本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

NHK 100分 de 名著 ブルデュー「ディスタンクシオン」

2021-04-24 06:08:03 | Weblog
■本
32 NHK 100分 de 名著 ブルデュー「ディスタンクシオン」/岸 政彦
33 阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし/阿佐ヶ谷姉妹

32 学生時代にブルデューの「再生産」を読もうとして1ページ目で挫折したトラウマがあるのと、以前に読んだ岸政彦さんの「断片的なものの社会学」に感銘を受けたので読みました。岸さんの具体的でわかりやすい説明のおかげで、「ハビトゥス」(評価や行動の傾向性)や「界」(芸術などのものごとを評価する場や言論空間)といったブルデュー独特の言葉を少しは理解できた気がしました。また、岸さんが例示される映画監督やミュージシャンの選択がツボでした(これも岸さんと私の「ハビトゥス」が比較的近いためなのだと僭越ながら理解しました)。私自身が高校、大学と進学するにつれて、小中学校ではほとんど通じなかった音楽や映画の話を気楽に交わせる友人が増え、とても楽しくなった半面、地方で自営業を営む家の子だったこともあり、一流企業に勤められている親を持つ人たちとは決定的な差があるということに気づくことも多かったので、この本で説明されている「文化資本」(子どものときからの文化的な蓄積が資本のように長期的な利得として機能すること)の説明はとても腹落ちする内容でした。また、「界」などの概念はクラスターやポジショニングといった、マーケティング用語とも非常に近い面もあり、この本の知見はビジネス上でも幅広く応用されていると感じました。そして、ソーシャルメディア上で自分の趣味のよさをアピールすることにより、マウントを取り合う現代社会の構造もこの概念を用いてうまく説明できると思いました。「ディスタンクシオン」でブルデューが試みた、趣味を分析することにより、人々が無意識に作動させる習慣や態度や性向を分析し、我々が自分の好みと思っているものが社会的な構造によって規定されている(従って、我々が自分で選び取ったと思っている趣味や好みは必ずしも自由に選んだものではない)という視点は、とてもユニークで本質的だと思いました。学歴によって好む写真や音楽が異なるという事実を定量的に説明されていたことは衝撃的でした。岸さんの、自分が社会構造で規定された不自由な存在であるという事実を知ることによって、ある種の「解放」を感じるというメッセージにも非常に共感しました。自分の制約を知ることによって、それを知らないときよりも人はより自由になれるのだと思います。また1ページ目で挫折するかもしれませんが、「ディスタンクシオン」もいつか読んでみたいと思いますし、岸さんの著作も読んでいこうと思います。

33 2018年「THE W」王者の阿佐ヶ谷姉妹のエッセイ集です。先週、珍しく仕事が忙しかったので、タイトル通り「のほほん」とリラックスしたいと思い読みました。この本で初めて、お二人が実際に阿佐ヶ谷にお住まいなことと、エリコさんがお姉さんでミホさんが妹の設定であるということを知りました。40代の血のつながらない女性ふたりが6年ほど、六畳一間のアパートで同居していたという事実にまず驚きです。コンビで芸人生活を送ってらっしゃるので、仕事の時間もほぼ一緒にいるでしょうから、いくら仲が良いとはいえ、その濃密な関係性に圧倒されます。あらためて人と人とのかかわり方はそれぞれだと思いました。同居生活後半にミホさんが「エリコ過多」とおっしゃって別居を模索されるのにも納得です。偶然隣の部屋に空きが出てそこにエリコさんが住み、別居が解消されるというフィクションのような奇跡的な展開でエッセイが終わるところも素敵です。もともとエリコさんが住んでいたアパートにミホさんが転がり込んできたにもかかわらず、もちろんお二人の話し合いの結果ではありますが、エリコさんの方が出て行かれるところに、ふたりの関係性が垣間見られる気がしました。途中でおふたりがそれぞれ書かれた短編恋愛小説が挿入されているのですが、その意外なクオリティの高さと甘い展開に不思議な気持ちになりました。学生時代中央線沿線に住んでいたので、阿佐ヶ谷にもまた訪れてみたくなりました。


■映画
31 名探偵コナン 異次元の狙撃手/監督 静野 孔文

 原作もTVアニメ版もフォローしていませんが、映画版は少しずつ観て行こうと思っています。こちらはタイトル通り、凄腕の狙撃手による殺人事件を取り扱ったものです。中盤で早々と犯人がネタバレしたあとは、狙撃手とコナンの対決が中心のアクション映画となります。コナンシリーズの中では、謎解き中心の作品の方が好きなので、本作は個人的にはあまり楽しめませんでした。これまで数作しか見ていませんが、やたらと高層ビルが舞台となるところも既視感たっぷりで少し興ざめです。赤井秀一や毛利蘭も絡んだクライマックスのアクションシーンは見応えがありました。
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2016年の週刊文春

2021-04-17 05:56:44 | Weblog
■本
31 2016年の週刊文春/柳澤 健

 今や日本のジャーナリズムで唯一無二の存在感を放つ週刊文春をテーマにしたノンフィクションです。花田編集長時代の雑誌「マルコポーロ」の愛読者だったということもあり読みました。タイトルは、ベッキーさんの不倫問題や甘利元大臣の金銭授受問題などのスクープを連発して「文春砲」という言葉も生まれた2016年を取り上げていますが、内容は菊池寛さんが「文芸春秋」を創刊したときから、現在のデジタルシフトかが進んだ状況に致るまでの文芸春秋社の歴史を描いた本です。文春の各種スクープの裏話がふんだんに盛り込まれていて、ある種の日本近現代史としても読めます。花田紀凱さん、新谷学さんというふたりの個性的な編集長の波乱万丈な企業人生を軸に話が展開され(「マルコポーロ」廃刊に至る経緯も詳細に書かれていて個人的にも興味深かったです)、読み物としても抜群に面白いです。さらに、社会のデジタル化が進み長期低落傾向にある雑誌というメディアをサバイブさせていくための試行錯誤や成功事例についても語られていて、デジタルトランスフォーメーションの参考書としても有益な視座を与えてくれます。私もデジタル化の波の影響をもろに受けている業界で働いていて、社のその対応の遅さに忸怩たる思いを持っているので、勇気づけられる思いがしました。花田さん、新谷さんの雑誌に対する熱すぎる思いを読むと、いつもの結論ですが、結局自分の好きなことを楽しんで行っている人が一番強いし、魅力的だなと改めて感じました。


■CD
2 発光帯 /ハナレグミ

 大好きなハナレグミの新作です。超名曲「家族の風景」やSUPER BUTTER DOG時代の「サヨナラCOLOR 」のような作品を望むのは酷なのかもしれませんが、新作が出るたびに期待してしまいます。今作もミドルテンポの円熟味のある楽曲が中心ですが、前作よりはバラエティに富んだ構成で、ほっこりした気分で楽しめます。昨年コロナ禍の在宅勤務時に頻繁に聴いた、fm802のキャンペーンソング「僕のBUDDY!! 」のハナレグミバージョンが収録されているのもうれしいです。これからの季節にちょうどよい、落ち着いたポジティブさに満ちた作品です。


■映画
30 シンシナティ・キッド/監督 ノーマン・ジュイソン

 スティーブ・マックイーン主演のポーカー・プレイヤーの対決を描いた1965年の作品です。新進気鋭の若者が、老練なトッププレイヤーに挑戦するという構造がシンプルでわかりやすいです。50年以上前の作品なので、最後の勝負手がオープンされる瞬間に、プレイヤーや観客それぞれの表情をアップで写し、モノローグが挿入されるベタな演出など、古臭い部分もありますが、ポーカーのルールを完全に知らない私にも緊迫感が伝わってきます。脇役の描き方は紋切り型で、カードの対決シーン以外の登場人物の日常描くシーンは若干冗長です。逆に言えば、スティーブ・マックイーンの魅力に焦点を当てた作品ということもでき、そういう観点からは成功していると思います。いかにもなエンディングも含め、古き良きアメリカ映画という印象が残ります。
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親の期待に応えなくていい

2021-04-10 06:12:20 | Weblog
■本
29 親の期待に応えなくていい/鴻上 尚史
30 空中ブランコ/奥田 英朗

29 タイトル通り思春期の読者向けに、親からの「自立」をテーマに書かれた本です。この世代の子を持つ親たちが読んでも役立つように書かれているのもミソで、「子離れ」も裏テーマになっています。子どもの立場からすると、「その人を一番よく知っていること」と「その人に一番役に立つアドバイスができること」は違うという指摘は、私自身も親に相談して従ったことにより、後悔した経験があるのでとても共感しました。子どもからもし相談を受けたら、自分の思い込みを極力排し、その分野の知識を学んでからアドバイスをしようと思いました。また、親側の立場からすると、子育ての目的は「子を健康的に自立させること」とう指摘が胸に染みました。子どもに自分が実現できなかった夢を託したり、周囲に誇れる人間になって欲しいと期待をかけたりするのは人間の性かもしれませんが、子どもがそれなりに好きなことをしながら、最低限健康的な生活を送るのに必要な収入を得つつ自立できるように支援することが一番大切だと思いました。最後は鴻上さんお得意の「世間」と「社会」そして「同調圧力」の話になりますが、「家族」が「世間」になり、親が子どもに対して「同調圧力」をかけると不健康だと理解できたので、全てが繋がりました。結局は子どもが「他者」であると受け入れ、尊重することが重要なのだと思います。

30 精神科医伊良部先生シリーズの2作目です。前作の「イン・ザ・プール」が面白かったので読みました。この作品で直木賞を取ったのも納得で、前作以上に伊良部先生の破天荒さが増して作品の魅力も上がっています。読んでいる私の方も、伊良部先生の世間のしがらみを無視した奇行に振り回されるうちに、患者の神経症状が緩和されるという構造に慣れてきたので、その葛藤が解消された際の癒し効果が増した気がします。逆に、その現代社会の「生きにくさ」すらエンターテイメントとして成立させる構造自体に、若干の恐怖を感じますが、伊良部先生のダメ人間っぷりと必ずハッピーエンドで終わるという安心感が全てを包み込んでいます。映画版では、松尾スズキさんがこのキャラクターを演じられていましたが、松尾さんだとどうしても毒気が含まれてしまうので、個人的には出川哲朗さんのイメージに近いです。


■映画
28 家族はつらいよ/監督 山田 洋次
29 108〜海馬五郎の復讐と冒険〜/監督 松尾 スズキ

28 「男はつらいよ」シリーズは定年後の楽しみに取っておくつもりですが、他の山田洋次監督作品も徐々に観ていきたいと思っています。この作品は数年前に映画館で観た予告編がずっと印象に残っていました。ストーリー的にはよくある三世代同居の大家族ものですが(今となってはこんな大家族は少ないでしょうが)、橋爪功さん、吉行和子さん、西村雅彦さん、夏川結衣さん、蒼井優さん、妻夫木聡さんの安定感抜群の演技が素晴らしく、ずっと目が釘付けでした。筋を良く知っている古典落語で、噺家さんの技量に圧倒されるのと似た感覚になりました。タイトルデザインは横尾忠則が担当されているのですが、そのフィーチャーのされ具合にも圧倒されました。普通は映画の最後にわざわざクレジットされませんよね。

29 劇団「大人計画」主宰の松尾スズキさんの監督作です。機会に恵まれず劇場でお芝居を観たことはないのですが、松尾スズキさんの映画、小説、脚本、エッセイが大好きです。劇場公開時から興味があったのですが、前評判のエロティックさに怯んで行けないままでした。今回、動画配信で観たのですが、映画館で観なくてよかったというのと、よくこの内容で劇場公開できたな、とまず思いました。映画館で観ていたとしたら、終映後、他の観客の人たちと目が合わせられなかったと思います。それほど過剰なエロティシズムでした。過剰に描くことにより、主人公の純愛を際立たせる狙いだと勝手に理解しましたが、それにしてもその過剰さに気後れしてしまいました。私にこの作品を受け入れられるだけの器は、まだないようです。私のような反応をする人が一定数いることは、企画段階からある程度予想できたと思いますので、興行的には大きな成功が見込めないにもかかわらず、劇場公開につなげられた、松尾スズキさんの業界内での地位と影響力の大きさの方に感心してしまいました。中山美穂さんはメタな情報量の方が多くて作品内では違和感しか感じませんでしたが(それが狙いのような気もしますが)、坂井真紀さんのコメディエンヌぶりと、星野源さんのエンディング曲がよかったです。
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チョンキンマンションのボスは知っている

2021-04-03 07:17:12 | Weblog
■本
27 チョンキンマンションのボスは知っている/小川 さやか
28 「具体⇔抽象」トレーニング/細谷 功

27  以前に読んだ『「その日暮らしの」人類学』がとても面白かったので読みました。自分がコミュ障でも相手がクズでも、ついでがあれば親切にしてあげる方がコミュニティ全体としてうまくいく、ということがメインメッセージだと私は理解しました。その他にも、騙し騙されるのが当たり前の厳しい環境下で、他人と無理なく共存しながら、したたかに上機嫌で生きていくためのノウハウがたくさん書かれていて参考になります。私は、チョンキンマンションのボスが、打ち合わせに時間通り行かない理由として、『そもそも自分たちを対等であるとみなしていない人々に対しては、「扱いやすい人」にならないことが肝要』と述べているところにシビれました。他人に親切にする場合でも、相手に負荷がかからないようにするという細やかな配慮が、この本で取り上げられているタンザニアのコミュニティの方が日本社会よりも行き届いていることにも驚きました。日本人はもっと他人に頼ることに寛容になるべきだと思いました(「自助」が一番にくる政権下では難しいかもしれませんが)。小川さやかさんの著書を読むと少しだけ頭が柔らかくなった気がします。自分のこだわりや所属する社会の慣習が、必ずしも絶対的なものではないことに気づかされます。最近、「資本主義」に対してネガティブな本ばかり読んでいたので、「貪欲に稼ぐ」ことのポジティブな面が描かれているこの本で、バランスが取れた気がしました。結局、資本主義の欠点が目立つのは比較的恵まれた成熟した社会に生きているからで、一定の生活水準を満たすためには「貪欲に稼ぐ」意欲をエネルギーにするしかないのかもしれません(もちろん一定の生活水準を満たした後に、資本主義にとらわれ過ぎない態度も重要ですが)。私も、「ついで」にすむことであれば頼り頼られ生きていこうと思います。

28 大好きな楠木健さんが、『「抽象」と「具体」の往復運動』を繰り返すことが重要、とよくおっしゃるのでタイトルに魅かれて読みました。期待通りの素晴らしい内容でした。ここ最近読んだビジネス書(と分類されることは筆者の細谷さんとしては不本意かもしれませんが)の中では一番だと思います。提示されている図式や演習問題が非常に巧みで、『「抽象」と「具体」の往復運動』という極めて抽象的な概念を具体的に理解する上でとても役立ちます。この本では抽象化とは「都合の良いようにを切り取ること」なので、自分がどのような軸で抽象化しているかについて自覚的であることの重要性が繰り返し述べられています。冒頭に述べた楠木健さんだけでなく、私の大好きな作家である、佐藤優さんが「アナロジー」(似ているものから新しいアイデアを得ること)の重要性を強調され、出口治明さんが「タテ・ヨコ思考」(歴史と世界の中で自分の思考を位置付けること)を繰り返し述べられ、内田樹さんが文章中で「問題の次数を一つ繰り上げて」という表現をよく使われていることなどが、全てつながった気がします。みなさん、『「抽象」と「具体」の往復運動』とその抽象化に当たっての自分の軸や覚悟を持つことの重要性を強調されているのだと思います。この本のメインの主張ではないと思いますが、「他人のことはなるべく具体的で詳細な事情までを考慮するようにし、自分のことはあまり特別視せずに引いた目で一般化してみるぐらいが、他人とのコミュニケーションではちょうど良くなるのです」というアドバイスは、常に心に留めておきたいと思いました。知的生産活動に関わる全ての人にお勧めしたい本です。


■映画
26 ペギー・スーの結婚/監督 フランシス・フォード・コッポラ
27 七つの会議/監督 福澤 克雄

26 「地獄の黙示録」、「ゴッドファーザー 」シリーズのフランシス・フォード・コッポラ監督が、こんなに優しい作品が撮れるのか、と逆にびっくりする作品です。当時30歳を超えていたキャスリーン・ターナーが高校生を演じるのはさすがにコスプレ感が凄いですが、それでもとてもキュートです。ニコラス・ケイジも、まだイケメン俳優と呼べるギリギリの容姿で、野心たっぷりの演技を見せてくれます。よくある夫との関係に悩む中年女性のファンタジーものですが、さすがコッポラ監督だけあって手堅い演出です。甥のニコラス・ケイジや、今や個性派映画監督としての地位を築いた幼少期のソフィア・コッポラを起用するなど、コネ感が漂うのはご愛敬でしょうか。それにしても、アメリカのハイテンションな高校生活と、成功したか否かのモノサシだけで評価する社会も、なかなか生きにくそうです。そういった表面的なものとは異なる価値観を提示して終わるエンディングには共感できました。

27 企業版「アウトレイジ」のような作品です。多数の豪華キャストによる濃い演技を存分に堪能できます。野村萬斎さん、香川照之さんのコミカルになるギリギリの過剰な演技は、「そんな奴おれへんやろ〜」感満載ですが、ストーリー展開の面白さと相まって、ファンタジーとして引き込まれます。池井戸潤さんの小説やドラマを含めた映像化作品を観るのは初めてだったのですが、半沢直樹シリーズなどが大人気なのも納得です。サラリーマン生活で感じる鬱積のカタルシス効果が半端ではないです。企業社会の描き方の誇張具合も適切で、ハリウッドザコシショウさんのモノマネを観ているかのような、滑稽さと納得感があります。でも、こういうタイプのフィクションで日々のストレスを解消し過ぎるのも、あまり健全ではないかもしれませんね。私は人類の危機を防ぐマーベルの映画などでストレスを発散したいと思いました。
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