本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

一人称単数

2020-07-25 07:24:51 | Weblog
■本
67 一人称単数/村上 春樹
68 詐欺の帝王/溝口 敦

67 実験的な作品から、これぞ村上春樹という作品まで、バラエティに富んだ短編小説集で楽しい読書体験でした。逆に言うと、あまりに期待通りで、よくも悪くも予想以上の驚きはなかったので、そのあたりは辛口な方々の評価はあまり高くないかもしれません。個人的には、「ウィズ・ザ・ビートルズ」と「謝肉祭」という作品が好きです。「ウィズ・ザ・ビートルズ」は「青春の終わり」をテーマにした、いかにも村上春樹さんっぽい話ですが、かつての恋人の少し個性的なお兄さんとの再会を通じて、その失われた青春時代を振り返る描写が描かれている点が、すっかり中年となった私にとっても沁みました。「謝肉祭」は女性の容姿の醜さ(とその反面の内面の奥深さ)を正面から描いたチャレンジングな作品です。中年になってから知り合ったメインの登場人物の容姿だけでなく、学生時代に一度だけデートをした「容姿の優れない女の子」とのエピソードを交えることにより、見る側の性としての男性の傲慢さと、それでも、過ぎ去ったささやかな出来事が人に与える影響の深さを合わせて描写することにより、読む側に妙な引っ掛かりを残します。その他の作品も、「チャーリー・パーカー」や「ヤクルト・スワローズ」といった、村上さんが好きなものを取り上げた作品が多く、楽しんでこの作品集を書かれたことが伝わってきて、ファンとしてはうれしい気持ちになりました。

68 オレオレ詐欺の内幕を描いたノンフィクション作品です。オレオレ詐欺の帝王と言われながら、逮捕されないまま足を洗った人物をテーマにしている以上、仕方のない面はありますが、人物描写がぼんやりとしていて、フィクションのような印象も受けます。その分、逮捕されるなど公になった人物で細かく補足しているのですが、所詮脇役なのでその描写がくどく感じます。それでも、事実かどうかを無視した読み物として割り切ればシンプルに面白いです。オレオレ詐欺集団が、大学のイベントサークル(この詐欺の帝王はその後大手広告代理店で働いていたこともあるそうです)やヤミ金を起源にしているという話は説得力がありました。自分自身が金持ちになってモテたいという強い欲望を持ち、他人のそのような欲望にも敏感で行動力と度胸のある人々が、詐欺という仕事で莫大な利益を上げていく姿が描かれています。一方で、違法に入手したお金なので、金融機関に預けることもできず、その莫大なお金の扱いに困り、不自由な生活を強いられる皮肉も興味深いです。新規顧客よりもリピーターを重視するという詐欺師側の合理性を考えると、我々は失敗から学ぶ姿勢をもう少し持つ必要がありそうです。


■映画 
62 荒野のストレンジャー/監督 クリント・イーストウッド
63 鷹の爪8 〜吉田くんのX(バッテン)ファイル〜/監督 FROGMAN

62 一見普通の西部劇の復讐ものですが、さすが、クリント・イーストウッド監督作品だけあって、シニカルな捻りが効いています。北野武監督作品を思わせる衝動的な暴力や性的描写は賛否が分かれると思いますが、西部劇のフォーマットに安易に乗っからない姿勢は評価できると思います。荒削りですが、オカルトやサスペンス的要素もこの作品に絶妙の独自性を与えています。クリント・イーストウッド演じる主人公も含め、共感できる人物は一人も登場しませんが、それでもこの作品のチャレンジングな姿勢は個人的には好ましく感じました。傑作では決してありませんが、クリント・イーストウッドの掴みどころのなさを体感できる興味深い作品です。

63 一時、FROGMAN作品にはまっていましたが、バカボンやDCスーパーヒーローズなどのコラボ作品に嫌な予感がしたので、最近は遠ざかっていました。久しぶりに調べてみたら、結構、劇場版作品も公開されていたようなので、比較的新しいこの作品を観ました。まず、コロコロコミック系の雑誌に連載されていたということにびっくりしました。言われてみれば、少年時代の吉田くんが、宇宙人などの不思議現象を解明していくという話は、いかにも子ども受けしそうです。この映画は、タイトル通りXファイルのパロディで、様々な怪奇現象によるピンチを吉田くんとその仲間が力業で解決していきます。吉田くんの少年時代が舞台なので、総統やレオナルド博士といったおなじみのキャラクターがあまり出てこないのは少し寂しいですが、それでもお約束のギャグ(特にスマホがコンドルに盗まれる下りは何度見ても爆笑ものです)が随所に入っていて、楽しめました。ほっこりとするエンディングも含め、安定感抜群の作品です。また、はまってしまいそうです。
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東京百景

2020-07-18 07:11:26 | Weblog
■本
65 今こそ企業内起業で経営者になる/白波瀬 章
66 東京百景 /又吉 直樹

65  NTTの若手時代に新規事業を立ち上げ子会社化し、後にその会社の社長になった方による企業内起業について書かれた本です。ご本人の経験をもとに書かれているので、あまりなじみのない企業内起業のプロセスが具体的にイメージできます。どの会社もイノベーションや新規事業が求められている昨今、大企業のリソースを活用しつつ、個人の熱い思いを実現された姿は参考になる点も多いと思います。いわゆる、ベンチャー経営者の本と比べると、資金繰りの問題などの波乱万丈の浮き沈みがさほどない代わりに、大組織の中での立ち回りの難しさなど地に足のついた議論が多いので、かえってリアルに感じます。また、やはり、インターネット黎明期は起業においては絶好のタイミングだったということも改めて感じました。もちろん、この本の筆者のようにそのタイミングを掴んで実際に行動された方々は偉大だと思います。

66 東京のさまざまな町をテーマにした、ピース又吉さんのエッセイ集です。オーソドックスなエッセイだけでなく、シュールなものやコント風なもの、さらには私小説っぽいものまで(又吉さんの小説「劇場」そのままのエピソードも収録されています)、玉石混交のごった煮的な内容が魅力的で、又吉さんの作家としての引き出しの多さを堪能できます。個人的に学生時代や社会人の一時期に東京西部に住んでいたので、立川が「東京の真ん中」であるというエピソードや、田無タワー、江戸東京たてもの園の描写を読んで懐かしく感じました。文庫用に書き下ろされた、相方綾部さんにまつわるエッセイは(本編には綾部さんはほとんど登場しません)、ピースというコンビの不思議な関係性がコント上でも表現されていたこと、そして、綾部さんの米国進出にあたっての又吉さんのクールかつ熱い思いが伝わってきて興味深かったです。東京で生きにくさを感じつつ頑張っている人にお勧めの本です。


■映画 
59 オーシャンズ8/監督 ゲイリー・ロス
60 女と男の観覧車/監督 ウディ・アレン
61 セブン・サイコパス/監督 マーティン・マクドナー

59 シリーズ4作目、しかも、男性中心のこれまでの3作から女性キャストのみへと一新された作品ということもあって、さほど期待していなかったのですが、意外と面白かったです。犯罪映画にしては、ハラハラドキドキする要素はほとんどありませんが、サンドラ・ブロック、ケイト・ブランシェット、アン・ハサウェイといったオスカー女優が、B級っぽい作品で楽しそうに演じている姿を観ていると微笑ましい気持ちになりました。サンドラ・ブロックはよくも悪くもいつも通りの演技なのに対し、ケイト・ブランシェットはいつも以上にクールで格好良く、アン・ハサウェイは若干下品な感じでイメージを壊そうとしているなど、それぞれの大女優のアプローチの違いも興味深かったです。気楽に楽しめるエンターテイメント作品です。

60 最近最新作が日本でも公開されたウディ・アレンのその一つ前の作品です。スタイリッシュかつ神経症的で、かすかな温かさを感じさせるコメディが多い印象のウディ・アレンですが、本作は正統派の悲劇となっています。「インテリア」や「ブルージャスミン」など、時には救いのない作品を撮りたくなるようです。この作品は「ブルー・ジャスミン」ほどの深みはありませんが、人生の不条理さがベタなほどあからさまに描かれていて、いたたまれない気持になります。主演のケイト・ウィンスレットは、もはや「タイタニック」のヒロインの面影が全くなく、生活に疲れて過去の過ちについての後悔を秘めつつ、それでも女性として愛されたいという強い願望を持つ中年女性を好演しています。主人公の境遇を象徴した、1950年代のコニー・アイランドの遊園地(特に観覧車)の寂れつつある風景描写が、まさにウディ・アレンっぽくて心憎いです。過去のセクハラスキャンダルで最新作のアメリカでの公開が見送られるなど、ウディ・アレン自身が厳しい時を過ごされているようですが、是非、今後も作品を発表し続けて欲しいです。

61 「スリー・ビルボード」がこの10年に観たベストの映画なので、同じ監督の過去の作品を観ました。「スリー・ビルボード」と同様に、衝動的に行動し過ぎる登場人物(まさに「サイコパス」)が、それでも、彼らなりの奇妙な倫理観に従っている様子が、コミカルかつ暴力的に描かれています。ただ、その「彼らなりの奇妙な倫理観」があまり共感できるものではなかったところと、ストーリーのバックボーンが弱い(あまりにもぶっ飛び過ぎて現実感がなさすぎます)ところが、大傑作の「スリー・ビルボード」と比べると不満点です。それでも、タランティーノ作品ばりの躊躇のないバイオレンス(あっけなく人が死にまくります)と破天荒なストーリーでも夢や想像落ちにしない潔さは好感が持てました。逆に言うと、この作品の欠点を完全に解消した上での「スリー・ビルボード」なわけで、この監督の才能と修正力の高さに驚愕します。
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T2 トレインスポッティング

2020-07-11 07:16:59 | Weblog
■本
63 ネットビジネス進化論/尾原 和啓
64 2025年のデジタル資本主義/田中 道昭

63 尾原さんが昨年共著として出版された「アフターデジタル」の内容にとても刺激を受けたので、同じくネットビジネスをテーマにしたこの本を読みました。インターネットの本質の一つを「情報や物を小分けにして、離れていたものをつなげること」と定義し、そのつなげる場所や対象によって、ネットビジネスの進化構造を6つに場合分けして説明してくれます。正直、その6つの分類が正しいのかはよく理解できませんでしたが、GAFAMやBATの成功の背景にある原理原則や、その成功までの過程がわかりやすく説明されているので参考になります。特に、利用者が「やりたいことがすぐにできる」ことそのものに価値がある(Googleは調べたいことがすぐにわかる、Amazonは買いたいものがすぐに買える、など)という点を、「フリクションレス」や「なめらかな世界」など、言葉を変えて何度も強調されている点が印象的でした。また、シェアリングエコノミーだけではなく、ブロックチェーンも「有限資産を小分けして使う」(正確には有限資産の信用管理を簡単にすることにより、取引の頻度を上げ所有権の移転速度を上げる)ことに寄与する技術であるという説明は、なぜ、これほどブロックチェーンという技術への関心が高まっているのかを理解する上で、最も腹落ちする説明で感心しました。今、ネットビジネスで何が起こっているのかを理解する上ではとても有益な本だと思います。

64 同じくデジタル社会をテーマにした本を。ポストコロナの環境について分析された、田中さんの講演を聞いて興味をもったので読みました。ビジネスそのものよりも、その背後にある社会や経済のあり方、人々の価値観に焦点が当てられている点が特徴的です。特に、GDPRやCCPAといった欧米のプライバシー保護に関するさまざまな規制やその要点について、わかりやすく説明されているところ(何が明確に規定されていて、何が玉虫色なのかも含めて)が参考になりました。また、そのような規制が強化される中で、企業が個人情報活用に際して適切に同意を取るための「コンテンツマネジメント」という考え方や、「広告料をユーザーとシェアする」仕組みを構築した「ブレイブ」というブラウザが紹介されている箇所が抜群に面白かったです。逆に言うと、それ以外のパートはさほど目新しい情報はないので、タイトルの「2025年のデジタル資本主義」という大きな観点よりも、副題にある「『データの時代』から『プライバシーの時代』へ」の変遷についての、問題提起がなされている本として読む方が、得られるものが多いと思います。

■映画 
57 今夜、ロマンス劇場で/監督 武内英樹
58  T2 トレインスポッティング /監督 ダニー・ボイル

57 映画のフィクションの登場人物が現実世界に飛び出して、リアルの住人と恋に落ちるというお話です。ウディ・アレンの「カイロの紫のバラ」という同じモチーフの名作があるのにと、若干冷ややかに観ていましたし、実際途中までは陳腐なメロドラマだったのですが、最後の最後に予想外の結末となり、不思議な存在感を発する作品となっています。主演の綾瀬はるかさんは、さすがの圧倒的な存在感ですし、共演の坂口健太郎さんも、星野源さんがこの役を演じたらもっとよかったのでは、と思わなくもないですが、好感の持てる演技です。ありがちな企画もの映画っぽくて、ツッコミどころも多いのですが、見るべきところも多い作品だと思います。

58 1996年に公開された1作目は、スタイリッシュかつグロい映像と、ハイテンションな楽曲(当時サントラも買いました)が大好きでした。本作は2017年に公開された、20年以上たってからのまさかの続編です。登場人物と同じアラフィフの身としては、その過ぎ去った月日の重さと、その一方での進歩のなさが身につまされて、痛すぎる作品でした。さすがに、1作目の内容はほとんど覚えていないかったのですが、この作品を観ている間に徐々に記憶が蘇ってきて、まるで旧友と再会して過去の思い出話をしているような気持ちにもなりました。ストーリーの方は、相変わらずのドラッグと暴力、そして、裏切りに満ちた内容です。殺し合いに近いこともやっているのですが、地元の仲間がじゃれ合っているかのような、奇妙な温かみも感じられます。人間のどうしようもなさを肯定も否定もしない、適度な距離感が痛くもあり心地よいです。一緒に成長はしていないものの、時間を共有してきたという同志のような安心感がある作品でした。
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大河の一滴

2020-07-04 08:07:18 | Weblog
■本
61 大河の一滴/五木 寛之
62 百年の散歩/多和田 葉子

61 1998年に出版された本ですが、新型コロナの影響を受けた現在の状況を予言したかのような本ということで、最近再評価されているのと、先日読んだ斎藤美奈子さんの「趣味は読書。」という本の冒頭で、ベストセラーの例としてシニカルに取り上げられていたので読んでみました。若干上から目線の文体は読む人を選ぶかもしれませんが、書かれている内容は、安易な二元論に陥ることを諫め、寛容をすすめるなど、とても腹落ちするものです。何より、病原菌やウイルスに関する見解の的確さは、作家としての想像力の強さの賜物だと思います。ポジティブシンキングよりもネガティブシンキングに価値を置いているところも今風ですし、私の考えにも近いです。バブル崩壊後の元気がなくなりつつあった社会状況下で、この本の出版を勧められベストセラーにした、幻冬舎創業者の見城さんの時代を読む力もさすがです。斎藤美奈子さんがおっしゃる通り、いろいろな宗教の教えの焼き直しの部分も多く、個人的にはいろいろなマーケティングに長けた人の思惑の掌の上で踊らされている感じがして、薄気味の悪さを感じないこともないですが、先の見えない世の中で、それでも踏ん張って生きるための一つの知恵としては知っておいてもよい内容だと思います。読みやすく、わかりやすいですし。

62 日本以上に海外で評価されている作家ということでいつか読んでみたいと思っていました。また、尊敬している先輩から、ベルリンが今熱いという話を聞いていたので良い機会と思い、ベルリンのさまざまな「通り」について描かれているこの本を手に取りました。世の中には、どんな良い本でも合うものと合わないものがあると思いますが、この本は私にとって典型的に「合わない」本でした。読み始めてから半年以上たつのですが、同じ個所で堂々巡りを繰り返して、読み進めるのにかなり苦労しました。決して読む価値のない本ではなく、途中で投げ出すのも嫌だったので、理解することを放棄して、自由な言葉遊びや、空想と現実が行ったり来たりするシュールな展開に身を委ねると、スイスイと読み進めることができてなんとか読了できました。独特の文体や言葉の選択に感心した気もするのですが、振り返っても何が書かれていたのかほとんど記憶に残っていません。読書のプロセス自体を楽しむタイプの本なのかもしれません。


■映画 
56 サンダーボルト/監督 マイケル・チミノ

 引き続き、クリント・イーストウッド関連の作品を。偶然出会った歳の離れた男たちの友情を描く、クライム・ロード・ムービーです。かなり好みのジャンルなので、楽しく観させていただきました。アメリカ中西部の雄大な自然も魅力的です。クリント・イーストウッドは、少し頭の切れる、腹の座ったクールな男を相変わらずの自然体で演じています。若き相棒を演じるジェフ・ブリッジスも、後に、アカデミー賞常連俳優になるだけあって、そつなく与えられた役割を果たしています。「ディア・ハンター」や「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」のマイケル・チミノ監督作にしては、デビュー作のためか癖が少なめで、中途半端です。「真夜中のカーボーイ」や「スケアクロウ」といった当時一世を風靡していたアメリカン・ニューシネマの名作にかなり影響を受けている印象で、唐突なエンディングも含め、プロデューサーの要望に新人監督のマイケル・チミノが翻弄されていたのかもしれません。そもそも、クリント・イーストウッドにアメリカン・ニューシネマ的な繊細な演技を求めることが間違いです。シンプルなクライム・エンターテイメントに仕上げていたらもっと楽しめたと思うので、好きなジャンルだけに少し残念でした。
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