本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

笑える革命

2023-01-29 10:14:11 | Weblog
■本
7 笑える革命/小国 士朗
8 三行で撃つ/近藤 康太郎

7 小国さんが企画された「注文をまちがえる料理店」(認知症の状態にある方がホールスタッフとして働くレストラン)の記事がずっと印象に残っていたので読みました。「注文をまちがえる料理店」が恒常的な施設ではなく、イベント的な展開であるということを知らなかったので、認識を新たにしました。この事例のように、イベントやコンテンツを企画し実現することにより、社会課題を生活者に伝えるためのノウハウが満載で参考になります。小国さんは広告代理店的な立ち位置ではあるものの、お金儲けよりも社会課題の解決(というよりもその前段階の認知拡大や賛同者の増加が目的なのかもしれませんが)を目指されていることがよく理解できました。NHKでドキュメンタリー番組を作られていたご経験から、「どれだけ大切なことだったとしても、伝わらないものは、存在しないのと同じ」という強い決意を元に企画されている姿勢にも共感しました。企画の立て方やPR手法についても学ぶことができます。個人的には企画を全否定した相手に対して、その否定した理由を「言語化してもらい」、それを一つ一つクリアにしていくことで乗り越えて実現させる、という視点が参考になりました。結局は実現させるための情熱が必要なのだと思いますが、企画を絵に描いた餅で終わらせないための方法論について学べる本です。

8 朝日新聞の記者であり、「アロハで田植えしてみました」などの体験型連載企画でも有名な、近藤康太郎さんによる文章論です。副題の「<善く、生きる>ための文章塾」の通り、人生論、職業論にまで話は広がっていき(というよりも、文章が<生>に直結しているという立場の近藤さんからは、文章論=人生論なのだと思います)楽しく読みました。テンプレ表現の多用や形容詞の安易な使用さえも戒めるご指導に、反省しきりです。研究者がよくおっしゃいますが、文章を書くという行為も、世の中にこれまでになかった、新しい視点や真理を追加するという高い志を持って挑まねばならないのかもしれません。プロのライターとして生きていくための周到な準備と日々の精進について強調されている点にも、一職業人として刺激を受けました。文体やグルーヴ感の大切さについて触れられている視点もユニークです。喜怒哀楽の「楽」については、私もよく理解できてなかったのですが、「自分が喜ぶんじゃない。人を喜ばせること」という説明で腹落ちしました。「世界は愚劣で、人生は生きるに値しない」と考えている人が、ニヒリズムに陥らず、こんなにも熱く前向きなスタンスでいるということに、人間の複雑さ、底知れなさを感じました。喜怒哀楽を前面に出し、面倒くささと善良さが同居する人間になりたいとふと思いました。


■映画
5 ライオン・キング/監督 ジョン・ファヴロー
6 土竜の唄 FINAL/監督 三池 崇史

5 1994年公開のアニメ版ではなく、2019年のフルCGの方です。「アイアンマン」シリーズのジョン・ファヴロー監督作品なので、エンターテイメント作品としては無難な仕上がりです。ストーリーも特におかしな脚色もなく、1994年版と同様に一級品のビルドゥングスロマンに仕上がっています(少年ジャンプの漫画等と比較すると、修行編がほとんどなく、ライオンの王の子という天性の才能頼みの要素が大きいですが)。CGのクオリティも高く、動物はリアルでサバンナの風景は実に美しいです。となると、そのリアルな動物が言葉をしゃべり、歌うことの違和感が許容できるかどうかがこの作品の評価のポイントになると思います。私は序盤は抵抗なく観ることができていましたが、「ハクナ・マタタ」や「ライオンは寝ている」を動物が歌っているシーンで、一気に興ざめしてしまいました。アニメ版の方が個人的には好きです。

6 潜入捜査官を描いたバイオレンス・コメディのシリーズ3作目にして最終作です。三池崇史監督の適度に誇張された映像、宮藤官九郎さんのスピーディーかつ露骨な下ネタ全開の脚本、生田斗真さんの身体を張った演技が引き続き楽しめます。何より、堤真一さんが造形された、ポジティブな狂気溢れるキャラクターが最高です。ストーリーが壮大になり過ぎて、ファンタージー的な要素が強くなっています。これまでの伏線や葛藤がきれいに収まり過ぎている面もありますが、シリーズ最終作としての納得度は高いです。あらゆる面でこの作品の持つ過剰さが堪能できますし、それが故に観客を選ぶようになってきているので、お開きにするにはよい頃合いだと思います。私は好きな作品です。
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ストーリーが世界を滅ぼす

2023-01-22 07:51:50 | Weblog
■本
5 ストーリーが世界を滅ぼす/ジョナサン・ゴットシャル
6 一気読み世界史/出口 治明

5 引き続き「ものがたり(ストーリー)」の人に与える影響に関心があるので読みました。私の興味にズバリ答える素晴らしい内容でした。中毒性が強く、個々人の好みやストーリー自体の定型パターンに従って現実を単純化して理解しがちな、その危険性について繰り返し書かれています。部族ごとの神話など、かつては、厳しい自然環境に対応するための集団の統合に重要な役割を果たしていた「ストーリー」が、グローバル化とソーシャルメディアの普及により、社会の分断の原因となっている点にも警鐘が鳴らされています。事実の複雑さに耐え、「物語としてよくできているか」で物事を判断しない知性が求められていると強く感じました。「ディープフェイク」などのデジタル技術の悪用により、我々が、よりもっともらしいストーリーになびきやすい環境にあることもよく理解できました。この危機に対抗するための方策としての結論が、「汝自身を知れ」(自分がストーリーに影響を受けやすい存在であることを自覚して、それを受け止めたり発信していかなければいけない)という極めて当たり前な内容である点が少し物足りませんでしたが、ニュースも含めて、ストーリーの定型パターンを常に意識して、情報を摂取していく必要があると強く思いました。個人的には、「善良さは贅沢品である」(自分が食うに困る境遇にあれば、恐らく盗み等の悪事に働く可能性が極めて高く、恵まれた環境にあるためにたまたま善良でいられる)という表現に衝撃を受けました。確かに、私が今のロシアで育ち限られた情報に晒されていた場合、戦争を支持しているかもしれませんし、将来世代から見れば、今の我々の生活は環境を無視した邪悪なものに映るのかもしれません。とはいえ、世界は少しずつ良い方向に向かっている面もありますので、過度に絶望せず、物事を相対化して見る努力を続けたいと思います。

6 学生時代は地理選択で歴史には本当に疎いのですが、歴史も「ものがたり」の一種だと思い、いつかきちんと学び直したいと思ってました。そんな中、尊敬する出口治明さんが7時間で世界史が学べる本を出されたということで手に取りました。タイトル通り、時系列で歴史の大きな流れのみを解説される内容で、本当に一気にかつ楽しく読めてしまいました。歴史がさまざまな偶然と、地政学的な影響と、権力者たちの個性によって大きく動いていることが理解できました。そして、かなりイギリス(連合王国)って悪いですね。「アヘン戦争」や「サイクス・ピコ協定」の経緯を知ると、中国やアラブ諸国が欧米の価値観を100%信用できない理由もよくわかります。逆に、日本が欧米の価値観にべったりな点が気になります。もちろん、国益を考えると、現状は欧米の価値観に基づく方がよいと私も考えますが、その手段が目的化していないかが気になりました。歴史の流れを見ると、各国が実にしたたかに行動しており、現在も当然その延長性上にあることを意識する必要があると思います。国民国家とは「想像の共同体」であるという表現からは、やはり、我々が「ストーリー」に強く影響を受けている存在であるという思いを新たにしました。この本もわかりやすく流れを説明するために、歴史を定型化している面があると思いますので、出口さんの他の歴史の本なども読みつつ、継続的に学んでいきたいと思います。


■映画
4 ガントレット/監督 クリント・イーストウッド

 クリント・イーストウッド監督、主演の1977年の作品です。いかにもクリント・イーストウッドといった、はぐれ者の刑事が違法な手段も駆使して、命を狙われる証人を守る作品です。銃の乱射が印象的で、有名なクライマックスのバスへの銃撃だけでなく、序盤から住宅が銃で崩れ落ちるシーンもあり、とにかく過剰です。「ダーティーハリー」シリーズで地位を確立したクリント・イーストウッドが、演技の上手い下手を超越した存在感で、楽しそうに演じています。主人公がこれまでの自堕落な自分を反省して、奮い立つシーンには共感しました。絶大な権力を駆使して主人公を追い詰める割には、その黒幕があまりにも小人物で拍子抜けしますが、カタルシス効果は絶大です。後のクリントイーストウッド監督作品と比べるとかなり雑な印象が残りますが、それでも、権力に屈しないタフガイの描き方が秀逸です。
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虚空の人

2023-01-15 12:07:26 | Weblog
■本
3 虚空の人/鈴木 忠平
4 スピリチュアルズ/橘 玲

3 落合監督を描いた傑作「嫌われた監督」の鈴木忠平さんによる清原和博さんを題材にしたノンフィクションです。「嫌われた監督」のようなわかりやすい爽快感や高揚感を期待すると肩透かしを食らうと思います。こちらは一転して、過去の栄光と挫折から抜け出せない清原さんの煮え切らない状況が執拗に描かれています。それに呼応するかのように、作者の鈴木さん自身の取材対象と向き合う姿勢の葛藤や、清原さんを支える周囲の人々の失望なども詳細に記述されていて、総じてテンションは低めです。にもかかわらず、多くの読者の清原和博という人物への共感は、決して薄れないと思います(私もそうでした)。複雑な人間を複雑なままに描写し、清原さん自身が今後復活するのかそれともさらに堕ちていくのかの見通しもあいまいなままですが、それでも堕ちた英雄に対する人間的な関心を持ち続けざるを得ないところがこの本の凄みです。また、清原さんとは必ず対照的に描写される桑田真澄さんが、息子のMattさんと共演されているCMを見ると、この人物の底知れなさにも恐怖を感じました。誰もが持つ、過去の体験に縛られる窮屈さについて、考えさせられました。これだけ大きなことを成し遂げた人物でさえも、こんなにも弱いのだ、という事実に励まされる部分もある一方で、自分の人生を健やかに全うする困難さについて思うと憂鬱な気分にもなりました。

4 人間の性格について研究したパーソナリティ心理学で、性格の基本的な「ビックファイブ」と呼ばれる、「外交的/内向的」、「楽観的/悲観的」、「協調性」(同調性+共感力)、「堅実性」(自制力)、「経験への開放性」(新奇性)の5つの要素(とそれに付随する要素)について、研究成果に基づき解説してくれる本です。ベストセラーの「言ってはいけない」シリーズと同テーマですが、本書の方が各種の実験や論文の要旨を丁寧に説明して下さっている分、キャッチーな言葉で断言されている「言ってはいけない」よりは若干わかりにくい一方で、エビデンスに基づき判断できるので納得感は高いです。個人的には「共感力」(相手の気持ちを感じること)とメンタライジング(相手のこころを理解すること)が違うという説明は参考になりました。センサーの感度とその得られた刺激から解釈する能力とは別であるということだと理解しました。こういう脳科学系の知見はわかりやすい分影響されやすいですが、実験結果の評価が学会内でも賛否が分かれている部分があることも含めて解説してくれているので、その確からしさについての自分なりの判断ができます。プチ引きこもりの子どもを持つ身としては、子どもの性格に与える影響は遺伝が約5割という部分については申し訳なく思うとともに、共有環境(家庭環境等)の影響が軽微(「非共有環境」と呼ばれる学校や友人からの影響の方が大きい)であるというわかりやすい意見を都合よく解釈しつつ、これからも前向きに子どもたちと接していきたいと思いました。


■映画
3 私をスキーに連れてって/監督 馬場 康夫

 バブル期のスキーブームの代名詞的なとても有名な作品ですが、観ていませんでした。今から思うと、職場での喫煙や、飲酒運転、スピード違反、会社に重大な損害を与えかねない嫌がらせ、手術時の私用電話など、コンプライアンス的な問題がてんこ盛りですが、そこが返っておおらかな気分になります。今の若者が観ると、我々世代が植木等さん主演の映画を観た際に感じたような、滑稽さと妙な憧れが入り混じった複雑な感想を持たれるかもしれません。そんなおおらかな展開から終盤は一転して、命を危険にさらすような冒険が展開される強引さも時代を感じます。原田知世さんがとても可憐ですし、当時の彼女の事務所の要請等があったのかもしれませんが、キスシーンなど性的な描写が少ない点も、当時の状況を鑑みると好感が持てます。観る前の期待値が低かったこともありますが、一定の歴史的価値のある作品だと思います。
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R帝国

2023-01-08 06:53:10 | Weblog
■本
1 大学教授、発達障害の子を育てる/岡嶋 裕史
2 R帝国/中村 文則

1 最近はまっている岡嶋裕史さんの本を引き続き。こちらは、専門分野のIT関連ではなくて、発達障害と診断された息子さんを育てたご経験(と発達障害傾向を多分に持つご自身の経験)から、どのようにこの障害と付き合っていったらよいかについて書かれた本です。私自身や子どもたちは発達障害と診断されたことはないですが、配偶者も含めて、そのような傾向が散見されるので、興味深い内容でした。また、岡嶋裕史さんの、いつものロジカルな思考と、率直なようで配慮の行き届いた文体にも感心しながら読みました。ITの専門家らしい、「知的障害はCPUのトラブル、自閉症は入出力装置のトラブル」という比喩がわかりやすかったです。また、プログラミングを「コンピュータ相手のコミュニケーション」と例え、対人コミュニケーションが苦手でも、そちらで生計を立てる道を探る、という考え方にも共感しました。多様性の尊重とは、その一方で、コミュニケーションコストが高まることも意味すると思いますので、そのコストに耐えられない人々にも生きやすい道をどのようにして作っていくのかも重要な課題であると感じました。

2 中村文則さんの作品は全て読んでいると思っていましたが、本作は「教団X」とごっちゃになって、読んだ気になっていただけでしたので、慌てて正月休みに読みました。基本的にディストピア小説なので、読んで心が躍るような内容ではありませんが、中村文則さんの作品の中では最も読みやすく、面白い作品だと思います。一気に読み終わりました。全体主義の危険性などのメッセージも、わかりやすいくらい直接的な表現で語られているので、テーマの理解も容易です。逆に言えば、漫画やラノベ的な面白さ、わかりやすさ、ですので、純文学という定義にこだわる人にとっては、評価が低くなるタイプの作品だと思います。あと、個人的には、中村さんの作品にありがちなここまでわかりやすく万能な個人的な悪は現実世界には存在せず、我々が最も注意すべきなのは、凡庸な人間が集団的な熱狂に侵されたときに行うシステム的な悪なのだと思います(本作でもそのような描写がありますが、現実には、この集団的な熱狂が万能な悪人の企みで生じるのではなく、よくわからない空気から生まれるのだと思いますーこの万能な悪人が集団的な熱狂から生まれるかもしれないので、にわとりとたまごの議論なのかもしれませんが-)。とはいえ、2017年に出版された本であるにもかかわらず、現在のウクライナ問題を予言するような内容もあり、あらためて中村さんの世界を見抜く力と、際どい題材をド直球で取り上げる勇気に感銘を受けました。現状を変えるには、中村さんのような直接的な表現がよいのか、もっと違った表現の方が効果的なのかは、私にもよくわからない面がありますが、小説の可能性(とその限界)を考える上でも刺激的な本だと思います。


■映画
1 ピエロがお前を嘲笑う/監督 バラン・ボー・オダー
2 劇場版 呪術廻戦 0/監督 朴 性厚

1 トラウマを抱える凄腕ハッカーを主人公にしたドイツ制作のクライム・ムービーです。ハッカーが集まるダークウェブをお面を被った人間で擬人化する表現や、随所で流れるジャーマン・テクノが、ハリウッド映画とは異なる独特のアクセントとなっています。また、二度のどんでん返しを含む、先が読めない(と言うよりも観客をミスリードする)ストーリー展開は見事で(ツッコミどころは多いですが、それを押し切る力技も含めて)、王道のエンターテイメント作品に仕上がっています。ホラー映画を連想させる邦題はいただけませんが(原題が「Who Am I 」なので、この程度の英語ならそのままでよかった気がします)、顔なじみのハリウッドスターがいなくても、海外映画も十分に楽しめることを示してくれる快作です。

2 原作漫画は読んでいて、ストーリーは熟知していたのですが、それでもかなり楽しめました。スピーディーな展開や軽妙な会話、そして、ダイナミックなアクションシーンの見せ方がとても巧みです。「純愛」と「大義」との対決というテーマ設定もわかりやすいです。この作品ではモブ的存在ですが、原作では重要な役割を果たすキャラクターの処理も手際よく、演出面の技術の高さに唸らされました。声優さんの表現力も高く、アニメならではの価値を提供してくれていると思います。それにしても、最近の少年ジャンプ原作漫画アニメ化作品のマーケティング力は凄いですね。他媒体や主題歌のタイアップなども含めて、ビジネスとしてかなり洗練されている印象です。
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