■本
67 一人称単数/村上 春樹
68 詐欺の帝王/溝口 敦
67 実験的な作品から、これぞ村上春樹という作品まで、バラエティに富んだ短編小説集で楽しい読書体験でした。逆に言うと、あまりに期待通りで、よくも悪くも予想以上の驚きはなかったので、そのあたりは辛口な方々の評価はあまり高くないかもしれません。個人的には、「ウィズ・ザ・ビートルズ」と「謝肉祭」という作品が好きです。「ウィズ・ザ・ビートルズ」は「青春の終わり」をテーマにした、いかにも村上春樹さんっぽい話ですが、かつての恋人の少し個性的なお兄さんとの再会を通じて、その失われた青春時代を振り返る描写が描かれている点が、すっかり中年となった私にとっても沁みました。「謝肉祭」は女性の容姿の醜さ(とその反面の内面の奥深さ)を正面から描いたチャレンジングな作品です。中年になってから知り合ったメインの登場人物の容姿だけでなく、学生時代に一度だけデートをした「容姿の優れない女の子」とのエピソードを交えることにより、見る側の性としての男性の傲慢さと、それでも、過ぎ去ったささやかな出来事が人に与える影響の深さを合わせて描写することにより、読む側に妙な引っ掛かりを残します。その他の作品も、「チャーリー・パーカー」や「ヤクルト・スワローズ」といった、村上さんが好きなものを取り上げた作品が多く、楽しんでこの作品集を書かれたことが伝わってきて、ファンとしてはうれしい気持ちになりました。
68 オレオレ詐欺の内幕を描いたノンフィクション作品です。オレオレ詐欺の帝王と言われながら、逮捕されないまま足を洗った人物をテーマにしている以上、仕方のない面はありますが、人物描写がぼんやりとしていて、フィクションのような印象も受けます。その分、逮捕されるなど公になった人物で細かく補足しているのですが、所詮脇役なのでその描写がくどく感じます。それでも、事実かどうかを無視した読み物として割り切ればシンプルに面白いです。オレオレ詐欺集団が、大学のイベントサークル(この詐欺の帝王はその後大手広告代理店で働いていたこともあるそうです)やヤミ金を起源にしているという話は説得力がありました。自分自身が金持ちになってモテたいという強い欲望を持ち、他人のそのような欲望にも敏感で行動力と度胸のある人々が、詐欺という仕事で莫大な利益を上げていく姿が描かれています。一方で、違法に入手したお金なので、金融機関に預けることもできず、その莫大なお金の扱いに困り、不自由な生活を強いられる皮肉も興味深いです。新規顧客よりもリピーターを重視するという詐欺師側の合理性を考えると、我々は失敗から学ぶ姿勢をもう少し持つ必要がありそうです。
■映画
62 荒野のストレンジャー/監督 クリント・イーストウッド
63 鷹の爪8 〜吉田くんのX(バッテン)ファイル〜/監督 FROGMAN
62 一見普通の西部劇の復讐ものですが、さすが、クリント・イーストウッド監督作品だけあって、シニカルな捻りが効いています。北野武監督作品を思わせる衝動的な暴力や性的描写は賛否が分かれると思いますが、西部劇のフォーマットに安易に乗っからない姿勢は評価できると思います。荒削りですが、オカルトやサスペンス的要素もこの作品に絶妙の独自性を与えています。クリント・イーストウッド演じる主人公も含め、共感できる人物は一人も登場しませんが、それでもこの作品のチャレンジングな姿勢は個人的には好ましく感じました。傑作では決してありませんが、クリント・イーストウッドの掴みどころのなさを体感できる興味深い作品です。
63 一時、FROGMAN作品にはまっていましたが、バカボンやDCスーパーヒーローズなどのコラボ作品に嫌な予感がしたので、最近は遠ざかっていました。久しぶりに調べてみたら、結構、劇場版作品も公開されていたようなので、比較的新しいこの作品を観ました。まず、コロコロコミック系の雑誌に連載されていたということにびっくりしました。言われてみれば、少年時代の吉田くんが、宇宙人などの不思議現象を解明していくという話は、いかにも子ども受けしそうです。この映画は、タイトル通りXファイルのパロディで、様々な怪奇現象によるピンチを吉田くんとその仲間が力業で解決していきます。吉田くんの少年時代が舞台なので、総統やレオナルド博士といったおなじみのキャラクターがあまり出てこないのは少し寂しいですが、それでもお約束のギャグ(特にスマホがコンドルに盗まれる下りは何度見ても爆笑ものです)が随所に入っていて、楽しめました。ほっこりとするエンディングも含め、安定感抜群の作品です。また、はまってしまいそうです。
67 一人称単数/村上 春樹
68 詐欺の帝王/溝口 敦
67 実験的な作品から、これぞ村上春樹という作品まで、バラエティに富んだ短編小説集で楽しい読書体験でした。逆に言うと、あまりに期待通りで、よくも悪くも予想以上の驚きはなかったので、そのあたりは辛口な方々の評価はあまり高くないかもしれません。個人的には、「ウィズ・ザ・ビートルズ」と「謝肉祭」という作品が好きです。「ウィズ・ザ・ビートルズ」は「青春の終わり」をテーマにした、いかにも村上春樹さんっぽい話ですが、かつての恋人の少し個性的なお兄さんとの再会を通じて、その失われた青春時代を振り返る描写が描かれている点が、すっかり中年となった私にとっても沁みました。「謝肉祭」は女性の容姿の醜さ(とその反面の内面の奥深さ)を正面から描いたチャレンジングな作品です。中年になってから知り合ったメインの登場人物の容姿だけでなく、学生時代に一度だけデートをした「容姿の優れない女の子」とのエピソードを交えることにより、見る側の性としての男性の傲慢さと、それでも、過ぎ去ったささやかな出来事が人に与える影響の深さを合わせて描写することにより、読む側に妙な引っ掛かりを残します。その他の作品も、「チャーリー・パーカー」や「ヤクルト・スワローズ」といった、村上さんが好きなものを取り上げた作品が多く、楽しんでこの作品集を書かれたことが伝わってきて、ファンとしてはうれしい気持ちになりました。
68 オレオレ詐欺の内幕を描いたノンフィクション作品です。オレオレ詐欺の帝王と言われながら、逮捕されないまま足を洗った人物をテーマにしている以上、仕方のない面はありますが、人物描写がぼんやりとしていて、フィクションのような印象も受けます。その分、逮捕されるなど公になった人物で細かく補足しているのですが、所詮脇役なのでその描写がくどく感じます。それでも、事実かどうかを無視した読み物として割り切ればシンプルに面白いです。オレオレ詐欺集団が、大学のイベントサークル(この詐欺の帝王はその後大手広告代理店で働いていたこともあるそうです)やヤミ金を起源にしているという話は説得力がありました。自分自身が金持ちになってモテたいという強い欲望を持ち、他人のそのような欲望にも敏感で行動力と度胸のある人々が、詐欺という仕事で莫大な利益を上げていく姿が描かれています。一方で、違法に入手したお金なので、金融機関に預けることもできず、その莫大なお金の扱いに困り、不自由な生活を強いられる皮肉も興味深いです。新規顧客よりもリピーターを重視するという詐欺師側の合理性を考えると、我々は失敗から学ぶ姿勢をもう少し持つ必要がありそうです。
■映画
62 荒野のストレンジャー/監督 クリント・イーストウッド
63 鷹の爪8 〜吉田くんのX(バッテン)ファイル〜/監督 FROGMAN
62 一見普通の西部劇の復讐ものですが、さすが、クリント・イーストウッド監督作品だけあって、シニカルな捻りが効いています。北野武監督作品を思わせる衝動的な暴力や性的描写は賛否が分かれると思いますが、西部劇のフォーマットに安易に乗っからない姿勢は評価できると思います。荒削りですが、オカルトやサスペンス的要素もこの作品に絶妙の独自性を与えています。クリント・イーストウッド演じる主人公も含め、共感できる人物は一人も登場しませんが、それでもこの作品のチャレンジングな姿勢は個人的には好ましく感じました。傑作では決してありませんが、クリント・イーストウッドの掴みどころのなさを体感できる興味深い作品です。
63 一時、FROGMAN作品にはまっていましたが、バカボンやDCスーパーヒーローズなどのコラボ作品に嫌な予感がしたので、最近は遠ざかっていました。久しぶりに調べてみたら、結構、劇場版作品も公開されていたようなので、比較的新しいこの作品を観ました。まず、コロコロコミック系の雑誌に連載されていたということにびっくりしました。言われてみれば、少年時代の吉田くんが、宇宙人などの不思議現象を解明していくという話は、いかにも子ども受けしそうです。この映画は、タイトル通りXファイルのパロディで、様々な怪奇現象によるピンチを吉田くんとその仲間が力業で解決していきます。吉田くんの少年時代が舞台なので、総統やレオナルド博士といったおなじみのキャラクターがあまり出てこないのは少し寂しいですが、それでもお約束のギャグ(特にスマホがコンドルに盗まれる下りは何度見ても爆笑ものです)が随所に入っていて、楽しめました。ほっこりとするエンディングも含め、安定感抜群の作品です。また、はまってしまいそうです。