本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

犬ヶ島

2024-03-31 07:00:22 | Weblog
■本
27 テクノ・リバタリアン/橘 玲
28 身体知/内田樹 、 三砂ちづる

27 スペースX、テスラ、X(旧Twitter)の事実上の経営者であるイーロン・マスクやペイパル創業者のピーター・ティールなど、テクノロジーの力を用いて、自由を追求する社会を実現しようとする天才たち(テクノ・リバタリアン)の考えとその背景を解説した本です。テクノ・リバタリアンを映画「X-MEN」シリーズのミュータントと対比させた描写が随所にあり、彼らの能力の破壊力とその脅威がよく理解できます。人物紹介が中心なので橘玲さんの主張が今ひとつはっきりしませんが、「あとがき」を読む限り、遺伝の影響やメリトクラシーが支配する現実社会の帰結として生じつつある、「自由」や「合理性」「効率性」を重視する風潮に、日本人としてもうまく適応すべし、と言うメッセージだと理解しました。私個人としては、テクノ・リバタリアンの考え方に賛同できない面が多いのですが、このような考え方を持つ人々が現実的に影響力を増している世界でのサバイブ方法を考える上では有益な本だと思います。彼らの考えと「自由」を軽視する中国やロシアといった専制国家との相性は一見悪そうに見えますが、「自由」よりも「効率性」の方を重視すると、議論が不要な専制国家は意思決定の効率は極めて高いですので(その意思決定が「不合理」になることが多い点が怖いのですが)、テクノ・リバタリアンと専制国家が結びつく可能性もそう低くはないと思います。そういう意味では「X-MEN」のマグニートーのような存在も生じかねないので、この比喩は実に示唆に富んでいると感心しました。

28 内田樹さんと2000年代前半にとても話題になった新書「オニババ化する女たち」(まだ、読んでいないのでいつか読んでみたいと思っています)の筆者、三砂ちづるさんとの対談内容が収められた本です。タイトル通り、身体から得られる知について、内田さんは武道家としての立場から、三砂さんは疫学者や出産に対する研究者としての立場から語られています。2010年に出版された本なので、コロナ禍や性自認についての認識が変化した後の時代を生きている私たちからすると、いささか危険かつ古い意見が多い気がしますが、それも含めてこういう考え方もあるよな、という視点を増やす意味では参考になる本です。頭で考えたことだけでなく、身体反応から得られる情報も含めて判断すべきという主張は納得感が高いですが、三砂さんの出産経験を過度に尊重し過ぎる姿勢(出産が生物の誕生ということで尊いことはわかりますが、いささか決定論過ぎる気がします)には少し違和感を感じました。脳科学についての本が最近流行っていますが、脳と身体の役割を正確に理解し、いずれかに偏り過ぎない態度が必要なのだと思います。


■映画 
28 犬ヶ島/監督 ウェス・アンダーソン
29 ロビンとマリアン/監督 リチャード・レスター

28 ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した、アメリカ制作の2018年公開のストップモーション・アニメーション作品です。架空の日本都市が舞台ということもあり、受賞当時に話題になっていたことを記憶していたので観ました。タイトル通り、犬だけが生息する島での少年と犬との冒険が描かれています。日本人の視点から観ると、日本文化に対する誤解が散見されて不快な面もありますし、ストーリーもご都合主義的過ぎますが、少しグロテスクなストップモーション・アニメーションによる描写や、ダークでオフビートなコメディ要素など、極めて作家性の強い作品で、独特の世界観が魅力です。観終わってから、先日観た「グランド・ブダペスト・ホテル」のウェス・アンダーソン監督作品ということに気づいて、とても腹落ちしました。滑稽さの背景にある、古い記憶を喚起するかのような不思議なもの悲しさが、この監督の作風なのだと強く感じました。今までに観たことがない一風変わった作品を観たいときにお勧めです。

29 中年期に差し掛かったロビン・フットとその恋人のマリアンを描いた作品です。1967年にいったん引退したオードリー・ヘプバーンが、復帰したことでも話題になった1976年公開の作品です。こちらも不思議なテイストの作品でした。中世のイングランドが舞台なので、戦闘シーンは非常に古風で緩慢ですし、人間関係も今から観るととてもドライに感じます。ストーリーも間延びしたかと思えば、急にクライマックスに突入するなど、つかみどころがありません。完成度はそれほど高くないと思います。一方、ロビン・フットを演じるショーン・コネリーは中年の悲哀と色気を見事に両立させています。オードリー・ヘプバーンも全盛期からするとさすがに歳を取っていますが、イノセントな美しさに満ちています。リトル・ジョンの忠誠心も泣かせます。なにより、切ない余韻の残るエンディングが素晴らしく、マリアンがその境地に至るまでの説明がもっとあってもよかったのでは、とも思いましたが、語り尽くさない美学を感じます。
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