■本
40 オー!ファーザー/伊坂 幸太郎
41 NHKスペシャル取材班、「デジタルハンター」になる/NHKミャンマープロジェクト
40 旅に出ると、なぜか伊坂幸太郎さんの作品を道中で読みたくなります。相変わらず先の読めない展開と、個性あふれるキャラクターの力で、スイスイと読み進めるのですが、本作はご都合主義的側面が強すぎて、個人的には満足度はそう高くありません。タイトル通り、父と子の関係を、思春期の子どもの成長と、父親の老いの兆しとも絡めて描かれていて、それは、一父親としてとても共感できるのですが、やはり、父親が4人も喧嘩せずに同居しているという設定は無理があると感じました。主人公の友人が、父親がそこそこ有名な野球選手だったにもかかわらず、その事実を知らない、という点も不自然過ぎます(父親が自ら言わなくても、いくらなんでも周囲から伝わるでしょうから)。多かれ少なかれ伊坂さんの作品は、全てファンタジー的側面が入っていますが、「それにしても」というのが率直な感想です。伊坂作品のもう一つの共通点である、理不尽な「悪」が今回はそこまで巨大ではなかった点も、ファンタジー的な設定を受け入れにくくしているのかもしれません。とはいえ、この読みやすさと物語の力は、やはりさすがだと思いました。
41 SNSに投稿された写真、動画やプラットフォーマーが提供する地図、衛星画像、といったインターネット上のオープンな情報を使って、国家権力が隠蔽している事実やさまざまな事件の真相などを解明する手法「OSINT」(Open Source Intelligence)に興味があったので読みました。OSINTという概念が、少し前から佐藤優さんの書籍で頻出していたのも興味を持ったきっかけです。この本では、新型コロナウイルスの影響で現地取材が難しい中で、クーデターによる軍政下で混乱しているミャンマーの実情を描いたドキュメンタリー番組を制作するにあたり、OSINTの手法をどのように用いられたのかが、それぞれの記者やディレクターの立場から詳細に語られています。情報が膨大であるが故に、その真贋を見極めるのが大変で、そのために位置情報や画像検索などを駆使した粘り強い裏どり作業がとても重要であることが理解できました。それは、今後AIによるフェイク画像、動画が容易に生成されるようになる世界で、とても重要な技術になるのだと思います。また、この信用できる情報の見極めのために、各メディアや組織が、これまでのように特ダネに繋がる情報を抱え込むのではなく、オープンにすべきという主張も印象的でした。ソフトウエアのように、「Open Source」という概念が報道の世界でも、今後ますます重要になってくるのだと思います。ミャンマーやウクライナの状況や、AIによるフェイク情報の蔓延など、世界の今後に悲観的な要素も多いですが、「Open Source」の概念がテクノロジー分野だけでなく、政治経済や哲学など、文系的な分野でも広がってくることにより、明るい未来を築けるのではという希望も少し感じました。
■映画
36 トム・ホーン/監督 ウィリアム・ウィアード
スティーブ・マックイーン演じる、実在した初老の賞金稼ぎの、時代の変化についていけなかったが故の悲劇を描いた西部劇です。撮影中にスティーブ・マックイーンが、死に至る病を宣告された、ということも反映してか、最晩年の彼の演技と主人公の姿が重なり、もの悲しいです。序盤こそ、スティーブ・マックイーンの個人技で、トム・ホーンというキャラクターのチャーミングさに魅了され面白かったのですが、物語が進むにつれて、唐突な回想シーンや、説明不足の主人公の突飛な行動で、共感できない展開になってしまいました。エンディングは、ラース・フォン・トリアー監督の「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を思わせる闇展開です。しかも、それがさほど盛り上げられることなく、淡々と描かれているので、後味の悪さだけが残ります。実話を忠実に描かれているのかもしれませんが、それであれば、もう少し構成面で工夫できたのでは、と思いました。
40 オー!ファーザー/伊坂 幸太郎
41 NHKスペシャル取材班、「デジタルハンター」になる/NHKミャンマープロジェクト
40 旅に出ると、なぜか伊坂幸太郎さんの作品を道中で読みたくなります。相変わらず先の読めない展開と、個性あふれるキャラクターの力で、スイスイと読み進めるのですが、本作はご都合主義的側面が強すぎて、個人的には満足度はそう高くありません。タイトル通り、父と子の関係を、思春期の子どもの成長と、父親の老いの兆しとも絡めて描かれていて、それは、一父親としてとても共感できるのですが、やはり、父親が4人も喧嘩せずに同居しているという設定は無理があると感じました。主人公の友人が、父親がそこそこ有名な野球選手だったにもかかわらず、その事実を知らない、という点も不自然過ぎます(父親が自ら言わなくても、いくらなんでも周囲から伝わるでしょうから)。多かれ少なかれ伊坂さんの作品は、全てファンタジー的側面が入っていますが、「それにしても」というのが率直な感想です。伊坂作品のもう一つの共通点である、理不尽な「悪」が今回はそこまで巨大ではなかった点も、ファンタジー的な設定を受け入れにくくしているのかもしれません。とはいえ、この読みやすさと物語の力は、やはりさすがだと思いました。
41 SNSに投稿された写真、動画やプラットフォーマーが提供する地図、衛星画像、といったインターネット上のオープンな情報を使って、国家権力が隠蔽している事実やさまざまな事件の真相などを解明する手法「OSINT」(Open Source Intelligence)に興味があったので読みました。OSINTという概念が、少し前から佐藤優さんの書籍で頻出していたのも興味を持ったきっかけです。この本では、新型コロナウイルスの影響で現地取材が難しい中で、クーデターによる軍政下で混乱しているミャンマーの実情を描いたドキュメンタリー番組を制作するにあたり、OSINTの手法をどのように用いられたのかが、それぞれの記者やディレクターの立場から詳細に語られています。情報が膨大であるが故に、その真贋を見極めるのが大変で、そのために位置情報や画像検索などを駆使した粘り強い裏どり作業がとても重要であることが理解できました。それは、今後AIによるフェイク画像、動画が容易に生成されるようになる世界で、とても重要な技術になるのだと思います。また、この信用できる情報の見極めのために、各メディアや組織が、これまでのように特ダネに繋がる情報を抱え込むのではなく、オープンにすべきという主張も印象的でした。ソフトウエアのように、「Open Source」という概念が報道の世界でも、今後ますます重要になってくるのだと思います。ミャンマーやウクライナの状況や、AIによるフェイク情報の蔓延など、世界の今後に悲観的な要素も多いですが、「Open Source」の概念がテクノロジー分野だけでなく、政治経済や哲学など、文系的な分野でも広がってくることにより、明るい未来を築けるのではという希望も少し感じました。
■映画
36 トム・ホーン/監督 ウィリアム・ウィアード
スティーブ・マックイーン演じる、実在した初老の賞金稼ぎの、時代の変化についていけなかったが故の悲劇を描いた西部劇です。撮影中にスティーブ・マックイーンが、死に至る病を宣告された、ということも反映してか、最晩年の彼の演技と主人公の姿が重なり、もの悲しいです。序盤こそ、スティーブ・マックイーンの個人技で、トム・ホーンというキャラクターのチャーミングさに魅了され面白かったのですが、物語が進むにつれて、唐突な回想シーンや、説明不足の主人公の突飛な行動で、共感できない展開になってしまいました。エンディングは、ラース・フォン・トリアー監督の「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を思わせる闇展開です。しかも、それがさほど盛り上げられることなく、淡々と描かれているので、後味の悪さだけが残ります。実話を忠実に描かれているのかもしれませんが、それであれば、もう少し構成面で工夫できたのでは、と思いました。