本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

自分の意見で生きていこう

2022-01-29 07:11:44 | Weblog
■本
9 絶望名人カフカの人生論/頭木 弘樹
10 自分の意見で生きていこう/ちきりん

9 長男が2年半前に登校拒否になる直前に読んでいたことをふと思い出し、手に取りました。カフカの残した手紙や日記から、さまざまなものに対する絶望の言葉を取り上げ、それに解説が加えられた本です。カフカが父親への恨み言を書いた長い手紙からの引用など、親の立場から読むと辛い記述もいくつかありましたが、私も基本的にネガティブな性格なので共感できる点が多かったです。これほどまでものごとに対して悲観的にとらえられると、一周周って滑稽かつ変に励まされる気さえします。一方で、カフカが生涯願った結婚生活を(主に自分の責任で)得ることができなかったものの、自分の人生を捧げてもよいと思える小説作家という道に出会え、死後にその小説を世に出そうと尽力してくれる友人がいて、生活のためにいやいやながらも就いた保険協会の仕事で評価され昇進さえしたという事実も見逃してはいけないと思います。この本を読んで長男が何を感じたかについて、いつか話してみたいと思います。

10 タイトル通り「自分の意見で生きていく」ことの大切さとそのための方法論を具体的に教えてくれる本です。ちきりんさんの地頭の良さを堪能できるだけでなく、先行きが不透明な時代に強かに生きていくために老若男女問わず必要な、心構えやスキルが得られる素晴らしい本です。多くの人に読んでもらいたいです。世の中には「正解のある問題」と「正解のない問題」があり、調べればわかる「正解のある問題」に素早く答えられるよりも、「正解のない問題」に対して自分の意見を持つことの方が重要という提言は、最近ビジネス界でもよく言われるようになった「課題自体を発見する能力」にも通じるものがあると感じました。個人的には、『「みんなと同じ意見しか言わない人」をオピニオンリーダーとは呼びません』という指摘には目から鱗が落ちる思いでした。同調圧力が高まる一方のコロナ禍の生活ですが、そんな状況でも自分の意見をしっかりと持ってポジションを取ることが(もちろんその発言の仕方には謙虚さは必要でしょうが)、結局は周囲に認められることになるのだということに気づかされました。


■映画
6 新解釈・三國志/監督 福田 雄一
7 おらおらでひとりいぐも/監督 沖田 修一

6 有名タレントを贅沢に起用して、ゆるーいギャグを連発するコメディです。三国志のふざけ過ぎた解釈(三国志である必然性は感じませんでした)や渡辺直美さんと広瀬すずさんを対比させ、ルッキズムをいじった際どいギャグなど(個人的にはギリギリセーフだと思いました)、評価が分かれそうな作品ですが、少し長すぎる点を除けば楽しめました。創り込み過ぎることを避け、ラフなアドリブ感による面白さを出したかったのだと思いますが、それであれば、舞台公演の方が適していると思いました(これだけのキャストを集めるのは不可能でしょうが)。戦闘シーンも必要以上に迫力があり、お金の使い方がいびつな印象も残りました。ある意味贅沢な作品です。映画館でお金を出して観ていたらもっと厳しい評価になっていたでしょうが、テレビで家族でワイワイと観るには良い作品です。

7 芥川賞史上2番目の高齢受賞となった小説の映画化作品です。主人公老女の内面感情を宮藤官九郎さんら三人の男性俳優で表現するなど、沖田監督のチャレンジングな工夫は素晴らしいと思いましたが、原作小説に感動した立場から観ると、少しやり過ぎな印象がどうしても残ってしまいます(特に、原作にない、主人公が新しい自家用車を購入するシーンや医師を類人猿に見立てる映像には違和感を感じました)。映画という表現手段を用いる以上ある程度仕方がないのかもしれませんが、他者とのささやかな交流のエピソードを付加するよりも、原作にもう少し忠実に、主人公の内面を徹底的に掘り下げて、その描写の工夫に力を注いでもらった方がよかったと思います。原作小説を読む前に、映画の方を先に観た方がよいタイプの作品だと思います。冒頭のアニメなど、同じく沖田監督作品の「子供はわかってあげない」との共通点が垣間見られ興味深かったです。
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スパイの妻

2022-01-22 08:08:14 | Weblog
■本
7 ビジネスエリートが身につける教養 ウイスキーの愉しみ方/橋口 孝司
8 日本人が誤解している東南アジア近現代史/川島 博之

7 タイトル通り、ウイスキーについての教養的な知識が得られる本です。ステイホームで家でハイボールを飲む機会が増えたので読みました。これまで漠然としか理解していなかった、ウイスキーの原料、製造方法、歴史や、お酒全般の基本的な知識(「醸造酒」、「蒸留酒」、「混成種」の違いや、それぞれのお酒の種類など)も知ることができ参考になりました。「好みのウイスキーを見つけるヒント」や「バーで格好良くウイスキーを注文する方法」といった実践的な知識も教えてもらえましたので、今度試して見ようと思います。具体的な銘柄についてまではあまり踏み込まれていませんので、バイヤーズガイド的な本というよりも、知人と楽しくお酒を飲むための話題のネタ帳的な内容だと思います。

8 若干韓国に対して厳しすぎる点が気になりますが、その点のみ注意すれば、中国に対しては比較的ニュートラルな評価ですし、データに基づく分析が多く信頼できるので、東南アジアの近現代史や日本との関わりを手っ取り早く理解するには、とても有用な本だと思います。実際に各地に足を運んでビジネスを行っていらっしゃる立場から書かれているので、第二次世界大戦(筆者の川島さんは「あの戦争」という言葉を用いられていますが)での日本と各国の関わりや、宗教、食生活、華僑の勢力状況など、東南アジアの各国と取引する上で、どういった点を考慮すべきかについて教えてくれるので、とても興味深い内容でした。日本の各国との貿易額だけでなく、各国の貿易額に占める日本の割合を知ることが重要(それがすなわち各国の日本の重要度になるため)など、データの分析方法についても参考になる点が多かったです。ミャンマー人に対する評価がとても高いですが、政情が不安定なので(その政情不安定の理由についてもこの本を読んでずいぶん理解が深まりました)、この本ではあまり取り上げられていませんが、その隣国のラオスに行ってみたくなりました。


■映画
5 スパイの妻/監督 黒沢 清

 戦時下に日本のある国家秘密を知った夫婦が、国家の利益と普遍的な善との間に葛藤しながら、その秘密を国際社会に暴露しようとする姿を描いた作品です。蒼井優さんと高橋一生さんの、演劇的な大きな演技(違和感を感じる人もいらっしゃると思いますが)の見事さを堪能できる作品です。既に多方面で評価されていますが、世間知らずのお嬢様から、使命感に満ちた信念の人へと変貌する蒼井優さんの鬼気迫る演技が圧巻です。サスペンス要素を絶妙に織り交ぜたストーリーと、昭和前半の神戸の街並みを再現した映像も見事です。なにより、真偽が明らかではない題材を用いて、ある種戦前日本を批判するような映画を自由に制作できるだけの表現の自由が、まだ日本に残されていることが確認できた点に安堵しました。某国だとこの種の映画は絶対に公開できないと思います。
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ショウほど素敵な商売はない

2022-01-15 07:48:45 | Weblog
■本
5 老人支配国家 日本の危機/エマニュエル・トッド
6 すべての罪悪感は無用です/斎藤 学

5 昨年新書としては結構売れていたのと、タイトルに魅かれて読みました。人口動態から社会の動きを分析されている学者さんらしく、日本の少子化に対する警鐘が何度も鳴らされているものの、「老人支配国家」に関する具体的な記述はなく、その点は少し拍子抜けしました。内容はエマニュエル・トッドさんの近年の日本の雑誌等への寄稿や対談を集めたものです。一見リベラルに見える彼がトランプ大統領の誕生(トランプさんの人格を評価しているわけではないです)やイギリスのEU離脱を評価されている点が少し疑問でしたが、極端なグローバリゼーションに批判的であるという立場から考えると腹落ちできました。日本にかなり好意的で、日本人が言ってもらいたいことをわかりやすく言ってくれている点が日本で売れている原因だと思います。個人的にはかなりリップサービスがあると思いますが、論理的な文章なので、海外から日本はこう見えているのかという一意見としては参考になりました。少子高齢化が進む中で、日本も移民を受け入れる必要があると述べつつ、その受け入れが急激であると激しい文化的な衝突が生じ、双方にとって幸せにはならない、という指摘は納得感が高かったです。若者が生きやすい日本にする必要があると改めて思いました。

6 著名な精神科医である斎藤学さんが、これまで著書やWEBで発表された「生きづらさを抱えている人たちに役立ちそうな言葉」を集め、解説を加えられた本です。自分の思考の悪い癖について気づかされるとともに、それでもよいのだと励ましてくれるような内容です。自己肯定感の大切さについて再三強調されている点が印象に残りました。自分の「行為」ではなく「存在」自体を尊重できるようになることが理想だと思いますが、そのためには「行為」も改める必要もある点が難しいのだと思います。言うは易く行うは難し、だと思いますが、「生きづらさ」を軽減するためには、長い時間をかけてでも、自分や社会の思い込みから脱して、自分にとって快適な生き方、立ち位置、居場所を見つけていくのがよいのだと思いました。


■映画
3 ショウほど素敵な商売はない/監督 ウォルター・ラング
4 とんかつDJアゲ太郎/監督 二宮 健

3 ショウビジネスに魅せられたある家族の、子どもたちが巣立つまでの過程を描いた作品です。マリリン・モンローが主演の映画だと思っていましたが、主人公家族の次男が恋心を寄せる、野心的な女優の役でした。脇にまわっても彼女の存在感は抜群でしすし、出番が控えめな方がその魅力が際立つ効果があった気がします。ストーリーはまさに古き良きアメリカを描いたもので、自分の芸一つで厳しい業界を生き抜く人々の葛藤や喜びがポジティブに描かれています。ショウビジネスが舞台なので、ミュージカルにありがちな歌唱シーンの違和感もありません。際立った個性や大きなサプライズはないですが、安定感抜群のエンターテイメント作品です。

4 北村匠海さんの演技力や歌唱力をさほど評価していなかったので、さほど期待せずに観たのですが、予想に反してとても面白かったです。DJととんかつという異質の分野を掛け合わせつつ、その双方での若者の成長物語として、十分に見応えがあります。とんかつとDJの細かい技法や心構えを伝えるエピソードも絶妙のアクセントとなっています。挫折からのクライマックスのDJイベントの盛り上がりと、少しスカしたエンディングにもセンスを感じました。努力、友情、勝利のド直球の基本を押さえつつ、そこに独特の変化球を交えているのがクールです。
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スマホ脳

2022-01-08 07:51:05 | Weblog
■本
3 裏道を行け ディストピア世界をHACKする/橘 玲
4 スマホ脳/アンデシュ・ハンセン

3 高度化する一方の知識社会の進展で、ロングテール化(少数の大成功者と多くのそれ以外の人に分かれる構造)が進み、ふつうに生きているだけでは人間らしく生きていくことができなくなった世界で、そのシステムの隙を見つけ、ハッキングしていくことにより、したたかに生き抜いていこうという、橘玲さんらしい作品です。「恋愛」、「金融市場」、「脳」、「自分」、「世界」をハッキングしようとした人の試みを紹介しつつ、この残酷な世界をサバイブする方法が探られています。少し前までの橘さんの作品は、このハッキング方法の描かれ方がカラッと明るいものだったのに対し、近年の作品はハッキング方法やその結末がどこかグロテスクにさえ感じられる点が気になります。本作でも、ハッキングに成功した人が一時は幸福な人生を送っているように見えつつも、その後は必ずしもそうではない例が多いです。現実世界がますます厳しくなっていることを象徴しているのかもしれません。暗い気持ちになりつつも、それでも、周囲の常識に左右され過ぎず、自分で考え続けなければならないと思わされました。

4 昨年のベストセラーということで読みました。息子たちのスマホに接する時間がとにかく長いので、読み進むにつれて不安が募りましたし、その原因や対処方法が脳の特徴を丁寧に説明しつつ解説されているので、とても参考になりました。我々の脳は、他の人間も含む動物からの襲撃や飢餓の危険に日々さらされていた時代からさほど進化していない一方で、スマホに代表されるテクノロジーは進化し続けているので、そのギャップが我々の精神状態や健康にさまざまな悪影響を与えているというのが、趣旨だと私は理解しました。そのうえで、そのギャップを理解しつつ、テクノロジーに支配されるのではなく、よりよい生活を送るために適切な関係を保とうと主張されています。飢餓の危険が身近にあった時代の名残で、食べられるものがあるときに食べておこうと脳が判断しがちなのと同様に、たとえ間違いであっても危険を察知するために常に周囲に気を配る特徴が脳にはあり、そのために、スマホからのメールやソーシャルメディアの通知が気になり、スマホから離れられなくなる傾向が説明されています。AIで代替できない仕事には集中力が必要とされる一方で、テクノロジーの発達が人間から集中力を奪っているという指摘が、危機感とともに特に印象に残りました。ダイエットと同じで実施するにはかなりの強い意志が必要だと思いますが、デジタル機器に触れる時間の削減も必要だと感じました。取りあえず、適度な運動とスマホの寝室への持ち込みをやめ、通知機能をオフにすることを続けることから始めたいと思います。子どものスマホ中毒に悩む親だけでなく、自身の集中力のなさや睡眠不足に悩む人にもお勧めできる良書です。


■映画
2 マラソンマン/監督 ジョン・シュレシンジャー

 ダスティン・ホフマン主演のサスペンスです。タイトルからマラソンが重要な役割を果たすのかと勝手に思っていましたが、単に主人公の趣味のジョギングシーンが冒頭に描かれていたからでした。日本版のみのタイトルかと思いましたが、原題も「Marathon Man」です。監督は名作「真夜中のカーボーイ」のジョン・シュレシンジャーですが、本作はそこまで手放しの傑作とは残念ながら言えません。冒頭から断片的なエピソードを並べ、なかなか本筋が始まらず、それがサスペンス効果を高める狙いとしてある程度機能しているとは理解しつつも、まどろっこしくて作品世界に入り込めません。それらのエピソードが繋がったときの爽快感もさほど得られませんでした。主人公が元歯科医に拷問されるシーンの生々しさは強く印象に残りますが、拷問する側の動機が単なる金目当てで、強大な権力が背景にあるわけではないので拍子抜けしました。緊迫感のある映像の見せ方など、監督、俳優の素晴らしい技術が存分に発揮されつつも、それが作品全体のクオリティに直結していない点が少し残念な作品です。
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ベンチの足

2022-01-01 06:03:12 | Weblog
■本
1 LIFE SHIFT2/アンドリュー スコット、リンダ グラットン
2 ベンチの足/佐藤 雅彦

1 年末年始に自分の今後を考える参考にしようと思い読みました。基本的には前作と同様に、人生100年時代に必要な、これまでの教育、仕事、引退と一方向に流れる人生設計とは異なる、学び直しや適度な休息も含めた、新たな人生戦略について提案してくれる内容です。前作よりは具体的に、各個人、企業、教育機関、政府がどのように取り組むべきかについて解説してくれていますが、基本的には前作を読んだ人が改めて読む必要はあまりないような気がしました。自分の人生に意味を与えるストーリーを紡ぐ能力と、テクノロジーの進化による技術的発明に対応した、制度設計などの「社会的発明」の重要性を強調されている点が印象に残りました。社会の急激な変化に合わせて、自分の人生の筋書きを対応させていく、アートとも呼べる能力が求められているのだと思いました。

2 佐藤雅彦さんのエッセイ集「考えの整頓」の第二集です。佐藤雅彦さんの本は、どれも、ものごとを見る新たな視点を与えてくれるので、新年に頭を柔らかくしたいと思い読みました。シンプルにエッセイとしても面白く、その展開や話題の妙に唸らされます。普通の人には体験できないような、数奇なご経験も多く取り上げられているのですが、佐藤さん自身の旺盛な行動力と好奇心が合わさってのものだと思います。ものごとの本質や原理を深く考え抜くことにより、人生がより豊かになることにも気づかされます。また、自分の思い込みや経験を意図的に忘れることも重要だと感じました。軽妙な語り口の楽しい本ですが、読む人によっていろいろな発見がありそうな味わい深い本です。


■映画
1 ラブソングができるまで/監督 マーク・ローレンス

 ヒュー・グラントとドリュー・バリモアが共演するラブコメディです。二人の出会いなど、ご都合主義的な脚本が少し気になりますが、抜群の安定感で楽しめます。過去にヒットを連発したバンドに所属し、解散後のソロ活動では低迷を続ける主人公は、まさにヒュー・グラントにピッタリの役です。こういうくたびれた感じの美男子を演じると本当に巧いです。ドリュー・バリモアもいつも通りのドジっ子ですが、一本芯の通った女性を可愛げたっぷりに演じています。このままだと、究極の予定調和な作品に留まりますが、エキセントリックな女性トップアーチスト(仏教を奇妙に解釈したセクシー路線の楽曲が最高です)を演じる、ヘイリー・ベネットの身体を張った演技が絶妙のアクセントとなっています。実在アーチストのいじり方やパロディっぽいビデオクリップなど、毒も適度に効いていて、大人が気軽に楽しめるコメディに仕上がっています。
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