本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

日本の反知性主義

2020-10-31 06:54:59 | Weblog
■本
95 日本の反知性主義/内田 樹 編

 この本に収録されている内田さんの文章が、東大の現代文入試で出題されたという新聞記事を見て読みました。内田さんだけでなく、白井聡さん、高橋源一郎さん、鷲田清一さんといった、普段からその発言や論考に注目している方々の文章も収録されているので、興味深く読みました。「反知性主義」とは「知性」の欠如ではなく、複雑性を増す状況下で効率性を重んじるあまり、ものごとをシンプルに理解し素早く判断したいという、ある種「知的」な態度であるということがよく理解できました。本当に「知的」な態度とは、素早く判断することではなく、自分の知識の不足や判断の偏りの危険性を自覚しながら、ときには決断を先延ばしすることを含めて、熟慮することだと私は理解しました。ただ、この態度が、変化の激しい時代にそぐわないことも事実で、結局は時には素早く判断をしつつも、一度下した決定を絶対的なものとみなさず、常に検証し必要に応じて修正していく柔軟性も大切だと思いました。自分の限界を自覚しつつ、それでも判断を下す上では、過去の歴史や先人の知恵から学ぶことが重要であり、そういう意味でも最近、教養が再評価されているのだと思いました。


■CD
15 To Pimp A Butterfly/Kendrick Lamar

 先日改訂発表された、ローリングストーン誌のTOP500アルバムで19位に位置づけられるなど(ちなみに、18位がボブ・ディランの「Highway 61 Revisited」で、20位がレディオヘッドの「Kid A 」です)、時代を超えた評価を確立しつつあるラッパー、ケンドリック・ラマーのサード・アルバムです。ソウルはもちろんのことジャズやロックの要素を取り入れたトラックはとても知的ですが、ア・トライブ・コールド・ウエストと比べると、肉体的で熱を感じます。それでいて、リズムの心地よさに身を委ねるだけではなく、左脳に訴えかけるメッセージ性も豊富です。カニエ・ウエストやフランク・オーシャンといったアイデアの豊富さで勝負するタイプでもない気がして、ジャンルの枠にはまらない総合力の高さが魅力的な作品です。


■映画 
91 今日も嫌がらせ弁当/監督 塚本 連平
92 チェ 28歳の革命/監督 スティーブン・ソダーバーグ

91 キャラ弁をテーマにした人気ブログを原作とした映画です。反抗期の高校生の娘への嫌がらせとして、母親が3年間キャラ弁を作り続けたという事実が、まず面白いです。八丈島を舞台にした映画はそれほど多くないと思いますので、その映像も観ていて楽しいです。ストーリーは、思春期の子どもの反抗からの旅立ちといったありがちな内容で、クライマックスで泣かせようという意図が見え見えなところが少し興ざめです。それでも、キャラ弁の映像を軸に、スピーディーに展開していくので、観ていてダレることはありません。母親役の篠原涼子さんは抜群のコメディエンヌ振りでしたが、娘役の芳根京子さんは、持ち前の演技力を活かしきれていない気がしました。その分、姉役の松井玲奈さんの飄々とした演技が印象に残りました。思春期の子どもに対する接し方に悩んでいる人は、この作品を観ると少し気が楽になるかもしれません。

92 先週、オードリー若林さんの「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」を読んだので、キューバ革命のことをもっと知りたいと思い観ました。「オーシャンズ~」シリーズや、コロナ禍を予言したかのような内容で最近再注目されている「コンテイジョン」などを監督し、ストーリーテリングに定評のあるスティーブン・ソダーバーグ監督作品ですが、この作品はドラマティックな演出は控えめで、淡々とドキュメンタリータッチで描かれています。国連での演説シーンと過去の戦闘の回想シーンとが行ったり来たりしながら話が進むのですが、その難解な構成は必ずしも成功していない気がします。二部作の前編なので、続編への伏線を張っているのかもしれません。当時40歳を超えていたベニチオ・デル・トロが、28歳のチェ・ゲバラを演じるのはさすがに少し違和感がありましたが圧倒的な存在感でした。戦いに勝利した都市の資本家から奪った車で、首都ハバナに進軍しようとする部下に、その車を返してくるように厳しく指導するエンディングシーンなど、チェ・ゲバラのモラルを重視する姿勢と頭の良さが印象に残りました。
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表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬

2020-10-24 07:05:54 | Weblog
■本
93 表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬/若林 正恭
94 俺か、俺以外か。 ローランドという生き方/ROLAND

93 読む前はインドア派なイメージの若林さんと旅行記とがなかなか結びつかなかったですが、読んでみると抜群に面白かったです。新自由主義への疑問や東京での生きにくさと対比しての、滞在先のキューバを観る視点の優しさや深さが印象的です。キューバへの滞在日数が4日と短いのに、観光客があまり行かない闘鶏場に行ったり、その顔役の現地の人と交流したりするなど密度がとても濃いです。ガイドを使って効率化や普通出来ない体験をする部分と、ハプニングを楽しみながら自分ひとりで行動する部分とのバランスも抜群です。共産主義国家への興味だけでなく、亡き父親への思いからキューバを旅先に選んだという理由が徐々に明かされる構成など、読者を引き込む工夫も随所に施されています。合わせて収録されているモンゴルとアイスランドの旅行記も興味深かったです。モンゴルは私も行ったことがあるので、自分のルーツかもと同じ印象を持った点も含めて懐かしく滞在時の風景を思い出しました。アイスランドは行ったことははないのですが、間欠泉や新年の花火の狂乱した描写を読むととても行ってみたくなりました。若林さんの優しいこじらせ加減(アイスランドでの初対面の団体ツアー客と一緒の夕食が苦痛で、腹痛の振りをして逃げる場面が最高です)も含めて、素晴らしい内容だと思います。

94 ローランドさんがセレッソ大阪をいろいろと応援して下さっているので興味を持って読みました。書かれている内容は、一般的なポジティブな自己啓発本の内容とそう大きな差異はないのですが、ローランドさん独特のユーモアかつ気品ある語り口と、高校までサッカー一筋に打ち込んだ後に大学を入学初日に退学してホストの世界に飛び込み、苦労しつつも大成功をおさめたご自身の体験が背景にあるので、読んでいて飽きません。よい接客をするために、ノンアルコールで接客するというお話は、言われてみればもっともですが、ローランドさんのプロ意識の高さに感心しました。ローランドさんのお父さんが、どういう方針で教育されてきたかというエピソード(ローランドさんが小学生時代激しかった食べ物の好き嫌いを指摘した担任の先生に対し、「嫌いなものを、しっかりと嫌いと言えない男にはなるな。そう教えています」切り替えされているなど)も興味深いです。ローランドさんのサービス精神と地頭の良さを感じる本です。


■映画 
89 日日是好日/監督 大森 立嗣
90 アオハライド/監督 三木 孝浩

89 茶道という地味ながらも深い世界を通じて、女性の成長を描いた作品です。茶道の知識がほとんどない私にも、その道の奥深さとその反面の極度の形式主義がよく理解できました。一見理不尽に見える型も継続していけば、一種の哲学になり得るということも興味深かったです。先生役の樹木希林さんの飄々とした演技もあり、そういった茶道の世界を過度に肯定も否定もせず、ニュートラルな視点で淡々と描かれている点が好ましかったです。終盤、父親の死に直面した黒木華さん演じる主人公の心象風景を、若干奇抜な表現で描かれていた点は、フェデリコ・フェリーニ監督の「道」という作品の引用と共に監督の作家性の表出なのだと思いますが、個人的には少し蛇足に感じました。それにしても掛け軸とか茶器とか、茶道の先生をするには結構お金がかかりそうです。

90  本田翼さん、東出昌大さん、 新川優愛さん、吉沢亮さん、千葉雄大さん、高畑充希さんという、今のエンターテイメント業界で大活躍されている方々が、キャリア初期に出演されていた映画ということで観ました。豪華な面々の初々しい演技が楽しめます。しかし、そもそも青春を「アオハル」と呼ぶことに抵抗のあるおじさんには、なかなか観ていて辛い作品でした。メイン俳優の演技力の低さが指摘されること多いですが、個人的には原作のキャラクター造形に共感できなかったのだと思います。高畑充希さんが登場する場面は、その演技力の高さからか画面が引き締まった印象がしました。結局は、私がこの作品のターゲットではなかったということなのだと思います。
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文系でもよくわかる 世界の仕組みを物理学で知る

2020-10-17 11:13:24 | Weblog
■本
91 文系でもよくわかる 世界の仕組みを物理学で知る/松原 隆彦
92 運命の恋をかなえるスタンダール/水野 敬也

91 引き続き、苦手な学問に関する本を読みました。物理は高校生の定期テストで18点を取って、文系進学を決めた因縁のある科目です。偏光レンズやGPSなど身近な事例を用いながら、物理学が我々の生活にどのようにかかわっているかをわかりやすく説明してくれます。よくわかっていなかった、ニュートン力学と相対性理論の関係(我々の日常生活レベルで影響を受ける重力や運動速度であればニュートン力学で破綻なく説明できるが、宇宙全体の成り立ちを考えるスケールでの大きな重力や光のような高速な運動を考慮すると、相対性理論でないと説明できない、と私は理解しました)が、なんとなくわかったのも収穫です。実験結果などから帰納法的に理論が生まれることが多い物理学で、アインシュタインは完全に自分の頭の中だけで、演繹法的に相対性理論を生み出したという意味で天才であるという説明も納得感が高かったです。特に印象的だったのが量子論の考え方で、量子は「波でもあり粒でもある」という説明は今でもあまりよく理解できていないのですが、矛盾している状態が同時に存在し得て、観測した時点で複数の可能性から確率的に決まるという考え方は興味深かったです。所詮ものごとは運に左右されることが多いという事実が、人生だけでなく物理の法則にも当てはまることを知ることにより、少しは気楽に生きていくことができそうな気がします。視点を極端に大きくたり、小さくしたりすることは、ときに哲学的にものを考えることのきっかけになるのだと思います。

92 久しぶりに水野敬也さんの本を読みたくて手に取りました。タイトル通り、内容はベストセラー「夢をかなえるゾウ」の恋愛版です。女性をターゲットにした本なので、アラフィフ男性の私にとって参考になる点はあまりありませんでしたが、自分の目的を達するために、書物などで愚直にテクニック(この本では化粧やファッションについて指摘しています)を学ぶことを勧めている点には共感しました。ターゲットを意識したためか、ストーリーはかなり甘めで、水野さんの作品の特徴であるベタなギャグも控えめですが、エンターテイメント小説としても楽しめる内容です。


■映画 
87 オリエント急行殺人事件/監督 ケネス・ブラナー
88 ジョン・ウィック:パラベラム/監督 チャド・スタエルスキ

87 結末やキャラクターが知られたアガサ・クリスティの有名な推理小説を映像化するのは、観客の関心を保つ意味でかなりハードルが高いと思いますが、この作品は多数の豪華キャストと最新技術を駆使した映像である程度は成功していると思います。エルキュール・ポアロを演じる監督兼主演のケネス・ブラナーを筆頭に、ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー、ペネロペ・クルス、ウィレム・デフォーといった面々が癖が強めの演技を見せてくれるので、登場人物が多いにもかかわらず、キャラクターの混乱はほとんどありません。ケネス・ブラナーのシェイクスピア俳優や「マイティ・ソー」の監督経験を活かした力業が印象的な作品です。映画に新しい驚きを求める人にはあまり向かないと思いますが、2時間程度の時間を作品世界に浸って楽しみたいという人にはお勧めできます。

88 キアヌ・リーヴスが凄腕の殺し屋を演じるアクション映画の3作目です。仕事でムシャクシャした気分になったので観てスッキリしました。「殺人大喜利」とでも呼びたくなるほど(馬に蹴らせて殺すシーンには笑ってしまいました)、様々な手法で人を殺しまくります。ほぼ全編人を殺すために動きづづけているので、キアヌ・リーヴスは大変だったと思います。このシリーズを特徴づける、殺し屋間の奇妙なしきたりが、ご都合主義的なストーリーに説得力を与えています。また、ちょうどよい具合の切れ味のアクションも(疲れてきたのか、キレが落ちる場面が散見されます)、不思議なリアリティを与えています。全殺し屋から狙われながら、なぜ、ニューヨークからカサブランカまで逃げることができたのか、など、ツッコミどころも多いですが、いかに飽きさせずに大量の殺人シーンを描くかに徹している点に、ある種の様式美のようなものが感じられ、個人的には大好きな作品です。
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東大の先生! 文系の私に超わかりやすく高校の数学を教えてください!

2020-10-10 07:15:37 | Weblog
■本
89 東大の先生! 文系の私に超わかりやすく高校の数学を教えてください!/西成 活裕
90 世襲の日本史/本郷 和人

89 前作「東大の先生! 文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!」がとてもわかりやすかったので読みました。前作は中学数学ですが、本作は文系高校数学と、ベクトル、微分積分が取り上げられています。数学は代数(数・式)、解析(グラフ)、幾何(図形)に分けられるという分類とそれぞれのゴールが明確にされているので、何のために学んでいるのか(基本的には、現実の事象を計測することと、そのロジックを抽象化した上で予測するため学んでいるのだと私は理解しました)の納得感が高いです。数列、順列・組み合わせは、この本で書かれている考え方はすでにある程度理解できていましたが、指数関数や三角関数の仕組みや学ぶ意義を深く理解できていなかったので(こちらもものごとを効率的に計測したり予測したりするのに役立ちます)、視野が広がった気がします。今度は、機械学習を議論する際によく話題になる「行列」についても再度学んでみたいと思いました。

90 数学と同様に知識が不足している(大学は地理で受験したもので)と考えている歴史に関する本を読みました。「世襲」を軸に古代から明治維新までの出来事や社会制度が考察されている本です。私に日本史の基本的な知識が欠けているので、詳細に理解できた自信は全くありませんが、権力は家臣の土地の所有権を保障することを背景に強化されたこと、日本は比較的温暖な気候の島国のために、天候不順による飢餓や外敵に攻められるなど急激な社会体制変化が生じにくかったので、変化に対応しやすい科挙などの実力による抜擢ではなく安定に強い世襲が選ばれたこと、同様に日本は0から1を生み出すのは苦手だが表面上の制度だけを外から持ってくることは得意なので、中国の制度を日本に合う形で適用する中で官僚的組織の中に世襲制が残ったということ、は何となく理解できました。終盤の「明治政府が世襲をやめたのは『外圧』の影響」であり、それまで世襲が続いていたのはある意味平和な状態だったからという議論はいろいろと考えさせられました。平成、令和にかけて世襲議員が増えているように見えるのは、停滞感を伴いつつも一定の平和が維持されていたためで、コロナ禍の状況を考えると、今後この世襲が見直される契機になるのかもしれません。


■映画 
85 RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語/監督 錦織 良成
86 ヒックとドラゴン 聖地への冒険/監督 ディーン・デュボア

85 おそらく想定ターゲットではないのだと思いますが(もう少し高年齢層を想定している気がします)、あまりにもお涙頂戴的な内容が詰め込まれ過ぎていて、ストーリーは私にはあまり合いませんでした。不治の病の母親の介護や友人の不慮の事故死などがありますが、一流企業の役員目前で、奥さんも自分の趣味の店を出店し、娘とはすれ違い気味ではあるもののそれなりに素直に育っていて、主人公は恵まれ過ぎていると言ってもよい環境にあると思います。それだけに、49歳で電車の運転士に転職する動機も、その自分のやりたいことにチャレンジする姿勢は素晴らしいとは思うものの、経済的に不安のない人の道楽のようにも感じられ、あまり共感できませんでした(この映画が公開された2010年当時であれば、もう少し寛容に受け止められたのかもしれませんが)。一方、島根県のローカル鉄道一畑電車の描き方は、デハニ50形電車、沿線風景、そして、そこで働く人々への愛情に満ちていて素晴らしいです。鉄道映画として観るべき作品なのかもしれません。

86 地味ながらもクオリティが高い、通好みのCGアニメシリーズの3作目にして完結作です。セリフが全くないドラゴン同士の時間をたっぷりかけた求愛シーンや、サブタイトルにもなっているドラゴン聖地の壮大かつ幻想的な風景など、美しい映像を存分に堪能することができます。特に、メインの黒と白のドラゴンの描き方に、スタッフの強い自信とこだわりを感じます。人間とドラゴンとが入り乱れた、船上でのアクションシーンの躍動感も気持ちよく、静と動のメリハリがとてもよく効いています。ストーリーの方も、挫折、成長、友情、継承といった定番のテーマを、バイキングの世界観をうまく用いつつ独自の感性を盛り込み、シリーズ間の繋がりの破綻なく、手際よくまとめられていて完成度が高いです。もっと日本でも評価されてよい優れた作品だと思います。
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TENET テネット

2020-10-03 07:13:33 | Weblog
■本
87 アンジュと頭獅王/吉田 修一
88 時間とテクノロジー/佐々木 俊尚

87 終盤一気に時間が現在に飛んで、「google」や「ICタグ」などが登場しますが、基本的なストーリーは子どものときに読んだ「安寿と厨子王」と同じです。新聞に連載されていた吉田さんの長編小説「国宝」からさらに進化した、講談調の文体を楽しむ本だと思います。作者が楽しんで書かれているのが伝わってきて、読んでいてもついつい頬が緩みます。かなり実験的な作品だと思いますので、吉田修一さんファンではない方は、「悪人」、「怒り」、「横道世之介」、「太陽は動かない」あたりの、映画化された(される)作品を先に読まれることをお勧めします。

88 「時間とテクノロジー」というタイトルよりも「『因果の物語』から『共時の物語』へ」というサブタイトルの方が、内容をよく表していると思います。右肩上がりの成長が期待できない成熟化した社会では、時系列でのなりゆきを意識した「因果の物語」では将来に希望が持てないので、テクノロジーで拡張された空間認識能力をフル活用して、「マインドフルネス」のような「今ここに確かに存在するという感覚」を持ち、この瞬間を生きる存在との共感を持ちながら、懸命に生きることが大切だというのが、この本のメッセージだと私は理解しました。「複雑性が増す世界では、未来がどうなるかわからないので考えてもしょうがない」という一見投げやりな主張と、「だからこそ、この一瞬一瞬を周囲に共感しつつ充実して生きよう」というポジティブなメッセージとの奇妙なバランスがユニークです。「確率に基づく世界の捉え方」(私も「ファスト&スロー」という本を読んでからずいぶん考え方が変わりました)や「べき乗で偏った分布をするカオスの世界」(本編で紹介されている「ブラックスワン」という本を読んでみたくなりました)、そして、佐々木さんお得意の、AI、VR、ARといったテクノロジーや、映画、アニメといったサブカルチャーなど、引用されている個々の知識は、私もある程度持っていたのですが、その組み合わせの妙でここまでユニークかつ説得力のある論理が展開できるのか、という点に感心しました。今週観た「TENET テネット」という映画も、ある種「因果の物語」に挑戦している作品とも言えるので、このタイミングでこの本を読めてよかったと思います。


■映画 
83  闇金ウシジマくん Part2/監督 山口 雅俊
84 TENET テネット/監督 クリストファー・ノーラン

83 引き続き「闇金ウシジマくん」シリーズを。キャラクター設定に慣れて安心して楽しめると思いきや、綾野剛さん演じる謎の探偵っぽい人が当たり前のように説明もなく出てきて(テレビドラマではなじみのキャラクターなのでしょうが)、少し混乱しました。しかし、その綾野剛さん演じる役がいい味を出していて、欲望と暴力が渦巻く悲惨極まりないストーリーの中で、前作にない箸休め的な効果を醸し出しています。それ以外にも、菅田将暉さん、中尾明慶さん、窪田正孝さん、柳楽優弥さんといった豪華な面々が汚れ役を演じられている点も今となっては新鮮です。また、本作のヒロイン的な位置づけのキャラクターを演じる門脇麦さんは、一作目の大島優子さんと違って、汚れ役を演じることができるので、作品としての自由度が上がっている(その分よりえげつなくなっている)と思います。二作でお腹いっぱいになったので、続編を観るのはいったんお休みにしますが、機会があれば残りの映画版も観てみたいと思います。

84 大好きなクリストファー・ノーラン監督の新作です。冒頭からのたたみかける展開で一気に作品世界に引き込む手腕が相変わらず見事です。未来からきた「時間を逆行させるテクノロジー」を使って、世界を破滅から守るという発想にまず圧倒されます。その複雑な因果関係に基づくストーリーを半分も理解できていないと思いますが、「逆行する時間」を表現するユニークな映像と、緊迫感溢れる大音響で、とにかくもの凄い体験をさせられているというワクワク感が全編を貫いています。とにかく難解で頭は混乱したままなのですが、身体感覚としては全く不快な感じがしません。「逆行する時間」には細かいルールがあり、そのルールが時に破綻しているように感じられても(逆行する時間の中では、酸素ボンベが必要なはずなのに、つけていない場面があります-単純に私が理解できていないだけかもしれませんが)、それ自体があえての企みのような気もして、「わからない」という感覚自体が快感にすらなってきます。クリストファー・ノーラン監督の論理的で緻密なストーリーと、迫力ある映像、音響との力技とが見事な相乗効果を上げた、パワーみなぎる傑作です。もう一度劇場で観たいですが、たぶんわからないので、パッケージ化された後にじっくりと巻き戻しながら、謎を解き明かしていきたいと思います。

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