本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

Brian Wilson

2015-05-30 10:43:39 | Weblog
■本
52 明日のプランニング/佐藤 尚之
53 ウケる日記/水野 敬也
54 沈黙のWebマーケティング/松尾 茂起、上野 高史

52 コミュニケーション・ディレクターである「さとなお」さんがコミュニケーション・プランニングについて書かれた本です。「明日の広告」、「明日のコミュニケーション」といった過去の著書からさらに踏み込んで、情報洪水時代(さとなおさんは、1年間に流れる情報量を「世界中の砂浜の砂の数」に例えて、我々が伝えたい情報はその世界中の砂浜の中のたった一粒に過ぎないという例を引いて「情報”砂の一粒”時代」という造語で説明されています)では、情報は「伝わらない」という圧倒的絶望から始めないといけないと主張されています。とはいえ、そのような「情報”砂の一粒”時代」に生きている生活者は、検索エンジンやソーシャルメディアを使いこなす、比較的デジタルリテラシーの高い国民の約半分の人たちで、残りの半分はこれまでのマスメディアでも十分情報が伝わるので、要はそれぞれの層を分けて情報の伝え方を考える必要がある、という指摘が斬新です。「情報”砂の一粒”時代」の人たちへの情報の伝え方も「ファンベース」や「オーガニックリーチ」という概念を用いながら、いかに「共感」してもらいポジティブなクチコミを広げてもらうか、について具体的に丁寧に説明して下さっていて参考になります。全体にポジティブな雰囲気に溢れた読んでいて元気が出る本です。

53 「夢をかなえるゾウ」で一発当てた水野敬也さんのブログを書籍化したものです。下ネタや恋愛失敗ネタを中心に抜群に面白い回もあるのですが、そうでもない回もあり、玉石混交なところがまさにブログ的です。そういう意味では、わざわざお金を出して書籍版を読むのではなくてブログを読んでおけばよかった(といっても長文ブログを読むのは苦手なのでどうしても書籍を買ってしまうのですが)と少し後悔しました。この本の内容には全く関係ないですが、コンテンツとメディアの関係について少し考えさせられました。面白い回はお金を出す価値のあるクオリティだと思います。

54 こちらもWEB連載が電子書籍化されたものを読みました。電子書籍の文字が小さくて(電子書籍なので当然文字サイズを調節できるのですが、ページごとに調整をやり直す必要があって面倒でした)WEB連載を読めばよかったと、また少し後悔しましたが、WEBにない解説記事が秀逸でとても参考になりました。SEO、コンテンツマーケティング、ソーシャルメディア運用から、レンタルサーバの選び方まで、詳細かつ具体的に書かれてあり、わかりやすいです。劇画タッチのストーリー部分も馬鹿馬鹿しいながらも「メジャー感」があり楽しめました。


■CD
29 Brian Wilson/Brian Wilson

 ビーチボーイズの中心人物であったブライアン・ウィルソンの1988年発売の初ソロアルバムです。薬物中毒で20年近く第一線から遠ざかっていたにもかかわらず、恐ろしくイノセンスな作品です。キラキラしたメロディの楽曲が続き、とてもハッピーな気分になる反面、いろんなことを考えさせられて、胸が痛くなるほどの美しさです。シンプルなポップアルバムですが、とても複雑な味わいがあります。名盤です。


■映画
40 チーム・バチスタFINAL ケルベロスの肖像/監督 星野和成

 このシリーズは竹内結子さん、阿部寛さん主演の映画版しか観たことがなかったので、テレビ版の出演者である、伊藤淳史さん、仲村トオルさんで制作されたこの作品は最初少し違和感を感じました。病院を舞台とした事件物という固い内容の上、男性の登場人物が大半を占めるので若干息苦しさを感じます。そういう意味では主役の性別を女性にして、竹内結子さんを起用したこれまでの映画版は英断だったと言えます。といっても伊藤淳史さん、仲村トオルさんの演技が悪いわけではなく、生瀬勝久さんの怪演にも負けない安定感がありました。桐谷美玲さんは個人的には苦手なタイプの女優さんですが、この作品ではとても魅力的でした。ストーリー的には、主要登場人物の過去のいろいろな関係性を詰め込み過ぎで、テレビ版を観てない人には若干不親切な展開でしたが、コアなファンの満足を考えると仕方がないのかもしれません。トリックと犯行動機に捻りがない気がしましたが、謎解きロジックの美しさを楽しむというよりも、医療知識を得ながら各キャラクターの個性を楽しむタイプの作品なので、まあ、無難な仕上がりだと思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

My Life

2015-05-24 10:17:00 | Weblog
■本
49 クール・ジャパン!? 外国人が見たニッポン/鴻上 尚史
50 欲しい ほしい ホシイ/小霜 和也
51 大泉エッセイ 僕が綴った16年/大泉 洋

49 鴻上さんが司会されているNHK BSの「cool japan」という番組に出演した外国人との議論を踏まえて、外国人が日本文化でクールと感じるところ、逆に違和感を感じるところ、について考察された本です。「ポップ・カルチャー」、「オタク文化」、「ハイテク家電」等、「クール・ジャパン」という文脈で語られることの多い事象だけでなく、もっと幅広に、外国人が日本文化にクールと感じることを、具体例も踏まえて丁寧に説明してくれていて興味深いです。「直箸」に対する外国人の嫌悪感や「ゆるキャラ」に対する違和感など、日本人が当たり前に思っていることが必ずしも外国人に受け入れられない、という当たり前の事実にあらためて気づかされ、異文化理解の奥深さについても考えさせられる本です。

50 広告クリエーティブディレクターである著者が「進化心理学」という学問をバックボーンにして、人間の本能と広告クリエイティブの関係を解説した本です。人類誕生の原初の環境にまで遡って、人がどのようにものごとを認知し、記憶していくかのメカニズムを解説してくれます(例えば、猛獣や毒蛇に囲まれたサバンナで生き延びるために人はどのようにものごとを認知して記憶したか、というところまで遡って考察されています)。ここまで根源的に人間と広告とのかかわりについて考えた本は少ないですので(業界特性上どうしても時代の先端のメソッドを競い合って追い求める傾向にあります)、とてもユニークで参考になります。生物学上の遺伝子とは別に、言語の発達により伝わった知恵や知識を「文化的遺伝子」と定義し、「広告とはこの文化的遺伝子増殖のサポートをする仕事」とした結論もとても明快でわかりやすいと思いました。

51 大泉洋さんのエッセイ集です。タイトル通り、大学生時代から地方タレントさらには、全国区のメジャー俳優へと成長していく16年間を追体験できます(それに伴って文章も格段に上手になられています)。単行本化と文庫化時のおまけエッセイで、映画のヒット作を連発している今の大泉さんの心境も綴られていて、新しいファンの方にも楽しめる内容となっています。私は全国区になってから知ったので、「水曜どうでしょう」の細かいネタはあまりわかりませんでしたが、それでもサービス精神旺盛な内容と優しく素朴な人柄が伝わる文体に好感が持てました。一人の若手俳優のサクセスストーリーとしても読めます。


■CD
27 共鳴/チャットモンチー
28 My Life/Mary J. Blige

27 前作の「ハテナ 」や「きらきらひかれ」のような、キラーチューンはないですが、エレクトリック・ラップ風の「ぜんぶカン」など、いろんなタイプの曲がサポートメンバーを変えつつ、ごった煮的に収録されていて飽きさせません。散漫な印象になりそうなところを、ヴォーカルの橋本さんの特徴的な声で力技で統一感を持たせています。若干毒を含みつつポジティブな歌詞も素敵です。このバンドの地力の強さを感じさせられる力作です。

28 Mary J. Bligeの最高傑作として名高い2作目。最近の作品のようなエッジが立った楽曲は少ないですが、スローテンポの穏やかで地味な楽曲が多い中で彼女の歌唱力が際立つ内容となっています。不思議と音もクリアな感じがして、どっぷりと音楽に浸れ、とても心地よい体験ができます。ソウルミュージックの伝統を踏まえつつ、そこに、スクラッチ音等のヒップホップ的要素を控えめに絶妙のさじ加減で加えているところにセンスの良さを強く感じます。


■映画
39 トータル・リコール/監督 レン・ワイズマン

 記憶があいまいですが、アーノルド・シュワルツェネッガー版と大筋はほぼ同じ印象です。オーソドックスなディストピア・ストーリーがスピーディーに展開されていて楽しめます。CGが進化した分、近未来を描いた映像は美しいですが、逆にキャラクターは若干弱く感じます(よくも悪くも、アーノルド・シュワルツェネッガーの存在感はやはり絶大です)。主演のコリン・ファレルの他の作品で見せる独特の色気も抑え気味です。その分悪役のケイト・ベッキンセイルの憎々しい熱演が目立ちます。原作のよさを活かそうと、演出を控えめにしたのかもしれませんが、もう少しストーリーメリハリがあってもよかったかもしれません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ニコニコ哲学

2015-05-17 07:05:12 | Weblog
■本
48 ニコニコ哲学 川上量生の胸のうち/川上 量生

 最近、川上量生さんの、世間一般で言われていることとは違うけれども、極めてロジカルな正論にはまっています。ウェブメディアで連載されていたインタビューの単行本化ということでとても読みやすいです。川上さんの独特の思考がどのように生まれるのか(自分が考え抜いて納得したことしか信じないし、逆に自分が納得したことはロジックで丁寧に説明していくというのが基本姿勢であると私は理解しました)、について知ることができます。「エンジニアのサウザー化」(北斗の拳の登場人物のサウザーが愛が深い故にそれが失われた際の悲しみが深く、愛を求めなくなったエピソードを例に、エンジニアが女性社員と協力的に仕事ができない現象を指しています)など、オタク的な独特の言葉使いも楽しめます。競争相手の少ないビジネスをするためには、「少ない理屈でビジネスをするのではなく、間違った前提を正当化するためにたくさんの理屈を考えることが重要」とおっしゃるなど、最近流行の「経営戦略のストーリー化」にも通じる考え方を自然とされていて、やはり、成功する経営者だけあって、その思考の深さに唸らされます。


■CD
26 Wilder Mind/Mumford & Sons

 先行シングルの「Believe」を聴いたときは早くも今年のベストアルバムか、と期待したのですが、全体を通して聴くとクオリティは高いものの個性にいくぶん欠ける印象を受けました。前2作の個性的な荒々しい土臭さを犠牲にして、スケールが大きくクオリティの高い作品へとシフトしています。U2の「Joshua Tree」やColdplayの「A Rush of Blood to the Head」と同じような位置づけの作品だと思いますし、すでにこのバンドがこれらのビッグバンドと並び立つ存在になりつつあるのだと思いますが、これらの先人の作品と比べると一聴してこのバンドだとわかるインパクトが不足しています。とはいえ、最近このアルバムばかり聴いているので魅力的な作品であることは間違いなく、この壮大な野望を伴うモデルチェンジが成功したかどうかは、もう少し判断を留保したいと思います。仮に失敗しても変化の過渡期として、次作がより問題作となる予感がします。


■映画
37 セッション/監督 デイミアン・チャゼル
38 相棒シリーズ X DAY/監督 橋本 一

37 素晴らしい芸術が必ずしも素晴らしい人間によって創られるものではない、という皮肉がよく描かれている作品です。芸術の成否は、美や善よりも、情熱の「強さ」が重要であることをこの作品から学びました。アカデミー助演男優賞を受賞した、J・K・シモンズ が、スパルタ指導の鬼教官を、主役を食うほどの存在感で熱演しています(個人的には助演男優賞はイーサン・ホーク がふさわしかったと思いますが)。J・K・シモンズの演技とエンディングに向けての情熱的な演奏が注目されることが多いですが、緊迫感あるストーリーを見事に表現した映像と編集も素晴らしいです。決して楽しくないストーリーなのに(教官はかなりのゲス野郎です)、怒涛のエンディングの演奏とその後の二人の恍惚とした表情まで、一気に観終えた爽快感が残るのは監督の手腕だと思います。

38 「相棒」のスピンオフ映画といくことで、あまり期待してなかったのですが、これまでの「相棒」関連の映画で一番面白かったです。先の読めないストーリー展開に引き込まれますし、黒幕のスケール感が大きいところもよいです。右京さんの天才的な推理ではなく、地道な捜査の積み重ねにより謎が解き明かされていく展開が、わかりやすくて私好みだったのだと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コンテンツの秘密

2015-05-09 09:20:52 | Weblog
■本
47 コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと/川上 量生

 KADOKAWA・DWANGO会長の川上さんが、スタジオジブリでプロデューサー見習いをされていた際に、コンテンツについて考えられたことがまとめられている本です。「コンテンツとは現実の模倣=シミュレーションである」という冒頭のアリストテレスを援用した定義が、脳科学の知識を踏まえて、「コンテンツはクリエーターのヴィジョンを表現したもの」という定義へと進化し、「山賊の娘ローニャ」のプロデュースの経験やゲームクリエイターとの対話などを経て、「コンテンツとは”遊び”をメディアへ焼き付けたものである」へと至る、思考プロセスが非常に丁寧なロジックに基づいて語られていてとてもスリリングです。ジブリのアニメを題材に、「主観的情報量」と「客観的情報量」について考察されているところも実にわかりやすく、これまで漠然と感じていた優れたコンテンツに対する理解が深まりました。川上さんの地頭のよさがひしひしと伝わってきます。コンテンツを愛する全ての人にお勧めしたい良書です。


■映画
35 オブリビオン/監督 ジョセフ・コシンスキー
36 チャーリーズ・エンジェル フルスロットル/監督 マックG

35 予告編の映像と世界観が印象的だったので観ましたが、ほぼ予告編で全てが語りつくされていました。終盤のどんでんがえしは容易に想像できるものの、エンディングも含めてストーリーはよくできていると思うのですが、冒頭からの展開のテンポが悪いです。地球滅亡寸前の独特の世界観をじっくり説明したいという意図はわかるのですが、逆に終盤のストーリーが語りつくされてない感じがしたので、少し残念でした。

36 前作にも増しておバカ全開の軽い乗りです。キャメロン・ディアス、ドリュー・バリモアが実に楽しそうに演じています(下品過ぎてあまり魅力的には感じませんが)。短いエピソードを細かくつないでいるので、スピード感がある反面、行き当たりばったり感がすごいです。デミ・ムーアの悪役はとても格好良くて、その使い方だけには感心していたのですが、最後は実にあっけなくやられてしまって拍子抜けでした。もう少しコメディ要素とアクション要素のメリハリをつけた方がよかったと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愛について語るときに我々の語ること

2015-05-03 07:16:32 | Weblog
■本
42 日本戦後史論/内田樹、白井聡
43 図解 学校でも会社でも教えてくれない企画・プレゼン超入門!/京井 良彦
44 100%確実に売上がアップする最強の仕組み/加藤公一 レオ
45 伝え方が9割 2/佐々木 圭一
46 愛について語るときに我々の語ること/レイモンド・カーヴァー

42 先日お二人の対談を聴講したので読みました。対談の毒舌の切れ味はそのままに、より踏み込んで戦後の日本について書かれてあり興味深かったです。白井さんの「敗戦の否認」という概念は、今の憲法改正に向けた政府の周りくどいやり口を見ていると非常に説得力があります。結局は面子や甘えにとらわれた情緒的な対応ではなく、国益に足るしたたかな対応が必要なのに、それができていない点が今の日本の課題なのだと思います。この本でも書かれている通り、日本人の「極論を楽しんでしまう気質」(私個人もいったん壊して作り変えた方が早いと思うときがあります)も影響しているのだと思います。今の私達に(戦後押し付けられたにしろ理想的な)憲法を中心とした日本の体制を、抜本的に作り変えていいものができるとも思えず、そんな中でいろんな矛盾を抱えているものを、どう現実的に修繕していくのか、の現状認識と議論が大切なのだと思いました。

43 プレゼンに挑む若手社員のストーリー形式で、具体的にかつシンプルに企画書に必要な要素が解説されていて、実際の仕事に役立つよい本です。「目的」と「現状」とのギャップが「課題」で、その「課題」解決策が「企画」であると明確に定義されているところも頭の整理に役立ちました。提案を受ける側の状況も考慮に入れるなど、基本的なことにも触れられているところも参考になります。キャリアの浅い人だけでなく、日々の企画業務がマンネリ化しているベテラン社員にもお勧めできる本です。

44 こちらも具体的にダイレクトネット通信販売で売り上げや利益を拡大するためのノウハウが書かれた本です。筆者のまさにダイレクト通信販売的な、扇動的で自己の業績を褒めちぎる文体は、読者を選ぶかもしれませんが、書かれている内容はごく真っ当で実践的です。何より筆者も言われている通り、膨大なABテストを行った実績に基づくノウハウを、ごくシンプルな表現で書かれているところがわかりやすくて素晴らしいと思います。○%改善という成果のアピールは嘘はつかれていないと思いますが、母数がわからないので(100を300にするのと1000を3000にするのは同じ3倍ですが、その意味は当然変わってきます)若干割り引いて考えてもよいかもしれません。とは言え、この業種に関わっている方は読んで損はないと思います。

45 ベストセラー「伝え方が9割」の続編です。「伝え方が9割」で書かれているテクニック+αをより定着できるかたち(実例や筆者の講演の再録)で書かれているところが特徴的です。こちらも表現についてこれまで言われていることを、極めてシンプルでわかりやすい表現で語られている点が素晴らしいです。頭で理解するだけでなく、行動を変える可能性を秘めたよい本です。前作でも感じましたが筆者のコミュニケーションに対する信頼感がまぶしいです。

46 少し前に観た映画「バードマン」で主人公が舞台で演じていた表題作を読みたくて購入しました。レイモンド・カーヴァー作品は村上春樹さんの翻訳の「レイモンド・カーヴァー傑作選」で読んだことがあったのですが、今回読んだ作品集は、活き活きとした人物描写にはうならされるものの、それよりも悲惨で救いのない作品が多く、読んでいて少し辛かったです。その中で表題作「愛について語るときに我々の語ること」は、悲惨ながらも愛情に満ちた救いのあるとてもいい話で、村上春樹さんが巻末の解説で書かれている通り、抜きん出た作品だと思います。他の作品も人生の悲惨さを描ききった素晴らしい作品が多いですが、悲惨さの中の一片の希望を描いたこの作品を読むだけでも価値があると思います。「バードマン」でどの部分が映像化されているか(話の順番はかなりアレンジされています)を確認するのも面白いと思います。


■CD
24 The Magic Whip/Blur

 16年ぶりにオリジナルメンバーのグレアム・コクソンが参加し、前作「Think Tank」からでも12年振りの新作ということで期待して聴きました。全体的に輪郭がぼやけているというか、つかみどころのない作品です。そういう意味ではバンド名を一番体現した作品かもしれません。作風としては「BLUR」、「13」といったグレアム・コクソンが参加していた後期の作品に近く、地味ながらも印象的な曲が多いですが、名曲「Tendar」のようなエモーショナルな楽曲がなく、本当に淡々と歌っている印象です。かといって、デーモン・アルバーンのソロ作のようなリラックスした感じはなく、リスナーに妙な緊張感を強います。決して凡庸で退屈な作品ではないのですが、手放しで傑作と言うには気持ち悪く、なかなか評価が難しい作品です。もう少し聴きこんでみたいと思います。


■映画
31 相棒 -劇場版III-/監督 和泉 聖治
32 テッド/監督 セス・マクファーレン
33 中学生円山/監督 宮藤 官九郎
34 イミテーション・ゲーム/監督 モルテン・ティルドゥム

31 容疑者候補の民兵はリーダーと唯一の女性以外はキャラクターが弱すぎて犯人は容易に予想できますし、謎自体もとても稚拙です。「巨大密室、絶海の孤島」という割には、その孤島を活かすダイナミックな演出がなされていませんし、孤島という割には気軽に島の出入りが可能です。サスペンス物として期待するとがっかりしますが、水谷豊さん演じる杉下右京を筆頭に、各キャラクターを味わう映画と割り切ると、それなりに楽しめます。キャラを楽しむエンターテイメントなのに、最後に政治的なメッセージが出るのは余分だったかもしれません。

32 テディ・ベアのかわいいルックスから、シモネタや犯罪ギリギリの毒舌などきわどいギャグが満載で、そのギャップにとても驚かされます。ジャスティン・ビーバーなどセレブの実名を出したブラックなギャクも多く(そもそもエンディングのテイラー・ロートナーの意味がよくわからなかったですが)、ノラ・ジョーンズも本人役でえげつない発言をしているので、大丈夫かと心配になりました。でも、こういう作品がメジャーな作品として制作できてしまうところが、アメリカのエンターテイメント業界の底力ですね。子どもには絶対観せたくはないですが、大人が黒い感情を持て余したときに観るには最適な作品です。

33 こちらも中2男子のエッチでお気楽なコメディかと観ていたら、後半の悲惨な展開に面食らってしまいました。最終的にはコメディで終わるのですが、そのギャップの衝撃が強過ぎて個人的には最後までコメディの世界に戻ってこれませんでした。さすが、宮藤官九郎さんの監督作品だけあって一筋縄ではいきません。主役の円山君を演じる少年の体当たりの演技が素晴らしいですが、草剛さんの不気味で壊れた演技と坂井真紀さんのちょっとずれた色気も印象的です。最大の見せ場は遠藤賢司さん演じる認知症の老人。突然のパンクなギタープレイは圧巻でした。宮藤官九郎さん特有のスカシがこの作品では必ずしもいい方向に出ていない気がしますが、独特の世界観であることは間違いないです。

34 サスペンス、歴史物、人間ドラマ、ラブストーリーなどいろんな要素が入った脚本の完成度が非常に高く、作品世界に引き込まれ、あっというまの2時間弱でした。特に、主人公のアラン・チューリングを丁寧に多面的に描いている点が素晴らしいです。単なる傲慢な天才科学者やナチスの暗号を解読して多くの人を救った偉人、という表面的な形容を超えて、様々な葛藤や野心、善意、悪意を持った複雑な人間として描かれています。当時のイギリスでゲイの人間に対する偏見がこんなにも厳しいということを知らなかったので、戦後のアラン・チューリングの不遇に衝撃を受けました。「時に思いもよらぬ人間が、思いもよらぬ偉業を成し遂げることがある」というメッセージが心に残るよい映画です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする