本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

死神の精度

2019-12-28 06:37:50 | Weblog
今年は映画をたくさん観ました。まさか、本と同数になるとは。

■本
122 死神の精度/伊坂 幸太郎
123 俳句は入門できる/長嶋 有

122 久しぶりに伊坂幸太郎さんの作品を読みたくなって、買ったままだった本作を読みました。死という重いテーマを描きながら、伊坂さんらしい力の抜け方と、それでいて、本質を射抜く切れ味の鋭さのバランスが絶妙で、読了後じんわりと温かい気持ちになりました。最初は死神の設定の破天荒さにツッコミながら読んでいましたが、伊坂さんの作品の中で、最も好きかもしれません。生命を重く捉えすぎている人には、もう少し気楽に生きてもいいというメッセージを、軽視している人にはそれでも価値のあるものだということを、優しく伝えようとしているかのようです。かといって、甘すぎることもなく、死に直面する各登場人物との距離感もちょうどよく、伊坂さんのセンスのよさが随所から伝わってきます。

123 入門書ではなくて、俳句をテーマにしたエッセイですので、タイトルは少しミスリードなような気もしますが(Webサイトでの連載時の「俳句ホニャララ」というタイトルの方が親切だったかもしれません)、現代社会において、どのように俳句を楽しむことができるのか、を楽しく知ることが出来る本です。古くからの長嶋有さんのファンとしては、ひたすらゆるーい感じのこれまでの印象とは少し異なる、俳句同人活動の主催者としての硬派な一面を垣間見ることができたことが興味深かったです。マンガやゲームをテーマとしたエッセイよりも熱量が高いのは、俳句の歴史の重みのためか、それとも長嶋さんが後進の人たちの心配をする年齢になったためかはわかりませんが、サブカル好きの私も俳句を始めてみてもよいかもという気になりました(母が長年俳句に熱心に取り組んでいるということもありまして)。

 
■映画 
122 アイガー・サンクション/監督 クリント・イーストウッド
123 スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け/監督 J・J・エイブラムス

122 21世紀に入ってからの監督作品は本当に素晴らしいので、機会があれば過去に遡って、クリント・イーストウッドの作品を観るようにしています。本作は1975年の、監督・主演のスパイアクションです。アリゾナでの訓練シーンも含む、山岳の風景描写はダイナミックでかつ、とても美しく素晴らしいです。殺し屋の過去を持つ、大学の美術教授という主人公の設定もユニークです。一方、近年のクリント・イーストウッド作品とは真逆で、主役も含めた人物描写がかなり薄っぺらいです。一緒にアイガーに挑戦する登山チームの中に犯人がいるという設定でしたが(その設定もいかがなものだと思いますが)、チームの大半のキャラが立っていないため、すぐに真犯人がわかってしまいました。前半の訓練シーンと、登山シーンとで流れが完全に分断されるところも含めて、最後まで入り込めない作品でした。

123 スター・ウォーズシリーズのいったんの完結編です。長年のファンとしては、余計な情報が入る前に観たかったので、早々に劇場に足を運びました。単体の作品としては、展開が早く、アクションシーンの描き方も巧みで、最後まで楽しく観ることができました。シリーズものにありがちな、これまでの伏線回収に追われることもなく、自然に収まるところに収まった感じも好ましいです。逆に言うと、期待を大きく上回る作品ではなかったとも言えます。アクション映画としては合格点ですが、それ以上のものをこの作品に求める人にとっては(大半はそうだと思いますが)、人間の葛藤や可能性についての洞察の甘さに物足りなさを感じたかもしれません。9作にもわたる大作の完結編としての、大団円感にも今一つ乏しいです。とはいえ、これだけの期待値の高い作品を破綻せず描き切ったところは評価されるべきだと思います。よくも悪くも、アクション映画監督としてのJ・J・エイブラムスの安定感と限界が感じられる作品です。
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俺のイタリアン、俺のフレンチ

2019-12-21 09:51:53 | Weblog
■本
120 俺のイタリアン、俺のフレンチ/坂本 孝
121 CHANGE 僕たちは変われる 日本フェンシング協会が実行した変革のための25のアイデア/太田 雄貴

120 以前に「俺のイタリアン」に連れて行ってもらったことがあり、結構美味しかったという印象が残っていたので手に取りましたが、抜群に面白い本でした。坂本孝さんがブックオフの創業者でもあったということも知りませんでしたが、業界の慣例を打ち破る、圧倒的な競争優位を築くストーリー作りの巧みさに感動しました。ブックオフでは、古本に付きまとう複雑な値付けの問題のシンプル化を、俺の~では、優秀な料理人にふんだんに豪華な食材を使わせて原価率を上げる一方で、立ち飲みという形態で回転率を上げ、顧客満足度と収益性を両立させるというビックアイデアを思いつかれる発想力に圧倒されます。業種の異なる事業の立ち上げを二度も成功されていて、ただただ尊敬するのみです。新規事業はこのように構想して、実践し成長させていくのだ、というお手本のような本です。お勧めです。

121 副題通り、オリンピックで二度銀メダルを獲得された太田雄貴さんが、引退後に日本フェンシング協会長に就任し、いかに組織を変革したか、ということが書かれた本です。メダリストという立場を最大限に活かして、様々な業界の人々との人脈作りに励まれた点と、太田さんご自身やフェンシングという競技が置かれた環境を俯瞰的に見て、効果的なアイデアを圧倒的なスピード感を持って取り組まれている点が印象的です。ベンチャー企業(フェンシングを「マイナースポーツ」と位置づけされています)が成長するプロセスを描いた、ビジネス書としても読める優れた内容です。事業の本質を的確にとらえ、内外に適切に発信しつつ、地道な改善や組織整備を進め、外部人材を含め適材適所で前例にとらわれず、最善と思われる打ち手を躊躇なく繰り出していくことが大切だということに改めて気づかされます。太田さんだからこそ成し遂げることができたんだ、というバイアスを自分から取り除くことができれば、参考になる点がたくさんあると思います。

 
■映画 
120 ぼくを葬る/監督 フランソワ・オゾン
121 ペンギン・ハイウェイ/監督 石田 祐康

120 ずいぶん前に予告編を観て気になっていたのですが、重々しい邦題のために後回しになっていました。思い切って観てみると、フランス映画らしく死を真っ向から取り上げていますが、過度に重くなく、当然葛藤はあるものの、それを次第に受け入れて徐々に身軽になっていく主人公を、羨ましくさえ感じました。ある種、理想的な最期でもあり、なかなかこういう穏やかな死を迎えることは通常あり得ないと思いますが、周囲の人に自分なりに別れを告げつつ、ささやかながらも生きた証を残そうとする姿勢には共感できました。生きているうちにどういう業績を残したかも大切だと思いますが、それよりも人とどういう関係を築けたかの方が重要だということに気づかされます。

121 同じく森見登美彦さん原作小説をアニメ映画化した、「夜は短し歩けよ乙女」が結構好きだったので、観ました。個人的には、正直あまりピンときませんでした。左脳優先の思考を徹底する主人公の少年のキャラクターは秀逸だと思いますが、彼が憧れる謎のお姉さんの存在が最後まで掴みどころがなく(まあ、彼女のその不安定な存在感がこの作品のキモでもあるのですが)、私自身の中でうまく消化できませんでした。主人公の妹が、夜中に突然「お母さんが死んでしまう」と泣き出すシーンなど、人間の存在や死に対する繊細でハッとさせられるような描写が随所に盛り込まれていて、そのセンスには感嘆するものの、それが、作品全体の世界観と整合が取れているかというと、必ずしも成功していないという印象が残りました。逆に言うと、「夜は短し歩けよ乙女」での湯浅政明監督の振り切った演出が、私の好みに合っていたのだと思います。
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東京流れ者

2019-12-14 11:24:33 | Weblog
■本
117 僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう/山中 伸弥、羽生 善治、是枝 裕和、山極 壽一、永田 和宏
118 減速して自由に生きる─ダウンシフターズ/高坂勝
119 人生はZOO(ずー)っと楽しい!水野 敬也、長沼 直樹

117 京都産業大学の学生さん向けに企画された講演の書籍化です。「あんな偉い人でも、なんだ自分と同じじゃないかということを感じとって欲しい」という企画趣旨の通り、角界の第一人者の方々も、そこに至るまでいろいろと試行錯誤をし、挫折を乗り越えて今の境地にたどり着かれたことがよくわかります。みなさんに共通しているのは、結局、自分の好きなことに取り組んでらっしゃたからこそ、苦労を乗り越えて続けることができた(もしくは、苦労を苦労として感じなかった)いうことで、改めてその大切さが実感できます。逆に言うと、大学在学中もしくはその卒業後数年以内に、「好きなこと」に出会えるかが、その後の人生の充実度に大きく関わってくると思いますので、大学にはそのための出会いの場をいかに多く設けられるかが、今後問われる気もしました。

118 大手小売業に勤められていた筆者が、30歳でその仕事内容や時間の使い方に疑問を感じて退職し、必要最低限の収入を得るためだけに働く小さなバーを経営し、さらにその自由になった時間で社会起業家としても活躍するようになった経緯をまとめられた本です。タイトル通り、成長一辺倒のグローバル競争と真逆のダウンシフトした生活(ダウンシフターズ)を提唱する本ですが、ご自身の経験から、その具体的な方法まで書かれている点が参考になります。単なるノウハウだけでなく、ダウンシフターズとしてうまくいかない人の共通点として、「表面的な上昇志向が強いこと」、「大量消費生活を変えていないこと」、「好きなことを仕事にしていないこと」を挙げられるなど、意識変革とセットで語られているところが興味深いです。結局は、自分の好きなことを仕事にして、周囲の人々と繋がりながら生きていくことが、人生の満足度向上に役立つ、といういつもの結論になるのですが、その自分の好きな仕事や人と、どのように出会い、ストレスなく続けて行くかが多くの人の課題だと思います。結局は、開かれた姿勢で、その機会を求め続けるしかないのだと最近よく感じています。

119 かわいい動物の写真と偉人のエピソードや名言を組み合わせた、「夢をかなえるゾウ」の水野敬也さんによる自己啓発本第三弾です。気軽に読めて、それなりにテンションも上がるので、ネット書籍で値下げされているとつい買ってしまいます。お手軽な分だけ、そのテンションの持続時間は短いですが、落ち込んだ時に応急処置的に好きなページを眺めてみるのもよいかもしれません。今回は、強引に嫁入りさせられた北条政子がその夜、20kmの山道を走り抜け、頼朝と落ち合ったというエピソードが印象に残りました。権力目当てではなくて、意外と純愛だったんですね。

 
■映画 
116 東京流れ者/監督 鈴木 清順
117 羊の木/監督 吉田 大八
118 劇場版 コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-/監督 西浦 正記
119 アイリッシュマン/監督 マーティン・スコセッシ

116 ミュージカル的に登場人物が突然歌い出すところや、現実離れした色彩や構成の背景など、日本映画の既成概念を打ち破る、ひたすら自由な演出に圧倒されました。観終わって、しばらく呆然としました。作家性の強い素晴らしい作品だと思います。それでいて、ストーリーは契りと裏切りが渦巻く、典型的なやくざもの。その演出とストーリーとのギャップに、くらくらしました。前衛性が難解さに陥っておらず、観ていてひたすら楽しく、ワクワクするところも大好きです。鈴木清順監督作品は、取っつきにくいと勝手に思っていて初めて観ましたが、他の作品も追っかけていきたいと思います。

117 原作漫画を先輩が絶賛していましたので、まず、映画化作品を観ました。人口減に悩む地方都市が、市民に知らせず元受刑者を受け入れて社会復帰に協力するが、その秘密が次第に漏れ、役所や市民に不信感が生まれる一方で、元受刑者自身もそれぞれの背景から暴走し始める、という設定がよくできていると思います。人間の醜く身勝手なところだけでなく、それでも他人を信じることのできる気高さも、バランスよく描かれている点に共感しました。松田龍平さんや優香さんといった元受刑者を演じた役者さんが、みなさんほどよい怪演をされていて、主人公を演じた錦戸亮さんの純朴な人のよさとの対比もはまっていました。

118 テレビドラマシリーズは観たことがなかったのですが、高視聴率でかつ映画版も大ヒットしたということで観ました。これまでのヒットドラマの良いところを全て凝縮したような王道の作品です。キャストもとにかく豪華で、背景を知らなくても、キャラクターが立っているので、その識別がすぐにできました。主人公を演じた、山下智久さんの無表情な演技には最後までなじめませんでしたが(ちなみに、山下智久さん自身は好きな役者さんです)、これだけ豪華キャストを集めながら、安易な恋愛ドラマにしていない点とお亡くなりになった児玉清さんへの敬意に溢れている点がよかったです。

119 これから本格化するアメリカ映画賞レースでの前評判が高いので観ました。ネットフリックスの作品ということですが、3時間半も家で観る自信がなかったので限定公開されている映画館に行きました。途中トイレに行く人が続出したり、長い作品の後の長いエンドロールで、苛立った隣の席の人たちが外に出るときに小競り合いを始めたりと、劇場で観ることの弊害の方が出てしましましたが、マーティン・スコセッシ監督のやり切った感は十分に伝わってきました。当然のことですが、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、3人の演技合戦は見応えがあります。ただ、演技に焦点を当てるあまり、バストショット中心の映像は若干単調だった気がします。それでも、最後までさほど飽きさせずに惹きつけ続けるところは監督や役者の力技ですが、鈴木清順監督とまでは言わないまでも、もう少し演出上の工夫があってもよかったのではと思いました。でも、これが円熟味ということで、固まった構造の中での技量の高さを賞賛すべき作品なのかもしれません。
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ぐるりのこと。

2019-12-07 06:47:46 | Weblog
■本
115 「仕事ができる」とはどういうことか?/楠木健、 山口周
116 仕事は楽しいかね?2/デイル・ドーテン

115 大好きな楠木健さんと山口周さんがコラボした本ということで、発売日に購入して一気に読みました。楠木さんの言葉でいうと「センス」、山口さんの言葉でいうと「アート」が、「スキル」や「サイエンス」と比較して希少化しているので、それが身についている人が結果的に仕事ができる人であるという結論はシンプルですが、では、仕事に必要な「センス」や「アート」とは何かということが、さまざまな事例を交えながらたっぷりと語られていて、とても楽しい読書体験でした。深い人間洞察力、全体の本質を俯瞰的に理解できる能力、自分の中から湧き出るモチベーション、成果に対するこだわり、などが「仕事ができる」ことだと、いったんは私は理解しましたが、そのために必要な「センス」や「アート」をどう身につけるかの過程も含めて、非常に多様で奥が深いものだと改めて感じました。だからこそ、「仕事ができる」人が希少なのでしょうが。

116 一作目がかなり参考になったので、続編(原著ではシリーズ的な位置づけがされていないかもしれませんが、登場人物は同じです)も読みました。前作が、仕事全般に対する取り組み姿勢がテーマだったのに対し、今作では上司部下の関係性といかに理想の上司部下と出会うかが、テーマです。テーマの範囲が狭くなっているのと、労働環境が日本ではずいぶん異なるので(終身雇用が崩れているとはいえ、日本ではまだ頻繁に転職しませんし、退職勧告や引き抜きもそこまで日常的ではないと思います)、全てが参考になるわけではないですが、それでも物事の本質をついた考え方が多く提示されています。部下にしたい人と長年にわたり関係を維持し続け、タイミングをみてオファーするなど、自分の理想の職場環境、人間関係を築くためには、既成概念にとらわれない方がよいということを学べました。


■CD
29 Hyperspace/Beck

 最近落ち着いた雰囲気の作品が続くベックですが、本作は、前々作の「Morning Phase」のメロウさと、前作「Color」のカラフルなサウンドが、ちょうどよい感じで融合した、奥深さとわかりやすさを兼ね備えた作品です。リラックスして聴けるのですが、どこか背筋がピンと伸びるような凛とした佇まいもあり、古典芸能の達人を思わせるような、熟練したスケールの大きさが感じられます。当分繰り返し聴くことになりそうです。

 
■映画 
114 ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE/監督 亀垣 一
115 ぐるりのこと。/監督 橋口 亮輔

114 おそらくテレビ特番か何かの続編的位置づけのため、そちらを観ていない私にとっては若干不親切に感じましたが、さすが、安定のクオリティで楽しめました。二つの人気アニメの主要登場人物に見せ場を作らないといけない上に、新キャラクターも登場しているのでキャラが渋滞気味ですが、それでも手際よく処理されていると思います。古くからの「ルパン三世」のファンとしては、次元や五ェ門が近年どんどんコミカルになっていくのがかなり残念ですが、21世紀はこの程度のギャップが萌え要素になるのかもしれません。新規顧客開拓は難しいかもしれませんが、元からのファンにはそれなりに満足できる作品だと思います。

115 ベタなカット割りや音楽の使い方に気になるところがありましたが、とても優れた作品だと思います。基本的には喪失と回復の物語ですが、喪失も回復も饒舌に描かれていないだけに、かえってその失ったもの、新たに得たものの大きさが実感できます。観終わったあと、ささやかな人生の秘密を知ったかのような温かい感情が芽生えました。説明不足と思えるほどの空白の多い脚本と、エピソード毎の鮮烈な演技がうまくマッチしています。エピソード間に各登場人物にどういう出来事があったので、こういう感情が迸っているのか、と観客側がそのピースを埋めていく楽しみもありますし、その想像を誘発するだけの演技が見事です。主演の木村多江さん、リリー・フランキーさんは素晴らしいの一言ですし、法廷場面でわずかしか登場しない役者さん達の演技も非常に印象的です。強烈な芳香を放つ素材を、少ない味付けで調理した料理のような、繊細かつ刺激に満ちた作品です。
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