廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

憧れのソロ・ギター

2016年02月27日 | ECM

Ralph Towner / Solo Concert  ( 西独 ECM 1173 )


すべてのギター小僧にとって、ソロ・ギターというのは永遠の憧れであり、最終目標地点だ。 1つの楽器でリズム・和音・メロディーを簡単に鳴らすことが
できるのはピアノとギターくらいしかないけど、ピアノは正規の教育をきちんと受けないと上達が難しいが、ギターはそういうものが必須というわけでは
ないし、楽器の大きさもコンパクトで持ち運びが楽だから、数ある楽器の中でもギター人口はダントツで多い。

でも、楽器というのは訓練・練習がすべてで、それ以外に上達の道はない。 だからある程度のところで大半の人は挫折する。 バンドを組んで、その中の
パートの1つとしてなら参加できても、ジェフ・ベックやラリー・カールトンのようにソロ・ギタリストとして人前に立てるなんて人はごく一握りだ。 

だから、ギター小僧はソロ・ギターに憧れる。 それが如何に困難な道のりであるかを知っているから、嫉妬することすらない。 そこに自分の夢の姿が
あるかのように、ただ熱い羨望の眼差しを送るのだ、自分もいつかああなれる日を夢見て。

その他大勢のギター小僧の中の1人である私も、だからギター作品には目がない。 アルバム単位でこれは好き/これは嫌い、というのは当然あるけど、
貶すことはない。 それは自分の憧れだからだ。 ピアノは正規の教育を受けたけれど練習が大嫌いで苦労したから愛憎半ばする複雑なところがあって
どうしても厳しい目線で見てしまうけれど、ギターは純粋に趣味として始めたから楽しい想い出しかない。 練習嫌いは同じでただのお遊びでしかないけど。

私がECMのレコードを少し買うようになったのは、きっかけはキースのレコードの音の良さだったけれど、結局はギター作品に魅せられたからだと思う。
ラルフ・タウナーのこの作品は昔から聴いているけど、やっぱりレコードで聴く音場感は圧倒的に素晴らしい。 ライヴ録音だけど、この人はスタジオも
ライヴも演奏はまったく変わらない。 ホール・トーンの自然な残響感が見事に捉えられていて、音楽の素晴らしさを最高に引き立てている。 

12弦のスティールギターと6弦のガットギターで演奏されていて、12弦ではコードワーク中心、6弦ではシングルトーンを多用している。 プログラムの
目玉はもちろん "Nardis" で、6弦でとても上手く演奏されている。 こんな風に弾けたらどんなにいいだろう、という溜め息しかでてこない。

ラルフ・タウナーのギターはその演奏スタイルもやっている音楽もジャズのフィーリングは希薄で、アメリカのフォーク・ロックを基盤にしている。
アイヒャーがタウナーをたくさん録ったのは、まさにそこが大事だったからだ。 メインストリームのジャズの匂いが少しでもすれば採用されなかった
はずで、そういうところへの感度は異様なほど敏感だった。 ビル・エヴァンスのレパートリーを入れることをよく許可したなあ、と驚いてしまうけど、
アイヒャーの審美観ではこれが許容できるギリギリのところだったのだろう。

素晴らしいソロ・ギターの作品で、ギター小僧にとっては満点の内容だけど、これはそういう楽器経験の有無を不問とする豊かな音楽になっている。
ギターという楽器の素晴らしさ、ギター音楽の素晴らしさをこんなにも赤裸々に提示してみせた作品は少ないと思う。



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