今年も本を100冊読むことができました。映画は100本に到達せず。CDが一桁しか購入していないことに驚きです。サブスクの影響ですね。
■本
102 もう生まれたくない/長嶋 有
おふざけのないシリアスな方の長嶋有さんの作品です。とはいえ、主人公を特に定めず、10人程度の登場人物の視点を次々と移動しながら物語が展開する、かなり実験的な群像劇となっています。それでいて、ストーリーが混乱しないのは長嶋さんのストーリーテラーとしての力量だと思います。東日本大震災の衝撃が残る2011年7月から話は始まり、約1年ごとに、臼井儀人さんやスティーブ・ジョブズさんといった著名人の死に接した登場人物の心情が切り取られています。死の予感が全編に漂う中、長嶋さんの作品らしい低い温度感が貫かれていますが、終盤に猟奇的な事件や非現実的な存在が登場し、熱量が上がるところが長嶋さんの作品の中で独自の魅力を放っています。大きく心を揺さぶるタイプの作品ではないですが、ボディブローのように効いてくる日々の生きにくさや違和感を丁寧に掬い取り、それでも何とかやり過ごすしかない我々に対する、長嶋さんの細やかかつ生温かい視線に共感します。
■CD
8 Sugarless III/スガシカオ
前作は「労働なんかしないで 光合成だけで生きたい」という、個人的には大好きですが、少しその尖がり加減が心配になる作品でしたが、本作は他アーチストに提供したものも含む、アルバム未収録曲のコンピレーション盤ということで、スガシカオさんらしい優しさが満ち溢れた、素直で聴きやすい作品になっています。最近オンラインライブ等で聴くスガシカオさんの声は妙に雑味がなく、求心力が落ちているような印象だったのも心配でしたが、この作品では、いつもの引っ掛かりはありつつも温かみのある声で癒されます。デビューシングル発売から25周年を自ら祝うかのような、多幸感溢れる作品です。
■映画
92 アラバマ物語/監督 ロバート・マリガン
タイトルだけを見て、牧歌的なファミリー映画だと勝手に思っていましたが、内容は心温まる家族の交流シーンはあるものの、人種差別問題を真っ向から描いたシリアスな内容でした。グレゴリー・ペック演じる主人公の弁護士アティカス・フィンチがとにかく格好良いです。子どもたちを尊重しつつ諭すような語り口や、差別主義者から理不尽な扱いを受けたときの冷静な態度には、見習うべき点がたくさんありました。まさに理想的な父親です。サスペンス要素もあり、法廷劇としても見応えがあり、それをこども視点でのノスタルジックなテイストで味付けしていて、物語として非常によくできています。アメリカの人種差別問題は、本質的には当時(1962年末に公開された1930年代を舞台にした作品です)からあまり変わっていない気がしますが、こういった作品が60年近く前にすでに作られている点に、アメリカに対する希望と失望を同時に感じました。長く観られるべき素晴らしい作品です。
■本
102 もう生まれたくない/長嶋 有
おふざけのないシリアスな方の長嶋有さんの作品です。とはいえ、主人公を特に定めず、10人程度の登場人物の視点を次々と移動しながら物語が展開する、かなり実験的な群像劇となっています。それでいて、ストーリーが混乱しないのは長嶋さんのストーリーテラーとしての力量だと思います。東日本大震災の衝撃が残る2011年7月から話は始まり、約1年ごとに、臼井儀人さんやスティーブ・ジョブズさんといった著名人の死に接した登場人物の心情が切り取られています。死の予感が全編に漂う中、長嶋さんの作品らしい低い温度感が貫かれていますが、終盤に猟奇的な事件や非現実的な存在が登場し、熱量が上がるところが長嶋さんの作品の中で独自の魅力を放っています。大きく心を揺さぶるタイプの作品ではないですが、ボディブローのように効いてくる日々の生きにくさや違和感を丁寧に掬い取り、それでも何とかやり過ごすしかない我々に対する、長嶋さんの細やかかつ生温かい視線に共感します。
■CD
8 Sugarless III/スガシカオ
前作は「労働なんかしないで 光合成だけで生きたい」という、個人的には大好きですが、少しその尖がり加減が心配になる作品でしたが、本作は他アーチストに提供したものも含む、アルバム未収録曲のコンピレーション盤ということで、スガシカオさんらしい優しさが満ち溢れた、素直で聴きやすい作品になっています。最近オンラインライブ等で聴くスガシカオさんの声は妙に雑味がなく、求心力が落ちているような印象だったのも心配でしたが、この作品では、いつもの引っ掛かりはありつつも温かみのある声で癒されます。デビューシングル発売から25周年を自ら祝うかのような、多幸感溢れる作品です。
■映画
92 アラバマ物語/監督 ロバート・マリガン
タイトルだけを見て、牧歌的なファミリー映画だと勝手に思っていましたが、内容は心温まる家族の交流シーンはあるものの、人種差別問題を真っ向から描いたシリアスな内容でした。グレゴリー・ペック演じる主人公の弁護士アティカス・フィンチがとにかく格好良いです。子どもたちを尊重しつつ諭すような語り口や、差別主義者から理不尽な扱いを受けたときの冷静な態度には、見習うべき点がたくさんありました。まさに理想的な父親です。サスペンス要素もあり、法廷劇としても見応えがあり、それをこども視点でのノスタルジックなテイストで味付けしていて、物語として非常によくできています。アメリカの人種差別問題は、本質的には当時(1962年末に公開された1930年代を舞台にした作品です)からあまり変わっていない気がしますが、こういった作品が60年近く前にすでに作られている点に、アメリカに対する希望と失望を同時に感じました。長く観られるべき素晴らしい作品です。