廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

あるトランペッターの進化

2024年03月02日 | Jazz LP (EmArcy / Mercury)

Joe Godon / Introducing Joe Gordon  ( 米 Emercy Records MG-36025 )


ジョー・ゴードンは1963年に寝煙草が原因の火事で亡くなっている。リーダー作はこの1954年吹き込みのデビュー作を含めて2枚しかないので
一般的知名度は限りなく低いが、サイドマンとしてはコンスタントに演奏が残っていて、当時は有能な演奏家として評価されていた。
大体がこの "Introducing~" というタイトルで登場する人は将来を嘱望されていたケースが多く、その早すぎる死は惜しまれる。

プロとして活動を始めたのが1947年ということだからまったくの新人というわけではなく、そろそろリーダー作を作ってもいいのでは、という
ことで吹き込まれたのだろう。演奏は堂々としたものであり、ラッパもよく鳴っている。1954年と言えばビ・バップがハード・バップへと移行
しつつあった端境期で、このアルバムも様式としてはハード・バップだが、まだ形式的な成熟は見られず、生まれて間もない不安定さの中を
ビ・バップの荒々しい演奏スタイルで進むという内容で、クリフォード・ブラウンがアート・ブレイキーのバンドにいた時の音楽にそっくりだ。
ここにもブレイキーが参加しているので、まさにアート・ブレイキー・クインテットと言われても何も違和感がない内容だ。

クインシー・ジョーンズが作曲した曲を多く取り上げているのがこのアルバムの特徴で、なぜそういうメニューにしたのかはよくわからないが、
スタンダードをまったく入れずに1枚のアルバムを作るところにこの人の音楽上の信念が伺える。そのおかげで非常に硬派な音楽になっていて、
筋金入りの本当のジャズ好きだけに好まれるようなアルバムになっていると思う。そんな中でもクインシー作の "Bouse Bier" が憂いのある
マイナーキーの佳曲で、素晴らしい出来だ。

ただ、この人はこういう荒々しい演奏だけには留まらなかった。この後、西海岸へ移って活動をするのだが、そこで音楽的な進化を遂げる。
そこがこの人の評価ポイントであり、素晴らしいところだったと思う。今回この人を取り上げたのはそのことを書きたかったからに他ならない。
このアルバムはそのイントロである。



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