Fsの独り言・つぶやき

1951年生。2012年3月定年、仕事を退く。俳句、写真、美術館巡り、クラシック音楽等自由気儘に綴る。労組退職者会役員。

自句自解(4) 雷一閃

2010年02月07日 10時32分06秒 | 俳句・短歌・詩等関連
★雷一閃輸液の管の青白し
 入院した月曜の夕刻には栄養と水分補給の点滴で人心地がついたものの、まだ原因は特定できてず、不安が先行していた。
 夕刻から梅雨末期の激しい雷雨が始まった。幽かにゆったり揺れる細い点滴の管は真新しく、室内の電灯を受けて輝いていたが、雷光を受けて一瞬青白く透明に変わった。
 私には、時間の止まった昔の目覚まし時計の燐光のようにも、40年前に読んだ武田泰淳の「ひかりごけ」の地の底から洩れてくる光のようにも、方丈記に記された養和の飢饉の餓死者の額に記した隆暁法印の「阿の字」が彷徨するようにも見えた。
 雷光に光る管を幾度か見るうちに、生死の狭間の転換点にいるように感じた。そしてこの病気が癒えたら、これを俳句にしてやろう、とふと思った。いろいろな想念を記憶し続けるには短いほうがいいし、沸きあがる想念は時間を経たときに書いても、うまく描けないと直感した。
 火曜の夕方から投薬が始まり、劇的に頭痛と高熱は収まった。夜再び梅雨末期の雷雨が激しくなった。病室からは外の激しい雷雨と風の音は聞こえないが、雷光と窓ガラスをつたう雨、そして木々の枝の揺れが、目に印象的だった。周りの景色を見るゆとりができた。
★人去りて雷雨に光る点滴台
 はじめはこんな句が思いついた。そして幾度も口の中で口ずさみながら変えていって、頭書のとおりの句となった。私には忘れられない句である。