本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

とにかくうちに帰ります

2019-01-26 10:14:23 | Weblog
■本
6 0秒リーダーシップ/ピョートル・フェリークス・グジバチ
7 とにかくうちに帰ります/津村 記久子

6 特に目新しい内容はありませんでしたが、「プロトタイプシンキング」や「マインドフルリーダーシップ」など、最新のトレンドをコンパクトに押さえつつ、テクノロジーが進化してグローバル化も進展した変化の激しい時代のリーダーシップのあり方について、網羅的に解説してくれているので参考になります。しかし、書かれている内容よりも、共産主義時代のポーランドで生まれて、冷戦終結に伴う混乱に翻弄されつつも学習意欲を失わず、モルガン・スタンレーやグーグルの人材開発責任者にまでになった、筆者の経歴とマインドセットの方に刺激を受けました。

7 津村記久子さんの短中編小説集です。冒頭の「職場の作法」と題された短編連作集は、津村さんらしく、仕事上の些細な屈託や矜持が丁寧にかつコミカルに描かれていて、「職場あるある」的な楽しみ方ができます。アルゼンチン男子フィギュアスケーターについての、トリビアルな関心を描いた短編を経て、圧巻は表題作の「とにかくうちに帰ります」です。いつものように、仕事で嫌なことがあった主人公の、早く家に帰りたいという心の叫びを描いた小説かと読む前に勝手に想像していましたが、豪雨で交通機関がマヒした人工島から歩いて家路を急ぐ4人の登場人物を描いた、津村さんの作品にしては非常にダイナミックな内容でした。豪雨という非日常を描くことにより日常の平凡な生活の有難さが、そして、普段の職場では冴えない人物の緊急時の善意を描くことにより人間のささやかな気高さが、地味ながらもしみじみと心に浸み込んできます。津村さんの新しい試みが成功していて、ファンとしてはいろんな意味でも楽しめました。これからも彼女の作品を読み続けたいと思わせる優れた作品です。


■映画 
8 チェンジング・レーン/監督 ロジャー・ミッシェル

 自動車接触事故により人生の歯車が狂い始める二人の登場人物を描いたサスペンスです。ベン・アフレックが少し傲慢なエリート弁護士を、サミュエル・L・ジャクソンがアルコール依存症から脱却しようとする保険セールスマンを手堅く演じています。衝動的な「怒り」がもたらす悪影響をテーマにしている点や、先の読めない展開、そして、なによりサスペンスなのに人が誰も死なないところにとても好感が持てました。しかし、ストーリーがなにぶんご都合主義過ぎます。狭い町なのでしょうが、主人公がやたらと偶然に出会います。出番は少ないものの、アルコール依存症患者の集会で出会った友人役をウィリアム・ハートが好演していたので、「怒り」に翻弄される主人公たちと彼の対比をもっと強調して欲しかったです。二人の不幸な諍いが、お互いの成長につながったように見せるエンディングは素晴らしいと思いました。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

走れ! マンガ家ひぃこらサブスリー

2019-01-19 11:10:33 | Weblog
■本
3 走れ! マンガ家ひぃこらサブスリー/みやす のんき
4 世界で最もイノベーティブな組織の作り方/山口 周
5 残り全部バケーション/伊坂 幸太郎

3 タイトルの「ひぃこら」という文字と、みやすさんの「運動オンチで85km、52歳」というプロフィールを見て、サブスリーにも気楽に取り組める内容の本かと期待していましたが、独自の経験を踏まえた厳しい練習とダイエットの大切さが強調されたやはりガチなものでした。サブスリーは本気で取り組まないと達成できないということが、あらためて認識できたのがこの本を読んだ一番の収穫です。あとは、スピード練習の大切さやセルフコーチの利点と欠点が説明されている点も、長距離走中心の我流で練習している私には参考になりました。加齢の影響についても解説されていて、私も50代に入るまでのこの2年で自己ベストのサブ3.5を達成すべく、負荷をかけていきたいと思います。

4 引き続き山口周さんの本を読んでいます。先日読んだ山口さんの「劣化するオッサン社会の処方箋」の内容と若干重なるところもありますが、イノベーションを起こす上で必要な、組織とリーダーシップについての要点をわかりやすく解説してくれています。楠木健さんもよくおっしゃっている通り、「イノベーションそのものを起こせと命令して起こせるものではない」という前提に立たれつつも、そこで思考停止するのではなく、それでも日本企業(山口さんは個人としての日本人は創造性があるという立場を取られています)がイノベーティブな組織を作るにはどうすればよいかを真摯に考えられているので参考になります。「多様性の尊重」、「サーバント・リーダーシップ」、「ビジョンの提示」といったよく語られているものから、「『予告された報酬』は効かない」や「『働き者』だけの組織は低効率」、といった意外性のあるものまで、用いられる事例も独特でかつわかりやすく、読み物としても面白いです。

5 定期的に伊坂幸太郎さんの本を読みたくなります。この本は、非合法な仕事をしつつも独特の美学があり、憎めない登場人物達の連作短編集です。相変わらずキャラクターの造形はトリッキーかつ魅力的で、ストーリー的にも伏線の回収が見事です。最終章終盤の怒涛の展開は、先が気になって一気に読んでしまいました。それだけに、読者に結末を委ねる展開は賛否が分かれると思います。それでも、素直に読めば大多数の人が同じ結論にたどり着く、親切設計なのはさすがです。伊坂作品にしては、悪の描き方が少し弱いかな(途中までは巨悪なイメージの登場人物が、最後にはなんかいい人のような感じになってしまいます、が、この人たちに人生を狂わされた人も大勢いるわけで、その点が少し混乱してしまいました)、という気もしますが、読後感はよく、欠陥を抱えながらもなんとか生き抜いていこうという勇気がもらえます。


■映画 
7 勇気ある追跡/監督 ヘンリー・ハサウェイ

 2011年にアカデミー作品賞にもノミネートされたコーエン兄弟の「トゥルー・グリット」を以前に観ておもしろかったので、そのリメイク元で1696年に制作された本作を観ました。結構たくさんの人間が死ぬのですが、コーエン兄弟作品と比べると、どこかあっけらかんとしていてあまり血なまぐさくはないです。その分、主人公の少女と彼女に雇われたやさぐれ保安官との心の交流に重点が置かれています。ストーリーはかなりご都合主義ですが、それでもやはりよくできていて引き込まれます。保安官役のジョン・ウェインが超人的な強さを見せるところも、ファンタジーっぽい印象を残します。古き良きアメリカを体現したシンプルに面白い作品ですが、「トゥルー・グリット」の屈託たっぷりの展開と比べると、世界はより複雑にかつ面倒くさくなっているのだと実感します。主人公の少女の腹が立つほどの生意気さは両作品に共通していますので、彼女を好きになれるかどうかで作品の評価も分かれそうです。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

SHOE DOG

2019-01-12 11:03:29 | Weblog
■本
2 SHOE DOG/フィル・ナイト

 ナイキの共同創業者による株式公開までの自伝です。ITでもないレガシーな靴販売ビジネスの成功自慢話をいまさら読んでも、と思って敬遠していたのですが、あまりに評判がよいので読んでみました。まず、読み物として抜群に面白かったです。資金繰りに行き詰まったり、訴訟に巻き込まれたり、さらには政府からも多額の請求を受けたりするなど、数々の窮地に陥りながら、ギリギリのタイミングでその危機を乗り越えていく過程がスリリングに語られています。次に、それを上から目線の自慢話的にではなく、失敗談風に自省しながら語られている点も共感が持てます。なにより、ナイトさんも含めて、どの登場人物も欠点がたくさんあるにもかかわらず、みんなチャーミングなところが素晴らしいです。さらに、著者が会計士でもあっただけあって、なぜ資金繰りが大切なのかや株式公開のメリットとリスクを、具体的に肌感覚で理解できるので、ビジネス書としても素晴らしい内容だと思います。結論としては、好きなことを好きな仲間と一緒に熱狂的にリスクを恐れずに取り組むと成功確率が高まるということなのだと思いますが、そこに運による要素も冷静に捉えているところも納得感があります。エピローグに、あまりうまくいかなかった長男との関係とその悲劇についても触れられていて、成功者の悲哀についても理解することができ、奥が深い本です。ちょっと長いですが、いい本を読んだという満足感が得られると思います。


■映画 
3 何者/監督 三浦 大輔
4 進撃の巨人 ATTACK ON TITAN/監督 樋口 真嗣
5 進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド/監督 樋口 真嗣
6 ハドソン川の奇跡/監督 クリント・イーストウッド

3 基本的には原作に忠実ですが、「愛の渦」の三浦大輔監督作品ということもあって、演劇的手法が随所に盛り込まれていまて面白いです。佐藤健さん、有村架純さん、二階堂ふみさん、菅田将暉さんといった若手実力派俳優が多数出演していて、内容も引き締まっていますし、映像的にも華やかです。中田ヤスタカさんのハイテンションな音楽も作品の世界観に合っています。ストーリーも、原作同様に後味は悪いものの、就職活動の理不尽さとその過程で自尊心を破壊され続ける若者の姿を、予想がつかない展開の妙も交えつつ巧みに描かれています。これと言って欠点のない無難な映画だと思いますが、この華やかなキャストならもう少し派手な題材で観たかったという気も少ししました。

4、5 公開直後ネットで酷評されていた作品ですが、ハードルを下げ切って観たためか、それほどつまらないとは思いませんでした。原作からのキャラクターのアレンジはナイスチャレンジだと思いますし、ストーリーの変更も、なんとなく、エヴァンゲリオンっぽくなり、原作にあったオリジナリティは減ったとは思いますが、ここまで、叩かれるほどはひどくはないと思います。失敗の要因は前後編に分けたことに尽きると思います。ビジネス上の要請だとは思いますが、特に後編の方の冗長な感じはかなりのものでした。一本の映画として、2時間を切るくらいの時間で凝縮できれば、CGのクオリティは高いので、それなりのインパクトを持って最後まで引っ張っていけたような気がします。あと、石原さとみさんは、まったくおいしくないこの役をなぜ引き受けたかという印象が強く残りました。

6 2009年のUSエアウェイズ1549便不時着水事故を題材に映画化された作品です。機長を筆頭に関係者の尽力により、死者が0で済んだこの事故を、単なる美談として描くのではなく、ギリギリの状況でハドソン川に不時着するという決断を下した機長の苦悩と、制服組と現場のコンプライアンス上の軋轢が中心に描かれているところが興味深かったです(最近、勤めている会社のオーバーコンプライアンスに個人的に悩まされているということもありまして)。単純に時系列でこの奇跡をもっとドラマティックに描くという選択肢もあったと思いますが、そうしなかったところが(事故自体は回想シーンで描かれ、突如英雄視されるようになった機長の事故後の様子が中心に描かれています)、さすがクリント・イーストウッド監督ですし、その試みは見事に成功していると思います。機長を演じたトム・ハンクスの抑制の効いた演技とも見事に噛み合い、いぶし銀の味わい深い作品になっています。クリント・イーストウッド監督は、ほんの少しの表現上の工夫で、はるかに映画を魅力的にする秘密を熟知している監督だとつくづく実感しました。素晴らしい作品です。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

この世にたやすい仕事はない

2019-01-07 06:27:05 | Weblog
■本
1 この世にたやすい仕事はない/津村 記久子

 津村記久子さんらしい仕事をテーマにした作品です。今回は、一生取り組もうと思っていた職業に挫折した主人公が、さまざまな奇妙な仕事(人を1日中見張るものや森林公園の小屋での単純作業など)や周囲の人々の職に対する思いに接するなかで、もう一度自分のやりたい仕事に取り組もうと思うまでの、ちょっと奇妙な喪失と再生の物語です。津村さん作品に特徴的な、仕事に対して過度の期待も失望もしない絶妙の距離感が、現実離れした舞台設定の中で描かれているので、かえってそのテーマがくっきりと浮かび上がってくる気がします。就職難で会社から否定されることの多いロスジェネの、仕事に対する矜持のようなものが感じられ、歳を重ねるごとに慣れてしまい、やっつけ仕事になりがちな私もやさしく活を入れられているような気がしました。読み物としても、先の展開が全く読めず、コミカルでありながら心の奥深くに響く表現も随所にあって、抜群に面白かったです。新年に新たな気持ちで仕事に向き合う上では最適な本だと思います。


■映画 
1 エル・スール/監督 ビクトル・エリセ
2 ヘアスプレー/監督 アダム・シャンクマン

1 スペインの名匠ビクトル・エリセ監督による1982年の2作目(生涯3作しか長編映画を撮っていないですし、3作目はドキュメンタリーなのでフィクション作品としては最後の作品です)。1作目の「ミツバチのささやき」が大好きなので(主演の少女の目力が印象に残っています)、ずっと観たいと思っていました。主人公の少女の成長と父親との交流を軸に、1作目と同様にスペイン内戦による人々の心の傷をさりげなく描いています。冒頭から悲劇を予感させる展開なのですが、父親のスタイリッシュかつどこかオカルティックなキャラクターもあってか、それほど重くなく、浮世離れした不思議な印象の作品です。こちらも1作目同様、光の使い方が巧みで、時間の経過を光と影の動きだけで表現している職人芸には感心させられます。派手さはないですが、極限まで無駄を省いたストーリーと美しい映像で、芸術的な映画を観たという満足感が得られる作品です。芸術的と言っても決して難解ではなく、敷居が低いところも素晴らしいと思います。

2 ジョン・ウォーターズ監督作品をリメイクした2007年に創られた方の作品を観ました。人種差別が色濃く残っていた1960年代のボルチモアを舞台に、容姿や人種への差別に対して自分の大好きなダンスを通じて無邪気に対抗する主人公が、徐々に周囲に影響を与え意識を変えていくというミュージカル作品です。アメリカらしい、世界は良い方向に向かっているという楽観主義に満ちた作品で、今のアメリカの状況と照らし合わせるといろいろと考えさせられます。予定調和過ぎるところが個人的には少し物足りませんでしたが(といってもほとんどのミュージカルは予定調和的ですが)、メッセージとしてはとても共感でき楽しめました。ジョン・トラヴォルタが巨体女性を特殊メイクによって演じている以外は、さほど毒気がないので、ジョン・ウォーターズ監督作品の方も観てみたいと思います。癖の多い役の多いクリストファー・ウォーケンがキュートな父親役を演じているのは意外でしたが、とても魅力的でこの役者の引き出しの多さを再認識しました。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする