文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

地域の未来・自伐林業で定住化を図る ―技術、経営、継承、仕事術を学ぶ旅

2020-12-30 08:06:34 | 書評:ビジネス

 

 本書は林業専門月刊誌の「現代林業」に、2016年から1019年まで40回連載した「自伐林業」探求の旅シリーズを書籍として纏めたものだ。北は北海道から南は九州熊本県まで、いろいろな林業への取り組み例が紹介されている。ところで、この「自伐林業」とは、主に家族の自家労働力によって行われる小規模の林業だが、これに加えて近年「自伐「型」林業」という新しい形が各地で見られるようになってきたという。

 この「自伐型林業」というのは自分で山林を所有していなくとも、私有林を借りたり、所有者から受託を受けたり請け負ったりして、小規模な林業を行うもののようで、最近は、農山村への移住・定住促進の施策として位置付けている自治体が増えているらしい。ただし、税金を考えると自伐林業の方が大分有利のようである。

 日本の4分の3は山地である。それなのに安い外材に押されて日本の林業は、振るっていない。日本の家は木造が多いにも関わらずだ。私も昔、林野庁のやっている緑のオーナーになったことがあるが、満期になった時の払い戻しは、出資金の三分の一しかなかった(つまり三分の二は損をしたことになる。期間を考えるとそれ以上)。このことからも、林業経営がいかに苦しいか分かるだろう。しかし、紹介されている地区は色々な工夫をして林業に取り組んでいる。本書を読めば、林業の経営、間伐材の利用、安全対策、人づくり、木質バイオマスへの取り組みなど、参考になるものが多いと思う。

 山には、昔植林された針葉樹が溢れているのをよく目にするが、スギ花粉症の増加などの問題を引き起こしている。また、林業の不振と共に手をかけてない山も増えている。しかし、山は海とも結びついているのだ。山の荒廃が海の貧困化にも繋がるのだ。しかし、本書には広葉樹による林業の例も紹介されているのである。シイタケの原木や薪、木炭としての利用など、林業の一つの方向性を示しているのではないだろうか。

 私が気に入ったのは、鳥取県の智頭町編にあった「半林半X」というコンセプトだ。これは林業を仕事の中心にしながら、自分の好きな時間の「X」を大切にするというものだ。この「X」は人によって違うので、色々なことが考えられる。

 雑誌に連載されていたこともあり、どこからでも読むことができる。そして現代の林業を行っていくためのヒントが沢山つまっているだろう。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

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秋田大学通信教育「岩石学」の学習単位認定試験結果が戻ってきた

2020-12-28 16:24:12 | 秋田大学通信教育

 秋田大学通信教育「岩石学」の学習単位認定試験結果が戻ってきた。結果は78B。単位数1単位だが、これが初めての単位となる。「一般科学コース」からの引継ぎ単位があるので実質は4単位。

 しかし、前のコースから思っていたんだが、履修案内のp8に書かれている「試験問題も教科書の基本部分の学習だけで合格できるように配慮されています。」というのは完全に無視されている。教科書をいくら学習しても答えられない問題がよく出ている気がするが。

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もふもふと異世界でスローライフを目指します! 1

2020-12-28 08:44:27 | 書評:その他

 

 これも異世界ものの一つだ。主人公は、日比野有仁という28歳のサラリーマン。会社帰りに、異世界に落ちた。そう落ちたのだ、断じてトラックに轢かれて異世界に転移・転生したわけではない。異世界では彼は文字通り「落ち人」と呼ばれ、容姿も少年の姿に変わっていた。落ちたのは、異世界でも「死の森」と呼ばれる、危険な魔獣が跋扈する危険地帯。

 彼を助けてくれた老エルフ、オースト・エルグラード(♂)の従魔たちだった。彼が異世界に行くにあたって、つきものの女神様も出てこない。少なくともこの巻ではそのような存在は出てこず、主人公は、いきなり異世界に落ちている。オーストのところでそこで彼を待っていたのは「もふ天国」。そうオーストの従魔たちである。どれも強そうな猛獣なのだが、日比野君、もふもふの欲望には勝てなかったようだ。

 この世界は、魔法もあるようで、彼も使えるようだ。しかし、いきなり魔法を試してぶったおれている。魔力操作ができず魔法を使うと死ぬこともあるらしい。

 しかし、異世界ものに出てくるエルフというと長命種の美女と相場は決まっている。お爺さんのエルフなんて誰得と思わないでもないが、日比野君、オーストの元で、魔力の操作方法や弓の訓練などに励み、オーストの従魔の白い狼(フェンリル?)の娘スノーティアとも従魔契約ができた。そして、小さくてもとても強い、鳥なのにツンデレ属性の魔物アディーロとも契約し、彼の旅が始まる。

 もふもふ好きの「モフ二スト」(この言葉適当に考えたんだが、実際に使っている人もいるようである。)におススメしたい。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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アンガーマネジメント手帳 2021年版

2020-12-26 10:05:23 | 書評:その他

 

 この時期になると、手帳が書店に並んでいるのをよく目にする。この手帳もそんな手帳の一つだが、これまで、このような手帳があることを知らなかった。

 この手帳も、他の手帳と同じように、年間計画、月間計画、週間計画を記入できるようになっているが、それだけではない。最初に、この手帳の使い方が書かれているし、怒りを感じたことや、嬉しいと感じたことを書き込めるアンガーログ、ハッピーログと名付けられた欄がついている。

 アンガーマネジメントとは怒りの感情をコントロールすることだ。そしてマネジメントの基本はPDCAサイクルをうまく回すことである。一週間が過ぎれば、その一週間を振り返って、マネジメントの質が上がるだろう。

 手帳の最後には、アンガーマネジメントのエッセンスが纏められている。この部分を読むだけでも、アンガーマネジメントに関する知識はつくものと思われる。そして、それに続いてアンガーマネジメントに使える色々なフォーマットが紹介されている。

 この手帳をうまく活用できれば、1年後には、一味違った自分になれるかもしれない。

☆☆☆☆

 

 

 

 

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空虚成分

2020-12-24 09:04:15 | 書評:小説(SF/ファンタジー)

 

 本書は、全部で7編の短編集だ。この作家は、私には初めての作家さんなので、調べてみると、三田文学を中心に書いているらしい。

 どの作品も不思議なことを味付けとしている。表題作の「空虚成分」では、父親の幽霊が出てくるし、「ヒエログリフの鳥」と言う作品では、ミニロトの当選番号をしゃべるセキセイインコが出てくる。しかし、別にホラーという訳ではない。全体を通すと、大きなヤマのようなものはない。

 本書を読んでまず思ったのが、プロローグ集のようだということ。どの作品を読んでも、そこから発展しそうな感じなのだが、そこで終わっている。

 例えば、「空虚成分」とは、ドーナツの穴から発見された成分という設定である。成長期の子供に悪影響を与え、多くのドーナツ店が閉店に追い詰められたという。主人公はこのことを新聞で読んだ記憶があるのだが、叔父からそれエイプリルフール新聞だと言われた。しかし、このことをはっきりとはさせていない。普通はそこから物語が発展していくのだが、この作品では、叔父とボウリング勝負をして終わっている。 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ばっちり安心な 新型コロナ感染対策 旅行編20

2020-12-22 09:27:57 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 新型コロナの全国的な大流行と共に、国のGOTOトラベルが年末年始に一時停止された。確かにGOTOトラベルにより感染が増加したという証拠は示しにくいだろう。しかし、常識的に考えてこれが感染拡大の一因になったことは想像できる。第一波の際には、人の移動がかなり減ると、それに伴い感染者が減った。要するに、感染を抑制するには人が動かなければいいということは明らかだろう。

 本書では、新型コロナは空気感染はしないと断言し、飛沫感染と接触感染を防ぐにはどうしたらいいかを紹介している。飛沫感染を防ぐにはマスクが有効だ。

マスクを着用する目的は、自分が感染者であった場合、周囲の人にウイルスを伝搬させないというものですが、着用者も感染する確率が少し減るというデータもあります。(p8)



 マスクを着けていると、完全ではないにしても人に感染させたり、自分が感染したりするリスクを少しでも減らせるのだ。しかし、このマスクを正しくつけてない人を良く目にする。

マスクから鼻を出していたり、マスクを顎につけていて、口と鼻を露出していてはマスクの効果が期待できないので、その点についても確認しましょう。(p40)

本当にこの鼻出しマスクはよく目にする。形だけマスクをつけていても、効果がないのなら無駄なことをしていることになる。

 コロナの関係であまり出歩かないようにしているが、先般やんごとない用事があって30分ほど新幹線に乗った。車両はガラガラだったが、それでもまったくマスクをしていない人が何人かいた。乗車率から言うとものすごく多い。マスクもせずに移動するこいつらのようなやつがコロナを拡散させているのだろう。

 またもう一つの感染ルートである接触感染についても、特に注意すべき部分を説明している。

 一番いいのは出歩かないことだが、人にはそれぞれ事情がある。どうしても移動しないといけない場合があるだろう。本書を読めば、どういう部分に特に気を付ければいいかが分かるだろう。ただし、100%コロナ感染が防げるという保証はないことをよく理解した上で行動して欲しいと思う。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

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半七捕物帳 08 帯取りの池

2020-12-20 09:57:26 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 かって、市谷にあったという帯取りの池。この池の上に美しい錦の帯が浮いているのを見つけた旅人が、それを取ろうとしたところ、その帯に巻き込まれて池の底に沈められてしまったという伝説があった。

 安政6年3月のこと。その帯取りの池の岸に近い浅いところに派手な女物の帯が流れているのを近所の者が見つけた。やがてその帯の持ち主は、市谷合羽坂下の酒屋の裏に住んでいるおみよという美しい娘であることが分かる。おみよは何者かに絞め殺されていた。

 おみよは、母親と二人で暮らしていたのだが、練馬の親戚に二人で行く途中に、いなくなった。そのおみよが、自分の家で死んでいたのである。おみよは、旦那とりをしており、その相手は雑司ヶ谷に住む千石取りの旗本の隠居だった。

 この事件を調べるのが半七親分というわけだが、事件を調べに雑司ヶ谷を訪れた際に、知り合いの杵屋お登久という三味線の師匠と出会う。お登久は、自分の所に稽古に来ている娘の兄が10日前から行方不明になっているという。

 一見関係のないようなこの二つの事件が、やがて絡まっていく。よくミステリーにあるような筋書きだが、もしかするとこれが嚆矢なのか。実際には、関係のないようなものは、本当に関係がない場合が多いだろう。最初、少しホラー風味で味付けがしてあるのは、この作品の特徴なのだろう。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「池の水」抜くのは誰のため? 暴走する生き物愛

2020-12-18 10:15:19 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 このタイトルは某テレビ局の人気番組から来ていることは明らかだ。これは池の水を抜いて、そこに住んでいる外来種を駆除しようという番組で、タレントが水につかって巨大な外来種を捕まえているシーンを視たことがある人も多いものと思う。私も良く視ている。

 実は、ため池の水を抜いて干すのは、ため池のメンテナンスのために昔からやられてきた「かいぼり」という方法だ。だからこれをやることに対しては別に問題はない。しかし番組に問題点がまったくないわけではないので、二つほど上げてみたい。まず、センセーショナルなタイトルにより、外来種はすべて悪という空気を醸成してしまうこと。本書には、「人が管理出来て、生態系への悪影響やリスクを考えなくてもいいような外来種までも駆除する必要はありません。」(p91)と書かれているが、「人が管理出来る」と言う条件は、動かない植物でない限り無理だと思うので、外してもいいと思う。

 そもそも日本は外来種だらけである、動物はともかく植物ともなると外来種がものすごく多い。目の前に広がるクローバーの原っぱや、春先にそこら中で咲くオオイヌノフグリなどを思い浮かべるといいだろう。私たちが毎日食べているコメだって外来種である。また園芸品種が逃げ出して野良化しているのは良く見る。最近、どこでも見られる鯉を外来種として悪者にする空気がある。しかし、鯉はすっかり日本の生態系に溶け込んでおり、今更外来種という必要はないのではという気がする。日本の生態系に溶け込んでいるものを、いまさら外来種かどうかと議論してもしかたがないのではないか。

 もう一つは「かいぼり」はため池のメンテナンスのためにやるのだから、一度やって終わりというわけではない。定期的にやる必要があるのだが、あれだと一度やって終わりということになりかねない。

 冒頭に、ある千葉市議が、カブトムシの森を復活させようと、長崎からカブトムシを仕入れて放し、批判を浴びた例を紹介している。これがなぜ問題になるのだろう。私などこの批判こそ生き物愛の暴走のように思えるのだが。これに対して、著者は、4つの問題点を挙げている(pp19-21)が、私はこれに賛成できない。これらを一つ一つ反論してみよう。

1.カブトムシを森に話すと、樹液が不足して、他の虫のエサが不足する可能性がある。
(反論)確かにカブトムシがもともといなかった地区に、カブトムシを放すとそのような可能性があるかもしれないが、その場所は元々カブトムシがいたのであり、元の状態に戻るに過ぎない。また、著者は自然の状態で、虫たちが樹液に集まる状態を見たことがあるのだろうか。色々な虫が集まって樹液を吸っており、カブトムシだけになることはまずないだろう。そのようなことがあれば、とっくに樹液を吸う虫はカブトムシ以外絶滅しているはずである。それにカブトムシは夜行性なので、昼行性の昆虫にはあまり影響しないと思う。

2.幼虫の育つ環境があるとは限らず、その場合カブトムシを大量に捨てていることになる。
(反論)これも昔はいたのだから、幼虫の育つ環境がないとは考えにくい。

3.千葉のカブトムシと長崎のカブトムシは別物である。
4.千葉のカブトムシと長崎のカブトムシの間の子供は千葉の環境にうまくなじめない可能性がある。
(反論)その論理を突き詰めると、長崎の人は千葉の人とは結婚してはいけないということになる。人間だって長崎と千葉ではそれぞれ固有の遺伝子を持っているかもしれない。国際結婚もある。もし遺伝子が理由で結婚に反対したら人種差別主義者として大きな批判を受けるだろう。人間が良くて、他の生物がダメだというのは、一貫性のない勝手な理屈だろう。

 そもそも生物に雄雌があるのは、色々な遺伝子を交雑させるためだ。単一の遺伝子では、何かあるとその種が絶滅してしまう可能性がある。遺伝子の多様性は種の存続を考えるなら必要なことではないのか。他の地域の遺伝子が入ってはいけないというのは、人間の自己満足に過ぎないと思う。「なお「ヒト」つまり人間は、世界中に分布しますが外来種とはいいません」(p40)と書いているが、人間を特別扱いにする理由が分からない。そもそもアフリカ系の人とヨーロッパ系の人では、特徴が長崎と千葉のカブトムシ以上に違うと思う。そしてそれら両方のルーツを持っている人はたくさんいる。

 本書では、ピューマの近親交配が進んで繁殖能力や病気への耐性が低下したため、遠く離れたところからピューマを導入して交雑させた例が紹介されている(pp42-43)。それは良い例とした紹介されているのだが、私には千葉のカブトムシの例との違いがよく分からない。それに千葉の環境にうまくなじめないというのは可能性の話で、証明されているわけではない。生物の進化とはそんなに単純ではないのだ。子供が適応できる可能性だって十分にある。適応できた個体が生き残るだけだ。可能性だけで否定するのは科学的ではない。

 ブラックバスやヒアリのように、これまでいなかった生物を導入し、それが在来種の天敵になり、環境に簡単に回復できないような悪影響を与えたり、人間の生活に被害を与えるような場合は大問題であり、きつく規制すべきだと思うが、カブトムシの例のように、同じ種類の生物がかっていたが、現在はその生物が絶滅したか非常に少なくなったので、他地域からその生物を復活させようとして導入したような場合はあまり目くじらを立てる必要はないと思う。

 日本に元々いないヘラクレスオオカブトなんかを放せば問題になるだろうが、長崎のカブトムシも千葉のカブトムシも見た感じは日本のカブトムシだ。遺伝子レベルを調べないと違いがあるかどうかもわからないのである。日本のトキが絶滅したから中国からトキを導入したことをどう評価するのか。

 その他、ノネコなどの問題、悪質なカメラマンやバサーの問題、希少種の売買の問題など生物多様性を考えていくための材料は色々と含まれていると思う。私は田舎育ちなので、子供の頃には、今よりはるかに多くの種類の生物が見られた。だから総論としては、生物多様性は守るということには賛成だが、各論になると必ずしも本書の主張には賛成ではない。また、私は、希少種の密漁なども厳しく取り締まるべきだと思っている。密漁は間違いなく生物多様性に悪影響を与える行為だからだ。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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空気が支配する国

2020-12-16 10:24:38 | 書評:ビジネス

 

 KYと言う言葉がある。「空気読めない」という意味のようだが、私には、どうして空気を読まないといけないのかよく分からない。この空気というやつは曖昧でよく分からないものだ。日本は空気により支配されているというのが本書の主張のようである。何しろ、空気はいろいろなところに存在し、時に憲法より上にくるのであるから。

 ただ、著者は空気を必ずしも絶対悪だとは考えておらず、社会を機能させるための掟であるとも書いている。「だから、空気を守ると身を亡ぼすような状況に陥ったら、自分を守るために掟を破ってよいのです。」(p166)。 要するに空気とは目的を達成するための手段であり、目的ではないということだ。世の中にはこのことがあまり理解されていない。

 「忖度」という言葉が少し前によく使われた。これも空気の例として本書には紹介されているが、よく問題になっている談合なども根は同じだろうと思う。そこまでやれとはトップ層は誰も言っていない。しかしある地位以下にある者は、敏感に「空気」を感じて、犯罪を犯してしまう。事が露見した時に、トップ層はそんなことは指示していないと逃げ
、逮捕されるのは自分たちにも関わらずだ。政治家の「秘書が、秘書が」と言うのも同じかもしれない。しかし、ここで空気を読みすぎると自分の破滅に繋がるのである。

 空気のほとんどは、冷静に考えれば「場を変えることで消えてしまうものに過ぎない。」(p188)のである。だが、空気の渦中にある当事者にはなかなか冷静な判断ができない。私の学校時代は聞いたことが無かったが、本書ではスクールカーストの例が紹介されている。なんとスクールカーストは3軍まであるらしい。本当にくだらないと思う。スクールカーストが何軍だとか言っている連中は、学校を卒業したらどうするのだろう。

 よく「同調圧力」という言葉が使われる。日本人はこの「同調圧力」が強いというのが定説のようになっているようだ。本書の趣旨からすれば必要かどうかは疑問だが、面白い実験が紹介されている。ソロモン・アッシュと言う人がやった実験だが、問題に対して被験者の前にサクラがが7人続けてわざと不正解を選択する。続く被験者が果たして前の人に影響されずに正解を選ぶかどうかという訳である。アメリカ人に対して行った実験では、26%の人が周囲に同調せずに回答をしたそうだ。ロバート・フレイガーと言う人が慶応大学で同じような実験をしたとき、周囲と同調しなかった人は27%で、大阪大学でも同じような結果が得られたという(pp22-23)。

 一見空気を読むのは日本人だけではないようだが、著者は、これに対して社会心理学者の我妻洋さんの見解を紹介している。我妻さんの見解を一言で言えば、サクラは赤の他人であり、日本人は、赤の他人には無関心で、冷淡で、時には敵対的であるということだ。著者は、この見解に、「意義のある他者”に同調すると言う性質は、日本人だけでなく外国人にも該当するのでは」と疑問を呈しながらも、「指摘のとおりだと思いました」(p24)と書いている。

 この部分は、こう考えてはどうか。アメリカの実験では、対象が誰かがよく分からない。少なくとも、本書ではアメリカ人としか書かれていない。一方日本で行われた実験では、被験者が慶応大や大阪大学の学生であることが分かる。要するに日本でも高等高等教育を受けた者ほど自我を持つ傾向にあるということは言えないだろうか。あの欧米でのマスクを巡る騒ぎなどを見ていても、欧米と日本との気質の違いを感じてしまう。

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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お願い、脱がシて。(1)

2020-12-14 09:47:21 | 書評:その他

 

 この作品は、おそらくタイトルから想像されることとは違うのではないかと思う。おそらくかなりエロいことを想像する人が多いと思う。確かにエロいのはエロいのだが、それ以上に笑ってしまうのだ。

 ある学校でエロいことをすると、パンツが脱げなくなるという呪いにかかるという。パンツが脱げないと、何が困るかと言うと、出すものが出せなくなるのだ。解呪の右手を持つ主人公の高校生・神手英心は、その呪いを解き、パンツを脱がすことができるのである。脱がしたパンツはどうするかというと、英心の家が神社をやっているので、御払いをするらしい。

 しかし、パンツが脱げなくなったら、液体の場合はおもらしすればいいが、固体の場合はどうするんだろう? 出したものをパンツの中にそのままにしておかないといけない。臭気もすごいと思う。

 でも、この学校、エロいことを学校でやる女子が多すぎると思う。それも生徒から先生(正確には教生だが)まで。君たち、学校に何をやりに行っているんだと、小一時間正座させて説教したい(笑)。この巻の最後に英心と何か因縁のありそうな女の子が出てきた。「神手家を滅ぼす」なんてぶっそうなことを言っていたが、この後どう展開するのだろう。

☆☆☆☆

※初出は「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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