く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<BOOK> 「宣教師ウェストンの観た日本」

2014年10月11日 | BOOK

【ウォルター・ウェストン著、山本秀峰訳、露蘭堂発行】

 「日本近代登山の父」と呼ばれる著者ウェストン(1861~1940)は1888年、英国国教会伝道協会の宣教師として初来日、以来3度にわたって来日し通算15年間を日本で過ごした。明治憲法の公布、教育勅語の発布、日清・日露戦争、第一次世界大戦参戦……。在日期間は日本がまさに富国強兵の道を歩む時期に当たる。本書はウェストンの日本に関する著作4冊のうち最後の『日本』の邦訳本。『日本』は最後の離日(1915年)から10年余り後の1926年に出版された。ウェストンは離日後も友人たちを介して日本の情報を収集し、日本の状況や進路に大きな関心を持ち続けていた(写真㊨は上高地・梓川河畔にあるウェストン碑=撮影1994年4月25日)。

    

 全14章のうち前半部分では「日本アルプスと聖域」「荘厳な祭りと楽しい祭り」「日本の家」「スポーツと娯楽」などのタイトルで実際に見聞した日本の地理や習俗、生活習慣を詳細に紹介している。日本の自然は「驚くべき多様性で構成されている」とし、「山々からは火山の噴火が突発する。大地からは身震いがやってくる。海からは恐ろしい大波が押し寄せてくる。さらには台風が猛威をふるう」と記す。日本を襲う昨今の大災害もこうした自然への畏敬の念の希薄化が一因かもしれない。日本の家屋については質素な中に「集中の原則」が貫かれているとして、その象徴として床の間を飾る掛け軸や生け花を挙げる。

 ウェストン在日時、文明開化で羽織袴に山高帽と洋傘という和洋折衷スタイルが流行したが、「その奇観は信じられないものであった」と振り返る。また関東大震災からの復興に伴い「外国様式」の建物が数多く建てられている現状を「今日の東京には限りない不調和が溢れている」と憂えた。西洋思想の流入などの中で日本人の礼儀作法が急速に失われようとしていることについても「昔からの克己と自制心の精神が衰退することに関しての結果は悪であり、嘆かわしいことである」と述懐した。

 後半部分では出版前年の1925年に制定された普通選挙法、治安維持法などにも触れ、岐路にあった日本の状況を鋭い洞察力で分析している。「選挙権が拡大されることによるさらに大きな結果は、国の公的問題に対する大衆の側の関心が増大し活発化することを意味する」。一方で「日本はなお『男の国』であり、法律……そしてそれ以上に……長い時代の習慣や因習が主として男の視点から物事を見る」と記す。

 日本の女性については「女性とその状態」「今日の日本の若い女性」と最後の2章を割いており、ウェストンが当時、女性が置かれていた立場や地位について深く憂慮していたことを示す。一方で城ノブ(婦人参政権や公娼制廃止などに取り組んだ社会運動家)、津田梅子(女子英学塾=現津田塾大学=の創立者)、吉岡弥生(東京女医学校=現東京女子医科大学=の創立者)たちを取り上げて、新時代を切り開こうとする女性の活躍に期待を寄せた。

 ウェストンは初来日3年目の1891年、初めて北アルプスを訪れ、紀行文で世界に日本アルプスを紹介した。1910年には日本山岳会最初の名誉会員に。梓川河畔では毎年「ウェストン祭」が開かれ夏山シーズンの到来を告げる。本書最終ページにはそこで歌われる「ウェストン祭の歌」(岡村精一作詞・辻荘一作曲)の歌詞が添えられている。「大空にそびえて光る日本の 北 中 南アルプスに 胸をうたれてふみ続け その名を世界につたえたる 日本の友ウェストン ウォルター・ウェストン」。 

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