本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

人生は苦である、でも死んではいけない

2021-08-29 07:07:55 | Weblog
■本
70 人生は苦である、でも死んではいけない/岸見 一郎

 ベストセラー「嫌われる勇気」の岸見一郎さんの本です。内容はタイトルに集約されています。アドラーの言葉を修正して紹介するなど、引用に留まらない、岸見さんご自身の人生経験から発せられる言葉が心に染みます。生まれてきたばかりの赤ちゃんは何もできなくなくても存在自体が愛おしいように、人間は存在することに価値があるのであり、「有用性」に意味がないというメッセージが繰り返し発せられ、個人的には子どもたちとの接し方に反省することがたくさんありました。「期待」よりも「希望」を、「成功」よりも「幸福」を、「過程」よりも「存在」を、「未来」よりも「現在」を、「なる」よりも「ある」を、「量的」よりも「質的」を、「キーネーシス」(始点と終点がある運動)よりも「エネルゲイア」(行為自身がそのまま目的であること)を、重視することがよく生きるための指標であるとおっしゃるなど、近年流行りの「マインドフルネス」の考え方との共通点も多いと感じました。今現在金銭的に困窮している人にはなかなか届きにくい主張であると思いますが、「自助・共助・公助」と言い放つ首相を持つ国民としては、自分の存在自体に価値があることを信じて、「援助を求める勇気」を持つことはサバイブしていく上で重要だと思います。


■映画
64 麗しのサブリナ/監督 ビリー・ワイルダー

 オードリー・ヘプバーンが「ローマの休日」の次に出演したロマンティック・コメディです。彼女の旬の魅力が堪能できる作品です。少女時代は見向きもしなかったお抱え運転手の娘が、2年間のパリ留学を経て美しくなって帰ってきたために生じる大富豪兄弟との三角関係という、今となってはかなり男性側の都合のよい妄想丸出しの作品ですが、ビリー・ワイルダー監督作品だけあってストーリーはよくできています。それでも、相手役のハンフリー・ボガートが当時54歳、オードリー・ヘプバーンが25歳だったことを考えると、なかなかグロテスクな印象が残り、素直にロマンスの展開を楽しむ気分にはなれませんでした。オードリー・ヘプバーンがおじさま二人を手玉に取っているという見方もできるので、まだコメディとしては成立しています。いずれにしても時間が経つにつれて、評価されにくくなるタイプの作品だと思います。時代背景を踏まえて観ると面白いとは思いますが。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

その先の道に消える

2021-08-21 07:39:39 | Weblog
■本
67 その先の道に消える/中村 文則
68 考えることこそ教養である/竹中 平蔵
69 秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本/J・ウォーリー・ヒギンズ

67 中村文則さんによるハードボイルドな警察小説です。小説ならではの細やかな仕掛けが随所に施され、面白くて一気に読みました。ストーリー展開のエンターテイメント的な要素と、純文学的な人間描写の掘り下げの融合が非常に巧みです。縄を題材にトリッキーなかたちで、日本という国の成り立を、シニカルに掘り下げている点もいかにも中村文則さんらしいです。主人公の一人である富樫がとても魅力的なので、続編も期待したいところです。長男も中村文則さんの大ファンなのですが、本作は性描写が過激過ぎて、気楽に勧められない点だけが悩みです。

68 引き続き敵を知るという意味(笑)と、山口周さんが帯で推薦されていたので、今度は竹中平蔵さんご自身の著書を読みました。ところどころ挿入される、小泉政権時代のおべっかや自慢話が鼻につきますが、ものごとの本質をとらえストーリー立てて考える、など、書かれている内容は真っ当で、「考える」ということについてわかりやすく説明して下さります。高校生、大学生あたりをターゲットに書かれている本ですが、社会に出てから役に立ちそうな方法論も紹介されていて有益ですし、DVDのケースがCDと違ってなぜ縦長か?や牛乳パックはなぜ紙でできていて四角いのか?、など、思考の実践問題として引用されている事例も興味深いです。こういう人が成功する社会が、望ましいかどうかはさておき、少なくとも今の日本社会でそれなりに評価されようと思うと、世の中がどういうルールで動いているのかを知るという意味でも、こういう「成功者」の意見に耳を傾けることも時には必要だと思います。

69 先日読んだ続編がとても興味深かったので、こちらも手に取りました。6,70年前の日本の鉄道や街並み、人々の生活を切り取った写真とその解説で構成されています。乗り鉄の私としては引き続き大満足の内容でした。鉄道がない屋久島や沖縄の写真も収録されていて、屋久杉の切り出し作業用軌道の写真が興味深かったです。さまざまな鉄道写真はもちろんのこと、天草や高知、新橋の裏通りの素朴な街並みや、山口や秋田の田舎の小さな駅舎と近隣住民が移った写真が特に気に入りました。道路が舗装される前の時代に、路面電車が大きな役割を果たしていたこともよくわかります。私も日本全国をいろいろと鉄道で旅しているのですが、まだ行ったことのない地域がたくさんあることにワクワクしました。今のうちに乗っておきたいので、今後廃線されそうな路線ばかりに注意が向きがちですが、過去に廃線となった路線についても一度細かく調べてみたいと思いました。

■映画
62 僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ~2人の英雄(ヒーロー)/監督 長崎 健司
63 アイネクライネナハトムジーク/監督 今泉 力哉

62 週刊少年ジャンプで毎週愛読しているので映画版も観てみました。ストーリー的には、名探偵コナンシリーズでよくあるような、高層ビルのパニックものです。コナンは知恵で対抗しますが(最近はアクションシーンも多いですが)、こちらはヒーローなので特殊能力でさまざまな危機を克服していきます。原作を読んでいることを前提に、映画オリジナルキャラクターのみの紹介に留めて、速やかに本題に入る展開はよかったですが、内容が既視感たっぷりな点が少し残念でした。とはいえ、おなじみのキャラクターが存分に活躍するので、原作ファンにとっては楽しめる内容だと思います。原作のコアなファンでなくても楽しめる、名探偵コナンシリーズのクオリティの高さをあらためて認識しました。

63 原作小説を読んだのが5年前なので、あまり詳細は覚えていませんが、ずいぶん違った印象を持ちました。原作はさまざまな登場人物が複雑に絡み合う、先の読めない展開と、トリッキーな性格を持つキャラクターが魅力だった気がしますが、こちらは、「恋愛模様」を軸にした群像劇となっています。三浦春馬さん、多部未華子さんがメインキャストなので、とても爽やかで安定感があります。一方で、伊坂幸太郎さん作品に特有の癖の強いキャラクターは、友人役を演じる矢本悠馬さんが一身に背負っている印象です。原作小説のきっかけとなった斉藤和義さんの「ベリーベリーストロング」という曲が大好きなので、この曲が登場しないのが少し残念でしたが(「ベリーベリーストロング」というワードは、登場人物のセリフとして印象的に用いられています)、斉藤和義さんが制作された音楽は随所にこの作品を彩っています。タイトルがなぜ「アイネクライネナハトムジーク」(原作では作品のテーマである、後からあの瞬間がその人との運命の出会いだったと気づくことの象徴として用いられています)なのかを表す、肝心のセリフがカットされている点も残念でした。ただ、総じて好感の持てる、楽しくも穏やかな気持ちになり、ささやかな勇気が湧いてくる作品です。三浦春馬さんの不在が惜しまれます。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ノマドランド

2021-08-14 09:25:44 | Weblog
■本
65 竹中平蔵 市場と権力/佐々木 実
66 黒いマヨネーズ/吉田 敬

65 竹中平蔵さんに関しては、大臣時代は個人的に特にポジもネガもなかったのですが、コロナ禍での「世論が間違ってますよ」とまで言い放つ姿勢が気になったので読みました。また、個人的に「新自由主義」はあまり好きではないので(この政策が効果を発揮するタイミングはあるかもしれませんが、万能ではないと思っています)、敵を知るという意味でも興味深かったです。この本の作者がかなり竹中さんに批判的なポジションを取られているので、割り引いてとらえる必要がありますが、控えめに言っても、竹中さん個人の利益>アメリカの利益>日本の利益、の人だと思いました。既得権益を打破するという姿勢自体は共感できたものの、結局その権益が竹中さんや小泉さん、安倍さん周辺に移っただけということがよくわかります。何より「政治は結果がすべて」という観点から言っても、日本経済の「失われた30年」という状況を振り返ると、竹中さんの政策はあまり評価できないと言えます(もちろん竹中さんだけの責任ではないですが)。逆に、竹中さん個人としては、学者としても官僚としても政治家としてもアウトサイダー(竹中さんは政府系銀行からキャリアをスタートさせています)だったにもかかわらず、大臣にまで成り上がる、その政治力については参考になるべき点があります。結局、その才覚の多くを国家のためではなく、自分の影響力拡大のために使ったという点で、議員にすべきではない人だったのだと思います。能力と清廉さを兼ね備えた人はなかなかいないという前提での制度設計がやはり必要なのだと感じました。

66 たまに、独特の感性を持っている芸人さんの本を読みたくなります。ブラックマヨネーズの吉田さんも、その発言のユニークさにずっと注目していました。この本を読んで、吉田さんがある種の哲学者だということがよくわかりました。ある物事(それが下ネタであることも多いですが)を徹底的に考え抜くことが、本当に好きだということが伝わってきます。また、その考え抜くプロセスを面白おかしく読者に伝えるテクニックがあるので、読み物としてとても楽しめました。奥様や相方の小杉さんに対する感謝が感じられる箇所も散見され、吉田さんの屈折した優しさが伝わってきました。「湯を沸かすほどの熱い愛」などの中野量太監督が、吉田さんの高校時代の同級生だということで、解説を書かれているのも興味深かったです。


■映画
60 ノマドランド/監督 クロエ・ジャオ
61 ヴェノム/監督 ルーベン・フライシャー

60 今年のアカデミー作品賞などの受賞作です。映画館で観たかったのですが、コロナの影響で適わず、やっと動画配信で観ることができました。アメリカ中西部の雄大な自然が印象的で、映画館の大画面で観たかったです。近年「ノマドワーカー」という言葉も流行っているので、もう少し若い人を扱った作品だと思っていたのですが、この作品で「ノマド」として描かれている人々の大半が高齢者(本来であれば悠々自適のリタイア生活を送っていてもおかしくない人たち)であることに、まず驚きでした。このような人たちが、持ち家を失い、アマゾンなどで期間労働者として働きながら、キャンピングカーで渡り歩く生活と交流が叙情的に描かれています。打ちのめされるだけではなく、したたかに自分の人生を全うしようという潔さも感じられます。その象徴としての主人公を、フランシス・マクドーマンドが見事に演じています。大傑作「スリー・ビルボード」を観たときにも思いましたが、この人は一見粗野な芯の強さの背後にある寂しさ、慎ましやかさを表現するのが本当に上手です。リーマンショックが、アメリカの普通の人々に与えた影響の大きさも感じられます。このような事象がトランプ大統領誕生の背景にあったかも、と思うと少し切ない気持ちになりました。地味で微妙なアメリカ社会の問題を題材にした映画を、中国出身の監督が制作されたことに驚きです。日本人以上に、中国人の方がアメリカという国の本質を理解しているのかもしれません。いろいろと考えさせられることの多い作品ですが、困難な時代を生きる同志として観客を捉えているかのような「See you down the road.」というメッセージに全編が貫かれている点に勇気づけられます。

61 マーベルのダークヒーローものです。ヴェノムが登場するまでの前振りが長すぎて、テンポが悪すぎます。ヒロインがそこまで魅力的ではないので、主人公の恋愛模様をここまで詳細に描かれても困ってしまいます。それだけ焦らした割には、地球征服を目論む地球外生命体が、人類に協力する心変わりが丁寧に描かれておらず、唐突感が否めません。前半に時間を使い過ぎたので、肝心のアクションシーンも消化不良です。ヴェノムのキャラクター自体は、残虐でありながら、どこかコミカルかつ温かみもあり、劣等感をバネにしているなど、現代的で個人的には好きです。続編作る気満々なエンディングでしたが、一作目はキャラ紹介に終始した印象なので、二作目以降に期待したいと思います。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

竜とそばかすの姫

2021-08-07 11:45:29 | Weblog
■本
63 無理ゲー社会/橘 玲
64 感情の正体/渡辺 弥生

63 橘玲さんの本は、いつも私が思いもつかない視点を与えてくれるの大好きなのですが、この本は現状分析は相変わらず鋭いものの、悲観的過ぎて読んでいて少ししんどかったです。悲惨な現状の中でも、「知識」を武器にしたたかに生き残って行こうというポジティブな余韻が残る点が好きだったのですが、「上級国民/下級国民」あたりからは、現状に対する処方箋もさほど提示されなくなっている点が気になります。それだけ現状の格差社会が絶望的な状況なのかもしれません。本作は世界のリベラル化の潮流で、「自分らしく生きられる」世界が実現することにより、自己責任が強調され、能力や見た目による格差(そしてそれらは遺伝により決定される要素も大きい)が多くの人を生きにくくしている、という不都合な事実がこれでもか、と語られています。橘さんのおっしゃる通り、我々が、容姿、能力、経済力とそれらに基づく「評判」の格差に悩まされる、無理ゲー社会に生きているのが事実だとしても、例えば、自分のできる範囲でのささやかな思いやりにより少しずつ「評判」を上げていくことなどで、この無理ゲーの中で少しでも快適にサバイブしていく方法を探るしか、ゲームからの離脱(死)以外の選択肢はないのでは、とも思いました。

64 タイトルに魅かれて読みましたが、残念ながら私には、この本を読んでも「感情の正体」はわかりませんでした。「感情」について我々がわかっていることはまだ少ない、ということを教えてくれる本であるとも言えます。副題の「発達心理学で気持ちをマネジメントする」の方が、この本の内容をよく表しており、人間が生まれてからどのように感情を発達させていくかについて、いろいろな研究事例をもとに説明してくれます。自分の感情を理解し言語化して伝えること、そして、その感情に適切に向き合っていくことの大切さが理解できました。広く浅く取り上げられているので、「感情」について理解しようと思うと物足りない面もありますが、発達心理学の入門者として読むのが正しいのだと思います。


■映画
58 竜とそばかすの姫/監督 細田守
59 荒野の決闘/監督 ジョン・フォード

58 登場人物の行動が突飛すぎるところやご都合主義過ぎる点(いくらネットが発達したとはいえ、住所がわからない都内の家があんなに簡単には見つからないと思います)など、ストーリー展開上の瑕疵はたくさんありますが、オリジナリティーとパワーに満ちた素晴らしい作品だと思います。音楽も映像もとても独創的でしたし、小ネタも面白かったです(ひとかわむい太郎&ぐっとこらえ丸が最高でした)。前作「未来のミライ」は個人的にはあまり評価していないのですが、本作で細田守監督は完全復活したと言ってもよいと思います。繰り返しになりますが、細かい辻褄は無視して、自分の創りたいものを創るというパワーが圧倒的でした。そのパワーに導かれるまま、飽きることなくあっという間に時間が過ぎ去った感覚です。名作「サマーウォーズ」と同様に、平凡な日常の裏にある危機の描き方がとても巧みです。ヴァーチャル世界の煌びやかさと、現実の高知県の素朴な風景との対比も見事です。とさでんを乗りに行きたくなりました。

59 ジョン・フォード監督作品も機会があれば観ていきたいと思っています。友情、恋愛、アクション、別れといった映画に必要な要素が全て入ったお手本のような作品です。切なくも温かい余韻が最高です。西部劇という荒々しい舞台を用いて、主人公の不器用な優しさを表現する手腕が心憎いです。今となってはツッコミどころが多くはありますが、女性の描き方が紋切り型でないところも、さすがだと思いました。1946年の作品ですが、全く古びていない傑作です。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする