白石かずこ「終日 虎が」
終日
虎が出入りしていたので
この部屋は
荒れつづけ
こわれた手足 や 椅子が
空にむかって
泣いていた
終日
虎 が出入りしなくなっても
こわれた手足 や 椅子は
もとの位置を失って
ミルクや風のように
吠える
空をきしませて 吠えつづける
定められたルートを外れ
あつらえられ アタマを敷き詰める
マップを燃やす
外れることをよしとして
燃やし尽くして
はじめて気づく
虎には虎の おれにはおれの
マップできない「地」がある
かぞえきれないマップが生まれる
名づけようのない 相互に隔絶した
マッピングの位相がある
虎よ さようなら
あつらえられたマップの外
ルートを外れた場所に いつか
絶対にないとはいえない
新しいルートが「地」に走ることもある