本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

Web3とメタバースは人間を自由にするか

2022-12-31 07:23:09 | Weblog
■本
104 Web3とメタバースは人間を自由にするか/佐々木 俊尚

 引き続きWeb3、メタバース関連の本を。先々週に読んだ岡嶋裕史さんの「Web3とは何か」と同様にWeb3の基本思想である非中央集権的な展開の理想論に疑問を呈し、結局は現状のビックテック、もしくは、それにとって代わる企業がNFTや暗号通貨の取引所として支配的な地位を占めるのでは(でないと、そもそも現実社会との接点を持った一定の秩序のあるサービスを提供できない)という予想をされていますし、そのロジックは説得力があります。その上で、その支配的な存在を我々一般市民がWeb3の技術の一つであるトークンエコノミーという概念などを用いて(一種の暗号資産であるトークンを一般市民の投票機能的に機能させようとする発想です)、管理していくべきだというのがキーメッセージであると理解しました。今の民主主義の状況を見ると一般市民の投票機能に支配的な存在を管理できることができるのかという疑問(トランプ現象のように、より支配的存在を強化する方向に進むかもしれません)も浮かびますが、安易に悲観論に流れず、リスクを取って一定のポジティブな未来像を提示する筆者の姿勢には敬意を表したいと思います。筆者の主張に賛成できるかどうかはともかく、Web3やメタバースについてのいろいろな論点を整理し、山師に踊らされることなく、冷静に未来像を考える上で有益な本だと思います。


■映画
80 僕のワンダフル・ジャーニー/監督 ゲイル・マンキューソ
81 ONE PIECE FILM GOLD/監督  宮元宏彰

80 前世の記憶を持ったまま何度も転生する犬を描いた「僕のワンダフル・ライフ」の続編です。前作の主人公から孫を守るようにと言われた犬が、その孫の元に何度も転生します。前作よりも、比較的容易に目的とする人物の元に生まれ変わるので、ご都合主義的な側面がより強まっていますが、その分ストーリーはスムーズに進行します。犬が何度も転生して苦労して飼い主を守るくらいなら、人間の側がせめて身内に対しては親切に接していればよいのに、と思わなくもないですが、それが人間なのかもしれません。同じようなストーリーなので、さすがに二作目はお腹いっぱいになりましたが、それでも何種類もの犬の可愛い演技を観ていると癒されます。犬好きの人にお勧めの作品です。

81 大ヒット中の「FILM RED」はまだ観ていませんが、2016年に公開されたこの作品を観ました。良くも悪くも予想通りの展開で、安心して観ることができました。革命軍やCP-0といった、原作でも現在進行中で重要な役割を果たしているキャラクターを要所要所で配置して原作と巧みに連動させつつ、映画版だけでも楽しめる内容にしているところは見事です。悪役に一定の共感ができるエピソードを付加しているところも今風です。「FILM RED」や「THE FIRST SLAM DUNK」の大ヒットに象徴されるように、アニメシリーズの映画版作品のクオリティ(とマーケティング力)が上がってきていると思います。
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ブルシット・ジョブの謎

2022-12-24 07:17:52 | Weblog
■本
102 ジャーニーシフト/藤井 保文
103 ブルシット・ジョブの謎/酒井 隆史

102 「アフターデジタル」シリーズなどで、UX(顧客体験)向上の重要性を主張されている著者による最新作です。「アフターデジタル」では中国のスマホファーストのDX事例から多くの示唆が提示されていましたが、本作ではインドネシアの事例をもとに、中国の社会を豪快に一変させるような方法とは異なり、既存の個人事業主をエンパワーメントしていく方法でのDX事例から話が始まり、読み物としてとても面白いです。生活者側の体験価値の向上だけでなく、ECの利便性向上競争の影響で激務を強いられている宅配業者の課題解決を考察されているなど、エコシステム全体を見てそのペインポイントを改善しようという姿勢に共感しました。昨今流行りのWeb3について、「利便性」と「意味性」の軸から考察し、「意味性」の方と親和性が高いという指摘も納得感が高かったです。「顧客提供価値」が「モノや情報の提供」から、顧客のありたい成功状態を実現させ、行動を可能とさせる「行動支援」に変わっている(「ジャーニーシフト」)、という主張も明確でわかりやすいです。「社会ペインを解決できる協調領域は、オープンにしていく」など、テックジャイアントが支配する現状からみると、若干理想主義的過ぎる部分もありますが、小手先ではないDXを考える上では有益な本だと思います。

103 新型コロナウイルス流行当初に話題になった本、「ブルシット・ジョブ」をずっと読みたいと思っていたのですが、4,000円を超える価格なので、まずはその翻訳者による新書解説本のこちらを読みました。「ブルシット・ジョブ」(BSJ)の定義(「BSJとは、 被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でさえある有償の雇用の形態である。 とはいえ、その雇用条件の一環として、 被雇用者は、そうではないととりつくろわねばならないと感じている。」)など、基本的な内容を知ることができて参考になりました。エッセンシャルワーカーなど、社会的に本当に意味のある仕事は、その有益性が故に低賃金であり(なぜなら、仕事をすること自体からやりがいや人からの感謝など非金銭的な報酬も得られるから)、BSJはその無意味さが故に高賃金である(なぜなら、仕事をすること自体が苦痛でしかないから)、というロジックは衝撃的でした。個人的には、必ずしも承諾し難い面もありますが、一面の真実を表していると思いますし、エッセンシャルワーカーの善意に甘えることなく、適切な賃金を得てもらえるべく社会を変えていかねばならないとも思いました。また、ネオリベラリズムがむしろ官僚制を招くものである(福祉などの申請を断念させるために、より手続きが複雑化する傾向にある)という主張は大阪府に住んでいる身としては、とても腹落ちするものでした。まずは、仕事は苦痛なものであること、自分の時間の対価として給料を得ていること、という発想から自由になることが重要だと思いました。そういう意味では、コロナ禍でリモートワークができる環境にある人にとっては、いろいろと発想を変える契機になったのかもしれません。とはいえ、この本で『ネオリベラリズムによる「絶望」の生産』と言われている、この機能不全を起こしている資本主義以外の選択肢を取るとより悲惨になる、という絶望を取り除くことや、ポスト資本主義への想像力を取り戻すことはかなり難しいとも思いました。


■映画
78 マンハッタン無宿/監督 ドン・シーゲル
79 ハーレイ・クインの華麗なる覚醒/監督 キャシー・ヤン

78 有名な「ダーティハリー」シリーズのブレイク前に、クリント・イーストウッドがドン・シーゲル監督と組んだ1968年の作品です。「ダーティハリー」シリーズに通じる、破天荒な保安官助手を、若き日のクリント・イーストウッドが色気たっぷりに演じています。ストーリー的には、自分のミスにより取り逃がした凶悪犯を、強引な方法で追いかけるというよくある内容ですし、女性の描き方が極めて薄っぺらかったり、アクションがこなれていなかったりするなど、ツッコミどころも多いです。ただ、その欠点が妙にリアル(現実の逮捕場面も、クタクタになった警官と犯人がグダグダに絡み合っていそうです)な印象を与えています。機内でタバコを堂々と吸うなど、今となっては、コンプライアンス無視の主人公が新鮮にすら感じます。

79 「アベンジャーズ」のマーベルではなく、「スーパーマン」のDCコミックスの世界観のキャラクターを主人公にした一連の作品の一つです。マーベルと比較するとDCのシリーズは、良くも悪くも洗練されていない印象ですが、本作も同様の印象を持ちました。「スーサイド・スクワッド」(こちらは洗練されていないB級っぽさが、いい効果をもたらしていました)にも登場していた、ジョーカーの元カノのメンヘラ凶悪女子が主人公のバイオレンスアクション映画です。女性が男性に対して、残虐性でも身体性でも圧倒していく映像は新鮮かつ痛快です。一方で、その残虐性をコミカルさでコーティングする手法がベタ過ぎて、せっかく、ゴージャスな美女のマーゴット・ロビーが主演なのに、品をあまり感じません。マーベルの「デッドプール」のようなブラックコメディ路線の作品を狙ったと推察しているのですが、あちらと比べると、可愛げと凶悪さのバランスが少し悪い気がしました。悪役のユアン・マクレガーも、薄っぺらい役で、なんでこの役を引き受けたのだろう、と思うほどです。アクション映画として、頭を空っぽにして観るには良い作品だと思いますが、この種の映画のクオリティが近年凄く上がっているので、もうひと頑張りしてもらいたかったところです。
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SING/シング:ネクストステージ

2022-12-17 07:41:45 | Weblog
■本
100 同調圧力のトリセツ/鴻上 尚史 、 中野 信子
101 Web3とは何か~NFT、ブロックチェーン、メタバース~/岡嶋 裕史

100 鴻上尚史さんと「サイコパス」などの著書で有名な脳科学者中野信子さんとの対談本です。テーマは鴻上さんお得意の「同調圧力」から、次第に脳科学への過剰な期待に対する危機感(ベストセラーになっている橘玲さんの本などを無批判に信じがちな風潮に、警鐘を鳴らそうとされているのだと個人的には推察しました)へと話が展開していきます。「反証可能性があるのが、化学の世界」という前提がもっと広く知られるべきだと思いました。中野信子さんのことは、書籍の広告などで見た程度であまり存じ上げていませんでしたが、自己プロデュース能力の高い方だという印象を受けました。鴻上さんとの相性が必ずしもよいとも思いませんでしたが、中野さんが鴻上さんの戯曲のファンだったということと、鴻上さんの脳科学への関心が高まっていたのが、対談が実現した背景なのだと思います。お互いに言いたいことを言い散らかした印象が強いですが、こういう考え方もあるのだということを知れた意味で参考になりました。

101 引き続き岡嶋 裕史さんの本にはまっています。先日読んだ「メタバースとは何か」と同様にバズワードに踊らされず、冷静にそれぞれの技術の持つ長所・短所と活用の可能性について解説して下さっていて信頼できます。そもそもインターネット(巷で言われるWeb1.0)も、ブログやソーシャルメディアといったWeb2.0も、メディア企業が独占してきたとされていた情報発信権を個々人が持てるようにするための技術だったのであり、Web3がビックテックにより支配されるWeb2.0から脱して、一般利用者が情報を自由にコントロールしその対価を得られるようになる、という言説は怪しい(なぜなら、Web3技術を個人が駆使するのは面倒だし、そもそもそのレベルのリテラシーを持つ人は少ないため、今のビッグテックもしくは、それに代替する新しい取引所などの企業の支配下に入る可能性が高い)という主張は納得感があります。Web3の基本思想は非中央集権であり、個々人がリスクやそれぞれのリソースの拠出を許容して初めて成り立つので、そうであれば、若干の自由の制限があっても、一定の利便性や補償のある企業の提供するサービスに対価を払って参加する人の方が多くなる(そして、そのサービス利用者が多くなった企業が、今のビックテックと同じように力を持つ)という構造になるのが、最もあり得る未来なのだと思いました。結局は技術だけで、ビックテックと個人の力関係を逆転させることは難しく、技術に加えて法律や行動経済学の知見なども駆使しつつ、適切な落としどころを探ろうという姿勢が大切なのだと感じました。


■映画
76 天地明察/監督 滝田 洋二郎
77 SING/シング:ネクストステージ/監督 ガース・ジェニングス

76 本屋大賞受賞作の映画化作品です。松竹さんで制作されがちな、人情味の溢れたよくある歴史ものといった感じで、可もなく不可もない内容でした。キャストもメインの岡田准一さん、宮崎あおいさんは新鮮味はあるものの、他は映画界や歌舞伎界の重鎮が癖強めの演技で脇を固め、既視感たっぷりです。登場人物が多いため(そしてそれぞれ名のある役者さんなので、相応の見せ場を作る必要もあり)、焦点がぼやけてしまっている印象も強いです。鎖国していた時代に、科学的な試行錯誤を行い、日本独自の新しい暦を作ろうとした人々、というテーマ自体はとても興味深いので、原作小説の方を読んでみたいと思いました。

77 「ミニオンズ」などで有名なアニメ制作会社イルミネーションによる、ミュージカル・コメディの続編です。冒頭の「Let's Go Crazy」の歌唱シーンから一気に引き込まれました。前作でも思いましたが、ロック、ソウル、オルタナ、オールディーズといった選曲のセンスが素晴らしいです。U2のボノが、妻を亡くしてから隠遁生活を送っている、元ロックスター役に声優として参加していて、U2の新曲が聴けるのもうれしいです。そのボノが演じるライオンの心変わりが唐突なところと、悪徳プロモーターの殺人も辞さない外道っぷりが、極端過ぎる気もしますが、全体的に展開がスピーディーで飽きさせません。各キャラクターは前作同様にとても魅力的で共感できます。クライマックスに作品内で演じられるミュージカルもよくできていて、見応えがあります。素敵な音楽ときらびやかなアニメーションに誘われてノリノリで視聴しました。前作以上にお勧めです。
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ザリガニの鳴くところ

2022-12-10 07:21:25 | Weblog
■本
98 ダブルハーベスト/堀田 創 、 尾原 和啓
99 いまさら聞けない ITの常識/岡嶋 裕史

98 AIのビジネス上の活用について解説された本です。AIはデータを貯めてこそ価値があるので、まずはAIを活用して身近な課題を解決し(1回目の収穫)、その過程で蓄積されたデータを用いて、より大きな競争優位を築くループ(2回目の収穫:ダブルハーベストループ)を構築すべし、という趣旨です。楠木健さんの「ストーリーとしての競争戦略」のAI版といったところでしょうか?細かな差異と経験の積み重ねにより、時系列で競争優位を作っていくという思想と、データの蓄積による改善が得意なAIとの相性が美しいです。AIで当初から100%の精度を求めるのは難しいので、AIで判定できないものは人間が補い、その補正を通じてAIを強化していくという、AIに対する期待値コントロールも巧みです。学習用のデータはある程度AIでも作れるようになったらしく、データの量よりも新しいデータを生み出すループ構造が大切になっている(「データ・イズ・キング」から「ループ・イズ・キング」)という視点が参考になりました。自動運転や電子決済など、ダブルハーベストループの成功事例がハイブロウ過ぎて、2回目の収穫のイメージが少しわかりにくかった点が残念でした。「ストーリーとしての競争戦略」を未読の方はそちらから読むことをお勧めします。

99 ITを過大にも過小にも評価せずに、その本質を突いたとても素晴らしい内容でした。AIは人間から仕事を奪わないが、AIの教師あり学習データ作成のようなAIの下請的な仕事が増える(この点は「ダブルハーベスト」では、AI側の視点からポジティブに表現されていましたが)や、ブロックチェーンの電力消費量の多さの問題(ブロックチェーン技術がSDGsの課題解決につながるという主張に個人的に違和感を感じていました)など、これまであまり問題とされていない視点も提起されていて刺激をとても受けました。ERPの導入を例に、業務変革とシステム導入はセット(なので、既存業務に合わせるためにベストプラクティスが反映されたパッケージソフトを過度にカスタマイズするのは、その導入効果が限定的となる)という提言の切れ味の鋭さにも感心しました。要は技術は万能ではなく、そのメリットや生まれた思想背景も踏まえて、人間の生きがいなども考慮しつつ、適材適所で活用すべき、ということなのだと思います。IT人材を増やすには、教育だけではだめで、社会がその教育を受けた人に明るい未来を提示できるか(現状は必ずしも提示できてないので、医者や文系などに流れる人も多い)、が重要という提言も芯を食っていると思います。ITの基本的な用語の解説から、その知識をどのように活かせばよいのか、まで教えてくれる、多くのビジネスパーソンに読んでもらいたい本です。


■映画
73 劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン/監督 石立 太一
74 サボテン・ブラザース/監督 ジョン・ランディス
75 ザリガニの鳴くところ/監督 オリヴィア・ニューマン

73 長男がアニメ版のファンだったので観ました。私はアニメの総集編と外伝しか観たことがないのですが、シリーズの完結編として、やり切った感がたっぷりの力作です。ひねくれた私には若干ウエルメイド過ぎると感じるところもありましたが、ファンの期待通りのクライマックスに至る盛り上げ方が秀逸です。各キャラクターや舞台設定も実に魅力的です。そして、なんと言っても圧倒的な画力が素晴らしいです。クライマックスの早朝の海水の描写の美しさには鳥肌が立ちました。京都アニメーションの底力が堪能できる傑作です。

74 一部でカルト的な人気を有している作品です。三谷幸喜さんが絶賛されていた記憶もあったので観ました。三谷さんがいかにもお好きそうな、「偽物が間違われて努力するうちに本物のヒーローになる」構造を持ったコメディです。ギャグが若干ベタなところと、突如ファンタジー要素が挿入されるご都合主義過ぎるストーリー展開など、洗練されていないところもありますが、軽快なテンポとエンディングの着地の爽快さで、後味のよい作品です。あとは、いかにもコテコテのアメリカのコメディアン3人のキャラクターが受け入れられるかで、評価が分かれると思います。逆説的に日本のお笑いの質の高さも、再認識させられました。

75 原作小説の評価がかなり高いので、映画版を観に行きました。アメリカの美しい湿地帯の風景と、そこの小さな家に一人残された少女が強かに生き延びる姿が印象的です。観終わった直後は、平均以上のクオリティではあるものの、そこまでスペシャルな作品ではないと感じましたが、よくよく考えると自然の摂理について深く考察された作品だと気づきました。そして、DVがあかんということを肝に銘じました。ただ、主人公が美し過ぎるので、彼女が月並みなルックスであった方が、より感銘を受けたかもしれません。原作小説での主人公の描写等を確認したくなりました。ありそうでこれまでなかった、不思議な引っ掛かりが残る作品です。
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地獄の花園

2022-12-03 05:46:01 | Weblog
■本
96 ヤバい経済学/スティーヴン・J・ダブナー、スティーヴン・D・レヴィット
97 営業を変えるマーケティング組織のつくりかた/上島 千鶴

96 橘玲さんの本など、日本の多くの書籍で引用されている、「インセンティブ」など経済学上の概念や分析手法を用いて、世の中の通念を覆すような事実(アメリカで犯罪率が減少したのは、妊娠中絶を認めたことにより、望まれずに生まれて不幸になり、その境遇で生き残るために犯罪を犯す人が減少したためだ、という保守派が激怒しそうな主張もあります)を明らかにしている本です。元ネタを知っておきたくて読みました。あまりにも多くの本で引用されているために、目新しい発見はさほどなく(私の読む順番の問題で、この本の責任ではないのですが)、とっつきにくい経済学的な思考法を、わかりやすくするために施したポップな文体が若干鬱陶しかったです(これは好みの問題かもしれませんが、アメリカの書籍にありがちですがちょっとやり過ぎです)。おまけに、「増補改訂版」の方を読んだので、本文と同趣旨の内容が付録のブログ記事で何度も繰り返されており、読み通すのがかなり辛かったです。とはいえ、これまでの学問的蓄積を用いて、人々に新たな視点をわかりやすく提示するという試みは素晴らしいと思います。多くの本で引用されているのも納得です。

97 主にBtoB企業を対象に、デジタルマーケティングとそれに適応した組織のつくり方について解説された本です。SFAやマーケティングオートメーションなどのツールを活用して、リードナーチャリングやアカウントベースドマーケティングなどの概念を実現するための心構えが詳しく書かれています。ツールベンダーに所属されている方が書かれた本とは異なり、ツールの導入ありきではない点が好感が持てます。一方で、コンサルっぽい上から目線の辛口な文体は好みが分かれるかもしれません。さほど新しい発見はなかったですが、200以上の企業をサポートされたと言われる、実務に基づいた知見が(若干偏りがあるようにも思いますが)、参考になります。この本が主張されている通りに営業変革を進めてもうまくはいかないとは思いますが、いろいろな症例紹介が詰まっているので、参考にできるところから改善していくという使い方がよいと思いました。


■映画
71 ワイルド・スピード/ジェットブレイク/監督 ジャスティン・リン
72 地獄の花園/監督 関和 亮

71 市街地でのカーアクションが魅力の「ワイルド・スピード」シリーズの9作目です。過去に死んだはずのキャラクターが再登場するなど、シリーズものの宿命で、多くのキャラクターを把握するのに苦労しますが、その理解を放棄しても十分楽しめる作品です。違法なストリートレースを描くところから始まったシリーズが、本作では宇宙にまで飛び出して、家族や気の合う友人たちが集まった集団なのに、世界を救うところまで、スケールアップしています。そういったストーリーの破天荒さも、迫力満点のカーアクションを観ているとどうでもよくなります。パワープレーの権化のような痛快な作品です。頭を空っぽにして楽しむのがよいです。

72 バカリズムさん脚本による、永野芽郁さん主演のコメディ作品です。人気女優を起用した、よくある企画ものだと思っていたら、予想に反して抜群に面白かったです。よくあるヤンキー漫画のフォーマットを、OL間の抗争に当てはめるという、シンプルながらも誰も考え着かなかった発想に至った、バカリズムさんがなんと言っても凄いです。そのフォーマットに、変顔や血だらけのメイクに果敢に取り組み熱演されている、永野芽郁さん、広瀬アリスさんの熱演も素晴らしいです。それでいて、二人を含む多くの女優(そして女装した男優)の誰もが、美味しく料理されている点も素晴らしいです。エンディングもベタながらも、心憎い裏切り要素があり感心しました。「翔んで埼玉」くらいのヒットをしてもおかしくなかった快作です。
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