文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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コマとジャイロ: 回転体の科学と技術

2023-02-02 10:20:27 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 本書の内容を一言で表せば、回転する物体の不思議さ。面白さというところだろうか。著者のジョン・ペリーは英国の工学者であるという。そして監修者は「すべてがFになる」などでお馴染みの森博嗣さん。根強いファンの多い人気の小説家でありながら、名古屋大学工学部で助教授まで務めた、バリバリの理系人である。タイトルを少し説明すると、さすがにコマを分からない人はいないと思うが、ジャイロはジャイロ効果の略語などとして使われるものだ。ジャイロ効果とは回転している物体は姿勢を乱されにくいというもので、これを応用したものが、年配の方なら聞いたことがあるだろうと思うが、有名な地球ゴマである。本書にはジャイロ効果を応用したものが出てくるが、ほとんどすべてがジャイロスタットと呼ばれている。例を挙げると、P9のまえがきには、図17がジャイロスタットとして示されているが、これ以外にも、見た感じが大分違う図5も、図13も図56もみんなジャイロスタットなのだ。

 本書は著者が1890年に英国学術協会主催によりロンドンの北約300kmにあるリーズ市と言う商業都市で開催された職工向けの講演を纏めたものである。別に、学者向けの講演という訳ではないので数式は使われていない。しかし、数式が使われていないといっても、レベルが低いという訳ではない。例えばファラデーである。彼は貧しい生まれで学校には殆ど通っていない。だから数式は使いこなせなかったが、そのことで彼の偉大さが損なわれるわけではない。それに著者は日本に招かれて数学の助教師(今でいう准教授か?)として工部大学校(現東京大学)で教えたこともあるので、決して数学が苦手という訳ではない。

 確かに数式を使えば、言葉で長々と書くよりは簡潔になり、また誤解も少なくなるというメリットがある。本書でも数式を使っていないので、まだるっこいところはある。監修者の森さんはこう書いている。

<本書の内容はけっして簡単とはいえない。一度読んだだけでは完全に理解することはできないはずだ・・・>(p158)

その原因の一端が数式を使わないという方針にあるのなら残念なことだ。数式に慣れている人は数式一つで正確な意味が読み取れるが、言葉で書かれるとどうしても曖昧となるのである。おまけに、本書は英語から日本語へ翻訳したものだ。一読して意味を掴みにくいのである。おそらく講演は、現物を見せながら行っており、もちろん英語ネイティブの人たちに行っているので、そういったことはかなり軽減されるのだろう。

 コマのような身近なものを突き詰めていくと、その理論が地球のような大きなものにも適用できるというのがなんとも面白い。ただ、説明と図の位置が離れているところもあるので、ちょっと読みにくいかもしれない。例えば、49頁には支持点が重心より上にあるジャイロスタットについて書かれており、図56と言う言葉がある。それでは、図56はどこにあるかと言えば、なんと123頁にあるのである。おそらく講演では、実物がずっと置いてあるなどしてあるので問題はなかったのだろうが、本にするときは工夫が必要だと思う。

 理系離れが叫ばれる昨今、このような科学書がもっと子供たちに読まれて一人でも理科の興味を持つ子供が出てくることを願う次第である。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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