世界変動展望

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倫理教育や指針見直しだけでは研究不正は防げない!

2013-08-23 00:05:05 | 社会

文科省、不正調査の職員増員へ 倫理教育強化

 東京大の研究費詐取事件や論文改ざんなどを受け、文部科学省は20日、研究費の不正調査を担当する部署を増員し、研究者の倫理教育を強化する事業を始める方針を明らかにした。

 同日開かれた不正防止策の検討会でこの方針を確認、2014年度予算の概算要求に盛り込む。

 文科省によると、研究費の競争的資金を管轄する部署に、不正の調査を担当する職員が2人いるのを4人に増員。不正防止の指針を徹底させる。

 倫理教育の強化では、大学や研究機関で統一的に使用できるような教材開発を支援する。実際に使う際には、インターネットで講義を受ける方式も想定している。

47NEWS 2013.8.20

写し

[1]
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研究不正の続発を受け、文科省等で研究不正の防止策が検討されている[1]。しかし、検討されている対策は指針の見直しや倫理教育の強化だけ報じられ、強制調査権を持つ第三者機関が客観的、積極的に不正を調査する学術警察や拘束力のある実効的な規定の作成などは全く出てこない。

指針の見直しや倫理教育を強化するのはいいが、それだけでは不十分だ。今までも文科省のガイドラインがあり、倫理教育も行われた。それでも不正は防げなかった。ガイドラインは指針にすぎず恣意的に運用され、文科省等に不当さを訴えても「研究機関が決めることですから。」といって何もしなかった。

倫理教育でも、例えば先月論文43編で捏造・改ざんが認定された加藤茂明元教授らは日本分子生物学会で研究不正防止の倫理教育を行っていた。そんな研究者たちですら悪質な不正を大量に行ったのに、倫理教育の強化だけで不正が防げるはずがない。

例えば大規模捏造を行ったと考えられている金美善は「今こそ示そう科学者の良心2008 -みんなで考える科学的不正問題-」で次のように語っている。

「今こそ示そう科学者の良心2008 -みんなで考える科学的不正問題-」での金美善の発言-[2] 2008.12

金は韓国で行われた倫理教育の講演を「非常に面白かった」と述べているので、受講したのだろうか?少なくとも「今こそ示そう科学者の良心2008 -みんなで考える科学的不正問題-」という題の会で「やはりいい研究をやるというのは、正しいルールでやったほうがカッコいい」『「魂を捨てたら、もう研究者の生命は終わりよ」という話もしますが、そういうだめな魂は絶対つくってはいけないと思わないと、長い間、研究は楽しくやっていけないと思います。』と述べた者が、このような大量かつ明白かつ悪質な捏造を実行したことは、いくら倫理教育を強化しても研究者は業績向上等の誘惑に負けて不正を犯すことを端的に示している。

倫理教育は結局研究者に不正はいけないという意識を持たせ不正を防ぐもので、誘惑に負けて故意に不正を行う者を止めることはできない。業績向上等のために悪いとわかっていても不正をするのが不正行為者だ。それは過去も将来も変らない。

文科省のガイドラインや各研究機関の規定、従来の倫理教育で不正を防げなかった原因は不正防止を研究者や研究機関の任意性に任せるために、恣意的に物事を扱い実効性がなかったからだ。実効的な取り締まりや厳罰がないために研究者は悪いとわかっていても自己の利益のために不正を犯す。さらに研究機関等の任意性に任せると不正の責任をとりたくない、裁判リスクを回避したい等様々な理由のために不正問題を恣意的に取り扱い、それが"不正をしても見逃される"という意識を生み、不正を助長する。それが井上明久東北大前総長事件や藤井善隆の世界記録捏造に代表されるような研究不正を発生させた。

文科省等は倫理教育を受けることを条件に競争的資金申請を認めるという方針を検討しているようだが、それだけやっても予算獲得のために仕方なく倫理教育を受けるだけではないか。ほとんどの研究者は本気で受講しないだろう。中には居眠りしながら受講する者もいるに違いない。本気でない受講は無意味だ。何のインセンティブもない教育を熱心に受ける研究者がたくさんいると本気で思いますか?

研究不正対処の指針にしろ、これまで任意性に任せたために恣意的に扱われてきたことは明白である。内容を見直しても拘束力がなければ全く意味がない。また恣意的に扱うだけで、同じ事の繰り返しだ。「指針を守っていない。」と文科省等に抗議しても「研究機関が決めることですから。」といって何もしないのだろうし。こういう無責任な対策は認められない。

結局、指針の見直しや倫理教育の強化だけでは同じことの繰り返しで自浄作用は保障されない。

AERA([3])では文科省の職員が「これまで対策は打ってきた。これ以上どうしろというのか。」と頭を抱える様が言及されたが、どうすべきかはネイチャーやJSTの第三者委員会、専門家などいろいろな人が何度も提言してきた。"第三者調査機関を作れ"という趣旨の提言は何度もなされている。

それでも、どうすべきか頭を抱える、倫理教育の強化や指針の見直しくらいしか思いつかないというのは、単にこれらの提言や研究不正を防げなかった原因を無視しているだけで、本気で不正を改善するつもりがないという印象を持つ。文科省等が考える方法は実効性を無視して、とにかく面倒でない方法や金のかからない方法ばかり検討するから失敗する。

本気で研究不正を防止したければ文科省等は自分たちの消極的な態度が根本原因の一つだということを認識しなければならない。

参考
[1]47NEWS 写し 2013.8.20
[2]2008年12月 日本分子生物学会 若手教育シンポジウム
『今こそ示そう科学者の良心2008 -みんなで考える科学的不正問題-』
議事録の写し
[3]"急増する大学論文不正と研究者の競争激化" AERA 8.26号 目次の写し 2013.8.19 発売

(本来の発表日 2013-08-23 00:05:05)

日本学術会議や文科省では倫理教育で研究不正を防ぐことを検討していますが、倫理教育の必要性を指摘しつつも、これだけでは研究不正を防げないことを武市正人(大学評価・学位授与機構教授、前日本学術会議副会長、同会員)が言及しました(写し)。