経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

成長最優先の歴史的意味と現実

2012年04月28日 | 経済(主なもの)
 歴史では、起こったことは当然のように思われがちだ。それが、どんなに奇跡的なものであったとしても。そのため、歴史を見る際には、事実を追うだけでなく、他にどんな道があったかも考えつつ、眺めることが必要だ。そうでなければ、本当の意味で、政策を評価することはできないからである。

 昨日、連休入りということで、月次の経済指標が一斉に公表された。総じて言えば、景気の回復基調が確認されたというものであろう。筆者の注目する家計調査は、季節調整済実質指数の前月比で-0.1である。前月、うるう年の影響で、かなり高めの数字が出ていたのがキープされたわけであるから、好調な結果と見ている。これで、1-3月期のGDPが3%超の成長となる可能性は、また一つ高まったことになる。

 ここで、もし、筆者が「これは日本経済の復活を示す」と主張したら、奇異に思われるだろう。せいぜい「復興需要の本格化」くらいの評価が普通だ。それなのに、「復活の芽を育てるべく、最大限に成長を伸ばす経済運営をすべし」としたら、「ナニ言ってんの?」くらいの反応に違いない。実際、現実の経済運営は、成長に集中するのではなく、財政再建も重視する「バランスの取れた」ものとなろう。

 ところが、昔は違っていた。戦後の高度成長を実現した池田勇人は、成長を最優先にした「バランスの悪い」経済運営を行って、高度成長に必要な経済構造を打ち立てたのである。当時も、既に始まっていた高めの成長は、戦災復興によるものとされ、成長は鈍ると考えられていた。それを、「勃興期」と主張して、物価や国際収支を危険にさらし、財政の余裕をすべてなげうって、成長最優先を実行した。行われたから異様に思えないだけで、普通でない経済思想だったのである。

………
 先日、遅ればせながら、東洋大の藤井信幸先生の「池田勇人・所得倍増でいくんだ」を手に入れた。池田勇人関連の本は色々と読んでいるので意欲が湧かず、後回しになっていたが、これがなかなかの良書であった。殊に、池田の経済思想については、簡潔にして要点を衝いた記述で、他者との違いも浮き彫りになっており、感じ入った次第だ。さすが、中村隆英先生に代わって執筆されただけのことはある。

 学部生にもお勧めの読み易さだが、内容は豊富だ。こうした良書に出会うと、現在的な意義に引き付け、より深い読み方もしてみたくなる。それで、池田が置かれていた状況を実感してもらおうと思い、前節を書いてみた。池田の経済思想は、「日本の潜在的な成長力を引き出したこと」と簡単に記述できるのだが、それに注力するというのは、昔も今も、容易ならざることである。

 せっかくだから、ここでデータも出して、付加価値を増そう。高成長には、高投資・高貯蓄の経済構造への変革が必要だが、途上国の経済開発を思えば分かるように、これを実現するのは難しい。今でこそ、外資導入による輸出主導型の成長モデルが確立されているが、世界で最初に成功させたのは、日本の池田であり、しかも、外資に頼らない、より難しい形で達成している。

 日本経済が高投資・高貯蓄へ変化したのは、1956年から1961年にかけてである。中でも、1957、60、61年が著しい。これは、池田が石橋内閣の蔵相だった時と池田内閣の始めである。この時の経済運営に対する一般的評価は、「やり過ぎ」で国際収支を悪化させたというものだが、それと引き換えに、高度成長の基礎たる経済構造の確立に成功している。この構造ができれば、あとは自然体で高成長が得られるわけで、むしろ、「やり過ぎ」こそが評価されなければならない。ここはポレミックなところだが。

………
 経済政策において、成長が最も大事であることは、誰もが頭では分かっている。ところが、物価や国際収支、財政再建とどちらを優先すべきかに直面すると、たちまち曖昧になってくる。昨日、日銀総裁は、金融緩和をしておきながら、財政再建にも言及した。日銀が緩和するから、緊縮財政は大いにやれというサインなのだろうか。もちろん、成長を達成した暁には、ただちに増税ができる体制を準備しておくことは絶対に必要だが、そうとはハッキリ言わない。

 政治家も「デフレ脱却が第一」と口にするが、6月には5000億円規模の年少扶養控除の廃止が行われ、10月には7000億円規模の年金給付の減額も行われる。前者は、財政再建につながるものの、後者は、年金特会の話なので、直接、財政再建とは関係ない。世代間の不公平とやらが、成長よりも優先するらしい。成長すれば、自然に年金は減額される仕組みになっているのだから、本音では、成長など信じていないのである。

 今年、3%超の成長が実現すれば、昨年の震災による落ち込みもあり、税収は大幅に伸びることが予想される。池田の経済運営の特徴は、自然増収をせき止めず、成長のために充当していくことだった。おそらく、今においては、一定以上の成長の達成を待つことなく、さっそく財政赤字の削減に使われ、成長を鈍らせてしまうだろう。かくのごとく、種々への恐れから、成長はワンノブゼンとされる。ひるがえって、成長を最優先とした池田の功績は、当たり前のように見えて、実は偉大なものなのである。

(今日の日経)
 東電を7月にも実質国有化、家庭向け10%値上げ。日銀総裁・財政健全化へ注文。米2.2%成長に減速。米軍再編・拠点は点から網状に。自民が保守色全面の憲法改正案。バーナンキ・財政の崖。東ガスが発電事業拡大。10年債0.885%に低下。東京・求人倍率1倍回復、建設、サービス増。

※5%で6年間ではダメなのか。筆者なら5%から始めて上げて行くよ。※バーナンキは、緊縮財政を戒めているのに。長期金利が抑えがたくなることしか頭にないのか。※米国は、そんなに悪くない。前期の設備投資が出来過ぎ。※秋田さんの分析は的確。米国に従っただけとはいえ、自民政権下を超える外交だ。※他方で自民はライト・ポピュリズムとは情けない。※債権は行き過ぎだよ。※東京まで見てる人は少ないかな。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 4/27の日経 | トップ | ポピュリズム・エリーティズム »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

経済(主なもの)」カテゴリの最新記事