本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

父と暮せば

2013-08-25 07:12:47 | Weblog
■本
75 ワンクリック―ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛/リチャード ブラント
76 不格好経営―チームDeNAの挑戦/南場智子

75 世界最大のネット通販サイト「Amazon」の歴史を、創業者ジェフ・ベゾス氏に焦点を当てて書かれた本です。癖の強い個性を持つベゾス氏に対してはシニカルな視点での記述が目立つ一方で、その成し遂げた業績については素直に賞賛されていて、著者のバランス感覚が光ります。Amazon成功の背景に、ベゾス氏の明晰な頭脳とバイタリティ溢れる行動力があることはもちろんですが、インターネット黎明期にサービスをいち早く立ち上げたタイミングの良さと、「ワンクリック特許」に代表されるグレーな特許が認められたという幸運さも起因していることがよくわかりました。企業戦略上「どこで、いつ戦うか」が大切、ということを最もよく体現している会社であるとも言えます。「初めは信頼性が低く簡素なシステムから」始めるというスピード重視の意思決定も、今から考えると先行優位を築く上では常套手段であると理解できますが、当初はかなりの勇気が必要だった気がします。積極的な価格戦略や利益よりも拡大を優先する当初の姿勢など、意思決定の大胆さにも感心しました。別会社での宇宙事業の進出など、その発想のスケールの大きさにも圧倒されます。頭では理解できますが、とても行動として真似できないことばかりで、ベゾス氏もやはり、スティーブ・ジョブスやビル・ゲイツと並ぶ天才なのだと思います。

76 「モバゲー」で有名な「DeNA」創業者である南場智子さん自身が、会社の発展について書き下ろした本です。南場さんはベゾス氏とは異なり、「秀才型」の経営者だと勝手に理解して読んだので、そのロジカルな意思決定の考え方は参考になるところが多いですが、ベゾス氏を上回る会社や社員への愛情の大きさは、やはり常人には真似のできないところです。サイバーエージェント社長の藤田さんの本では、ベンチャー立ち上げ時の営業現場のハッタリや勢いがとてもよく伝わってきましたが、こちらの本では立ち上げ時のシステム構築の混乱とその対応方法がそれぞれの担当者の奮闘の様子とともに生々しく伝わってきて興味深いです。システム立ち上げ後数時間でユーザーがつきサービスの成否の兆しがわかる、B to Cネット企業のスピード感にも圧倒されます。南場さんの考えや各社員の方々の奮闘ぶりが丁寧に書かれていて読み物としてとても興味深いのですが、それでも「DeNA」という会社が提供するサービスがあまり見えなくて、その不気味さがあまり払拭されていないところが少し残念でした。いわゆる「出会い」防止の細やかな対応など、企業としての真摯な姿勢は伝わってくるのですが、サービス利用者側にどんな問題が起こっていて、「DeNA」の営業現場としてはどのように対応されているのか、というユーザー接点の記述がもう少しあってもよかったのではと思いました。


■CD
70 Paradise Valley/John Mayer
71 Where You Stand/Travis

70 喉の手術からの復帰作ということで、初期の作品のような瑞々しい爽快感は影を潜めていますが、それを補って余りある訥々と丁寧に曲を伝えようとする気概が伝わってきて、好感の持てる作品です。Katy Perryや Frank Oceanといった旬のアーチストとのコラボも効果的で作品全体のアクセントとなっています。John Mayerのギターテクニックも存分に味わえ、長く繰り返し楽しめそうな作品です。

71 こちらも円熟味がさらに増し、安定した渋い作品となっています。コーラス、演奏ともバンドとしてのまとまりが感じられます。抑揚の効いたドラマティックな展開にもかかわらず、シンプルな印象が残る楽曲構成も巧みです。Fran Hearyの伸びやかなヴォーカルも顕在で、秋の野外フェスなんかで夕暮れとともに聴くとグッと来るようなサウンド満載です。


■映画
55 父と暮せば/監督 黒木和雄

 毎年夏になると原作戯曲を読みたくなるのですが、今年は映画で観ました。なんとなく暑さを感じながら観るのがよいような気がして、エアコンを切って正座してみました。原作の持つ二人芝居的な要素は残しながら、原爆投下直後の街並みや原爆ドームの映像など、映画的要素も控えめながらも巧みに盛り込み、監督のメッセージもよく伝わってきます。宮沢りえさん、原田芳雄さんとも凄まじく素晴らしい演技をなされていますが、演技合戦というよりも、ともに作品のクオリティを上げるためにギリギリの切磋琢磨をしている感じで、ストーリーのよさもさることながらお二人の演技力にも心を揺さぶられ、終盤は泣き通しでした。最後の宮沢りえさんの決めセリフも見事に決まり、エンドロールでは鳥肌が立ちました。想像を絶するような被害を受けたにも関わらず、その被害者意識に溺れることなく、死者という不在なものを登場させることにより生き残ったものの罪悪感を表現し、その死者との交流によりその罪悪感が昇華されていく、という物語上の構造も見事過ぎます。歴史に残る傑作だと思います。
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風立ちぬ

2013-08-18 06:36:06 | Weblog
■本
73 20歳のときに知っておきたかったこと/ティナ・シーリグ
74 心を整える。/長谷部 誠

73 若者に「起業家精神」と「イノベーション」を教えているスタンフォード大学教授の本です。若者ではないですが読みました。「いま、手元に5ドルあります。2時間でできるだけ増やせと言われたら、みなさんはどうしますか?」など、演習型授業形式の題材は非常にユニークですが、語られている内容は「早く、何度も失敗せよ」とか「人生において人とは何度も出会うので評判を大切にしないといけない」など、その語り口はポジティブ過ぎるものの、オーソドックスなものが多いです。巻末の三ツ松新さんの解説が実に素晴らしく、「横文字に踊らされることなく自分なりの『異質な方法』をとればいいのです」というメッセージに一番感銘を受けました。本編の肉食過ぎる主張と合わせてこの解説を読むとうまく考えを消化できると思います。

74 サッカー日本代表キャプテン長谷部さんの本です。評判どおりとても読みやすく、長谷部さんの真面目で思慮深い性格が伝わってくる本です。抑制の効いた地に足のついた表現が、おそらく日本人にとってしっくりくるので、100万部を超える大ヒットになったのではないでしょうか?南アフリカワールドカップや優勝した2011アジアカップの裏話を交えながら、「心を整える」ための長谷部選手の習慣や考え方について語ってくれます。一人の時間を大切にしつつ、戦略的に他人とも交流しているバランス感覚が素晴らしいです。自分なりの『異質な方法』を見つけるためには実はこちらの本の方が役に立つかもしれません。


■映画
53 トロイ/監督 ウォルフガング・ペーターゼン
54 風立ちぬ/監督 宮崎駿

53 豪華俳優陣と大規模ロケでお金がかかっていそうな映画の割には、迫力不足でこじんまりとした人間ドラマの印象が残ります。アキレス役のブラット・ピッドもあまり魅力的ではなく、エリック・バナ演じる敵国の王子の方に感情移入しながら観ていました。豪華な衣装で女優はみんなきれいで、うっとりします。オーランド・ブルームのヘタレ役もご愛嬌。歴史大作の割りには、肩肘張らずに気楽に観られる作品です。

54 冒頭の夢のシーンから映像が美しく、作品に引き込まれ、最後の荒井由美さんの「ひこうき雲」まで、あっという間の2時間でした。メッセージを深読みしすぎずに、素直に青春恋愛ドラマとして観て、その中でひっかかった様々な要素の余韻をかみ締めるのが正しい観方のような気がします。主人公堀越二郎の上司である黒川さんの屈折しつつもやさしいキャラクターが最高です。主人公の声を映画監督の庵野秀明さんが演じている点は賛否が分かれているようですが、僕も基本的にはネガです。これまでの声優さんにはない色は出ている(もしくはそのような色自体がない?)と思うのですが、作品世界との違和感が大き過ぎて、ふいに現実に引き戻されたような感覚に陥りました。そのような引っ掛かりを監督が求めていたのかもしれませんが、そういったメタ的要素はこの作品には不要な気がします。
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ぬるい毒

2013-08-11 06:28:01 | Weblog
■本
69 一瞬で正しい判断ができる インバスケット実践トレーニング/鳥原 隆志
70 日本はどこへ向かうべきか? 日本流ファシズムのススメ。/田原総一朗、佐藤優、 宮台真司
71 ぬるい毒/本谷 有希子
72 発想の技術 アイデアを生むにはルールがある/樋口景一

69 意思決定が必要な膨大な課題を、それを処理するには到底足りない短時間でどのように優先順位をつけてさばいていくか、を考察する判断力テスト「インバスケット」の例題を中心とした入門書です。15年位前にこのテストを当時いた会社で受けたことがあったので(当時はフィードバックがなかったので、自分の判断が正しかったのか、どのような傾向があるのかわからず、ずっと気持ち悪く思っていました)、懐かしく思い手に取りました。とっつきやすさを優先しているため、課題に対する意思決定が選択肢形式になっているので、物足りなく感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、「インバスケット」のエッセンス(正解はなく自分の意思決定の傾向を知るためのツール)を体感するにはよい本だと思います。私自身この本の著者の考え方に必ずしも全て賛同するわけではありませんが、その考え方の差分を認識することにより、自分の意思決定の傾向(重要なものを集中して解決するよりも全て解決する方法を考えようとする点、など)を意識化できたので有益でした。

70 2009年のオバマ大統領就任後に行われた、新しい世界秩序の中での日本のあり方についての討論が収められた本です。まだ、オバマさんや日本の民主党への期待感がかなり高い点に、時代を感じるとともに、その期待通り世界が進まなかった軽い絶望感を感じます。「ファシズム」という刺激的な言葉をテーマにしつつ、「国民の統合」の必要性を訴え、国家財政難が顕在化してきた現在の国家で、「大きな政府」は維持できないので、人々が支えあう「大きな社会」を作りましょう、という主張だと理解しました。議論により結論を得ることが目的と言うよりも、個性的なパネラーによる高度な知的パフォーマンスの披露という側面の方が強い気がしました。サッカーに例えると、トリッキーなリフティングの技を見せ合っているかの印象です。行動に繋がるタイプの本ではないですが、自分の思考パターンの引き出しを増やす上では参考になる本だと思います。パネラーはサービス精神溢れる方ばかりなので、単純に読んでいて楽しいですし。

71 これまでの本谷さんの作品と違って、振り切ったようなテンションでエキセントリックな行動を取る登場人物がいない分、地味な印象の作品ですが、それだけに、本谷さんのテーマの一つである「病的なまでに肥大した自意識」の怖さがじわじわきます。ポール・トーマス・アンダーソン監督の初期作品のように、徐々に蓄積された「生きにくさ」が臨界点に達しはじけた瞬間に物語は終わりますが、それでも人生が続くという奇妙なポジティブさも感じられ個人的には本谷さんの作品の中で一番好きです。近年流行りの「地方都市に生きる若者の閉塞感」を描きつつ、月並みにならないところもさすがです。怖くもエグイ作品ですが、楽しく読めました。

72 とても志の高い本です。アイデアにより世界を変えようという熱い理想とそれを実現するための技術をクールに伝える文体のバランスが絶妙です。この本で取り上げられている技術は平易な言葉で書いてあるので、言葉としては理解できるのですが、自分のものとして使っていくにはかなりハードルが高いものだと思います。ノウハウを具体的に書いているようで、本質的なところは実は抽象的なままで掴みどころが難しいです。しかし、本当に有益で世界を変えるほどのインパクトのある技術とはこういうものなのでしょう。この本の著者がビジネススクールで教えるようなフレームワーク(思考の枠組みがパターン化されているので、効率的に一定水準のアウトプットを出すにはとても有益ですが、本当にブレイクスルーとなるソリューションには繋がりにくい)についての批判をしていることもそういうことを意図されているのだと勝手に理解しました。安易にわかったつもりになるのではなく、常に手元において再読しつつ、自分の思考や行動を変えていくために活かしていきたいタイプの本です。とてもよい本だと思います。


■CD
68 If Not Now When?/Incubus
69 Hits/Adam Ant

68 「Morning View」のようなドラマティックでハイブリッドなロックを期待すると裏切られますが、このバンド独特の静寂さと楽曲のよさを堪能するにはよい作品です。枯れたかのような地味な作品ですが、ヴォーカルの声と歌のうまさが際立ちます。タイトルは少し前にはやった「いつやるの、今でしょう」って感じでしょうか。

69 とにかく能天気で楽しい。安っぽく今となってはかなり古臭いですが妙に耳に引っ掛かりがあります。小沢健二さんがほぼそのまま引用した「Goody Two Shoes」は今聴いても楽しくなるよい曲です。


■映画
52 きみに読む物語/監督 ニック・カサヴェテス

 ちょっとできすぎですが、脚本が秀逸です。やろうと思えば最後にどんでん返しを持ってきて衝撃的にすることもできるのに、出し惜しみせずに次々と伏線のネタばらしをしていく抑制の効いたストーリー展開も、この作品のテーマである夫婦愛を強調する上では成功していると思います。痴呆症って怖いですね。最近、人の名前をどんどん忘れていくので他人事ではありませんでした。再会した主人公とヒロインの心が通い合うシーンの映像もとても美しく、監督の強い意気込みが伝わってくるような名シーンです。
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グラスホッパー

2013-08-04 06:46:30 | Weblog
■本
67 日本の選択 あなたはどちらを選びますか? ──先送りできない日本2/池上 彰
68 グラスホッパー/伊坂 幸太郎

67 前作と同様に日本が選択を迫られている課題について、その論点を整理してくれる本です。内容は、消費税増税、社会保障、領土問題、教育、原発問題、選挙制度改革など多岐にわたります。特に、日本が抱える1000兆円の借金についての問題意識は大きいようで、前作同様、かなりのページを割いて解説してくれています。震災と言う強烈なパンチを食らっても、一向に改善の兆しが見えない、日本の政治についての憤りは大きく、辛辣な表現が増えている気がします。これらの課題について、即効性のある解決法はなく、ロジカルに丁寧に議論を重ねていくしか方法がないこともよくわかります。それができるだけの素養が我々国民も含めてあるのか、が一番の課題なのだと思います。日本の衰退は誰の眼から見ても明らかなので、将来の日本を考えて、どの「痛み」を選択していくか、という辛い議論ができるだけの成熟が必要なのだと思います。個人的にそのような選択をできる自信はまだありませんが、先送りできる時間がないのも事実なので、選挙などの局面で適切に意思表示していきたいです。

68 若干ストーリーがご都合主義過ぎますが(いくらなんでも各登場人物が都合よく出会いすぎます)、メインの3人の殺し屋のキャラクターがそれぞれ見事に立っていて、スピーディーな展開と相まって、ぐいぐい引き込まれていきます。読者の予想を完全に外すのではなく、ほんの少しだけ上にいく、伏線回収のさじ加減も絶妙です。人が死にまくり、かなり人の命が軽く扱われているようで、最後に生命に対する信頼感を感じさせる手腕も魅力的です。伊坂幸太郎さんの作品の中で、特に傑作というわけではないですが、それでも、これだけの安定的な力を示せるところに、地力の高さを感じます。


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