5月の家計調査について、ロイターの事前予想は、前年同月比の中央値が-2.0%、最小値でさえ-4.0%だったところ、一昨日の結果は-8.0%にもなった。誰も考えなかったほど大幅な「想定外」の落ち込みである。しかるに、財務相は公表後の記者会見で「想定内」。アベノミクスが危殆に瀕しても、泰然として国民を安んじようという配慮なのかもしれない。本田内閣参与は、実質賃金の低下を憂慮しておられるようだからね。
さすがの日経も、昨日は「所得目減りが消費に重荷、物価高に賃金及ばず」として、もはや「想定内」の文字はない。本コラムは、先月の家計調査の公表の時、既に所得の低下に警鐘を鳴らしていたし、消費増税の幅が大き過ぎて春闘の賃上げでカバーできないことは、それ以前から繰り返し指摘してきた。起こって当然のことが現実化しているわけだが、アベノミクスの想定シナリオは、確か「増税を賃上げで乗り越える」ではなかったか。
………
前年同月比だと、一般の方は読み取ることが難しいので、ここからは、季節調整済の実質指数で前月比を見ていこう。その結果は、ニッセイ研の斎藤太郎さんが6/27に指摘しているところだが、5月の低下により、家計調査の「除く住居等」は、駆け込み需要の反動以上の落ち込みとなった。同じ結果は小売販売額指数にも出ている。ここまで強烈に、消費増税の所得減の効果が表れるとは、悲観論の筆者も思っていなかったことで、世間的には、かなりの「想定外」のはずである。
その所得の状況を、家計調査の勤労者世帯の実質実収入の指数で確認すると、5月は95.9と、4月より1.2ポイントの上昇となった。上昇と言っても、図を見れば分かるように、4月があまりにもひどかったので、これでも大震災時の2011年3月とほとんど変わらないレベルである。こうした動向の解釈だが、駆け込み需要の仕事が減って4月に落ちた収入が、5月に賃上げの浸透によって埋め合わされたということで、いかがだろうか。
アベノミクスが頼りとする賃上げの力が、これで費やされてしまったとすると、見通しは厳しい。今回の賃上げは一時金が手厚かったので、6月の収入の伸びは期待できるものの、当然ながら、一時的なものになる。5月の実質実収入の95.9は、2013年度の各月平均の99.8から、まだ4ポイント近く差がある。これを埋められないと、消費は、収入に連動するので、反動減を抜けた後も、マイナス成長の水面下にとどまることになろう。
(図)
………
収入と関係する雇用の状況も見ておく。同日公表の労働力調査では、失業率は低下したが、季節調整値の雇用者数は21万人増と、4月の27万人減を取り戻せなかった。また、職業紹介では、有効求人倍率は上昇したものの、先行指標の新規求人倍率は、季節調整値の求人数が1.5%減、求職数も1.5%減と、共に減る形で維持されている。求人倍率の歴史的な高さも、短時間労働者の求人が膨らませている点を割り引かねばならない。
他方、国内消費がマイナス成長の危殆に瀕しているなら、外需はどうか。5月の貿易統計によれば、季節調整値の輸出は前月比-1.2%と、円安にもかかわらず停滞している。駆け込み需要の剥落で4、5月は輸入が減り、貿易赤字が縮小して、4-6月期のGDPを0.2ほど押し上げると思われるが、外需が牽引するとは、とても言えない状況だ。米国の景気は順調とされるが、1-3月期のGDPが大きく下方修正されており、足元の順調さは反動増に過ぎず、勢いが弱まっていく可能性もある。
………
5月の家計調査の消費性向は、70.3%という異様に低い値になったため、反動減の回復過程で、勤労者世帯の実質消費支出は、5月の92.1から浮上して来ることは確実である。それでも、今のところ見込めるのは、実質実収入の95.9あたりまでだ。前年度のレベルに到達し、マイナスから脱するには、そこから更に4ポイントも実収入を上積みしなければ届かない。つまり、大量得点で形勢を逆転し、消費増税を突破するのは、極めて厳しい状況にあるということだ。
W杯の日本は、残念ながら、FIFAランキングどおりの結果となった。英国、イタリア、スペインなどの強豪も敗退した難関への挑戦だったのだから、期待を裏切ったと言って恥ずることはない。他方、所得増以上の消費税を課せば、消費はマイナスになるという単純な道理を聞き入れず、「賃上げがある、外需もある」と言って期待を煽った者は、責任を感じなければなるまい。それとも、まだ一縷の望みはあると、上位進出を唱え続けるのだろうか。
(昨日の日経)
携帯会社を端末変えずに変更。圏央道きょう開通。揺らぐ年金、世代格差鮮明。有効求人1.09倍・人手不足が好況で浮き彫り。中国・潜在成長率5%。国債発行2兆円減、税収回復。ホンダの輸出が消える日、ピークの6%。
(今日の日経)
シェア首位5品目交代。日本もできるインテリジェンス・秋田浩之。マネーは再び新興国へ。終末期医療は3%・二木立。地球回覧・ボスニア。論壇・年金改革・土居丈朗。
※おまけ…日本の衰退
A地区の平均所得は200万円、B地区は140万円というデータがあれば、確かに「地域間格差」は存在する。しかし、B地区の7割の所得が200万円で、3割が0円だったとしたら、問題の本質は、B地区の「無収入者の多さ」であり、地域間格差ではない。
実は、年金の格差の問題も同じことで、支えるために別途お金を用意しないといけない「子供のない人」が、各世代にどの程度いるかで決まる。当然、効果的な解決方法は、制度いじりではなく、少子化の緩和となる。どうしても制度で解決したければ、「子供のない人」に給付しないほかない。あえて給付する程度が「損」の大きさになる。
日経を始め、多くの損得勘定に長けた人たちが嵌り込んだのは、こういう迷宮である。そうした人たちに、厚労省のように「損得の問題ではない」と言っても聞いてもらえないし、「子供のない人の存在が本質」と言ったら、今度は、女性差別論者として誤解され、袋叩きに会いかねない。そうして、本質が分からないと、少子化対策より目先の財政再建が優先にされ、日本は縮小、衰退してゆくのである。
さすがの日経も、昨日は「所得目減りが消費に重荷、物価高に賃金及ばず」として、もはや「想定内」の文字はない。本コラムは、先月の家計調査の公表の時、既に所得の低下に警鐘を鳴らしていたし、消費増税の幅が大き過ぎて春闘の賃上げでカバーできないことは、それ以前から繰り返し指摘してきた。起こって当然のことが現実化しているわけだが、アベノミクスの想定シナリオは、確か「増税を賃上げで乗り越える」ではなかったか。
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前年同月比だと、一般の方は読み取ることが難しいので、ここからは、季節調整済の実質指数で前月比を見ていこう。その結果は、ニッセイ研の斎藤太郎さんが6/27に指摘しているところだが、5月の低下により、家計調査の「除く住居等」は、駆け込み需要の反動以上の落ち込みとなった。同じ結果は小売販売額指数にも出ている。ここまで強烈に、消費増税の所得減の効果が表れるとは、悲観論の筆者も思っていなかったことで、世間的には、かなりの「想定外」のはずである。
その所得の状況を、家計調査の勤労者世帯の実質実収入の指数で確認すると、5月は95.9と、4月より1.2ポイントの上昇となった。上昇と言っても、図を見れば分かるように、4月があまりにもひどかったので、これでも大震災時の2011年3月とほとんど変わらないレベルである。こうした動向の解釈だが、駆け込み需要の仕事が減って4月に落ちた収入が、5月に賃上げの浸透によって埋め合わされたということで、いかがだろうか。
アベノミクスが頼りとする賃上げの力が、これで費やされてしまったとすると、見通しは厳しい。今回の賃上げは一時金が手厚かったので、6月の収入の伸びは期待できるものの、当然ながら、一時的なものになる。5月の実質実収入の95.9は、2013年度の各月平均の99.8から、まだ4ポイント近く差がある。これを埋められないと、消費は、収入に連動するので、反動減を抜けた後も、マイナス成長の水面下にとどまることになろう。
(図)
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収入と関係する雇用の状況も見ておく。同日公表の労働力調査では、失業率は低下したが、季節調整値の雇用者数は21万人増と、4月の27万人減を取り戻せなかった。また、職業紹介では、有効求人倍率は上昇したものの、先行指標の新規求人倍率は、季節調整値の求人数が1.5%減、求職数も1.5%減と、共に減る形で維持されている。求人倍率の歴史的な高さも、短時間労働者の求人が膨らませている点を割り引かねばならない。
他方、国内消費がマイナス成長の危殆に瀕しているなら、外需はどうか。5月の貿易統計によれば、季節調整値の輸出は前月比-1.2%と、円安にもかかわらず停滞している。駆け込み需要の剥落で4、5月は輸入が減り、貿易赤字が縮小して、4-6月期のGDPを0.2ほど押し上げると思われるが、外需が牽引するとは、とても言えない状況だ。米国の景気は順調とされるが、1-3月期のGDPが大きく下方修正されており、足元の順調さは反動増に過ぎず、勢いが弱まっていく可能性もある。
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5月の家計調査の消費性向は、70.3%という異様に低い値になったため、反動減の回復過程で、勤労者世帯の実質消費支出は、5月の92.1から浮上して来ることは確実である。それでも、今のところ見込めるのは、実質実収入の95.9あたりまでだ。前年度のレベルに到達し、マイナスから脱するには、そこから更に4ポイントも実収入を上積みしなければ届かない。つまり、大量得点で形勢を逆転し、消費増税を突破するのは、極めて厳しい状況にあるということだ。
W杯の日本は、残念ながら、FIFAランキングどおりの結果となった。英国、イタリア、スペインなどの強豪も敗退した難関への挑戦だったのだから、期待を裏切ったと言って恥ずることはない。他方、所得増以上の消費税を課せば、消費はマイナスになるという単純な道理を聞き入れず、「賃上げがある、外需もある」と言って期待を煽った者は、責任を感じなければなるまい。それとも、まだ一縷の望みはあると、上位進出を唱え続けるのだろうか。
(昨日の日経)
携帯会社を端末変えずに変更。圏央道きょう開通。揺らぐ年金、世代格差鮮明。有効求人1.09倍・人手不足が好況で浮き彫り。中国・潜在成長率5%。国債発行2兆円減、税収回復。ホンダの輸出が消える日、ピークの6%。
(今日の日経)
シェア首位5品目交代。日本もできるインテリジェンス・秋田浩之。マネーは再び新興国へ。終末期医療は3%・二木立。地球回覧・ボスニア。論壇・年金改革・土居丈朗。
※おまけ…日本の衰退
A地区の平均所得は200万円、B地区は140万円というデータがあれば、確かに「地域間格差」は存在する。しかし、B地区の7割の所得が200万円で、3割が0円だったとしたら、問題の本質は、B地区の「無収入者の多さ」であり、地域間格差ではない。
実は、年金の格差の問題も同じことで、支えるために別途お金を用意しないといけない「子供のない人」が、各世代にどの程度いるかで決まる。当然、効果的な解決方法は、制度いじりではなく、少子化の緩和となる。どうしても制度で解決したければ、「子供のない人」に給付しないほかない。あえて給付する程度が「損」の大きさになる。
日経を始め、多くの損得勘定に長けた人たちが嵌り込んだのは、こういう迷宮である。そうした人たちに、厚労省のように「損得の問題ではない」と言っても聞いてもらえないし、「子供のない人の存在が本質」と言ったら、今度は、女性差別論者として誤解され、袋叩きに会いかねない。そうして、本質が分からないと、少子化対策より目先の財政再建が優先にされ、日本は縮小、衰退してゆくのである。
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