本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

1秒先の彼女

2024-04-07 06:46:40 | Weblog
■本
29 家族が「うつ」になって、不安なときに読む本/下園壮太 、 前田理香
30 #Z世代的価値観/竹田 ダニエル
31 D2C THE MODEL/花岡宏明、 飯尾元

29 タイトル通り「うつ」になった本人よりも、その家族に向けて書かれた本です。そのため、当事者ではない人に、「うつがいかに辛いか」や「どのようなサポートが適切か」について詳しく説明されています。うつを「心の骨折」に例えられている点(なので、誰でもなり得るし、適切な休息やリハビリが必要)は、巧みだと思いました。一方で、私はうつの遺伝が与える影響は無視できないレベルにあると思っていますので、遺伝を過度に軽視することには疑問を感じています(「遺伝で骨折」することはないと思いますが、骨折しやすい性格が遺伝することは十分に考えられます)。サポートする側の心構えとしては、長期戦を覚悟し、自分も共倒れしないように外部の力も借りながら、見守る(我慢するではない)ことが重要、というのがこの本のメインメッセージであると私は理解しました。特に目新しい知見は得られませんでしたが、巧みなレトリックなど、支援する側の人をサポートする上で、有意義な「ことば」が得られる本だと思います。

30 前作の「世界と私のAtоZ」が素晴らしかったので読みました。本作でもマーケティング視点ではなく、我々アラフィフ世代も知っておくべき、メンタルヘルスや多様性、そして、地球の持続可能性に重きを置く、アメリカの(政治的な発言を積極的に行うなど、必ずしも日本の状況とは完全に一致しない)Z世代的価値観について教えてくれる本です。ソーシャルメディアやそこで活躍するインフルエンサーの影響力がよくも悪くも非常に大きく、かつ、その影響力もトレンドの変化によりすごいスピードで増減するので、自分の価値観を見つけるのが大変そうです。その変化の激しさがこの世代の柔軟性を生んでいるとも言えますし、混乱の原因であるとも言えると思いました。それでも、いかにこの生きにくい世界でサバイブしていくかを真剣に考えている姿勢や、社会をより良いものに変えていこうという意志には共感します。「おわりに」で述べられている、この世代はニヒリズムと社会変革の活力が絶望の中で混在している、という分析の説得力は高いと思います。「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」がアメリカのZ世代にいかに大きな影響を与えたかについて、熱く語られた文章が特に印象に残りました。私はこの映画をマルチバース設定の妙や親子関係をテーマにしている点に目を奪われてしまいましたが、アジア系移民家族やクィアといった「マイノリティの体験」に焦点を当てているという指摘から、いろいろな気づきが得られました。竹田ダニエルさんの公正な視点とわかりやすい文章が印象的な素晴らしい本です。

31 D2C (Direct to Consumer)という、メーカーが中間流通を介さず、自社のECサイトなどを通じて商品を直接生活者に販売するビジネスモデルにおいて、成功確率を上げるために知っておくべき知識が網羅的に書かれた本です。精密に描かれた必要プロセスの図示(細かすぎるが故に読む気がなくなるというデメリットもあるのですが)など、必要な検討要素を漏れなく緻密に解説して下さっていて、これまでの実務者が培った集合知を見える化しようという、筆者の意欲を感じます。逆に、この業界で成功する上で必要なポイントを手っ取り早く理解しようとするのには不向きです。教科書的に手元に置いて、自分が引っかかったポイントを掘り下げて読むのに適していると思います。「システム」の部分だけは、筆者が統合コマースプラットフォームを提供されている会社に所属されているため、ポジショントーク的な側面が垣間見られるので、割り引いて受け取った方がよいかもしれません。とはいえ、総じて有益な知見が惜しみなく示されていて、この分野に関わる人にとって参考になる本だと思います。


■映画 
30 1秒先の彼女/監督 チェン・ユーシュン
31 TAR/ター/監督 トッド・フィールド
32 地下鉄に乗って/監督 篠原哲雄

30 先日観た日本版リメイク作品が面白かったものの若干のぎこちなさを感じたので、元ネタはもっと完成度が高いはずだと思って観ました。この予想は見事に当たり、主人公二人の演技と台湾の風景が、このプロット(せっかちな彼女が失った1日の経過が描かれます)と見事にマッチした素晴らしい作品でした。まず、日本版と違って主人公二人が完全な美形ではない点(もちろん魅力的な役者さんですが、その高い演技力と相まって、角度によって印象がずいぶんと変わります)がよかったです。それぞれの性格や容姿、環境により、必ずしも恵まれた過去を送ってきていないことが想像でき、空白の一日の奇跡の尊さがより一層伝わってきます。次に二人の職業に必然性がありストーリー進行が実にスムーズでした。日本版では男女を入れ替えて描かれていたために、バスの運転手が別に設定されていて(個人的には日本版もヒロインがバスの運転手でもよかったと思いますが)、それが私が感じたぎこちなさに繋がっています。本作の方がこの流れのスムーズさの効果で、真相を知った二人がやっと出会うエンディングがより一層感動的でした。失踪した主人公の父親の描かれ方も、こちらの方が自然で、父親の方が年齢が近くなった私にとっては、彼の方にとても共感してしまいました。日本版よりも間口の広い作品になっており、台湾の映画賞で主要部門を獲得したことも納得です。

31 主人公の名前を前面に出したタイトルと、その主人公を演じたケイト・ブランシェットの鬼気迫る憑依型の演技で、実在のモデルが存在すると思っていましたが、全くの架空の人物を描いた作品ということに、まず驚きました。次に予想を裏切る急展開のエンディングにも驚愕しました。冒頭の長回しのインタビューシーンなど、観ていた際には冗長なところが少し気になりましたが、それも主人公のリアリティを高める狙いだと思いますので、観終わってしまうと納得です。職業人としての誇りと、それが故の傲慢さからの没落が圧倒的な解像度で描かれていて、個人的に反省させられる点も多かったです。主人公をレズビアンの父親として描いていた企みも成功していると思います。このように非常に緻密に計算された作品ですが、それを成功に導いたのは何と言ってもケイト・ブランシェットの凄まじい演技力です。アカデミー主演女優賞を獲得した「ブルージャスミン」を観たときにも思いましたが、この人の虚ろな表情は本当に美しくも恐ろしいです。一流女優の演技をひたすら堪能できる作品です。

32 「鉄道員」で有名な浅田次郎さんの原作映画化作品です。近親相姦まがいの不倫関係などいろんな意味で気持ち悪い作品でした。原作が発表されたのが1994年、映画化されたのが2006年なので、妻へのDV全開で子どもたちの進路を勝手に決め、愛人もいる父親を今の価値観で否定するのはフェアではないと思いますが、過去に善行を重ねていたとしても汚職まみれのこの人物を立派な人間として扱うのには抵抗がありました。いわゆるタイムトラベルものなのですが、その発動条件も最初こそ地下鉄に乗った際にというルールがありましたが、二回目以降は都合の良いタイミングに、都合の良い時代に移動します。こういう雑な作りで読者を感動させようという魂胆に嫌悪します。「鉄道員」を観たときにも思いましたが、私が浅田次郎の作品との相性が悪いのだと思います。地下鉄の駅での撮影の困難さを思うと、スタッフの努力は称賛したいと思いますし、大沢たかおさんの演技も見事でした。ヒロインの岡本綾さんは最近見ないなと思って調べたら、その後の経歴に少し切なくなりました。
コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 犬ヶ島 | トップ | オッペンハイマー »

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事