはらの あらのらにわか いもをおきて いねこそかねつ ゆめにみゆれは
462ゆふけにも ゆめにもみえよ こよひたに こさらむひとを いつとかまたむ
463しきたへの まくらかさねて きみとわれ ぬるとはなしに としそへにける
464やまさとの まきのいたとの おとはやみ きみかあたりの しものうへにねむ
465あしひきの やまさくらとを あけおきて わかまつきみを たれかととむる
466つききよみ いもにあはむと たたちから われはくれとも よそふけにける
467あさかけに わかみはなりぬ からころも たもとのあはて さひしくなれは
468すりころも きるとゆめにみつ うつつには たかことのはか しけくあるへき
469しかのあまの しほたれころも なるれとも こひてふものは わすれかねつも
470さととほみ こひわひにけり ますかかみ おもかけさらす ゆめにみゆれは
471たちのをの おひにやをさす ますらをも こひてふものは わすれかねつも
472ときもりか うちなすつつみ かそふれは ときにはなりぬ あはさるもあやし
473ともしひの かけにかかよふ うつせみの いもかゑみかほ おもかけにみゆ
474をはたたや いたたのはしの くつれなは けたよりゆかむ こふなわきもこ
475きみこふと ぬれとねられぬ つとめては たれかのるうまの あしおとかする
476くれなゐの すそひくみちを なかにおきて きみやきまさむ われやゆくへき
477まののいけの こすけのかさを ぬはすして ひとのとふなを たつへきものか
478わきもこか そてをたのみて まののうらの こすけのかさを とらてきにけり
479やまたかみ たにへにはへる たまかつら たゆるときなく みるよしもかな
480いきのをに おもへはくるし たまのをの たえてみたれむ ひとはしるとも
481たまのをの くりよせつつも あはさらは われおなしをに あはむとそおもふ
482いせのあまの あさなゆふなに かつくてふ あはひのかひの かたおもひにして
483おもへとも おもへもかねつ あしひきの やまとりのをの なかきこよひを
484わきもこを こふるにあらむ おきにすむ かものうきねの やすけくもなし
485あけぬとて ちとりしはなく しきたへの きみしたまくら いまたあかなくに
486おくやまの このはかくれて ゆくみつの おとききしより つねにわすれす
487かせふきぬ うらうらなみに なきなをは わかうへにたつ あふとはなしに
488まゆねかき はなひむときも まためやは いつしかみむと とひつるわれを
489わきもこに こひてかひなき しろたへの そてかへしては ゆめにみえつつ
490わかせこか たもとかへせる よるのゆめに まさていもかあふ かことかことに
491おしてるや やますけかさを おきふるし のちはたれきむ ものならなくに
492くれなゐの はなしありせは ころもてに そめつけむとて ゆくへくそおもふ
493かはかみに あらふわかなの なかれても きみかあたりの せにこそよらめ
494ももしきの おほみやひとは たまほこの みちもいてぬに こふるころかな
495さをしかの なくらむやまを こえさらむ ひたにやきみか あはしとはする
496いしうへに おひたるあしの なををしみ ひとにしられて こひつつそふる
497わきもこか きすてふりぬる あかころも けかれふりなは こひやしぬへき
498ふゆこもり はるさくはなを てにとりて ちかへりうらみ こひもするかな
499はるやまの かすみにまよふ うくひすも われにまさりて ものはおもはし
500わきもこか あさけのかほを よくみれは けふのあいふを こひくらしつる
501さきてちる うめかしたえに おくつゆの けぬへくいもを こふるころかな
502あさかすみ かひやかしたに なくかはつ こゑたにきかは われこひめやも
503さくらはな ときすきぬれと わかこふる こころのうちの やむときもなし
504やまふきの にほへるいもか はねすいろの あかものすかた ゆめにみえつつ
505あきののの をはなかすゑの うちなひき こころもいもに われよするかも
506あきやまに しもふりおきて このはちる としはゆくとも われわすれめや
507もみちはに にほへるころも われはきし きみかまつちは よもきこえかね
508わかやとに いまさくはなは をみなへし さらぬいろには なほこひにけり
509はきのはな にほふをみれは きみにあはぬ まのひさしくも なりにけるかな
510あきされは かりひとこゆる たつたやま たちてもゐても きみをしそおもふ
異同歌 あきされは かりとひこゆる たつたやま たつとゐるとに きみこそおもへ
511あきのたを つとにおしをり おけるつゆ きえもしなまし きみにあはすは
512ますらをの こころはなくて あきのたの こひにははなを みつつありなむ
513わかそてに ふりつむゆきの なかれいてて いもかたもとに いまもきえなむ
514ゆめのこと きみにあひみて かきくらし ふりくるゆきの きえそかへれる
515ひとめみし ひとはこふらく かきくらし ふりくるゆきの きえそかへれる
516かきくらし ふりくるゆきの きえぬとも きみにあはむと なからへわたる
異同歌 あまきりあひ ふりくるゆきの きえぬとも きみにはあはむと わかかへりきたる
517うめのはな うちみみられす ふるゆきの いちしるくしも つかひなやりそ
518ひとりして ものをおもふか すへなさに ゆけともいもか あふときもなし
519うちのうみに つりするあまの ふねにのり のりにしこころ つねにわすれす
520いまさらに いもにあはてや はるかすみ たなひくのへの はなもちりなむ
521あひみすて としそへにける あやしくも いもはこひすて こひわたるかな
522あしかもの いりてなくねの しらすけの しらすやいもを かくこひむとは
523ころもても さしかへつへく ちかけれと ひとめをおほみ こひつつそをる
524つゆくさの かりなるいのち あるものを いかにしりてか のちにあはむきみ
525さをしかの ふすくさむらの みえねとも いもかあたりを ゆかはかなしも
526よそにありて くもゐにみゆる いもかいへに はやくいたらむ あゆめくろこま
527たけとあまり たかねとなかき いもかかみ このころみねは あけつらむかも
528やまくさの しらつゆおほみ そてにふる こころふかくて わかこひやます
529よならへて きみをきませと ちはやふる かみのこころを ねかぬひはなし
530ゆふつくよ あかつきかたの あさかけに わかみはなりぬ いもをおもひかね
531まそてもて ゆかうちはらひ きみまつと をりつるほとに つきかたふきぬ
532きみかすむ みかさのやまに ゐるくもの たてはわかるる こひもするかな
533ゆふけとふ わかそてにおく つゆをおもみ いもにみせむと とれはきえつつ
534まちわひて うちへはいらし しろたへの わかころもてに つゆはおくとも
535あさつゆの きえみきえすみ おもひつつ またこまかへし きみをこそみめ
536あしひきの やまとりのをの ひとめをは ひとめみしこを こふへきものを
537いもかなも わかなもたては せしとこそ ふしのたかねも もえつつわたれ
538しらなみの たちよるかたの あらいそに あらましものを こひつつあらすは
539おほともの みつのしらなみ いもをなほ こふとしひとの しらてひさしく
540おほふねの たゆたふうらに いかりおろし いかにしてかも わかこひやまむ
541みさこゐる おきのあらいそに たつなみの ゆくへもしらす わかこひしさは
542おほふねの おきにもへにも ゐるなみの よるへもわれは きみかまにまに
543なかなかに きみにあはすは まきのうらの あまならましを たまもかりつつ
544すすきとる あまのたくひの ほのにたに みぬひとゆゑに こふるころかな
545うまやちに ひきふねわたし たたのりに いもかこころに のりてふるかも
546わかやとの ほたてふたから つみはやし みになるまてに きみをこそまて
547わかこひの こともかたらむ なくさむる きみかつかひを まちやかねてむ
548うつつには あふよしもなし ゆめにたに まなくみむきみか こひにしぬへし
549こむといへは たたにたやすし ちひさくも こころのうちに わかおもはなくに
550おもひいてて ねにはなくとも いちしるく ひとのしるへく なけきすなゆめ
異同歌 おもひつつ ねにはなくとも いちしるく ひとのしるへく なけきすなきみ
551しろたへの そてかけしより たまたれの をすのすかさる またもあはぬに
552をくるまの にしきのひもを とけむかも われをしのはは われもおもはむ
553しのふへし むすひもあへす をくるまの にしきのひもを よひよひことに
554をくるまの にしきのひもを ときそめて あまたはねすは たたひとよのみ
555あらかふに しひてもきみか ぬれきぬか きよにそやなそ たたひとよのみ
556しほころも あまのみかとそ おもひける うきよにふれは きぬひともなし
557なきなのみ いはれのいけの みきはかな よにもあらしの かせもふきなむ
558ぬれきぬを ほすさをしかの こゑきけは いつしかひよと なくにそありける
559たこのうら あまのぬれきぬ きたれとも ほしきにものは いはすもあるかな
560ふくかせの したのちりにも あらなくに さもたちやすき わかなきなかな
561ほしわひし ひとをそききし ぬれころも わかみになして いまそかなしき
562みちのくに あるといふなる なとりかは なきなとりては くるしかりけり
563わたりぬる みにこそありける なとりかは ひとのふちせと おもひけるかな
564なきなたつ みのきるものは ぬれころも いくかさねとそ かきらさりける
565しつのをに かけてととめよ おほかたは たかたちそめし なきなならねは
566わかやにも きみかきるなる ぬれきぬを よにもあらしの かせもふきなむ
567おなしなを たつとしたたは ぬれころも きてをなくさむ うらふるるまて
568なきなのみ たつのいちとは さわけとも いさまたひとを うるよしもなし
異同歌 なきなのみ たつのいちとは さわけとも いさまたひとを うるよしもかな
569おりたたぬ ほとはかりをや なとりかは わたらぬひとも なにならなくに
570ゆめならて あふことかたき きみゆゑに われもたつなを たたにやはきく
571あちきなく なをのみたてて からころも みにもならさて やまむとやきみ
572きみをわれ いくたのうらの いくたひか うきなをたてと おもひしものを
573たけのはに おちゐるくもの まろひあひて ぬるよはなしに たつわかなかな
異同歌 たけのはに おきゐるくもの まろひあひて ぬるよはなしに たつわかなかな
574なきたむる なみたのかはの うきぬなは くるしやひとに あはてたちなは
575きみといへは なにかなきなの をしからむ よそへてきくも うれしきものを
576うつくしと おもひしいもを ゆめにみて おきてさくるに なきそかなしき

雑纂
577うちはへて あなかせさむの ふゆのよや ましろにしもの おけるあさみち
578ふたみちに われやまとはむ いにしへの のなかのくさも しけりあひにけり
異同歌 ふるみちに われやまとはむ いにしへの のなかのくさと しけりあひにけり
579あさまたき わかうちこゆる たつたやま ふかくもみゆる まつのみとりか
580あまならて うみのこころを しらぬかな いつみつしほに みるめからなむ
異同歌 あまならて うみのこころも しらぬかな いつみにしほに みるめかるらむ
581あしかもの さわくいりえの みつのえの よにすみかたき わかみなりけり
異同歌 あしかもの さわくいりえの みつならて よにすみかたき わかみなりけり
582ちりぬとも いかてかしらむ やまさくら はるのかすみの たちしかくせは
583ふたはより ひきこそうゑめ みるひとの おいせぬものと まつをきくにも
584やまかはの いしまをわけて ゆくみつは ふかきこころも あらしとそおもふ
585はるたては うめのはなかさ うくひすの なにをはりにて ぬひととむらむ
586あたひとの ことにつくへき わかみかは しらてやひとの こひむといふらむ
異同歌 あたひとの ことにつくへき わかみかは しらはやよそに こひしてふらむ
587ひねもすに とほたあふみに たねまきて かへるたをさは くるしかるらむ
588ふしのねの たえぬおもひを するからに ときはにもゆる みとそなりぬる
589あふことを いつしかとのみ まつしまの かはらすひとを こひわたるかな
590すまのうらの つるのかひこの あるときは これかちよへむ ものとやはみる
異同歌 すまのうらに つるのかひこの あるときは これかちよへむ ものとやはみる
591あしからの さかみにゆかむ たまくしけ はこねのやまの あけむあしたに
592しをりせむ さしてたつぬに あしひきの やまのをちにて あとはととめむ
異同歌 しをりせむ さしてたつねよ あしひきの やまのをちにて あとはととめつ
593はるのたの なはしろところ つくるとて あはけふよりそ せきはしめつる
異同歌 はるのたの なはしろところ つくるとて あはけふよりそ せきははしむる
594とめゆかむ つふさにあはと みえすとも しかのはかりは しるといふなり
異同歌 とめゆかむ つふさにあとは みえすとも しかのはかりは しるといふなり
595こすゑしも ひらけさりつる さくらはな しもつふさこそ まつはさきけれ
異同歌 こすゑしも ひらけさりけり さくらはな しもつふさこそ まつはさきけれ
596いつしかと おもひたちにし はるかすみ きみかみやまに かからさらめや
異同歌 いつしかと おもひたちにし はるかすみ きみかやまちに かからさらめや
597なかれあふ みかとのみつの むしふれは かたへもしもは うまきなりけり
異同歌 なかれあふ みなとのみつの うまけれは かたへもしほは あまきなりけり
598わたつうみの おきにこちかせ はやからし かのこまたらに なみたかくみゆ
599さしてゆく みかさのやまし とほけれは いまはひたけぬ あすそいたらむ
異同歌 さしてゆく みかさのやまし とほけれは けふはひたけぬ あすそいたらむ
600あたなりと いひさめられし ぬれきぬは ひしなのみこそ たちまさるらめ
異同歌 あたなりと いひそめられし ぬれきぬは ひしなのみこそ たちまさりけれ
601おとにきく よしののさくら みにゆかむ つけよやまもり はなのさかりを
602はるきぬと ひとしもつけよ あふさかの ゆふつけとりも こゑにこそしれ
異同歌 はるきぬと ひとしもつけす あふさかの ゆふつけとりの こゑにこそしれ
603いつかおひむ つのくむあしを みるほとは なにはのうらの なのみとそおもふ
異同歌 いつかおひむ つのくむあしを みるほとは なにはのうらも なのみとそおもふ
604ゆふやみは あなおほつかな つきかけの いてはやはなの いろもまさらむ
異同歌 ゆふやみは あらおほつかな つきかけの いてはやはなの いろもまさらむ
605はるたては わかささみつに つむせりの ねふかくひとを おもひけるかな
異同歌 はるたては わかさはみつに つむせりの ねふかくひとを おもひぬるかな
606しかやまを こえゆくひとの つくしつゑ ちせむわたすと きくはまことか
異同歌 しかやまを こえゆくひとを つつらつゑ ちとせまたすと きくはまことか
607おのかかの ありけるものを はなといへは ひとつにほひと おもひけるかな
異同歌 おのかかく ありけるものを はなといへは ひとつにほひに おもひけるかな
608されはかつ ちりぬるやまの はなさくら こころのとかに おもひけるかな
異同歌 さけはかつ ちりぬるやまの さくらはな こころのとかに おもひけるかな
609はなのすゑ ちうにまさりて にほひせは それをそひとは をりてとらまし
610ひとににす さかなきおやの こころゆゑ ちこさへにくく おもほゆるかな
611あつまちの もろこしさとに おりてたつ きぬをやからの きぬといふらむ
612はるさめに よにはみつこそ まさるらし たにはたきえは おとたかくなる
異同歌 はるさめに よにはみつこそ まさるらし たはたたきこゑ おとたかくなる
613たのむへき われたにこころ つらからは ふかきやまにも いらむとそおもふ
614はるかすみ たちまふやまと みえつるは このもかのもの さくらなりけり
615うくひすの こゑをほのかに うちなきて いなはいつれの やまにたつねむ
異同歌 うくひすの こゑをほのかに うちなきて いなはいつれの やまをたつねむ
616やまのはは きよくみゆれと あまのはら たたよふくもの つきやかくさむ
異同歌 やまきはは きよくみゆれと あまつそら たたよふくもの つきやかくさむ
617よとともに なみなれいその いはみれは かたへそかわく ときはありける
異同歌 よとともに なみなきいその いはみれは かたへそかわく ときはありける
618くさのはに おきゐるつゆの きえぬまは たまかとみゆる ことのはかなき
異同歌 くさのはに おきゐるつゆの きえぬまは たまかとみゆる ことのはかなさ
619あともなく けさふるゆきの あさまたき いつもるときくは そらことかきみ
異同歌 ほともなく けさふるゆきの あさまたき いつもといふは そらことかきみ
620たちかはり ますたのいけの うきぬなは くれともたえぬ ものにそありける
621きみかみま さかなくつねに はなれつつ わかはなそのに ふみしたくめり
622ときはやま ふたはのまつの としをへて くひせにならむ ときをみてしな
異同歌 ときはやま ふたはのまつの としをへて くひせにならむ としをみてしか
623たもとひち うきてみさへそ なかれつる わかなきこひの あはぬなみたに
異同歌 たもとひち うきてみさへそ なかれつる わりなきこひの あはぬなみたに
624ひころへて みれともあかぬ さくらはな かせのさそはむ ことのねたさよ
625うくひすの あきてたちぬる はなのかを かせのたよりに われはしるかな
異同歌 うくひすの あきてたちぬる はなのかを かせのたよりに われはみるかな
626みつとりの たちゐてさわく みつのすは うかへるふねそ うきていにける
異同歌 みつとりの たちゐてさわく いそのすは うかへるふねそ よそにすきける
627うみのなか ときはにいりて かつくあまも ひとにはあはひ ともしかりけり
異同歌 うみのなか ときはにいりて かつくあまも ひとにあはひは ともしかりけり
628あさみとり のへのあをやき いててみむ いとをふきくる かせはありやと
629わかちかふ ことをまことと おもはすは あはちはやふる かみにとへきみ
630こすゑのみ あはとみえつつ ははききの もとをもとより しるひとそなき
異同歌 こすゑのみ あはとみえつつ ははききの もとをもとより みるひとそなき
631われはけさ ぬきてかへりつ からころも よのまといひし ことをわすれて
異同歌 われはけさ ぬきてかへりぬ からころも よのまといひし ことをわすれす
632はかなしや かせにまかへる くものいよ こころほそくそ そらにわたれる
異同歌 はかなしや かせにうかへる くものいよ こころほそくそ そらにわたれる
633みなとさる ふねこそけさは あやしけれ ひたけはかせの ふきてかへすに
異同歌 みなとさる ふねこそけさは あやしけれ ひたけてかせの ふきてかへるに
634かたみちち くせにつくれと いひやらむ まきしわかなも おいはつむへき
異同歌 かたみちх くせにхххх いひやらむ まきしわかなも おひはつむへく
635ひとをこひ せめてなみたの こほるれは これたかかたの そてそぬれける
636たれしかも われをこふらむ したひもの むすひもあへす とくるこころは
異同歌 たれしかも われをこふらむ したひもの むすひもあはす とくるひころは
637はるののに きのふうせにし わかこまを いつれのかたに さしてもとめむ
638はなにてふ ここにてつねに むつれなむ のとけからねは みるひともなし
639あはぬこひ うかりけりとそ おもひぬる みをはこかせと しるしなけれは
640わかやとの おほすみやまの いかなれは あきをしらすて ときはなるらむ
異同歌 わかやとに おほすみやまの いかなれは あきをしらすて ときはなるらむ
641はるののの はなをくさくさ つまむとて さもかたみをも つくりつるかな
642ゆきかへる くもゐはみちも なきものを いかてかかりの まとはさるらむ
異同歌 ゆきかよふ くもゐはみちも なきものを いかてかかりの まとはさるらむ
643やまきはに みつしまさらは みなかみに つもるこのはは おとしはつらむ
異同歌 やまかはに みつしまさらは みなかみに つもるこのはは おとしはつらむ

国名歌
644みれとあかぬ よしののかはの とこなめに たゆるときなく またかへりみむ
異同歌 みれとあかぬ よしののやまの とこなめに たゆるときなく またかへりみむ
645あかねさし ひはてらせとも うはたまの よわたるつきの かくらくをしも
646しらすとも またひくみちを しらすとも すまちをゆけは つかひおもほゆ
異同歌 しらすとも またひくみちを しらすとも すまちをゆけは いけりともなし
異同歌 ふすまちの ひくてのやまに いもをおきて やまちをゆけは いけりともなし
647すまのうらに ふねのりつらむ をとめらか あかものすそに しほやみつらむ
異同歌 みをうみに ふなのりすらむ つまともに たまものすそに しほみちぬらむ
648やまさとは つきひもおそく うつらなむ こころのとかに もみちはもみむ
649しらつゆを たまにつくれる なかつきの ありあけのつきは みれとあかぬかも
異同歌 しらつゆを たまにつつれる なかつきの ありあけのつきは みれとあかぬかも
650たれかれと われをなとひそ なかつきの しくれにぬれて きみまつわれそ
651わかやとに さけるあきはき ちりはては あきにもあはぬ みとやなりなむ
652なかつきを きみにこひつつ いけらすは さきてちりにし はなならましを
653ことにいてて いははゆゆしみ やまかはの たきつこころを せきそかねつる
654ひのくもり あめふるかはの ささらなみ まなくもひとを こひわたるかな
異同歌 ひのくもり あめふるかはの ささらなみ まなくもひとに こひらるるかな
655あらいその ほかゆくなみの ほかこころ われはおもはし こひはしぬとも
656なきなのみ たつたのやまの ふもとには よにもあらしの かせもふかなむ
657まさしてふ やそのちまたに ゆふけとふ うらまさにせよ いもにあふへく
異同歌 まさしてふ やそのちまたに ゆふけとふ うらまさにせよ いもにあふよし

異同 人麿集にのみ載る歌
658はにやすの みちのつつみの かくれぬの ゆくへもしらす とねりまとひぬ
659あきはきに おとすしくれの ふるときは ひとをおきゐて こふるよそおほき
660よをさむみ あさとをあけて いてぬれは にはもはたらに ゆきふりにけり
661あはゆきの ふるにきえぬへく おもへとも あふよしもなみ ほとそへにける
662こひつつも けふはありなむ たまくしけ あけなむあすを いかてくらさむ
663ちちにひとは いふともひとは おりつかむ わかはたものに しろきあさきぬ
664まきもくの やまへひひきて ゆくみつの みつのあわこと よをはわかみて
665あきたかる かりほをつくり わかをれは ころもてさむし つゆそおきける
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人麿集(柿本集)中編 恋前半

2014年05月03日 | 資料書庫
柿本集 (中編 恋前半)


184あめのうみに くものなみたつ つきのふね ほしのはやしに こきかへるみゆ
異同歌 そらのうみに くものなみたつ つきのふね ほしのはやしに こきかへるみゆ
185つねはさも おもはぬものを このつきの すきかくれゆく をしきよひかな
186あすのよを てらすつきかけ かたよりに こよひによりて よなかからなむ
187たまたれの こすのまとほし ひとりゐて みるしるしなき ゆふつくよかな
188ももしきの おほみやひとの まかりいてて あそふこよひの つきのさやけき
189ますかかみ てるつきかけを しろたへの くもかくせるか あまつきりかも
190あしひきの やまかはのせの あるなへに つきゆみなかく くもたちわたる
191おほうみは しまもあらなくに うなはらや たゆたふなみに たてるしらくも
192わかせこか はかまのうらを そめむとて けふのこしあめに われそぬれぬる
193なるかみの おとにのみきく まきもくの ひはらのやまを けふみつるかな
194いにしへの ことはしらねと わかみても ひさしくなりぬ あまのかくやま
195おほきみの みかさのやまの おひにせる ほそたにかはの おとのさやけき
異同歌 おほきみか みかさのやまを おひにする ほそたにかはの おとのさやけさ
196さほかはに あそふちとりの さよふけて なくこゑきけは いこそねられね
197みなひとの こひしみよしの けふみれは うへもいひけり やまかはきよみ
198うちかはに おひたるすかも かはきよみ とらてきにける つとにせましを
199さよふけて ほりえこくなる まつらふね かちおとたかし みをはやみかも
200いとまあらは とりにきませよ すみよしの きしにおひたる こひわすれくさ
201すみよしの きしにこころを おきつへに よするしらなみ みつつおもふらむ
202すみよしの おきつしらなみ かせふけは きよれるはまを みれはきよしも
203ゆふされは かちおとすなり あまをふね おきつめかりに いつるなるへし
204くさまくら たひにしあれは あきかせの さむきゆふへに かりなきわたる
205たまつしま みれともあかす いかにして つつみもたらむ みぬひとのため
206うはたまの くろかみやまを あさこえて やましたつゆに ぬれにけるかも
207さほやまに たなひくくもの たゆたひに おもふこころを いまそさたむる
208あまとふや かりのつかひも えてしかな ならのみやこに ことつてやらむ
209ゆふされは あきかせさむし わきもこか ときあらひきぬ ゆきてはやきむ
210おほなむち すくなみかみの つくれりし いもせのやまを みれはともしも
異同歌 おほなむち すくなみかみの つくれりし いもせのやまを みるかうれしさ
211たひになほ ひもとくものを ことしけみ まろねひとりする なかきこよひを
212ふなかせの かくふくまても いつまてか ころもかたしき わかひとりねむ
213いにしへに ありけむひとも わかことや みわのひはらに かさしをりけむ
214ほのほのと あかしのうらの あさきりに しまかくれゆく ふねをしそおもふ
215もののふの やそうちかはの あしろきに いさよふなみの ゆくへしらすも
異同歌 もののふの やそうちかはの あしろきに いさよふなみの よるへしらすも
216かみかせや いせのはまをき をりしきて たひねやすらむ あらきはまへに
異同歌 かみかせの いせのはまをき をりふせて たひねかすらむ あらきはまへに
217ささのはも みやまもそよに みたるめり われはいもおもふ わかれきぬれは
異同歌 ささのはも みやまもそよに みたるらむ われはいもおもふ おきてきつれは
218かはのせに うつまくみれは たまもかる ちりみたれたる かはのふねかな
219ささなみや おほつのみやは なのみして かすみたなひき みやきもりなし
異同歌 ささなみや おほつのうらは なのみして かすみたなひき みやきもりなし
220ささなみや しかのからさき さきくあれと おほみやひとの ふねまちかねつ
異同歌 ささなみの しかのからさき ゆきてみれと おほみやひとの ふねまちかねつ
異同歌 ささなみや しかのからさき きたれとも おほみやひとの ふねまちかねつ
221おみのうみに ふなのりすらむ わきもこか たまものすそに しほみつらむか
異同歌 すまのうらに ふなのりすらむ をとめこか あかものすそに しほやみつらむ
222むこのうみの とまりなるらし いさりする あまのつりふね なみのうへにみゆ
異同歌 みこのうみは よくこそあるらし いさりせる あまのつりふね なみのうへにみゆ
223たちはきの たふさのすゑに いつしかと おほみやひとの たまもかるらむ
異同歌 たちはきの たふさのすゑに いまもかも おほみやひとの たまもかるらむ
224しまみやの まかりのいけの はまちとり ひとめをちかみ おきにおよはす
異同歌 しまみやの みかりのいけの はなちとり ひとめきらひて いけにおよかす
225いはみなる たかつのやまの このまより わかふるそてを いもみけむかも
異同歌 いはみなる たかまのやまの このまより わかふるそてを いもみけむかも
226こむらさき ほすかはくれぬ いつくにか たまやとからむ さとはらにして
227はなれいそに たてるむろのき うたかたも ひさしきとしの すきにけるかも
228こかねやま したゐのしたに なくとりの こゑたにきかは なにかなけかむ
229ことしけに さとにすますは けさなきし かりにたくひて きなましものを
異同歌 ことしけき さとにすますは けさなきし かりにたくひて いなましものを
230あまさかる ひなのなかちを こきくれは あかしのとより やまとしまみゆ
異同歌 あまさかる ひなのなかちを こきゆけは あかしのとより いへのあたりみゆ
231いはしろの のなかにたてる むすひまつ こころもとけす むかしおもへは
232もかみかは すかきせしより こころありて まかりかへせる やかたをのたか
233しらなみは たてところもに かさならす あかしもすまも おのかうらうら
234くさかくれ ゆくさをしかは みえねとも いもかあたりは みれはこひしも
235はるさめに ころものいろは ひちつとも いもかいへちの やまはこえなむ
236あしたさく ゆふへはしほむ つきくさの うつろふいろは ひとにそありける
237くたらかは かはせをはやみ わかせこか あしのそこにも ふれてふるかな
238たひにして あたねするよの こひしくは わかいへのかたに まくらせよきみ
239いにしへの ふるきおきなの いはひつつ うゑしこまつは こけおひにけり
240あさなあさな みすはこひなむ くさまくら たひゆくきみか かへりくるまて
241おもはすに ふくあきかせか たひねして ころもかすへき いももあらなくに
242まゆねかき またいふかしく おもひける いにしへひとに あひみつるかな
243おしてるや やますけかさを おきふるし のちはたれきむ ものならなくに
244やまたかみ したゆくみつの おちたきつ うらなみみれと あかぬきみかも
245みよしのの あきつのかはの よろつよに たゆるときなく またかへりこむ
246ちとりなく みよしのかはの かはこゑの なりやむときは なきにおもふきみ
247たきのうへの みふねのやまは おきなから おもひわするる ときのまもなし
248あらのらに あれはあれとも おほきみの しきますよひは みやことなりぬ
249ややましる わかたまのをを おほくには やまとへかとも おなしとそおもふ
250わたつうみの もたるしらたま みまほしき いはふちめくり あさりするかも
251うくひすは ときときなけと あつまちの きみかたよりは まてとこぬかも
252みやこちは われもしりたり そのみちは とほくもあらす としはふれとも
253ここはくに ひとはいへとも おりてきむ わかはたものの しろきあさきぬ
254うちひさす みやちにありし ひとつまはねたし たまのをの おもひみたれて ねにしよそおほき
255かのをかに をきかるをのこ しかなかりそ ありつつも きみかきまさむ みまくさにせむ
256ますかかみ みしかとおもふ いもにあはむかも たまのをの たえたるこひの しけきこのころ
異同歌 ますかかみ みしかとおもふ いもにあはむかも たまのをの たえたるおもひ しけきこのころ
257ささなみや しかのてこらの まかりにし かはせのみちを みれはかなしも
258ささなみや しかのおほわた よとむとも いにしへひとに またあはめやも
259わきもこか ねくたれかみを さるさはの いけのたまもと みるそかなしき
260ひさかたの あめのふること あふきみし みやのみことの あれまくをしも
異同歌 ひさかたの あめふることに なかめせし みやのみことの あれまくもをし
261つましあらは つみてゆかまし さみのやま うへのおはらに すきにけらしも
異同歌 つまもあらは つみてたかまし さみやまの とこのおはらき すきぬへしやは
262おきつなみ よるあらいそを しきたへの まくらとしても なれるきみかも
異同歌 おきつなみ よるあらいその しきたへの まくらとなりて なれるきみかも
263いへにゆきて わかやをみれは しきたへの ほかにおきける いもかこまくら
異同歌 いへにゆきて わかやをみれは たまささの ほのかにおける いもかこまくら
264こそみてし あきのつきよは てらすとも あひみしいもは いやとほさかる
異同歌 こそみてし あきのつきよは やとれとも あひみしいもは ましとほさかる
265あすかかは しからみわたし せかませは なかるるみつも のとけからまし
異同歌 あしろきの しらなみよりて せかませは なかるるみつも のとけからまし
266ひさかたの あめにしをるる きみゆゑに つきひもしらす こひわたるかも
異同歌 ひさかたの あめにしくるる きみゆゑに つきひもしらす こひわたるらむ
267あきやまの もみちをしけみ まとひぬる いもをもとむと やまちくらしつ
異同歌 あきやまの もみちをしけみ まとひぬる いもををしむと やまちくらしつ
268いもやまの いはねにおける われをかも しらすていもか まちてやあらむ
異同歌 いもやまの いはねにおける われをかも しらすていもか まちつつあらむ
269かもやまの いはねのたかに あるわれを しらすていもか まちつつませる
異同歌 かみやまの いはねのたかに あるわれを しらぬかいもか まちつつませる
270おほふねに まかちしけぬき おはかちを こきつつわたる つきひとをとこ
異同歌 おほふねに まかちのしぬに うなちとり こきててわたる つきひとをとこ
271かみかせの きよきゆふへに あまのかは ふねこきわたせ つきひとをとこ
異同歌 あきかせの きよきゆふへに あまのかは ふねこきわたせ つきひとをとこ
272あきかせの ふきにしひより あまのかは せにたちいてて まつとつけこせ
273わかせこを わかこひをれは わかやとの くささへおもひ うらかれにけり
274みなといりの あしわけをふね さはりおほみ わかおもふひとに あはぬころかな
異同歌 みなといりの あしわけをふね さはりおほみ こひしきひとに あはぬころかな
275かたいともて つらぬくたまの ををよわみ みたれやしなむ ひとのしるへく
276あしひきの やましたとよみ ゆくみつの ときそともなく こひわたるかも
異同歌 あしひきの やましたとよみ ゆくみつの ときそともなく こふるわかみか
277よそにのみ みつつやこひむ くれなゐの すゑつむはなの いろにいてなて
異同歌 よそにのみ みつつやこひむ くれなゐの すゑつむはなの いろにいてぬとも
278からにしき ひもときあけて ゆふひとも しらぬいのちを こひつつやあらむ
279こひこひて のちもあはむと なくさむる こころしなくは いきてあらめや
異同歌 こひこひて のちにあはむと なくさむる こころしなくは いきてあらめや
280つきしあれは あくらむわきも しらすして ねてあかししも ひとみけむかも
281こひするに しにするものにし あらませは ちたひそわれは しにかへらまし
異同歌 こひするに しぬるものにし あらませは わかみはちたひ しにかへらまし
282さをしかの をかのかやふし いちしるく われはしらぬに ひとのしるらむ
283あしひきの やましたかせは ふかねとも きみかこぬよは かねてさむしも
284とにかくに ものはおもはす ひたたくみ うつすみなはの たたひとすちに
285はふりこか いはふやしろの もみちはも しめをはこえて ちるといふものを
異同歌 はふりこか いはふやしろの もみちはも しめをはこえて ちりくるものを
286こひこひて こひてしねとや わきもこか わかいへのかとを すきてゆくらむ
異同歌 こひこひて こひてしねとや わきもこか わかいへのかとを すきてゆきぬる
287ますらをの うつしこころも われはなし よるひるわかす こひしわたれは
288こひつつも けふはくらしつ かすみたつ あすのはるひを いかてくらさむ
異同歌 わひつつも けふはくらしつ かすみたつ あすのはるひを いかてくらさむ
289やまのはを さしいつるつきの はつはつに いもをそみつる こひしきまてに
異同歌 やまのはに さしいるつきの はつはつに いもをそみつる こひしきまてに
290たまゆらに きのふのくれに みしものを けふのあしたに こふへきものか
291かくはかり こひしきものと しらませは よそにそみつる ありけむものを
異同歌 かくはかり こひしきものと しらませは よそにみゆへく あらましものを
292こひしなは こひもしねとか たまほこの みちゆきひとに ことつてもなし
異同歌 こひしとか こひもしねとか たまほこの みちゆきひとに ことつてもなし
293いはねふみ かさなるやまは へたてねと あはぬひかすを こひわたるかも
異同歌 いはねふみ かさなるやまは なけれとも あはぬひかすを こひわたるかな
294つるはみの あはせのきぬの うらにせは わかそてひめや きみかきまさぬ
295しきたへの そてかへしきみ たまたれの をちのすきせる きえてあらむやは
異同歌 しきたへの そてかへしてし きみやたれ のうちのすきを またはあはむや
異同歌 しきたへの そてかへしきみ たまたれの をちにすきたる たまもあはむやは
296とききぬの おもひみたれて こふれとも なそなにゆゑと とふひともなき
異同歌 とききぬの おもひみたれて こふれとも なとなかゆゑと いふひともなし
297あしひきの やまたもるいほに おくかひの したこかれつつ わかこふらくは
異同歌 あしひきの やまたもるをの おくかひの したこかれつつ わかこふらくは
298おもふなと きみはいへとも あふことを いつとしりてか わかこひさらむ
異同歌 おもふなと ひとはいへとも あふことを いつとしりてか わかこひさらむ
299おくやまの いはかきぬまの みこもりに こひやわたらむ あふよしをなみ
300なにすとか きみをいとはむ あきはきの そのはつはなの うれしきものを
異同歌 なにすとか きみをいとはむ あきはきの そのはつはなの こひしきものを
301あきはきの さきちるのへの ゆふつゆに ぬれつつきませ よはふけぬとも
異同歌 あきはきの さきけるのへの ゆふくれに ぬれつつきませ よはふけぬとも
302なかつきの ありあけのつきの ありつつも きみしきまさは わかこひめやも
異同歌 なかつきの ありあけのつきの ありつつも きみしきまさは われこひむかも
303わきもこに あふさかやまの しのすすき ほにはいてすて こひわたるかな
304あさはさき ゆふへはしほむ つきくさの けぬへきこひも われはするかな
305なかきよを きみにこひつつ いけらすは さきてちりにし はなならましを
異同歌 なかつきを きみにこひつつ いけらすは さきてちりにし はなならましを
306あきのよの つきかもきみは くもかくれ しはしもみねは こひしかるらむ
異同歌 あきのよの つきかもきみは くもかくれ しはしもみねは きみそこひしき
307きみかあたり みつつををらむ いこまやま くもなかくしそ あめはふるとも
308けふのひの あかつきかたに なくつるの おもひはあかす こひこそまされ
309きみこふと にはにしをれは うちなひき わかくろかみに しもおきまよひ
310すみよしの きしをたにほり まきしいね かりほすまても あはぬきみかな
異同歌 すみよしの きしをたにほり まきしいねを かるまていもに あはぬなりけり
311みかりする かりはのをのの ならしはの なれはまさらて こひそまされる
312くれなゐの あさはののらに かるくさの つかのまもなく わすられなくに
313あはぬよの ふるしらゆきと つもりなは われさへともに きえぬへきかな
異同歌 あはぬよの ふるしらゆきと つもりなは われさへともに きえぬへきものを
314あしひきの かつらきやまに ゐるくもの たちてもゐても いもをしそおもふ
異同歌 あをやきの かつらきやまに ゐるくもの たちてもゐても きみをこそおもへ
315かせふけは なみたつきしの まつなれや ねにあらはれて なきぬへらなり
316みくまのの うらのはまゆふ ももへなる こころはおもへと たたにあはぬかも
異同歌 みくまのの うらのはまゆふ ももへなる こころはおもへ たたにあはぬかも
317このころの ありあけのつきの ありつつも きみをはおきて まつひともなし
318よそにして こひはしぬれと いちしるく いろにはいてし あさかほのはな
319ことにいてて いははゆゆしも あさかほの にほひひらけぬ こひもするかな
異同歌 ことにいてて いははゆゆしみ やまかはの たきつこころを せきそかねつる
320あつさゆみ ひきみひかすみ こすはこす こはこそはなそ よそにこそみめ
321たらちねの おやのかふこの まゆこもり いふせくもあるか きみにあはすて
322みやきひく いつみのそまに たつたみの やむときもなく わかこふらくは
323あさしもの きえみきえすみ おもへとも いかてこよひを あかしつるかも
異同歌 あさしもの きえみきえすみ おもへとも いかてかこよひ あかしつるかも
324ちはやふる かみのいかきも こえぬへし いまはわかみの をしけくもなし
325こふるひの けなかくあれと みそのふの からあやのはなの いろにいてにけり
326みなひとの かさにぬふてふ ありますけ ありてののちも あはむとそおもふ
327ますかかみ てにとりもちて あさなあさな みれともあかぬ きみにもあるかな
異同歌 ますかかみ てにとりもちて あさなあさな みれともきみに あくときそなき
328あさねかみ われはけつらし うつくしき ひとのたまくら ふれてしものを
329ひさかたの あまてるつきも かくれゆく なにによそへて いもをしのはむ
330みかつきの さやけくもあらす くもかくれ みまくそほしき うたてこのころ
331あひみては いくひさしさにも あらねとも としつきのこと おもほゆるかな
異同歌 あひみては いくひささにも あらねとも としつきのこと おもほゆるかな
332たのめつつ こぬよあまたに なりぬれは またしとおもふそ まつにまされる
333あしひきの やまとりのをの したりをの なかなかしよを ひとりかもねむ
334かすかやま くもゐかくれて とほけれと いへはおもはす いもをしそおもふ
335うはたまの こよひなあけそ あけゆかは あさゆくきみを まつくるしきに
異同歌 うはたまの こよひなあけそ あけゆけは あさゆくきみを まつもくるしも
336わかせこを きませのやまと ひとはいへと きみかきませぬ やまのなならし
異同歌 わかせこを きませのやまと ひとはいへと やまのなならし きみもきまさす
337なにはひと あしひたくやは すすたれと おのかつまこそ とこめつらなれ
338このやまの みねにちかしと わかみつる つきのそらなる こひもするかな
339みしまえの たまえのあしを しめしより おのかとそおもふ いまたからねと
340ひさかたの あめにはきぬを あやしくも わかころもての ひるときもなき
341なみまより みゆるこしまの はまひさき ひさしくなりぬ きみにあはすて
342なつくさの つゆわけころも きもせぬに なとかわかそての かわくときなき
異同歌 なつくさの つゆわけころも きぬものを なとかわかそての かわくときなき
343なつのゆく をしかのつのの つかのまも わすれすおもへ いもかこころを
異同歌 なつのゆく をしかのつのの つかのまも わすれすおもふ いもかこころを
344ゆふされは きみきまさむと まちしよの なこりそいまも いねかてにする
345いもかかみ あけをささのの はなれこま こかれにけらし あはぬおもへは
異同歌 いもかかみ うつをささのの はなれこま たはれにけらし あはぬおもへは
346わきもこは ころもならなむ あきかせの さむきこのころ したにきましを
347わかこころ ゆたのたゆたに うきぬれは へにもおきにも よらむかたなし
異同歌 わかこころ ゆたのたゆたに うきぬなは へにもおきにも なりにけるかな
348やまたかみ ゆふひかくれの あさちはら のちみむために しめゆはましを
349すきたもて ふけるいたまの あはさらは いかにせむとか あひみそめけむ
350さをしかの いるののすすき はつをはな いつしかいもか たまくらにせむ
351ふちのはな さきてちりにき あきはきは さきてちりにき きみまちかてに
352さくらあさの をふのしたくさ つゆしあらは あかしてゆかむ おやはしるとも
353みわのやま やましたとよみ ゆくみつの みをしたえすは のちもわかつま
354あらちをの かるやのさきに たつしかも いとわかことく ものはおもはし
異同歌 あらちをの かるやのさきに たつしかも いとわかことに ものはおもはし
355ちはやふる かみのたもてる いのちをも たかためにかは なかくとおもはむ
異同歌 ちはやふる かみのたもてる いのちをも たかためとおもふ われならなくに
356ひさかたの あまてるつきの くもまにも きみをわすれて わかおもはなくに
357いへのゐの たまわけさとに いもをおきて こひやわたらむ なかきはるひを
358あまくもを ちへにかきわけ あまくたる ひともなにせむ いもかあはすは
359ことたえて いまはこしとは おもへとも せきあへぬこころ なほこひにけり
360あつさゆみ ひきはりもちて ゆるさぬに わかおもふこころ きみはしらすや
361いまもおもひ のちもわすれし かりこもの みたれてのみそ わかこひまさる
362うちなひき ひともねつれは ますかかみ とるとゆめにみつ わかこひまさる
363あひおもはぬ いもはなにせむ うはたまの ひとよもゆめに みえもこなくに
364なつくさの しけきわかこひ すみよしの きしのしらなみ ちへにつもりぬ
365さかきにも てはふるなるを うつたへに ひとつまなれは こひぬものかも
366しまつとふ はやひとふねの なみたかみ ひとよよとます たえむとおもふな
367ひとりゐて おもひみたれて あまくもの たゆたふこころ わかおもはなくに
368わかせこか いへをたのみて あしひきの やますけかさを とらてきにけり
369いもみては つきもへたてす いそのさき みちなきこひも われはするかな
370ゆふされは のへになくてふ かほとりの かほにみえつつ わすられなくに
371ほとときす なくさほやまの まつのねの ねもころみまく ほしききみかな
372みくまのに たつあさきりの たえすして われはあひみむ たたむとおもふな
373のちつひに きみをみむとて うちなひき わかくろかみに ゆきのふるまて
374けふけふと きみをまつよの ふけぬれは なかきこころを おもひかねつる
375あめふるに よはふけにけり いまさらに きみきまさめや たれかきてねむ
376かくてしも こひしわたれは たまきはる いのちもしらす としはへにけり
377つくもかは たゆるときなく おもふには ひとひもいもを しのひかねつつ
378かくこひむ ものとしりせは あつさゆみ すゑのなかころ あひみてしかな
379かささきの はねにしもふり さむきよを ひとりそねぬる きみをまちかね
380いそのかみ ふるのわさたの ほにはいてす こころのうちに こひやわたらむ
381わかこふる こころをしらす のちつひに かかるこひにも あはさらめやは
382たつたやま みねのしらくも たゆたひに おもひしやれは まつそすへなき
383あさみつむ はるひのつゆの おきそめて しはしもみねは こひしきものを
384あをやきの しけりにたちて まとふとも いもとむすひし ひもとけめやは
385やまこえて とほくいにしを いかてかは このやまこえて ゆめにみえけむ
386たらちめの ははかてはなれ かくはかり わひしきこひは いまたせなくに
387いつとても こひせぬときは なけれとも ゆふさるるまは こひしきはなし
388わかのちに うまれむひとは わかことく こひせむみちに あひあふなゆめ
389よしやよし こさらむきみを いかかせむ いとはぬわれは こひつつをらむ
390きみをわれ みまくほしきは このふたよ としつきのこと おもほゆるかな
391あきかせに ちるもみちはの しはらくも ちりなみたりそ きみかあたりみむ
異同歌 あきやまに ちるもみちはの しはらくも ちりなみたれそ いもかあたりみむ
392むらさきに にほへるいもか かくしあらは ひともとゆゑに われこひめやは
異同歌 むらさきに にほへるいもか かくしあらは ひとつまゆゑに われこひめやも
393たまほこの みちゆきつかれ いなむしろ しきてもきみを みるよしもかな
異同歌 たまほこの みちゆきつかれ いなむしろ しきてもひとを みるよしもかな
394あまくもの やへくもかくれ なるかみの おとにのみやは こひわたりなむ
異同歌 あまくもの やへくもかくれ なるかみの おとにのみやは ききわたるへき
395つきくさに ころもそそむる きみかため いろのわかはの かけとおもひて
異同歌 つきくさに ころもそそむる きみかため いろとりころも すらむとおもひて
396なほあへと ことなしくさに いふことを ききてもしらは うれしからまし
異同歌 なほあらし ことなしくさに いふことを ききてしあらは うれしからまし
397つきくさに ころもはすらむ あさつゆに ぬれてののちは うつろひぬとも
398ゆふかけて いのむみむろの かみさひて いなにはあらす ひとめおほみそ
異同歌 ゆふかけて いのむみむろの かみさひて いなにはあらす ひとめしけみそ
399ももへなる やそのしまへを こくふねに のりにしこころ わすれかねつも
異同歌 ももつたひ やそのしまへに こくふねに のりにしこころ わすれかねつも
400しほさゐに いつものうみに こくふねに いものるらむか あらきいそへに
異同歌 しほさゐに いつしのうらに こくふねの いものるらむか あらきはまへに
401もみちはの ちりぬるなへに たまつさの つかひをみれは あひしひおもほゆ
異同歌 もみちはの ちりぬるあきを たまつさの つかひをみれは こよひおもほゆ
402あめのこる ххххххх あはむひを おほのはしかは いまそこひしき
異同歌 あめのこか ххххххх あはむひそ おほのみしかは いまそくやしき
403ひとことは なつののくさの しけくとも いもとわれとし たつさはりなは
異同歌 ひとことは なつののくさと しけくとも いもとわれとし たつさはりなは
404このころの こひのしけくは なつくさの かりそくれとも おひらくかこと
異同歌 このころの こひのしけけむ なつくさの かりはつれとも おひしくかこと
405かけてのみ こふれはくるし なてしこの はなにさかなむ あさなあさなみむ
406みなつきの つちさへさけて てるひにも わかそてひめや いもにあはすて
407あきかせに やまとひこゆる かりかねの いやとほさかり くもかくれつつ
異同歌 あきかせに やまとひこゆる かりかねの いやとほさかる くもかくれつつ
408かきほなる はきのはさやき ふくかせの ふくなるなへに かりそなくなる
異同歌 かきねなる はきのはなさく あきかせの ふくなるなへに かりなきわたる
409あきかせの とほくふくなる わかやとの あさちかもとに ひくらしもなく
410このころの あきかせさむみ はきのはな ちらすしらつゆ おきにけらしも
異同歌 このころの あきかせさむし はきかはな ちらすしらつゆ おきにけらしも
411たまたすき かけぬときなく わかこふる しくれしふらは ゆきつつもみむ
412あきのたの ほのうへにおける しらつゆの けぬへくわれは おもほゆるかな
異同歌 あきのたの ほのかにおける しらつゆの けぬへくわれは おもほゆるかな
413あきのたの かりほにつくる いほりして まつらむきみを みるよしもかな
異同歌 あきのたの かりほにつくり いほりして ひまなくきみを みるよしもかな
414あきはきの えたもとををに おくつゆの きえもしなまし こひつつあらすは
415さもこそは みはこころにも あらさらめ みさへこころに たかふなりけり
416みなそこに おふるたまもの うちなひき こころをよせて こふるころかな
異同歌 みなそこに おふるたまもの うちなひき こころをよせて こふるこのころ
417あしひきの やまよりいつる つきまつと ひとにはいひて きみをこそまて
418なるかみの しはしくもりて さしくもり あめもふらなむ きみとまるへく
異同歌 なるかみの しはしはそらに さしくもり あめもふらなむ きみとまるへく
419あすのうみに はなのかすらむ わきもこか たまものすそに なみやよすらむ
420あしひきの やまちもしらす しらかしの えたにもはにも ゆきのふれれは
異同歌 あしひきの やまちもしらす しらかしの えたもたわわに ゆきのふれれは
異同歌 やまのかひ そこともみえす しらかしの えたにもはにも ゆきのふれれは
421たまかつら といふけきつつ さぬるよは としのまれよに たたひとよのみ
422くさまくら たひにものおもふ わかきけは ゆふかけつきて なくかはつかも
異同歌 くさまくら たひにものおもふ わかきけは ゆふかたかけに なくひくらしか
423うちひさす みやちにひとは おほかれと わかおもふひとは たたひとりなり
424あらたまの としはふれとも わかこふる あしなきこひの やまぬかなしき
425ゆきゆけと あはぬものゆゑ ひさかたの あさつゆしもに うるひぬるかな
426こひしきに こころをやれと やられぬは やまもかはせも しらぬなりけり
427やましなの こはたのさとに うまはあれと かちよりそゆく きみをおもへは
428みつのうへに かすかくかこと わかいのち きみにあはむと うかひつるかな
429われゆゑに いはるるいもか たかきやま みねのしらくも すきにけむかも
430うはたまの くろかみやまの やまくさに こさめふりしき ますますそおもふ
431わかいもも われをおもはは ますかかみ とりてもつきの かけそみさらむ
432あかつきに さすつけくしの ふるけれと なにそもきみか みれとあかぬかも
433たまほこの みちゆきふりに うらなへは いもにあひぬと われにつけける
434しきたへの まくらをしきて ねすおもふ ひとはのちにも あひなむものを
435たれかこの やとにきてとふ たらちねの おやにいはれて ものおもふわれを
436さぬるよは ちよにありとも わかせこか おもひくゆへき こころはもたす
437おほよそは たれかみむにか うはたまの わかくろかみを けつりてをらむ
438ひとりぬる とこくちめやは あやむしろ をになるまてに きみをしのはむ
439たそかれと とははこたへむ すへをなみ きみかつかひを かへしつるかな
440いもこふと わかなくなみた しきたへの まくらとほりて そてそひちぬる
441たちておもひ ゐてもそなけく くれなゐの あかものすそを ひきしすかたを
442おもふこと あまるときには かひもなし いててそゆきし そのかとをみよ
443ゆめにみて なほかくはかり こふるわれ うつつにあはは ましていかにそ
444あひみては おもてかくるる ものからに つねにみまくの ほしききみかな
445きのふより いまこそよなれ わきもこか いかはかりかも みまくほしきかも
446うはたまの いもかくろかみ こよひもや わかなきとこに なひきてぬらむ
447いろにいてて こひはひとみな しりぬへし こころのうちの かくれつまかも
448あひみては こひなくさむと ひとはいへと みてののちこそ こひまさりけれ
449いつはりも につきてそする いつよりか みぬひとゆゑに こひにしにする
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