世界変動展望

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東大分生研事件について

2015-03-17 00:03:10 | 社会

東大分生研事件は東京大学分子細胞生物学研究所加藤茂明研究室で起きた組織的研究不正事件で過度の成果重視、上司による不正指示など日本の学術界で抱えている問題がいくつも現れた事件だ。最終的に33編の論文に捏造、改ざんが認定され、11人が関与したと報告された。東大開学以来最悪の不祥事とも言われ、不正のあった約16年間に支給された研究費は約30億円。

一説には「加藤元教授の論文に不審な点があることは、それこそ研究開始当初から東京大学の心ある研究者の間では周知の事実になっていた」(ハフィングトンポスト 2013年12月28日)というが、表面化したのは2011年10月26日に加藤研が出したネイチャー誌の論文に大量訂正が公表された事がきっかけ。これを論文撤回ウォッチ(2012年1月上旬閉鎖)がスクープし、画像流用や加工等の疑いを指摘したため研究者の間で知れ渡る事になった。STAP細胞事件で有名になったクラウド査読が行われ、加藤研や柳澤研が出した論文に多数疑義が指摘され、11jigen氏がまとめブログ解説動画を作り公表、東大への告発も行った。それが2011年11、12月、2012年1月頃だったと思う。その頃の2chは髭、髭とみんなが言って大騒ぎだった。また、筑波大学の柳澤純や村山明子群馬大学の北川浩史らにも捏造の疑義がある事も注目される様になった。この時点で疑義の態様から不正が既成事実化し、組織ぐるみの不正と思われていた。Youtubeで公開された動画のために、2012年1月25日にサイエンスインサイダーで取り上げられ海外でも知られるようになった

2012年2月頃に柳澤研の不正疑義を筆名で誰かが筑波大学に告発。予備調査が開始された。2012年3月30日にセル誌の論文が画像等の不適切な処理を理由に撤回され加藤茂明は引責辞任。事実上不正行為を認めた。この件は2012年4月5日頃に朝日新聞NHKなどで報道された。

この事件が注目されたのは加藤茂明が骨代謝の分野等で著名な研究者だった事に加えて、ERATO等の高額な研究費を獲得していたビックラボの組織的研究不正だった事、加藤が日本分子生物学会で研究不正に関する倫理を指導する立場(関連1関連2関連3関連4)だったという事が主な要因。加藤茂明が参加した研究倫理委員会の若手教育のパネルディスカッションで「corresponding authorは捏造事件があったら切腹(する位の覚悟)で臨むべき。」という発言があり、倫理教育の委員を務めていた加藤茂明が不正を犯した問題は切腹の件を例にしてよく批判されていた。この事件のために日本分子生物学会は名を落した。東大分生研事件で迅速に調査結果を出すように公式要求したりSTAP細胞事件でいろいろ公式声明を出していたのは信頼回復の一環なのだろう。

現在は不正の多発で倫理教育が重要だと文科省や学術会議が述べたが、研究倫理を教える側でさえ悪質な研究不正を常態的かつ組織ぐるみで行っていた事実は倫理教育をしてもほとんど効果がないのではないかと思わせるのに有力な根拠となった。加藤茂明だけでなく上で述べたネイチャー誌の不正論文の筆頭著者だった金美善も「いい研究をやるというのは、正しいルールでやったほうがカッコいいという。「魂を捨てたら、もう研究者は終わりよ」という話もしますが、そういうだめな魂は絶対つくってはいけないと思わないと、長い間、研究は楽しくやっていけないと思います。」と研究倫理のフォーラムで述べたのに悪質な研究不正の関与者と公式認定された理研で義務付けられていた倫理研修で小保方晴子を含め半数以上が不参加だった事も研究者は倫理に関心はなく、倫理教育にほとんど効果がない事を示す要因となった

またこの事件は調査期間の長さが問題になった文科省ガイドラインでは本調査期間は概ね150日程度と定められているが、その期間を相当過ぎ、分子生物学会が2012年11月8日、12月27日の2度にわたって調査結果の公表を求めたが無視された関連1関連2)。告発されたのは2012年1月10日、予備調査結果報告は2013年7月5日中間報告が2013年12月25、26日第一次報告が2014年8月1日最終報告が2014年12月26日。最終報告まで告発から約3年もかかった。余りに長かったため、改善のため確か規定ができたか改訂されたと思う。

調査期間が長かったためか、武山健一などは他機関に脱出し懲戒処分を逃れた

また、この事件では不正の隠蔽も問題になった。問題発覚の契機となったネイチャー論文の訂正は表向きは過失と説明された流用等の大量の間違いを不正と気づかなかったはずがないと判断され、加藤茂明の訂正を利用した不正の隠蔽と公式に判断された。また加藤茂明が画像や実験ノートの捏造、改ざんを指示し、虚偽の内容を学術誌の編集者に回答する等の極めて不当な対応をした事も公式に認定された。この件は発覚当初から訂正を利用した不正の隠蔽と指摘され、ネイチャー誌でさえ隠蔽のための訂正を受理した事に対して批判が出た。結局のところ著者は不正の隠蔽のために訂正を利用し、学術誌は著者の弁明を鵜呑みにして、不正を隠蔽する対応をする事が珍しくない事が改めて示される事になった。この点の改善策は確認できない。

不正が起きた原因として著名学術誌への掲載を過度に重視した事が公式に指摘された。「研究室の教員・学生に対して、その技術レベルを超える実験結果を過度に要求し、強圧的な態度で不適切な指示・指導を日常的に行ったため、一部の教員・学生をして加藤氏が捏造・改ざんを容認している、もしくは教唆していると認識するに至らしめたことが問題の主たる要因・背景となっており、加藤氏がこのような環境を作り上げたことが、加藤氏の主宰する研究室における不正行為を大きく促進していたものである。」(東大の調査報告)

これほど多くの不正行為等が発生した要因・背景としては、旧加藤研究室において、加藤氏の主導の下、国際的に著名な学術雑誌への論文掲載を過度に重視し、そのためのストーリーに合った実験結果を求める姿勢に甚だしい行き過ぎが生じたことが挙げられる。そうした加藤氏の研究室運営を同研究室において中心的な役割を担っていた柳澤氏、北川氏及び武山氏が助長することにより、特定の研究グループにおいて、杜撰なデータ確認、実験データの取扱い等に関する不適切な指導、画像の「仮置き」をはじめとする特異な作業慣行、実施困難なスケジュールの設定、学生等への強圧的な指示・指導が長期にわたって常態化していた。このような特異な研究慣行が、不正行為の発生要因を形成したものであると判断する。』(東大の調査報告)

競争が激しくなって人事や予算獲得のために捏造論文の著名学術誌への掲載や二重投稿等による論文数水増しが増えた事は、この事件が発生した事を受けて記事を執筆した人事や予算獲得のために研究室のボスが部下に不正を指示した例は琉球大学の森直樹の事件等がある研究室のボスに逆らうのは難しく、反対してしまうとハランスメントを受け学界から追放されてしまう事がある富田真理子はそのために仕方なく不正を実行したのだろう

最終的に33編の論文の捏造、改ざんと11人の不正関与者が公式認定され群馬大学では北川浩史が諭旨解雇相当となり徳島大学が北川の博士号を取り消し、関連事件だった筑波大学の柳澤純研究室の不正も2014年3月末に公式認定され柳澤純は停職6月相当、村山明子は諭旨解雇相当、立石幸代元国立環境研究所ポスドクは無処分。しかし柳澤と村山は辞職、立石も雇い止めになり研究者を辞めた

加藤茂明は引責辞任してから福島県でボランティア活動をしている。相馬中央病院に所属し現在も論文を発表している

昨年はSTAP細胞事件が抜群に注目されたが、東大分生研事件の方が悪質さはずっと上で日本の研究機関が改善しなければならない問題がいろいろある。これから教訓としていかしてもらいたい。