本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

聲の形

2018-09-29 09:59:11 | Weblog
■本
78 40歳を過ぎて最高の成果を出せる「疲れない体」と「折れない心」のつくり方/葛西 紀明
79 鈍足だったら、速く走るな/中竹 竜二
80 プレイバック/レイモンド チャンドラー

78 先日ジョギング中に転んでしまい、Apple watchを壊してしまったことにショックを受けたので読みました。タイトル通り、40歳を過ぎてからのコンディション維持に必要なノウハウが満載です。最近つまづくことが増えたのは、筋肉の「柔軟性の低下」が原因だということがわかったことが最大の発見でした。アスリートではなくビジネスパーソン向けの視点(フィジカルだけでなくメンタル面の配慮と継続するために無理はしない、ということが強調されているところが驚きでした)で書かれているところと、簡単にできるストレッチなど具体的な実践方法についてもわかりやすく書かれているので参考になります。そこに、葛西さんご自身の若い時の失敗談やソチオリンピックで銀メダルを取るに至った過程も書かれているので読み物としても面白いです。ビジネス書としても読めるのでお勧めです。

79 以前に中竹さんの「リーダーシップからフォロワーシップへ」を読んで非常に感銘を受けたので読みました。タイトル通り、弱点を踏まえた自分の特徴をいかに磨き上げて「スタイル」として昇華させ、自分の強みにするのかという考え方が丁寧に説明されています。中竹さんご自身の幼少からの経験を振り返りながら、なぜ、このような考え方に至ったかについても触れられているので、より具体的に理解できます。常識を疑い独自の視点をロジカルに方法論として磨け上げる知性と自身の成長につながる機会を貪欲に求める行動力は見習わねばならないと思いました。以前から主張されている内容の類似性を感じでいたので、中竹さんが楠木健さんから影響を受けられていたことにも納得しました。子どもたちにも内容を伝えたくなる素敵な本です。

80 村上春樹さん翻訳によるレイモンド・チャンドラー作品の6作目。長さも登場人物の数も適切で、これまでのチャンドラー作品の中で、一番さくさくと読み進めることができました。個人的には、チャンドラー作品の脇役を混同し見失うことが多いのですが、この作品はどの登場人物もキャラクターがしっかりと立っていたのがよかったです。逆に言うと文学的な深みが足りないのかもしれませんが(村上さんもご指摘の通り、女性と関係を持つシーンは不要だと思います)、プロットもしっかりしていて(その謎の解き明かされ方はかなりご都合主義ですが)、エンターテイメント小説として読むとかなり面白かったです。例の決めセリフの訳し方も興味深く、村上さんの翻訳に対する姿勢を具体的に知る上でも興味深い本だと思います。


■CD
15 ソングライン/くるり

 「ロックンロール」のようなキラーチューンも前作に収録されていた「Liberty & Gravity」のような挑戦的でトリッキーな曲もなく、リラックスした雰囲気の聴き込むほどに味がでる「するめ系」の楽曲が多く収録された作品です。なにより、岸田さんの声がとてもみずみずしく、優しくなった印象なのが驚きです。岸田さんが自分の加齢を強く意識されているのか、若い世代を見守るような視線に満ちたくるりというバンドの良心がたっぷり詰まった作品です。逆に次作では、このバンドの過激さが前面に出る様な予感もして、今後の展開も楽しみです。


■映画 
73 映画 聲の形/監督 山田 尚子
74 悪人/監督 李 相日
75 きみの鳥はうたえる/監督 三宅 唱

73 粗の多いストーリーですが(登場する先生達があまりにもひどすぎます)、聴覚障害やいじめという難しいテーマを真っ向から取り上げ、観る側に当事者として考えることを迫る心に残る作品でした。特に、いじめた側やそれを傍観した側の心の動きを丁寧にかつ刺激的描いたところが(その描き方にも粗が多い気はするものの)、この作品に独特の存在感を与えています。好みがはっきり分かれるタイプの作品ですが、その点も含めて生産的な議論を喚起する社会的意義の高い作品だと思います。不思議と心を揺さぶられます。

74 先日亡くなられた樹木希林さんが日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を取った作品ということで、観たいと思いつつずっと観れていなかった本作を見ました。こちらも善悪という普遍的かつ簡単に答えの出ないテーマを観客に投げかける挑発的な作品です。原作小説は登場人物の内面を掘り下げた描写が多かった記憶がありますが、映画の方は対話や印象的な灯台のシーンなどの映像で、登場人物のやるせなさが巧みに描写されています。主演の妻夫木聡さんはいつもの喜怒哀楽がはっきりとしたコミカルな役柄から一変した、感情表現が下手な役を熱演されていますし、深津絵里さんは美しさはそのままに幸薄さを絶妙に表現されています。脇を固める岡田将生さん、満島ひかりさんも大好きな役者さんなので、その演技に惹きつけられました。エンディングの余韻は原作小説の方が好きですが、樹木希林さんや柄本明さんが演じる、残されたものの深い悲しみとそれでも生き続ける強い覚悟が伝わるサイドストーリーが胸を打ちます。

75 佐藤泰志さん原作小説の映画化4作目です。4作全部観ましたが、この作品が一番函館の街並みを美しく描いている気がします。函館にとても行きたくなりました。どの登場人物も共感されにくいキャラクターなので(特に、「自己責任」を植え付けられた今の若者がどう反応するかが興味あります)、それが受け入れられるかで評価が分かれると思いますが(ちなみ、私にとっても上の世代の価値観が強く反映されている印象です)、ある年代の青春の雰囲気をうまく切り取っていると思います。携帯でのコミュニケーションなど、現代化されていますが、価値観はモラトリアムがまだしっかり残っていた時代の若者のもので、そのアンマッチさが観ていて不思議な感覚になりました。主演の柄本佑さんは味わい深い演技をされていますが、佐藤泰志さん原作作品では、「海炭市叙景」での加瀬亮さん、「そこのみにて光輝く」での綾野剛さん、「オーバー・フェンス」での オダギリジョーといった、役者さんがキャリアハイとも呼べる素晴らしい演技をされていたので、それらと比べると飄々とし過ぎていて少しインパクトが弱い気がしました(逆にそこが持ち味なのだと思いますが)。
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羊と鋼の森

2018-09-22 06:45:26 | Weblog
■本
76 外資系コンサルの知的生産術/山口 周
77 羊と鋼の森/宮下 奈都

76 ビジネスに必要な知的インプットとその処理(プロセッシング)、そしてどのようにアウトプットしていくかについてのノウハウや心構えについて、コンパクトにまとまったとても良い本です。話題になった「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」の作者による本だけあって(書かれたのはこの本の方が先なようですが)、ロジカルさと感覚的な面(山口さんは「論理」・「倫理」・「情理」とおっしゃっています)のバランスへの配慮がとても巧みだと思います。山口さんが広告代理店からコンサルファームに転職されたというキャリアをお持ちなためかもしれませんが、いろんな業種や立場の人に参考になる知恵が偏りなく詰まっていると思います。紹介される99個ある心得一つ一つの分量も適切で読みやすいのでお勧めです。

77 評判に違わない素晴らしい職業小説だと思います。76で紹介した本とこの本とで、新社会人に必要な心構えはほぼ網羅できているのではないでしょうか?自分が好きだと思える仕事に出会えた奇跡と、その好きな道に才能があってもなくてもやり続けるという、静かでかつ強い意志の貴さが学べます。調律師という一般の人に取ってなじみの少ない職種を、ここまで魅力的に描ける作者の力量が見事です。主人公の同僚もみな個性的で、仕事に取組む姿勢は人それぞれで一つの正解があるわけではない、というニュートラルな描かれ方にも共感します。ピアノ好きの双子の女子高校生と主人公の若手調律師との、その技術や姿勢を認め合うことによる心の交流の描き方も見事で、恋愛感情が妙に安っぽくさえ感じます。迷いながらも精進していけば、いつか自分の進むべき道が見つかるという勇気が湧いてくる本です。


■CD
14 Collapse EP/APHEX TWIN

 テクノ系の作品はあまり聴かないのですが、APHEX TWINの作品は大好きです。スリリングでトリッキーな展開を見せつつも不思議と聴きやすく、基本はダウナーな印象ですが時折挑発的に牙をむいてくる、二律背反的な作品です。この「静かな狂気」が癖になります。それでいて、聴き手を置き去りにしない包容力があるところも魅力なのだと思います。


■映画 
71 君の膵臓をたべたい/監督 月川 翔
72 ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年/監督 高木 淳

71 先週読んだ原作小説に続き、実写映画化作品も観ました。メインキャストを演じた二人の若い俳優さんは、原作とは若干イメージが違うものの(特に男性の方は陰のある美男子というよりも、もう少し複雑な人格のイメージでした)、みずみずしい演技をされていたと思います。もともと登場人物の少ない作品なので、この二人の若手俳優だけで集客が見込めるか不安だという大人の事情もあったのかもしれませんが、正直言って、別キャストによる大人になってからのエピソードは不要だと思いました。時系列の移動により流れがかなり悪くなりましたし、大人になってからのエピソードはあまりにもリアリティがなさ過ぎます。原作をそのまま映画化しろと言うつもりは全くないですが、学生時代のエピソードを新たに付け加えるなど、メインキャスト二人の交流をもう少し丁寧に描いて欲しかったです。アニメ映画化作品の方はどんな感じなのでしょうか?

72 さくらももこさんの死去に驚いて、原作漫画は読んでいたものの、アニメ映画化作品の方はまだだったので観ました。花輪君のスケールの大きすぎる金持ちぶりは本作でも全開ですし、丸尾君に対するなぜか理不尽に不当な扱いも懐かしかったです。外国から訪れた新しい友人もみな個性的で、さくらももこさんのキャラクター造形力の巧みさに、あらためて感心しました。ストーリーのメインとなる、イタリア人少年のおじいさんのエピソードも、長編作品にありがちなくどさがなく、抒情性とギャグのバランスの取れた、子どもから大人まで楽しめる作品になっていると思います。
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君の膵臓をたべたい

2018-09-15 06:23:31 | Weblog
■本
74 AI時代の新・ベーシックインカム論/井上 智洋
75 君の膵臓をたべたい/住野 よる

74 AIとBI(ベーシックインカム)を関連させて語るところに筆者のセンスを感じました。確かにAIが稼いだお金を財源の一部にして、全国民に生活に最低限必要な収入を保障できれば素晴らしいと思います。ヘリコプターマネー等経済政策に関する記述の理解が追いついていないのですが、BIの制度設計に関する説明は緻密で一定の説得力があり、この分野の理解が深まりました。労働することのインセンティブを担保しつつ、なんらかの理由で働けない人の生活も保障しようとする理念や、労働意欲がないことなども一種のハンディキャップで救済が必要と割り切る姿勢も共感が持てます。ただ、先述した経済政策のデメリットが不明なところと、移民やフリーライダーに対する国民の心理的な抵抗、そして、資源が有限なこの地球で急速に進化するAIといえども、錬金術のように潤沢にお金を生み出すことができるのか、という点が引っかかているので、引き続き勉強していきたいと思います。

75 次男が買ってきて、長男や奥さんも読み終わったので私も読んでみました。前半は少し甘ったる過ぎて、おじさんにはついて行くのがなかなかしんどかったですが、終盤の予想の斜め上を行くストーリー展開には圧倒されました。小説でしかできない表現手法を巧みに使うなど、細かい工夫も随所に施されていて読み手を飽きさせません。何より恋愛小説ではなく、主人公たちの成長に焦点を当てたビルドゥングスロマンに仕上げたところが素晴らしいと思います。人生の不条理さと希望とのバランスも絶妙で安心して子どもに読ませることができる作品です。とりあえず息子たちには、コミュ障男子に近寄ってくるこんな魅力的な女子が現実世界には存在しないということは強調しておきました(笑)。


■映画 
70 アントマン/監督 ペイトン・リード

 B級感タップリだったのでさほど期待せずに観たのですが、結構面白かったです。さすが、マーベル安定のクオリティです。各キャラクターや他のマーベル作品との関係性の説明も手際よく、スピーディーにストーリーが展開していきます。大きくなったり小さくなったりを繰り返すアクションシーンは観ていて気持ちよく、一方、蟻を仲間にして戦うシーンはなかなかグロテスクですが、他のヒーローものでは観られない映像で、独特の世界観を醸し出すことに成功しています。アベンジャーズシリーズの壮大な世界観になかなかキャッチアップできなくなっているので、個人的には箸休め的にシンプルに楽しめる本作は好ましかったです。
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急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。

2018-09-08 09:23:49 | Weblog
■本
71 「産業革命以前」の未来へ/野口 悠紀雄
72 急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。/小霜 和也
73 街場の憂国論 (文春文庫)/内田 樹

71 タイトル通り、産業革命以降の組織力を活かし規制にも守られていろんなものごとを成し遂げてきた大企業の時代から、テクノロジーの進化によるマッチング力を活用した、ウーバーで働く人々のようなフリーランサーの時代になりつつあるという趣旨の本だと理解しました。長期的な視野に基づく壮大な構想力は素晴らしく、ビジネスモデルの歴史的変遷を網羅的に振り返る上ではとても有益なのですが、書かれている内容に特に目新しい点は少なく、その変化に我々がどのように対応しなければいけないかという考察も薄く感じました。現状を踏まえた上での野口さんの今後に対する考察をもっと読んでみたいと思いました。

72 これまでに読んだデジタルマーケティング関連の本で、最も素晴らしいものの一つだと思います。デジタル史を手際よく振り返りつつ、現在のWeb広告の位置づけ(コンバージョン至上主義からブランディング的要素も加味されるようになった、など)や、その活用方法についての考察がまとめられていてわかりやすかったです。「Web動画広告は強烈な面白さがないといけない、というわけではない」など、実経験を踏まえた現実的な視点も多く提示されていて、読んでいて非常に参考になりました。デジタルにおいては「わかってないと思って取り組むことが大切」など、一貫して謙虚な姿勢にも大いに共感しました。

73 ブログやメディアに発表された国家や政治などにかかわるエッセイを集めた本ということで、内田さんの肝となる主張を繰り返し味わうことのできる本です。2011年から13年にかけて書かれたものが中心なので、原発、TPP、特定秘密保護法について書かれたものが多いです。当時、内田さんが不安に感じられていたものが、安倍政権の長期化やアメリカのトランプ政権誕生などによって、より複雑かつ深刻な状況に陥っていますが、ものごとを過度に単純化させず、複雑なまま理解しようとする知的訓練がより一層必要とされていることを痛感しました。


■映画 
67 インクレディブル・ファミリー/監督 ブラッド・バード
68 アイアムアヒーロー/監督 佐藤 信介
69 メアリと魔女の花/監督 米林 宏昌

67 ストーリー的な変化球をあえて捨て去り、王道のアクション大作として正々堂々と挑み成立させています。CGアニメーションとしての強みをフルに活かした、さまざまなアングルからの迫力あるアクションシーンに圧倒されます。ヒーローたちの特徴的な能力を描き分ける手際が見事です(特に、赤ん坊のジャック・ジャックがさまざまな能力を駆使するシーンが最高です)。家族における男女の役割分担という現代的なテーマを入れつつ、説教臭くない点も好感が持てます。エンターテイメントに徹しつつ安っぽくなく、子どもだけでなく大人も十分に楽しめるクオリティの高い作品です。

68 こちらもあえて定番のゾンビもののストーリー展開に挑み、その制約の中で独自性を出すことに成功しています。ゾンビと人間の中間的な存在を登場させ、ゾンビにも生前の記憶を残すことにより、あいまいな領域を作り出し、見る側にうまく違和感を感じさせています。おどろおどろしいゾンビが多数描かれる中で、有村架純さん、長澤まさみさんはとても美しく映えています。主役を演じる大泉洋さんは大好きな役者さんですが、こういうセリフの少なめの役では魅力が半減している気がしました。主人公の気弱さや心優しさはよく伝わってきましたが、やはり無口な大泉さんは違和感があります。

69 この作品も王道の魔法使いものに真っ向から挑んでいて、その勇気には敬意を表しますが、その志の高さに作品の深みがいまひとつ追いついていない印象が残ります。制御しきれない大きな力に魅入られた大人とそれに抵抗する少女という、原発問題を連想させるようなメッセージ性も強い作品です。逆にそのメッセージ性を強く感じさせすぎる点が作品としての欠点だと個人的には思いました(ナウシカやラピュタも同種のテーマの作品だと思うのですが、そのメッセージ性をうまく背景化させることに成功していたと思います)。主人公の少女が出会う少年が人格者過ぎるところも、説教臭さを増大させています。ただ、明確な悪人を登場させず、安易な善悪二元論にしていない点は好感が持てました。スタジオポノックの次作に期待したいと思います。
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