世界変動展望

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未解決の研究不正事件と学界の現状の酷さについて

2012-12-06 20:10:43 | 社会

最近の研究不正未解決事件は次のとおり。

(1)東京大学分子細胞生物学研究所加藤茂明グループの不正事件

私の記憶では今年の1月10日に東大に告発がなされ、調査開始からそろそろ1年経つがいまだに調査結果が公表されない。責任著者だった加藤茂明は3月に引責辞任、事実上不正を認めた。群馬大学の北川浩史、筑波大学の村山明子など共犯者と考えられる人も多数存在するが、彼らに対する調査がどうなっているか、処分がどうなったかなど一切不明。

時期からいって、調査が終了し処分がくだされているべきである。

(2)京都府立医科大学松原弘明グループの不正疑惑事件 [1]

この事件も昨年の今頃か11月頃に告発され、昨年12月に調査委員会が設置され調査されたことがわかっている。そろそろ一年たち、不正があったなら調査結果の公表、処分が行われていて当然の時期である。現在まで何の報告もない。

本件は海外の研究不正追究ページで取り上げられたことがきっかけで米国心臓協会が懸念を表明し同学会も告発。2012年3月15日付けの朝日新聞によれば松原は「図を使い回したり、誤って上下を逆にしたりしたことはあったが、認識不足や単純なミスだ。意図的な改ざんではない。調査には協力している」と語り、不正を否定する姿勢のようだが、現在調査等がどうなっているのか報告がまたれる。

(3)三重大学生物資源学研究科の不正疑惑事件 [2]

非常に不可解なのはこの事件。この事件は昨年の2月24日に告発、3月3日に本調査開始が決定。調査開始から約1年9ヶ月たつが、いまだに調査結果の公表、関係者の処分はない。被疑者の青木直人は今でも三重大に所属し論文を執筆している。まるで何もなかったかのようだ。

時期からいって、いくらなんでも調査が終了していないということはないだろう。調査結果の公表、懲戒処分の報告がないということは不正がなかったということだろうか?こういうケースは通常そうだと考えられるが、仮にそうなら三重大学や文部科学省、日本学術振興会は全く自浄作用がなく無責任といわれても仕方ないだろう。

青木は過失だったと主張したのかもしれない。しかし、[2]をみると複数の論文の多数の項目にわたって不正疑惑が指摘されており、故意に捏造や改ざんをしたといわれても仕方ないであろう。

仮に三重大が不正を認定していないなら、不正の握りつぶしに他ならない。また不正を認定しても調査結果を公表していないならルール違反だし、処分が厳重注意や訓告程度で済んだため公表していないというなら、あまりに軽く不条理だ。本件は解雇になって当然の事案。仮にこのようなことなら三重大は信用を地に落とすであろう。端的にいって、この時期まで調査結果の公表等をせず、何事もなかったかのようにしている様は不正を握りつぶしたと言われても仕方ないだろう。

監督機関、資金配分機関である文科省、学振も不正に対して何ら対処しておらず無責任。本当に何もしない。報告があっても大学等の言い分を鵜呑みにするだけで全く監督機能がなく、飾りだけの機関。獨協医大服部良之事件では同大が不正を認定したにも関わらず科研費を返還しないと主張したが、大学等に完全に任せて言い分を鵜呑みにするだけなら、文科省や学振の役人に給料を支払う必要は全くないと思う。

個人的にはどうでもいい問題だが、第三者が尋ねても何も教えてくれないだろうから、告発者は現状を知らなければ照会してネット公開してほしいと思っている。

(4)長崎大学、琉球大、森直樹の不正事件 [3]

琉球大学医学系の森直樹は2010年に研究不正で処分された。裁判をへて、最終的に停職10ヶ月。大規模な捏造をして処分がたったのこれだけというのは不条理。私の理解では、さらに別件で2011年4月13日に旧所属機関の長崎大学に不正の告発がなされたが、今でも何の調査結果も公表されない。告発者は琉球大にも2011年5月20日に告発したようだが、握りつぶされたようだ。

ガイドラインでは旧所属機関と現所属機関が合同で調査することになっているので、おそらく琉球大が握りつぶしたために全く調査していないのだろう。言うまでもないが、別件で不正があればきちんと調査し、事実なら責任をとらせなければならない。琉球大はなぜか過去の事件だけで終了したつもりになっているのだろうが、こういうのを不正の握りつぶしという。学長の岩政輝男が共著になっていた論文を不正と認めなかったり、森をたったの停職10ヶ月で済ませたことを見ると同大にも自浄作用はないと感じる。

(5)東北大学井上明久前総長事件

一番スキャンダラスなのはこの事件。学界だけでなく一般でも有名になってきたと思う。東北大学の教員・OBらから何度も告発を受けたが、東北大、日本金属学会ともに現在まで調査を実施していない。巨額の研究費を交付しながら文部科学省や資金配分機関もJSTを除き、これまで一切調査をしなかった。

最近刊行された告発本でも同大、同学会、文科省、学振などの無責任ぶりや自浄作用のなさが厳しく非難されている。東北大では都合が悪ければ規則がまったく通用しない様が浮き彫りになり、同大だけでなく日本金属学会までが不正の隠蔽をしたと疑われている。まず間違いなく事実だと思う。

この事件はこのまま東北大等が不正を認めないまま収束するのではないかと思っている人もいるかもしれないが、近いうちに不正が認定されるだろう。

(6)その他

群馬大学の北川でない某教授の事件や大分大学元医学部長の捏造事件は未解決。告発されているか不明だが阪大臨床遺伝子治療学グループのデコイ論文盗用疑惑、富山県立大学の捏造疑惑、山梨大学医学工学総合学部の捏造疑惑、京都大学都市社会工学専攻グループの論文盗用事件、金沢大学医学系多久和グループの捏造、改ざん事件、青山学院大学某准教授の二重投稿事件などネットで指摘されているが、現在どうなっているか不明のものがある。だいたい本ブログで紹介した。記事を読みたい人は社会のカテゴリーを調べていくと該当記事がある。

おそらく他の大学や国立研究所でも告発されても放置され未解決のものがいくつかあるだろう。

(7)私の見解

上の事例などを見ると、大学等では規則が通じないことが珍しくなく、都合が悪ければ無視されている様がわかる。東北大、日本金属学会、琉球大、三重大のように不正を握りつぶしている非常に劣悪な機関すら存在し、監督機関や資金配分機関である文科省や学振は完全に他人事で何もせず無責任極まりない。

処分にしろ森直樹の停職10ヶ月のように不当に甘い処分で終わらせているし、身内に不当に甘い様はどの機関でも同じだと感じる。私の記憶では、森は裁判で阪大の下村伊一郎を引き合いに出し、彼が捏造事件で停職14日で済んだのに比して懲戒解雇は重すぎるとして争い、それを理由の一つとして停職10ヶ月に変更になった。

しかし、そもそも阪大の下村の処分は生命機能研究科が竹田潤二や実行者とされた医学部男子学生(当時)を含めて厳しい処分案を評議会に諮ったにも関わらず、評議会が答申案よりはるかに甘い処分を出したもので、内外から強い批判が起きた。このような不当に甘い処分に比して処分を考えること自体が不当といえる[4][5]。悪しき前例が作られ、それを理由に後発事件が甘く処分されることも問題だ。

阪大の下村事件などを受けて文科省では2006年8月にガイドラインを策定した[4]。2006年に阪大生命機能研究科で杉野明雄の捏造事件が発覚したとき、ガイドラインに即して迅速な調査が行われ、杉野は懲戒解雇となった[4]。しかし、調査の過程で判明した2編の論文でも捏造が判明したが、阪大はそれを公表しなかった[4]。阪大の規定では「合理的な理由のために不開示とする必要があると認めた場合を除き、原則として公表する」とされているが、阪大の研究公正委員会は、杉野が既に懲戒解雇になっており、十分に社会的制裁を受けているなどの理由から、原則公表の例外に当たると判断した[4]。

阪大の非公表は規則違反だ。懲戒解雇などの処分が非公表の合理的理由になるなら、およそ処分を受けた事案は非公表となる。事実上原則非公表になってしまう。それに非公表の合理的理由は例えば公表して無関係の第三者が害を被るなどの事情をいうのであって、懲戒処分を受けていることは合理的理由と思えない。

このように規定が作られても阪大、東北大、琉球大などの事例を見ればわかるように、都合が悪ければ無視され、規定の実効性がないことがわかってきた。[4]によれば文科省のガイドラインは阪大のような身内に対する甘さを一掃するためのものだったが、効力が十分でないのは明白といっていいだろう。

監督機関である文科省や資金配分機関である学振でさえ、不正を指摘されても当事者意識を持とうとせず、被疑者の所属機関に丸投げして自分達は一切何もしようとせず、ただ所属機関が報告したことを鵜呑みにするだけの極めて無責任な態度が学界の腐った体質を助長してきた[6]。井上事件ではネイチャーの記者から独自に調査するつもりはないのかと尋ねられても文科省は「介入するつもりはなく大学に任せている」と愚かかつ無責任な態度を示したことからも、無責任さは明らかである。

他にも慶應大の金正勲特任准教授の経歴詐称事件の同大の握りつぶしなど他にも不正な調査裁定はいくつもあるが、端的にいって大学等は自分勝手にやりたい放題やっているところがいろいろあり、これが現在の学界の体質といえる[7]。

都合が悪ければ規則を守らない、身内に甘く対処、誰が見ても故意なのにわざと過失と処理したり、摩訶不思議な理由をつけて告発を握りつぶしたり、ひたすらだんまりを決め込んで不正事件が忘れさられるのを待っている。

そんな研究者や研究機関、文科省、学振等にとってだけ都合がいいような腐った体質を一掃しなければ健全な学術の発展はない。

今の学界の腐敗は規則を少し強化すればいいという程度の生やさしい対応では改善できない。研究機関だけに調査を任せるような対策では絶対にまずく、違反には罰則をともなう強制力のある強力な規定の策定や公正、客観的、積極的に不正を取り締まる警察的な機関の設置、懲戒処分などの処分案も横審の答申のように原則きちんと反映されるような仕組みの創設、大学等の自浄作用がはたらかなかった場合には文科省や学振に強制的に監査させ、文科省等がそれに違反したら職員を懲戒解雇にするなど厳しい罰則を与える規則の制定が必要だ。

参考
[1]京都府立医科大学の不正事件、告発者のページRetraction Watchのページ
[2]三重大学の不正事件、告発者のページ
[3]長崎大学、琉球大学の不正事件 告発者のページ 。
[4]日野秀逸、他:"研究不正と国立大学法人化の影―東北大学再生への 提言と前総長の罪" 社会評論社 2012.11.25
[5][4]p22によると最終的に下村、竹田は監督責任があるとして、下村は停職14日、竹田は停職1ヶ月、捏造の実行者とされた男子学生は医学部長が厳重注意し、医学倫理教育プログラムを実施しただけで済んだ。調査で竹田が駒沢から約600万円の寄付金を受け、うち約200万円を竹田が独自に開設した口座に振り込まれせていたことも判明。

[4]p22によると『処分が軽すぎるとの批判が外部から起き、「身内への甘さ」が指摘された。一次案より軽くなり、部局の意向が軽視されたことには、内部にも強い批判がある。

ある関係者は「大阪大学の隠蔽体質を一掃しないといけない」とし、これを「大阪大学の『まぁ、ええやないか』という「なあなあ体質」によるものだと思う。商人の町大阪の悪い方の商人根性が阪大人の心の奥底に住みついてしまったのだろうか」と述べている。』と記載されている。

[6]世界変動展望 著者:"研究不正が起きる根本原因について" 世界変動展望 2012.4.16
[7]慶應大金正勲特任准教授事件は月刊Factaのページ。故意の経歴詐称は明らかだが、驚いたことに慶應大は過失とし厳重注意で済ませた。無論、不正の握りつぶし。