本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

Cracker Island

2023-03-26 10:37:15 | Weblog
■本
23 プロジェクトのトラブル解決大全/木部 智之
24 ネット右翼になった父/鈴木 大介

23 仕事で関わっている大規模プロジェクトが終盤に差し掛かっているので、参考にしようと思い読みました。プロジェクト・マネージャーとして、数々の炎上プロジェクトに関わってきた方の本だけあって、プロジェクトの立ち上げから、クロージング、そして、その後のナレッジシェアにまで至る、実践的な知識が得られました。多くの人間がかかわることもあり、技術的な問題と同じくらい、リーダーとしての心構えやメンバーの心理面に対する配慮が強調されている点(懇親会や打ち上げのテクニックまで解説されています)が印象に残りました。「1つひとつの作業ごとにバッファーを置く」のではなく「バッファーをかき集めて最後に置く」(なぜなら、バッファーがあれば、人はそれを使ってしまいがちで、結局は本当に必要なときにバッファーが残っていないから)という、セオリーは特に参考になりました。この本で取り上げられているセオリーのうち、既に実践できているものも多く、自信にもつながりました。これからも、トラブルに陥りそうなときに読み返したいと思います。

24 衝撃的なタイトルですが、著者の鈴木さんの父親との関係の説明と、その父親がネット右翼的な発言をするに至った背景の考察が中心の内容で、読み応えがあります。要は、思想の異なる相手との分断を乗り越えるためには、人を安易にラベリングするのではなく、相手がそのような発言をするに至った背景と、自分がそのような発言を嫌悪する理由をしっかりと考察することが重要、という結論なのだと思いますが、実体験として悩まれた末の結論なので、難しくはあっても、分断を解消できる希望も感じます。団塊の世代の人たちが嫌韓嫌中となった背景として、在職時代に在日外国人からの恐喝やクレーム対応に苦労した経験があったから、という指摘はとても納得感がありました(私も理不尽なクレームを受けた経験のある企業の商品はあまり買いません)。その関係を容易に断ち切る訳にいかない親が相手だけに、それぞれの個人の性格の問題として捉えるのではなく、その背景を理解した上で、どのように歩み寄れるかを考えるという、とても面倒くさい作業をやり続けるしかないのだ思います。逆に子どもたちが、このような面倒くさい作業をできるだけしなくても済むように、私自身が時代の変化について行けるだけの柔軟さを保たねばという気持ちにもなりました。分断を乗り越えられる希望とともに、価値観を時代の変化に合わせてブラッシュアップできなくなる「老い」に対する恐怖心も高まりました。


■CD
1 Cracker Island/Gorillaz

 すっかり音楽はサブスクで聴くことが増えましたが、大好きなゴリラズ(というよりもデーモン・アルバーン)の新作ということで購入しました。一時は年間100枚以上CDを買っていたこともあるので、時代の変化を感じます。前作「Song Machine, Season One: Strange Timez」は、曲数も多く、ごった煮的な印象でしたが、本作は、しみじみと聴かせるいい曲だけを集めましたという感じで、あっという間に聴き終わります。スティーヴィー・ニックスと共演した、気だるい「Oil」や、終盤の盛り上がりがヤバい「Skinny Ape」など、メリハリの効かせ方も絶妙です。美味しいものを食べたときと同様に、聴いていて思わず頬が緩む、素敵な作品です。Blurが出演するサマー・ソニックにも行きたいと思っています。


■映画
20 ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男/監督 ジョー・ライト

 アカデミー主演男優賞を受賞したゲイリー・オールドマンの憑依系の演技と、そのメイクを担当した日本人メイクアップアーティストがアカデミー賞のメイクアップ&ヘアスタイリング賞を獲得したことでも話題になった作品です。ゲイリー・オールドマンの原型をほとんど留めないその技術には、もはやCGでよかったのでは、という気さえします。戦争に勝利したにもかかわらず、その後の選挙で敗北するなど、浮き沈みの激しい、ウィンストン・チャーチルという人物に個人的に興味を持っていたので観ました。その複雑な人物の細かい心の動きが、ナチスに対して劣勢だった当時の厳しい意思決定の背景と組み合わさって、巧みに表現されています。若い専属女性タイピストとのやりとりや、クライマックスの演説前の地下鉄での市民の交流など、いかにも作りっものっぽいエピソードも、この映画を魅力的にする上で効果的だったと思います。原題の「Darkest Hour」(日本での「ヒトラーから世界を救った男」という副題は安っぽくて好きになれません)の通り、決して明るい話ではないのに、欠点だらけの人間のポジティブな側面に焦点が当てられていて、心地よい高揚感が得られます。このあたりのジョー・ライト監督の構成力は素晴らしいと思います。戦争や政治に関する映画が苦手な方にもお勧めできる作品です。
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エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

2023-03-19 05:59:32 | Weblog
■本
21 人間/又吉 直樹
22 普通のサラリーマン、ラジオパーソナリティになる/佐久間 宣行

21 芥川賞作家の又吉さんの初の長編作です。ただし、純粋な長編小説というよりも、中編小説の連作という印象を私は受けました(特に第三章までと第四章は主人公こそ同じものの別作品のように感じました)。相変わらず、「創造」をテーマに、又吉さん自身の体験や心情をベースに描かれた私小説的な趣ですが、本作は、まんま又吉さんを連想させる芥川賞作家のコメディアンが主人公とは別の存在として登場することにより、かえって、リアルとフィクションの境目があいまいになり、西村賢太さんの作品のような生々しさは薄れ、ファンタジーの要素も持ち込まれています。とはいえ、各登場人物の思考の深さや面倒くささは又吉さんそのもので、自分の頭の中身を全てさらけ出す潔さとその切れ味の鋭さ(特にSNS上の心無い誹謗中傷と、それを煽るメディアに対する攻撃的な姿勢は痛快です)は圧倒的です。依然として女性キャラクターが男にとって都合が良すぎるなど、いろいろとツッコミどころはあるのですが、ここまで、又吉さんの小説と向き合う真摯な姿勢が感じれらると、次回作も期待してしまいます。何かを成し遂げるためには、もっと傷つかないといけない、という気にさせられる作品です。

22 「あちこちオードリー」などの人気テレビ番組プロデューサーの佐久間さんが、「オールナイトニッポン0」のラジオパーソナリティーとして語られたフリートークや、関係者との対談などが収録された本です。まず、佐久間さんのラジオに対する熱い思いが伝わってきます。フリートークの内容も抜群に面白く、サラリーマン生活の様々な機微の表現が巧みです。これだけお忙しい方なのに、娘さんの弁当作りや後片付けなどの家事もしっかりなされている点にも頭が下がります。好きなことを楽しみながら取り組むことの大切さにあらためて気づかされます。でも、佐久間さんは「普通のサラリーマン」ではないですね。普通のサラリーマンは、なかなか、ここまで自分のことを俯瞰的に見て、かつ、そのアウトプットに至るまでの経緯を明確に言語化できないと思います。ビジネス書としても読める本です。


■映画
17 エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス/監督 ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート
18 ONE PIECE FILM RED/監督 谷口 悟朗
19 追跡/監督 ラオール・ウォルシュ

17 今年のアカデミー賞で7部門を受賞した作品です。まず、アラ還女性(60歳のミシェール・ヨーがアカデミー主演女優賞も納得の引き出しの多い演技を見せてくれます)が主演のSFカンフーアクションを創ろうという発想が素晴らしいです。日本だとちょっと考えられないですね(若い女性を主演にした可能性がかなり高いと思います)。なかなかぶっ飛んだ発想だと思いましたが、監督がダニエル・ラドクリフを雑に扱って話題となった、怪作「スイス・アーミー・マン」のダニエルズだと知って納得しました。ベタなギャグも多く、松本人志さんが映画でやろうとしていたことを、より多くの文化圏の人にも共感できるかたちで表現することに成功しています。マルチバースの概念は「スパイダーマン」の最新シリーズを観ていないと少し理解しにくいかもしれませんが、あれだけの大ヒット作ですから、映画ファン共通の前提知識として処理してよかったのだと思います。「親の最大の敵は自分の子どもになり得る」というメッセージも、自立を控えた子どもを持つ親としては共感できました。「家族の葛藤と愛」という普遍的なテーマを、ぶっ飛びまくった設定で包んで、かつ、B級テイストのエンターテイメント作品として成立させた点がこの作品の勝因だと思います。この「B級っぽさ」を「高度な戦略」と捉えるか「薄っぺらさ」と捉えるかで評価が分かれると思いますが、私は、全面的に前者の立場を取りたいと思います。優秀なクリエーターの発想力の凄みを堪能できる作品です。

18 昨年日本で一番ヒットした作品です。ということで、親しみやすいポップな作品だと勝手に想像していましたが、優しく楽しい世界観は序盤のウタのライブシーンだけで、その後は、まさかのサイコスリラーっぽい展開で驚きました。こんなの小さいお子さんが観たら泣き出すんじゃないでしょうか? 逆にこのギャップが、観客の心に引っ掛かりを残して、大ヒットの要因の一つになったのかもしれません。当然ながら最大のヒット要因はAdoさんの歌唱力と、様々なアーチストが提供した楽曲のクオリティの高さ、そして、その音楽とシンクロした映像の素晴らしさだと思います。劇場の大画面、大音量で体感するのに最適です。ストーリーの方は、たくさんのキャラクターの処理が追い付いていないような気がしましたが、ファン向けの外伝として温かい目で観るのがふさわしいのだと思います。全体的な完成度としては、「鬼滅の刃 無限列車編」の方が高いですが、オリジナル脚本であることを考えると、この作品もアニメ化劇場版作品としての、新しい可能性を示したエポックメイキング的な作品だと思います。

19 1947年制作の西部劇です。いきなりクライマックスの危機のシーンから、過去の記憶を遡っていく構成のサスペンスタッチが、西部劇としてはユニークです。一方、メインの登場人物以外の命が、かなり残念な理由で軽々しく失われていく点は、いかにも西部劇っぽく興ざめです。血のつながらない兄妹の恋愛もありきたりです。それでも、ラストに様々な諍いの原因が明かされたときの衝撃はなかなかのもので(私は「おまえが悪いんかい!」とつぶやいてしまいました)、良くも悪くも、普通の西部劇を観ていては得られない感覚を体験できました。
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バビロン

2023-03-12 06:11:31 | Weblog
■本
19 日本人はなぜ「さようなら」と別れるのか/竹内 整一
20 「無理」の構造/細谷 功

19 世界の別れの表現は、Good-byeに代表される「神があなたとともにあらんことを祈る」という意味合い、「再見」に代表される「再び会いましょう」という意味合い、そして、「Farewell」に代表される「お元気で」という意味合い、のだいたい3つに分類可能だそうです。その一方で、日本人はもともとは「さようであるならば」という「前に述べられた事柄を受けて、次に新しい行動・判断を起こそうとするときに使う」、接続の言葉である「さようなら」を用いていることを題材に、日本人の世界観、死生観を過去の文献などを遡りながら解説してくれる本です。くどいと思うほどに丁寧に順を追って説明して下さるので、途中少しまどろっこしく感じましたが、その緻密な論理展開は参考になります。「自ら」と同じ漢字で表現される、「おのずから」という受け身で運命論的な側面と、「みずから」という主体的な側面とを行き来する、日本人の言語運用を、「さようであるならば」にも見出して、運命を受け入れつつも自分の意志も尊重する日本人の考え方についての理解が深まりました。「偶然性の問題」は私も最近よく考えるのですが、それを過大評価してニヒリズムに陥ることなく、かつ、過小評価してメリトクラシーの傲慢な非情さにも陥らない、謙虚さが重要だと感じました。死が無であり無でない、という感覚は正直わからない面が多いですが、日本の「さようなら」の背景にはこのような、あいまいさ、に耐える力があるということは心に留めておきたいと思いました。

20 名著「具体と抽象」の作者のコンサルタントの方が、世の中(主にビジネス上)の「理不尽さ」の構造について解説してくれる本です。「理不尽さ」の原因は、「対称性の錯覚」(本来同等でないことを同等だと思い込んでいること)にあると仮定し、コンサルタントらしく、さまざまな「非対称性」が構造化されています。そのほとんどは、究極的には「自分と他人」との非対称性(自分が他人を見る目と、他人が自分を見る目は決定的に異なっていること)にあると思うので、自分を俯瞰して見ることの重要性を再認識しました。他にも、「水は低きに流れる」「盛者必衰」などの昔から言い続けられている人間や組織の特性をビジネス環境に置き換えて説明してくれ、抵抗しても無駄な努力に終わることが多いという諦念を導き出してくれます。その一方で、「コミュニケーション」「公平」「教育」などの概念に限界や制限があると理解しつつも、「だからこそ」(相手を理解しようとするなどの)努力が必要であると訴える、ポジティブな側面も印象的です。要は、よく言われる「自分でコントロールできることとできないものを分けて、コントロールできることに努力を集中する」「自分や組織の思考の癖や歪みを考慮に入れて判断する」ことが重要なのだと思いますが、言うは易く行うは難しいこれらのことを、極めてロジカルに説明してくれるので、一歩一歩取り組めそうな気になります。「無知の知」が大切なことがよくわかる本です。


■映画
15 バビロン/監督 デイミアン・チャゼル
16 植村直己物語/監督 佐藤 純彌

15 「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督による1920年代の映画業界の混沌を描いた作品です。排泄物系のネタが多いことを筆頭にツッコミどころも多いですが、終始、ポール・トーマス・アンダーソン監督作品のようなハイテンションさで、個人的にはかなり気に入りました。アバターの続編と同じく、3時間超えの上映時間ですが、体感としては長さが全く苦になりませんでした(濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」のように、開始30分くらいで、タイトルクレジットが表示されたときはどうなることかと思いましたが)。音楽も素晴らしく、そのグルーブ感が短く感じた理由の一つです。マーゴット・ロビーの好感度を度外視した下衆い演技も素晴らしく、上流階級のパーティーでのご乱心シーンは痛快でした。この演技を権威ある組織が評価することは難しいかもしれませんが、何か賞をあげて欲しいほどです。ブラッド・ピットも怪演が評価された「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」からの良い流れを維持しています。ロバート・アルトマン監督の「ザ・プレイヤー」を思わせるような群像劇や、「アーチスト」でも描かれたサイレントからトーキーに流行が移り変わることによる悲哀、そして、「ニュー・シネマ・パラダイス」そのまんまのエンディングなど、映画をテーマにした過去作品への敬意も存分に感じられます。それでいて、デイミアン・チャゼル監督の作家性がこれでもかというほど感じられる力作です。ウエルメイドな「ラ・ラ・ランド」もよいですが、この破天荒なパワーは何にも代えがたい魅力だと思います。まだ若い監督なのに、キャリアの集大成的な作品にも思え、次回作が怖くもあり楽しみでもあります。

16 西田敏行さん主演の冒険家植村直己さんの生涯を描いた作品です。植村直己さんの不器用さや身勝手さなどの欠点を希釈することなく描きつつ、共感できる人物として描かれている点が好ましいです。植村さんが後に単独登頂にこだわる理由となった、登山家のエゴを真っ向から取り上げられている点も、私も学生時代に少し山登りをしていたのでリアルに感じました。撮影が困難だったであろう、山岳や極地の映像も素晴らしいです。一方、植村さんの著書を読んだことがあるので、映画向けに変な脚色がされていないことはわかるのですが、植村さんとその奥様との絆を描いたシーンは紋切り型で少し興ざめでした(よくある時代劇の夫婦関係のようでした)。とはいえ、植村直己さんの著書の印象に忠実に従った優しい作品だと思います。
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小説家を見つけたら

2023-03-05 06:34:14 | Weblog
■本
17 サラリーマン生態100年史/パオロ・マッツァリーノ
18 寺山修司全歌集/寺山 修司

17 日本文化史研究家のパオロ・マッツァリーノさんが、過去の文献や映画等を元に、サラリーマンと呼ばれる人々の生活がどのように変化してきたか(あるいは変化していないか)を解説してくれる本です。経費の使い方や秘書の扱いなど、コンプライアンス的に改善されたものがある一方で、メンタルヘルスの状況や新入社員の捉えられ方など、現在とあまり大差がないものがあるということがよくわかります。パオロ・マッツァリーノさんがよくおっしゃる通り、人間の本質とは100年程度ではそう大きく変わらないのかもしれません(その一方で法律や見せかけの規範は大きく変化している気がしますが)。同じく、通勤地獄の緩和や宴会での芸の強要など、サラリーマンにとって改善されたものがある一方で、謎のビジネスマナー(コロナ禍にリモート会議でのマナーなんてものも出てきましたね)や自己啓発セミナーなど、あまり本質的でない部分で振り回され続けていることもよくわかりました。会社で過去を持ち出して、精神論で説教する人の話はあまり真に受けない方がよいです。パオロ・マッツァリーノさんの相変わらずの軽妙な語り口で、読み物としても面白いです。

18 寺山修司さんの作品は「書を捨てよ、町へ出よう 」と「ポケットに名言を 」しか読んだことがなかったので、どんな短歌を詠まれるのだろうと思い手に取りました。血と土の匂いがする句の一方で、青空やもぎたての果物のような瑞々しい句もあり、その幅の人さに驚きました。肉親についての愛憎入り混じる句も印象的です。半分くらいの句は、正直あまり理解できなかったので、何度か再読したいと思います。
 跳躍の選手高飛ぶつかのまを炎天の影いきなりさみし
 中年の男同士の「友情論」毛ごと煮られてゐる鳥料理
の二句が特に印象に残りました。


■映画
13 斬る/監督 三隅 研次
14 小説家を見つけたら/監督 ガス・ヴァン・サント

13 独特の無常観が漂う時代劇です。エピソードの羅列でストーリーがテンポよく進みます。上映時間も71分と短く、説明しつくさない構成がクールです。その一方で、主人公は天才剣士であるにもかかわらず、その技を習得する過程が全く描かれていないので、説得力に欠ける面もあります。人間の命よりも面子や忠義が優先された時代の、歪さと尊さが血なまぐさくかつシャープに描かれています(上の本17で「人間の本質とは100年程度ではそう大きく変わらない」と書きましたが、命の重さは当時からずいぶんと変わった気がします。逆に、戦争状態になると一気に軽くなる危険性があるとも言えますが)。俯瞰とズームが入り混じる落ち着かない感じのカメラワークも、今となっては新鮮かつ効果的です。監督や俳優を中心に、創り手側の個性がむき出しで表現されている作品だと思いました。ある種パンクロック的です。

14 2000年の作品ですが、メリトクラシーや差別といった現在に通じる問題を巧みに取り上げた素晴らしい作品です。才気あふれる黒人少年と、偏屈な白人老小説家との心の交流という、ありそうでなかった組み合わせの妙を味わえます。学力が優秀な黒人の子どもが、周囲の友人に認められるために、あえて不良行為を行うという話を読んだことがありますが、そのあたりの微妙な問題や、その一方で、今の境遇から抜け出し夢を叶えたいという思いとの葛藤も丁寧に描かれています。老小説家を演じたショーン・コネリーの、この種の映画にありがちな偏屈さ一辺倒ではなく、可愛げや弱さを適度にまぶした演技が素晴らしかったです。少年の圧倒的な能力を利用しようとしたり、妬んだりする人間の醜さを執拗に描く一方で、支える側の人々の優しさが随所に描かれている点も、ガス・ヴァン・サント監督の優しい眼差しが感じられて好感が持てました。友情に年齢差は関係ないということと、家族愛や古い仲間との友情といった、ベーシックなものの大切さに気付かせてくれる作品です。エンドロール背景のストリートバスケの映像にしみじみとした気持ちになりました。
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