本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

スクリーンが待っている

2021-02-27 07:15:33 | Weblog
■本
17 スクリーンが待っている/西川 美和
18 泣きたくなるような青空/吉田 修一

17 先週観た「すばらしき世界」が素晴らしかったので、その制作過程などにも触れられた西川監督のエッセイも読みました。最初のエッセイが2018年6月に掲載されたもので、公開が今月ということを考えると当たり前ですが、映画というものが長い時間と多くの人々の努力の積み重ねで成り立っていることがリアルに伝わってきます。企画、取材、脚本、俳優との顔合わせ、撮影、編集、録音、宣伝などその時点の作業をテーマにしたエッセイがほぼ時系列で掲載されているので、映画がどのようなプロセスを経て世に出されるのかということもよく理解できます。助監督、制作部、助手、撮影監督、俳優などとの人間関係の悩みや、撮影場所のさまざまな制約やその交渉、そして、新型コロナウイルスの影響など、他の仕事にも共通する苦労話も興味深いです。「永い言い訳」主演の本木雅弘さんが、ずいぶん面倒くさい人物であるように描かれている一方で、「すばらしき世界」に出演されている役所広司さんや仲野太賀さんが絶賛されている点と、西川監督ご自身の象徴のような役で出演されていた長澤まさみさんに関する記述が一切ない点も面白いと思いました。

18 芥川賞作家吉田修一さんがANAの機内誌に連載されているエッセイ集の4作目です。その性格上旅をテーマにしたものも多く、コロナ禍で移動の制限のある状況で読むと、旅に行きたくなって身体がむずむずします。特に富山県南砺市利賀村の描写が印象的で、機会があれば是非行ってみたいと思いました。タイトルにもなっている「泣きたくなるような青空」は那覇空港から見える青空を指してのことなのですが、私も昨年帰りの飛行機に乗る前に那覇空港で見た青空がとても印象に残っていたので、とても共感しました。


■映画
16 昼下りの決斗/監督 サム・ペキンパー
17 賭ケグルイ/監督 英 勉

16 似たようなものが多くあるパチもんっぽいタイトルですが、「ワイルドバンチ」の評価が高いサム・ペキンパー監督作品ということで観ました。派手さのない渋い西部劇ですが、人間の信念の尊さを描いた味わい深い作品です。無軌道な若者と思慮深く狡猾な老人との対比も巧みです。西部開拓時代の無法さと、現代日本にも通じる地方社会での若者の生きにくさの描かれ方も印象的です。枯れた感じの友情の余韻が残るエンディングは苦みもありますが、不思議な清々しさも感じます。

17 今をときめく浜辺美波さんがぶっ飛んだ演技をしているということで観ました。先週観た「カイジ」シリーズの世界観を、若手の勢いのある俳優で表現したかのような作品です。テレビドラマシリーズの延長線上の作品なので、登場人物の紹介が簡潔過ぎて、私のように映画で初めてこの作品に接した人にとっては若干わかりにくいと思いますが、ストーリーは極めてシンプルなのですぐになじむことができます。賭けのルールや心理戦もわかりやすく、展開は容易に予想できるものの、コミカルな世界観が楽しかったです。浜辺美波さんだけでなく、福原遥さんや矢本悠馬さんといった子役上がりの役者さんが、やり過ぎなくらいキャラに徹した演技をされていてインパクトも絶大です。
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すばらしき世界

2021-02-20 07:33:02 | Weblog
■本
15 何とかならない時代の幸福論/鴻上 尚史、 ブレイディみかこ
16 雑草はなぜそこに生えているのか/稲垣 栄洋

15 「同調圧力」などの著者の鴻上尚史さんと「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 」などの著者のブレイディみかこさんとの対談ということで、読む前から内容(日英社会それぞれの生きにくさと、それでも日本に比べて優れている英国の教育などの諸制度やマインドセットについての議論が中心です)はある程度予想できましたが、日本社会の問題点を相対的に理解するのに役立つ満足感の高い内容でした。ブレイディみかこさんが、ジョン・ライドン好きが高じてイギリスに住むようになったというエピソードや、日本が20年以上物価も賃金も上がらない変化に乏しい国であるということを繰り返し述べられている点が興味深かったです。演劇を学ぶ意味として、この本のテーマでもあるエンパシー(その人の立場を想像してみる能力)を磨く上で有益であり、他社を説得するために有効なツールでもあるという指摘は、そのような観点から演劇について考えたことがなかったので新鮮でした。また、外国人が日本について「客としてはこんなに天国な国はない」(間違っても日本で働いて自分の国で客になったらダメ)と言っているという話も印象に残りました。過度に卑下することも虚勢をはることもなく、日本という国の今の実力を正しく理解した上で、よいところ悪いところを理解することが大切なのだと思います。

16 最近読む本のジャンルや作者が偏っていたので、普段読まないテーマの本を読んでみました。それが大当たりで、とても興味深い素晴らしい内容でした。雑草の生存戦略について詳しくかつわかりやすく解説してくれるのですが、人間が社会の中でサバイブしていくためにも有意義な知見が満載です。中高校生向けに書かれた「ちくまプリマー新書」ということもあり、人生の先輩から若者に贈る言葉といった文体も好感が持てます。植物の成功要素として、競争に強い、ストレス耐性がある、攪乱(環境変化)に対応できる、の3つが挙げられている点が興味深かったです。競争力やストレス耐性が比較的劣っても、環境適応能力があればなんとか生き残っていける(逆に環境適応能力が多少劣っていても、ストレス耐性があれば生き残っていける)という知恵は、少しでも楽に生きていく上で有益なものだと思います。また、「雑草とは、いまだその価値を見出されていない植物である」という言葉にも感動しました。自然界が結果的に助け合って共存している様子を「何の道徳心もない自然界で選び抜かれた戦略の、なんと道徳心に満ちているいることだろう」と表現されている点も印象的です。我々は崇高な道徳心がなくても、利己的な生存戦略上の観点からも、自然や周囲との共存を模索する必要があるのだと思います。


■映画
14 カイジ ファイナルゲーム/監督 佐藤 東弥
15 すばらしき世界/監督 西川 美和

14 さほど面白い印象はないのですが、なぜか観てしまう映画版「カイジ」シリーズの3作目です。主演の藤原竜也さんを筆頭に、大物俳優の漫画的な演技合戦が見物です。1,2作目の香川照之さんに代わり、本作では吉田鋼太郎さんが敵役を濃ゆく演じられています。俳優に予算を使い過ぎたのか、1,2作目に比べるとセットがチープで、ギャンブルの内容もこじんまりとしている気がします。心理戦のどんでん返しも、ギャンブルのルールがわかりにくく、いまひとつ頭に入ってきませんでした。カイジが飲み食いするシーンは実に美味しそうです。

15 公開されると無条件で観に行く監督のひとり、西川美和監督の新作です。前二作もかなりの衝撃は受けたものの、個人的にはいまひとつしっくりとこなかったのですが、本作は名作「ゆれる」に匹敵する文句なしの傑作です。善悪や人生の意味に対する安易な二元論をストイックなまでに避ける脚本とその人物描写に、ただただ圧倒されます。役所広司さんが単純なようで複雑な主人公を、鬼気迫る一方でどこか力の抜けた凄みのある演技で、この見事な脚本に応えています。主人公を取材するTVディレクター役の仲野太賀さんの、えげつない脚本と主演俳優に必死で食らいついている演技も素晴らしいです。終盤バッドエンドの予感をさせながら、観客の予想を裏切りハッピーエンド的な匂わせをさせたかと思うと、その想像も裏切るという、西川監督の性格の悪さに翻弄されました。「湯を沸かすほどの熱い愛」を観たときにも思いましたが、ラストにタイトルが表示される映画ってインパクトがあり格好いいです。観終わったあとも、タイトルを皮肉ととるか字義通りに取るか、いろいろと考えさせられましたが、私は3周くらい回ってポジティブなものと理解しました。観終わったあとで、世界の見え方が変わるような凄い作品です。
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長いお別れ

2021-02-13 07:03:34 | Weblog
■本
13 ひとりビジネスの教科書/佐藤 伝
14 現代哲学の最前線/仲正 昌樹

13 特に個人事業主になる予定はないのですが、定年後の生活も視野に入れて勉強してみようと思い読みました。税や保険など、個人事業主に必要な制度面の知識も得られると勝手に思って読み始めましたが、主にマーケティングについて書かれた本なので少し期待外れでした。「ひとりビジネスの『マーケティング』の教科書」が正しいタイトルだと思います。大企業向けに考えられることの多い、マーケティングのフレームワークを個人ビジネス向けにわかりやすく翻訳されています。特にデジタルマーケティングについては詳しく書かれているので、この分野の知識を得たい人には有益だと思います。

14 「資本論」に関する本を続けて読んだので、勢いに乗って現代哲学の最前線について学んでみたいと思いましたが、正直私の力不足であまり理解できませんでした。そういう意味では、「はじめに」で筆者が書かれている「もっと知りたい、 自分で考えたい、という願望を喚起する構成」になっている本だと思います。現在最もホットであると筆者が考えられている「正義論、承認論、自然主義、心の哲学、新しい実在論」の五つのテーマの議論の状況について説明して下さっています。個人的には、AIの可能性とからめた「心の哲学」の議論が興味深かったです。全編を通して、哲学というものは自分自身について様々な角度から考える学問であるという認識を持ちました。「あとがき」の「今まで全然分からなかった〝 哲学〟が、急に『したたかに生きるための知恵』に思えてきたら、要注意だ。」というコメントに反省しました。最近そのように思えていたので、自分の頭で考えるよう努めたいと思います。


■映画
11 名探偵コナン 時計じかけの摩天楼/監督 こだま兼嗣
12 きみと、波にのれたら/監督 湯浅 政明
13 長いお別れ/監督 中野量太

11 長期間にわたって人気があり、シリーズ化されている「名探偵コナン」、「クレヨンしんちゃん」の映画版を少しずつ観て行こうと思っています。こちらは、「名探偵コナン」シリーズの映画化第一弾の作品です。第一弾ということもあってか、推理的要素よりもキャラクターの紹介に重点がおかれていて、工藤新一と毛利蘭の関係性やターボエンジン付きスケートボードといったコナンの使う道具などを知ることができ、シリーズにそれほど詳しくない私にとっては、取っつきやすい内容でした。そつなくまとめられたエンターテイメント作品ですが、映画版っぽいスペシャル感があまりない点が少し物足りませんでした。

12 「夜は短し歩けよ乙女」など、湯浅監督のリアルとファンタジーの境目があいまいな世界観は素晴らしいと思うのですが、この作品はたぶん私がそのターゲット(10代後半から20代前半を想定しているような気がします)ではないということもあり、その甘すぎる恋愛観にちょっとついていけませんでした。主要登場人物の死の扱いや残された側の喪失と再生の描き方も、ありきたりです。なにより、さまざまな事件を起こす若者たちの身勝手さに怒りすら感じました。私がこの作品を楽しむには歳を取り過ぎているということなのだと思います。

13 大傑作「湯を沸かすほどの熱い愛」の中野監督の作品です。中野監督らしく「家族」を題材に、認知症になった父親の発症から死に至るまでの約10年間(この期間がタイトルの「長いお別れ」を示唆しています)がそれぞれの家族のエピソードとともに描かれています。「湯を沸かすほどの熱い愛」のようなストーリーの激しさやスピード感はないですが、個々のエピソードのさりげなくも重みのある描き方(ビデオ通話の画面越しに無言で心を通わせ合う祖父と孫の描写が特に好きです)が非常に巧みです。介護という先の見えない営みの割り切れなさを、割り切れないまま取り上げている点も好感が持てます。一人の老人の死が未来ある少年の成長の兆しにつながるエンディングも派手さはないですが、じわじわとした余韻を残してくれます。長女役を竹内結子さんが人間味全開で演じられている点も、いろいろと感慨深いものがありました。次女役の蒼井優さん、母親役の松原智恵子さんの演技もただただ素晴らしいです。中野量太監督のこの次の作品「浅田家!」はまだ観ていないので、早く観たいと思います。
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人新世の「資本論」

2021-02-06 06:50:13 | Weblog
■本
11 人新世の「資本論」/斎藤 幸平
12 伊藤くんA to E/柚木 麻子

11 最近「資本論」に関する本が続いてましたので、かなり売れているらしいこの本も読みました。冒頭の「SDGsは大衆の『アヘンである!』」(SDGsが免罪符となって、地球の温暖化に対する真に必要なアクションにつながりにくくなるという意味で使われています。私の最近の「SDGs」に対する違和感を見事に言い表して下さっています)という表現に象徴されるようにかなり挑発的な内容です。それだけ、温暖化に対する筆者の危機意識が高いのだと思います。要旨としては、地球の温暖化による環境破壊は、経済成長を放棄しない限り回避できない状況にまで追い込まれており、そのため、資本の無限の増殖を目指す資本主義は放棄しないといけない。しかし、市場に変わる富の分配方式として、国家の権力が拡大することも、人々の自由を大幅に制限する可能性があるので避けなければならない。かといって。無秩序な野蛮状態に戻るのは論外である。従って、人々が目に見える範囲のコミュニティが世界規模で連携し、成長を目的としない自主管理や相互扶助の仕組みを強化すべき、というものだと理解しました。極めてロジカルに議論が進み理解しやすい内容で、共感するところも多いです。個人的には、資本主義の発達により都市化が進んだ面もありますが、地縁血縁に縛られた共同体の息苦しさを脱するために都会に出た人々も一定数存在すると思いますので、市場原理や国家権力以上のシステムとして駆動する力が(個々人の善意や道徳心にのみに頼るのではないかたちで)、筆者が主張するコミュニズムにあるのかという点がポイントだと思いました。そういう意味では行動経済学の重要性が増すのかもしれません。コミュニティへの参加は、アラフィフの私の今後の人生設計においても重要だと思いますので、まずは参加してみて、息苦しく感じることのないコミュニティはどのように形成していけばよいのかを学んでいきたいと思いました(そんな悠長なことを言っている時間は地球には残されていないと斎藤さんには叱られそうですが)。

12 先日読んだ佐藤優さんの「人類の選択」という本で「人間の負の感情」を扱った小説の例として取り上げられていたので、映画化作品は観たことがあるのですが、原作の方も読んでみました。脚本家を目指すアラサーフリーターの伊藤くんとその周囲の5人の女性(AからE)、そしてその後輩のクズケンの行動や心理描写を通じて、人間の自意識の過剰さによる生きにくさが、これでもかというほど描かれます。それぞれの登場人物が抱えている生きにくさが、グロテスクなかたちで爆発するのですが、カタルシスを得られたのか、伊藤くんを除く登場人物の爆発後の心理描写や行動の後味は悪くはないです。伊藤くんの爆発後の描写はないのですが、彼なら自分の身を守るために全てを忘れたかのように普段通り過ごしているのだ、と思わせる不気味さを感じます。コロナ禍で自分と向き合う時間が多くなっていますが、佐藤優さんがおっしゃる通り、あまり向き合い過ぎずにときには発散しながら、自分と付き合っていくことの大切さに気づかせてくれる本です。シンプルに読み物としても展開が凝っていて面白いです。


■映画
10 アバウト・ア・ボーイ/監督 クリス・ワイツ、ポール・ワイツ

 ヒュー・グラント演じる父の遺産で優雅に暮らすアラフォー無職の中年と、精神的に不安定な母親に育てられた心優しくも空気の読めない少年との交流、そして、お互いの成長を描いた作品です。主人公、少年、そしてその母親と、登場人物の誰にも共感できず、何度か途中で観るのをやめようかと思いました。それでもギリギリのところで不思議なポップさや惹きつけられるものがある不思議な作品です。原作者が「ハイ・フィデリティ」などのニック・ホーンビィであることを知って納得しました。トリビアな知識の盛り込み方や、洗練されていない強めの毒が実に彼らしいです。主人公は「伊藤くんA to E」の伊藤くんと少し似ていますが、ヒュー・グラントの端正さと可愛げが、欠点だらけのキャラクターを魅力的にすることに貢献しています。
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