本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

さざなみのよる

2018-04-28 10:01:22 | Weblog
■本
34 東京の夫婦/松尾スズキ
35 さざなみのよる/木皿 泉
36 イーロン・マスク 未来を創る男/アシュリー・バンス

34 20歳下の一般女性と再婚した松尾スズキさんによる夫婦をテーマにした連載エッセイをまとめた本です。お得意のエログロを排し、抒情的な文体で若い奥様との発見に満ちた日常が綴られています。そこに、離婚した前の奧様や痴呆症となった母親とのパンチの効いたエピソードも重なり合い、「人との出会いと別れ」や「老い」についてもいろいろと考えさせられます。以前のような戦闘的でホスピタリティ溢れる姿勢から、積み重ねた自信と諦めが微妙に混ざりあった円熟味のある語り口へと変化している点も、アラフィフ目前の私にとって興味深かったです。

35 一昨年と昨年のお正月にNHKで放映された木皿泉さん脚本によるテレビドラマ「富士ファミリー」の、スピンアウト的な書き下ろし小説です。ドラマ版では既に死んで幽霊として登場していた、ナスミさん(ドラマでは小泉今日子さんが演じられていました)の死にまつわるエピソードが、様々な人との生前(そして死後)の交流を交えながら丁寧に描かれています。生きることも死ぬこともそれほど大したことではないという清々しいまでの割り切りと、その反面のただ生きて人と交流するだけでも十分に価値があるという肯定感のバランスが絶妙で、自分の人生に対する姿勢がバージョンアップされるような不思議な感覚になりました。毎日の通勤時に読んでいたのですが(各章がちょうど通勤時間で読み終える長さでした)、誰かに優しく許されているような気持になり、涙をこらえるのが大変でした。お勧めです。

36 一方、こちらは火星に移住する環境を整え人類を救うという壮大な野望を持ち、宇宙ロケットや電気自動車の製造会社を経営するイーロン・マスクの伝記です。今やロック・スター的な人気を持ち、スティーブ・ジョブスに匹敵するカリスマとして目される人物です。最近の有名な経営者はインタネット上でのサービス展開で財をなした人が多いですが、実際に製造業として輝かしい業績を残されている点と、一社だけでなく複数の会社を成功に導いている点でも評価の高い人物です。ペイパル等初期に成功して得た資産を民間では誰もやったことのないリスクの極めて高い事業にためらうことなく投資し、実際に実現していく行動力に感嘆します。その達成の過程で様々な陰謀や挫折も味わっていて読み物としても抜群に面白いです。映画の「アイアンマン」とグウィネス・パルトロー演じる女性秘書のモデルは、イーロンマスクとその秘書ということ、しかも、その10年以上尽くした理想的な秘書をイーロン・マスクがあっけなくクビにしたというエピソードに(私がグウィネス・パルトロー演じる秘書がかなり好きだったので)驚きました。映画の「アイアンマン」は、理想主義者ではあるものの、かなり独善的で一緒に働きづらいタイプですが、実際のイーロン・マスクもそれに匹敵する癖の強い人間のようです。離婚した二人の奥様方も含め、身近にいる人を不幸にしつつも、人類全体、アメリカ全体にとっては間違いなくプラスとなる偉業を成し遂げていることに、人間の不思議さについて考えさせられます。これからも毀誉褒貶が激しい人だと思いますが、その圧倒的なエネルギーと実行力はやはり魅力的です。


■映画 
29 アフター・アース/監督 M・ナイト・シャマラン
30 帝一の國/監督 永井聡

29 M・ナイト・シャマラン監督による近未来SF作品です。あまり評判がよくありませんが、世界観が明快でコンパクトにまとまっていて素直に楽しめました。原案ウィル・スミス(そして主人公の父親役)、息子のジェイデン・スミスが主演ということで、公私混同のごり押し作品と取られかねませんが、ジェイデン・スミスの演技は言われているほど悪くはないと思いました。M・ナイト・シャマラン監督特有のどんでん返し的要素もありますが、その見せ方はかなり控えめです。そのためか、監督よりもウィル・スミス色の強い作品(つまり典型的なヒーローもの)になってますが、監督と俳優が別々に主張し過ぎて、混乱するよりはよほどましだと思います。

30 主人公の帝一がピュアなのか腹黒いのかがよくわからず、なんともつかみどころのない作品でした。他の登場人物もそれぞれに癖が強く、微妙に誰にも共感できませでした。しかし、そのキャラの立ち方が、菅田将暉さんを筆頭とした若手男優の魅力を引き出す上ではプラスに働いていたと思います。キャラ頼みでストーリーが弱い面もありますが、イケメン俳優を観て楽しむという点に特化した潔さは評価すべきだと思います。男性客向けにエンドロールで永野芽郁さんを可愛く描くという配慮も尽くされています。
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億男

2018-04-21 06:28:59 | Weblog
■本
32 億男/川村 元気
33 サブスクリプション・マーケティング/アン・H・ジャンザー

32 映画プロデューサーであり作家でもある川村元気さんのお金をテーマにした小説です。福沢諭吉やビル・ゲイツなど偉人、億万長者のお金にまつわる言葉や、落語「芝浜」や映画「シェルタリング・スカイ」を効果的に引用して、お金に振り回されつつ、その自分にとっての意味を真剣に考える主人公やその友人達の姿を描きます。これをコミカルに自己啓発本的に展開させると水野敬也さんの「夢をかなえるゾウ」のような展開になるのですが、川村さんはエンターテイメント的要素は配慮しつつも、彼の小説に特徴的な安易なハッピーエンディングにはしない若干モヤっとする結末など、読者に考えさせる引っかかりを随所に残しています。映画製作者らしくモロッコの砂漠の風景など(私も新婚旅行でモロッコに行ったので懐かしく読みました)、映画化した際の映像的な見せ場もしっかりと意識されています。

33 動画配信サービスのネットフリックスや音楽配信サービスのアップル・ミュージック等、定額の料金を支払い利用権を購入するというサービス(サブスクリプション)におけるマーケティング手法を解説した本です。最近のモノやサービスの「所有」から「利用」への流れや新規顧客獲得より既存顧客の維持に焦点を当てたサービスということで、私も注目していたので読みました。海外では、前述したコンテンツやソフトウエア産業だけでなく、髭剃りやおもちゃといったモノや法律相談や人材紹介といった知的サービス産業にまで広がっているということも興味深かったです。後半はネタ切れしたためか、コンテンツ・マーケティングやアドボカシー・マーケティングといった流行りのマーケティング手法の羅列になってきて少し残念でしたが、中盤までは「顧客の利用データを使って価値を示す」や「解約には快く応じる」など、サブスクリプションモデルだからこそ着目すべき点について触れられていて参考になります。


■映画 
27 四月は君の嘘/監督 新城 毅彦
28 ワイルド・スピード ICE BREAK/監督 F・ゲイリー・グレイ

27 こちらも広瀬すずさんの魅力を楽しむための作品です。「ちはやふる」の主人公とキャラが被る気がしますが、広瀬さんの天真爛漫な演技が印象的です。他のメインキャラクターもみんなみずみずしい演技で王道の青春映画だと思います。主要人物がみんないい人過ぎる点、主人公男性にトラウマを与えた母親の描かれ方が説明不足な点、結末があまりにベタ過ぎる点など、ツッコミたいところはいくつかありますが、インスタ映えしそうな美しいシーンを随所に盛り込み、俳優を魅力的に描くことに徹している点は好感が持てました。

28 「ワイルド・スピード」シリーズの8作目。さすがにマンネリ感が出てきましたし、スケール感も少し減退した気がしますが(氷の上を車が走る発想は面白いですが、前作の車が空を飛ぶというインパクトには負けてしまいます)、安定の面白さです。他界したポール・ウォーカーの穴を前作の敵役のジェイソン・ステイサムが、クールかつコミカルな演技で見事に埋めています。主演のヴィン・ディーゼルが、ある事情で悪役の手下になるというストーリーのためか出番が少なめで、その分、ザ・ロック演じる捜査官など他のキャラクター(カート・ラッセル演じる秘密工作員ミスター・ノーバディの存在感が増しています)それぞれにまんべんなく見せ場があり、これまでの作品とは違った展開も見せてくれます。続編を匂わせる伏線もあり、次回作への期待も高まります。
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フライト・ゲーム

2018-04-14 11:11:25 | Weblog
■本
30 東芝の悲劇/大鹿 靖明
31 言ってはいけない中国の真実/橘 玲

30 名門企業の東芝の業績がなぜこんなに悪化したのかを知りたくて読みました。基本的には、技術力に優れた堅実さが強みの企業で、株主等の業績重視の圧力が強まる中、声の大きい営業力や発信力のある野心的な人が歴代のトップにつき、そのトップ同士の不仲などにも起因した企業全体のガバナンス軽視による人災として描かれています。その一方で、リスクの高い原発事業を高値で売りつけたり、将来性のあるメモリ事業を巧みに買収しようとしたりする、外国企業のしたたかさも対照的に描かれています。そこに、原発政策や日本企業の競争力確保を目指す官僚の思惑がからみ翻弄される、被害者としての東芝の姿も浮かび上がってきます。私自身、大局を見ずに、身近な人間関係や自尊心に翻弄されがちなので、いろいろと考えさせられる本でした。政治と同じく経営においても、人間の能力の限界を理解し、個人の暴走を防ぐシステム上の整備が必要なのだと思います。

31 引き続き橘玲さんの本を読んでいます。実際の現地取材と膨大な文献調査を織り交ぜながら、ニュース等ではあまり伝わってこない、リアルな中国の現状とそこに至った歴史的なプロセスが書かれていて参考になります。中国のさまざまな矛盾の原因が「国土が広すぎて、人も多すぎるため」というシンプルな理由で説明されているところもユニークです。人が多すぎるので競争が激化して広い国土の中でより有利な場所を求めて人々が流動化し、その流動化した社会では場所に基づく秩序ができないので、個々人の関係性が秩序のよりどころとなり、そして広い国土では中央が地方まで目が届きにくいので、その強い人間関係にがんじがらめになった役人が汚職にそまっていくという構造がロジカルに解説されています。そこに、土地所有が禁じられている中国の制度を利用して、安価な補償金で土地を収用しそこを開発することにより地方行政や開発関係者は利益を得るが、その賃料が高いため入居者が集まらず、ゴーストタウン(鬼城)化するという説明も実際の鬼城の写真とともになされていて興味深いです。「中国軍が自衛隊に撃破されるようなことがあれば、中国国民の怒りは無謀な作戦を強行した自国政府に向かうだろう」など、国防上の記述には必ずしも合意できないところがありますが(そのような事態になれば中国国民の怒りは日本に向かうはずです)、この本でも「みんなと違う視点を提供して意見の多様性に貢献する」という橘さんの視点が堪能できて楽しく読めました。


■映画 
26 フライト・ゲーム/監督 ジャウム・コレット=セラ

 さほど期待していなかったのですが、脚本がよくできていて面白かったです。飛行機内を舞台にした密室もののサスペンス・アクションですが、リーアム・ニーソン、ジュリアン・ムーアといった名優が安定感のある演技を見せてくれて、ヒリヒリとした心理戦も丁寧に描かれています。随所にアクションシーンのアクセントも入り、静と動のメリハリも巧みで観ていて飽きません。犯人が明らかになる謎解き要素の難易度も適切で、難解な伏線が少ないため、登場人物が多い割にはストレスなくそのプロセスが理解できます。派手さはないですが、いろんな意味で手堅い傑作だと思います。お勧め。
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ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書

2018-04-07 06:53:47 | Weblog
■本
28 バカが多いのには理由がある/橘 玲
29 武器を磨け 弱者の戦略教科書『キングダム』/佐藤 優 著

28 以前に読んだ「不愉快なことには理由がある」の続編的な本ですが、そちらと比べるとタイトルはより挑発的になっているものの、現在の、政治、経済、社会について、より本質的で真面目な議論が展開されていて、興味深く読みました。本作でも「みんなと違う視点を提供して意見の多様性に貢献する」という筆者の思いが強く反映されていて、「こういう考え方もあるのか」と、知的好奇心が刺激されます。特に、最後の「地獄への道は善意によって敷き詰められている」というエピローグでの、なぜ、シオラレオネの反政府組織が民間人の手足を切断するのか、という話は衝撃的でした。単なる死体では関心を示さなくなった、メディアやNGOの関心(とお金)を引くためというのがその理由らしいのですが、その真偽も含めて、常識・定説とされているものを時に疑って考えることの大切さを教えてくれます。

29 名作漫画「キングダム」のシーンを引用しつつ、「キングダム」の舞台となった春秋戦国時代の中国と匹敵するほど厳しい現代日本の生存環境で、どのように生き残っていくのか、について佐藤優さんが様々なアドバイスをして下さる本です。基本的には、佐藤さんの類似書と同じく、知的武装をしながら、したたかに、組織・社会を渡っていくための処世術を身に着けるべし、という内容です。ですので、佐藤優さんの本を読んだことのある方にはあまりお勧めできませんが、「キングダム」ファンの方が読む佐藤優さんの入門書としては最適だと思います。ご自身の経験を踏まえながら、優しい眼差しで励ましてくださるので勇気が出ます。


■映画 
24 ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書/監督 スティーヴン・スピルバーグ
25 相棒 -劇場版IV/監督 橋本一

24 「意思決定」の勇気が描かれた作品です。メリル・ストリープが珍しく自信なさげな女性の役を演じていますが、最後にはワシントン・ポスト社主として、政府と対立する記事を載せるという重大な意思決定を行います。その葛藤を見事に演じているところがさすがです。トム・ハンクスはこちらも珍しく、自信満々で尊大な敏腕編集者を楽しそうに演じています。この二人のメインキャストをスティーヴン・スピルバーグが監督するのですから、安定感が半端なく、メッセージ性とエンターテイメント性のバランスが絶妙です。国防長官など政府側の人間も単なる巨悪としてではなく(ニクソン大統領はどこまでも不気味な権力者として描かれていますが)、家族を持つ一人の人間として丁寧に描かれている点が作品に深みを与えていると思います。今のアメリカ社会に一石を投じるような、野心的な作品でもあると思います。

25 「相棒」シリーズのテレビ版はほとんど観たことがないのですが、その人気の秘密を知りたいので映画版は全部観ています。本作も、日本領事館関係者がほぼ全員毒殺され、唯一残った少女も誘拐されるというトリッキーで衝撃的な幕開けから一気に惹き込まれます。また、その幕開けを伏線に、サブタイトルにもなった「首都クライシス 人質は50万人」という壮大な事件へと発展していく展開も面白かったです。しかし、ここまで大きく広げた風呂敷も、結局謎解きはあっけなく、犯人の動機も個人的にはあまり共感できず尻つぼみな印象が残りました。サスペンス的要素とジヒューマンドラマ的な要素のバランスが中途半端だったのが残念でした。水谷豊さん演じる杉下右京を筆頭に個性的なキャラクターはどれも魅力的で、それぞれに見せ場も作られているのでファンに取っては楽しめる作品だと思います。
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