本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

グレイテスト・ショーマン

2024-02-25 07:08:49 | Weblog
■本
15 呼吸の科学/石田 浩司
16 経営読書記録 裏/楠木 建

15 先週末にマラソン大会に出場したので、加齢による心肺機能の低下を何とか知識で補えないかと思い読みました。細かく解説されている実験や呼吸に関わる脳の働き(改めて脳については勉強しなければと思いました)など、結構難解でしたが、呼吸についてはわかっていないことが多いということと、知識で呼吸が楽になる余地は少ないが、トレーニングによって改善できるということはよくわかりました。練習にビルドアップ走を取り込み、呼吸時は鼻呼吸としっかりと吐くことを意識したいと思いました。

16 先週に引き続き楠木健さんの書評集を読みました。本作は有料ブログなどオンラインメディアで発表された内容が中心に収録されています。そのためか、より楠木さんの偏った好みが伝わってきます。また、出版時に行われた著者などとの対談が、楠木さん自身の著書のものも含めて収録されていて面白かったです。映画や音楽に対する文章は、仕事とは思ってらっしゃらないためか、よりマニアックな内容になっていて、楠木さんファンとしてはとても楽しめる内容(逆にファンではなく、単にビジネス上の参考にしようと思って楠木さんの本を読んでいらっしゃる方にとっては、全く楽しめないであろう内容)になっています。つくづく考えることと、その内容を発表することが好きな方なんだなと思いました。


■映画 
15 女王陛下のお気に入り/監督 ヨルゴス・ランティモス
16 スノーデン/監督 オリバー・ストーン
17 グレイテスト・ショーマン/監督 マイケル・グレイシー

15 先週観た「哀れなるものたち」に引き続き、ヨルゴス・ランティモス監督作品を。本作も2019年アカデミー賞の9部門で10もノミネートもされた(受賞は女王を演じたオリヴィア・コールマンの主演女優賞に留まりましたが)評価の高い作品です。「哀れなるものたち」が男性のダメなところをこれでもかと描写していたのに対し、こちらは女性のあかんところ(女性と言うよりも「権力者の寵愛を求める人間」という方が適切かもしれませんが)が、クールにかつ虚無的に描かれています。女王もその寵愛を争う二人の女性も、それぞれの冷徹さを持っているのですが、不思議とチャーミングなのは、サバイブするための切実な思いが伝わってくるのと、女優陣の上品さと無様さが共存する演技力(オリヴィア・コールマンはもちろんのこと、エマ・ストーンとレイチェル・ワイズの演技合戦も実に見物です-ちなみに二人ともアカデミー助演女優種にノミネートされたので、ノミネート数が部門より1つ多くなっています-)によるのだと思います。ダークなマイ・フェア・レディといった趣で、エマ・ストーン演じる没落貴族の娘が、どんどん腹黒く成長していく姿が恐ろしくも痛快です。生きていくことの困難さと、どんなに権力を得てもその困難さは変わらないという救いのようなものも感じる作品です。本作も映像、演技、ストーリー、音楽、衣装、小道具など、細部に至るまでヨルゴス・ランティモス監督のセンスが反映されている才気迸る傑作です。

16 アメリカ国家安全保障局が全世界的に電話やインターネットの傍受網を築いていたという事実を暴露し、米国から指名手配を受けて、ロシアに亡命した青年を描いた作品です。ロシアのウクライナ侵攻下で、スノーデンはどうしているのかとふと思い観ました(本作に亡命後の彼の描写は少ないですが)。スノーデンの天才さ(IT知識だけでなく、日本語、中国語、手話など語学にも堪能です)と、米国政府関係機関の傲慢さ杜撰さが伝わってきます。傍受網の恣意的な利用は、今の中国となんら変わりはないという気がします。また、そのような横暴も力技で正当化する国家権力に対して、個人があまりにも無力であることに恐怖を感じました。このように、国家権力と個人との関係を考える上で示唆に富んだ作品なのですが、機密情報の持ち出しやマスコミとの接触などのシーンがあまりにもドラマティックに描かれているため、作り物っぽく感じられた(いくらなんでもアメリカがそこまで酷いことはしないだろうという気さえしました)点が少し残念でした。本作に関してはオリバー・ストーンの政治的な姿勢やその強い思いがマイナスに働いた気がします。もう少し淡々と描いた方が、この問題について観客に多くのことを考えるきっかけとなり、興行的にも成功したのではと思いました。とはいえ、GAFAとなどのプラットフォーマーの力が高まり、ますます個人のプライバシーが危機に陥っている現在においては観られるべき作品です。

17 「ラ・ラ・ランド」制作チームによるヒュー・ジャックマン主演のミュージカル映画です。主人公が主催するサーカス団が、作中で新聞記者に批判されているのとまさに同様に、本作自身も予定調和なストーリー展開やフリークスを見世物にしている点など、意識が高い評論家受けはしにくそうな作品ですが、個人的にはとても感動しましたし、興行成績的にも素晴らしい結果を残しています。何と言っても音楽が最高で、「The Greatest Show」「This Is Me」といった映画を観ていなくても、どこかで聴いたことのある、キャッチーでメッセージ性に富んだ楽曲に圧倒されます。先読みできるストーリーも、この素晴らしい楽曲やダンスシーンを際立たせる手段のように思えます。野心的過ぎる主人公を筆頭に登場人物のほぼ全てに欠点があり(主人公の妻だけは天使のような善人ですが)、その欠点により挫折しますが、友情と団結により乗り越えていくところもベタではありますが、涙腺が緩みっぱなしでした。こういうわかりやすさに対する批判を、クオリティの高さで封じ込める力技に完全にノックアウトされました。上映時間が2時間を切っている点も好ましいです。素晴らしいエンターテインメントには、深みや複雑さは不要であることを証明してくれる作品です(個人的には屈折しまくった複雑な作品も好みですが)。
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哀れなるものたち

2024-02-17 06:29:09 | Weblog
■本
13 経営読書記録 表/楠木 建
14 瓦礫の死角 /西村 賢太

13 大好きな楠木健さんの書評集です。「表」の方は既存メディアで発表された書評が収録されているそうです(「裏」の方が個人ブログで発表された書評)。経営学者さんなので、当然ビジネス書が多いのですが、ノンフィクションや芸事に関する本も多数紹介されています。高峰秀子さんと落合博満さんに関する本が多く紹介されている点が特に印象に残りました。ビジネス書については、楠木さんの視点からその有用性がロジカルに説明されているので参考になります。読書体験を自分なりにどのように消化して、血肉化するかについても学べます。まあ、好きな本を楽しんで読めばよいと思いますが、その楽しみ方についても気づきが得られる本です。

14 上記楠木さんの書評では小説が取り上げられることが少ないのですが、その中で西村賢太さんの作品が熱量高く紹介されていたので、まだ読んでいなかったこの短編集を読みました。冒頭の表題作と二つ目の短編は、十代に中卒で働き始めた当時が描かれた作品です。性犯罪を犯して服役中の父親からのネガティブな影響に苦しみつつ、母親や同僚に父親と同じような不義理を繰り返し働く様子が描かれています。三つ目は藤澤清造愛を描いた作品です。ここまでは、「秋恵もの」こそないものの、いつもの西村さんの私小説で定番の題材で、それはそれでさらに円熟味が増して面白いのですが、圧巻は新境地を開いた四つ目の「崩折れるにはまだ早い」です。ネタバレするので、詳しくは書きませんが、私小説という枠で、まだこれだけの新しいことが出来るのだということと、作家としての進化に正直感動しました。ファンには是非読んでいただきたい作品です。まだまだ伸びしろのあった西村さんが、早くしてお亡くなりになられたことが本当に残念です。ご冥福をお祈りしたいです。


■映画 
13 かがみの孤城/監督 原 恵一
14 哀れなるものたち/監督 ヨルゴス・ランティモス

13 2018年の本屋大賞受賞作のアニメ映画化作品です。えぐいいじめ描写のリアルさを、孤城でのファンタジックな世界観で包んだところが、この作品の発明だと思います。いじめる側の狡さ、残酷さと未熟な先生の対応の稚拙さを容赦なく描いている一方で、いじめられた側には常に優しい視線が注がれています。ストーリーを引っ張っていく謎解き要素も、なかなか捻りが効いていて予想しにくく、伏線回収も見事です。現実世界でいじめられている人には、この作品のような異世界での救いはないですが、本作に登場するフリースクールカウンセラーの対応は見事で参考になります。おじさんには少し甘過ぎましたが、ターゲット層にとっては、癒しや希望を与える優れた作品なのだと思います。

14 ベネチア国際映画祭の金獅子賞やゴールデングローブ賞を獲得し、今年のアカデミー賞でも11部門にノミネートされている話題作です。冒頭から美しくもグロテスクな映像と、エマ・ストーンの文字通り身体を張った演技に引き込まれます。作品のシニカルな世界観が、ラース・フォン・トリアー監督作品に近い印象を持ちました。「ニンフォマニアック」がテーマな点もそうですし、同じく「スパイダーマン」シリーズのヒロインだった、キルスティン・ダンストの「メランコリア」での鬼気迫る演技やキャリアを見越した役の選び方が、本作でのエマ・ストーンのそれらに通じるものがあると感じました。一方で、人の悪意や弱さのみを執拗に描くラース・フォン・トリアー監督とは異なり、ヨルゴス・ランティモス監督はギリギリのところで、人の持つ善性に対する信頼を感じさせてくれます。私が捻くれているだけなのだと思いますが、男性視点で目一杯多様性に配慮しているということが透けて見える点が少しだけ気になりました。女性監督ならもっと違った描き方があったのでは、という期待感もあります。映像や演技はもちろんのこと、ストーリーや音楽、衣装、小道具も含めて総合芸術としての映画のあらゆる部分の完成度が高い衝撃作だと思います。
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隠し砦の三悪人

2024-02-11 06:41:32 | Weblog
■本
11 がんばらない戦略/川下 和彦
12 すごい音楽脳/宮﨑 敦子

11 脱力系「夢をかなえるゾウ」といった趣のストーリー形式の自己啓発本です。「意志の力には限りがある」という前提にたって、習慣化することにより無意識で自動運転できるところはそれに徹し、本当に重要なことにのみ「意志の力」を用いようというメッセージが貫かれています。また、「得意なこと」であれば、意志の力の消耗を控えることができるので、頑張ったり、我慢したりしなくてすむ「得意なこと」に取り組む必要性についても強調されています。「夢をかなえるゾウ」と比較するとストーリーの完成度が今ひとつで、ギャグも滑り気味ですが、類似書でも語られることが多い内容の中から、重要な点にのみ焦点が当てられていて、基本的にはわかりやすく、かつ納得感の高い内容でした。私も読書やジョギングの時間など習慣化を心がけていますが、過度に日々の行動をルーティーン化してしまうと、新たな出会いや気付きを得る機会が減る気がするので、そこに偶然性も盛り込むようにしてバランスを取ろうとしています。

12 音楽が脳に与える影響に関する筆者の研究成果が、わかりやすく解説されている本です。在宅勤務が増え、音楽を聴きながら仕事をする機会が増えたので、その効果について知りたくて読みました。音楽を聴くだけでなく、歌本カラオケ(歌うタイミングを教えてくれる映像を見ながらではなく、歌詞カードを見て自分で歌い出しのタイミングを取るタイプのカラオケ)、ダンス、ドラムなどの効能についても説明されています。DJでもある筆者のオリジナルハウスミュージックもダウンロードできます。ハウスミュージックのようなややテンポの速い曲を作業や運動前(聞きながらよりも事前の方がよいそうです)に聴くと、効率が上がるそうです。エビデンスとして脳のどの部分に作用するのかも教えてくれているのですが、脳の各部位の役割をよく理解していないので、個人的にはその方面の知識の補強が必要だと感じました。


■映画 
10 スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース/監督 ホアキン・ドス・サントス、ケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・トンプソン
11 キングスマン:ファースト・エージェント/監督 マシュー・ヴォーン
12 隠し砦の三悪人/監督 黒澤 明

10 劇場版アニメーションの方の「スパイダーマン」のシリーズ2作目です。前作以上にマルチバースの世界観を前面に出しています。ヴィラン(悪役)との戦いよりも、並行世界のスパイダーマン同士の、価値観の違いによる争いが中心に描かれています。その過程で主人公の特異な状況が明らかにされていきます。そのため、どうしても内輪揉めの印象が強く、また、次作に結末が持ち越されるシリーズの中継ぎ的な位置づけの作品なので、世界的には大ヒットした作品ですが、個人的な評価は低めです。上映時間も必要以上に長く、ダラダラとした印象も残りました。とはいえ、アニメ特有のダイナミックな動きは、スパイダーマンと相性がよく、ヒップホップ文化を意識したテイストもユニークで、実写版とは異なる魅力を放っています。前作が少年の成長に焦点が当てられていたのに対し、本作は家族関係やそこからの自立がテーマとなっていて、ティーン世代の悩みに寄り添う内容な点ところも好感が持てました。次作がどう着地するかによって、このシリーズ全体の評価が左右されると思いますので、公開を楽しみに待ちたいと思います。

11 「キングスマン」シリーズのスピンアウト的な作品です。このスパイ組織が誕生した背景が描かれています。ストーリーやアクション的にはよくできていて、とても楽しめたのですが、これまでのシリーズ作品と比較すると全体的に地味な印象です。第一次世界大戦当時が舞台なので、ハイテクスパイ道具が登場しないのと、全体的に登場人物の年齢層が高く、先日観た「キングスマン:ゴールデン・サークル」ほどのスピード感に欠けた点がその理由だと思います。また、実際の史実とフィクションの部分を組み合わせて、作品に深みを作ろうとしているのですが、第一次世界大戦当時の歴史背景について、私が詳しくない点も完全にこの作品の良さを理解できなかった理由だと思います。シリーズを通しての上品なテイストは印象的ですが、その反面の過激な毒に満ちた描写が少なめだった点も残念でした。完成度は高いですが、わざわざスピンオフ的な作品を作る必要があったかと言うと、少し疑問が残りました。同じキャストと設定で押し切ってもよかったと思います。

12 「スター・ウォーズ」1作目(エピソード順では4つ目)の元ネタという話もある、黒澤明監督によるアクション時代劇です。序盤は欲にまみれた百姓ふたりの苦難の描写を通じて状況を手際よく説明しておいて、この二人がヒーローと出会ってからの怒涛の展開がとても巧みで心地よいです。三船敏郎さんの馬上での戦闘シーンのスピード感や、槍を用いた一騎打ちでの力感溢れる迫力に圧倒されました。特撮がなくても、工夫次第で魅力的なアクションシーンを表現できることがよくわかります。ストーリー的には、過度に伏線を引っ張ることなく、早々にネタばらししつつ、登場人物の関係性の変化に重点を置いているところが興味深かったです。なんといっても、観客を楽しませるエンターテインメントに徹している点が素晴らしいです。火祭りなど日本の伝統的な風習についての描写も丁寧にされていて、外国の観客の受けも良さそうです。喜怒哀楽のいろいろな感情を刺激され、後味もよい、黒澤明監督の巧みな演出力が光る傑作だと思います。
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岸辺のアルバム

2024-02-03 10:12:35 | Weblog
■本
8 ひらめかない人のためのイノベーションの技法/篠原 信
9 思わずクリックしたくなる バナーデザインのきほん/カトウ ヒカル
10 岸辺のアルバム/山田 太一

8 タイトル通りイノベーションのハードルを下げようという本です。農業研究者としての立場から、仮説と検証の繰り返しプロセスが強調されています。価値基準をずらすこと、他人や異分野から学ぶこと、事象をしっかり観察すること、知っていることと知らないことを区別すること、などがTIPSとして紹介されています。個人的には、イノベーションを起こす上での、マネジメントの重要性に多くの紙面が割かれている点が印象に残りました。確かに、自由に発言できる雰囲気を作り、それを傾聴することにより学ぶ姿勢は重要だと思います。また、哲学や思想を学ぶ理由として『「固定観念の破り方」を学ぶため』と説明されている点も有益な学びでした。昨今ビジネス界でも哲学や美術を学ぶことの重要性について語られることが多いですが、その理由として最も腹落ちしました。その当時の時代背景では「常識外れ」だった考えを、そのように思いつき、それがなぜ現在では受け入れられているのか、を学ぶことから多くの気づきが得られるのだと思います。なぜ、偉い人が「古典を読め」というのかの理由もわかりました。この本で学んだ内容をアウトプットに活かしたいと思える良い本です。

9 タイトル通り効果的なバナーの作り方について教えてくれる本です。「めりはり」や「あしらい」といったポイントごとに、修正前後のバナーを並列表示して、どのような点に注意するとより効果的なバナーになるかを丁寧に教えてくれて参考になります。また、その事例もさまざまな業種の多様なシチュエーションを示してくれているので、実務でも役立ちそうです。カラフルなバナーを眺めているだけでも楽しいです。クライアントから支給されたありものの素材を用いても、これだけの工夫の余地があるということを知れたことは有益でした。

10 昨年に亡くなられた巨匠脚本家、山田太一さんの代表作です。さまざまな本で引用されることが多い作品ですが、きちんと接したことがなかったので読みました。想像以上に素晴らしい内容で圧倒されました。映像で観ていたら、さらに打ちのめされて、後を引いたと思います。特に子育てが終わりつつあるアラフィフの身としては、父親の心情を思うとやるせない思いが募りました。一方で、長男は私の少し上の世代ですが、大学受験時の不安な気持ちや周囲の大人に対する思いなど懐かしい感情も蘇りました。4人家族の様々な視点から、家族の崩壊と再生(の兆し)が描かれている作品ですが、どの視点にも共感できる点が、やはり素晴らしいと思います。どの登場人物も、基本的には善人で自分の考えをしっかりと持っているにもかかわらず(その固定観念に縛られているからこそ)、些細なすれ違いからどんどんと不幸になっていく様子が恐ろしいです。そうした不幸な状況で混乱しつつも、誰も打ちのめされたままにはならず、ファイティングポーズを示し続けているところも、同種の作品にはない魅力になっています。ポール・トーマス・アンダーソン監督の「マグノリア 」のように、各人の不幸がこれでもかと描かれ、そのストレスが頂点に達した時点でカタストロフィを迎えるのですが、その後、底を打った反動でのやけくそのパワーで立ち上がろうとしているエンディングの後味も心地よいです。人生のままならさと、そのままならさを経験した人でした得られない人生の秘密のかけらを示してくれるかのような素敵な作品です。まだ、打ちのめされています。


■映画 
9 PERFECT DAYS/監督 ヴィム・ヴェンダース
10 ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生/監督 デヴィッド・イェーツ
11 ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密/監督 デヴィッド・イェーツ

9 学生時代にはまったヴィム・ヴェンダース監督の、しかも日本を舞台にした作品ということで観ないわけにはいきません。難解な印象の強いヴィム・ヴェンダース監督作品ですが、電通の高崎卓馬さんが脚本に参加されていることもあってか、メッセージはかなりわかりやすかったです。役所広司さん演じるトイレ清掃作業員のプロ意識に満ちた仕事ぶりと、その淡々とした日常が、抑制の効いたトーンで描かれています。作品名と同じルー・リードの楽曲など、主人公が車中でカセットテープで聴く名曲の数々が絶妙のアクセントになっています。エンディングでニーナ・シモンの「Feeling Good」をバックに見せる、役所広司さんの泣いているとも微笑んでいるとも取れる絶妙の表情は圧巻です。カンヌ国際映画祭で主演男優賞を獲得されたのも納得です。反面このわかりやすさは、映画通にとっては作品の深みという点で減点要素かもしれません。資本主義やマーケティングとは縁のない生活を送っている主人公が、役所広司さんがCMをされているBOSSのコーヒーを毎朝購入するといった大人の事情のわかりやすさも、少し気になりました。個人的には、もっとストーリー的に起伏のない作品をイメージしていたので、想像以上にドラマティック(といっても過度な演出はなされていませんが)な内容で最後まで楽しめました。海外の巨匠の作品を、観客の敷居を下げて提供しているという意味でも、なかなか意義深い作品だと思いました。

10 「ハリー・ポッター」シリーズからスピンオフした、「ファンタスティック・ビースト」シリーズの2作目です。昨日3作目がテレビで放映されていましたが、そういえば1作目しか観ていないなと思い慌てて観ました。1作目を観てからずいぶん時間が経っていたので、なかなか話についていくのに苦労しましたが、ネットで1作目のあらすじをざっと眺めてから観ると理解が深まりとても楽しめました。魔法が飛び交う世界観がしっかりしているので、安心して作品世界に入っていけます。2時間を超える作品ですが、全く苦にならず時間があっという間に流れていきました。魔法を使えない人間たちを支配しようとする、ジョニー・デップ演じる闇の魔法使いグリンデルバルドと、それを阻止しようとするダンブルドア校長とその弟子の主人公という構造もわかりやすかったです。魔法界や魔法動物の映像も素晴らしく、ワクワクしました。高い魔法能力を持つグリンデルバルドとダンブルドアが直接対決できない理由も説得力がありました。各キャラクターやそのエピソードも考え抜かれていて、ダークながらも、娯楽要素の多い素晴らしい作品だと思います。

11 2作目を観終わってもさほど疲れていなかったのでこの3作目も一気に観ました。スキャンダルの影響でジョニー・デップが降板したことを知らなかったので、冒頭でグリンデルバルドを違う役者さんが演じていたのは、魔法で変身しているのかと思ってしまいました。ジョーカーは役者さんが変わっても顔が白塗りで統一されているように、せめて顔色、髪色、髪型は統一して欲しかったです。未来予知能力のあるグリンデルバルドに、偶然の要素を意図的に作り対決するという構図は斬新だと思いましたが、今ひとつその展開の妙がはまり切っていない点が少し残念でした。とはいえ、予想外のキャラクターが活躍するなど、先の読めない展開で観ていて全く飽きませんでした。2作目も含めて4時間以上続けて観て退屈しなかったのは、やはり優れた作品だからこそだと思います。シリーズの継続が危ぶまれているようですが、個人的には満足度の高いシリーズです。
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