経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

財政再建の基礎講座

2011年09月03日 | 経済
 新総理に、「財政再建なくして、経済成長なし」と意味不明のことを言われると、戸惑ってしまうが、久しぶりの政治的な安定感に、息をつく思いはする。一応、増税は、時期と規模を選ぶそうだから、まあ、少しは期待しよう。

 財政当局の人と話をしていて、辟易とさせられるのは、国民が増税を嫌がり、政治が負担から逃げることについて、吐き捨てるような態度を取ることである。筆者も、若い時分とは違って、適当に受け流すだけだが、財政再建の本当の難しさは、そこにはない。彼らが失敗を重ねるのは、政治的な難しさの先にある、経済的な難しさが分からないためだ。

 財政再建とは、赤字国債を減らすことによって、世の中にある貯蓄の利用を減らすという行為である。このとき、利用されなかった貯蓄が別の用途に使われないと、経済は縮小してしまう。増税や緊縮は、隠蔽と仮装を駆使し、国民や政治を騙して実施することが可能だが、結果は不況として出てしまうので、経済的問題は隠しおおせるものではない。 

 確かに、1990年代の第一期クリントン政権の例では、財政赤字が貯蓄不足を招き、金利を高どまりさせていたから、財政再建は、金利低下を通じて設備投資を刺激し、景気を回復させることになった。こうした場合は、まさに「再建なくして、成長なし」なのだが、今の日本がこれに当てはまらないのは言うまでもない。

 したがって、経済運営の方法としては、設備投資なりの増加を見極め、財政再建によって貯蓄の利用を減らしても大丈夫なことを確かめながら進めなければならない。これが経済運営の基本中の基本である。間違っても、怪しげな「成長戦略」をするからといって、同時並行的に財政再建をしてはいけないし、まして、「成長なんて、いつになるか分からないから、とにかく財政再建だ」と考えるのは自殺行為である。

 日本では「増税は是か非か」という極めて幼稚な議論しかされないが、本当は、どのくらいの成長率や物価上昇率の下で、どの程度の増税や緊縮なら、経済が耐えられるかを考えなければならない。これは極めて技術的な問題であり、政治の決断とは無縁の事柄である。政治が決められるのは、増税や緊縮の量ではなく、その対象だけなのだ。

 しかるに、日本の財政当局は、税の自然増収の見込みを隠蔽するし、巨額の復興費もどれほど執行に移されて需要となるかを示さない。これでは、まともな経済運営など望むべくもない。しかも、最悪なのは、税と社会保障の一体改革の「研究報告書」の中で、成長の確認前でも増税をするとか、消費税は2%以上の一気の引き上げをするとかいった、無謀な経済運営の方針を平然と宣言していることである。

 さて、今後、財政当局はどう出てくるか。来春の復興増税を、長期償還によって5000億円以下に抑え、消費税増税を2013年度に先送りするなら、日本経済も何とか耐えられるのではないか。「組織内候補」の野田新首相を大事にしようとするなら、こういう展開はあり得る。それでも、景気回復の足取りは重いであろうが。

 財政当局がこうした方針を取るのは、経済状況を考えてのことではない。新首相の政治的な重荷を最低限にする趣旨である。いずれにせよ、日本経済の先行きは、適切な経済運営の結果ではなく、政治的なめぐり合わせの偶然によって決まる。その意味で、少しだけ期待は持てるのである。

(今日の日経)
 野田内閣発足、消費増税で準備法案。米雇用の増加ゼロ、景気減速映す。震災当日に炉心溶融予測。GDP改定値の下方修正も・法人企業統計。確定拠出年金の加入400万人超。ユーロ圏再生に共同債必要・ベルギー財務相。液晶パネル・政府保証で産業再生のひな形に。節電で浮いた料金を社員に還元・福島製鋼。

※なかなか底が見えないね、北野さん。※不穏当と否定されたことが、次々に真実とされる。※ここまでしないと設備投資は出てこないものかね。※こういうことをまじめにできるのは立派。

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