最近富山県立大学工学部生物工学科のK講師の発表した論文に訂正が発表され、Retraction Watchで言及されました[1]。訂正公告は、
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J. Biochem. 2002; 132(6), 911–919
The author wishes to remove Figure 1 from this paper, and to change Figures 2, 3, 4, 5, 6 and 7 into Figures 1, 2, 3, 4, 5 and 6, respectively. The author also wishes to replace the first paragraph of the Results section (p. 913) with the following:
Purification and Deglycosylation of the 57-kDa Protein—The 57-kDa protein purified by column chromatography showed a single band on native PAGE and SDS–PAGE as we have described previously (28). The band of the native 57-kDa protein shifted to a position equivalent to 48 kDa after enzyme treatment. The 57-kDa protein was stained by the periodic acid Schiff reagent, but the deglycosylated 57-kDa protein was not (Fig. 1). These results indicate that the 57-kDa protein is a glycoprotein and that the oligosaccharide chains were removed by N-glycosidase F.
[2]
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論文からFigure1を削除したようです。[1]ではなぜFigure1が削除されたのかよくわからないが、削除理由を推測できる事実があると言及しています。
『But a look at reference 28, mentioned in the corrigendum, offers a clue. Figure 1 of that paper, “Fifty-seven-kDa Protein in Royal Jelly Enhances Proliferation of Primary Cultured Rat Hepatocytes and Increases Albumin Production in the Absence of Serum,” from Biochemical and Biophysical Research Communications, is identical to the now-removed Journal of Biochemistry figure.[1]』
どうやら削除したFigure1は過去に発表したデータと同一だったようです。Retraction Watchでは削除理由ははっきりわからないといいつつも、データの重複使用が削除理由だと推測しているようです[1]。さらに、この研究成果はNatureの記事でも参考にされたので、影響がないか懸念されると言及されています[1]。
実験をきちんとやっていて、過失で過去のデータと取り違えて発表したというなら、正しいデータを出すだけでいいはずですが、それをせず削除したのはなぜでしょうか。また、[1]で言及されたように、この削除は論文の結論に影響が出るのかどうか示されていません。
さらに、[1]で言及されているように、この論文はなぜ削除などの訂正が行われたのか説明されていません。ジャーナルもK講師もRetraction Watchの質問に返答しないということです[1]。どういう過程で訂正に至ったのか、それもはっきりとわかりません。
しかし、研究不正ウォッチャーなら、この訂正公告を見て"あの捏造疑惑"を思い出すでしょう。本ブログでも紹介しました[3]。以前に東大分生研事件の告発者(以下、告発者)がネットで捏造疑惑を指摘した論文の筆頭著者とK講師は同一人物です。ちなみに、[4]で捏造疑惑を指摘された論文と上の論文は別物です。
告発者の捏造疑惑指摘、K講師の論文訂正、Retraction Watchの言及、これらはすべて偶然でしょうか?過去の記事からRetraction Watchの運営者は告発者を知っているのはわかっているので、ひょっとして告発者かその仲間がRetraction Watchに情報提供したのでしょうか?
Retraction Watchは情報提供すると記事にしてくれるのでしょうか?
だとすると、捏造や改ざんなどのネタを持っている人は被疑者に訂正を出させただけでも、情報提供でかなりの影響を期待できるでしょうね。Retraction Watchは研究公正の関係で世界で最も有名なサイトで、非常に人気です。ここによると運営者はメールで情報提供を受け付けているようですね。アラレちゃんの事件も情報提供すれば、世界中に広く知られ、世界中の同業者たちが捏造はあったと思うでしょう。生データを偽造して訂正で済ませても事実上通用しなくなります。もっとも、日本ではすでに同業者たちに広く知られていると思いますがね。
最近告発者はブログで捏造疑惑の公開をしなくなってきていると思っていました。だから、活動は停滞気味なのかと思っていたのですが、ブログで公開しないだけで、案外告発などの活動は続けているのかもしれませんね。
今回のK講師の訂正が告発を受けた調査の過程で出たものかどうかはわかりませんが、一連の出来事の重なりを見ると、偶然でない可能性も否定できないでしょうから、ひょっとすると大学かジャーナルに不正の指摘があったのかもしれませんね。その場合、K講師が訂正で済ませたことを考えると、お決まりのように過失と主張して争っているのでしょう。
ジャーナルの訂正や撤回公告は大事にするのを避けるため平気で不公正な取り扱いをしたり、嘘をいうので、訂正で済んでいても私は全く信用できません[5]。Retraction Watchなどの取り扱いの方がよほど公正だと思います。
あくまで一般的な可能性としてですが、捏造を指摘された後に被疑者が実験等をやり直して新しいデータをあたかも論文投稿時のオリジナルデータのように偽装して訂正で済ますこともできるので、表向き訂正や過失で済んでいても信用できません。アラレちゃんの事件も実はこれなんじゃないかと疑っています。だから、告発者やその仲間たちにはアラレちゃんの事件をぜひ追究してほしいと思っています。
K講師の事件は調査の過程で過失とされ訂正になったのか、それとも別な理由で訂正になったのかよくわかりませんし、今後どう扱われるのかわかりません。
はやく公正な取り扱いをする第三者の専門機関がきちんとできて、こういう問題を扱ってほしいと思います。
参考
[1]Retraction Watch :"Royal jelly figure flushed: Author removes figure from 2002 paper" 2013.1.16
[2]J. Biochem. 2002; 132(6), 911–919の訂正公告。2012.12
[3]世界変動展望 著者:"富山県立大学のある研究について" 世界変動展望 2012.7.21
[4]論文捏造:"富山県立大学 工学部生物工学科 機能性食品工学 論文捏造疑惑" 2012.10.21
[5]世界変動展望 著者:"論文の訂正、撤回公告は嘘が多いので改善すべき" 世界変動展望 2013.1.12