本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

ドラフト・デイ

2020-08-29 06:37:26 | Weblog
■本
77 続 学校に行きたくない君へ/全国不登校新聞社
78 同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか/鴻上尚史、 佐藤直樹

77 不登校経験者が、自ら会いたい人にインタビューをした内容を収録した本の続編です。前作と同様に、R-指定さん、谷川俊太郎さん、庵野秀明さん、宇多丸さん、糸井重里さん、荻上チキさんといった人選が個人的にツボでした。やはり、こういう言葉や表現を大切にする人々の話が、傷ついた経験のある人に対して、訴えかけるものがあるのかもしれません。谷川俊太郎さんが「詩人になるとは思っていなかった」とおっしゃっているのが意外でした。荻上チキさんの「大人は『行かなくていいよ』だけでは足りない。もう一歩ふみこんで、『行かなくてもこっちがあるよ』ということを提示しなければならないんです。」という言葉が個人的には印象に残りました。学校に適応できなかった子どもたちに、多様な選択肢を提示できる社会にしていかなければならないと思いました。それが結果的には、私たち自身の選択肢を増やすことにもつながる気がします。

78 タイトル通り「同調圧力」をテーマに、劇作家の鴻上尚史さんと「世間学」を専門にされている評論家の佐藤直樹さん(勉強不足のため私はこの本で初めてこの方を知りました)が対談された本です。私のように鴻上さんの書籍をこれまでに読んできた方には、これまでに何度も語られてきた、公的な「社会」の欠落と中途半端に影響力を持つ「世間」が、強い「同調圧力」を生み、日本の生きにくさの原因になっている、というお馴染みの主張の繰り返しに感じられるかもしれません。しかし、「自粛警察」など、新型コロナ後にますます日本における同調圧力が高まっている状況ですので、より切実な問題として伝わってきます。これまでの鴻上さんの主張に対して、佐藤さんが「世間を構成する4つのルール」として、「お返し(LINEメッセージが送られてきたら反応しないといけない気になる、など)」、「身分制(名刺などの肩書にこだわる)」、「人間平等主義(成功者に対する強いねたみ意識につながる)」、「呪術性(冠婚葬祭などの儀式にこだわる)」といった日本の世間に特有のルールを提示し、補強されている点が興味深いです。日本の美点とも取れる特徴を強く批判する内容ですので、日本に誇りを持っている人からの大きな反発が予想される内容ですが、閉塞感が増す新型コロナ後の日本社会の処方箋の一つとして、こういう考え方もあると寛容な姿勢で耳を傾けることは、「同調圧力」による生きにくさを軽減する一つのヒントになり得ると思います。


■映画 
73 ドラフト・デイ/監督 アイヴァン・ライトマン
74 SUNNY 強い気持ち・強い愛/監督 大根 仁

73 アメリカプロフットボールのドラフト当日の模様を描いた作品です。なんだかんだ言って、ケビン・コスナーが結構好きなので観ました。日本のプロスポーツと異なり、翌年以降も含む指名権自体を取引できるところや、決められた時間内に指名しないと指名権が無効となるなど(そのため、指名直前までさまざまな交渉がチーム間で行われています)、ドラフト自体が知的な駆け引きが繰り広げられるショーとなっている点が興味深いです。大切な当日になってチーム内の方針に食い違いが生じたり、女性問題や父親との確執に主人公が悩まされたりと、このチームや主人公の危機管理能力が心配になりますが、それでも、人情味あふれる選択が最後に功を奏するなど、実にアメリカらしいです。若干ご都合主義過ぎますが、ケビン・コスナーの微妙な演技も含めたB級感溢れるテイストにより、ファンタジーのような味わいが感じられ、爽快感のあるエンディングまでシンプルに楽しめました。

74 こちらも大人のファンタジーですが、エンディングこそ見事に着地しているものの(ある程度予想通りでしたが、それでも実にクールな演出でした)、かなり苦い後味が残ります。コギャル全盛期に女子高校生だった仲良し6人組の現状を、過去のエピソードと行き来しながら描くという内容ですが、その6人の置かれている状況がかなりハードです。その状況がハードだからこそ、友情の尊さがより際立つという構造になっているのですが、それにしても救いがあまりありません(ある登場人物によりこれらの不幸が一気に解消されるのですが、あまりにも非現実的です)。私が今の高校生なら、この映画を観て未来に希望があまり持てないと思います(ある意味時代を的確に抉り出しているとも言えるのですが)。大根仁さんは大好きな監督ですが、「SCOOP!」あたりから、「バクマン。」までにあった、突き抜けた痛快さから苦みが増している気がして、その点は個人的には、まだ、うまく消化できていません(私の理解が浅いだけなのかもしれませんが)。逆に言うと、観る側の感情を良くも悪くも大きく揺さぶる力を持った作品です。繰り返しになりますが、エンディングからエンドロールに至る見事な演出には多くの人が唸らされると思います。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

団地

2020-08-22 07:47:46 | Weblog
■本
75 仮想空間シフト/尾原 和啓、山口 周
76 危機の正体/佐藤 優

75 出版する本がことごとくビジネスパーソンの間で話題になるお二人が、コロナの影響による生活様式の変化について対談された本です。私もお二人の本に刺激を受けることが多いので読みました。基本的に、リモートワークが可能なホワイトカラーの視点で書かれているので(そもそものターゲット読者もそうだと思うので致し方ないのですが、「リゾートワーク」をこのタイミングで推奨されても反発する人がいらっしゃいそうです)、その点は批判が出るかもしれませんが、まず、全編にわたってこの変化を、明るい未来につながるポジティブなものとして受け止めようという姿勢が印象的です。山口さんが「ニュータイプの時代」などのこれまでの著書で指摘されていた、個々人の仕事に対するモチベーションや問題を作る能力の高さが、リモート化で上司や同僚による監視が緩む環境下では、より重要となることが強調されています。まとめの章にある10の行動規範の中では「ナメすぎず、ビビりすぎない」というところに共感しました。コロナのような予期できない事象に対しては、あくまで人間の能力の限界について謙虚に受け止めるとともに、そこから生じる変化に対して委縮することなく、自分のできること、やりたいことを柔軟に対応していくことが重要なのだと思いました。

76 同じく新型コロナの影響を、佐藤優さんはどのように捉えているのかを知りたくて読みました。歴史や宗教などの幅広い知識を背景に、新聞記事などのオープンな情報だけで、この変化の捉え方について、見事にわかりやすく解説してくれます。特に、富士通のアフターコロナの働き方改革のニュースリリースを引用しつつ、そこからテレワークを基本とした働き方への転換だけでなく、プロセス管理の重要性が比較的低くテレワークとの相性がよいジョブ型人事制度の推進や、その弊害としてのメンタルケアの重要性までをロジカルに説明されている点はさすがだと思いました。私自身の職場環境の変化に照らし合わせても参考になりました。最終章で佐藤さんお得意の安全保障や沖縄の基地問題の話にいきなり展開するのは、若干違和感がありましたが、予想した通り、75の本よりは、いささか悲観的な未来像も提示してくれているので、私自身のコロナに対するスタンスのバランスを取る上では有益な読書でした(特に「40代後半~50代のサラリーパーソンには、ギリギリまでいまの会社にしがみつくことをお勧めします」とおっしゃる部分は身に沁みました)。結局は、個々人では抵抗しきれない変化は柔軟に受け入れ、したたかに対応していくしかないのだと思います。


■映画 
71 MEG ザ・モンスター/監督 ジョン・タートルトーブ
72 団地/監督 阪本 順治

71 良くも悪くもB級感溢れる作品です。頭を空っぽにして巨大サメの恐怖を堪能できます。米中合作の作品で、中国の最先端の海洋研究所を舞台にしているところも今風でユニークです。主演のジェイソン・ステイサムもこのB級感にピッタリとはまっています。その一方で、若干コメディテイストを残したためか、数々の危機がサメ側の強大な力によるというよりも、人間側の浅はかさに起因していることが多いです。そのため、登場人物にはあまり共感できません(ほとんどの危機が人災です)。映像は大迫力で、これだけの予算をかけるのであれば、脚本を強化してもっとメジャー感溢れる作品にできたのでは、という気もします。実際の米中関係もこの映画のエンディングのように微笑ましい感じになればよいのにと思わせる、ほのぼのとしたパニック映画です(矛盾した表現ですが)。

72 こちらもB級感たっぷりのコメディ作品ですが、低予算を逆手にとって、阪本順治監督の職人技が際立った、素晴らしい作品に仕上がっています。団地という閉鎖された空間の中で、コメディエンヌとしての藤山直美さんの凄みに、見事に焦点が当てられています。藤山直美さんが主演の「顔」という作品は阪本作品の中で、個人的に最も好きな作品の一つですが、本作でも監督の藤山さんに対する信頼感が画面から溢れ出てきます。ギャグは大阪出身の私でもかなりベタなので、万人に受け入れられないかもしれませんが、その間の良さと(夫役の岸部一徳さんの飄々とした演技が最高です)B級感でコーティングしているので、独特の味わいとなっています。同じく団地が舞台のポン・ジュノ監督の長編デビュー作「ほえる犬は噛まない」と、滑稽ながらも閉塞感のある人間関係を描いている点で似たような印象も持ちました。極めてミニマムな人間関係を描くことによって、宇宙スケールの概念を表現しようという試みが素敵です。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

キングスマン

2020-08-15 09:51:05 | Weblog
■本
73 街場の親子論/内田 樹 、内田 るん
74 小説 天気の子/新海 誠

73 内田樹さんと一人娘のるんさんとの親子関係をテーマにした往復書簡集です。るんさんが6歳のときに離婚して、その後、樹さんが一人でお子さんを育てられたという話は、断片的にこれまでの著作でも書かれているのですが(特に自伝的語り下ろしの「そのうちなんとかなるだろう」にそのあたりの経緯が詳しく書かれています)、なぜ、るんさんがあえて父親についていったか、(そして高校卒業後に今度は母親と一緒に住むようになったのか)が、お子さん側の視点からも明かされていて興味深いです。著名な知識人が一人で子供を育てるというかなり特殊な状況なので(特殊でない親子関係なんてあるのか、とお二人からはお叱りを受けそうですが)、内田さんのファン向きの内容ですし、こんな親子関係もあるのかといった感じで読むのがよい気がします。樹さんの親に対するクールな姿勢(ただし、感謝はしている)とるんさんのウエットな姿勢(ただし、屈託はかなりある)との対比も興味深いです。

74 昨年大ヒットした映画のノベライズ版です。今思えば、新型コロナの影響を予言したかのような内容だったので、このタイミングで読んでみました。当たり前ですが、映画に忠実な内容ですが、大人の登場人物の心理描写が映画よりも丁寧に描かれている点が興味深かったです。一方で、文字にして読むと、拾った銃にまつわるシーンのご都合主義的な展開が少し気になりました。それでも、その物語の持つパワーと、若い世代を全肯定したいという新海監督の熱い思いは素晴らしいと思います。読み終わると親目線で、この不自由な状況でも若い世代が楽しく、将来に希望を持って進んで欲しいという気持ちになりました。


■映画 
69 劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜/監督 瑠東 東一郎
70 キングスマン/監督 マシュー・ヴォーン

69 ドラマ版がかなり話題になっていたので観ました。おっさんたちが、男性相手のピュアな恋愛感情に翻弄されるという構造が新しいです。また、コメディではあるものの、田中圭さん、吉田鋼太郎さんといった名優が、真剣に熱のこもった演技をされている点も素晴らしいです。制作側が映画版のために気合が入り過ぎたのが、登場人物の部分的な記憶喪失という強引な設定や、普通のサラリーマンなのにクライマックスで爆薬を用いた派手なシーンに巻き込まれるといった力技もご愛敬です。繊細な配慮が必要なテーマに対して、大真面目に取り組みつつ、笑いに転嫁しているところが見事です。ただし、お金を払って映画館で観ていたら、もう少し辛い評価になっていたかもしれません。いずれにしても、テレビドラマとしては理想的な楽しい作品です。

70 こちらも評判の良い作品で、ずっと観たいと思っていました。キャラクターはスタイリッシュな王道のスパイ映画ですが、殺人シーンの過度にグロテスクな描写やいささか下品な性的表現は想像とは異なっていました。この奇妙なミスマッチが、現代的でこの作品に独特の魅力を与えています。前半の物語を引っ張ってきた主要人物を中盤であっさりと殺してしまう潔さも、ハリウッド映画にはなかなかない展開でユニークです。温暖化は地球に寄生したウイルスである人間が増え過ぎ地球が発熱したためだ(なので人口を減らさねばならない)、という悪役の発想は、コロナ禍の状況で観るといろいろと考えさせられます。007を思わせるギミック満載のスパイグッズや、悪役が目的達成のために無料でシムカードを配るというリアリティのある設定など、細部への配慮も行き届いています。家族で観るときには少し注意が必要になりますが、作り手側のこだわりとエンターテイメント性とが両立した素敵な作品です。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

うっかり鉄道

2020-08-08 09:45:34 | Weblog
■本
71 うっかり鉄道/能町 みね子
72 御社の新規事業はなぜ失敗するのか?/田所 雅之

71 新型コロナの影響で、なかなか鉄道旅もできないので読みました。鉄道をテーマにしながら、目的の駅までタクシーで移動したり、乗り継ぎ時間が長い場合には駅間を徒歩で移動することも厭わないなど、その自由な発想に衝撃を受けました。路線を踏破することにも固執せず(私はそこに価値を見出す乗り鉄なのでなおさら)、自分の好きな駅舎や琺瑯看板を見るためだけに移動する姿勢も興味深かったです。鉄道の楽しみ方は人それぞれで、その視点によっては無限の楽しみ方があるということを教えてくれるとても良い本です。個人的には、国の登録有形文化財にも指定されている嘉例川駅から、鹿児島空港まで歩かれたエピソードは是非真似してみたいと思いました。先日の大雨で肥薩線は不通状態ですが、復旧されたら是非乗ってみたいと思います。

72 タイトル通り、企業内で新規事業が成功しにくい理由を分析し、その処方箋を提示してくれる本です。ベンチャーではなく、比較的大きな企業での新規事業をテーマにしているところが類似書と比較してユニークです。これまでのコアビジネスを担う部署(1階)、ある程度芽が出てきた新規事業を担う部署(2階)、未来のマーケットを生み出す破壊的イノベーションを担う部署(3階)を分けた、3階建て組織を構築し、それぞれのKPIを別に設けて推進すべしというのが、この本の結論です。結論としてはシンプルでありきたりですが、PEST、イノベーションのジレンマやリーンスタートアップといった、これまで、この分野で語られてきた様々なフレームワークや理論とうまく絡ませながら、説得力を持って結論へと導く語り口が見事です。破壊的イノベーションを担う部署のソリューションとして、オープンイノベーションを強調されている点は若干安易に感じましたが、日本の大企業で務める人が内部と外部のリソースを融合させて、未来のマーケットを生み出していくために必要なマインドセットや方法論をコンパクトに学ぶ上では、有益な本だと思います。


■映画 
66 ギターを持った渡り鳥/監督 齋藤 武市
67 劇場/監督 行定 勲
68 天才バカヴォン〜蘇るフランダースの犬〜/監督天才バカヴォン〜蘇るフランダースの犬〜/監督 FROGMAN

66 そういえば父が大好きだったな、と思い出して観ました。いかにも昭和感たっぷりの、暴力シーンの多いアウトローものです。主人公も悪役も情緒不安定か、と思うほど、場面場面によって魅力的な人だったり、極悪人だったりしますが、まあ、それが人間なのかもしれません。主人公の亡くなった恋人に対する一途な思い、敵対していても通じ合う男同士の友情、好きな男性が去っていくのをじっと耐え忍ぶ女性といった、紋切り型の表現も一種の様式美です。主演の小林旭さんよりも、悪役の宍戸錠さんの方が魅力的でした。あと、若い浅丘ルリ子さんの美しさも目を引きました。戦争の爪痕も残る昭和30年代の作品で、当時はいろいろと大変だったと思いますが、活気があってよいなと思う面もあります。

67 又吉直樹さんの原作を行定勲さんが映画化されているということで、ある程度は予想していましたが、やはり、甘々なラブストーリーでした。原作を読んだときにも感じましたが、松岡茉優さんのキャラクターもあり(非常によい演技をされていたとは思うのですが)、主人公の恋人が、男性にとって都合がよすぎる点が、やはり気になりました。又吉さんのエッセイにも登場しているエピソードなので、実話をベースにしている話だとは思いますが、あまりにも素直過ぎるそのキャラクターに現実感は感じませんでした。そういう意味では、原作にはない、エンディングの演出は見事だったと思います。その工夫により、キャラクターのリアリティのなさを逆手にとって、ファンタジー的な余韻を残すことに成功しています。結構感動しました。逆に、原作では素晴らしかった、吉祥寺の街並みの何気ない描写が少なめなところが、個人的には物足りませんでした。

68 引き続きFROGMAN作品を。公開当時は、天才バカボンとフランダースの犬との、あまりにも奇抜な組み合わせに、キワモノ作品だと勝手に判断して観ていませんでしたが、ブラックなギャクが満載の安定のFROGMAN節でした。バカボンのパパが、鷹の爪団の吉田くんと同様のトリックスターとして、存分に活躍します。振り回される側の存在が、内閣情報局職員である点や、その上司や首相が全くの無能である点も風刺が効いています。タイトルが「バカボン」ではなく「バカヴォン」となっている謎も、うまく機能しています。「これでいいのだ」というキメ台詞の徹底的な肯定感に励まされます。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アフターデジタル2 UXと自由

2020-08-01 04:34:37 | Weblog
■本
69 アフターデジタル2 UXと自由/藤井 保文
70 うつ病九段/先崎 学

69  デジタルトランスフォーメーション(DX)をテーマにし、昨年話題になった本の続編です。前作以上に地に足のついた内容ですし、ユーザーエクスペリエンス(UX)改善を、我々が生きる上での自由獲得手段であるとした、志の高い社会運動的な視点もあって、とても参考になりました。特に、「保持しているデータそのものが財産」というのは幻想と喝破し、そのデータを「ソリューション化して、活用できないと持っていても意味がない」と、データのUX改善への活用を強く主張されている点が印象に残りました。また、そのようなユーザーへの利便性の還元を重視する姿勢を、成功している中国企業が既に身につけていることから、データが過剰に収集されることによる、管理社会のようなディストピアにもならないと指摘されている点も納得感があります。単なる中国の先進事例の紹介に留まらず、社会や市場環境の変化を見極めて、提供価値を見直すことの重要性を強調されるなど、遅れていると見られがちな日本企業の状況分析やその処方箋について書かれている点も素晴らしいです。DXについて語る上で、まず読まれるべき本だと思います。

70  大傑作漫画「3月のライオン」の監修者でもある有名な棋士、先崎九段によるご自身のうつ病闘病記です。西原理恵子さんの漫画で、先崎さんがうつ病であることは、存じ上げておりましたが、その発症が突然で死を意識するほど重症だったとは知らなかったので、驚きました。それでも、ご本人の将棋に対する情熱と、精神科医であるお兄様の的確な助言、そして、奥様や棋士仲間の温かいサポートにより、回復に至るまで長期化しがちなこの病気に対し、約9ヵ月で本を書けるまでに復活されたことにも関心しました。とはいえ、将棋の感覚が以前のように戻っていないという、勝負師ならではの悩みがあることも理解できます。うつ病は、人生の様々な疲労の蓄積により誰にでも発症し得ること(先崎さんの小学校時代の壮絶ないじめ体験も影響しているのかもしれません)、そして、適切な休養と周囲のサポートがあれば、必ず治る病気であることが、よく理解できる非常に有益な本だと思います。体調が万全ではない中での、先崎さんの素晴らしい文章にも感心しました。

■映画 
64 東京オリンピック/監督 市川 崑
65 見えない目撃者/監督 森 淳一

64 本当なら今ごろ2020東京オリンピックが開催されていたのに、と思いながら1964年東京オリンピックの公式記録映画を観ました。当時も論争になったそうですが、競技の切り取り方、カメラアンクル、そして、背景音楽の作家性がかなり強いので、記録映画として観ると若干違和感を感じます(特に、音楽が高揚感よりも緊張感や不安感を煽るサスペンス映画で用いられそうなものだったので、時代を感じました)。誰がどの種目で金メダルを取ったのかもほとんどわかりませんので、昨今のメダル獲得状況重視の報道に慣れた身としては、なおさらです。逆に、この監督やスタッフがこのオリンピックをどのようにとらえたかがよくわかり興味深いです。女子バレーボールの日本の金メダルと男子マラソンにかなりの時間が割かれていて、少なくとも日本人にとっては、この2種目がクライマックスだったのだと、その熱量の高い映像から伝わってきます。

65 外れの多い印象の吉岡里帆さん主演映画ですが、この映画は最後まで緊張感があってよかったです。コメディエンヌとして扱われることも多い吉岡さんですが、どうしても上滑り感があるので、陰やクセのある役の方があっているのかもしれません。実績のある韓国映画のリメイクと言うことで、主人公の過去や彼女をサポートする同じ事件の目撃者の高校生といった設定がしっかりしています。また、タイトル通り目の見えない主人公の恐怖が、音響や手書きスケッチを用いた映像上の工夫により巧みに描かれています。警察もっと頑張れよ、という気もしますし、猟奇的な犯人が紋切り型なので、終盤ちょっと失速しますが、全体的にはよくできた作品だと思います。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする