Thad Jones~Pepper Adams Quintet / Mean What You Say ( 米 Milestone Records MLP 1001 )
単純なリフとアドリブだけだったビ・バップがメロディーとハーモニーを取り入れてハード・バップへ移行したように、ハード・バップもいくつかに
枝分かれしながら次のフェーズへと移行しているが、その支流の中に細々としながらもよりメロディアスで洗練された音楽へ発展したものがある。
音楽的にはこの時期の果実が実は一番甘くて美味しいのだが、レコードがあまり残されていない。おそらく、ライヴなどではそれなりに演奏されて
いたのだろうとは思うが、やはりアルバムとして発表するには向かなかったのだろう。音楽家たちはより新しい音楽を発表して生存競争に勝ち残って
いく必要があり、そのためにはそういう心地よさは後退を意味したのだろうと思う。
そういう状況の中で残されたこのアルバムは、他ではなかなか聴くことができない得難い内容を持った素晴らしい音楽を聴かせてくれる。
サド・ジョーンズは元々ゴリゴリのハード・バップからは少し離れたところにいた人で、アート・ファーマーなんかと同じように自身の穏やかな
音楽性をメインにした音楽をやっていたが、そこにペッパー・アダムスのハードボイルドな演奏とデューク・ピアソンの可憐な抒情性を加えた
なんとも洗練されて筋の通った上質な作品が仕上がった。
全編がマイルドでなめらかでメロディアスで、それでいて高度な演奏として1つにまとまっており、非常に素晴らしい。サド・ジョーンズの
フリューゲルホーンは望郷的な郷愁感が漂い、それに寄り添うアダムスのバリトンの硬質な抒情性が圧巻。そして、やはりピアソンのピアノが
よく効いていて、この人の個性が裏で音楽を1つにまとめている。出しゃばらなければロン・カーターのタイム・キープは適切で、メル・ルイスの
鉄壁のサポートで音楽は揺らぐことがない。
この時代の本流ではなくても、これは忘れらない1枚である。
タレンタインとのアルバムは聴いたことがありません。知りませんでした。ぜひ聴いてみたいですね。
サド・ジョーンズは、彼の書く楽曲の不思議な雰囲気同様、独特な立ち位置の存在だったように思います。