本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

哀れなるものたち

2024-02-17 06:29:09 | Weblog
■本
13 経営読書記録 表/楠木 建
14 瓦礫の死角 /西村 賢太

13 大好きな楠木健さんの書評集です。「表」の方は既存メディアで発表された書評が収録されているそうです(「裏」の方が個人ブログで発表された書評)。経営学者さんなので、当然ビジネス書が多いのですが、ノンフィクションや芸事に関する本も多数紹介されています。高峰秀子さんと落合博満さんに関する本が多く紹介されている点が特に印象に残りました。ビジネス書については、楠木さんの視点からその有用性がロジカルに説明されているので参考になります。読書体験を自分なりにどのように消化して、血肉化するかについても学べます。まあ、好きな本を楽しんで読めばよいと思いますが、その楽しみ方についても気づきが得られる本です。

14 上記楠木さんの書評では小説が取り上げられることが少ないのですが、その中で西村賢太さんの作品が熱量高く紹介されていたので、まだ読んでいなかったこの短編集を読みました。冒頭の表題作と二つ目の短編は、十代に中卒で働き始めた当時が描かれた作品です。性犯罪を犯して服役中の父親からのネガティブな影響に苦しみつつ、母親や同僚に父親と同じような不義理を繰り返し働く様子が描かれています。三つ目は藤澤清造愛を描いた作品です。ここまでは、「秋恵もの」こそないものの、いつもの西村さんの私小説で定番の題材で、それはそれでさらに円熟味が増して面白いのですが、圧巻は新境地を開いた四つ目の「崩折れるにはまだ早い」です。ネタバレするので、詳しくは書きませんが、私小説という枠で、まだこれだけの新しいことが出来るのだということと、作家としての進化に正直感動しました。ファンには是非読んでいただきたい作品です。まだまだ伸びしろのあった西村さんが、早くしてお亡くなりになられたことが本当に残念です。ご冥福をお祈りしたいです。


■映画 
13 かがみの孤城/監督 原 恵一
14 哀れなるものたち/監督 ヨルゴス・ランティモス

13 2018年の本屋大賞受賞作のアニメ映画化作品です。えぐいいじめ描写のリアルさを、孤城でのファンタジックな世界観で包んだところが、この作品の発明だと思います。いじめる側の狡さ、残酷さと未熟な先生の対応の稚拙さを容赦なく描いている一方で、いじめられた側には常に優しい視線が注がれています。ストーリーを引っ張っていく謎解き要素も、なかなか捻りが効いていて予想しにくく、伏線回収も見事です。現実世界でいじめられている人には、この作品のような異世界での救いはないですが、本作に登場するフリースクールカウンセラーの対応は見事で参考になります。おじさんには少し甘過ぎましたが、ターゲット層にとっては、癒しや希望を与える優れた作品なのだと思います。

14 ベネチア国際映画祭の金獅子賞やゴールデングローブ賞を獲得し、今年のアカデミー賞でも11部門にノミネートされている話題作です。冒頭から美しくもグロテスクな映像と、エマ・ストーンの文字通り身体を張った演技に引き込まれます。作品のシニカルな世界観が、ラース・フォン・トリアー監督作品に近い印象を持ちました。「ニンフォマニアック」がテーマな点もそうですし、同じく「スパイダーマン」シリーズのヒロインだった、キルスティン・ダンストの「メランコリア」での鬼気迫る演技やキャリアを見越した役の選び方が、本作でのエマ・ストーンのそれらに通じるものがあると感じました。一方で、人の悪意や弱さのみを執拗に描くラース・フォン・トリアー監督とは異なり、ヨルゴス・ランティモス監督はギリギリのところで、人の持つ善性に対する信頼を感じさせてくれます。私が捻くれているだけなのだと思いますが、男性視点で目一杯多様性に配慮しているということが透けて見える点が少しだけ気になりました。女性監督ならもっと違った描き方があったのでは、という期待感もあります。映像や演技はもちろんのこと、ストーリーや音楽、衣装、小道具も含めて総合芸術としての映画のあらゆる部分の完成度が高い衝撃作だと思います。
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