駒子の備忘録

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宝塚歌劇雪組『一夢庵風流記 前田慶次/My Dream TAKARAZUKA』

2014年08月23日 | 観劇記/タイトルあ行
 東京宝塚劇場、2014年8月7日ソワレ、16日マチネ、19日ソワレ。

 魔物と見まごうばかりの怪馬・松風に跨り、朱槍を振りかざす天下の傾奇者・前田慶次郎(壮一帆)は、かつては尾張の荒子城主・前田利久の嫡男としてその家督を継ぐ立場にあった。だが利久が織田信長の不興を買ったため、前田家の家督は利家(奏乃はると)に渡ってしまい、利家との確執から慶次は流浪の旅に出たのだった…
 原作/隆慶一郎、脚本・演出/大野拓史、作曲・編曲/高橋城、高橋恵。
 グランド・レビューは作・演出/中村一徳。壮一帆・愛加あゆのトップコンビ退団公演。

 久々に遠征しないですませた公演でしたが、好評で、東上を楽しみにしていました。
 原作小説は読んだのですが(漫画は未読)、エピソードの羅列でストーリーらしいストーリーがないのが不満でした。舞台は、たくさんのスターに適材適所の役を与えてキャラクターたちが生き生きと多彩なのはいいのだけれど、さてなんの話やら…と見守っていたら、あっと驚く二郎三郎(一樹千尋)の仕掛けもあって、きちんとしたお話になっていたのですっごく興奮しました。
 ただ、原作を読んでいるか、大河ドラマ程度のこの時代の歴史的な知識がないと、そしてこのヒロさんを生徒として声や顔で識別できるスキルがないと、このどんでん返しのおもしろさがわからず、話の筋が追えない…というのはあったかもしれません。事実、同伴した後輩はそうだった(^^;)。
 でも捨丸(咲妃みゆ)が可愛い、いじらしいと言って泣くし、えりたんカッコいいと言って泣いていたので、よかったのではないでしょうか。

 私は慶次が助右衛門(早霧せいな)に言った、どうしても言えない一言、というのが、「秀吉に臣従する」といった類の言葉かと思っていたので、まさかまつ(愛加あゆ)と別れるなんて恋愛系の話題だとは予想もせず、初見はちょっと驚きました。三度目に観たときにやっと納得がいったかな。
 もちろん慶次はまつに惚れていて抱きたいから抱いたのであり、利家への意趣返しなんて小さくくだらない理由からではない、とは思っていました。
 でも好きで流浪しているとか傾奇者をやっているというよりは、やはり信長に一方的に家督を奪われたことは筋違いとして承服しかねていてグレていて、そのあとを継いだ秀吉のことはさらに買っていないので頭を下げて仕える気にならず、スキあらば嫌がらせをしないではいられないでいる…という、そこはちょっとやや後ろ向きな生き方をしている男なのかな、と私は捉えていたのです。
 だから、頭を下げてお仕えしますとさえ言えれば、暮らしも立場も安定して楽になれるとわかってはいても、その一言が言えないで、騒ぎを起こしては困ったことになっちゃってるんだよなあ…というような流れなのだと思っていたのでした。
 でも、慶次は、主がいようといまいと、「戦人」なのですね。だから負け戦とわかっていても友となった直江兼継(鳳翔大)との約束を果たすために戦場に行く。「戦人」とはもちろん戦士といった意味でももありますが、より広い意味で考えるに、「潔く生きる人」みたいなものなのではないでしょうか。
 だから慶次は、常にしたいようにしたいことをして生きている。したくないことはしない。したいことはなんの得にもならなくてもするし、したくないことは損があってもしない。自分の忠実であることに潔く責任を取る。
 だからただ偉いというだけで尊敬もしていない人に対して頭なんか下げないし、たとえ人妻でも好きで向こうも好きだと言ってくれる女のことは抱く。問題だとわかっていても別れない、別れられない。そういう、言えない一言だったのですね、「あの女と別れる」というのは。
 考えようによっては困った男だし、別れを告げるまつに対して「嫌だ」を連発する慶次は『心中』の主人公以上にけっこう情けない男です。でもそれをえりたんが、説得力をもってやってみせちゃうんだもんなあ。これがしょうもなく女々しく見えないというのはすごいと思う。アテ書きというのもあるけれど、やはり年季のいった演技力ですよね。スターは最大限に実力を発揮して、卒業していくんだなあ…

 というワケでえりたんは文句のつけようもなく大好演、大熱演。
 あゆっちもきりりと強く凛々しい女を、でも色っぽく甘やかな女を美しく麗しく演じてくれて、最後にベタベタ並ぶシーンも来て、よかったよかった。
 チギちゃんは辛抱役でしたが、私は素敵だと思いました。美しく静かにそこにいるだけで保つ、すごいことですよ。最後の大ピンチに鉄砲隊率いて颯爽と現われるくだりは、「入ってほしいときに入る助け、ヒーローはこうでなくっちゃね!」と感激しましたよ。
 まっつがまた常に台詞の後に現われるザッツ・悪役っぷりがたまらん! ええ声たまらん!! ラブシーンたまらん!!! よかったです。
 ともみんがまたいいヤツで泣かせる…ホントは三の線ばかりやらせられるのも気の毒なんだけれど、でもこういうハートフルな手下役はおいしいしニンだしすごくよかった。でも捨丸への最後の「忘れ物だぜ」はもっとしっとり言ってもよかったと思うなあ…単に好みの問題ですが、すみません。しかしきゅんきゅんした!
 ナギショー、サキナはもしかしたら役不足なのかもしれないけれど、そろそろマジでもう一化けしてほしいよね…れいこがホントに美しさでのしてきてるからね…
 きんぐはさすがにカッコよく見せようがなくて残念だったかな。
 でも本当にたくさんの生徒に役がいっていてきちんと背景が作られていて、生徒もそれに応えていて、熱い厚い作りになっていて感動しました。プロローグやラストの感じも、ミュージカルとしてもサヨナラ仕様としても素敵だと思いました。
 サヨナラ公演にアタリなし、と言いますが、『エドワード8世』といい、大野先生は良作を書いてくださいますよね。来年のたまきちバウもよろしくお願いいたします…!

 ショーは安定の中村Bショー、かつちょっと引くくらいベタベタのサヨナラ仕様なのですが、とにかく銀橋にじゃんじゃん生徒を出す大盤振る舞いっぷりに、そもそもショーがなくてこんなに若手を活躍させてもらったことが近年めっきりない宙組ファンとしては「いいなー…」と指咥えるのみ!です(ToT)。
 長いフィナーレがよかったなあ。お衣装替えのタイミングとかもあってたまたまなんだけど、もうチギちゃんのお披露目ですか?ってな場面もありましたが。
 えりあゆデュエダンも本当に愛にあふれていて、えりたんが優しくて、泣けました…
 しかしゆうみちゃんホントいいわ輝いているわー。次期トップ娘役としてもちろん場を与えられているってこともあるんだけれど、あゆっちが銀橋に出ていて本舞台にズラリ娘役陣、そのセンターがゆうみちゃん、なんてときの発光っぷりがもうものすごい。
 あと、とにかく上品。コケティッシュなお衣装や場面でもそれは失われることがない。素晴らしいですね。中詰めときんぐとの銀橋デュエットで似たブルー系のドレスを着せられてしまったことだけが残念でした。
 いいなー雪組。来年にはだいもんまで加わるなんて怖ろしいわー。楽しみだわー。
 千秋楽まであと一週間ですね。幸せな公演となりますように。



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