経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・解散総選挙へ

2014年11月16日 | 経済
 消費再増税は、解散総選挙をもって、阻止される。10日前には、まさかと思われていたことが現実となった。政経エリートの間では、消費低迷を見てもなお、再増税やむなしが大勢だったから、民意で押し切るという判断なのだろう。増税は日本経済の腰を折り、再増税は首を折るところだった。災厄を未然に防いだ者は評価されぬのが世の常ではあるが、意義は小さくない。
………

 日本経済は、2012年、2013年と1.5%成長を遂げてきた。この状況で、GDPの1.5%に相当する一気の消費増税を実施し、家計から所得を抜いたら、どうなるか。おそらく、学部の1年生なら、あっさり、ゼロ成長と答えるだろう。しかし、政府の年度の経済見通しは1.2%成長、日銀の年初のそれは1.4%であった。民間エコノミストでさえ、「ゼロ回答」は、ほとんどいなかった。

 これが、政経エリートの集団幻想でなくて、何だろうか。読み間違えの最大の原因は、外需が伸びなかったことだ。それは、民間の「予想屋」なら許されるが、政策担当者にはあってはならない過ちである。外需は相手のあることであって、アテが外れたら瓦解するような経済運営は、本来、行ってはならないものである。

 もっとも、政府見通しでは、外需寄与度は0.1しかなく、どうして、それほど内需に強気なのか、理解しがたかった。強気を支えたのは設備投資であり、これで所得と消費も保たれると考えたのだろう。現実には、大規模な投資減税に加え、法人減税の前倒しまでしたのに、7-9月期の機械受注は、前年同期からほとんど増えておらず、来期はマイナス予想である。

 経済学の教科書を鵜呑みにするエリートにとって、企業減税の効果は絶対なのだろうが、世の経営者は、需要が乏しい中で投資する危険は犯さない。今年度、円高に恵まれた製造業は増益でも、非製造業は減益の見通しである。スーパーや、セブン以外のコンビニが投資計画を下方修正するのは、ごく当たり前の行動だ。

 それでも、内閣官房参与の浜田先生は、大幅な法人減税があれば、再増税は可能と言い続けてきた。その宗旨替えをしたのは、11/4の再増税に関する点検会合の前日である。10/31に異次元緩和第2弾もあったのに、「おやっ」と思ったが、おそらく、この時点で、官邸は、先送りと解散総選挙の判断を固めていたのだろう。そして、首相の外遊出発後の11/8に読売一面トップ記事となる。

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 再増税の見送りは、アベノミクスの失敗だとする向きもあるようだ。それでは、どうすれば良かったのか。5兆円の補正予算では足りなかったのか。確かに、5兆円では、前年度の予算規模を保つだけであり、増税の悪影響を相殺する力はなかった。前年度との予算規模の比較もしないで、効果に期待するエコノミストも居たことは、筆者も情けない思いがした。

 とは言え、10兆円の補正予算が組まれていたとして、とても執行できなかったろう。公共事業の前倒しで、4-6月期GDPを浮上させる試みは、不発に終わっている。そもそも、消費増税額を上回るようなバラマキは、増税の意義を疑われかねない。結局、一気に消費税を3%も上げるという戦略は、余りに愚劣で、戦術で補うことなど不能だったのである。そんな戦略に縛りをかけた人々は、反省が必要だろう。

 現下の経済情勢は、一刻の猶予もならない事態であり、再増税を先送りするために、色々と条件を満たしていくだけの余裕はない。惨憺たる消費の有様を前にしても、未だに目が覚めず、再増税の先送りが当然視されない政治状況に対して、むしろ、解散総選挙は欠かせぬものとなったと見るべきではないか。

 足元では、増税延期を先取りし、株価が高騰しているが、万一、9月に一息ついた鉱工業生産が10月に再び悪化するようなことがあれば、がらりと雰囲気が変わりかねない。10月の景気ウォッチャー調査の大きな落込みからして、それは決して杞憂ではない。この局面を、やむなく、総選挙の政治空白で過ごさねばならないのである。

………
 今回の経済と政治の動きを見ることで、日本の政経エリートには、一気の財政再建には無理があることを、今度こそ悟ってもらいたいと思う。なるほど、社会保障費は、毎年、1兆円ずつ増していく。それならば、2年に一度、1%の消費増税をするようにすれば良い。1%なら、戦術によって補える範囲となる。

 財政破綻が不安であれば、一定以上の物価上昇率なら、直ちに消費増税でブレーキをかけるというコンセンサスを形成したり、ある程度の金利上昇となったら、利子配当課税を20%から25%にするトリガーを用意するといった変化に対応できるシステムを用意したりすることが大切だ。嫌がる国民に押し付けることが財政再建と思っては、道を誤る。

 日本経済が2013年に順調に成長したのは、端的に言って、緊縮財政をしなかったからである。成長戦略の一利を興すは、緊縮の一害を除くに若かずなのだ。それでも、税の自然増収によって、財政は着実に改善した。もともと、リーマンショック前には、プライマリー・バランスの回復まで、あと一息だったのだから、当然である。

 税収の上ブレによって、今度の補正での国債増発は不要であり、来年度のPB半減の目標も、再増税抜きで達成できるようだ。地方や社会保障の自然増収も合わせれば、上ブレは更に大きくなる。一気の消費増税のため、上ブレは伏されていた。「入るを量る」財政の基本を怠っていた政経エリートは、認識を改めてほしい。

※最後から2番目のパラグラフの冒頭の部分を修正。コメントをいただいておいて、誠にすみません。(11/16 16:00) 「入るを量る」の誤字を訂正。ご指摘に感謝。(11/17 6:00)


(昨日の日経)
 上場企業が最高益に、今期経常3%増、内需減速で非製造業は5%減、製造業は8%増。セブンが出店最多を更新、ファミマ等は下方修正。経済対策は縮小3兆円規模。ユーロ圏0.2%成長、独0.1%。人口減放置なら-0.1%成長に。日銀誤算・遠のく出口、増税延期へ。中国、新車販売も鈍化、商用車は減。ティッシュ・需要減で原料高でも値上げできず。
 ※日銀誤算には幹部の経済思想がにじむ。緊縮財政の下ではデフレが続き、金融緩和の手じまいはできないのにね。増税が終われば、どうあっても手じまうつもりだったのかな。

(今日の日経)
 特許料最大1割下げ。衆院選来月14日投開票、予算の年度内成立めざす。
 ※今週の日経ビジネスの配当課税を巡る攻防はなかなか興味深かったよ。

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1 コメント

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Unknown (asd)
2014-11-19 18:20:23
結局、財政政策をなめてるんですよね。正の効果についても負の効果についても。イデオロギーなのか頭が悪いのかはよくわかりませんが
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