ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

入管法改正案は問題が多い~高橋洋一氏

2018-12-03 10:51:52 | 時事
 入管法の改正案は、参院での成立の可能性は高いです。しかし、この改正案は、拙速・杜撰の極みです。自民党内でも、当初反対論、慎重論が少なくありませんでした。野党の多くは問題点を指摘するものの立法者としての実力不足のため、議論の質が上がらないまま進んでしまっています。こうしたなか、元財務官僚で嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、今回の改正案は賃金上昇しはじめているアベノミクスの成果を台無しにする可能性があると指摘しています。

 改正案の問題点の一つとして、高橋氏は、本年2月内閣府が出した資料が、少子化で生産年齢人口が減少していることを「人手不足」として、それゆえに外国人労働者を受け入れなければならない、としているのは、誤りだと述べています。「安倍政権になってから進められた異次元金融緩和によって雇用が生まれ、それ故に人手不足になったのであり、決して「少子化だから人手不足」ではないのだ」と言うのです。
 入管法改正の動きは、人手不足を理由とする産業界からの要請によるものですが、高橋氏は「人手不足はマクロ経済にはいいことであり、この際企業がため込んだ内部留保を吐き出して、給与や待遇を改善するのが先である」と述べています。「基本的には外国人労働者を新たに受け入れずに、今まで受け入れてきた留学生アルバイトと技能実習生にきちんとした在留資格を与えて、その後はきっちりと彼らの在留資格などについて管理するというスタンスが望ましい」というわけです。

 安倍政権になってから、「外国人労働者」の数は70万人から130万人へと60万人増加しました。130万人のうち雇用環境に影響を与えるのは、留学生アルバイト30万人と技能実習生25万人。政府がまとめた「たたき台」では、2019年度から5年間で130万~135万人の労働者が不足するため、最大で34万人を受け入れるとしています。高橋氏は、「今回の入管法改正案が、これらの留学生アルバイトや技能実習生に新たな在留資格を与え、法的にきちんと認める……というものであれば、今の外国人労働者の総数は変化しないために雇用環境に影響ない。しかし、外国人労働者の総数が増えるのであれば、結果として日本人労働者の賃金を下げることにつながるだろう」と分析しています。
 日本経済の現状は、企業がため込んだ内部留保を吐き出して、労働者の給与や待遇を改善するのが先であるのに、逆に外国人労働者の総数が増えることで、日本人労働者の賃金が下がることになれば、アベノミクスの成果が失われることになります。

 高橋氏は、それ以外の課題として、「在留者やその家族の国民健康保険などの適用においても、これまで不適切な使用が何度も指摘されてきたので、しっかりと管理する必要性を論じるべきだ」と主張しています。「世界に誇れる日本の皆保険制度に、3カ月以上の滞在で加入できるというのは、外国人への義務付けというよりは「特権」であろう」とし、実際、この仕組みを悪用する例が後を絶ちません。「この問題については今からでも遅くないので、是非、今国会で取り上げるべきだ。せめて、改正前の「1年の在留資格」に戻すべきである。これは省令改正でもいいが、今後のために法改正で行うほうがいいだろう」と高橋氏は提案しています。
 そして「今のままでの入管法改正はあまりに杜撰すぎるので、受け入れ上限や既存制度のスクラップなど、相当な修正が必要である」と指摘しています。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58527

 わが国は、ヨーロッパ諸国のような移民政策の大失敗を侵してはなりません。外国人の労働力に頼る国は、一時的には経済成長を維持できても、やがて国民の分断と社会の混乱を生じます。そうなってしまってからやり直すことは、もはや不可能です。私は、拙速・杜撰な入管法改正に強く反対します。

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2018.11.19
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58527
誰も指摘しないのが不可解すぎる、入管法改正の「シンプルな大問題」
拙速な動きにため息連発

髙橋 洋一
経済学者
嘉悦大学教授

拙速、あまりに拙速
 前回の本コラム(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58424)で、現在国会で審議されている入管法改正の問題点として、賃金上昇しはじめているアベノミクスの成果を台無しにする可能性について指摘した。今週は、その議論をさらに深めたい。その上で、日本の入国管理の問題点を指摘したい。
 なにしろ、今回の改正案は拙速な政府内検討を経て出されたシロモノだ。今年2月20日、経済財政諮問会議で検討されはじめたばかり。この種の法改正を行う場合、通常は1~2年を掛けて検討されるが、今回の入管法は、検討されてからわずか4カ月後の6月15日に、「2018骨太方針」としてその全体像が発表された「超スピード改正案」なのである。
 しかも、外国人受け入れの対策や問題点について、専門家が十分に検討した形跡がない。実務を行った外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策検討会のメンバーは官僚ばかり(http://www.moj.go.jp/content/001268548.pdf)。これでは現実に即した議論などなされるはずがなく、相当不味い。
 その拙速さは、今国会審議で法務省の出したデータに誤りが見つかったことにも表れている(https://www.asahi.com/articles/ASLCJ55GRLCJUTFK00Z.html)。こういうケアレスミスが出て来ると、国会審議に大きく響いてくるので、政府としては痛いところだ。
 また、今年2月にキックオフしたときに出された内閣府のペーパーは、お粗末なものだった。少子化で生産年齢人口が減少していることを「人手不足」として、それゆえに外国人労働者を受け入れなければならない、としている(http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2018/0220/shiryo_04.pdf)。
 前回の本コラムでは、少子化は民主党政権下でも同じ状況だったので、少子化で人手不足は誤りだ、と指摘した。つまり、安倍政権になってから進められた異次元金融緩和によって雇用が生まれ、それ故に人手不足になったのであり、決して「少子化だから人手不足」ではないのだ。
(なお、筆者は人口減少・少子化は、日本にそれほど負の影響を与える問題ではないと考えている。興味のある人は、筆者の近著『未来年表 人口減少危機論のウソ』を参考してもらいたい。)

「人手不足」の解釈の誤り
 さて、筆者の指摘をよりよく理解してもらうために、今の雇用環境を確認しておこう。安倍政権下で進められた異次元金融緩和によって、実質金利が相当程度低下し、為替安、株高をもたらし、同時に実質金利低下が継続して、人やモノへの投資も徐々に増加していることは周知のとおり。
特に雇用環境の改善は顕著だ。民主党政権下では減少傾向であった就業者数は、安倍政権以降は反転・増加傾向に転じ、6300万人から6600万人へと300万人程度も増加している。失業率もほぼ下限近辺ともいえる2.5%程度まで低下している。
 このため、名目賃金は上昇傾向にある。実質賃金についても、当初は名目賃金の上昇が物価上昇より遅れるために低下したが、最近では底を打ち反転・上昇傾向に転じている。
さて、今回の入管法改正案がその良好な雇用環境へどのように影響をもたらすのか。それを論じることが今回の主題であり、一番の問題だ。
 現在の日本にも一定数の「外国人労働者」がいる。安倍政権になってから、「外国人労働者」の数は70万人から130万人へと60万人も増加した。130万人の内訳で、雇用環境に影響を与えるといわれるのは、留学生アルバイト30万人と技能実習生25万人であるが、これらは安倍政権でそれぞれ20万人、10万人程度増加した。
 政府がまとめた「たたき台」では、2019年度から5年間で130万~135万人の労働者が不足するため、約26万~34万人の外国人労働者の受け入れを見込み、来年度は約60万人の人手不足に対して、最大約4.7万人の受け入れを想定するという。
 ここまでが前提だ。

まずはお金を吐き出すのが
 さて、これまでの外国人労働力の受け入れ数は、上に述べたとおり130万人であるが、それが賃金に対してどのように影響してきたのかを調べてみよう。
 下図は、外国人労働者の浸透度と賃金変化を示したものだ。はじめのものは、アベノミクスが実施された当初のものであり、2枚目は、アベノミクスの全期間である。
各産業で、アベノミクス当初と全期間でどのような変化が起こっているかについて、上の2図を合わせてみよう。

 多くの産業では、今のところ、変化を示す線は横ばいで、大きな賃金低下にはなっていない。しかし、いくつかの業種(複合サービス、不動産・賃貸業、サービス業など)では、右下がりになっており、外国人労働者の浸透と賃金低下が見られる。総じて、右下がり気味なので、今後の動向が気がかりである。
 今回の入管法改正は、人手不足を理由とする産業界からの要請で動いている。筆者は、人手不足はマクロ経済にはいいことであり、この際企業がため込んだ内部留保を吐き出して、給与や待遇を改善するのが先であると考えている。最近では、企業収益が好調であるにもかかわらず、労働分配率は低い。ここ5年間で労働分配率は5%程度低下しているので、今度は労働者が取り戻す番なのだ。
 この観点からみれば、基本的には外国人労働者を新たに受け入れずに、今まで受け入れてきた留学生アルバイトと技能実習生にきちんとした在留資格を与えて、その後はきっちりと彼らの在留資格などについて管理するというスタンスが望ましい。
 例えば、先進国の就学ビザでは原則労働禁止であるが、日本では1週間で28時間以内は可能とか、抜け穴の度が過ぎる。先進国のビザは、就労条件について厳格に定められており、その点日本のビザでは曖昧であることが問題だ。この際、入管法改正によって、先進国並みの在留資格を定めたうえで就労条件を明記することが必要であろう。また、労働者でありながら事実上労働基準法を適用しない「技能実習生」の概念は、そもそも理解しにくいので、これについても議論した方がいい。
 今回の入管法改正で、来2019年度から5年間で最大で34万人を受け入れるというが、そうなると、留学生アルバイトや技能実習生はどうなるのか。
 今回の入管法改正案が、これらの留学生アルバイトや技能実習生に新たな在留資格を与え、法的にきちんと認める……というものであれば、今の外国人労働者の総数は変化しないために雇用環境に影響ない。しかし、外国人労働者の総数が増えるのであれば、結果として日本人労働者の賃金を下げることにつながるだろう。

他の「先進国」と比べても…
 さて、そのことと同時に、在留者やその家族の国民健康保険などの適用においても、これまで不適切な使用が何度も指摘されてきたので、しっかりと管理する必要性を論じるべきだ。
 まず、日本の仕組みを簡単に述べておきたい。民主党政権下の2012年7月、外国人登録制度が廃止された。それに伴い、3カ月を超えて在留する外国人は、国民健康保険に加入することとなった(それまでは在留資格1年未満では国民健康保険に加入できなかった)。
 外国人登録制度を廃止し、在留カードをもとに住民基本台帳で管理するのは理解できるとしても、3ヵ月在留資格により国民健康保険に加入できるのがよいかどうかについては、議論があるだろう。
 この点について、海外ではどうなっているのか。日本と同様、国民皆保険制度を敷いているイギリスでは、6ヵ月以上の長期滞在者へのビザ発行の際、一定の医療保険料を支払うことでカバーされるシステムになっている。
 同じく皆保険のオーストラリアは、オーストラリアへの相互健康保険国(英国、オランダ、スウェーデン、ノルウェー、イタリア、ベルギー、アイルランドなど)からの訪問者のほか、永住権を保持している人がメディケアの対象となり、「在留資格」では保険対象外となるらしい。
 しばしば社会保障の優等生といわれるスウェーデンも皆保険であるが、滞在が1年以上で、住民登録すれば医療保険制度への加入が可能となるが、1年未満ではできない。
 アメリカは皆保険でないが、留学生などでは事実上民間保険に加入することがビザの要件になっている。留学生の場合、他の国でも民間保険の加入を事実上義務付けている国は多い。お隣の中国でも、アメリカと同様な事情である。

直すべきところがたくさん
 こうしてみると、世界に誇れる日本の皆保険制度に、3カ月以上の滞在で加入できるというのは、外国人への義務付けというよりは「特権」であろう(議論を進めるために、少し説明を簡略化している。細かい点については各自で調べてほしい)。
 実際、この仕組みを悪用する例が後を絶たない。その悪用例は、2012年の民主党時代からさっそく目立ち始めたが、2014年7月、芸能人のローラの父親が国民健康保険の海外療養費請求詐欺で逮捕されたのには驚いた。在日外国人ではよくある話だというが、これを現場レベルで取り締まるのは困難である。
 しかも、2012年にわずか3ヵ月での在留資格によって国民健康保険に加入できるようにされたのは、法改正によってではなく、民主党の小宮山洋子・厚労大臣(当時)下の厚労省省令改正によってである。
 この省令改正措置に対して、パブリックコメントとして、「外国人の国保加入資格を、現行のまま在留期間1年とすべき」という意見もでた。それに対する厚生労働省担当課の見解は、住民基本台帳法の改正により、3ヵ月を超えて在留する外国人は住民となる……という形式面だけで「国民健康保険の対象になる」と判断している。これは政策的に稚拙であると言わざるをえない。
 この問題については今からでも遅くないので、是非、今国会で取り上げるべきだ。せめて、改正前の「1年の在留資格」に戻すべきである。これは省令改正でもいいが、今後のために法改正で行うほうがいいだろう。さらに、法改正であれば、オーストラリアのように「相互主義」に基づくものにするのも一案である。
 たとえば日本人が中国に留学する時には、中国の保険に加入させるよう政府からの通達が出ているという。これは、アメリカと同じ方法であるので、日本でも中国からの留学生については同じように、日本の保険に加入させることを条件としてもいい。
 なお、中国への日本人の留学生は、中国で医療を受け医療費を支払った後に、国民健康保険の海外療養費請求を行い、日本の役所からその一定割合を還付するという方法もある。
 これについて相互主義に基づいて、中国人の日本への留学生については、日本で医療を受けた場合、まず日本の医療機関に医療費を支払った後で、中国政府が中国人に還付するという方法でもいい。
 いずれにしても、適切な外国人労働者の管理のために入管法改正を行うというのであれば、それはいい方向への改正であるが、今のままでの入管法改正はあまりに杜撰すぎるので、受け入れ上限や既存制度のスクラップなど、相当な修正が必要であることは繰り返し指摘しておきたい。
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