赤坂ACTシアター、2013年2月7日マチネ。
小さいけれど多くの生き物を育み、無数の営みが行われている森。キンイロケヤキと呼ばれる樹の根には無数のセミの幼虫たちが宿っていた。ユウダチゼミの幼虫ゴッホ(松山ケンイチ)はせっかちな少年で、ベアトリーチェ(美波)はしっかり者の少女。二匹は地上に出て羽化したあと恋人同士になることを約束していた。だが実はゴッホはベアトリーチェよりも生まれが一年早かったのだ! 体の衝動を抑えきれず、先に地上に出て羽化してしまったゴッホは、「地上に出たセミはその年のうちに死んでしまう」ことを知り…
作・演出/西田シャトナー、音楽/グーテフォルク、振付/香瑠鼓。全2幕。
ミホコと筒井道隆目当てで行ったのですが(吉沢悠も好き)、トウコさんも出ていたしマツケン初舞台作品だし、何より初・西田シャトナーとなりました。おもしろい出会いができて嬉しかったです!
キャラクターはすべて虫です。ミミズとかカエルもいるけれど。虫の名前は虫同士の呼び名で、人間が決めた学名ではありません。
キャスト全員のコロスというか群唱で、哲学的な台詞で世界観や状況設定が説明され、まずヤマアリたちの暮らしが描写されるのですが、そこにマツケンが出てきて、「アリもやります」と言ったのにまずウケました。
マツケンは主役でセミの役のはずで、でもバイトで働きアリにも扮していて、別に演劇にはそういうことって普通にないわけでもないんだけれど、だからスルーしたっていいはずなのにあえて、というのがなんか妙におかしくて、この作家の作劇のスタンスがわかったようで、がつっと惹き込まれました。
アリには女王(トウコさんはさすがのプリマドンナ役。でも歌は役不足だったかも。もっと歌えるし歌わせちゃってもいいのに、と思った。ほぼ唯一のミュージカルらしいミュージカル部分担当なだけに)がいて、それに対し働きアリが10匹くらいいて、でもいつも1,2匹が働かないででも何故か存在しているんだよね、ということは知識として知っていましたが、それが上手く使われていて、働かないアリは何をしているのかというと、このゼノン(手塚とおる)のように何か哲学的な真理を追っていて思索し続けていて、女王はそれをお喜びだから存在意義があるというのです。なんてシュール、でもありそう!
そして大柄なマツケンに対し美波は小柄で、映像で観るならともかく舞台ではカップルバランスが悪いなと思っていたら、なんと彼らは1年違いなのでした。そんな世代を超えての恋愛というかぶっちゃけ成長と交尾と死なんかあるわけなくて、だからこそのその体格差なのか、とシビれました。ゴッホは早熟なのではなく、そもそも年上だったのですから! スタスキー教官(福田転球)と先輩たちの羽化レッスンを見ているうちに、衝動が抑えられなくなってしまうのも当然だったのです。
羽化したら歌って恋をしなければなりません。それが本能です。清純派だったブリギッタ(彩乃かなみるというわけでよかったわ色っぽかったわ艶やかだったわ! もっと歌ってほしかったわー)のお色気攻撃にほとんど負けそうになるゴッホに悶えました。だって虫だもん! 生き物が本能に抗うなんて普通無理じゃん!!
ゴッホは歌わず飛ばず、成長しないように、自分の時間を進めないようにしてこの夏をやり過ごし、秋まで生き延び冬も越して来年の夏、ベアトリーチェが羽化するときを待とうとします。はたしてそんなことが可能なのか?
ゴイシクワガタのダンディなイルクーツク(石川禅。歌わないけどやたらと美声)やサーベルカマキリのクールでエキセントリックなセルバンテス(細貝系)、シマシマグモの婀娜なラングレン姐さん(保村大和)たちの知恵や助けを借りて、がんばるのですが…
羽化の際のアクシデントで不能になり、なので長命なアムンゼン(筒井道隆。当て書き感が素晴らしすぎる…)とか、泣かせました。
カレハミミズのホセ(吉沢悠)の単体生殖、無性ゆえののほほんさとかが笑えましたし、代が変わっても記憶とキャラを受け継いでいる様子には震えました。だってそうかもしれないじゃん、昆虫とかこういう生物の研究って意外なほど進んでいないんですよ。なんて哲学的なの!
そしてヤマアリの女王とその郎党たちは冬を越すための食料を虎視眈々と狙っている。一方で若き女王の誕生も近い…
なんて世界でしょう!
で、どうなるの? どうするの? とワクワクしたわけですが。
結局は、人間たちが暮らす「四角い森」で冬でも寒くならない場所を見つけてすごすことができたらしく、ゴッホはベアトリーチェと再会を果たし、キスをして、お話は終わります。
笑いどころのように、最初の場面であったと同じくゴッホの唇とベアトリーチェの唇が擬人化されるのだけれど、最初の場面では抱き合ってイチャイチャを表現したのが、二度目はただたゆたって愛を表現するかのような…そんな演出になっていました。
キスは最高の歌、愛の表現、交尾、死を超えたすべてを相手にささげること…そんなことを示して、終わったお話のような気がしました。
甘いとか、奇跡的にすぎるとか、思わなくはない。でも、じわりと温かい、楽しい舞台が観られて、よかったなあと思ってしまったのでした。
初舞台のマツケンはまだまだぎこちなかったし、初日開いて間がなかったからかキャストの全員がよく噛んだけれど、これからさらに練り上げられていくのではないでしょうか。
あ、プログラムの対談ページに誤植があり、文章がつながっていないのが残念でした。
小さいけれど多くの生き物を育み、無数の営みが行われている森。キンイロケヤキと呼ばれる樹の根には無数のセミの幼虫たちが宿っていた。ユウダチゼミの幼虫ゴッホ(松山ケンイチ)はせっかちな少年で、ベアトリーチェ(美波)はしっかり者の少女。二匹は地上に出て羽化したあと恋人同士になることを約束していた。だが実はゴッホはベアトリーチェよりも生まれが一年早かったのだ! 体の衝動を抑えきれず、先に地上に出て羽化してしまったゴッホは、「地上に出たセミはその年のうちに死んでしまう」ことを知り…
作・演出/西田シャトナー、音楽/グーテフォルク、振付/香瑠鼓。全2幕。
ミホコと筒井道隆目当てで行ったのですが(吉沢悠も好き)、トウコさんも出ていたしマツケン初舞台作品だし、何より初・西田シャトナーとなりました。おもしろい出会いができて嬉しかったです!
キャラクターはすべて虫です。ミミズとかカエルもいるけれど。虫の名前は虫同士の呼び名で、人間が決めた学名ではありません。
キャスト全員のコロスというか群唱で、哲学的な台詞で世界観や状況設定が説明され、まずヤマアリたちの暮らしが描写されるのですが、そこにマツケンが出てきて、「アリもやります」と言ったのにまずウケました。
マツケンは主役でセミの役のはずで、でもバイトで働きアリにも扮していて、別に演劇にはそういうことって普通にないわけでもないんだけれど、だからスルーしたっていいはずなのにあえて、というのがなんか妙におかしくて、この作家の作劇のスタンスがわかったようで、がつっと惹き込まれました。
アリには女王(トウコさんはさすがのプリマドンナ役。でも歌は役不足だったかも。もっと歌えるし歌わせちゃってもいいのに、と思った。ほぼ唯一のミュージカルらしいミュージカル部分担当なだけに)がいて、それに対し働きアリが10匹くらいいて、でもいつも1,2匹が働かないででも何故か存在しているんだよね、ということは知識として知っていましたが、それが上手く使われていて、働かないアリは何をしているのかというと、このゼノン(手塚とおる)のように何か哲学的な真理を追っていて思索し続けていて、女王はそれをお喜びだから存在意義があるというのです。なんてシュール、でもありそう!
そして大柄なマツケンに対し美波は小柄で、映像で観るならともかく舞台ではカップルバランスが悪いなと思っていたら、なんと彼らは1年違いなのでした。そんな世代を超えての恋愛というかぶっちゃけ成長と交尾と死なんかあるわけなくて、だからこそのその体格差なのか、とシビれました。ゴッホは早熟なのではなく、そもそも年上だったのですから! スタスキー教官(福田転球)と先輩たちの羽化レッスンを見ているうちに、衝動が抑えられなくなってしまうのも当然だったのです。
羽化したら歌って恋をしなければなりません。それが本能です。清純派だったブリギッタ(彩乃かなみるというわけでよかったわ色っぽかったわ艶やかだったわ! もっと歌ってほしかったわー)のお色気攻撃にほとんど負けそうになるゴッホに悶えました。だって虫だもん! 生き物が本能に抗うなんて普通無理じゃん!!
ゴッホは歌わず飛ばず、成長しないように、自分の時間を進めないようにしてこの夏をやり過ごし、秋まで生き延び冬も越して来年の夏、ベアトリーチェが羽化するときを待とうとします。はたしてそんなことが可能なのか?
ゴイシクワガタのダンディなイルクーツク(石川禅。歌わないけどやたらと美声)やサーベルカマキリのクールでエキセントリックなセルバンテス(細貝系)、シマシマグモの婀娜なラングレン姐さん(保村大和)たちの知恵や助けを借りて、がんばるのですが…
羽化の際のアクシデントで不能になり、なので長命なアムンゼン(筒井道隆。当て書き感が素晴らしすぎる…)とか、泣かせました。
カレハミミズのホセ(吉沢悠)の単体生殖、無性ゆえののほほんさとかが笑えましたし、代が変わっても記憶とキャラを受け継いでいる様子には震えました。だってそうかもしれないじゃん、昆虫とかこういう生物の研究って意外なほど進んでいないんですよ。なんて哲学的なの!
そしてヤマアリの女王とその郎党たちは冬を越すための食料を虎視眈々と狙っている。一方で若き女王の誕生も近い…
なんて世界でしょう!
で、どうなるの? どうするの? とワクワクしたわけですが。
結局は、人間たちが暮らす「四角い森」で冬でも寒くならない場所を見つけてすごすことができたらしく、ゴッホはベアトリーチェと再会を果たし、キスをして、お話は終わります。
笑いどころのように、最初の場面であったと同じくゴッホの唇とベアトリーチェの唇が擬人化されるのだけれど、最初の場面では抱き合ってイチャイチャを表現したのが、二度目はただたゆたって愛を表現するかのような…そんな演出になっていました。
キスは最高の歌、愛の表現、交尾、死を超えたすべてを相手にささげること…そんなことを示して、終わったお話のような気がしました。
甘いとか、奇跡的にすぎるとか、思わなくはない。でも、じわりと温かい、楽しい舞台が観られて、よかったなあと思ってしまったのでした。
初舞台のマツケンはまだまだぎこちなかったし、初日開いて間がなかったからかキャストの全員がよく噛んだけれど、これからさらに練り上げられていくのではないでしょうか。
あ、プログラムの対談ページに誤植があり、文章がつながっていないのが残念でした。
筒井さんファンですか?
よく舞台に行かれてるんですね。
備忘録かわりに観劇の感想を書いています、
またいらしてくださいね。
●駒子●
周囲に筒井さんを共感できる人がいなくて・・・
駒子さんのブログを見てお話できたらと思いコメントしました。 今年も舞台あるといいですね。ドラマも