本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

strobo

2022-08-27 15:24:40 | Weblog
■本
69 外資系コンサルが教える 読書を仕事につなげる技術/山口 周
70 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2/ブレイディみかこ

69 タイトル通り、山口周さんが外資系コンサル会社に勤めていらっしゃった時期に書かれた、読書術を紹介された本です。これで恐らく、山口さんの現時点で出版されている単著は全て読んだことになると思います。繰り返し読んで気になった箇所に線を引き、さらにそこから厳選した箇所をエバーノートに転記してデジタル化するなど、知的アウトプットに活かすために、ここまで緻密に本を活用されているのか、という点にまず驚きます。ビジネス上必要な基礎知識が得られる、最低限の書籍を領域ごとに順を追って紹介して下さる「ビジネス書マンダラ」も参考になりました(三分の一くらい読んだことがあったので少しだけ安心しました)。全て実践するのはなかなかハードルが高いと思いますが、ビジネス上のアウトプットに繋げるために本を活用する、という視点を得られるだけでも有意義だと思います。

70 「エンパシー」という言葉を日本にも広めて、ベストセラーとなったブレイディみかこさんの、息子さんとの日々を描いた本の続編です。過去のエッセイは、パンク気質の彼女を反映して、社会問題に対する芯を食った指摘は痛快なものの、悲観的な気持ちになるものも多かったのですが、本シリーズは息子さんのポジティブな姿勢と、将来に対する期待感などから、批評性と前向きさが絶妙のバランスとなって、読後感がとてもよいです。それにしても、「社会を信じること」をテーマにスピーチしたり、「ライフって、そんなもんでしょ。」と発言したり、ローティーンにしては、息子さんの人間的成熟度が高過ぎます。もちろん、異なるバックボーンを持つ両親の元(ここまでベストセラー作家となったブレイディみかこさんと、配偶者との家庭内経済力格差も余計なお世話ながら心配です)、周囲とは異なる容姿を持ち、彼なりに非常に苦労をした上で到達した考えでしょうが、このシリーズでも紹介されているイギリスの学校教育の優れた面が反映されている気もします。一方で、ブレイディみかこさんが再三批判されているように、イギリスの福祉制度の壊れっぷりはかなりひどいですが、彼女が「同調圧力」等のこの国以上の生きにくさを指摘し、一人当たりの名目GDPも下回っている、日本が心配になりました。日本こそ、過去の経済的繁栄を謳歌した栄光を忘れて、謙虚に今の状況を受け止め、いろいろと改善していく必要があるとも感じました。なんだかんだ言って、イギリスの底力を感じます。さらに、イギリスという国で地域コミュニティに貢献しつつ、したたかにサバイブされているブレイディさんご家族にも尊敬の念を抱きます。


■CD
6 strobo/Vaundy

 ここ数年のお気に入りアーティストのVaundyさん。シングルも含めて本当によくサブスクで聴いているので、アルバムデビュー作をCDでも購入しました。まだ若いのに、その音楽的引き出しの多さに圧倒させられます。過剰さに至らないギリギリの範囲で、いろいろなアイデアが詰め込まれている点にセンスを感じます。そういう点では、藤井風さんに近い気がしますが、自分の声だけでなく、楽曲全体で勝負をしようとする姿勢がVaundyさんには感じます(カバー曲に象徴的なように、藤井風さんはどの曲を歌っても藤井風さん色がくっきり出るのに対して、Vaundyさんはオリジナル楽曲があってこその作家性だと思います)。最近の若いアーティストの才能は本当に凄いです。世界的にも十分通用すると思いますので、今後も期待したいです。


■映画
50 オーロラの彼方へ/監督 グレゴリー・ホブリット

 観てから知ったのですが、先日このブログでも書いた「劇場版シグナル 長期未解決事件捜査班」の元ネタとなった韓国ドラマのさらに元ネタではないかと噂されている作品だそうです(そういえば、先週観た「東京リベンジャーズ」とも少し似ています)。「シグナル」と同様に過去と声でつながる(この作品では昔懐かしい「ハム」で親子がつながります)タイムパラドックスものです。「シグナル」が政府の陰謀や巨悪と戦う警察という方向に展開するのに対し、本作は親子の愛情や自分の職業に対する誇りの方がテーマになっている点がアメリカっぽいです。また、タイムパラドックスものにありがちなご都合主義的な展開を、取り繕うことなく自信満々に描いている点もハリウッド的です(そういう意味では、「東京リベンジャーズ」はタイムリープ時の細かいルール設定など、実は繊細な配慮が施されていることに気づきました)。ラストシーンの過去と現在のシンクロ具合などは、出来過ぎで思わず笑っちゃいます。頭を空っぽにして、気楽に観られるエンターテイメント作品です。

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マイホーム山谷

2022-08-20 08:08:50 | Weblog
■本
67 外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント/山口 周
68 マイホーム山谷/末並 俊司

67 引き続き山口周さんの本を。豊富な知識から導き出されるロジカルかつエモーショナルな文章が、読んでいて心地よいです。この本はタイトル通りプロジェクトマネジメントに必要なノウハウを教えてくれる本ですが、冒頭から「『勝てるプロジェクト』を見極めることが成功の最初のポイント」や「プロジェクトの成否の半分は『人選』で決まる」、などとおっしゃるなど、徹底的にリアリスティックな視点で貫かれている点が印象的です。クライアントのプロジェクトに対する「期待値コントロール」は常に私も意識してきたのですが、「関係者の期待値より高い結果に終われば『成功』であり、関係者の期待値より低い結果に終われば『失敗』」である点が、「芸術におけるプロジェクトとビジネスにおけるプロジェクトの最大の違い」であるので、「芸術のように『最高のもの』を目指す必要がない」、というように明文化していただくと勇気が出てきました。「聞くことでモチベーションを高める」ということも意識してきたので、その必要性を確認できてうれしかったです。メンバーが悩みごとを相談しやすくするために、リーダーは「いつも上機嫌でいる」べし、というアドバイスには反省しきりです。プロジェクトに留まらない、大規模組織の運営やリーダーシップについても学べる良い本です。

68 各種書評で評判がよかったのと、学生時代に山谷にボランティアに通っていた後輩がいたのを思い出して読みました。 山田洋次監督の「おとうと」という映画で、笑福亭鶴瓶さんが演じるおとうとが最期を過ごしたホスピスのモデルにもなった「きぼうのいえ」を立ち上げながら、後日、介護される側の立場となった、山本雅基さんを取り上げたノンフィクションです。もちろん、山本さんの波乱万丈の半生が抜群に興味深いのですが、それだけでなく、日本の福祉に対する問題提起や山本さんが患っている神経疾患のケーススタディとしても読める奥の深い本です。介護する側の山本さんが介護される側になったことや、ホームレス等の課題が多い山谷であるが故に、志の高いボランティアが集まり手厚い支援体制が可能となっている(なので、この山谷のモデルが他地域でも実現可能かは不明)ことなど、逆説に満ちた現実の描写が本質を突いている気がします。筆者の末並さんの当初の動機(介護の末亡くした両親の死を克服するためのヒントをもらえるのでは、という期待を持って山本さんに接触されました)から、全く違った方向に取材活動が展開することや、山本さんとその元妻とのドラマティックな出会いから別れの経緯など、人生とはつくづく思うようにはいかないものであるということも肌感覚で再確認できます。福祉に限らずあらゆる社会課題の解決には、山本さんが0から「きぼうのいえ」を立ち上げたときのような情熱がとても貴重であることと、情熱だけではその組織を維持できず、それが故に持続可能なように制度化することの大切さ、についても考えさせられます。個人の情熱とシステム化のバランスが大切なのだと思います。人間に対する理解が進んだような、謎がより一層深まったような、これまた相反する気持ちになる、不思議な魅力にあふれた本です。


■映画
47 東京リベンジャーズ/監督 英 勉
48 ミナリ/監督 リー・アイザック・チョン
49 えんとつ町のプペル/監督  廣田 裕介

47 連載中人気漫画の実写映画化ということで心配していたのですが、予想以上に面白かったです。原作を読んでいないので何とも言えませんが、完結していない原作漫画の映画化作品でかつ、タイムリープものにありがちな取って付けたような結末ではなく(そういう意味では映画版の「僕だけがいない街」は残念でした)、続編の予感をたっぷり残しつつも、単独の作品としても成立している点に好感を持ちました。こちらは原作漫画の功績だと思いますが、ヤンキー漫画定番の男同士の濃密な友情と、男にとって都合がよすぎる理想の恋人の要素を残しつつも、格差社会の閉塞感とそれを打破し得る希望を描きつつ、タイムリープものの細かい伏線回収も楽しめる点も今風だと思いました。一見ありがちなストーリーではありますが、これまでの同種の作品をよく研究して進化させた練り込まれた展開だと思います。北村匠海さんはあまり好きな役者さんではありませんが、彼も含めた俳優陣もそつのない演技をされていたと思います。続編も楽しみです。

48 アメリカに移民した韓国人家族を描いた地味な作品にもかかわらず、外国語作品ではなくアメリカ映画として、アカデミー賞主要6部門にノミネートされる(しかも助演女優賞を受賞)など、高い評価を受けたのがずっと不思議だったので観ました。高評価の要因としては、往年の西部劇のように家族愛と移民の苦労を描き切った点にあると思いました。その上で、西部劇のような大味な感情表現ではなく、アジア人ならではの家族関係、夫婦関係の繊細さが表現されている点が、アメリカ人には新鮮に映ったような気もしました。一方で、日本映画にありがちなジメっとした関係ではなく、意外とカラッとした関係である点もアメリカ人に理解しやすかったのだと思います(夫婦間も母子間も祖母と孫の間でも結構言いたい放題言って喧嘩しています)。もちろん、その評価の背景には計算されたストーリーと巧みな演技があることは言うまでもありません。「パラサイト」のようなどんでん返しや、「格差」といったキャッチーなテーマ設定もありませんが、それでも、ここまでアメリカ社会に受け入れられる作品を作れる点に、韓国エンターテイメント業界の底力を感じました。派手さがない故に、かえってそのクオリティの高さが感じられるタイプの恐ろしい作品です。

49 いろいろと事前情報が多過ぎて期待値が低かったためか、意外と面白かったです。「周囲の声に左右されず、自分の信念に従って勇気を持って一歩を踏み出すべし」というのがこの作品のテーマだと思うのですが、そのテーマ自体は共感できます。ただ、そのテーマがわかりやすく、かつ、クドいほど繰り返されている点が少し下品ですし、こども向け作品であったとしても観客を信頼していないような気がしました。相田みつをさんの詩を読んだときのような、身も蓋もないド直球さに少し戸惑ってしまいます。あと、突然背景に歌が流れて、セリフなしでストーリーが展開されるシーンが何度かあるのですが、その挿入歌のクオリティが少し低い気がしました。とはいえ、一から作り込まれた世界観は一定の説得力がありますし、「腐る通貨」などネタ元はあるものの、他の作品ではあまり見られない概念を持ち込んでいる点もユニークだと思いました。作品の世界観としては「JUNK HEAD」と共通する点が多いと個人的には思ったのですが、あちらが個人の内面から湧き出す狂気にも近い表現欲求をそれこそ周囲を気にせずかたちにして人の胸を打った一方で、こちらは、感動させようという意図を持って組織として作品をかたちにしている点が対照的だと思います。どちらがよいかは好みの問題ですし、西野亮廣さんの周囲を巻き込む力は素晴らしいとは思いますが、リンカーンの「一部の人たちを常に、そしてすべての人たちを一時だますことはできるが、すべての人たちを常にだますことはできない。」という言葉の通り、歴史に残るのは「JUNK HEAD」の方だという気がします。
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コーダ あいのうた

2022-08-13 07:43:23 | Weblog
■本
65 ジンセイハ、オンガクデアル/ブレイディみかこ
66 1週間でGoogleアナリティクス4の基礎が学べる本 /窪田 望 、江尻 俊章、他

65 ブレイディみかこさんの2作目のエッセイ集の文庫版です。ブレイディみかこさんが「底辺託児所」と呼んでいた、失業者や低額所得者支援施設に付設された託児所勤務時代のエッセイと映画や音楽のレビューがまとめられた本です。イギリスの失業者や低額所得者が置かれた窮状と支援施設に勤務されている人々の苦難の日々が、再三登場する「人生は一片のクソ」というメッセージに象徴的なように絶望的かつ怒りに満ちたトーンで語られます。そこには「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(この作品はブレイディみかこさんの11作目だそうです)で表現される、希望の要素はほとんどありません。しかし、「ぼくはイエローで~」で成長した姿が描写されている問題児の幼少時代が描かれていて感慨深くもあります。福祉予算が削減される一方で、格差社会は依然として残り、その上たくさんの移民が集まり混沌としたイギリス社会に絶望しつつ、それでも、自分の人生を(たとえクソではあっても)自分で選択できる余地の多いイギリスで暮らす方が、日本で生活するよりも(少なくともブレイディみかこさんにとっては)ましである、というメッセージも全編に貫かれているような気がしていろいろと考えさせられました。映画評では「ザ・ストーン・ローゼズ」のドキュメンタリー映画が観たくなりましたし、音楽評に取り上げられた、ディープなイギリス音楽はその音楽をサブスクで聴きながら楽しみました。ブレイディみかこさんの作家としての矜持と社会に対する怒りが感じられる、エネルギーに満ちた作品です。

66 タイトル通りウエブアクセス解析ツール、Googleアナリティクス4(GA4)について学べる本です。現状のユニバーサルアナリティクス(UA)からの切り替えが来年に迫っているにもかかわらず、ほとんど勉強できていなかったので読みました。GA4が誕生した背景やその特徴(UAとの違い)、そして、実際の画面を見ながらの操作や設定の方法、さらにはGoogleタグマネージャーやGoogleデータポータルといった他プロダクトとの連携まで説明されていてとても参考になります。各章の最後に復習用のおさらい問題が掲載されている点も知識の定着に役立ちます。実際に操作しながらでないとわかりにくい部分もありますが、細かいところまで丁寧に説明してくれている良い入門者だと思います。


■映画
45 馬上の二人/監督 ジョン・フォード
46 コーダ あいのうた/監督 シアン・ヘダー

46 コメディタッチで始まる冒頭シーンの印象から、タイトル通り二人のマッチョな男の友情を描いたお気楽な西部劇かと思って観ていると、話は予想もつかぬシリアスな方向に展開します。コマンチ族に拉致さらた人々を救う話ですが、コマンチ族よりも白人側の非寛容さ、残酷さが強調されている点が、さすが、ジョン・フォード監督、一筋縄ではいきません。コマンチ族に拉致され育てられた少年の悲劇は、人間の罪深さ、浅はかさをこれでもかと突き付けてきます。主人公の保安官のコミカルかつクールな演技が、若干の救いとなりますが、それも全体を流れる重いメッセージを中和するまでには至りません。それだけに、主人公の最後の決断が説得力を持つのですが、完全なカタルシスは得られません。そのもやもやとした感じが作品に深みを与えているとも言え、不思議な味わいの作品です。ジョン・フォード監督の深い人間洞察力が感じられます。

46 今年のアカデミー賞で作品賞等主要3部門を受賞した作品です。少しウェルメイド過ぎるかなとも思いましたが、素直に感動しました。CODA(Children of Deaf Adult/s きこえない・きこえにくい親をもつきこえる子ども)というあまり注目されない存在をテーマにし、課題提起した点も素晴らしいと思いましたが、フランスの映画「エール」のリメイク作品なんですね。そちらも観てみたいと思いました。ネタ元作品の方を観てないので、どこまでが本作のオリジナルなのかはわかりませんが、どのキャラクターもどこか欠陥のある人物として描かれている点が、単純な美談に終わらせない魅力となっています。聴覚障がい者の両親はかなりわがままですが、それだけに、最後に下した決断の重さが尊いです。聴覚障がい者と健常者(とされる人々)との間には、乗り越えがたい壁があるということを、主人公の少女の歌唱シーンで見事に表現した演出にも唸らされました。癖は強いものの実は生徒想いの良い人である音楽教師は、ハリウッド映画で定番のキャラクターですが、ベタであるが故に心が惹かれるものがあります。観る側に安易な善悪の判断を強要しないスタンスも共感を持ちました。なにより、同じ年頃の子を持つ親として、子の旅立ちのシーンには弱いのです。涙腺がかなり刺激された作品でした。
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復活への底力

2022-08-06 06:55:57 | Weblog
■本
62 おかえり横道世之介/吉田 修一
63 復活への底力/出口 治明
64 人間ってなんだ/鴻上 尚史

62 不器用で野心はないが、ひたすら善意に満ちた主人公「横道世之介」を描いた作品の続編です。前作は大学生時代が描かれていましたが、本作は就職活動に失敗してからのフリーター時代が描かれています。私もバブル崩壊直後に就職活動をしていたので、この時代の空気感に戸惑う主人公に共感するところが多かったです。前作は、私も学生時代を過ごした西東京が舞台でしたが、本作は、池袋や小岩が舞台となっているところも、この時代の若者の活動エリアの変遷としてはリアルな気がします(小岩はちょっと特殊かもしれませんが)。2020オリンピック開催中の東京と、舞台が行き来しつつストーリーが展開され、過去と現在との関係性が気になり、一気に読んでしまいました。平凡な横道世之介の人生と比べて、オリンピアンや世界を股にかける社会活動家など、その知人の特殊なキャリアに、前作にも感じた創り物臭さを感じます(私の交友範囲が狭いのかもしれませんが、この本の登場人物のような人生を歩んだ知人は一人もいません)。しかし、そのような個性的な人々に平凡な世之介が与えた好影響に、しみじみとした人生の滋味のようなものを感じて、温かい気持ちになります。とても読みやすく、一種のファンタジーとして読むと楽しめる本だと思います。

63 大好きな出口治明さんの最新作です。ファンであるにもかかわらず、恥ずかしながら、出口さんが脳卒中で倒れられたことを知りませんでした。この本は、脳卒中の後遺症で右半身の麻痺と失語症が残った出口さんが、リハビリ生活の末に立命館アジア太平洋大学(APU)の学長として復帰されるまでの様子が描かれた本です。まず、私はリハビリ生活についてほとんど知らなかったので、リハビリ専門病院への入院期間が最大6か月程度ということなど(本人の希望や資金的な余裕があれば、治るまで入院できるものと思ってました)、その実態について知ることができてとても有益でした。また、失語症の具体的なリハビリについても知ることができ、そもそも「言語聴覚士」という職種すら知らなかったので参考になりました。そして、何より、出口さんの全てを受け入れつつも、強い意志を持って復帰に向けて最善の行動を取り続ける姿勢に感銘を受けました。偶然が支配するこの世界で、「人間にできるのは適応だけ」という達観した姿勢から学ぶところが多かったです。このようなリハビリ生活の描写の合間に、出口さんお得意の歴史的なうんちくやビジネスで役に立つ視点、そして、APUの紹介も巧みに盛り込まれて、いろいろな側面で学びの多い素晴らしい本です。「知識は力なり」を常に実践されている姿勢を見習いたいです。

64 鴻上尚史さんの長期連載エッセイ「ドン・キホーテのピアス」からテーマ別に再編集された本の一作目だそうです。本作はタイトル通り「人間ってなんだ」をテーマにしたエッセイが収録されています。リラックスされた文体で普通に読み物として面白いですし、同じテーマのエッセイを続けて読むことで、鴻上さんの人間観のようなものが浮かび上がってきて、ファンとしては興味深い内容です。鴻上さんの文章でおなじみの、「エンパシー」や「身体と精神の関係」だけでなく、あまり普段触れられることの少ない「性」(「恋愛」については多く取り上げられていますが)をテーマにしたエッセイがまとめて収録されている点が特に印象的でした。「完璧な人間や道徳的に正しい人間、やましさが何もない人間などは、そもそも存在しないと考えるのが芸術だったり芸能の基本」という言葉が心に染みました。そして、何よりこのレベルのエッセイを27年間で1200本以上量産されてきたという事実に驚愕します。


■映画
44 無法松の一生/監督 稲垣 浩

 1943年の作品ですが、カメラワークが斬新で、今観ても全く色褪せません。エピソードを淡々と時系列で連ねる構成も効果的です。主演の阪東妻三郎さん(田村正和さんのお父様)が、粗暴な人間の愚直さ、義理堅さを嫌みなく演じられていて、誰もが共感できる内容です。コミカルさとセンチメンタルさとのバランスも絶妙です。あまり使いたくない言葉ですが、「古き良き日本人」を巧みに描いた作品です(横道世之介と少し通じるところがあります)。この当時でも、こういう人物が最近は少なくなったと言われているのも、人間の過去を美化しがちな習性を表していて興味深いです。シンプルに総合的なクオリティの高い傑作だと思います。内務省やGHQの検閲/修正をいろいろと受けているようですが、こういう作品が戦前に作られていたという事実は素直に誇りたいです。
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