本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

シン・仮面ライダー

2023-07-30 06:53:17 | Weblog
■本
61 ナショナル・ストーリー・プロジェクト Ⅱ/ポール・オースター
62 夢をかなえるゾウ0(ゼロ) ガネーシャと夢を食べるバク/水野 敬也

61 先々週に読んだ、ポール・オースターが、ラジオ番組のために全米に募集した、心に残る短い実話を集めた本のパート2です。パート1が日常の些細な心の機微やドタバタ劇を描いたものが多かったのに比べ、本作は「戦争」や「死」をテーマにした話が多く収められていて、ドラマティックな印象です。一方で、「瞑想」(個人的は「空想」の方がふさわしいと思いましたが)をテーマにした、とりとめのない話も収録されていて、本作も玉石混交です。時間を超えた「偶然」の出会いを描いたものも引き続き多く、私達が想像以上に運に左右された人生を歩んでいることを思い知らされます。人間と「物語(ストーリー)」の関係についてもいろいろと考えさせられました。「物語」に支配されるのではなく、このシリーズの各エピソードのように、よりよく生きていくための触媒として付き合っていくのが良いと思いました。

62 ベストセラーエンタメ自己啓発小説の現時点の最新作です。1〜3は既読ですが、4を飛ばしてこの「0」を読むかたちになりました。本作はかなえる「夢」がない人に、「夢の見つけ方」を教えてくれます。「夢をかなえる象」であるガネーシャの過去や親子関係も明らかにされます。夢があることの痛みや苦味(当然かなわないこともありますから)についても語られている点が、地に足がついていて好感が持てました。ポジティブ一辺倒ではなくなっている点に、このシリーズの進化を感じました。個人的には、「自分と同じ痛みを持つ人を助ける」ことが自分を救うことにつながる、というメッセージが心に響きました。シリーズでもっとも胡散臭くなく、素直に従おうと思える内容が多かったです。読み物としても面白いので、進路に悩んでいる若い人に読んでもらいたいです。


■映画
50 シン・仮面ライダー/監督 庵野 秀明
51 キングダム2 遥かなる大地へ/監督 佐藤 信介

50 「シン・ウルトラマン」以上に賛否が分かれている作品ですが、私はかなり好きです。松本人志監督の「大日本人」を思わせる、個性的な怪人とのショートコント風の奇妙であっけない対決シーンの連続に、ワクワクしました。「仮面ライダー」シリーズ(というか当時の特撮もの全般に)特有の起伏のないセリフまわしと独特の比喩が印象的です。「エヴァンゲリオン」を連想させる、精神世界を強調した展開もいかにも庵野監督らしいです。元ネタを知っているかどうかで、楽しみ方が変わってくるので、そういう点で評価に幅があるのだと思います。世界観にはなじめなくても、浜辺美波さんのツンデレの演技を観るだけでもかなり楽しめると思います。「シン・ウルトラマン」同様に、女性の描き方が浅すぎるという批判も出そうですが、そういう批判も織り込んだ上で、女優さんの魅力を最大限に引き出そうとしたのであれば、あざとくはありますが、その狙いは成功しています。いくらでも深読みできますが、頭を空っぽにして観ても楽しめる、上質のエンターテイメント作品です。

51 傑作漫画「キングダム」の映画化第2作目です。原作に忠実に、日本映画の限られた予算の中で、ここまで大きなスケールで描ききった点が、何より素晴らしいです。本作の重要キャラクター「羌瘣」の役者さんだけは、原作も読んでいる私の目からは若干違和感を感じましたが、ほとんどのキャラクターが、不自然にならないギリギリの範囲で、デフォルメされた演技をされている点も感心しました。原作者の原泰久さんがしっかりと関与されているためか、原作との違いなどのメタ的な違和感をほとんど感じることなく、作品世界に入っていけるところも、このシリーズの評価ポイントだと思います。原作漫画映画化作品の理想的なかたちを示し続ける作品です。次回作も楽しみです。
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はじまりのうた

2023-07-23 07:06:14 | Weblog
■本
60 日本社会のしくみ/小熊英二

 タイトル通り「日本社会のしくみ」を、主に日本の雇用慣行がどのような歴史的経緯により形成されてきたかについて、欧米諸国との比較を通じて説明された本です。日本社会は「大企業型」(大企業や官庁で正社員・終身雇用の人生を過ごす人たち)、「地元型」(家業の第一次産業や自営業を継いだり、地方公務員や地場産業に就職したりするなど、地元から離れない生き方をする人たち)、「残余型」(都市部の非正規労働者や中小企業に務める人など「大企業型」「地元型」以外の人たち)の三つの類型によってできていて、その全体の構造を規定しているのは「大企業型」にみられる日本型雇用のあり方にあると筆者が考えていることから、「日本の雇用慣行」の分析に主眼が置かれているようです。日本の年金など社会保障制度は、「大企業型」(厚生年金や退職金で基本的に十分な社会保障が得られる)、「地元型」(国民年金だけだと不十分だが、地域の相互扶助などで一定の社会保障が得られる)を中心に考えられており、そこからこぼれ落ちる「残余型」の増加(地方自営業者の減少が非正規労働者の増加の一因になっているようです)が、日本における格差拡大の原因の一つになっていることがよくわかりました。「大企業型」の求人数はさほど変化はないが、大卒者(しかし、日本は学歴の高さよりも偏差値などによる大学入試の難易度が重視されるため、大学院進学率は欧米と比較して低い)が増加しているので、大学という学位に期待する職を日本社会が提供しきれておらず、また、すでに「大企業型」に所属する人たちにも望むようなポストや賃金を提供できなくなっているので、非正規社員が増加しているという構造も理解できました。最近の人手不足を契機に、「残余型」の人たちの環境が改善することを望みます。また、「大企業型」の既得権の削減や、国による社会保障制度の強化など、一定の痛みを伴う分配を次世代のために許容しなければならないとも思いました。「日本社会のしくみ」を構造的に理解するための知的刺激が得られる本です。


■映画
48 はじまりのうた/監督 ジョン・カーニー
49 ガンファイターの最後/監督 ロバート・トッテン、ドン・シーゲル

48 キーラ・ナイトレイ演じる失恋したシンガーソングライターと、マーク・ラファロ演じる落ち目の音楽プロデューサーが、協力しながらアルバムを制作していく過程で、それぞれの心の傷を癒やし再生していく姿を描いた作品です。こじんまりとした印象ながらも、随所に心を打つシーンがある佳作です。特に、二人が一つの音楽プレイヤーを共有しながら、好きなプレイリストを聞きつつ、ニューヨークの街を練り歩くシーンがとても素敵です。若くて魅力的な女性とやさぐれた中年男性の友情(恋愛感情の芽生えをほのめかすシーンはあるものの恋愛関係には発展しません)というありそうでなかった関係性を描いた点が秀逸で、私のようなおじさん世代にも希望が持てる内容です。商業的成功や恋愛関係の修復という安易な結末ではなく、主人公の成長に焦点を当てたエンディングも好ましいです。キーラ・ナイトレイのさりげない魅力が堪能できる作品です。

49 昔気質の保安官が、住民を守るためによかれと思い取った強権的な態度により、街を近代化し経済的発展を目指す住民と対立し疎まれる悲劇を描いた西部劇です。日本の農村地帯の閉塞感にも通じるものがあります。街の負の側面を一人で引き受け続けたために、その露見を恐れた住民から危害を受ける主人公が切ないです。一方、主人公の直情的ですぐに暴力的手段に訴えかける欠点も描かれており、バランスが取られています。テーマの暗さと時折挿入される牧歌的なシーンとのアンマッチさに、居心地の悪い思いもしました。アクションシーンも歯切れが悪く、エンディングの後味の悪さとともに、エンターテインメント作品としては失敗作だと思います。かといって、ヒューマンドラマとして深みがあるわけでもなく、なんとも中途半端な印象です。ドン・シーゲル監督の影響か、主人公のストイックなクールさは格好いいです。
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怪物

2023-07-16 05:38:22 | Weblog
■本
58 堤未果のショック・ドクトリン/堤 未果
59 ナショナル・ストーリー・プロジェクト Ⅰ/ポール・オースター

58 ナオミ・クラインさんが提唱した、戦争や自然災害、パンデミックなどのショッキングな出来事に乗じて、国家が強権的な政策(堤さんは「新自由主義政策」とおっしゃっています」を早急に成立させていく、「ショック・ドクトリン」という手法を引用しつつ、「マイナンバー」「コロナ対策」「脱炭素」といった、昨今の日本の政策の問題点や欺瞞について指摘されている本です。おっしゃっている内容は同意できるものも多いのですが、政府の「ショック・ドクトリン」的な進め方を批判しつつ、堤さん自体が根拠や出典をさほど丁寧に説明することなく(「地球が過去8年ずっと冷え続けている」という主張は、ここ数日の猛暑の実感からも、にわかには信じられません)、読者の恐怖心をひたすら煽る文体で迫ってくる点が少し気になりました。それだけ危機感が強いのかもしれないですが、この話法だと分断を加速するだけで、結局はもともとこの種の問題意識を持っている人にのみ伝わるメッセージとなり、場合によっては、ワクチン接種を一切拒否するなど、読者に悪影響を与える可能性もあると思いました。「脱炭素」を推進する側の「グリーンウオッシュ」的な動機を取り上げつつ、温暖化の真犯人は軍事産業である、と喝破されている点など、共感できる点も多いだけに、その点が少し残念でした。政府の主張にも筆者の主張にも全面的に信じることなく、自分の頭で考えることの大切さについてあらためて考えさせられる本でした。

59 私の大好きな小説家であるポール・オースターが、ラジオ番組のために全米に募集した、心に残る短い実話を集めた本です。日本でも内田樹さんと高橋源一郎さんが同様のプロジェクトをまとめた本を出されていたと思います。15年近く前に買ったままだったので、旅のお供に持って行って読みました。ポール・オースターらしく「偶然」をテーマにした話が多く、我々の想像以上に奇跡的な偶然が人には生じうる、ということが実感できます(落とした物や、音信不通になった人と、ずいぶん時が経ってから偶然出会うという話が結構多いです)。普通の人の話なので、玉石混交という感じですが、数ページの話なのでサクサクと読み進めることができます。個人的には、福祉宿泊所の住民のために、金曜日の夜に週末に停止される職場の冷凍庫から大量の氷を許可を得て持ち帰る老人の話が好きでした。その氷が、貧しい人々のささやかな宴会のきっかけとなり、一種のコミュニティとして機能していたそうです。こういう名もなき人のささやかな善意によって、意外と世界は保たれているのだと思います。


■CD
3 夢中夢 -Dream In Dream-/Cornelius
 
 小山田圭吾さんによるソロユニットの6年ぶりの新作です。過去2作のミニマムな音響重視の作風はある程度継続しつつ、本作は歌詞のメッセージ性が増し、インパクトとなるギター・ソロなども挿入され、久しぶりに動きのある作品という印象です。Cornelius初期作品の、テーマパークのような綺羅びやかな世界観には及びませんが、フリッパーズ・ギター時代を彷彿とさせる、カラフルで挑発的な感覚が少し戻ってきている点がファンとしては嬉しいです。サマーソニックでライブも観ることができるので、これらの曲がどのように演奏されるかが楽しみです。


■映画
46 怪物/監督 是枝 裕和
47 ラストレター/監督 岩井 俊二
 
46 坂元裕二さんがカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞したことでも話題の作品です。視点となる登場人物が変化するにつれて、物語の全容が明らかになる脚本はもちろん素晴らしいのですが、なにより少年役ふたりのみずみずしい演技とそれを引き出した是枝監督の手腕が圧巻です。人間の嫌なところも、気高いところもむき出しに表現されているこの作品の中で、彼らの存在感が、作品全体に与える好ましさへの貢献度は絶大です。「偏見」がテーマの一つだと思いますが、その犠牲者にも加害者にも彼らがなっているという構造も、観る側に与える影響としては考え尽くされていると思います。エンディングは観客に委ねるかたちにはなっていますが、是枝監督がこの脚本を最初に読んだときの感想が、「この2人は『銀河鉄道の夜』のジョバンニとカンパネルラだ」とおっしゃっている記事を見て、私の中の結論は出ました。脇役に至るまで、その他の役者さんの演技も素晴らしく、総合力としての完成度がとても高い作品です。高潔なのに難解になっていない点が素晴らしいです。

47 「怪物」と同様に川村元気さん製作の作品です。その影響か、この作品もプロデューサー側の企みが強く感じられます。同じく岩井監督作品の「Love Letter」に主演されていた、中山美穂さんと豊川悦司さんが、本作で全く別の汚れ役として出演されている点が、話題づくりの巧みさとして象徴的だと思いました。また、松たか子さんの底力もこの作品からは感じました。広瀬すずさんや森七菜さんといった旬の女優さんが出演されている中で、松たか子さんが、さほど力の入った演技をされていない印象にもかかわらず、最もチャーミングであった点に感心しました。コメディエンヌとしての存在感が圧倒的です。ストーリー自体は「Love Letter」とも呼応した、重層的な内容で、即応的な電子メールやメッセンジャーと比べて、時を越えて対話できるという、「手紙」というメディアの特徴をうまく用いた、繊細で上品な作品になっています。この作品も、庵野秀明さんも含めた俳優さんの演技がとても素晴らしく、映画において演技が占める重要さを実感できました。
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問題のあるレストラン

2023-07-09 07:11:32 | Weblog
■本
54 問題のあるレストラン 1/坂元裕二
55 問題のあるレストラン 2/坂元裕二
56 うつ病で20代全部詰んでたボクが回復するまでにやったこと/デラさん
57 Instagram完全攻略本 決定版/木村 麗

54,55 引き続き坂元裕二さん作品を読んでいます。こちらは先日読んだ「最高の離婚」のようなノベライズ版ではなくて脚本版ですが、ほとんど違和感を感じることなくサクサクと楽しく読み進めました。坂本裕二さんの作品は「東京ラブストーリー」「カルテット」「最高の離婚」など、男女2名ずつの4人の構成が多いという印象でしたが、本作はそれよりも主要登場人物が多い群像劇にも関わらず、どのキャラクターも魅力的だったので、ほとんど混乱することはありませんでした。このあたりに、坂元裕二さんの高い技術を感じました。「女性の生きにくさ」というテーマを、結構えげつないエピソードを多数交えつつも、ここまでコミカルにかつポジティブな雰囲気でまとめあげている点も見事です。「仕事」をテーマにした作品としてもかなり秀逸で、私自身の仕事に向き合うスタンスについて、考えさせられるところも多かったです。とても素敵な話を聞けたという満足感がかなり高いです。ドラマも機会があれば観てみたいです。

56 長男の調子が最近よくないので読みました。実際にうつ病から回復された方の文章だけあって、説得力があります。体力、思考力、気配りを問わず、極力エネルギーを消費しないように努められている点(なぜなら、うつ病はいろいろな意味でのエネルギーが枯渇した時点で発症するし、一度発症するとそのエネルギーの回復にも時間がかかるから)が印象的です。そのため、自分にあった方法でエネルギーを節約しつつ、なんとか社会生活を送っていくためのノウハウもいろいろと教えてくれます。「小麦は食べない」(なぜなら薬の吸収によくないと聞いたことがあるから)など、結構極論もありますので、筆者もおっしゃっている通り、自分に合うものだけを参考にするのが良いと思いました。お医者さんのアドバイスにしっくりこないときに、当事者の意見を参照するという読み方も良いと思います。

57 時折写真を投稿したり、友人の写真を見たりはしているものの、各種あるソーシャルメディアの中で、インスタグラムについては、あまりその特徴や使い方がよくわかっていないので読みました。この本は個人としてインフルエンサーになりたい方やビジネスの集客手段として使いたい人向けのガチの内容だったため、私の目的とは少し異なるところもありましたが、それでも写真の撮り方や加工、キャプションやハッシュタグの書き方など参考になるところが多かったです。さらに、各投稿の分析方法などは、様々なソーシャルメディアの投稿の改善にも使える汎用的な内容で参考になりました。一方で、インスタグラムは流行に敏感な「個人」を表現するためのメディアであるということも理解できたので、他人の投稿を見る方を中心に付き合っていきたいと思いました。


■映画
44 インディ・ジョーンズと運命のダイヤル/監督 ジェームズ・マンゴールド
45 劇場版ラジエーションハウス/監督 鈴木 雅之

44 「インディ・ジョーンズ」シリーズの最新作です。80歳のハリソン・フォードがアクションシーンを演じるということで少し心配していましたが、かなり見応えがありました。若き日のインディ・ジョーンズの活躍を描いたCGを駆使した冒頭から、年老いた姿で必死に頑張る終盤まで迫力満点です。監督はこれまでのスピルバーグではなくなりましたが、「3時10分、決断のとき」や「フォードvsフェラーリ」といった秀作を撮り続けるジェームズ・マンゴールド監督だけあって、ダレることのない手堅いエンターテインメント作品となっています。インディ・ジョーンズが結構面倒くさい爺さんになっている点も、アラフィフの身としては共感できるところが多かったです。過去の主要キャラクターをあっけなく殺していくところも、おそらくシリーズ最終作らしい潔さを感じました。過去作品との関連をさり気なく感じさせる演出も粋です。若い人たちにどれだけ受け入れられるかはわかりませんが、シリーズのファンは必ず楽しめる作品だと思います。年齢に関係なく、本人の能力に応じてチャンスを与えるアメリカ社会の健全性も感じられます。

45 テレビドラマ版は観たことがなかったのですが、予想以上に楽しめました。各キャラクターが立っていて、作品世界にすぐに入り込めました。内容は、「コードブルー」などと同じ、よくある医療モノのエンターテインメントで、看護師さんがほとんど登場しない点や本田翼さんが医師を演じている点など、現実離れした設定もありますが、一種のファンタジーとして観ると面白いです。数日間でいくらなんでもここまでの出来事は起きないだろうと思うほど、エピソードが詰め込み過ぎで、もう少し掘り下げた展開の方がよかった気もしますが、各キャラクターに見せ場を作る必要性を考えると、ファンタジーとしては許容範囲だと思います。シリアスとコメディのバランスが良い点も好ましかったです。
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表現の技術

2023-07-02 07:45:09 | Weblog
■本
51 オリンピックにふれる/吉田修一
52 住宅営業マンぺこぺこ日記/屋敷 康蔵
53 表現の技術/高崎卓馬

51 出場を目指したが叶わなかったアスリートなど、オリンピックに間接的に影響を受けたアジア各国の人々を描いた短編小説集です。オリンピックというアスリート最高峰のイベントの姿が垣間見れるため、どの小説も挫折と、それとともに過ごすその後の日常生活がテーマとなっているような気がします。寂しさと、人間の生命力がうっすらと感じられる文章で、読んでいて心の底が少し温かくなりました。このあたりは、吉田修一さんの技巧が冴えています。実際の東京オリンピックの高揚と、その後の後味の悪さを予言しているかのような作品です。

52 ハウスメーカーさんとお仕事をすることがたまにあるので、その営業実態を知りたくて読みました。ローコスト住宅営業の過酷さが、ユーモアを交えつつ語られています。成果報酬比率の多い給与体系や、キャンペーンの仕組みなどを知ることができて参考になりました。人生で最も高い買い物と言われる住宅という商品の性質上、顧客と営業の方の人間性丸出しの必死のやり取りが興味深いです。東日本大震災復興後のエリアが舞台なので、受注に苦しむ姿だけでなく、殺到する注文を処理する上での悩みも多く語られている点が印象的です。結局は人を使い捨てにすることによって成り立っているビジネスモデルだと思いますので、昨今の労働力不足を受けて、人を大切にする文化が企業に更に根付くことを祈るのみです。

53 カンヌ映画祭で役所広司さんが男優賞を獲得した、ヴィム・ヴェンダース監督の「Perfect Days」という映画に、電通のクリエイターの高崎卓馬さんが共同脚本など、深く関わってらっしゃることを知って読みました。この本は若手クリエイター向けに書かれた、高崎さんの主にCM企画上の方法論について書かれた本です。作品自身の面白さを追求する本質的な視点と、深く強く細かく多量に思考する姿勢に圧倒されます。方法論以上に、プロとして一流の仕事をする上では、ここまで徹底的に取り組まないといけないのだ、という心構えの方が参考になりました。映画「ダイ・ハード」の内容を細かく要素分解して、脚本の基本構造について分析され、時代劇や恋愛ものに再構成される部分は特に面白かったです。「変化が大きいときは、変えるべきではないものをまず見つめる。」とし、「それは人の心です。」と言い切られているところも痺れました。優秀なクリエイターはセンスや直感力に優れたところも当然あるのだと思いますが、それ以上に緻密に論理的に思考され尽くしているということがよくわかります。広告という仕事に対する熱い思いも伝わってきて、もっと若いときに読みたかったと思える本です。


■映画
43 引っ越し大名!/監督  犬童 一心

 星野源さん主演による時代劇です。国替えという大事業の担当を押し付けられた内気な武士が、周囲の助けを借りながら成長しつつやり遂げる姿を、コメディタッチで描いています。財政難やリストラ、無責任な上司など、現代社会にも通じる組織人の悩みが巧みに描かれています。子孫に負担を押し付ける過度な借金への慎み深い態度も、昨今の日本政治への批判として効いています。不器用ながらも担当者として、汚れ仕事も厭わず責任を果たそうとする主人公の姿勢が、多くの共感を呼ぶと思います。引越や農業への敬意も感じられ、働く人への目配りもできています。終盤が少し冗長だった点が少し残念でしたし、高橋一生さん演じる主人公の武闘派幼馴染は、もう少しマッチョな俳優さんの方が良かったと思いました。古き良き日本を感じさせるよくある人情時代劇ではありますが、現代的なマーケティングも行き届いている、完成度の高い作品です。
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