本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

他者と働く

2023-04-30 06:21:55 | Weblog
■本
32 広告の仕事/杉山 恒太郎
33 他者と働く/宇田川 元一

32 元電通の伝説的なクリエーターで、初期のインターネット広告ビジネスの立ち上げにも関わられ、現在は老舗デザインファームの社長を務められている筆者による、タイトル通り「広告の仕事」の可能性と希望について語られている本です。山口周さんとの対談が収録されていたので読みました。オリンピック関連の不祥事で地に落ちた感のある「広告ビジネス」のポジティブな面に焦点が当てられています。「広告ビジネス」の黄金期にいい思いをした人が、ノスタルジックに過去を振り返っているという側面を超えて、「公共広告」や「プロボノ」といった、広告、デザインが「ソーシャル・グッド」に貢献できる可能性について語られています。杉山さんの時代を見抜く力(そして、時代の転換期にその現場に立ち会える「運の強さ」)と教養の深さが印象的です。個人的には、どちらも「物語」と訳される「ストーリー」と「ナラティブ」の違いについて、わかりやすく説明頂けた点が参考になりました(「きちんと構成され、作り上げられたいわゆるストーリーと、個々人がフィジカルな実感に基づいて話すナラティブ(語り口)」という風に、この本では二つの「物語」について説明されています)。

33 最近続けてこの本についての好意的な評価を耳にしたので読みました。この本でも「ナラティヴ」(この本では「ヴ」表記でした)に注目し、相手のナラティヴを理解することにより、組織上の課題を乗り越えていくための方法論を教えてくれます。臨床心理学の「認知行動療法」や社会学の「社会構築主義」の知見を、組織論に応用されている点が新しいです。他者の「思考の歪み」を観察・解釈し、そのギャップを埋めるための働きかけを行うことにより、円滑な組織運営を実現していこう、という趣旨だと私は理解しました。組織の課題の大半は、「既存の方法で解決できる問題」である「技術的問題」ではなく、「既存の方法で一方的に解決できない複雑で困難な問題」である「適応課題」であるという説明はわかりやすかったです。要するに、個々に異なる背景を持つ組織上の問題に対応するには、課題の障壁となる相手のナラティヴを理解するための「対話」が必要であるという指摘で、「傾聴」の勉強を続けている私にとっても納得感のある内容でした。対話により相手のナラティヴを理解し、相手が受け入れやすい働きかけ(介入)を行うことにより、組織の問題は解決可能である、という信念に全編が貫かれていて、ポジティブな気持ちになります。「弱い立場ゆえの『正義のナラティヴ』に陥らない」(上司の立場や背景を理解しようとせず、一方的に悪者にする態度)や「権力の作用を自覚しないとよい観察はできない」(権力を持つが故に、部下が素直に意見をしてくれるとは限らない)など、組織人が陥りがちな罠をクールに指摘して下さっている点もいろいろと考えさせられました。個人的には、私も父の死後の負債処理に苦労した経験があるので、「おわりに」の宇田川さんのエピソードと、その経験から得られたマインドセットに共感しました。「弱さや過ちを抱える私たちが、対話を通じてよりよい未来を切り開く希望」を私も信じてみたいと思いました。


■映画
27 ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!/監督 ディーン・パリソット
28 名探偵コナン 漆黒の追跡者/監督 山本 泰一郎

27 「ビルとテッド」シリーズは、これまで観たことがなかったのですが、「音楽」がテーマということと、キアヌ・リーブスの出世作ということで観ました。約30年ぶりに制作されたシリーズ3作目ですが、過去2作を観ていなくても、世界観がすぐに理解できる、ゆるーい内容のコメディです。本作ではタイトル通り、時空崩壊から「世界を救う音楽」を創るために、タイムトラベルや地獄旅行など、過去作のフォーマットを借りながら、時空を超えたドタバタ劇が展開されます。理想のバンドを結成するために、ジミ・ヘンドリックス、ルイ・アームストロングや、原始時代の打楽器奏者などまでが集められる展開は、音楽好きとしてはとても楽しめました。自由にタイムトラベルができるのに、世界崩壊までのタイムリミットがあるなど、ご都合主義過ぎる設定が多いですが、ゆるーい世界観なので、許容すべきなのだと思います。90分程度の短い上映時間も、ボロが出るまでに終われたという面でよかったです。疲れたときに頭を空っぽにして観るには良い作品だと思います。

28 2009年に公開されたシリーズ13作目です。最近の劇場版は、アクションに重きが置かれることが多いですが、本作は謎解きに重点が置かれていて、面白かったです。また、劇場版でしか名探偵コナンシリーズに接しない私にとっては、主人公の最大の敵である「黒の組織」について細かく描写されていたので興味深かったです。それにしても、この作品世界の日本警察の劣化ぶりは凄まじいですね(容疑者確保に失敗してショッピングモールで簡単に人質は取られるし、警視が黒の組織に拉致されて別人に成りすまされているし)。その分コナンの優秀さが際立って、エンターテイメント性は増していますが、一番怖いのは、強力な敵ではなく無能な味方であることが再認識できる作品です。
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広重ベスト百景

2023-04-23 06:29:35 | Weblog
■本
30 女たちのポリティクス/ブレイディみかこ
31 広重ベスト百景/赤瀬川 原平

30 引き続き女性をテーマにした本を読みました。ブレイディみかこさんが、世界の女性政治家について、それぞれのエピソードやバックボーンの紹介とともに、解説してくれています。特に、「なぜ欧州の右翼政党に女性指導者が増えたのか」についての考察(ムスリム移民の増加に危機感を持った人々に対して、イスラム教の女性差別色の強い点を指摘し、「女性の人権を守る」という文脈の延長線上で、女性指導者が反移民を訴えて男女ともに支持を広げているという分析)は、私自身、女性指導者は、北欧やニュージーランドのような国民の生活に根付いた優しい政治を行うイメージが強かったので、目から鱗が落ちる思いでした。その分析からさらに発展させて、小池都知事や稲田朋美議員の「おじさん政治をぶっ壊す」という主張は、欧州の「ムスリム」を「おじさん」に置き換えただけで、ナショナリズムに繋がりかねない、という指摘も鋭いと思います。他にも、トランプ元大統領はバイデン大統領などの中道派の民主党議員よりも、急進左派の女性議員の方が戦いやすいと思っている可能性がある(社会主義者だという批判をしておけば中道派の国民も取り込めるから)という考察や、フィンランドでDVが多いという指摘(ジェンダー平等が進んでいるという認識が、個人としての女性の安全を守るための対策を遅らせている)も、私の頭の中にはこれまでなかったことなので、とても参考になりました。私自身の知識や認識の偏りに気づくことのできた、貴重な読書体験でした。

31 旅先の米子で「大広重展」を観て結構感動したので、津村記久子さんの本で紹介されていたことを思い出して読みました。画家、エッセイストの赤瀬川原平さんが、広重の代表作を「絶景」「夜景」「雨景」など10の項目に分類し、それぞれの項目の赤瀬川さんのベスト3を発表しつつ、軽妙な文章で解説してくれる本です。カラーで100点もの絵画が掲載されているので、眺めているだけでも楽しいです。展覧会では網羅できなかった鑑賞ポイントが理解できて勉強になりました。広重の絵は、構図と省略、そして、その色彩が素晴らしいです。津川さんのエッセイでも引用されていましたが、「天から降る雨を、線として絵に描くのは、日本だけだという話を聞いた」という説は、その真偽は別にして、とても説得力があると思いました。絵画鑑賞は、現実に対する作者の解釈を楽しむものだ、ということをあらためて感じました。広重の絵は、どこかコミカルなタッチの親しみやすさも含め、漫画やアニメなど、後の日本の文化に多大な影響を与えていると思います。


■映画
26 ブルース・ブラザース/監督 ジョン・ランディス

 何度か観ているはずなのに、記憶に残っているのは、アレサ・フランクリンやレイ・チャールズといったレジェンド・アーティストの演奏シーンばかりなので、あらためて観ました。ドタバタコメディという印象でしたが、想像以上にお金がかかっていてびっくりしました。とにかく、たくさんの車や建物が破壊されます。豪華アーティストが結構ガチで演技されている点も新鮮でした。前述した二人の他にも、ジェームス・ブラウン やジョン・リー・フッカー、そして、もちろんブルース・ブラザースのライブシーンは見応え十分で、わくわくしました(アレサ・フランクリンの声量ってやっぱり凄まじいですね)。ストーリーも、わかりやすくかつハートウォーミングで、とにかくハッピーな気分になります。パロディ色の強いB級映画だと勝手に思っていましたが、間違っていました。コメディ、アクション、ストーリー、そして、音楽のバランスが抜群の王道のエンターテイメント作品だと思います。昔USJで観たショーも懐かしいです。
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その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い

2023-04-16 16:58:12 | Weblog
■本
29 その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い/ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー

 「恋に落ちたシェイクスピア」など、数々の賞を獲得した作品(私も好きな作品が多いです)を生み出した、ミラマックス社の創業者でもあり名プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインが、長年にわたり女優や従業員に、その権力を使って、性的虐待を行っていたという事実を、被害者への丁寧な取材により報道したニューヨーク・タイムズ紙の記者によるノンフィクションです。被害者の葛藤や加害者側の妨害を乗り越えて、報道に耐えうる記事へと仕上げていく過程の描写が抜群に面白いです。その後の #MeToo運動や、その反動、そして、現時点での課題についても触れられている点も、単なる勧善懲悪的な展開にならずに信頼できます。その観点から考えると、「その名を暴け」と言う邦題はふさわしくなく、この本の本当の主役は様々なリスクを覚悟しつつも、真相を話したいという思いから勇気を持って記者に伝え、実名での報道を許可した被害者なので、原題通り「SHE SAID」でよかったのではと思いました。性的虐待の被害者の方が世間から責められるというやりきれない傾向は、日本の方が強い気がするので、この本が課題提起している本質(個人の素養の問題ではなく、差別の問題であるということ)をもっとよく理解すべきなのだと感じました。一方で、加害者側のワインスタインは明らかに、依存症だと思いますので、この種の問題を抱える男性の治療法の確立も求められるのだと思います。この本の中でも、常にトランプ的な存在に対するポジネガの反応の分断が、さりげなく語られていますが、ああいうマッチョな「男らしさ」に対する批判的な視点が求められているのだとも感じました。かなり長いですし、ワインスタインの記事が出た後の展開(トランプが支持していた最高裁判事の過去の性的虐待とその被害者の告発が描かれます)は、かなり冗長(ですが、この部分が必要であったことは理解できます)なので、読了するのに苦労するかもしれませんが、お勧めしたい本です。


■映画
23 抜き射ち二挺拳銃/監督 ドン・シーゲル
24 ミニオンズ フィーバー/監督 カイル・バルダ
25 ブレット・トレイン/監督 デヴィッド・リーチ

23 「抜き射ち二挺拳銃」というタイトルですが、決斗シーンがクライマックスにあるわけでもなく、ゴールド・ラッシュ時代の強盗団と、それを取り締まる保安官(とその助手)との対決を描いた作品です。保安官がちょっと女性に弱すぎる点がひっかかりますが、それなりのどんでん返し(ですが、結構序盤にネタバレします)もあり、暴力一辺倒の西部劇とは一線を画す、ユニークな作品だとは思います。ただ、そのユニークさが効果的に用いられていないので、強盗側も保安官側も自滅合戦を繰り広げているように見える点が少し残念でした。名匠ドン・シーゲル監督作品ですが、まだ、その才能が存分に発揮されていない初期の作品です。

24 大好きなミニオンズシリーズの昨年に公開された現時点での最新作です。相変わらず抜群の面白さと毒加減なのですが、期待が大き過ぎたのか、どこか手放しで褒められない歯がゆさがほんの少し残ります。中国マーケットを意識したためか、中華街やカンフー要素が入っている点が、「カンフーパンダ」っぽくって、ミニオンズの良さを損なっている気がしました。一方、グルーと伝説の悪党との師弟関係の描写は、ハリウッド映画の王道パターンを踏襲しつつ、「悪」を教えるという点で、この作品特有の捻りが効いていて愉快でした。極悪組織の他のメンバーもキャラが立ちまくっていて、今回はミニオンズの方が押され気味です。シリーズ作の宿命で、マンネリを避けるための工夫が裏目に出た面もありますが、90分程度で手際よくまとめて、これだけの満足感が得られるのは、やはり凄いことだと思います。余談ですが、この作品も邦題がちょっと的外れな気がします(挿入歌にダンスミュージックが多いだけで、特にフィーバーしているわけではないですし)。

25 ブラッド・ピット主演による、伊坂幸太郎さんの「マリアビートル」のハリウッド映画版です。ブラッド・ピットが、不運な殺し屋を実にいい味を出して演じていますし、原作がしっかりしているので、面白いと言えば面白いです。でも、全てにおいて中途半端な印象が残ります。外国人キャストをが中心で、かつ、結末も変えるのであれば(ハリウッドっぽくかなりダイナミックです)、日本を舞台にする必要があったのか?という疑問が強く残ります。鉄道好きとしては、「ゆかり」という列車名も、静岡と米原に停車することも、深夜に走っていることも納得がいきません。簡単に日本の新幹線内に銃が持ち込まれて、車内で乱射されている点も不自然ですし、これなら、アメリカを舞台にした方が、観客はスッキリしたと思います。タランティーノ監督のような、小ネタに満ちたギャグとバイオレンスが融合した作品にしたかったのだと推察しますが、中途半端に日本のテイストを入れたことにより、かえって失敗している気がします。ファンタジーさと日本文化の細部へのこだわりとのバランスが歪な点が残念です。
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82年生まれ、キム・ジヨン

2023-04-09 06:32:05 | Weblog
■本
27 「働かないおじさん問題」のトリセツ/難波 猛
28 82年生まれ、キム・ジヨン/チョ・ナムジュ

27 自分がまさに「働かないおじさん」世代なので、周囲に迷惑をかけないように俯瞰的な視点を養おうと思い読みました。キャリア論の基本に忠実な内容で、特に目新しい発見はありませんでしたが、本人、上司、組織(人事)それぞれの立場からの、この問題に対する取り組み方法が提示されていて、頭の整理に役立ちました。「働かないおじさん」を、「不真面目にリアルに働かない人」として捉えるのでなく、変化にうまく対応できていない人や過去の成功体験に囚われている人、などと扱っている点も納得感が高かったです。WILL(意欲)、MUST(期待役割)、CAN(能力)のフレームワークを活用し、そのバランスをとることと、各要素の足りない部分を埋める試みの重要性が強調されている点もわかりやすかったです。結局は各おじさんが、自分のやりたいことに取り組み、周囲から感謝してもらえるよう行動を変えていくことと、周囲がそのサポートをすることが大切なのだと思いました。この「おじさん」部分を、各企業に置き換えると、日本企業の様々な問題点も浮かび上がってくる気がします。

28 この本の舞台となる韓国だけでなく、日本を含む世界中の女性(そして男性にも)に共感された本ということで、配偶者が買ってきた本を借りて読みました。巧みに企てられた内容で、フェミニズムの問題だけでなく、世界中のあらゆる分断を乗り越えるヒントに満ちた語り口の本だと思いました。女性にまつわる様々な理不尽さに晒される中、精神に異常をきたした主人公(韓国で1982年に生まれた女性で最も多いとされている名前です)についての、精神科医による診断記録とした体裁で淡々と時系列に物語が進んでいきます。家父長制の要素が強く残っている点、女性が率直に発言する傾向にある点、受験競争が先鋭化している点、そして、男性に徴兵制度がある点、など、日本との若干の差異がありますが、多くの共通点(そして、日本がより劣っている点)もあると感じました。男性として生まれたことにより、ここまで社会的に優遇されていたのか、ということに、私自身かなり無自覚だったので、大いに反省するとともに(そして、そのようにわかったつもりになることも、女性から見ると不愉快であるという事実にも)配偶者に対し、申し訳なく思いました。なにより、生理の大変さについての知識が乏しかった点は自分の無知を恥じましたし、学校などでもっときちんと教育すべきだと思いました。主人公の配偶者が、暴力や不倫を行うなど極端に不誠実な行動をとる人ではないにもかかわらず、じわじわと主人公の尊厳を損なっていたという描写に恐怖を感じました。一方で、声高に男性やその優位な社会構造を批判することなく、また、過度に自分を卑下することもなく、淡々と精神科医の視点から主人公の窮状が語られている点に、より多くの層に物語を浸透させるための工夫を感じました(声高に男性が批判されていたら、私も最後まで読み通すのは難しかったかもしれません)。さらに、その治療を行っている、一見主人公に対する理解者であるようにも思えた精神科医自身が、その妻と同様の問題を抱えており、同僚の女性に対して差別的な視点を持っていたという結末が、男性読者がこの問題に対して安易にわかった気分になることへの牽制となるとともに、男性読者個人に対する批判ととらえて過度な拒否反応を起こすことの緩衝材としても機能していて、非常に巧みだと感じました。より特殊で悲惨な境遇に置かれている人にとっては生易しいと感じられるかもしれませんが、この問題について考える入口としては、素晴らしい本だと思います。


■映画
22 名探偵コナン ハロウィンの花嫁/監督 満仲 勧

 謎解きの方はありがちな展開でしたが、アクション映画としては一級品です。ハリウッド映画ばりの見せ場がたくさんあり、おまけにクライマックスの渋谷のシーンなど、実写では決してできない、スケールの大きなビジュアルと仕掛けが見事です(その仕掛けが本当に現実的にワークするのか?というツッコミどころはありますが)。コアなファンのみに通じる、キャラクターの背景情報を手際よく説明し、一見さんにも楽しめるようにした点も好感が持てました。幅広い層が楽しめる素晴らしいエンターテイメント作品だと思います。それにしても、この作品内の日本の治安の悪さと警察の無能さは絶望的です。その分コナンやその仲間の優秀さが際立つのですが。
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「日本」ってどんな国?

2023-04-02 07:10:03 | Weblog
■本
25 教養(インテリ)悪口本/堀元 見
26 「日本」ってどんな国?/本田 由紀

25 私も毒舌と言われることが多く、悪口に興味があったので読みました。まず、自分で「インテリ」って言うのはちょっと格好悪くないですか?(あえてのネーミングだと思いますが)。普通に「教養悪口」でよいのではと思いました。次に、こちらもあえてなのかもしれませんが、紹介されている悪口の大半が実用的ではないです(「ルンペルシュティルツヒェンじゃないんだから」なんて、そもそも覚えられないですし、噛んでしまいそうですよね)。「訓練された無能力だ!」のようにもっと実用的で切れ味鋭い悪口を教えて欲しかったです。一方、悪口をきっかけに解説される蘊蓄はどれも興味深く、この本の著者の読書量と教養の深さ、そして悪口を自虐にも振り向けるバランスのよさを感じました。「悪口」を入り口に読者の知識の幅を広げる、という試みはとてもユニークで有意義ですので、私も独自に切れ味の鋭い悪口を開発したいと思いました。

26 サブタイトルの「国際比較データで社会が見えてくる 」の通り、さまざまなデータを元に相対的に日本という国の特徴(ヤバさ)を示してくれる本です。「家族」「ジェンダー」「学校」「友だち」「経済・仕事」「政治・社会運動」をテーマに解説されていて、日本の様々な問題点が解像度高く理解できます。日本の「ジェンダーギャップ」、「経済力の低下」や「投票率の低さ」は、ニュースでも取り上げられることが多いですが、「『家族以外の人』と交流のない人の割合」の高さや、「人は信頼できるか」という問いに対して「信頼できる」と回答した割合の低さ、についてはあまり知らなかったので、危機感を持ちました。最終章にまとめられている、日本の高度成長期を支えた「戦後日本型循環モデル」(政府は経済政策にのみ重点を置き、男性の正社員がその恩恵を受けて家庭に賃金を持ち込み、家庭を支える女性が熱心にこどもを教育し、その教育によって成長したこどもたちが新たな労働力として供給される、というループが上手く回っていたモデル)が、経済の停滞により破綻している、という指摘も説得力がありました。筆者の本田さんの、日本を含む世界をよくするための運動が、どんなに果てしなく、難しくとも、「あきらめたらすべては終わり」というメッセージも、若年層向けだと思いつつも、おじさんである私の心にも響きました。その一方で、このような日本のネガティブな面だけを指摘する内容だと、「ニッポンスゴイ!」と自画自賛する人たちには届かず、分断を煽るだけでは、という危機感も感じました。「治安の良さ」や「平均寿命の長さ」(これらの指標も現場の方々の涙ぐましい努力と負担により成り立っているのだとは思いますが)など、日本のポジティブな面も含む、等身大の姿を提示しつつ、異なる見解を持つ人たちとの合意を探っていく試みも、困難ではあると思いますが、「あきらめてはならない」のだとも感じました。


■映画
21 起終点駅 ターミナル/監督 篠原 哲雄

 佐藤浩市さんが影のある中年弁護士を演じるヒューマン・ドラマです。内容も古き良き日本映画を踏襲していて(この作品は2015年と比較的新しい作品ですが)、抑制の効いた演出で、人生の機微がしみじみと描かれていて好ましいです。ただ、テレビの2時間ドラマだと評価できるのですが、お金を払って映画館に観に行くか、と言われると、そこまでの引っ掛かりはありませんでした。主人公の低位安定の生活に変化を与える、ホステス役の本田翼さんは、明るい表情のときはとてもチャーミングなのですが、暗い表情になると、とたんに演技の拙さが気になってしまいます。ストーリーの方も、主人公の愛人の自殺理由がわかるようでわからず、もやもやとした印象が残りました。映像は素晴らしく、舞台の釧路市の美しい風景が印象的です。鉄道好きの私としては、釧路駅やその駅を基点に走る列車が効果的に用いられていて、楽しめました。特徴を際立たせるために、タイトルに合わせて、駅を舞台にした映像がもっとあってもよかったかもしれません。
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